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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

859Evie ◆XksB4AwhxU:2015/12/02(水) 16:29:13
「さっすが小沢さん」
阿部は心のこもっていない棒読みで賞賛する。隣の吉田は「……なんで俺達が」と明らかに気乗りしていない様子で
包帯の留め具を外した。ステージの上でまごまごしていた石井は、そこで初めてはっと我に返って岡安のミニ電車に飛び乗る。
「あ、待ってくださいよ!」
二人だけでは危険だと思ったのか、小沢がその後ろに乗って「あとは頼んだ!」と井戸田に手を合わせる。三人を乗せたミニ電車は、
キキキ、と耳障りな音をたててドリフトして、煙を吐きながら狭い階段を駆けていく。
「下っぱ同士協力しましょうってことだよ、多分。大丈夫、ちゃんと働いた分は石塚さんに請求するから」
「何をだよ」
いつもどおりの静かなツッコミを入れた吉田が、一歩ずつステージに歩みよってくる。その異様な雰囲気に、土谷は少しずつ後ずさった。
包帯の留め具を外して床に落とす。バツ印に刻まれた手のひらの傷で、血がコポコポと泡立ち、徐々に硬化していく。
阿部を後ろに下がらせて、傷口からずるりと長い棒のようなものを引き出した。
「……槍?」
「矛です」
井戸田のつぶやきに、心底不本意だというような声音で返す。吉田はつま先で床を強く蹴って、ステージに飛び乗った。
「う、わっ!?」
半月型の軌道を描く矛の先は、すんでのところで避けた井戸田のシャツを切り裂いた。のけぞった井戸田の耳に、
「そのまま!」と土谷が鋭く叫ぶ声。イナバウアーの体勢で固まった井戸田の腹すれすれの所を、ゴオッと熱いものが通過する。
吉田は矛を半回転させて、充電式ドライヤーを銃のように構えた土谷に狙いを変えた。
「させるか!」
そこで舞台袖にいた下池が、吉田を指さして叫ぶ。首から下げたチャームがぱあっと光を放ち、吉田を一直線に射抜いた。
「……くっ、」
少しよろめいた後、吉田はそこにあるべき__相「棒」の存在感が薄れていることに気づく。
「……まさか」
矛を取り落とし、カチャカチャとベルトを外す。くるりと背を向けて、スラックスとトランクスをそっと引っぱり……絶叫した。
「なっ……な、な」
振り返った吉田は耳まで真っ赤になっていた。似つかわしくない絶叫に驚いた井戸田が下池を見やると、「へへっ」と照れ笑い。
「あ、あんた……どこにやったのよ!あたしのっ……あたしの……」
女言葉で罵倒するが、恥ずかしいのか消え入りそうな声で「……」と男の象徴を表す相方に、
阿部は目をパチクリさせて「ついてんじゃん」と首を傾げる。阿部の目には、吉田はスッピンのニューハーフにしか見えない。
「ねえ、その石ってさあ。吉田をボンキュッボーンの美女にしてくれたりとかしないの?」
今まで死んだ魚のようだった阿部の目がきらりと光る。空中で胸をモミモミするパントマイムをしながら聞くと、
下池は心底残念、という顔で肩をすくめた。
「うーん、あくまで中身と性質の問題だから、完全にタマキン消してオッパイくっつけるってわけじゃないみた……あぶねっ!」
顎に手を当てて考える下池の頭すれすれの所を、矛が旋回する。髪の毛が何本かひらり、と宙に待った。
アルゴリズム体操のごとくしゃがんで避けた下池は、「おっ」だの「ひえっ」だの叫びながら、怒りのまま矛を振り回す吉田から逃げる。
「……なんか、タマがヒュンッてなった」
「俺もです」
ステージに座りこむ井戸田と、その隣で股間を守るように手を前に出した土谷は、
目の前で繰り広げられる修羅場に似つかわないのんきな感想を漏らした。

◆◆◆◆◆◆◆

幕が落ちると同時に、石塚は走り出していた。心臓が脈打つ音が頭の中で響く。はあっ、はあっと短い間隔で呼吸をしながら、
緑色の照明で照らしだされた非常階段をのぼって、屋上に続くドアに手をかける。阿部は「屋上から脱出できるようにしときますねー」と
のんびりした声音で言っていたが、仕事はきちんとするタイプらしい。あっさり開いたドアの向こうに人の気配はない。
石塚は屋上に出ると、念のため後ろ手に鍵をかけた。岡安の能力に鍵が意味を成さないのは知っているが、気休めだ。
「……無理か」
柵に足をかけて、すこしせり出した外側にとんっと下りる。隣のビルとの間隔は、およそ50メートルほど。
到底飛び移れる高さではないそれに足がすくむ。と、そこで車輪と地面が擦れるかすかな音が耳に届いた。


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