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念を使わせてみよう小説スレッド

1361:2004/12/05(日) 02:08

 そこからは、僕の目では追いつけなかった。
 一瞬にして狐さんが僕の視界から消え、気づいた時にはモナカさんの胸に深々と腕を突き刺した。
 心臓を貫かれたモナカさんの体は二・三度大きく痙攣すると、
 程無くしてぐったりとしたまま動かなくなった。
「…!!」
 僕は狐さんに駆け寄り、その胸倉を掴んだ。
「…!
 どうして!!」
 僕は叫んだ。
 あらん限りの声で叫んだ。
 どうして、あなたが殺した。
 どうして、僕に殺させてくれなかったのだ。
 これは、本来僕がするべき、僕が被るべき事だったのに…!
「…君は、殺しちゃ駄目だ」
 呟くように、狐さんは告げた。
「殺さなければ、何でもいいと言うんですか!?
 殺さない事が、正しい事なんですか!?
 そうじゃないでしょう!
 殺すというのは、そんな簡単な事じゃあないでしょう!
 モナカさんは、僕の所為でこうなってしまったんです!
 だから、だから僕は―――!」
 モナカさんは、これで二度死んだ。
 一度目は僕の所為で。
 二度目も僕の所為で。
 それなのに、僕は自分で手を下す事さえしなかった。
 どこまでも安全圏の中に居ながら、彼女を殺してしまったのだ。
「そうだ。 君はそれが分かっている。
 だから、余計に殺しちゃならない。
 君はこっち側に来ちゃならない。
 殺せば、いつかその事実に耐えられなくなる日が、きっと来る」
 耐えられなくなる日がくるのが、どうした。
 どうせ僕は偽物でしかないんだ。
 いつか破綻する事の決定していた人生なんだ。
 罪に耐えられなくなるならそれでいい。
 罪から目を背け、逃げ続けるよりは、ずっとマシじゃないか。
「…僕は、まだ謝ってないんです」
「そうか」
「僕は、モナカさんに謝ってないんです」
「…そうか」
「もう、僕はモナカさんには、謝れないんです…!」
 僕はもう、許しを請う事すら出来やしなかった。
 死んだ人間に謝るなど、神様ですらそこに意味を付随出来ない。
 僕は永久に、モナカさんに謝る機会を失してしまったのだ。
「…謝れないのは、辛いな」
 狐さんは言った。
「…はい」
 僕は答えた。
「苦しいな」
「…はい」
 二度と、僕はモナカさんには謝れない。
 その事実が、僕を責め苛んでいた。
「ならそれが、お前の背負う罪であり、罰だ。
 お前はその痛みをいつまでも忘れず生き続けろ。
 後悔に妥協するな。
 懺悔に溺れるな。
 死に逃げるな。
 自分を否定する自分を肯定しろ。
 その矛盾の苦しみを心に刻め。
 それだけで、十分だ。
 それだけの罪と罰を受ければ、それで十分だ。
 敢えて、殺すという罪まで背負う必要なんて、無い」
 狐さんは、僕の顔を見据えてそう言ってくれた。
 …それでも、僕の心は軽くはならない。
 軽く感じては、いけない。
 この地獄にまで引きずりこまれそうな重さだけは、きっと、忘れてはいけない事だ。
 忘却は罪悪だ。
 逃避は最悪だ。
 『死に逃げるな』。
 狐さんはそう言うが、死を以って償う時は、必ず訪れるのだろう。
 もし僕がモナカさんの家族なら、きっと僕は僕を殺す。
 だから、多分僕にはもう生きる価値なんて残されてやしないのだろう。
 だから僕がこれから生きるのは、僕の為ではない。
 僕を殺そうとする人に殺される為に、これから僕は生きるのだ。
 それが、僕の十字架だ。


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