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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

804Evie ◆XksB4AwhxU:2015/10/29(木) 18:59:06
「聞いてるのか?」
不機嫌そうな石井の声が、やけに近くで聞こえた。
思案に沈んでいた石塚は、そこではっと顔を上げる。すると、顔色の悪い石井の視線とまともにかち合った。
「これからは君にも気をつけて欲しいんだ。
 なるべく一人で動くのはやめろ。変なやつから声をかけられたら、
 すぐに逃げろ。もしくは僕を呼んでくれ。それと……今はまだ、
 黒の芸人とは仕事以外で不用意に関わらない方がいい。
 君にとっては一方的な押しつけになって悪いが、従ってくれ」
お願いの形をとってはいるが、その口調には厳しい響きがある。
すぐ頷かなかったのを拒絶ととったのか、石井は今度は命令口調になった。
「いいから、言うことを聞くんだ。
 今まで僕の指図が間違っていたことがあったか?」
石井の心配はもっともで、だからこそ首を横に振れない。
分かっていたが、石塚の首はやけに緩慢な動作で深く前へ垂れた。
「……うん、分かった。石井さんの言うとおりにする」
「分かってくれたんならいい。
 それと、最後に一つだけ。
 ……もし、石を手に入れたら。それが誰かからの贈り物だろうと、拾い物だろうと、
 とにかくまっさきに、僕に知らせるんだ。いいね?」
肩に手を置いて、語尾に力を込める。
毎度思うが、石井のこの人心掌握術はどこで学んだのか。
澄んだ声と美しい滑舌を聞いているうちに、何もかも見透かされているような気分になる。
「それと、これを」
渡されたのは、石井が片手で走り書きしていたメモだった。
いつもより雑な字で、何人かの名前と電話番号が書いてある。
その中でもアンジャッシュの二人には名前の横に星マークがついていた。
「それが、いわゆる白ユニットの芸人だ。そこに名前が上がっている人は安全だと思っていい。
 僕がいなかったら、彼らに助けを求めろ。いいね?」
石塚は操られるように「うん」と返事をして頷いた。そこでやっと満足気に石井の手が離れる。
立ち上がると、石井も後からついてきた。もう話は終わったろうし、ここにこれ以上用事はない。
石井は玄関の鍵を開けると、深いため息をついて眉間をおさえた。
「悪いな、神経がピリピリしていて……とても一人じゃ立ち直れそうになかった」
「いいって。俺にできることならなんでも」
「ありがとう。でも……僕は、守られるより、守る方がいい。
 君は僕の後ろにいてくれ。それだけでいいんだ」
その物言いが少し引っかかったが、石塚は構わず外へ出ようとした。
しかし、ドアノブにかかった手に、後ろから出てきた石井の手が重なって動きを阻む。
「石塚くん」
振り返ると、自分より低い位置にある石井の目とまともにかち合った。
「本当に、石は持ってないんだね?」
嘘をつくのは難しい。澄み切った目で相手を見つめて、疑う余地を与えるな。
低めの声で、ゆっくりと、否定しろ!__頭のどこかでそんな声が聞こえた。
一秒も経たないうちに、唇が微笑の形を作る。
「ああ、持ってない」
石井は安心したように肩の力を抜いて「じゃ」と短く挨拶した。
扉がゆっくりと閉まる。石塚は音のない舌打ちをして、その場を後にした。

帰る道すがら、パーカーのポケットに手を入れて中を探った。
指先が硬いものに当たる。引き出すと、石塚の手には虹色の光を内包した結晶が乗っている。
「石井さん……」
ぎゅっと握りしめる。手のひらが角で痛い。ぎりぎりと握りこんだ。
その痛みが、さっきの嘘を責めたてているようで石塚は下を向いた。
本当はこの石を見せて、一緒に頑張ろうと言うつもりだった。
しかし、弱り切った石井を見た瞬間、その言葉は声にならなかった。
自分はあの人に何をしてやれるのか。この石はどんな役に立つのか。それが分からなくなった。
(もっと、強い石ならよかったな。
 そしたら、俺が石井さんを守ってあげられるのに)
思い出されるのは、混沌と血の匂いで満ちた1999年。ずっと見ていた、石井の背中。
気がつくと、自宅マンションのすぐ手前まで来ていた。
憂鬱な気分のまま、階段をのぼる。鍵を開けて玄関に入ると、ポケットのケータイが鳴った。
デフォルトの着信音ということは、未登録の番号だろうか。
「はい、石塚です」
しかし、電話の相手は無言のままだ。一旦耳から離して画面の番号を確認する。
やっぱり、知らない番号だ。
「もしもし?……どちら様ですか?」
やや怒りをこめて聞くと、電話の相手は笑いながら言った。


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