したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

884Evie ◆XksB4AwhxU:2016/02/14(日) 16:14:46
「これが、俺の率直な気持ちだよ。石井さん」

石井はそこではじめて顔を上げた。相方は清々しいまでに穏やかな顔をしている。
まるで石井が拒絶することなんてあり得ない、と。全ては自分の思うがままに動くのだ、と言いたげな表情。
そのひたむきな前向きさが、白にも黒にも染まりきれない理由なら。

「俺達の道は一つだって、言ったよな。……あの言葉が嘘じゃないんなら、俺と一緒に来てよ。石井さん」

石井は、自分が足元から崩れ落ちていくような感覚をおぼえた。
相方の言葉は哀願に近い。石塚はいつもどおりだ。なら何故、こんなに自分は苦しいのだろう。
おかしいのは、誰だ。狂っているのは、誰だ。

正しいのは、誰だ?

「……ッ!」
石井は叫ぼうと思ったが、喉が引き攣れて声にならない。
代わりに歯を食いしばったまま、拳を大きく振り上げた。設楽の「やめろ!頼むから!」と叫ぶ声がしたが、もう止まらない。
差し伸べられた手の先をチリッとかすめて、床に叩きつけられた拳。
床には一瞬にして亀裂が走り、石塚と自分の間に溝を作る。
「僕は、君と離れたくない」
石井はその上を飛び越えて、石塚の前に立った。
「……だから、いつか必ず証明してくれ。……白より、君を選んだ僕が、間違っていないって事を」
石塚の手をとって、そのままひょいっと肩に担ぐ。「下ろせ、おろせってば!」とじたばた暴れる石塚に構わず、
背後の設楽に振り返った。
「……どこかでぶつかることがあったら、容赦はしなくていい」
「分かった」
設楽が頷くと、石井はそのまま階段を駆け上がって、目にも止まらぬ速さで地下室から消えた。
「……やれやれ、言いたいことだけ言って、後片付けは俺の仕事か。
 ほんとに石井がいないと、暴走しっぱなしなんだから」
設楽はしゃがみこんで、粉々に砕けた白のクイーンを一つ拾い上げた。
半分になったそれを、ぽいっと放り投げてため息をつく。
「動けない自分が、恨めしいよ」


夕日の落ちる中を、二人分の黒い影が、長く伸びる。
石井はベンチに腰かけて、井戸田に貰ったミネラルウォーターをぐびぐびと飲み干し、握りつぶした。
自販機の前で追加の水を買おうとしていた石塚は、振り返って「もういい?」と聞く。
「ああ、十分だ」
石井が答えると、財布をポケットに突っこんで戻ってくる。
隣に座って、空のペットボトルを石井の手から受け取った。
「大丈夫だよ」
石塚がふっと笑った。ずいぶん久しぶりに見る表情のような気がして、石井は顔をこわばらせる。
「きっと、全部よくなるから」
それだけ言うと、石塚は潰れたペットボトルをぽいっと放り投げた。
きれいな放物線を描いて、少し離れた位置にあるゴミ箱に落ちる。
ゴミ箱の金網とペットボトルのぶつかり合う不快な音が、静かな公園にやけに大きく響き渡った。
石井はその音に、後戻りできない選択をしたことを、ほんのすこしだけ後悔した。


【終】


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板