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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

750Evie ◆XksB4AwhxU:2015/04/17(金) 20:23:56
今更ながら…長くなりそうなので、
タイトルをつけておきました。
『We fake myself can't run away from there...』
(俺たちは自分自身を騙す。逃げられはしない、この場所から)

【現在】


「…………さん、上田さん?」
鍛冶が呼ぶ声に、はっと顔を上げる。
喫茶店のざわめきが耳に戻ってくる。どうやら回想にふけってしまっていたらしい。
お冷の氷もすっかり溶けて、水になっていた。
「あ、ああ……悪い、ボーッとしてた」
「大丈夫ですか?…あ、すみません。お代わりを」
木村は上田の戸惑う様子を見てとる。ウェイトレスを呼び止めて、コーヒーのお代わりを頼むと、
続きを目線だけで促した。
「この石はちょっと…因縁があってな」
テーブルの上で指を組んで、言葉を選ぶ上田の眼球がせわしなく動く。
やがて、決心がついたように腹から深く息を吐いた。

「お前らの世代では、キャブラー大戦なんて呼んでるらしいな。
 …あれはまさしく戦争だった。毎日がめまぐるしく過ぎて、
 仕事と石を使った闘いの繰り返し。仲間とか信頼とか、そんなもんはなかった。
 ただ、自分の信念と違う奴は敵。相方だろうが同期だろうが、叩き潰す。
 たまに仲間を見つける奴もいたけど、たいていはお互い疑心暗鬼になって、
 白の芸人同士で闘うなんてバカやってるのもいた。
 そもそも、なんとなく黒が気に入らない奴らを白と呼んでいただけで、
 実際はたいした違いはなかったんじゃねえかな」

上田がキャブラー大戦時代の話をするのは珍しかった。
石を介した付き合いもだいぶ長くなるが、過去の白黒の抗争については口を閉ざしていたのに。
独白のように紡がれる言葉に、さくらんぼブービーの二人は自然と背筋を伸ばして耳を傾ける。

「そんな中で、俺たち海砂利水魚は……黒のユニットにいた」

二人に衝撃が走った。
今の、中年に差し掛ったくりぃむしちゅ〜の二人は、考えなしにそんな決断をするようには見えない。
ひどく乾いた声が鍛冶の喉から出る。
「……どうして」
「ガキだった。石のことも、お笑いのことも。ほとんど知ったような気になってた。
 自分たちが一番望んでいた感情にフタをして、一度は全部なくした」
ウェイトレスがコーヒーを運んでくる。
コーヒーだけで粘る迷惑な客にじろりと睨みをきかせて、ヒールの音を高く響かせ去っていった。
上田は一口飲んで、カップを静かにソーサーに戻す。勢いで黒にいた過去を告白してしまったが、
その先の苛烈な闘いは話す気になれない。しばらく嫌な沈黙が三人の間に流れた。
やがて、耐え切れなくなった木村が身を乗り出す。
「……上田さん。話しづらいならゆっくりで構いません。
 石について知ってることを、全部教えて下さい」
「おい、木村……」
鍛冶の制止を振り切って、テーブルに両手をつく。
「いままで俺たちは、石について考えないようにしてた。
 …どうせ無駄だと思って。でも上田さんは違う。石についてかなり深い部分まで知ってるはずなんだ。
 お願いします。芸人やめる前に、教えてください。
 俺、石に振り回されて芸人生活に幕を下ろすなんて嫌なんです」
まっすぐな目に射抜かれて、上田は一瞬狼狽する。
が、すぐに普段の冷静な心を取り戻すと、「分かった」と目を伏せた。
「……すげえ長い話になるぞ」
「あと一時間は粘れますよ」
鍛冶がバックヤードで働く店員の表情を見て笑う。
「そうだな、何から話そうか……」
上田は天井を見上げて、また過去の記憶をゆっくりと辿っていった。


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