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念を使わせてみよう小説スレッド

1501:2004/12/08(水) 02:40

「…くくッ、やってくれましたねえ」
 苦笑しつつ、『冥界の支配者』が口から塊のような血の泡を吐く。
 今ので、肺が破裂するか折れた骨が突き刺さるかしたらしい。
 もう戦う事はおろか、十分も生きている事すら出来まい。
「…どうしてですか」
 僕は虫の息の『冥界の支配者』に訊ねた。
「今のは、あなたなら避けれた筈だ。
 なのに、どうしてわざと攻撃を受けたんですか」
 思えば、こいつの行動はさっきから異様だった。
 念能力者の戦いは、ちょっとしたきっかけで優勢劣勢が逆転する。
 なのに、こいつは僕に止めを刺す事なくいたぶり続けた。
 加虐趣味のただの馬鹿かとも思ったが、それは違う。
 あんなに用心深く、狡知に長けた『冥界の支配者』が、そんなミスを犯す筈がない。
 何せ、もたもたしていたらあの狐さんがここに来るかもしれないのだ。
 そうなれば最早万に一つの勝機も無い事なんて、火を見るより明らかなのだ。
「くくッ…」
 『冥界の支配者』がほくそ笑む。
「どうするも何も、こうなるのがそもそもの狙いだったとすれば、どうします?」
「何…?」
「あなたは私を殺す為に、何匹もの罪の無い犬を殺した。
 言ってみれば、私と同類になったのです。
 自分の目的の為に、他の命を奪う。
 あなたはただ人間を殺さなかったというだけで、やった事は私と同じだ」
 ……。
 その通りだ。
 僕は、何の関係も無いあの犬達を巻き込んで、殺した。
 人間を殺さなかったのは、正義感なんかじゃない。
 人を殺すと面倒な事になるかもしれないという保身の為だ。
 野良犬なら、自分の為に殺したって構わない。
 僕は、心の奥底でそう考えてしまったのだ。
「そして、私ももうじき死ぬ。
 これで、あなたもめでたく人殺しの仲間入りだ。
 くくくッ。
 どうですか、人殺しになる感想は?
 よかったですねえ。
 これで、あなたの愛しの外法狐と同類ですよ」
 僕は何も言わなかった。
 何も、言えなかった。
「…あなたが私を殺す事すら、私の計画通りだったのですよ。
 あなたは最初から最後まで、私の手の平の上で操られていたに過ぎない。
 そろそろ、生きるのにも飽いていた所だ。
 ここで死ぬのも、丁度良い…」
 ふざけるな。
 さんざん人を殺しておいて、飽きたからもうどうでもいいや、だと?
 そんな事で、お前は人を殺したのか。
 しぇりーちゃんを、モナカさんを、僕の家族を、殺したのか。
「満足だ。
 とても満足だ。
 死ぬ前に、ここまでの悦楽を得る事が出来たのですからね。
 私こそが勝者。
 私こそが達成者だ。
 君はせいぜい、私に負け、全てを失ったという事実を背負いながら、
 ひっそりと生きていくがいい。
 くッ、くッく、あーっはっははははははははははは―――」
「……!」
 僕は『冥界の支配者』の頭を叩き潰し、奴の高笑いを止めた。
 これ以上、一秒たりとも奴の声を聞いていたくなかった。
 奴のいう事は、全部本当だったから。
 僕にはもう、何も残っていない事は、本当だったから。
「あーあ、殺しちゃったなあ…」
 殺した。
 『冥界の支配者』を。
 人間を。
 自分の手で、殺してしまった。
 誰も戻って来やしなかった。
 僕の家族は戻って来やしなかった。
 モナカさんも戻って来やしなかった。
 しぇりーちゃんも戻って来やしなかった。
 誰も、誰ももう戻っては来なかった。
 ただ、僕一人だけが、そこには取り残されていた。


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