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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

858Evie ◆XksB4AwhxU:2015/12/02(水) 16:28:36
『……じゃ、さっき言った通りにやれよ。仕事に支障が出ないレベルなら何しても構わない。ただ、顔はやめとけよ』
どこかの楽屋だろうか。白いテーブルの上、隠し撮りのために斜めに置かれたケータイの向こうで、
石塚が不機嫌そうに頬杖をついて座っている。
「ち、違う……これ、俺じゃない!」
必死に否定するが、タバコのせいでかすれた声も、根本だけ黒い茶髪も、顔つきさえも、完全に石塚のものだった。
石塚は今度こそよろめいて、その場にへたりこむ。
『はいはい、分かってますって。それにしても、あなたも結構いい性格してますよね。
 よりにもよって相方を襲わせるなんて。いやあ、俺にはそこまでの度胸ありませんよ……っとと、すいません』
画面の中の石塚は軽口を叩いた相手を睨みつけると、テーブルに手をついて立ち上がった。画面が見えないので声しか聞こえない他の五人も、
信じられない、というような顔で、ステージに立つ石塚と石井の間でせわしなく視点を動かした。
『……人には我慢の限界ってのがあんだよ。長生きしたかったら、口を縫いつけときな』
普段の石塚からは考えられない恐ろしい台詞を吐いて背中を向けたところでぴた、と動画が止まる。
石井はケータイを持った手をゆっくりと下ろして、「……最悪だ」と吐き捨てた。
「石井さん……あの」
これ以上話したくもない、というように手を振って、石井は顔を背けた。そしてとうとう、激情のままに言ってはならない言葉を告げる。

「こんなの……こんなのは、君じゃない」
石塚は少しだけホッとしたように体の力をゆるめた。が、続く言葉にまた崩れ落ちそうになる。
「今の君は僕の相方じゃない、僕が信頼している石塚義之は、こんな事はしない!」

石塚はその瞬間、自分の心のなかの天秤に『ピシッ』とヒビが入る音を聞いた。
白と黒の分銅を置いた天秤に入った亀裂はどんどんと深く大きくなり、やがてガラガラと音をたて崩れてゆく。
残骸の中から弾き出された黒の分銅が、ころんと転がった。

「……なんで、そんなこと言うんだよ」
石塚はふらりと立ち上がって、熔錬水晶を仕込んだ銃を左手に構えた。そのまま、右手に巻いた包帯の留め具を糸切り歯で解く。
包帯の下にあったのは、傷は塞がったもののまだ赤い痕の残った手。しばらく動かせなかったおかげでもつれる指で、安全装置を外した。
「石井さんのためだったのに。なんで、その石井さんが俺を」
銃口が向いているのは、天井。その意味するところを井戸田が察知した瞬間、乾いた銃声が響いた。
光の弾丸は、幕を上げるための器具を粉々に打ち砕く。重い幕の右半分だけがガクンッと落ちて、石塚の姿をステージから消し去る。
「石塚さん!」
井戸田がステージに駆け上がる後ろで、土谷が二階部分の岡安に向かって合図する。スポットライトを回転させた岡安は、
首から下げたチャームを握り締めて「電車がまいりまぁす」とねっとりした声を発した。瞬間、カプセル型のチャームが
まばゆい光を放ち、ポンッと小さな列車が現れる。岡安はその上にまたがって、観客席の方へ滑るように下りてきた。
「いない……?」
ステージに上がった井戸田は首を傾げる。幕を突き抜けてきた岡安は、かすかな気配を感じて顔を上げて、
「土谷、屋上ってどっから行けるっけ」と聞いた。
「えーと、たしか楽屋の隣に階段が……」
土谷の言葉が終わるか終わらないかのうちに、石井と小沢がステージに上がる。上手側にいた下池がステージを駆け抜けて、そっとドアノブに手をかけた。
「……開いてます」
「鍵は?」
小沢の質問に、「ここに」とスタッフから預かったのであろう鍵束を見せる。
「このドア、内側に開くんだね」
「それが何か?」
「……向こう側から、誰かが開けてやればいいんだ。考えてみなよ、こんなバレバレの罠に、石塚さんが一人で来るわけない」
「ピンポーン」
不意に混じった声に、全員が一斉に振り返る。いつの間にか開け放たれたホールのドアの向こうから、二人分の人影がこちらへ歩いてきた。


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