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念を使わせてみよう小説スレッド
136
:
1
:2004/12/05(日) 02:08
そこからは、僕の目では追いつけなかった。
一瞬にして狐さんが僕の視界から消え、気づいた時にはモナカさんの胸に深々と腕を突き刺した。
心臓を貫かれたモナカさんの体は二・三度大きく痙攣すると、
程無くしてぐったりとしたまま動かなくなった。
「…!!」
僕は狐さんに駆け寄り、その胸倉を掴んだ。
「…!
どうして!!」
僕は叫んだ。
あらん限りの声で叫んだ。
どうして、あなたが殺した。
どうして、僕に殺させてくれなかったのだ。
これは、本来僕がするべき、僕が被るべき事だったのに…!
「…君は、殺しちゃ駄目だ」
呟くように、狐さんは告げた。
「殺さなければ、何でもいいと言うんですか!?
殺さない事が、正しい事なんですか!?
そうじゃないでしょう!
殺すというのは、そんな簡単な事じゃあないでしょう!
モナカさんは、僕の所為でこうなってしまったんです!
だから、だから僕は―――!」
モナカさんは、これで二度死んだ。
一度目は僕の所為で。
二度目も僕の所為で。
それなのに、僕は自分で手を下す事さえしなかった。
どこまでも安全圏の中に居ながら、彼女を殺してしまったのだ。
「そうだ。 君はそれが分かっている。
だから、余計に殺しちゃならない。
君はこっち側に来ちゃならない。
殺せば、いつかその事実に耐えられなくなる日が、きっと来る」
耐えられなくなる日がくるのが、どうした。
どうせ僕は偽物でしかないんだ。
いつか破綻する事の決定していた人生なんだ。
罪に耐えられなくなるならそれでいい。
罪から目を背け、逃げ続けるよりは、ずっとマシじゃないか。
「…僕は、まだ謝ってないんです」
「そうか」
「僕は、モナカさんに謝ってないんです」
「…そうか」
「もう、僕はモナカさんには、謝れないんです…!」
僕はもう、許しを請う事すら出来やしなかった。
死んだ人間に謝るなど、神様ですらそこに意味を付随出来ない。
僕は永久に、モナカさんに謝る機会を失してしまったのだ。
「…謝れないのは、辛いな」
狐さんは言った。
「…はい」
僕は答えた。
「苦しいな」
「…はい」
二度と、僕はモナカさんには謝れない。
その事実が、僕を責め苛んでいた。
「ならそれが、お前の背負う罪であり、罰だ。
お前はその痛みをいつまでも忘れず生き続けろ。
後悔に妥協するな。
懺悔に溺れるな。
死に逃げるな。
自分を否定する自分を肯定しろ。
その矛盾の苦しみを心に刻め。
それだけで、十分だ。
それだけの罪と罰を受ければ、それで十分だ。
敢えて、殺すという罪まで背負う必要なんて、無い」
狐さんは、僕の顔を見据えてそう言ってくれた。
…それでも、僕の心は軽くはならない。
軽く感じては、いけない。
この地獄にまで引きずりこまれそうな重さだけは、きっと、忘れてはいけない事だ。
忘却は罪悪だ。
逃避は最悪だ。
『死に逃げるな』。
狐さんはそう言うが、死を以って償う時は、必ず訪れるのだろう。
もし僕がモナカさんの家族なら、きっと僕は僕を殺す。
だから、多分僕にはもう生きる価値なんて残されてやしないのだろう。
だから僕がこれから生きるのは、僕の為ではない。
僕を殺そうとする人に殺される為に、これから僕は生きるのだ。
それが、僕の十字架だ。
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