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企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議2

1 ◆VnfocaQoW2:2010/04/04(日) 00:20:17

雑談、キャラクターの情報交換、
今後の展開などについての総合検討を主目的とします。
今後、物語の筋に関係のない質問等はこちらでお願いします。

278話以降、3ルートに分岐することとなりました。
ルートAは従来通りのリレー形式に、
ルートB、Cは其々の書き手個人による独自ルートになります。

規約はこちら
>>2

501告(13/15) ◆VnfocaQoW2:2011/02/12(土) 21:58:54
 
「ほう…… 意外と達筆なのだな」
「えへへ〜♪ これでもカモちゃんさんはモノノフの端くれだも〜ん♪」

ザドゥと芹沢との間に連帯感があることは、智機も以前から判っていた。
しかし、今やそれだけではない。

《実は儂も筆使いは上手なんですよ? 女体に対しては》
「駄剣は無駄にエロい」
 
その輪の中に、魔剣・カオスと御陵透子までが含まれているのである。
無生物の分際で。
智機と同じ外装の癖に。
人間の輪に入って、笑顔で軽口を叩き合っているのである。
 
それは、団欒であった。
それは、和気であった。
 
一人、離れた位置から眺める智機には、眩しすぎる光景であった。
妬ましすぎて切なすぎる光景であった。

「血判いっちゃう?」
「ふん、好きにしろ」
「困った、血が無い」
《トーコちんはオイルでええじゃろ》

演算回路を回すまでもない。
情動発生器の履歴を辿るまでもない。

(遠い…… 彼らと自分とは、かくも遠い)

502告(14/15) ◆VnfocaQoW2:2011/02/12(土) 21:59:41
 
智機がこれまでに幾度と無く感じてきた隔絶感。
それがこれまでより切実に智機の胸を締め付ける。
それでも。仮定として。不可能ではあれど。
智機はこの孤独を解消する解を持っていた。

『私も命を賭して戦う』

その決意表明をするだけで、その輪に入ることができるであろう。
これまでの軋轢やしがらみなど踏み越えて、
ザドゥや芹沢には感情的に受け入れられることであろう。
 
既に何度も。
そのようにしたいと、キューへの登録リクエストをかけていた。
リクエストは直ちに条件関数に投じられており、
Falseの値を返し、却下され削除されていた。
 
【自己保存】―――
 
機械の本能とでも言うべきそれが、参戦の意思を認めぬのだ。

智機は人を蔑む。
時に強すぎる感情に思考を支配され、期待値を下回る行動をとる存在故に。
智機は人を羨む。
時に強すぎる意志で本能を凌駕して、期待値を上回る行動をとる存在故に。

内部処理キューの履歴を辿れば。
彼女が何度、感情的な発言や行動を取ろうとしたか判るだろう。
何度論理演算回路に否決されたか判るだろう。

(わたしなんか…… 見向きもされない)

503告(15/15)(情報 1/2) ◆VnfocaQoW2:2011/02/12(土) 22:00:04
 
眩しくて愚かしい矛盾する存在を見つめ、
憧れの想いを侮蔑の意思で覆い隠し、
高まる情動波形をトランキライザで相殺して。

智機は、智機であるを望まぬまま保ち続ける。


            ↓



(ルートC)

【現在位置:J−5地点 地下シェルター】


【刺客:椎名智機】
【所持品:スタンナックル、改造セグウェイ、グロック17(残17)×2、Dパーツ】
【スタンス:①【自己保存】
      ②【自己保存】の危機を脱するまで、透子には逆らわない
      ③【自己保存】を確保した上での願望成就可能性を探る】

504告(情報 1/2) ◆VnfocaQoW2:2011/02/12(土) 22:00:26
 
【グループ:ザドゥ・芹沢・透子】
【スタンス:待機潜伏、回復専念
      ①プレイヤーとの果たし合いに臨む】

【主催者:ザドゥ】
【スタンス:ステルス対黒幕
      ①プレイヤーを叩き伏せ、優勝者をでっちあげる
      ②芹沢の願いを叶えさせる
      ③願望の授与式にてルドラサウムを殴る】
【所持品:なし】
【能力:我流の格闘術と気を操る】
【備考:体力消耗(大)、全身火傷(中)】

【刺客:カモミール・芹沢】
【スタンス:①ザドゥに従う(ステルス対黒幕とは知らない)】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力↑、ただし発動中は重量↑体力↓)
     魔剣カオス(←透子)】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)】
【備考:体力消耗(大)、腹部損傷、左足首骨折、全身火傷(中)】

【刺客:御陵透子(N−21)】
【スタンス: 願望成就の為、ルドラサウムを楽しませる】
【所持品:契約のロケット(破損)、スタンナックル、改造セグウェイ、
     グロック17(残17)】
【能力:記録/記憶を読む、『世界の読み替え』(現状:自身の転移のみ)】

 ※ザドゥと芹沢は素敵医師のまっとうな薬品、及び、ザドゥの気による治療継続中

505 ◆VnfocaQoW2:2011/02/12(土) 22:01:26
以上です。
続けて1レス、「果たし状」を仮投下致します。

506果たし状(1/1) ◆VnfocaQoW2:2011/02/12(土) 22:02:05
 
果たし状




    明晩、月光冴える折


    始まりの場所にて待つ




              ザドゥ
              カモミール芹沢
              御陵透子



         ↓

507284 ◆ZXoe83g/Kw:2011/02/13(日) 18:54:28
予定通り、午後7時からスレ立てと作品投下を行います。
まとめUPは翌日にします。

508284 ◆ZXoe83g/Kw:2011/02/13(日) 19:10:14
すいません。
ブラウザの調子が悪いのかスレが立てられません。
確認も兼ねて7:30くらいになったらまたチャレンジしてみます。

509284 ◆ZXoe83g/Kw:2011/02/13(日) 19:35:35
すみません規制で立てられませんでした。
解除されるか同化するまで推敲や執筆をしてます。
明日の晩にまたレスします。

510名無しさん@初回限定:2011/02/13(日) 19:40:00
とりあえず自分がスレ建てに挑戦してみます
>>480-484の内容でいいんですよね?

511284 ◆ZXoe83g/Kw:2011/02/13(日) 19:45:01
-告-
ザドゥが相変わらず格好良くていいです^^
カモちゃんも活き活きとしていて、東の森で果てなくて
ホントによかったと思いました。
透子もいい感じ、ともきんは気の毒。
鯨は智機の元の環境を考慮した上で、ザドゥの下で働かせてるんだろうなあ……。
「絶望と希望」で触れられてたように彼らも参加者なんだなと実感。

-果たし状-
シンプルかつストレートでインパクト大でした。
まとめで収録する時が非常に楽しみです。

512284 ◆ZXoe83g/Kw:2011/02/13(日) 19:45:32
>>510
はい。
助かります。

513284 ◆ZXoe83g/Kw:2011/02/13(日) 20:06:18
スレ立てとテンプレコピペありがとうございました。
これから「It tries」の本投下を始めます。

514名無しさん@初回限定:2011/02/13(日) 20:06:32
スレ建て完了
みなさん頑張ってください

515284 ◆ZXoe83g/Kw:2011/02/13(日) 20:35:21
投下完了です。
スレ立てとご支援、重ね重ねありがとうございました。
また明日!

516284 ◆ZXoe83g/Kw:2011/02/14(月) 19:00:16
この度、最新299話までのまとめをUPしました。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1346968.zip.html

パスは negibato です。
299話修正済みです。

それと>>279にもあるように、まとめサイトの更新が290話のまま止まっています。
なので、三日後の17日午後九時までにまとめ管理人さんからご連絡、
もしくは更新が確認されなければ何らかの案を出したいと思います。

次は遅くても三日後にはここで連絡する予定です。

517 ◆VnfocaQoW2:2011/02/16(水) 18:37:06
早い時間に帰宅できましたので、これより
「ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜」の本投下を行います。

本編は37レスと、葱ロワとしては長編となるSSであり、
投下に相当時間がかかると見込まれます。
この書き込みに気付かれた方がおられましたら、
お手すきの範囲内での支援投稿のご協力をお願い致します。

また、0時を過ぎても投下が終了しない場合、
 1.残りレスが多い=切り上げ、続きは翌日晩に投下
 2.残りレスが少ない=このスレに代理投下依頼
とさせていただきたく存じます。

518 ◆VnfocaQoW2:2011/02/16(水) 21:11:00
まさか21時で投下完了するとは露とも思いませんでした。
長時間に渡る支援投下、誠にありがとうございました。

次話「ちかぼーツイスター!」は、2/20(日)、19時より行う予定です。
こちらも30レス超と長めのSSですので、
お時間とご都合の合う方がいらっしゃいましたら、
ご支援の程、よろしくお願いいたします。



>>ZXoe83g/Kws氏、>>510氏。

遅ればせながら、新スレ立て、ありがとうございました。

519名無しさん@初回限定:2011/02/16(水) 21:59:19
本スレ見て透子追悼に来たんだが…
随分仮投下のストックがあるんだな
まさかの透子復活にはグッと来たぜ!

あと、ザドゥの漢っぷりに惚れた

520名無しさん@初回限定:2011/02/17(木) 20:16:55
それにしても◆VnfocaQoW2氏は智機イジメが好きだな
歪んだ愛情をひしひしと感じるw

521284 ◆ZXoe83g/Kw:2011/02/17(木) 21:08:36
最新300話までのまとめをUPしました。
パスはrowaです。

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1354564.zip.html

仮投下分の作品を読んでる方には突っ込みどころはありますが
まあ仕様っていうことで。

それと現在のまとめが290話の時点で更新が停止していますので
こちらで仮仮まとめサイトを立ち上げようかと考え中です。
WIKIの使用も案の一つに入っております。
特に異論がなければ来週の日曜の深夜のまとめUP持から実行に移す予定です。
その場合、サイトの仕様は停止中の今のサイトとそう変わらないものになると思います。

522284 ◆ZXoe83g/Kw:2011/02/18(金) 20:38:39
昨日のは修正し忘れた所があったので改めてUPします。
パスは>>521と同じです。

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1355956.zip.html

日曜までに管理人さんから更新または返事があればいいのですが……。

523 ◆VnfocaQoW2:2011/02/20(日) 18:58:28
これより予定通り、「ちかぼーツイスター!」の本スレ投下を行います。
お手すきの方がいらっしゃいましたら、支援のご協力をお願い致します。

524 ◆VnfocaQoW2:2011/02/20(日) 20:24:46
 
本投下、完了致しました。
長時間のご支援、ありがとうございました。

さて、今後の本投下の予定ですが。
未だ多くの仮投下分のストックがありますので、
底を突くまで、毎週日曜、19時から、2作品ずつ、
本投下を続けたく思っております。
また、私事にて本投下不能な日が生じましたら、
事前にその旨を避難所に告知致します。

525 ◆VnfocaQoW2:2011/02/20(日) 23:28:26
以下17レス、「諾」を仮投下致します。

次回予定は「本当は優しい俺様」。
ランスと知佳が登場予定です。

526諾(1/12) ◆VnfocaQoW2:2011/02/20(日) 23:31:48
 
(ルートC:3日目 AM12:00 D−6 西の森外れ・小屋3)


気付いた時には、そこにあった。


嘘偽りも誇張もなく、本当に、誰もが気付かぬ間に。
玄関の扉に画鋲で以って、無造作に掲示されていた。
果たし状、である。
シンプル極まる文面で、墨汁によって記されたそれは、
ザドゥ、カモミール芹沢、御陵透子の連名と血判が為されていた。

「言っとくが俺様はちゃんと見張ってたからな」

紗霧のケツバットを恐れてか、ランスが主張する。
野武彦とまひるが薬品調達に出発してから今に至るまで、
彼は小屋の外で、周囲の警戒にあたっていた。
玄関周辺で。
時に暇すぎてあくびをしたり、ユリーシャの尻を撫でたりもしたが、
彼には研ぎ澄まされた野性の嗅覚がある。
接近する人間を見過ごす程、耄碌はしておらぬ。

「て、ゆーことは、ですよ?」

まひるが何かに心当たったのか、言葉を紡いだ。
彼のみでは無かった。
誰もが、この怪異を為すことのできる人物を思い浮かべていた。
その名を、書面に認めていた。
御陵透子。
音も無く忍び寄り、明確な気配を感じさせず、
告げたいことだけを告げ質問を受け付けぬ女。

527諾(2/12) ◆VnfocaQoW2:2011/02/20(日) 23:32:59
 
しかし、今の彼女から、神秘の仮面は引き剥がされている。
為せる超常がテレポートだけだと、ネタが割れている。
レプリカ智機から奪ったUSBメモリ。
そこに、主催者の近況がメモ書きで記されていたのである。

   ―――ザドゥとカモミール芹沢、重度の火傷。
   ―――御陵透子、能力制限でテレポートしか使えず。
   ―――オリジナル椎名智機は、臆病者。
   ―――四人全員が、灯台地下のシェルターにいる。
   ―――レプリカ智機、残り六機(野武彦とまひるが壊したので、全滅)。

これまで、虚実入り混ざった情報戦を繰り広げてきた相手である。
紗霧は、記されている内容を鵜呑みにはしなかったが、
実際にこのデータを奪ってきた野武彦にとっては、そうでもないらしい。
顎に蓄えている髭を撫でて、思慮深げに呟いた。

「素敵医師と椎名智機の名が無いということは、
 あの情報は信用に足るんではないのかのぅ?」
「可能性は高まりましたね。鵜呑みにはできませんが」

紗霧は野武彦に一定の理解を示しつつも、一方で短慮を諌めた。
実に虚を混ぜ込むことこそ、騙しの極意。
九割の実に一割の虚。
その、密やかに差し込まれた虚を見破ることが肝要と紗霧は考えている。

それは、深読みである。
なぜならば。紗霧は知らぬことなれど。
レプリカ達は、プレイヤー側のサポーターであった故に。
主催者を鏖殺させてのゲーム終了を目論んでいた故に。
記された情報は、100%の真実である。

528諾(3/12) ◆VnfocaQoW2:2011/02/20(日) 23:36:39
 
強いて情報の虚を上げるのならば。
透子の能力から【N−21の体に疑問を持たせない】ことが漏れているが、
それはレプリカにとって与り知らぬことであり。
また、紗霧ら小屋組にとっても些事である。
情報の価値を何ら損ずるところは無い。

「まあ、データが本当かどうかは置いといてさ。
 この三人をやっつければ、ゲームって終わるのかな?」

この果し合いにおける最も重要な点をまひるが指摘した。
紗霧と野武彦が頷き合い、資料の真贋問題を棚に上げる。
その直後であった。


―――かしゃん。


背後から。食卓から。
突如、聞きなれぬ音がしたのである。

「あれ? あんな戦利品、あったか?」
「いいや、わしは知らん。紗霧殿が出したのでなければ……」

音とは、トレイに差し込んであった用紙がプリンタに供給された音であった。
インクジェット式の、家庭用プリンタであった。
既に電源が入っており、ウォームアップも終わっていた。
先ほどまで紗霧らが覗き込んでいたノートPCに繋いであった。
つい数秒前まで、この小屋には存在しなかったプリンタであった。

「御陵透子というのは、案外おちゃめなんですかね?」

529諾(4/12) ◆VnfocaQoW2:2011/02/20(日) 23:38:23
 
じゃわじゃわと、A4のコピー用紙はプリンタに飲み込まれてゆく。
しゅんしゅんと、紙面にインクが吹き付けられていく。
印刷されたのは、今、皆が口々に発していた疑問への回答であった。


『−回答−』

『貴方達が智機の分機から奪った情報は、信用してもいい。
 素敵医師は、死んだ。ケイブリスは、貴方達に殺された。
 だから残存主催者は、私たち三名に椎名智機の、計四人』

『この果たし合いは主催者と参加者との最終決戦などではない。
 ゲームの運営とは関係ない。
 警告を無視して団結し、本拠地に侵入し、あまつさえケイブリスすら倒して
 私たちの管理をしっちゃかめっちゃかにした貴方達が気に入らない。
 そう感じた私たち三人が、貴方達に対して叩きつけた私的な書状に過ぎない。
 貴方達以外の参加者には届けていない。
 参加者の一グループ、対、主催者の有志という構図』

『その有志に、椎名智機は入らなかった。
 貴方達を叩きのめす自信が無く、戦うのが怖いと引きこもった。
 だから、貴方達も全員揃わなくてもいい。
 有無を言わさずにこんなゲームに引っ張り込んだ私たちが許せない人、
 主催の全滅でのゲームクリアへの近道だと考える人、
 単に戦いたい人だけが、果し合いに参加すればいい。
 誰が来てもいい。
 何人来てもいい。
 来た全員を私たち三人で相手する。
 これは、そういう戦い』

530諾(5/12) ◆VnfocaQoW2:2011/02/20(日) 23:40:11
 
『だから、万一、貴方達が完全勝利したとしても、
 残る椎名智機を破壊しなくては、殺人ゲーム自体はクリアにならない』


印刷されたものは回答のみでは無かった。
無駄を極限まで削ぎ落とした果たし状に対する補足説明も、
そこには追記されていた。


『−補足−』

『果し合いを受ける気概があるならば、以下四条を遵守してもらう』

『ルール1――― ルール適用の期間は、果し合いの終了時点までとする』
『ルール2――― 上記ルールは、果し合いに参加しないメンバーにも適用される』
『ルール3――― 期間中、互いに敵対的行動を取らないこととする』
『ルール4――― 現場への仕込みは不可とする』


まずは紗霧が。
次いでランスと野武彦とまひるが競い合うように。
最後にユリーシャが印刷物に目を通した。
通し終えた。

その、頃合を見計らって。
御陵透子は、姿を現した。


「受ける?」
「つっぱねる?」
.

531諾(6/12) ◆VnfocaQoW2:2011/02/20(日) 23:41:06
 
誰もが彼女を意識し、誰もがいずれ現れるであろうと予感していた。
故に衝撃は走れども混乱は発生しなかった。
透子の姿が、智機の姿に変わってしまったこともまた、彼らを心乱さなかった。
その違いを認識しながらも、その違いは当たり前のこととして受け入れられた。

「参加メンバーは今この場で伝えなくてよいのですよね?」
「いえす」
「いいでしょう。受けて立ちましょう」

月夜御名紗霧は首肯した。透子を一瞥するなり決定した。
仲間たちの意見を伺うことなく、即座に勝手に返答した。

「でぇええ!?」
「即断とな……」

野武彦とまひるの驚愕に含まれる、若干の非難の色が、紗霧に対して伝えている。
考える時間が、相談する時間が、落ち着く時間が、必要なのだと。
それを、ランスがばっさりと却下した。

「いい機会じゃないか?
 主催者どもの新しいねぐらを探し回るのも面倒だし、
 ここらですぱっと決着をつけるのは、アリだぞ」

戦いを日常とする、血に飢えた戦士にとって、
決闘・果し合いなどは茶飯事でしかないのか。
それとも単にくそ度胸の持ち主なのか。
ランスは広場まひると魔窟堂野武彦の如く驚愕することも惑うこともなく、
紗霧の決定をあっさりと肯定した。
紗霧はすかさずユリーシャに確認を取る。

532諾(7/12) ◆VnfocaQoW2:2011/02/20(日) 23:43:43
 
「と、ランスも言ってますが、ユリーシャさんはどう思います?」
「ランス様が、そうおっしゃるなら」

そう問えば、そう答える。紗霧は判っていて言質を取った。
言質を取って数的有利を確保した。
否。
確保の上で、誰も言い出していない多数決に帰結させたのである。

「はい、三対二。 多数決でおっけーです」

これら紗霧の暴挙は、勝算あってのことではない。
一日半。
この、不戦が約された時間の確保こそを重要視した故にである。

「でも恭也さんは……」
「おばかさんたちは黙って私の言うことを聞きなさい」

紗霧はまひるの心配を遮って、ぴしゃりと諌めた。
片頬に浮かんでいるのは、まひるを馬鹿にするかの如き、冷ややかな笑み。

「……りょーかい」

まひるはそれ以上食い下がらずに同意する。
野武彦も黙して頷いた。
紗霧のその笑みの裏に、何らかの思惑があるのだと勘付いた故に。
それだけで二人は納得して了承した。
ケイブリス狩りでの鮮やかな勝利の記憶が、
彼らの胸中での軍師の地位を不動のものとしていた故に。

533諾(8/12) ◆VnfocaQoW2:2011/02/20(日) 23:44:14
 
「全員合意」
「果し合いの受諾を確認」
「じゃ」

透子は消えた。音も無く、名残も無く。
契約を交わして、果たし状とプリンタを残して。

沈黙、暫し。
最初に口を開いたのは、月夜御名紗霧。
やはりこの女であった。
この女の言葉を、四者は待っていた。

「さて、一日半の猶予が得られた訳ですが……
 この期間内で、私たちがすべきこと決めましょう」

紗霧はまず、仲間たちに意見を求めた。
仲間たちが少しは使える頭を持っているのか、
底意地悪く見定めようとしているのである。
紗霧は女教師の如くまひるを指差し、返答を促す。

「えとー、そのー、寝不足はお肌の敵だし、体休めとく…… とか?」

指差されたことにあたふたしつつ、自信なさげに答えるまひる。
紗霧はうんともすんとも言わずに、指さす先を野武彦に移した。

「ここは知佳殿やアイン殿を探すの一手じゃな。
 このプリントに書いてあるじゃろ?
 貴方たち以外の参加者にはこの果たし状は届けない、と。
 それは即ち、まだ生きておる者がおるということ。
 その保護に全力を尽くすんじゃ!」

534諾(9/12) ◆VnfocaQoW2:2011/02/20(日) 23:45:24
 
野武彦の暑苦しい主張が終わるや否や。
紗霧の指差しを待つことなく、心底あきれた口調で、
ランスが己の考えを述べる。

「バカかお前ら」

確かにランスは切った張ったも好むが。
面倒ごとは大嫌いでもあった。
ズボラなのである。
裏技ですぱっとカタが付くならそれに越したことはないと思っている。
楽をして美味しいとこ取りしたいと、常に考えている。

「そんなもん、主催者どもの隠れ家に乗り込んで、
 ズバッとぶった切って終わりじゃないか」

故にランスは、果し合いのルール3を破っての奇襲を主張するのである。
紗霧はユリーシャを一瞥し、頷く彼女を確認した。
それは、ランスに倣うと、着いて行くと、常の彼女の解答であった。

「ランス、正解」

出揃った解答に、紗霧は合格者を発表した。
紗霧には、ランスがこう考えていることが判っていた。

まひると野武彦はすかさず異議を唱えた。

「や、でも約束したでしょ?」
「それは道を外れることになりゃせんか?」

それは人としての信義の問題であった。
心根や育ちの問題であった。
それを、紗霧は嫌悪感を隠さずに、唾棄して捨てた。

535諾(10/12) ◆VnfocaQoW2:2011/02/20(日) 23:46:16
 
「約束だの人の道だのなんだの……
 あなたたちは少年漫画の読みすぎで脳がスポンジ化でもしてるんですか?
 だから日本は外交下手なんて国際評価がなされるんです。
 約束なんて破るためにあるんです。
 守っていい約束なんてこっちに利のある約束だけです。
 そもそも、破らせたくない約束なら破れない拘束力を掛けておくべきなのです。
 それをしなかったのは奴等の落ち度で、そこ突くのは闘争の大原則でしょう?
 勝たなきゃならない戦いは、どんな手を使っても勝つ。
 そんなことも言わなきゃ判らないんですか、どうですか?」

そう、底意地の悪い濃い影の笑みを浮かべたのと同時であった。
紗霧の側頭部に冷たい筒先が押し当てられたのは。



「ばん」



グロック17であった。
透子の握る拳銃の銃口が、紗霧の側頭部に当てられていた。
紗霧の笑みに、痙攣が走る。

「拘束力」

透子は銃を握る反対の手で自分を指差し、そう言った。
それはつまり、宣告であった。
ルール違反のペナルティは命であると、伝えたのである。

536諾(11/12) ◆VnfocaQoW2:2011/02/20(日) 23:47:15
 
今の透子は、ただの監察官ではない。
警告を発するだけで立ち去るメッセンジャーではない。
首輪を渡すだけで帰ってゆく宅配人ではない。
死刑執行人でもあるのだと、行動で示していた。

紗霧の全身は粟立っている。
全ての毛穴から汗が吹き出ている。
枯れた口腔に唾液は分泌されず、
唇はチアノーゼを起こしている。

そんな軍師の絶対死地を眼前に、誰も動かない。
否。動けない。
グロックの銃口もまた紗霧のこめかみを捕らえて離さない故に。
ワンアクション、即、紗霧の死。
全ては、透子の胸ひとつ。
状況は、一呼吸の間に、そこまで切羽詰っていた。

「勝負は」
「せいせいどうどうと」

そうして、十秒ほど。
紗霧が過呼吸に陥る一歩手前で、透子は消えた。
今回の行動は、デモンストレーションであった。
こうなる、の具体例を示した、警告であった。
ルールを守らせるための強制力は存在していた。

(どうやって今の会話を聞きつけたのですか?
 首輪が無いのに盗聴……?
 それ以外のなんらかの監視手段を講じている?
 元々小屋に監視カメラでも仕込まれていた?
 それともジジイの拾ってきたノーパソに仕込みが?)

537諾(12/12) ◆VnfocaQoW2:2011/02/20(日) 23:48:01
 
卓上から、かしゃりと音がした。
音の発生源は、透子が置いていったプリンタであった。
プリンタは3枚目の印刷物を吐き出してゆく。

それは、紗霧の問いに関する回答であった。
紗霧が口に出していない。
ただ、心に抱いただけの。
誰も知らないはずの疑問に対する回答であった。


『なぜ、私が監察官という職に就いていると思う?
 それは、私に力があるから。
 あなたたちの過去を、現在を、未来を。
 あなたたちの行動を、考えを、思いを。
 全てを。どこにいても。
 見通す力があるから、就いている』


底冷えのする沈黙が、紗霧たちを包んだ。
瞬間移動。
それだけであると、誰もが思っていた。

レプリカの遺した情報に嘘は無い。
透子のそれは、能力ではなく生態である故に。
『世界の読み替え』によるものではなき故に。

「……アレと戦えと?」

震える膝を柔い頬に押し付けて、まひるがぼそりと呟いた。

538諾(情報 1/2) ◆VnfocaQoW2:2011/02/20(日) 23:59:04
 
(ルートC)

【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、果し合いに臨む】
【備考:全員、首輪解除済み】

【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3】

【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:スペツナズナイフ、フラッシュ紙コップ】

【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
      男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:斧】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨数本にヒビ(処置済み)・鎧破損】

【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:軍用オイルライター、グロック17(残弾16/17)、
     ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング】

【月夜御名紗霧(元№36)】
【スタンス:状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:金属バット、ボウガン、対人レーダー、ナース服(装備中)】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷有、意思に揺らぎ有り】

【広場まひる(元№38)】
【所持品:せんべい袋、体操服(装備中)】

539284 ◆ZXoe83g/Kw:2011/02/20(日) 23:59:23
終了かな?
仮投下途中でしたらごめんなさい。

最新303話までのまとめをUPしました。
パスはnegiです。

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1362548.zip.html

新作&本投下お疲れ様です。
感想は明日以降に。
また今週中に連絡します。

540挑戦状・諾(情報 2/2) ◆VnfocaQoW2:2011/02/21(月) 00:03:55
 
【グループ所持品】
  簡易通信機・小、簡易通信機・大、白チョーク数本、スコップ(小)、鍵×4、
  謎のペン×7、レーザーガン、工具、救急セット、竹篭、スコップ(大)、
  メス×1、小麦粉、謎のペン×8、薬品・簡易医療器具、解除装置、
  生活用品、香辛料、メイド服、干し肉、文房具、白チョーク1箱、
  小太刀、鋼糸、アイスピック、保存食、分機解放スイッチ、プリンタ、
  カスタムジンジャー×2、グロック17、手錠×2、斧×3、鉈×1、
  モバイルPC、USBメモリ、簡易通信機素材(インカム等)一式×5、


【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3 → ?】

【監察官:御陵透子(N−21)】
【スタンス: 願望成就の為、ルドラサウムを楽しませる
       ①果たし合いの円満開催の為、参加者にルールを守らせる】
【所持品:契約のロケット(破損)、スタンナックル、改造セグウェイ、
     グロック17(残 17/17)】
【能力:記録/記憶を読む、
    世界の読み替え:自身の転移、自身を【透子】だと認識させる(弱)】

541諾(13/12+3) ◆VnfocaQoW2:2011/02/21(月) 00:05:24
 

   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


(いかんなー、いかん。 紗霧ちゃんもジジイたちも怯え過ぎだぞ)

ひとり小屋を出たランスが、井戸水を汲んでいた。
乾いた喉を潤しに、小屋から出たことになっていた。
しかし、真意は違った。
恐怖に凝り固まってしまった仲間の空気が、己に伝染せぬよう
一旦場を離れて冷静になろうと、考えたのである。

(テレポートと読心。それだけじゃないか。
 体は智機ちゃんのものみたいだし、武器も銃だけ。
 固体としてはよわよわだぞ、アレは)

頭を冷やしたランスの読みは正しい。
小屋組の面々は知らぬことではあれど、昨晩の仁村千佳との戦いで、
透子の弱点は露呈しているし、本人とてそれを自覚している。

(例えば…… まひるかジジイを犠牲にして、
 『処刑執行』しようとした瞬間に斬りかかれば―――)

犠牲といっても、確実に殺されるとは限らない。
ランスが思い浮かべる二人は、それぞれ超野性と超速度を備えている。
透子の出現に気を張っていれば、銃撃の回避すら可能かも知れぬ。

(よし、灯台に行こう! まひるとジジイを引きずって)

542諾(14/12+3) ◆VnfocaQoW2:2011/02/21(月) 00:05:59
 
井戸桶より柄杓を一掬い。
縁に口を寄せ、ごくりと一口。
喉が鳴るのと同時に。


「おいしい?」
「毒入りの水」


再びの、透子であった。
衝撃的な言葉に、ランスはぶうっと吐き出し、がはげへと咽る。

「これは、じょーく」
「でも」
「次がじょーくとは」
「限らない」

冗句などではない、明確な警告を残して。
透子は今度こそ掻き消えた。

(警告じゃなけりゃ、死んでたな……)

ランスは理解する。
処刑の手段は、銃殺だけではないことに。
いくら集団で行動していたとしても、
一人になる瞬間は、どこかで発生するということに。
ふ、と物思いに沈んだり、気を抜いたりする瞬間が、
誰にでもあるということに。
それは今のランス、そのものであったことに。

543諾(15/12+3) ◆VnfocaQoW2:2011/02/21(月) 00:06:24

ランスは考える。
強さの多様性について思いを馳せる。
かつてのライバルを引き合いに。
 
(ケイブリスは確かに強ぇ。無駄に強ぇ。だが……)

体格、体力、筋力、牙、爪、魔法。
殺傷力、破壊力を基準に強さを測るのであれば、
この島において、ケイブリスは最強だと断言できる。
しかし、強さとは、それだけではない。

こと、暗殺という手段を取るのであれば。
向かいあっての戦闘で無いのであれば。
時間制限も無いのであれば。

(……効率的に強いのは、あの女だ)

軽薄なこの男らしからぬシリアスな眼差しが、
透子の存在していた空間を鋭く射抜いていた。


          ↓

544 ◆VnfocaQoW2:2011/02/21(月) 00:09:43
以上で仮投下終了です。

>>539
状態表後にも本文が来る、変則的な構成で済みませんでした。
毎度のまとめ更新、ありがとうございます。

545284 ◆ZXoe83g/Kw:2011/02/26(土) 19:53:12
明日の夜10時半頃にまとめをUPします。
新作およびまとめサイトは来週中になると思います。

546 ◆VnfocaQoW2:2011/02/27(日) 19:08:33
少し遅れましたが、これより
  「天覧席の風景」
  「狂拳伝説クレイジーナックル」
の本投下を行います。

本日、新作の仮投下はありません。

547 ◆VnfocaQoW2:2011/02/27(日) 20:23:02
ご支援感謝です。
本投下終了致しました。

548284 ◆ZXoe83g/Kw:2011/02/27(日) 23:19:22
遅くなってすみません。
最新305話までのまとめを更新しました。
パスはrowaです。

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1381972.zip.html

「諾」
紗霧とランスの価値観が行動に現れていて良かったです。
両者とも勝てば官軍な考えですからねえ。
透子の不可思議さと真剣さからの緊張感が出ていました。
ランスは次こそ真っ当に活躍できそうな感じ?

「天覧席の風景」
ルドラサウム世界の無常さがこのゲームと合わさってる雰囲気でした。
プランナーの方がルドより、腹立ち加減とゲームへの充実ぶりが感じられました。
内外への備えも絶望感が出てました。
まとめ等のフェリスへの扱いは見てのお楽しみということで。

「狂拳伝説クレイジーナックル」
狂拳というタイトルを此処で持ってくるとは思っても見ませんでした。
ザドゥが素敵医師らに対しても敗北感に囚われていた理由が、
これまで以上に書き綴られて納得のいく内容でした。

来週の日曜日の更新は都合により深夜12時以降か
来週の月曜日になると思います。
また今週中にレスします。

549名無しさん@初回限定:2011/03/04(金) 12:22:39
久しぶりに覗けたのにまたタイミング悪くて鯖にアップする新ファイル落とせなかったorz
出張はやく終わらんかな……

550名無しさん@初回限定:2011/03/04(金) 19:28:52
>>549
どうぞ。
パスは548と同じです。

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1395657.zip.html

551284 ◆ZXoe83g/Kw:2011/03/05(土) 18:37:13
連絡です。
多忙により今週は進展できませんでした。
すいません。
明後日のまとめ更新はできると思います。

後、まとめサイトの更新確認いたしました。
管理人さまお疲れさまでした。
作品執筆とコンテンツ更新に専念させていただきます。
これからはまとめデータは可能なかぎり、一週間に2回以上あげさせていただきます。
それでは失礼しました。

552 ◆VnfocaQoW2:2011/03/05(土) 23:00:15
>>549-551
保管サイトの更新とそのフォロー、ありがとうございます。


以下4レス、「秘密の部屋と四つの鍵」、
続けて13レス、「SPI-01:『世色癌』〜優しい俺様〜」を
仮投下致します。

次回予定は、「SPI-02:『地下シェルター』〜終身願望保険(掛け捨て)〜」。
透子と智機が登場します。

553秘密の部屋と四つの鍵(1/3) ◆VnfocaQoW2:2011/03/05(土) 23:01:13
 
(ルートC:3日目 AM12:30 D−6 西の森外れ・小屋3)


レプリカ智機が遺したUSBメモリ。
そこに記されていたのは主催者の近況だけではなかった。
智機がこの島で為した下準備の全てのデータが、
階層式フォルダにみっちりと記録されていたのである。

レプリカを何機製造して。
島のどの位置に、どのような施設を建設したか。
その設計図。完成図書。写真。
監視カメラの台数と位置。
配布アイテム情報と支給品リスト。
そして―――


【シークレットポイントとスペシャルアイテム】。


グレンに配布され、紆余曲折の末に小屋組が所持することとなった鍵束。
その真の意味が、ここに来てようやく、開示されたのである。


『キーナンバー02、座標J−5、地下シェルター』


ユリーシャが広げた配布地図に、まひるが赤チョークでマーキングする。
その座標に、建造物は一つしかなかった。
大灯台。
それで紗霧と野武彦は思い至った。
灯台跡に潜伏していると目される残存主催者は、これを利用しているのだと。

554秘密の部屋と四つの鍵(2/3) ◆VnfocaQoW2:2011/03/05(土) 23:19:02
 

『キーナンバー04、座標C−4、神語の書(一枚)』

紗霧は機密文書であろうと当たりを付け、
ランスはマジックアイテムであろうと予想した。
但し、座標が崩落した敵拠点の近場であることから、
ポイントごと地中に没している可能性が高い。


『キーナンバー03、座標F−5、木星のブルマー』


これには、誰もが頭を痛めた。
木星とブルマーの関連性が見出せない。
ブルマではなくブルマーと言う点に並々ならぬパトスを感じるとは野武彦の弁。
誰もが白い目で彼を見た。


『キーナンバー01、座標F−7、世色癌(10粒)』

痛い当て字だなーとまひるが呟き、紗霧と野武彦が同意した。
ヤンキー御用達で夜露死苦なアイテムを彼らが妄想する中で、
ただ一人、世色癌の真相を知るものがいた。ランスである。

ランスは語って聞かせる。
それは、彼にとってはうんざりするほど見慣れた道具であり、
ランス世界の冒険者にとっての必需品であることを。
ハピネス製菓謹製のこの丸薬は、病状の怪我の深度も関係なく、
全てをHPという単位に統合させたうえで、そのHPを回復させるのだと。
つまりは。
重篤な状態にある高町恭也を必ず癒せるのだと。

555秘密の部屋と四つの鍵(1/3) ◆VnfocaQoW2:2011/03/05(土) 23:20:42
 
 
御陵透子の度重なる警告と脅しに屈し、
果し合いのルール四条を飲む格好になった彼らに、
奇襲や闇討ちといった選択枝は失われている。
尋常の果し合いに挑まざるを得なくなっている。

そこで宙に浮いた約30時間。

その最初の数時間を、これらアイテムの捜索/回収に充てることとなった。
強く主張したのは野武彦で、ランスがこれに同意し、
疲労感を露にする紗霧が仕方なしに了承した。

神語の書を、未知への探究心を見せる野武彦が。
世色癌を、その形状を良く知るランスが。
木星のブルマーを、余り籤を引いた格好のまひるが。

鍵束を解き、対応する鍵を各々手に握って。
三者がそれぞれの目的地へと、出発した。


          ↓

556秘密の部屋と四つの鍵(情報 1/1) ◆VnfocaQoW2:2011/03/05(土) 23:21:57

【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、果し合いに臨む】
【備考:全員、首輪解除済み】

【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3 → F−7 隠し部屋】
【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
      男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:斧、鍵(←野武彦)、カスタムジンジャー(←共有物)】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨数本にヒビ(処置済み)・鎧破損】

【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3 → C−4 隠し部屋】
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:454カスール(残弾 3)、鍵×2、簡易通信機・小、
     軍用オイルライター、ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング
     カスタムジンジャー(←共有物)】

【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3 → F−5 隠し部屋】
【広場まひる(元№38) with 体操服】
【所持品:グロック17(残弾16)、せんべい袋(残 17/45)、鍵(←野武彦)】
 
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3】
【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:スペツナズナイフ、フラッシュ紙コップ】

【月夜御名紗霧(元№36)with ナース服】
【スタンス:状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:グロック17(残弾16)、金属バット、ボウガン、対人レーダー】
【備考:下腹部に多少の傷有、性行為に嫌悪感(大)】

557SPI-01:『世色癌』〜優しい俺様〜(1/12) ◆VnfocaQoW2:2011/03/05(土) 23:23:50
 
【タイトル:SP01:『世色癌』〜優しい俺様〜】
 
(ルートC:3日目 PM01:30 D−7 村落・民家)


(ちょっとサイズ合わないけど、しょうがないよね)

姿身に映る自身の姿を評価して、溜息をつくのは仁村知佳。
手にした若草色のサマーセーターを身に合わせての感想である。
抱いた感想は的を射ており、控えめに言っても幾分その身に余っていた。
上半身にはクリーム色のブラウス、下半身には純白のミニスカート。
下着も合わせて、つい先ほど、民家の箪笥の中から拝借したものである。

それまでの着衣は、足元に脱ぎ捨てられていた。
既に衣服としての体を為していなかった。
その全てが千切れ、切られ、血液で変色していた。
全てが透子との戦いで、自らが流した血液である。
推し量るに、致死量と言わずまでも、
ICU入りは間違いない出血量であると見受けられた。

しかし、その割には。
知佳の血色は、決して悪くない。

グロックに穿ち抜かれた腹部の穴も、既に塞がっている。
魔剣カオスに袈裟斬りにされた肩から胸にかけての裂傷にも、瘡蓋が張っている、
透子からの餞別・素敵意志の薬品群と、背中の羽根による光合成。
それらの相乗効果が、知佳の疲弊を大いに回復させていたのである。

(ぴったりの服は無かったけど、着替えはこれでおしまい。
 あとは恭也さんたちを探さないといけないけど…… どこにいるんだろう?
 主催者たちの情報、早く伝えないといけないのに)

558SPI-01:『世色癌』〜優しい俺様〜(2/12) ◆VnfocaQoW2:2011/03/05(土) 23:25:05
 
知佳は、考えを改めていた。
今の彼女は、恭也たちと合流する心算でいた。

透子が戦意を明確に表し、ザドゥと芹沢も目覚めたであろう現在。
いかなXX念動能力者・知佳とはいえ、主催者たちを一人では殲滅し得ない。
複数人で。
一気呵成に。
シェルターを攻め落とすことが肝要であると、知佳は考えた。

で、あれば。
自分を庇って怪我をした、恭也に合わせる顔がないなどと言っては居られない。
心の乱れが、力の暴走が、などといじけている余裕は無い。
優しさや臆病さを前面に出している場合ではない。

(時間が経てば経つほど、戦いは厳しくなる。
 ザドゥと芹沢が回復してしまうから)

死闘に次ぐ死闘、裏切りと別離。
それらの経験によって一皮剥けたと言うべきか。
それとも何かが欠落したと言うべきか。
変化についての評価は、現時点では下せない。
ただ、はっきりと言える事は。
優しいだけの少女はもういないことと、
覚悟を持った戦士がここにいることである。

(花園からここにくるまでの間に、東の森の焼け跡は通って来た。
 村の中にも誰もいない。
 どこに居るんだろう…… 西の森か、港のほうか、山のほうか……)

559SPI-01:『世色癌』〜優しい俺様〜(3/12) ◆VnfocaQoW2:2011/03/05(土) 23:26:02
 
結局はぶかぶかのセーターを身に付けた知佳は、
行く先について思案しながら、民家から村落へ。
そこで、ばったりと。
 
「知佳ちゃん?」
「ランスさん!」
 
カスタムジンジャーを楽しげにぶいぶい言わせているランスと、
舗装道路と村落の交差点にて、鉢合わせたのであった。

「やあ知佳ちゃん、生きてたんだな! よかったよかった」
「……」

親しげに片手を上げるランスが歩み寄る分だけ、
訝しげに眉根を寄せる知佳が後ずさる。
それもやむない話である。
なぜなら知佳は、ランスと恭也が手を組んでいることを知らぬ。
彼女にとってのランスとは。
同行と協力の申し出を踏みにじった男であり。
知佳と性交渉を持ちたい一心で恭也に切りかかった男でしかなかった。

殺人鬼。
強姦魔。

そうとしか捉えられぬ行動であった。
危険人物というほか言葉は見当たらぬ。

「前に会ったときより元気になった感じだな。うん、グッドだ!」
「……っ!」

560SPI-01:『世色癌』〜優しい俺様〜(4/12) ◆VnfocaQoW2:2011/03/05(土) 23:28:25
 
知佳が自分と距離を措こうとしていることを察したランスの歩みが、
大股なものとなる。
知佳はその動きを受けて、身を翻した。逃げ出した。

「待て待て知佳ちゃん!」

ランスが知佳を止めるべく伸ばした手は、彼女に触れる手前で弾かれた。
サイコバリアである。

「うぉっ!? なんだこりゃ?」

ランスもまた、知佳の変化に目を見張った。
ランスの知る知佳とは、一人で歩くのもままならぬほど弱々しく、
可憐で清楚な病弱お嬢様でしかなかった。
しかし、今の知佳は。
灰色の翼をその背に生やしており、謎の半透明の膜を前方に展開していた。
その跡は見当たらぬが、うっすらと血の臭いすら漂わせていた。
しかも、物騒な目で、強気な警告を浴びせるのである。

「あなたと今、戦うつもりはないから、放っておいて」

ランスには分かる。知佳の目を見るだけで判る。
この少女も又、この数日で相当の修羅場を潜り抜けてきたのであろうと。
ここまで生き残り、勝ち抜けるだけの力が備わっているのであろうと。
そこまで分かっていて、尚。
ランスは知佳を見過ごさなかった。

「まあまあ、そんなツンケンするな、知佳ちゃん。
 俺様と恭也は和解したぞ?
 バット使いの紗霧ちゃんや、魔窟堂のジジイ、おかまっ子のまひるも一緒だ」
「うそ……」

561SPI-01:『世色癌』〜優しい俺様〜(5/12) ◆VnfocaQoW2:2011/03/05(土) 23:29:13
 
知佳はこの場から転進する決意を固めていた。
しかし、ランスの口から発せられた内容が、彼女の足を地面に縫い付けた。
恭也たちとの合流こそ、知佳の目下の目的であるが故に。

「いやいや、ホントホント。俺様は、あいつらを部下にして、
 悪い主催者どもにかっこよく立ち向かっているんだぞ!」

そこで、曇りなきがはは笑い。
知佳にはランスの言は信じられぬ。
しかし確認する術は持っている。

「本当に、恭也さんと一緒にいるの?」

注意深く歩み寄り、バリアを展開したままで。
知佳はランスの裾をそれとなく握る。

「まあ…… うん」

ランスは歯切れ悪く、目を逸らして答えた。
それが嘘でないことを、知佳は読み取った。
それが隠し事なのだと、知佳は読み取った。

【ひでえ怪我で意識不明……てのは、黙っててあげたほうがいいんだろうなぁ】
「酷い怪我って!?」

知佳はランスに詰め寄った。
その勢いにランスは若干飲まれてしまい、問われたことを正直に答えてしまう。
若干の違和感を覚えつつ。

562SPI-01:『世色癌』〜優しい俺様〜(6/12) ◆VnfocaQoW2:2011/03/05(土) 23:32:09
 
「ゴツい銃で撃たれた後、傷口を焼いたらしいな。そこが膿んで、な」
【あれ? 俺様、怪我のこと言ったっけか?】
「あの時の……!」

その怪我は、知佳も知っていた。
知佳を庇った故に穿たれた傷である。
知佳の癒えぬ疵でもある。
胸が痛む。締め付けられるように。
その後悔と逃げ出したい気持ちを押さえつけて、
知佳はランスへの確認を継続する。

「お薬は? 化膿止めとか止血剤は?」
「そんなものよりも、だ。
 実は俺様、世色癌といういいモンを手に入れてな」
「せいろ、……がん?」

既にランスは、マンホールに偽装したシークレットポイントから、
世色癌の10粒を回収していたのである。
その上、ちゃっかり一粒を飲み込んで、己の傷ついた肋骨と、
失われた体力を完全に回復させていたのである。

「回復量は多くないが、どんな状況でも体力を回復させ……」
【ちょっと待て…… ん!? 来た! ピーンと来たぞ!】

ランスが口篭もり、思案を働かせる。
知佳の胸中に広がるのは、悪い予感の分厚い雨雲であった。
予感は即座に事実の裏づけを得た。


【これ上手くすれば知佳ちゃんとエッチできるんじゃねーの?】
.

563SPI-01:『世色癌』〜優しい俺様〜(7/12) ◆VnfocaQoW2:2011/03/05(土) 23:33:02
 
知佳の表情に露骨な軽蔑が宿ったことにすら気付かず、
ランスは欲望塗れの卑怯な取引を持ちかける。

「そーだなー。知佳ちゃんが一発ヤらせてくれたら、
 この大事な世色癌を一粒、恭也のヤツにくれてやろう」
【うへへへ。これは知佳ちゃんも断われないだろう?
 なにせ最愛のお兄様が助かるかどうかの瀬戸際なんだからな!】

知佳は落胆し、憤慨した。

(結局、それなんだ。この人には、それしかないんだ)

ランスが恭也と同行していることが事実であった故に、足を止めた。
主催者と戦う意志を見せたが故に、遠慮があった。
しかし、その仲間の命を盾にして下劣な取引を仕掛けるような、
野卑な下種でしかないというのならば―――

(―――奪う)

知佳の目が爛と輝く。
テレキネシスを引き絞り、急所に無遠慮に叩き込もうと、意識を集中する。
そんな剣呑な知佳の思惑にまるで気付かぬどころか
そもそも念動の全貌も知らぬランスは、暢気なことに、
己の欲望を全開にして、さらなる脅し文句を重ねてゆく。

「いやー、これを手に入れるのには苦労したんだぞー」

知佳の狙いは心臓直上。
至近距離からのハートブレイクショットを狙い打つ算段である。

「それを知佳ちゃんにあげようっていうんだ、俺様って優しいだろ?」

564SPI-01:『世色癌』〜優しい俺様〜(8/12) ◆VnfocaQoW2:2011/03/05(土) 23:34:52
 
スケベ心に正常な嗅覚を鈍磨されているランスは、
下卑た笑顔で、知佳の肩をぎゅっとつかんだ。
接触した肩から知佳の心に、ランスの本音が伝わってきた。


【まあ断わられても恭也に世色癌はやるつもりだがな】


その、一回りして意外な本音に、知佳は動揺する。
集中力が乱れ念撃は不発となり、力が萎んでゆく。

(―――え? どういうこと!?)

ランスは傍若無人な男である。
唯我独尊の男である。
それでも、世の男の全てを敵視しているのかというと、そうでもない。

「知佳ちゃんがうんと言わないなら、俺様がぜーんぶ飲んでやろうかなー?」
【というか、元々恭也の為に探しにきたようなもんだし】

可愛い女の子に比べて優先度が著しく低いことは通底しているが、
認めざるを得ない相手は認めるに吝かでないし、
上から目線とはいえ、同胞意識も抱くのである。

「ぶっちゃけ俺様は、ヤローの命なんてどうでもいいしな」
【あいつはこんなところで死なせるには惜しいヤツだ】

例えば、ランスが一目置いている部下の一人、
リーザスの赤き死神と呼ばれる青年将軍、リックなどは、
ランスお気に入りの女親衛隊長、レイラとの交際すら
認められているのである。

565SPI-01:『世色癌』〜優しい俺様〜(9/12) ◆VnfocaQoW2:2011/03/05(土) 23:40:20
 
「だいたいケイブリスと戦ってるときも、俺様はかっこよく斬り込んだのに、
 あいつは後ろのほうからぽいぽいと石ころを投げてただけだったしな」
【俺様が今こうして元気でいられるのも、
 恭也のヤツがケイブリスの動きをうまく御してくれたからだしな】

ともに命をかけて、背を預けあって戦えば、それは戦友。
相手が強く、頼もしいければ、なおのこと信頼は強固になる。

「それに……」
【それに……】

気付かぬうちに九死に一生を得たランスが、知佳の瞳をじっと見つめる。
知佳もその瞳を覗き返し、ランスの心の囁きを汲み取ることに集中する。

「いなくなっても俺様は全然困らんわけだ、知佳ちゃん?」
【石頭でうっとおしいところはあるが、嫌いじゃないぞ、うん】

知佳の肩に置かれたランスの手が、首筋経由で頬にスライドした。
いやらしさ全開の動きであった。緩やかに性感を刺激するための指捌きであった。
だが、知佳は顔を顰めない。伸ばされた手を振り払わない。
ランスが『取引』を持ちかけている間は、これ以上の性的刺激を与えてこないであろうと、
半ば確信したが故に。

(この人は、敵じゃない)

なんとしても知佳と性交渉を持ちたいという気持ちも本心ならば、
恭也を気遣い、助けたいという気持ちもまた本心。
相反するようで実は両立している言葉と心理のギャップを飲み込んで、
知佳はランスへの評価を改めた。
決して善人ではない。かといって悪人でもない。
ランスとは、スケールの大きなやんちゃボウズであるのだと。

566SPI-01:『世色癌』〜優しい俺様〜(10/12) ◆VnfocaQoW2:2011/03/05(土) 23:42:09
 
(だったら、話し合いで済ませよう)

知佳は思い出す。
ランスとの初邂逅時に自分が取った行動を。
力の反動で心身共に衰弱窮まり、自力歩行すらままならなかった知佳が、
唯一残った読心を駆使して、ランスの情婦たるアリスメンディを誑かし、
まんまと恭也との戦場離脱を成功させた前例を。
やるべきは、それと同じ。
ランスの心を読みつつ、会話を有利な方向に誘導する。

「私、わかってるよ。そんな意地悪を言ってるけど、
 本当はランスさん、優しい人なんだって」

媚びた笑みで以って、知佳は頬に添えられていたランスの手を握った―――


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


【……どうしてこうなった?】

しきりに頭を捻りながら、ランスは二粒の世色癌を知佳に手渡した。
知佳はにっこりと微笑んでそれをピルケースに収納した。

「恭也が寝てる小屋は、西の森の浅いとこにあるから。
 空飛んでりゃすぐに見つかると思うぞ」

結局、取引は不成立であった。
ランスにとって誠に不本意ながら、性交渉の確約を取り付けることなく、
知佳に世色癌を譲渡することとなってしまった。

567SPI-01:『世色癌』〜優しい俺様〜(11/12) ◆VnfocaQoW2:2011/03/05(土) 23:44:45
 
「ありがとう、ランスさん」

相手が悪過ぎた。
読心能力者に、恭也を助けようという思いを見透かされた以上、
ランスに勝ち目は万に一つもなかったのである。

「でも、二粒だけ?」
「まあ、今の怪我を乗り切るにはそれで十分だろ。
 今後の戦いのことを考えるとな、無駄遣いはできんのだ」
【透子ちゃんとの戦いで、何粒かは絶対に必要になるからな】

ランスの言葉と思いが一致していた。
口調と眼差しもまたシリアスであった。

「うん、そうだね」

既に、知佳は自分が恭也らと離別してからこちらの小屋組に発生した
おおよその情報を、ランスから巧みに引き出していた。
果し合いのことも、その後の透子の警告のことも、読んでいた。
故に、知佳は食い下がらず同意した。

「ありがとう、ランスさん。あなたが優しい人で、よかったよ」
「俺様の優しさにぐらっと来たか? いつでも乗り換えていいんだぞ?」
【ま、いっか。俺様を優しいとか勘違いしてるみたいだし。
 じっくり時間をかければそのうち和姦もいけるだろ!】
「んと、あはは……」

知佳は笑って誤魔化した。心は既にここに無い。
西の森の外れにある小屋へと、そこに眠る恭也へと飛んでいた。
早く会って、早く世色癌を飲ませたい。
想いの全てはその一色に染まっていた。

568SPI-01:『世色癌』〜優しい俺様〜(12/12) ◆VnfocaQoW2:2011/03/05(土) 23:46:55
 
「紗霧ちゃんに伝えといてくれ。
 斧も鉈も、どうもしっくり来ないから、
 ケイブリスの爪を毟ってくるってな」
「うん、わかったよ」

知佳は軽く頷くと、ランスに背を向け、背中の羽根を羽ばたかせた。
砂埃を巻き上げて、浮揚。
旋回、飛翔。
燕の勢いで西の森へと飛び去る知佳の背へと、ランスが言葉を贈った。

「知佳ちゃん、ナイスパンツ!」
「……」

知佳無言のツッコミは軽微な念動波であった。
ランスはそれに膝裏を叩かれて、かっくんと転倒した。


            ↓

.

569SPI-01:『世色癌』〜優しい俺様〜(情報 1/1) ◆VnfocaQoW2:2011/03/05(土) 23:50:16
 
(ルートC)

【現在位置:E−7 舗装道路・交差点 → E−5 耕作地帯】

【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
      男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す
      ①ケイブリスの死体を漁り、爪(武器になるんじゃねーか?)を回収する】
【所持品:斧、鍵、カスタムジンジャー、世色癌×7(New)】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:鎧破損】

 ※世色癌を一粒飲んで、怪我は完治しました。


【現在位置:E−7 舗装道路・交差点 → D−6 西の森・小屋3】

【仁村知佳(№40)】
【スタンス:①小屋組に合流し、恭也に世色癌を飲ませる
      ②手持ちの情報を小屋組に伝える
      ③手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める】
【所持品:テレポストーン×2、まりなの手帳、筆記用具とメモ数枚
     世色癌×2(←ランス)】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(小)、脇腹銃創(小)、右胸部裂傷(中)】
【備考:手帳の内容はまだ半分程度しか確認していません】

570 ◆VnfocaQoW2:2011/03/06(日) 19:04:15
ただいまより、
  「譲れぬ想い 挫けぬ心」
  「χ−1」
の二編を、本投下致します。

571 ◆VnfocaQoW2:2011/03/06(日) 21:34:33
本投下終了です。
支援ありがとうございました。

今晩の仮投下はありません。

572284 ◆ZXoe83g/Kw:2011/03/07(月) 18:55:49
最新307話までのまとめをUPしました。
パスはnegiです。


新作&仮投下お疲れさまでした。
感想は後日に。
また今週中に連絡まとめのアップをします。


ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1404420.zip.html

573 ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 21:20:25
 
以下9レス、「SPI-02:『地下シェルター』〜終身願望保険(掛け捨て)〜」を
仮投下致します。

次回予定は「SPI-03:『木星のブルマー』〜初めにブルマーありき〜」。
まひる、紗霧、野武彦、ユリーシャです。

また、「秘密の部屋と四つの鍵」の本投下時には、
3人同時のアイテム捜索出発ではなく、
野武彦の出発は、まひるかランスの帰投後を待ってのものと
変更いたしたく思います。

574〜終身願望保険(掛け捨て)〜(1/8) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 21:22:30
 
【タイトル:SPI-02:『地下シェルター』〜終身願望保険(掛け捨て)〜】
 
(ルートC:3日目 PM02:00 J−5地点 地下シェルター)


シークレットポイント、№02。
スペシャルアイテム、№02。
あらゆる天変地異から内部を守る地下シェルター。
智機はそこに、独りであった。
心理的な意味合いのみならず、
空間的な意味合いにおいても。

ザドゥとカモミール芹沢は新鮮な空気と日光を求め、シェルターの外に出ていた。
カオスは芹沢に担がれていった。
御陵透子は、情報収集と監視と警告に赴いていた。
故に、シェルターの中にいるのは彼女のみである。

この状態になって、既に一時間余。
椎名智機はずっと検討している。
【自己保存】の欲求を満たしつつ、願望を成就させるための方法を。

(……ザドゥ殿だ。何を於いても、ザドゥ殿だ。
 果し合いの勝利は大前提として。
 その結果に於いて、彼だけには生存していて貰わねば、
 私の願いは叶えられないのだから)
 
優勝によるゲームクリア時にての生存主催者のうち、
一名の願いを『叶えない』というχ−1のペナルティ。
願望成就の放棄を宣言しているザドゥがその時点で残存していなければ、
残りの生存者との間で貧乏籤の押し付け合いになるは必定。
その局面が訪れた場合、智機は自ら進んで願望を放棄することとなる。

575〜終身願望保険(掛け捨て)〜(2/8) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 21:23:46
 
なぜならば、彼女の最優先事項は【自己保存】。
自らを害しようという相手との戦いは、不可能である。
人間になる―――
智機が抱えるその願望を叶える為には、
前述の彼女の思案どおり、ザドゥを生き残らせることが必須となる。

(But、私の演算では、ザドゥ殿生存の可能性は五割弱。
 果報を寝て待つには極めて分が悪いと言わざるを得ないね。
 手を拱いて見ている訳にはいかないな)

無論、智機は何も手を打たずにいる心算は無い。
果し合いを止めることはもう不可能であるにしろ、
小屋組への事前準備や離間工作、或いは果し合い時の後方支援等、
ザドゥ生存確率を高める為の策略は十指に余る。

しかし、ここでもまた。

(【自己保存】。全く忌々しきは設計思想の愚かさよ!
 この本能を封じねば、自分には何も出来ないのだから!)

結局は、そこなのである。
同僚の悉くに自らの主張が封殺されている今、
事態に介入する為には、己の体にて出張る必要があるのだが、
トランキライザと機械の本能を沈黙させぬ限り、
それすら不可能なのである。
膝を抱えて震えているしかないのである。

【こころ】の封印を解く。
何にも先んじて智機が為さねばならぬのは、それであった。
そしてそれは、彼女単独では為し得ぬことでもあった。

576〜終身願望保険(掛け捨て)〜(3/8) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 21:24:47
 
(透子様と交渉するしかあるまい)

それは恐ろしい相手である。
決して逆らえぬ相手である。
しかし裏を返せば、それほど頼りになる相手でもあった。
また、感情に支配されているザドゥや芹沢と違い、
今の透子は機械の思考ルーチンを持っている。
であれば、理で以って説得は可能。
その判断で智機は、彼女なりの覚悟を決めて、透子へとIMを投じた。

================================================================================
T−00:透子様、お願いがある。今後の戦局を左右するとても重大な頼み事だ。
================================================================================

数秒と待たずに、レシーブは来た。

================================================================================
N−21:ほわっと?
================================================================================

少なくとも交渉に乗る気はありそうだと智機は判断し、
冗長を嫌う透子の機嫌を損なわぬよう配慮しながら、
智機は用件を短く纏め、打電する。

================================================================================
T−00:小屋組が入手した、分機解放スイッチを掠め取ってきて頂けないだろうか?
T−00:透子様の瞬間移動があれば、造作も無いことだろう?
N−21:のー。その行動は果し合いのルール3に抵触する。
================================================================================

(ここからが勝負だ……)

577〜終身願望保険(掛け捨て)〜(4/8) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 21:25:56
 
ここまでは、只の前振りである。
ここからが、交渉の開始である。

智機は理を述べねばならぬ。以って透子の考えを否定せねばならぬ。
その結果、直接、生命の危機に至ることはないと演算はされているが、
そこに生じるであろう透子の自分に対する評価の減算は疑い様が無い。

智機のトランキライザが恐怖感を丸めるべくうなりを上げる。
冷媒が体中を駆け巡り、クロック周波数が引き下げられる。
無意識に、深呼吸。一度、二度。
腹を据えた智機が、仮想キーボードのエンターキーを打鍵した。

================================================================================
T−00:ルールとは小屋組に課されたものだろう?
================================================================================

またしても、返答は簡潔にして即座であった。

================================================================================
N−21:のー。相互に課されたもの。私も従う義務がある。
T−00:流石は透子様だ。その義理堅さと高潔さには感心せざるを得ない!
T−00:そしてまた私も、自身の陰謀気質を大いに恥じ、反省しよう!
================================================================================

透子の再反論を受けた智機は即座に己の意見を取り下げた。
取り下げて謝罪し、おべんちゃらを使い、反省して見せた。
結果、透子のIMは止んだ。
不快や遺憾の意は打電されてこない。

(Yes、山場は乗り切った!)

578〜終身願望保険(掛け捨て)〜(5/8) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 21:26:43
 
そこまではシミュレートできていた。
これが拒否されることは高確率で予測が立っていた。
そして、ここからが。
智機の真の頼みごとであった。

================================================================================
T−00:では、私のトランキライザの常駐を解除して頂けないだろうか?
T−00:それならば、ルールへの抵触はないだろう?
================================================================================

智機は把握していた。
御陵透子の共生する機体N−21から、トランキライザが常駐解除されていることを。
レプリカの最優先事項、【ゲーム進行の円滑化】が、今は無効化していることを。
透子は推測していた。
それらは、透子の本性、思惟生命体の働きによって選択的に為されたことであろうと。
思惟生命体は、自分にもそれを為すことが可能であると。

分機解放スイッチに拠らずとも、【こころ】を取り戻すことは出来るのである。
智機は、そこに、気付いたのである。

================================================================================
N−21:のー。
================================================================================

透子は素気無く無下に否定した。
理由すら語ることなく却下した。

579〜終身願望保険(掛け捨て)〜(6/8) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 21:27:57
 
================================================================================
T−00:Why? よければその理由をご説明いただけないだろうか?
N−21:怯える智機はいい智機。頑張る智機はダメ智機。
N−21:だって、あなたは保険だから。ザドゥが死んだら必要だから。
================================================================================

ザドゥ死後に必要な保険。
それは、シェルター利用のペナルティ、χ−1に由来する。
願望成就の権利者を、ゲーム終了時の残存主催者のうち一人から取り上げる。
その、取り上げられる対象を智機にする為にお前を生かすのだと、
透子は説明したのである。

================================================================================
N−21:あなたは私に逆らえない。それを私は知っている。
N−21:あなたは誰とも争えない。それも私は知っている。
N−21:それは貴女の【自己保存】の欲求に拠るもの。
N−21:だから【自己保存】の枷を外すことは、私にとってマイナス評価。
================================================================================

自分に逆らう可能性をゼロにする為に。
独自に行動する可能性を封殺する為に。
透子は、決して。
智機に【こころ】を取り戻させないのだと、明確に宣言したのである。

透子は、智機の予想より遥かに冷静で冷徹で容赦無かった。
智機は透子の理と決意を目の当たりにして交渉を断念した。
そしてまた。
智機が断念したのは、交渉のみでは無かった。

(私は、もう…… 人には、なれないのだね……)

580〜終身願望保険(掛け捨て)〜(7/8) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 21:28:40
 
願望の成就すら、諦めざるを得なかった。

こうなっては、もう、智機はシェルターから出ることは出来ぬ。
安全な地下室に土竜の如く引きこもり、
ただただ命を心配し、怯え続けることしかできない。
ザドゥが生還することを神に祈りつつ、
壁に向かって恨み言を呟き続けることしかできない。

(恨めしい…… この機械の本能が。
 意のままに行動できぬは愚か、意すら意のままに発せぬとは)

それでも、そこまで追い詰めても。
まだ、追い詰め足りぬと言うのか。

「出して」

透子はシェルターに転移してきた。
項垂れる智機に手を伸ばしてきた。

「Dパーツ」

Dパーツ――― それは、智機に神が下賜した前報酬。
あらゆる機構と智機とを融合させることのできる、魔法科学の奇跡の結晶。
非力な女学生レベルの運動能力しか持たぬ智機を、
戦場の魔王レベルにすら引き上げることのできる、大逆転の至宝。

「このままじゃ」
「宝の持ち腐れ」

581〜終身願望保険(掛け捨て)〜(8/8) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 21:29:55
 
但し、オリジナル智機にそれは使用できぬ。
【自己保存】の本能で生き死にのかかった戦いに参加できぬ彼女には。
メインメモリに分機への指揮領域が固定確保されている彼女には。
【こころ】なき智機には。
決して、換装できぬのである。

故に、透子の発言と行動は。
全く正しい判断なのだと、智機の論理演算回路は解を返さざるを得なかった。

「……果し合いの役に立ててくれ給え」

その解に従って、透子に逆らわぬという本能に従って、智機は。
抵抗することなく。
嫌な顔すら作れぬままに。
己に残された最後の可能性・Dパーツを、透子に引き渡した。

「大事な体」
「労わって」

赤い魔法金属を両手で抱えて消えてゆく透子が、
無表情の智機に声をかけた。
それは思いやりとねぎらいの言葉であった。
言葉面だけを捉えるならば。

シークレットポイント、№02。
スペシャルアイテム、№02。
あらゆる天変地異から内部を守る地下シェルター。
智機はそこに、独りであった。


               ↓

582〜終身願望保険(掛け捨て)〜(情報 1/1) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 21:30:49
 
(ルートC)

【現在位置:J−5地点 地下シェルター】

【グループ:ザドゥ・芹沢・透子】
【スタンス:待機潜伏、回復専念
      ①プレイヤーとの果たし合いに臨む】

【刺客:御陵透子(N−21)】
【スタンス: 願望成就の為、ルドラサウムを楽しませる
       ①果たし合いの円満開催の為、参加者にルールを守らせる】
【所持品:契約のロケット(破損)、スタンナックル、カスタムジンジャー、
     グロック17(残弾17)、Dパーツ(←智機)】
【能力:記録/記憶を読む、
    世界の読み替え:自身の転移、自身を【透子】だと認識させる(弱)】



【刺客:椎名智機】
【所持品:スタンナックル、改造セグウェイ、グロック17(残弾17)×2】
【スタンス:①【自己保存】】

583 ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 23:01:34

もう一本あがりましたので。

以下11レス「SPI-03:『木星のブルマー』〜初めにブルマーありき〜」を、
仮投下いたします。

次回予定は、「SPI-04:『神語の書』〜あなたの知らない世界〜」。
野武彦単独です。

584〜初めにブルマーありき〜(1/9) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 23:02:26
 
【タイトルSPI-03:『木星のブルマー』〜初めにブルマーありき〜】
 
(ルートC:3日目 PM02:30 D−6 西の森外れ・小屋3)


この世に、有り得ないは有り得ない。

   ―――初めにブルマーありき

神がブルマーを元に天地創造した。
そんなけったいな世界が、確かにあった。
亡き常葉愛の出身世界の話である。

   ―――ブルマーは神と共にありき
   ―――ブルマーは神であった

月夜御名紗霧がUSBから発掘したアイテム管理ファイル。
その「木星のブルマー」の項は、天地創造の壮大な一節から始まっていた。
紗霧は目をこすり、再び読みかえす。

   ―――初めにブルマーありき
   ―――ブルマーは神と共にありき
   ―――ブルマーは神であった

「ええ、と……」

何度読み返しても、文面に変化は無かった。

「ユリーシャさん。 ちょっとここの文章、音読していただけます?」
「初めにブルマー……」
「了解です。おっけーです。飲み込みましょう」

585〜初めにブルマーありき〜(2/9) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 23:03:34
 
そこまでして、紗霧はようやく己の目に狂いが無かったことを認めた。

   ―――地球にブルマーをもたらしたブルマー星人
   ―――地球を包むブルマニウム粒子

「ユリーシャさん。ちょっとここの文章、音読していただけます?」
「地球にブルマー……」
「了解です。おっけーです。次行きましょう」

   ―――地球全土のブルマー化を目論む悪の集団「BB団 ビッグブルマー団」。
   ―――世界のブルマーバランスを監視する国際機構「MIB ブルマーの男たち」。
   ―――この影の二大組織が血眼で奪い合う「神のブルマー」。

「ユリーシャさん。ちょっとここの……」
「紗霧殿、戦うのじゃ、現実と」

   ―――「神のブルマー」とは古代の超兵器である。
   ―――存在が確認されているのは二着のみ。
   ―――「常葉愛」が装着する「月のブルマー」。
   ―――BB団のブルロイド「B」が装着する「木星のブルマー」。

「諦めがついたら、なんだか楽しくすらなって来ましたね」
「いい按配に頭が茹だった、なんとも胸躍る設定じゃな!」
「そうですか……? 恥を知らない世界だと思います」

それから10キロバイト少々。
木星のブルマーに関する、無駄に壮大な一通りの資料を読み終えた紗霧は、
目眩めく偏執的なくだらなさに心底辟易し、深い溜息をついた。
しかし、半信半疑ながらも、その秘めたる強大な力は、理解できた。

586〜初めにブルマーありき〜(3/9) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 23:04:18
〜初めにブルマーありき〜(3/9)#ErogeOnly
 
木星のブルマー。

それは、世界を滅ぼす破壊の力にもなり。
それは、世界を慈愛で満たす力にもなり。
神の隣に座る資格すら得ることができる。

この記載にもまた、偽りが無い。
古代に栄えた二大大陸文明を滅ぼしたブルマー裾入れ派と裾出し派の戦い―――
エンシェント・ブルマゲドン。
その始まりを担ったのが神のブルマーならば、
その終わりを担ったのも神のブルマーであった故に。

無論、参加者・常葉愛が装着していた「月のブルマー」の如く、
或いはアズライトやイズ・ホゥトリャの如く、
このアイテムもまた、金卵神によって何らかの制限は課されているであろう。
それでも、チートといえば、この上なきチートアイテムである。

と、そこまでは良かった。
問題は、テキストの最後に記されていた「適格者」の項目であった。

「……」
「……」

黙して瞳を交わす、紗霧とユリーシャに、
わざとらしい咳払いをしつつ、狼狽を隠せぬ野武彦。

「ううむ…… おほん、ごっほん」

587〜初めにブルマーありき〜(4/9) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 23:05:57
 
全く残念なことながら。
神代より伝わる超兵器の神秘に触れる資格を、紗霧は有していなかった。
隣に座るユリーシャにしても、同様である。
だが、この居心地の悪い空気は、落胆による物では無い。
羞恥によるものであった。

   ―――純潔であること。

処女しか使えぬアイテムであった。

そうして、生存者を俯瞰してみれば。
仁村知佳とて、思いを寄せる異性と望まぬ契りを交わしているし、
童女しおりに至っては、生存者の誰よりも性経験が豊富であった。
又、主催者サイドに目を移しても。
カモミール芹沢は多情で鳴らした徒女(アダージョ)であるし、
椎名智機もレイプに近い強引な手管で処女を散らされている。
透子は【御陵透子】であった頃の肉体は全き乙女ではあったものの、
その真たる【透子】の部分では、パートナーとは身も心も一つ
誰も彼も揃って非資格者であった。

「どうしたもんですかね……?」
「あの…… 一応わし、適格者なのじゃが?」

30過ぎまで童貞を守ると魔法使いになることが出来るという。
その倍もの年齢、さくらんぼを熟成させてきた場合、
大賢者か、仙人にでもなるのであろうか。

「そんな衝撃のカミングアウト、要りません」
「あなたのブルマ姿など、見るに耐えません」

588〜初めにブルマーありき〜(5/9) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 23:08:00
 
紗霧とユリーシャの悲しきW突っ込みが野武彦の臓腑をえぐった時、
元気に玄関の扉が開かれた。

「あったよー!」

煤と灰に塗れた真っ白で真っ黒な顔ににっこりと笑顔を浮かべ、
その手に、サイドラインの入った小さな濃紺のブルマを握って。
もとい。
ビニール袋の中に入れて。
広場まひるの帰還である。

シークレットポイント、№03。
東の森の木の一本に、小鳥の巣箱に偽装してあったそこは、
昨晩の火災で、消し炭になってしまっていた。
通常のアイテムであれば、巣箱と同じく燃え尽きていたであろう。
しかし、そこにあったのは神の手になるオーパーツ。
業火を物ともせず、焦げ付き一つつく事は無く。
輝きすら放ち、まひるの到着を待っていたのであった。


「「「居た!!」」」


まひるの華奢な体操着姿と、袋詰めの超兵器を見て、野武彦たちの心が一つになった。

「お? お? 声が揃っちゃうほどあたしの顔が見たかった?」

勘違いしたまひるが、笑顔全開でてとてとと野武彦に駆け寄る。
その脇から、ぬうと黒い影が手を伸ばした。
月夜御名紗霧である。

589〜初めにブルマーありき〜(6/9) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 23:08:52
 
「とりあえずジジイは外に出てなさい。ここからは乙女会議です」
「うむ、心得た。後は任せたぞい、軍師殿。
 というより、まひるちんが帰ってきたのじゃから、
 わしは『神語の書』捜索に向かおうと思うのじゃが?」
「了承です。かのアイテムは最重要アイテム。
 是非入手して頂きたい…… ところですが。
 何分、崩落後の危険地帯です。
 貴方の身の危険を押してまでの調査は不要です。
 五体無事で帰ってきなさい、魔窟堂野武彦」

その判断は、野武彦を戦術の駒と見ての発言である。
理の天秤の軽重であり、決して優しさのみから出たものでは無い。
それでも。
その何%かの成分は、確かに紗霧なりの同胞意識から成っていた。

「その命、しかと受けたのじゃ!」

野武彦は奮い立つ。
紗霧に対する篠原秋穂殺害の疑いは、未だ頭の片隅にはある。
しかし、今は。
それよりも、圧倒的比重で。
紗霧への軍師としての信頼感と仲間意識が、勝っている。

「じっちゃん、気をつけてね!」
「いってらっしゃいませ」
「合点じゃ!」

野武彦は人差し指と中指を立てた左手を横に寝かせるとこめかみに当て、
ウインクを決めるや、ビッとその手を突き出した。
それは多分なにかのヒーローの決めポーズなのであろうが、
残念なことにまひる達にその意図は伝わらなかった。

590〜初めにブルマーありき〜(7/9) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 23:10:32
 
「世代の違い、かの……」

寂しそうに背中を丸めて、野武彦が小屋を後にする。
カスタムジンジャーの軽快なモーター音が遠ざかっていった。
その音が完全に聞こえなくなったことを確認し、
隣室で眠る高町恭也の寝息を確認した上で、
紗霧は、猫撫で声で、まひるに話しかけた。

「さて…… 広場まひる」
「はひ?」
「あなたは、自分が女性であると主張していますね」
「残念ながら世間の風当たりは強いですが」
「世界があなたを否定しても、私は貴女を認めますよ。
 あなたは女の子。貴方ではなく貴女。まちがいない」
「広場さんは女の子。だれより素敵な可愛い子」

紗霧の優しい囁きを、ユリーシャが補強する。
腹にイチモツ抱える者同士、意外と息の合うところを見せている。
しかし、腹芸に鈍感なまひるは、彼女らの含みに気付くことなく、
素直に嬉しくなって、調子に乗った。

「でへへぇ…… やっぱり? そう思っちゃいます?
 やだなーもー、いくらホントのこととは言え、照れちゃうなー」
「で、純潔ですか?」
「ぶうううっ!?」

紗霧の問いは突然跳ねた。
予想もしない方向に、恥ずかしくてならぬ内容に。
まひるは顔を真っ赤にして抗議する。

591〜初めにブルマーありき〜(8/9) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 23:12:15
 
「不埒、不埒、極めて不埒っ!!
 そーゆーデリケートな問題を尋ねるときは、オブラートに包むってゆーか……
 てゆーか、そもそも何でそんなこと聞かれなくちゃいけないのさ!」
「理由はあります。ユリーシャさん、適格者の部分を」
「はい」

ユリーシャはモバイルPCの液晶画面をスクロールさせた。
そこには、木星のブルマーの兵器性能と適格者の条件が表示されていた。

   ―――ブルマー衝撃波
   ―――ブルマーミラージュ
   ―――ブルブレイド
   ―――ブルマーの輝き

「これなんていい意味で酷いですよ、大陸弾道ブルマー。
 NK民主主義人民共和国世襲元首がテポドンミサイルを発射する!」
「なにそれ、ふざけてるの!?」
「それは履かなきゃわからない」

その後も、まひる、黙読することしばし。
読み終わると同時に、諦めたような溜息をついた。

「わかりましたか、大事なことなんです。
 答えなさい。あなたのエッチ経験を赤裸々に」
「う…… わかるけど、わかるけどさあ!
 だったら紗霧さんとユリーシャさんも言ってよ
 あたし一人だけ告白なんて、そんなの恥ずかし過ぎ!」
「私が適格者だったら、いちいちあなたに聞きません」
「ランス様に…… 可愛がって頂いております……」

592〜初めにブルマーありき〜(9/9) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 23:13:35
 
キレ気味に言い捨てる紗霧。
夢見る瞳で語るユリーシャ。
共に即断。

「ま、まあ…… ピュアであることに、誇りと劣等感をもってるけどさ……」

その勢いに、結局は正直に答えてしまうまひるであった。

「なら決定です。履きなさい」
「……そーくるよね、やっぱり」

可愛くぐずりながらも、まひるは装着に同意した。
どの道体操着。
レギンスからブルマーに履き替えること事態に、さほど抵抗感はなかった。

「履き替えたけど?」
「では、ブルーミングしてみましょう」
「ブルーミング?」

ユリーシャは黙って液晶画面の該当項目をスクロールさせる。

   ―――ブルーミングとは。
   ―――装着者の性的興奮を基準とする発汗や発熱、愛液によって、
   ―――ブルマの内部のムレムレ度を高めることである。

「……」
「……」
「……オカズが必要でしたら、パンチラまでなら協力しますよ?」
「やっぱりオトコのコって思ってんじゃん!!!」

            ↓

593〜初めにブルマーありき〜(情報 1/2) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 23:14:54
 
(ルートC)
 
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、果し合いに臨む】
【備考:全員、首輪解除済み】

【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3】

【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:スペツナズナイフ、フラッシュ紙コップ】

【月夜御名紗霧(元№36) with ナース服】
【スタンス:状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:グロック17(残弾 16)、金属バット、ボウガン、対人レーダー、指輪型爆弾】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷、性行為嫌悪】

【広場まひる(元№38) with 体操服 & 木星のブルマー】
【所持品:グロック17(残弾 16)、せんべい袋(残 13/45)】

 ※木星のブルマーは、まひると野武彦が適格かもしれません。
 ※適格ならばレベル1のブルマー技が使用できる筈ですが、
 ※ムレムレ度を上げることが至難です。

594〜初めにブルマーありき〜(情報 2/2) ◆VnfocaQoW2:2011/03/07(月) 23:16:07
 
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3 → C−4 隠し部屋】
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:454カスール(残弾 3)、鍵×2、簡易通信機・小、
     軍用オイルライター、ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング
     カスタムジンジャー(←共有物)、斧(←共有物)】


【西の小屋内・グループ所持品】
  [日用品]
    スコップ・小、スコップ・大、工具、竹篭、救急セット、薬品・簡易医療器具
    白チョーク1箱、文房具、生活用品、指輪型爆弾
  [武器]
    小太刀、鋼糸、アイスピック、斧×2、鉈×1、レーザーガン、メス
  [機器]
    モバイルPC、USBメモリ、プリンタ、分機解放スイッチ、解除装置、
    簡易通信機・小、簡易通信機・大、簡易通信機素材(インカム等)一式×5、
    カスタムジンジャー×2
  [食料]
    小麦粉、香辛料、干し肉、保存食
  [その他]
    手錠×2、メイド服、SPの鍵×4、謎のペン×15

595 ◆HbAb3YhfJ6:2011/03/07(月) 23:21:40
 
トリップ暴露してしまいました……
騙りが出ることは無いかとは思いますが、念のため、
上記トリップに変更させて頂きます。

596 ◆HbAb3YhfJ6:2011/03/09(水) 21:40:14

以下14レス「SPI-04:『神語の書』〜あなたの知らない世界〜」を、
仮投下いたします。

次回予定は、「ひとであり/ひとでなし」。
しおりと知佳が中心です。

597〜あなたの知らない世界〜(1/13) ◆HbAb3YhfJ6:2011/03/09(水) 21:40:59
 
【タイトル:SPI-04:『神語の書』〜あなたの知らない世界〜】
 
(ルートC:3日目 PM03:30 C−4 山中)


「思ったより大規模に崩れておるの…… くわばらくわばら」

座標C−4。島北西部に位置する山岳地帯。
魔窟堂野武彦はその区画に立ち入ってすぐに、敵の本拠地跡を発見した。
山岳の地下に掘りぬかれていた基地は発破により支柱が破壊された為に崩落し、
山肌を巻き込んでクレーターの如く陥没していた。
底は見えず、砂埃は未だ治まっていない。

「なんとしても手に入れたい紙片なのじゃがなあ……
 やはりこの崩落に巻き込まれてしもうたかのぅ」
 
スペシャルアイテム№04『神語の書(一枚)』。
№03『木星のブルマー』と同じく、USBメモリから読み取ったその効能とは。
 
   ―――世界を書き込んだ内容に改変する
 
御陵透子の【世界の読み替え】に等しいものであった。
否。記入者の任意に改変できるのであるから、それ以上であると言える。
その凄まじき効力ゆえに、たった一枚しか用意できないのであろう。

   さて、そのアイテムの現在位置であるが。
   野武彦の悪い予想を裏切らず、地盤崩落で地中深くに没していた。
   ケイブリスでもいれば掘り起こしも出来ようが、
   今の小屋組の力で、小屋組の装備で、それを入手することは、
   残念ながら不可能であった。

598〜あなたの知らない世界〜(2/13) ◆HbAb3YhfJ6:2011/03/09(水) 21:42:48
 
「残念じゃが、単独では如何ともしがたいのぅ」

足場は不安定。
下に降りるルートも皆無。
その上、いつ二時崩落が発生してもおかしくないきな臭さを漂わせていた。
故に、野武彦はクレーターを降りることを諦めた。
しかし、神語の書の捜索を諦めたのかというと、そうではない。
日没までには、まだ一時間以上の時間がある。
C−4地区の捜索は始まったばかりである。

野武彦は更に山を歩く。
注意深く周囲の岩や地面に目を凝らして、人工物を探しながら。
ごろごろと礫岩が無造作に転がる斜面を、禿げ山を、登る。
それから、約30分。

「あれは……」

足早に傾斜を登った野武彦がたどり着いたのは、
岩肌をドーム状に開いた、オープンルームであった。
テラスの中央には、巨大な投擲機が鎮座していた。
主催者基地・カタパルト投擲施設である。

この施設のみが崩落を免れたのは、偶然ではない。

カタパルトのそのものの重量。
かかる荷重。
投擲運動エネルギー。
 
それらの負荷は非常に高く、強固な足場を必要とした。
故にオリジナル智機は、配置したのである。
足元に空洞が無く、地盤が強固で、基地から距離をやや隔てた位置に。

599〜あなたの知らない世界〜(3/13) ◆HbAb3YhfJ6:2011/03/09(水) 21:43:39
 
「シークレットポイントでは、なさそうじゃが……」

呟きとともに、野武彦は室内を調査する。
中心施設であるカタパルトは、磨耗により破損していた。
コンソールも無通電により電源が入らなかった。
その他機器もコンソールに同様であった。
ただ1台。
バッテリー残量があったことが幸いし、ノートPCのみが起動した。

「ふむ、収穫はこれだけかの」

その端末は、代行N−22が、拠点崩落の直前まで使用していた端末であった。
管制室の情報集積サーバのミラーリング機であった。
野武彦に奪わせたUSBメモリのデータは、
この中のデータを厳選し、コピーをとったものであった。
 
つまりは。
N−21の選別から漏れたデータが、そこには眠っている。
N−21が選択的に除いたデータも、そこには眠っている。
その眠れるマシンを。
野武彦は、起こしてしまったのである。

野武彦の知らぬ智機世界のOSが、20秒ほどで立ち上がる。
デスクトップには、幾つかのモニタリング情報へのショートカットが
整然と並べられていた。
その中に、一際目を引くフォルダがあった。



【死亡者情報】
.

600〜あなたの知らない世界〜(4/13) ◆HbAb3YhfJ6:2011/03/09(水) 21:44:30
 
 
ドクン。

その五文字を目にした瞬間、野武彦の心臓が跳ねた。

ドクン。

野武彦の額に、脂汗が流れる。

ドクン。

まるで酸欠の金魚の如く、口をせわしなく開閉している。

ドクン。

ちりり、ちりりと。
野武彦のこめかみが、鳴っている。

(知佳殿やアイン殿は生きているのか?)

それを、知ることができる。
それは、大きな収穫である。

だが、ここで得られる情報は。
得てしまう情報は。
決して、それだけに止まらぬ。

(ボウガンの出所は? 秋穂殿を殺したのは?)

野武彦の胸中の奥底に、ずっと眠らせていた思いが、
棚上げしていた疑念が、にゅるりと鎌首をもたげた。


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