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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

796Evie ◆XksB4AwhxU:2015/07/07(火) 20:20:49
木村は突然腕を後ろに動かすと、ウィンドミル投法の如く勢いをつけて回転させた。鍛冶の体は人の群れの中に飛び降りると
ハサミを構えた女社員のヒールを足で払い転ばせ、周囲の人々を逆立ちになって回転しながら、蹴り飛ばす。
「んで、最後は……」
両足を揃えて横向きに飛んで、壁を蹴る。ボコ、と穴が空いた中に銀色の配水管が通っているのを見つけた鍛冶が、なんとなく
木村の意図するところを察した瞬間、
「鍛冶くんキーック!!」
鍛冶の全力を込めた胴回し回転蹴りは、築ウン十年の配水管にあっさりと亀裂を入れた。
亀裂のすきまからプシャアア、と勢い良く噴き出す冷たい水に戸惑う人々。
「……後は頼みます」
木村は非常階段のドアを開け放つと、石をぐっと握りしめて能力を解除した。倒れこむ体が水面に浸かる前に、松本がそっと受け止める。
「おつかれさん」
階下からバタバタと騒々しい足音が近づいてくるのを察知すると、非常階段に体を滑りこませてドアを閉める。
水圧でなかなか閉まらない事に苛ついてか、松本が眉間にしわをよせた時、上田の手がドアノブにかかる。
「「せーのっ!」」
ドアがけたたましい音をたてて閉まるのと同時に、警報機がベルを鳴らした。

数分後。暗示が解けたのか、膝下まで水に浸かった人々が、ベルが鳴り響く中で呆然と顔を見合わせていた。
「……俺たち、何してたんだ?」
「確か会議してたはずですけど、この床上浸水はいつの間に……」
自分達の手に握られた凶器と、なおも水を吐き続ける割れた配水管を見くらべて、彼らに出来るのは為す術もなく立ち尽くすばかりだった。
「大丈夫ですか!」
その時、下から駆け上がってきた警備員が、あまりの光景に仰け反る。
「今業者に連絡しますんで、少々お待ちを……うわ、なんだこれ!」
丸くえぐれた地面に足をひっかけた警備員は、中の鉄骨が剥き出しになった壁(だったもの)を見て首を傾げ呟いた。
「……最近多いよなあ、こういうの……」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「はあッ……はあ、はあっ……だめだ、もー限界」
交差点近くの路地に入り、雑居ビルの階段を上がる。二階の踊り場に辿り着くと、有田は壁に背中を預けてずるずると座りこんだ。
自力で動けないさくらんぼブービーの二人を地面に下ろす。パトカーのサイレンが美しいドップラー効果を描いて下を通り過ぎて行った。
「誰だ?110番したの」
「あ、僕です」
加賀谷がはーいと手を挙げて、室外機の影に隠れて下の様子を伺う。警察官が腰に吊った警棒をガチャガチャ言わせながら慌ただしく走って行く。
こちらには気づいていないらしく、ずぶ濡れになった警備員や社員から話を聞いている後ろ姿だけが遠くに見えた。
「……なんとか、逃げ切れたみたいだな」
有田はタバコを取り出して、やめる。今はそんな気分じゃない。
「ですね……あー、久しぶりに走ったから膝ガッチガチですよ」
加賀谷が背負ってきた(というより引きずってきた)鍛冶は気が抜けたのか、むにゃむにゃと幸せそうな寝顔で、小さくいびきをかいている。
「……こいつ、よくこの状況で寝れるよな……ボニー.アンド.クライドってのも案外こんな図太い奴等だったのかな」
上田は柵にもたれて下を眺めていた松本にちら、と視線をうつした。しばらくして、その視線に気づいたのか怪訝そうな顔で振り返る。
迷ったが、今のうちにどうしても聞きたいことがあった。
「なんで、俺たちがあそこにいるって分かった。誰から聞いた?」
「あんな、この瑪瑙が呼んでくれたんや。最初は空耳か思ったんやけど、気がついたらタクシー乗って、四谷まで来とってな」
「……石の意志ってやつか……」
「せやな」
上田の駄洒落はあっさりスルーされた。会話が止まってまた気まずい空気になる。なにせまともに顔を合わせるのは10年ぶり。
こちらの過去を思えば土下座でもしたほうがいいのかと馬鹿な考えが浮かぶ。しばらくお互いの出方を伺った後、
一服終えた有田がタバコの先を地面でもみ消して口を開く。


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