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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

873Evie ◆XksB4AwhxU:2015/12/25(金) 19:14:08
「はあっ、はあ、は、はあっ……」
逃げるのは、これで3回めだ。最初は深沢とブラマヨから、2回目は石井との対話から、そして今は自身の犯した過ちから。
(そういや、コンビ組んだばっかの頃も俺は“やめたい”ばっか言ってたっけ)
無我夢中で走った所為で現在位置がよく分からないが、そう遠くまで来たわけではないらしい。
石塚は路地に入ると壁に手をついて、呼吸を整えた。ふと、目の前の地面に黒い影が伸びるのを見て顔を上げる。
そこには、自分をこの状況に追いこんだ元凶であるところの人物が立っていて。
「俺が怖い?」
設楽はポケットに手を突っ込んで、3回目となる問を投げかけた。石塚はちょっと考えて、「いや」と首を横に振る。
「だって、設楽は設楽だろ」
そう言うと一瞬だけ驚いたように目をみはって、オーバーな仕草で肩をすくめる。
「……何でかな、お前に言われても全然嬉しくない」
「おい!」
「ああ、いや……こんな事が言いたいんじゃなかったのにな」
設楽はここに来るまでに散々考えたであろう言葉の組み合わせが気に喰わないのか、しばらく黙る。
やがて思考がまとまったのか、一歩ずつこちらへ歩みよりながら話し始めた。
「きっと、石井はお前を責めないよ。全部黒の欠片の所為にして、お前の心を楽にしてやったつもりでいる。
 石井だけじゃない。誰も、お前を責めたりなんかしないだろうね。でも……お前は、それが辛いんだ。
 だから逃げたんだろ?」
二人の距離が、30メートルほどに縮まった。
「だってお前は、優しすぎる奴だから」
「設楽」
深沢と同じ台詞を、石塚は鋭く遮った。拳を握りしめて、不機嫌そうに立つ彼に、ずっと言えなかった一言をぶつける。
「それは、お前だろ」
設楽は表情を変えないまま、ぴくりと眉を動かす。石塚はその仕草で図星だ、と直感した。
例えばウド鈴木のように、誰にでも分かるような相方への愛情を見せる事はない。だが、ふとした拍子に日村への思いやりや
彼なりのコンビ愛、と表現すると些か薄っぺらいような感情を出すのが、設楽統という男だった。
「ハハハ……お前、何言ってんの。まさか俺が、日村のために黒にいるとでも言いたいわけ?」
「ずっと引っかかってたんだよ。お前みたいな奴がこんな風に芸人引きこんで、悪の組織ゴッコして遊んで、
 そんなんで満足すんのか?って。倉庫で俺にペナルティをやった時、言ってただろ。“俺達は同類”だって」
また、距離が縮まった。喋り続ける石塚の背中を冷や汗がつたう。
「そうだよ、俺は怖いよ。いくら皆が許してくれたって、俺が俺を許せねえよ。……お前とは違う理由で。
 こんな言い方、変だけどさ。お前、悪のリーダーって感じじゃねえもん。お前が黒をまとめてるっぽいの、
 すっげえ違和感あったんだよ。お前の背後に、まだ誰か……“何か”あるとしか思えない。
 だから、お前なんか怖くねえっていうんだよ」
距離が20メートルほどに縮まった。石塚は握りしめた拳の中、手のひらに爪を立てて恐怖を抑えこむ。
「悔しいけど、お前の言うとおりだった。黒の欠片は、俺の中にあったどす黒い“闇”を引き出したんだ。
 俺はもう俺の闇と向き合った。でも、お前は?」
今度こそ、設楽は自分を完全に洗脳するだろう。現に設楽のポケットの中で、ソーダライトが淡い光を放っている。
さっきから二重に反響して聞こえてくる設楽の声に、石塚は抗おうと壁に手をついた。
「偉そうに主役面してんじゃねえよ」
深く息を吸って、覚悟を決める。これが最後だ。

「とっとと舞台から下りろ、“ピエロ”風情が」

集会の夜の仕返しが半分、設楽の心に少しでも響けばという賭けが半分だった。
しかし、設楽は押し殺したように笑うだけで、何も言わない。その時、背後から「石塚くん!」と張りのある声が叫んだ。
振り返ると、ハンカチで肩の傷を縛った石井が立っている。全速力で走ってきたのか、汗だくで荒い息をついていた。
石井はぎこちないながらも笑顔を作って、相方に駆け寄ろうとした。が、その前に立つ男を見て止まる。
「……設楽……」
石井は、怒りが体の中に突き上げてくるのを感じた。今まではどこか遠い出来事だった石の争い。その中心に立つ設楽の事も、
普段の付き合いとは切り離して考えていた。設楽が何を考えていても、どこにいても、自分にとっては『同期の設楽統』だった。
石塚を、黒の坩堝に引きずりこむまでは。


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