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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

902名無しさん:2016/05/26(木) 21:16:32
キュゥン…と照準の色が変わった。
ビデオを逆再生するように、カップの破片がひとりでに持ち上がり、
元の形を取り戻していく。数秒も経たない内、床にはこぼれたコーヒーの海と、
新品のように傷一つないカップがあった。

「ま、増田……」
「堂土くんが怒った時、めっちゃ悲しくなってん。どうやったら許してもらえるんかなって
 考えとったら、なんか分かった」

要するに、自分の怒りが能力を自覚するトリガーになったらしい。
(結果オーライやな)
しかし、これはかなり強い能力ではないのか?
空中に展開されたステータス画面を眺めて喜ぶ増田をよそに、堂土は不安に駆られた。

たとえば、常識を書き換えられる徳井や、未来予知の小林は、そこまで重い代償はつかない。
しかし、彼らの能力には自然と『限定条件』がつく。たとえば徳井なら、その効果が
永遠ではないこと。小林は、筆記する道具が必要なこと。
今見せられた増田の能力には、特にそういった『枷』が思いつかない。
「増田、その能力はあんま使わん方がええと思う」
「なんでや!」
「嫌な予感がすんねや。せやから……」
堂土は一旦石を取り上げようと、一歩踏み出した。次の瞬間。

――ガァンッ!

「ッ、何や!?」
堂土は反射的に腕で顔を庇う。
目をつぶっている所為で、かろうじて分かるのは。熱気と、それをまとって飛んでくる破片。
恐る恐る目を開けると、ガスコンロが炎を上げていた。
その勢いはすさまじく、天井をチリチリと焦がすほどだ。
「ガス漏れ……いや、俺さっき料理したけど、元栓は締めといたのに……」
腕に焼けつくような痛みが走る。見ると、熱気で火傷を負っていた。
「せや、増田は!?」
部屋の中を見回すと、増田は床に力なく倒れていた。
「増田!」
慌てて駆け寄り、抱き起こす。爆発の衝撃で頭を打ったらしく、ぴくりとも動かない。
後頭部に触れると、びちゃっと嫌な感触がした。
「!!」
真っ赤に染まった手のひらに、堂土はわなわなと震える。増田の胸はかすかに上下して
いたが、頬を叩いても反応がない。一刻の猶予もない――。
「まさか……これが、こいつの対価ってことか……?」
呟くと、背筋がぞわっと泡だった。
「嘘、やろ…たかが、カップ直しただけで、こんな……」
救急車を呼ばなくては、いや。増田を抱えて病院まで飛んだほうが速いか?
あまりの状況に、堂土の思考は錯綜していく。
「俺がッ…俺が、あんな怒らんかったら……」

その時。

「火を消すのが先か、それともそいつを助けるのが優先か?」
すぐ後ろで聞こえた声に、堂土はバッと振り返る。
いつの間に入ってきたのか、男が一人、立っていた。その男の名前――土田を堂土が呼ぶより
先に、彼は「あと、一分ってところか」と腕時計を見る。
「消防車と救急車、同時に呼ぶのは骨が折れるだろ。ただ、黒に尽くすというなら……
 この悲しい出来事を全て、なかったことにできる。
 そいつを抱えて泣いてたって、何も変わらない。そうだろ?堂土貴」
「……」
「あと10秒」
秒針が最後の位置に来る前に。堂土は涙をぬぐって、顔を上げた。


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