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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】
833
:
Evie
◆XksB4AwhxU
:2015/11/18(水) 22:21:46
「やっぱり俺、心配やわ」
タクシーを拾って浅越を乗せると、ぽつり、と小杉が呟く。助手席に乗りこんで行き先を告げようとしていた吉田は、
小杉の思いつきにため息をついて出てくる。
「お前何言うとんねん、深沢さんがああ言うたんやから、任せとけばええんや。
どうも深沢さんとは深い縁があるやつみたいやし、あの人は“ベテラン”やから、そう簡単にやられたりは……」
「ちゃうねん、俺が心配なのは深沢さんだけやのうて」
「分かっとる。お前ほんまはお人好しやもんな」
「おい、それ以上言うたら怒るで」
「もう怒っとるやん」
吉田は笑いながらタクシーに近づくとドアを半分開いて、後部座席で疲れて寝ていた浅越を揺り起こす。
「あれ、吉田さん達乗らんのですか?」
眠たそうに眼鏡の下の瞳を瞬かせて浅越が聞くと、後ろの小杉を親指で指して苦笑いを浮かべる。
浅越は何か言いたげに吉田と小杉を見くらべていたが、やがて頭を振って、タクシーから降りた。
「俺も行きます、病院代もバカになりませんよ?」
「むさ苦しいナイチンゲールやなあ」
吉田が憎まれ口を叩くと、ややムッとした顔で隣に並んだ。そこで、小さな破裂音が耳に届く。
三人は一斉に今来た道を振り返る。ややあって、もう一発聞こえた。
「急ぎましょう!」
浅越が一足先に走りだすと、ブラマヨの二人も慌てて後を追った。
黒の欠片。効能は石の能力の増幅、精神汚染、鎮痛、思考操作。副作用は頭痛、手の震え等多数。
それが、深沢が持つ欠片についての知識全てだ。
しかし、こうして石塚と対峙する限りでは、『汚染』というより『反転』と表現するほうが正しいようにも思う。
「……目覚ませ、石塚!」
深沢は手首をやわらかくしならせて、光の球を滑らせる。石塚はひらりとそれを避けたが、球は実に器用な追尾を見せた。
「ハァ……なんでこんなめんどくせー事になってんだろ……あぶねっ」
足元を掬いかけた球を飛びのいて避けると、首をこきっと鳴らしてモデルガンを構え直す。
「オッサンのお遊戯に付き合ってやったけどさ。そろそろ目障りなんだよね」
深沢はピルケースからガムボールを一つつまみ出して、ふうっと呼吸を整えた。
石塚義之という男の性格。一言で表現すれば天然ボケ、明るく賑やかで毒気のない性質。
それが反転すればどうなるか。自己中心的で傲慢、残酷で薄情なものへと変わるのではないか。そう、今のように__。
「なあ、でも……それは、お前じゃないんだ」
「はあ?自分語りとかいい加減にしなよ。本気で殺すよ?」
「やってみろよ、できないだろ?だって、それは本当のお前じゃないからな」
今度は手をクロスさせて、二発連続で球を放つ。石塚はそれをサイドステップで避けて、モデルガンを右手に構え直した。
ゆっくりと腕を上げて、銃口を自分のこめかみに当てる。
「やめろ!!」
ちょうど拳銃自殺をするような仕草に、深沢はとっさに飛び出していた。それが何を生むか、彼の頭からは完全に抜け落ちていた。
ただ後輩を助けたい、その一心で飛び出した深沢の心臓部分に、冷たいものが突きつけられる。
次の瞬間、深沢の胸は鋭い弾丸で撃ちぬかれた。熱い。体は冷えきっているのに、撃たれた胸だけが燃えるように熱い。
「ぐっ……」
胸を抑えて地面に膝をついた深沢に、また銃口が突きつけられた。
「これがあんたの限界だよ、バーカ」
呼吸ができない。肋骨が軋むように痛い。ピルケースを振ったが、もうガムボールは使い切っていた。
実に楽しそうに笑う石塚を、深沢は為す術もなく見上げた。
「そういえば、あいつ誰なんやろ」
タクシーを拾うために元来た道からだいぶ離れてしまったので、急ぎ足で戻りながら小杉が言う。
「まあ、あんだけペラペラ標準語喋っとったんやし、東京出身の芸人なのは間違いないやろ。
地方から出てきて覚えた奴って、どうしても訛りが出てまうからなあ」
吉田が繋げると、なるほど、と頷く。相方の反応に調子づいたのか、吉田はさらに推理を繋げた。
「ほんで、俺らにはタメ口使うて呼び捨て……せやけど、浅越にはさん付けやった。
ちゅうことは、浅越より年下で、俺達とは同期。俺ら浅越と年変わらんし、年齢基準でさん付けするんやったら、
俺らにもせんとおかしいやろ」
吉田の推理は論理的だったが、小杉にはいまいち納得がいかなかった。
そこで、男の胸ぐらをつかんでいた深沢が、涙まじりに叫んでいた声が蘇る。
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