したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

596さよならリグレット ◆1En86u0G2k:2009/01/14(水) 03:16:05


「…なんだよ」
先手を取られるのだけは我慢ならない。
プライドに突き動かされて発した硬い声への返答は、信じられないことにまたしても繰り返された。
最近売れてきてるじゃないですか、それって石のおかげでしょう?俺にも貸してくださいよ。
この期に及んでまだ言うかこんちくしょう。
一気に沸点まで昇りつめかけた血が、わずかな違和感をストッパーにして踏みとどまる。
まったく同じ台詞。言い回しも抑揚も、多分一生忘れない。たった今言われた言葉は、あの日の声をもう一度再生したのかと思えるぐらい、ぴたりと一致していた。
そんなことがありえるだろうか。違和感と疑問はすぐにざらついた悪寒に変わる。
普通なら答えはノーだ。ならば何か、普通と呼べない何かが起きていると見た方がいい。
「だから、そんなもん持ってねえっつってんだろ」
怒りより警戒の色を濃くして告げる。相手の目はなんだか不透明に濁っていて、まっすぐ言葉が伝わる気がしなかった。
「諦めろよ。お前こないだ逃げたくせに。…それともあれか、今度はほんとにぶん殴ればいいのか?」
未遂に終わった夜をなぞる。相手の顔を睨みつけたまま、道に転がった石を拾い上げる。
男の動きが少し過去のレールから逸れた。薄く笑って指をさす。

「ほら、持ってるじゃないですか」
「―――は?」

視線と人差し指の届く先にあるのは、どう見ても若林が右手につくった拳だった。


まるで促されるように手を開く。その中にあるものがありふれた石と違う姿をしていることに、はじめて気付く。
というか、ほんの一瞬だが淡く光った。ボタン電池の忍び込む余地すらないのにだ。これはいよいよ普通ではない。
(だけど、こういうのって、道に落ちてるもんなのかよ)
空気を読んだのか、それとも全く読めていないのか。とにかく唐突なタイミングのせいで反応が滞った。気付けば男が距離を詰めてきている。
奪うことしか頭にない、躊躇の削れた動作を受け流すのは難しい。揉み合ううちに緩んだ手の中から、石があっけなく滑り落ちた。
「っ、」
石はころころと呑気に、それでいて意外に速いスピードで道の上を転がっていく。
自分を押しのけ、無遠慮に手を伸ばしながら走り出した男にいっそ殺意すら沸いたのは、断じて石に囚われたせいではない。
くだらない迷信に縋ろうとする相手の存在が、心底許せないと思ったからだ。
俺よりまだ全然若いくせに。面白いことだって、必死になりゃたくさん考えられるくせに。
(ふざけんなよ)
耳の奥、巡る神経が張り詰める。裏返った怒りが高揚感にすり替わってゆく。
若林は男の動作からわずかに遅れ、しかしはるかに鋭角なモーションで、アスファルトの地面を蹴った。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板