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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

214 ◆8Y4t9xw7Nw:2005/06/04(土) 02:50:25
普段より抑揚に乏しい山里の言葉にそう返しつつも、山崎にそれ程余裕があったわけではない。
咄嗟に拳を受け止めた左手は、衝撃に痺れている。
一般的な男女の力差を考えればそれ程不思議な事でもないのだが――誰かを殴る、という行為から余りに縁遠い相方を
見てきたせいだろうか、その拳は予想外に重く感じる。
「……何がおかしい?」
不意に笑みを深め俯いた相方に眉を顰め、山崎は思わず低い声で問い掛ける。
「いや……しずちゃんに殴られたり突き飛ばされたりした事なら山程あるけど、殴る側に回った事ってなかったよなぁと思って」
返ってきたのは、気が抜けるような台詞。だが、その目は相変わらず氷のように冷たく、山崎は喉に突っ掛かる言葉を無理矢理搾り出した。
「……気持ち悪い事、言わんといてくれる? ただでさえキモいんやから」
「ひっど、そっちから訊いたんじゃん」
緊張感のない会話に聞こえるが、その場に流れる空気は、気弱な人間なら泣いて逃げ出したくなるほどピンと張り詰めていた。
じわり、と背中に冷や汗が滲む。
「大体、グーで殴るのは卑怯やろ……『女の子はシャボン玉』、なんやで?」
「……シャボン玉浮いてんの見てるとさ、割りたくなんない?」
ネタ中の台詞を使って揶揄するような言葉を投げ掛けた山崎に、山里は目の笑わない笑みを向けたまま答える。
そして、次の瞬間――数メートル先でリノリウム張りの床を蹴る微かな音が聞こえたのと、
直ぐ目の前で振り被られた拳を認識したのが、ほぼ同時だった。
(っ!?)
尋常なスピードの踏み込みではない。何かの力によって、人の枷を緩めた者にしか出せないような速さだ。
普段の反応速度では防ぐ事が出来ないと無意識的に察知し、ほんの僅かに残った石の力を、理性が吹き飛ぶ境界線ギリギリまで解放する。
そして、眼前に迫るその拳を防ごうと右手を上げた、その瞬間。
視界に映った【それ】を認識して、山崎の目が驚愕に見開かれた。
間近に見える、様々な感情がない交ぜになって混沌としたその瞳の――左目と違い黒目の輪郭がぼんやり滲んだように見える、その右目。

――不吉な黒い影に光彩を覆われた、闇色の瞳。

その右目に視線を奪われたのは、動きが止まったのは、コンマ一秒にも満たないほんの一瞬。
だが、その一瞬が決定的な隙となった。

そのあとの事を、山崎はよく覚えていない。
ただ――こめかみに、重い衝撃。


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