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念を使わせてみよう小説スレッド

1551:2004/12/08(水) 23:44

 ものの20分足らずで、あっという間に荷物は全て僕の部屋に片付けられた。
 部屋が六畳一間なのであまり多くの荷物は入らなかったのと、
 必要最低限の物を残して実家にあった家具は全て処分してしまったので、
 運んで来た荷物はごく僅かだったのだ。
 まあ、狐さんがダンボールとかを5段重ねでひょいひょい運んだのが、
 早く引越しを完了出来た最大の理由だろうけど。
「これで最後、っと」
 狐さんが丸めておいた布団をどさりと床に置いた。
 僕の記憶に障害が無ければ、これで全ての荷物は新しい部屋に運び込まれた事になる。
「どうもありがとうございました。
 ちょっと待ってて下さい、お茶でも入れますから」
「おう、悪いな」
 運んで来た布団を座布団代わりにして、狐さんが腰を下ろす。
 いやあんた、人の布団に勝手に座るなよ。
「えーっと…」
 ダンボールの封を開けて、やかんと急須、それからお茶葉と湯飲みを取り出す。
 洗面台兼流し台の蛇口を捻ってやかんに水を入れ、ガスコンロで火にかけた。
 ガスコンロは手入れが行き届いていないのか、ところどころ錆びていた。
 というかボロいのはガスコンロだけではない。
 床の畳には、所々煙草の灰が落ちて焼けた跡やほつれがあるし、
 壁には大小の罅やポスターを貼り付けていたであろうシールの残骸で満載だ。
 天井など、猫でも上を通ったら板に穴が開くんじゃないかってくらい老朽化している。
 不動産屋さんに初めてここに連れられて来た時は、我が目を疑ったものだ。
 それでも、都心に近いという立地条件を考慮に入れなくても破格過ぎる家賃の魅力には勝てず、
 僕はこのオンボロアパートに住むのを決めたのだった。
「粗茶ですが」
 急須で湯飲みに茶を注ぎ、狐さんに差し出した。
「茶菓子もねえのかよ。
 例えば金つばとか葛餅」
「うるせえ」
 今、久々に『うるせえ』と言った気がする。
「仮面タカダーのケチー」
「もはや仇名ですらないじゃねえかよ」
 仮面ノリダーよりも強引だぞ、それ。

「…あの」
「うん?」
 茶を啜りながら、狐さんが聞き返した。
「フーンさんは…」
「あー…
 あいつも今日来るように誘いはしたんだけどな、やっぱり来れないってよ。
 …やっぱ、お前とは顔を合わせ辛いんだろうよ」
「そんな!
 アヒャさんが僕の家族を殺したのは、フーンさんには関係なんて…」
 寧ろ関係があるのは、僕の方だというのに。
「そんな簡単に割り切れるもんでもないだろ。
 大人ってーのは、まあ、色々と複雑なんだよ、少年」
 それは詭弁だ。
 子供だからとか、大人だからとか、そういう問題じゃあないだろう。
「…そう悲観すんなって。
 生きてりゃあ、そのうちまた逢う事だってあるさ。
 それまでの一先ずのお別れとでも考えとけ」
 出会いがあるから別れがある。
 別れがあるから出会いがある。
 そういう事なのだろうけど、それでも僕は胸に何かがつかえたかのようにすっきりしなかった。


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