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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

813Evie ◆XksB4AwhxU:2015/11/02(月) 20:51:02
「俺と一緒にいる所を石井に見られたら、困るのはお前だろ?
 ……まあ、悪かった。お前とゆっくり話せそうな場所がなかなかなくてな」
「で、何か用ですか」
「お前にプレゼントがあんだよ。口開けろ」
「え?」
「いいから開けろ、指突っこんで無理矢理こじ開けられてえのか」
低い声ですごまれ、おずおずと口を開ける。そこに、何かが押しこまれた。砕いたキャンディーのような、鋭角のある物体。
(……これ、黒の欠片だ!)
吐き出そうとするが再び口を塞がれる。息苦しさに喉が動いた瞬間、石塚は無意識にそれを嚥下していた。
固形物だったはずのそれは舌に触れると、どろりと粘性をもった液体に変わって食道を落ちていく。
大竹の手が離れると、昨日から数えてすでに三度目の窒息に、石塚は激しく咳き込む。
「いきなり何てことするんですか!」
「おいおい、感謝こそすれ恨まれる筋合いなんてねえぞ。どうだ、楽になったろ?」
言われて、手の震えがおさまっていることに気づく。朝から続いていた鈍い頭痛も、いつの間にか消えていた。
「それで今日一日は保つだろ。じゃ、頑張れよ」
「ま、待ってください!」
出ていこうとする大竹の腕をつかんで引き止める。
「なんで……なんで、黒の欠片なんか」
「まだ分かんねえのか?その指輪だよ。そいつは熔錬水晶って石で、まあ……大量生産品だ。
 黒の下っ端に持たされる石なんだが、水晶にしちゃ黒っぽく見えんだろ?」
「まさか、これが」
「そうだよ、黒の欠片が混ざってんだ。あ、言っとくけどいまさら外しても無駄だぜ?」
大竹はかがんで、石塚の胸ポケットからプラチナルチルクォーツを取り出して見せた。
「こいつもお前に似て健気な石だよなあ。大抵のやつは一発で黒に染まるのに、お前はまだふらふらと
 白黒を行き来してる。欠片への抵抗力が強いんだな」
鍵を開けてドアを開け放つと、思い出したように振り返る。
「ああ、そうそう。石井がまた撮影入ったんだって?」
「……それが、どうかしましたか」
「無事に仕事に行けるといいな、最近はなにかと物騒だろ。
 ……お前がいい子にしてたら、何もしねえよ」
脅迫めいた言葉の意味を問う前に、大竹は出て行ってしまった。
「……戻らないと」
立ち上がったところで。ケータイがメール受信を知らせる音を鳴らした。受信ボックスを見ると、
未登録のアドレスから一通来ている。石塚はため息をついて、ケータイをパチンと閉じた。
(俺のまわりは、どうにもならない事ばかりだ)

◆◆◆◆◆◆◆◆

「おう、元気してた?」
廊下の向こうから歩いて来たのは、石井にとって最も接触したくない相手。今日は石塚の具合が悪そうだったので、
ネタ合わせも早めに切り上げる事になった。帰るまでの時間をどう潰すか考えていたので無視しようかと思ったが、
設楽は(行き先は反対のはずなのに)さっさと石井の隣りに立って歩いた。
「……設楽」
「最近忙しいらしいじゃん、がんばってね」
「あ、ああ……」
「そうだ、聞いてよ。うちの娘がさあ、日村のほうが俺より好きだって言うんだよ。
 どこが?って聞いたら日村のほうがお腹がぽよぽよしてて乗っかると気持ちいいから、だってさ。
 ひどくねえ?腹たったから日村しばらく出禁にしようかなんて思っちゃったりして。まあ冗談だけど」
調子が狂う。設楽の目的は何なのか。まさか、ただの世間話というのでもあるまい。石井は設楽の言葉を聞き流しながら、
自動販売機でコーヒーを買う。プルタップを指で開けて、飲もうとしたところで自分をじっと見る視線に気づいた。
「いや、ごめん。飲んでいいよ」
くすくす笑いながら設楽が手を振る。言われなくてもそのつもりだ。半分ほど飲んだところで、また視線が気になって
設楽の方を振り向く。あいかわらず腹の中が読めない、貼りついたような笑顔で石井を見ている。
「何か?」
「嵐は思いもよらないところから起こる。そして激しい雨風が過ぎ去った後には、何も残らない。
 人は、近づいてくる灰色の雲に気づいた時に、はじめて嵐の訪れを知るんだ。それまでは毎日が晴れだと信じて疑わない」
「誰の詩だ?」
「いや、個人的な人生観だよ。邪魔して悪かったね。じゃ、また今度」
設楽はくるりと踵を返すと、手を振って去っていった。その姿が廊下の向こうに消えると、石井も缶をゴミ箱に捨てる。
「……読めない相手は疲れるな」
呟き、また歩き始める。石塚ならこんなことはない。言葉に裏表などないし、感情は素直に表してくれる。だから気を張る必要もない。
廊下の窓から空が見えた。青空の向こうに灰色の雲が散り散りに浮かんでいるのを見て、設楽の言葉が思い出される。
「……あれで揺さぶりをかけたつもりなのか?」
石井はふっと笑って、リュックを背負い直し歩いて行った。


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