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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】
860
:
Evie
◆XksB4AwhxU
:2015/12/02(水) 16:29:51
「石塚さん!」
無人の屋上に、岡安の高い声が響き渡る。一番後ろにいた小沢が降りると、ミニ電車は『ポンッ』と軽く弾けるような音をたてて消えた。
「……ダメだ、もう」
小沢は目をつぶって意識を集中させたが、それらしい気配は小さすぎて感知できない。一方の石井は、柵に手をかけて地面を必死に探していた。
「飛び降りたんなら、音で分かりますよ」
「……あっ、……そう、そうだな……一体どうしたってんだ、僕は」
石井は頭を振って、諦めたように息を吐く。
「……なんで、あんな言い方しかできなかったんだろう」
岡安は慰めの言葉も見つからないのか、少し遠くで黙って立っていた。
「信頼していたからこそ、許せなかった。あれは本当の石塚君じゃないって、分かっていたはずなのに」
「でも、浄化すればきっと元通りになりますよ。その時には、石井さんがしっかり支えてあげないと」
「それでも、全部が全部なかったことにできるわけじゃないんだ。僕は……あれ?」
石井はふと、何かに気づいたように顔を上げた。視線の先には、隣の建物の屋上に設置された、ケータイの無線アンテナ。
「なあ。これ、前からあったか?」
「え?いや……」
劇場の目と鼻の先に建つ2階建てのビル。岡安は柵から身を乗り出して「なんとか飛べそうですね」と頷く。
「あっ!」
岡安は思わず叫んだ。古いテレビにノイズが混ざるように、ビルの形が左右にぶれる。三人の目の前で、
ビルはあれよあれよという間に無数の光の玉になって、空に溶けていく。一分もしないうちに、ビルは影も形もなくなっていた。
「これ……まさか、ブラマヨが言ってた」
小沢は独り言を漏らした後、隣の石井と顔を見合わせる。石井はぎゅっと拳を握りしめて、悲しみとも怒りともつかない表情を浮かべていた。
「はっ……はっ、はあッ……はあっ、」
地下道の壁に手をついて、ずるずるとその場に崩れ落ちる。あの時とっさに地図にビルを書き込んで足場を作り、飛び移ったのは正解だった。
石塚はその間一度も振り返らず、ただ無心に走った。もはや何から逃げたいのか、それすらもわからないまま。
『僕が信頼している石塚義之は、こんな事はしない!』
頭の中で反響する石井の声に、耳をおさえてうずくまる。
「うっ……」
噛み締めた唇のすきまから嗚咽が漏れた。こらえていた涙が、後から後から頬を伝う。
「うっ……うぇ、……あああー、」
ぺたんと座りこんで、ひたすら泣く。どうしてこんな事になった?自分はただ、石井と一緒にいたかっただけで、石井を守りたかっただけで。
その為なら自分はどうなってもいいとさえ思っていた。石を持っていないと嘘をついたのも、助けて、が言えなかったのも。
石井にこれ以上負担をかけたくなかったから、ただそれだけの理由だったのに。
「俺は石井さんを裏切ったんじゃない」
泣きながら声に出してみると、胸のあたりに氷を落とされたような感覚があった。
「石井さんが俺を裏切った」
無意識に口が動いて、主語がいれかわる。
「石井さんは俺から逃げた。都合のいいことしか見なかった。俺が悪いんじゃない、たまたま目をつけられただけだ、なのに石井さんは」
言葉を発するごとに、心臓のあたりにじわじわと冷たい感触が広がっていく。
いつの間にか涙は止まっていた。もう何が理由で泣いていたかも思い出せない。
「……信頼、か。芸人のくせにつまんねー綺麗事ぬかしやがって」
スイッチを一つずつOFFにするように、石塚の中から『正』の感情が消えていく。今までは異物でしかなかった黒の欠片が、
まるで酸素のように当たり前の顔をして体の中に染み渡った。
「お前の言う信頼ってのは、自分に都合がいいことだけつまみ食いみたいに信じるってことかよ。ねえ、石井君?」
石塚は立ち上がり、ガンッと地下道の壁を殴って叫ぶ。
「一生ヒーロー気取りのお遊戯してろ、バーーッカ!!」
はははっ、と笑いながら地下道を出る階段をのぼっていく。しかしその足取りは、なぜかふらふらと不安定なものだった。
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