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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

220 ◆1En86u0G2k:2005/06/08(水) 15:52:23
「柳原は無茶しよるからなあ」
そう言って笑う声の方を向いた時、一瞬だけここにやってきた時のような表情が浮かんだのを見た。
「俺はよう知らんけどさ、今どんどん話がでっかくなっとるやろ。
やから自分の一番最初の目的とか目標とか、ちゃんと忘れんようにしといた方がええと思うねん」
普段は自分の内面や考えをめったに吐露しないはずのその人の言葉に、平井は珍しいこともあるもんやなあと思いながら黙って耳を傾けていた。
「…少なくとも俺はあいつを守りたいし、守らなあかんと思っとるし、それだけ考えるようにしてる」
ああ、と平井は頷いてその男を思い浮かべた。
年令はそう違わないが芸暦でいえば結構な先輩であり、それでいて生来の純粋さや素直さが最強のネタにもなっている彼。
そんな男を守っていくにはきっと苦労も多いのだろうと思い、小さく笑った。
笑い事ちゃうで、と顔をしかめられたが、あの人を全力で守れるのもきっと彼だけだろうと思った。
「人操れても物壊せても、結局みんなお笑い芸人やのにな」
彼がぽつりと呟いた言葉の裏には様々な感情が渦を巻いている気がしたが、その源はあえて聞かなかった。
どんな状況に陥っても漫画みたいな展開に巻き込まれても、本来の仕事の時だけは皆今までのように人を笑わせようとしているのがある種救いだった。
平井にしても彼にしても、そして白も黒も。
でもそれならなぜ争わなければならないのだろう?考えてみてもわからないので平井はまた外を眺めた。
今は目の前のものを見ているだけで精一杯だ。

降りてきた沈黙を破ったのは自分のものではない携帯が鳴らす無闇にあかるい電子音だった。
「もしもし…ああ、うん、わかった。え?そうなん?…ん、はい。今戻る」
「仕事ですか」
「うん、長引きそうやって話でなー、キツいねん」
うーん、と背伸びをした途端に見事にコキっと背中かどこかが鳴る音がしておかしかった。
お疲れ様ですーと間延びした挨拶で彼を見送る。自分もそろそろ相方のところへ行く時間だ。
まだ雨は降り出していないだろうか。確認するためにもう一度窓を見た平井の背中に声が投げられる。
「迷惑かけたらすまんな」
「…え、」
振り向いた時はもう黒髪も曖昧な表情もそこになく、代わりにドアがパタンと閉まる音。
髪の毛をがしがしと左手でかき混ぜて平井は苦笑した。
そういえば結局あの人思わせぶりに登場しといて大事な部分はなんも話さなかったなあ。
でもわかるけど。なんとなく。
数年の同居生活は伊達ではない。変わらない表情の下にあったものの推測はおそらく間違っていない。

ついに窓ガラスにぽつぽつ水滴が落ちはじめ、ますます暗くなった空を横目に平井はキャップを深く被る。
彼が簡単に乗るとは思えないが、きっとそうも言っていられない状況にあるのだろう。
どんどん複雑に面倒になっていく展開にため息をひとつこぼし、ドアを開ける。

「有野さんとやるんはしんどいなあ…」

周りには誰もいなかったからそのぼやきはすぐに消えてしまった。


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