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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

232 ◆8Y4t9xw7Nw:2005/06/25(土) 00:47:56

今青になっている歩行者用の信号が、点滅し始めた。もう少しでこちら側の信号が青になるだろう。
顔を上げてそれを確認した山里は、ふっと溜息をつき軽く右の拳を握り締めた。
手加減なしで殴り付けたせいだろう、骨は折れていないようだが、拳は赤くなりズキズキと痛んでいる。
だが、今の自分にはその痛みさえどこか遠かった。
冷たさに麻痺した指先で何かに触れた時のように、今は自分自身の感情が酷く曖昧にしか感じられない。
そして――そんな冷え切った心の中で一番はっきりと感じられるのは、ドロドロとした負の感情だ。
怒り、嫉妬、憎しみ――殺意。

――だから、早く。……君を殺してしまう前に。

心の奥底で呟いた本音は余りにも小さく弱く、山里自身も気付かない。
明日には、もう手加減も出来なくなっているだろう。だから明日にはきっと、何かしらの決着が付く。
例え、その結果境界線を踏み越える事になるとしても。
自動車用の信号が黄色から赤に変わるのを目を細めて見ながら、山里はズボンのポケットから出ている携帯電話のストラップに、手を触れた。
元々は白いハウライトを青く染めて作られる、トルコ石を模した石。
余りに鮮やかすぎる、偽りの青。
街の明かりを反射して微かに輝くそれを、指でいらう。――祈るように。あるいは、何かを探すように。
そして、山里は微かに唇の端を上げた。微かだけれど、作り笑いではない自然な笑み。

大丈夫。大丈夫。
まだ笑える。――まだ、嗤える。

口元に浮かんでいた笑みが、無意識のうちに嘲るように歪んでいく。
信号が、青に変わった。止まっていた人の流れが、再び動き出す。
再び心の闇に呑まれていく彼の姿が、雑踏に紛れて消えていった。



雪が降る。音もなく、深々と降り積もる。
全てを掻き消すように、全てを凍て付かせるように。
誰かの心に――雪が、降る。


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