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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】
811
:
Evie
◆XksB4AwhxU
:2015/11/02(月) 20:49:32
「こいつは使えるかもしれねえ」
「はあ?何言ってんだお前」
大竹は三村を押しのけると、前に座って石塚の目をまっすぐ見すえた。
「なあ、石塚。お前……いい子だもんな。お前が悪いことしても、きっとみんなお前のことは疑わねえよ。
お前がそんなことするわけないって、あの石井まで信じきってる。そういうの、この世界じゃ希少種なんだぜ?
だって世の中、何もしてないのに疑われる奴もいるからな。あいつはきっと裏の顔がある、
あいつはなんか雰囲気が怪しい……そんな風に」
気がつくと、石塚は左手をとられていた。ちょうだいをするようにひっくり返った手のひらに、何か硬いものが落とされる。
それは、独り者がするには不自然な、小さな水晶のついた指輪だった。大竹の指がそれをつまんで、眼前にかざす。
「わりいな、何の成果もなしに帰るわけにはいかねえんだ。
……お前が考えてるほど、俺らも自由ってわけじゃない」
結婚式の指輪交換のように、薬指が持ち上げられた。爪の先に当たると、指輪はすんなりはまる。
指輪の正体に石塚の思いが至った瞬間、大竹はうつむいて呟いた。
「……ごめんな」
直後、指輪から黒い炎がたちのぼるのが、見えた気がした。同時に、心臓を冷たい手で握りしめられるような感覚が襲う。
「あ、……あ゛っ、!…ぐっ……ぅ……」
胸を抑えて床に倒れる。胸の奥から何かがせり上がってくる感覚を、クッションに爪を立ててやり過ごす。
表現しようのない不快感に、手が動かない。薬指にはまった指輪が、ぎりぎりと痛んだ。
「石塚!」
駆け寄ろうとした三村を、大竹が止めて首を横に振った。
「……たす、け……、いし……いさん……」
苦悶の合間に喘ぐように発せられた名前に、三村は耐えられないとばかりに目を背けた。
同じ頃、石井は自宅で写真立てを拭いていた。
最近仕事がたてこんでいたので、ガラスはすっかり曇ってしまっている。雑巾で丁寧に拭きとると、棚に戻そうとした。
「あっ」
手が滑った拍子に、写真立てはフローリングに落ちてわずかに跳ねた。恐る恐る見てみると、
案の定、ガラスのフレームには斜めにひびが入って砕けている。
「……こりゃ、もう使えないか。スペアもないし……参ったなあ」
ガラス片を片付けるために、中の写真を引き出す。それはまだコンビを結成したばかりの頃に撮った最初の宣材写真だった。
(そうか。もう10年以上も経つんだね……)
懐かしさにそっと指でなぞる。思えばこの頃は石塚もまだ未成年で、自分たちは先が見えない代わりに疑わないでいられた。
苦しい下積みの先には素晴らしい未来が待っている。きっと楽しい日々がある、と。
『いいって。俺にできることなら、なんでも』
さっき玄関で振り返りざまに笑った顔が浮かぶ。同時に、何か嫌な予感が胸をしめつけた。
「……考えすぎか」
ドラマじゃあるまいし、何でもかんでも凶兆に結びつけるなど馬鹿らしい。第一何の予感だというのか。
石井は笑って不安を打ち消したが、一度生まれた小さな炎は、なぜかいつまで経っても消えなかった。
「……おい、ちゃんと正気か?」
目の前でひらひらと何かが動く。それが大竹の手だと理解するのに、しばらく時間がかかった。
石塚は床に横向きに倒れたまま頷いた。浅い呼吸を繰り返して、ゆっくりと体を起こす。三村があわてて手を貸すが、
今度は大竹も止めなかった。ベッドに倒れこむと、丸められた紙片が顔の横にぽて、と落とされる。
「今度は黒の集会で会おうぜ。それに地図が書いてあっから、遅刻すんなよ」
「……俺が、白に知らせたら?」
大竹は肩をすくめて答えた。
「お前は知らせねえよ。いや、できねえと言ったほうがいいか?」
石塚は理由を聞こうとしたが、言葉は声にならなかった。瞬きするごとに頭が重くなって、意識が遠ざかっていく。
「だってお前はもう……」
その先は聞こえなかった。
眠りに落ちる前、最後に見えたのは、廊下へと消えていくさまぁ〜ずの背中だった。
玄関のドアが閉まるのと同時に、石塚の意識も再び深い穴の底へ落ちていった。
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