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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

869Evie ◆XksB4AwhxU:2015/12/16(水) 15:58:59
「……おいおい、何熱くなっちゃってんの?ちょーっと遊んだだけだろ」
「お前ッ……お前、相方に堂々と顔向けできんような事して、何が楽しいねん!」
「相方?」
石塚はそこで笑みを消した。完全に黒に振りきれた芸人特有の虚ろな目に射抜かれて、小杉は思わず胸ぐらを掴んでいた手を離す。
「お前さあ、自分で言ってて恥ずかしくねえの?相方なんて言葉で誤魔化してんじゃねえよ。ただの仕事仲間だろ?
 小杉、お前だって吉田が普段何をしてるか、何を考えてるかなんて、全然知らねえだろ。当たり前だよな、赤の他人だから」
「……俺は吉田を信頼しとるから、それでええんや。あいつが俺にどんな事を隠しとっても、そんな事で俺らは揺らいだりなんかせえへんのや。
 俺らは絆で繋がっとる。それが俺らを強く結びつけとるんや!」
「信頼、ね。俺だってそこから始まってんだよ。俺は石井を信頼していた。石井に心配をかけたくなかった。石井のためなら悪人にもなれた。
 俺達の間にも、信頼があった。お前らが絆と呼んでいるものがあった」
石塚は小杉の耳元に顔を近づけて、囁く。

「それが、俺を壊した」

小杉が言葉の意味を理解する前に、鍵のかかっていなかったドアがバタンと蹴破られる。
「岡安!」
土谷はあわてて岡安のもとへ駆けよると、拘束されている方の手首を持ち上げて、シェーバーを取り出す。
「これ、家電の中に入る……よな。岡安、ちょっと怖いだろうけど、我慢しろよ」
首から下げられたカプセル型のチェーンが、柔らかい光を放つ。シェーバーのスイッチが入ると、強化された三枚刃が金属製のリングを
ガリガリと氷のように削っていく。岡安はぎゅっと目をつぶってそちらを見ないようにしていたが、シェーバーの電源が切れると、恐る恐る目を開けた。
「ほら、外れた」
「あ、ありがとう……土谷、よくここ分かったね」
岡安が自由になった腕をさすりながら聞くと、「サーチしてもらったんだよ」とこともなげに答える。ななめ45°の3人が無事を喜ぶ横で、
吉田は「面倒かけんな、アホ」と小杉の頭を軽く叩いていた。

「……石塚くん」

張りのある声に振り返ると、石井が開いたドアにもたれかかって立っていた。
「……へえ、やっぱ来たんだ。暇な奴」
「石塚くん、もうやめるんだ」
「何を?……ああ、まさか、またあのくっさい台詞聞かせる気?“こんなのは君じゃない、僕の相方じゃない”……ハハッ、傑作だよなあ。
 あの台詞言いながら、自分に酔ってたんでしょ、バカなやつ」
ななめ45°の3人を下がらせて、石井は一歩ずつ相方に歩みよって行く。その間も石塚は笑うのを止めなかった。
「勝手に俺をでっち上げて、勝手に失望して。勝手に俺の立ち位置を決めて、そこに戻そうとする。
 それって、ガキが駄々こねてんのと何の違いがあるわけ?」
石井は足を止めた。そのまま膝を折り、石塚の足元に正座する。
「……すまない!」
指をそろえて、頭を下げる。石塚は「うげっ」と心底気持ち悪そうな顔をした。後ろで成り行きを見守っていた
ななめ45°の3人も、ブラマヨも、石井の突然の土下座に、どうしていいのか分からず二人を代わる代わる見る。
「僕は身勝手で……妄信的で、いつだって自分の事しか……自分に都合のいい事しか見えちゃいなかった。
 それが……君を、苦しめていたって事も、今なら分かる」
石塚はその頭を踏みつけようとして、足を戻した。石井は顔を上げて、その両足にすがりつく。
「だから。僕に、もう一度だけでいい。チャンスをくれ。今度こそ君を離さないから」
頼むよ、と繰り返しながら、涙でぐしゃぐしゃになった顔をジーンズにこすりつける。石塚は薄くなりかけた石井の髪をつかむと、
無情にも引き剥がした。
「……いまさら、遅えんだよ」
石井の頭から手を離して、顔を背ける。
「お前の言葉なんか、もう何の意味も持たねえんだよ。俺達は」
安全装置が外されたままのモデルガンの銃口が、ゆっくりと石井の眉間に向けられた。

「戦うしか、ないんだ」

石井はゆっくりと立ち上がり、袖で涙を拭いた。石を取り出そうとする後輩たちの前に手を出して「僕が」と押しとどめる。
「これは、僕たち二人の問題なんだ。下がっててくれ」
それだけ言うと、ルチルクォーツを胸の前で握りしめる。5人は言われたとおりに下がるが、いつでも助けに入れるよう準備した。
「僕たちには絆がある。11年の信頼がある……それに、意味がないとは思わない」
「絆、信頼……ハハッ、まるでうさんくせえ感動企画みたいだな。それが本当にあるってんなら、なんでお前、あの時俺を否定した?」
石井は答えない。今はどんな言葉も相方の心に届かないと分かっていた。


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