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ちょっと短めのSS投下スレ

1KINO </b><font color=#FF0000>(.KINOKeY)</font><b>:2004/03/19(金) 23:49
ちょっと短めのエロなしSSの投下スレです。

129ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>:2004/08/13(金) 00:44
///
細かいこと気にしちゃイヤンw>128
はいご指摘のとおりです。
あうぅ・・・
感想ありがとうw

130苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/08/13(金) 03:20
>ABCさん
ウソップ・゚・(ノД`)・゚・
本誌の状況と相まって、泣けました。
>あなたが選んだその夢が。正しいことを祈って。
どんな結末を選んでも、歩き続けてほしいです、彼には。
素敵な物語をありがとうございました。

>ABCさん、柊さん、Bさん
感想ありがとうございます。
ワンピの登場人物は、皆辛い過去を持っているから、
深く書こうと思っても、書ききれないんですが、そこが表現できたらと思います。

131雑談281=128=柊:2004/08/13(金) 17:36
でした…。
名無しで雑談してごめんなさい。
今までbump好きなこと黙っててごめんなさい。
実は1枚目のアルバムから聞き続けててごめんなさい。

>ABC様
>あいつらを失った旅の中で・・・俺は何を求めるんだろう・・・
ウソップー!どうなるんだろう…。悲しいけど、いいお話でした。
ありがとうございました。

132B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>:2004/08/17(火) 17:00
ABCさん
ウソップ話、切なくて…泣きました(つД`)
やるせないウソップの心境を思うと……。
素敵なSS、お疲れ様でした!
そしてこれから、どうなっちまうんでしょう。激しく気になります。

133見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>:2004/08/18(水) 20:01
えー、Mr.1×ミス・ダブルフィンガーを投下させてください。
…というか、ダズ・ボーネス×ポーラというべきか。
***************
「告白」



毎週水曜日は、スパイダース・カフェの定休日。
本当ならば今日も水曜だから、お店は休みなのだけれども。
一寸した事情で開けている。




店を開ければ不思議と誰かは来るもの。
Mr.2が任務の帰りに立ち寄ってくれた。
この店の数多い常連客の中でも、一番にぎやかで面白い人。
「今度の任務はどうだったの? Mr.2?」
「それがねぇ〜〜ん、もぉ聞いてよポーラッ!! ゼロちゃんたらこのあちしに、
パシリよっ、パ・シ・リ! チョー心外だわッ!!」
Mr.2はカウンターを叩きながら、好物のタコパを口いっぱいに頬張って、
張り切って出かけたのに大した任務でなかったことの愚痴を零す。
「まっ、小さな仕事の積み重ねが大事だって思うことにするわん……それにしてもポーラ、
今日は定休日なのにな〜〜〜〜んだってお店開けてるわけぇー?」
「えっ……? ああ、ちょっと……特に用も無いから、開けていれば誰か来るかしらと思って……」

134774万ベリーの賞金首:2004/08/18(水) 20:02
「そーお、働きすぎは身体に毒よぉん、休みの日にはゆっくり休養しないとねん?」
「そうね、……今度からそうするわ」
「その上辛気臭い曲なんか掛けてぇ〜〜ん、駄目よぉ、ポーラ!」
……辛気臭い?
今日のBGMは、あの人の好きな、古いブルース。
明るく楽しいことが大好きなMr.2には、この憂歌は辛気臭く聞こえるのかもしれない。
あの人の好きなお茶も、いつでも出せるようにちゃんとセッティング済み。
リトグラフも、あの人が一番気に入ってたものに替えて……。




今日の全ては、十日前のあの人への返事。
明確な言葉は無かったけれど、あれは立派な告白だった。




"……ポーラ"
柄にも無く改まって、俯いて……閉店後の店の前だった。
"大切な、話があるんだ"
"……Mr.1? ……どうしたの?"
"Mr.ではなく、ダズ・ボーネスとして……だ。ポーラ"
"……えっ?"
彼がこんな風に改まることなんて今まで無かった。
その上、仕事上のパートナーとしてのMr.1としてでなく、ダズ・ボーネスとしてだなんて。

135見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>:2004/08/18(水) 20:03
"……十日後の定休日、店を開けて、待っていてくれ"



彼はただ、それだけ告げて去っていった。




……大事な話の見当くらいは付いた。
女の勘? ……いいえ、違うわ。
私も、同じ気持ちだったんだもの。
張り詰めた糸の、両側を二人でずっとずっと、引っ張り合っていたんだもの。
長い間……ずっと。
分かるわ……だって私は、待っていたんだもの。




あの人が去った後、店の前にぼんやりと立っていた私。
トクン、トクンと、心臓が早くなるのが分かった。
少女のように頬が赤くなった。胸が熱くなった。
「ボーネス…」
口にしたその名。声は、震えていた。




だから今日はこんな風に、あの人好みに店の中をしつらえて、あの人を待っているの。
Mr.2の帰った後、食器を片付けていると、不意に店の扉が開いた。
「……あら、来たようね……」

136見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>:2004/08/18(水) 20:03
「ポーラ……」
「自分で言い出した割には、来るのが遅いんじゃない?」
「悪い、ポーラ」
照れたような彼の両手には、溢れんばかりのバラの花。トゲのある、美しく赤い花。
この砂漠の近辺で、これだけのバラの花を手に入れるのは、さぞや骨の折れたことだろう。
「これを探していて、遅くなった」
彼はそれをカウンターに置いた。
「綺麗なバラね……」
「この辺りの街の花屋のバラをみんな買い占めた」
……こんな強面の賞金稼ぎが、花屋でバラの花を求めて歩き回ったなんて。
何て似合わないのかしら。……おかしくて、でも、心から嬉しくて……。
「お前のような花だと思ってな」
赤い、トゲのあるバラ。そうね、確かに私の花。
「ありがとう、ダズ・ボーネス……」
カウンター越しに背伸びをして、………彼の頬に、キスをした。
「ポッ、ポーラ!」
彼は驚いて真っ赤になって、思わず飛びのいた。
「……あなたの話の見当くらいは付いてるわ、ボーネス」
「ポーラ……」




「だって私も同じ気持ちだったんだもの……」





そして私たちの遅咲きの恋は始まった。




砂漠の果てにある、小さなカフェの女主人と、常連客の賞金稼ぎの恋。

******************

137見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>:2004/08/18(水) 20:04
以上ですノシ
途中で名無しになってる_| ̄|○

またかけたら持ち込みますーノシ

138ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>:2004/08/18(水) 22:44
・・・
いいやもう。なんでも。
言葉にできないですね。はい。
うん。ありがとうございました。おいしくいただきました。

・・・大人の女性の少女な一面は大好きです。
精一杯です。あー・・・よく眠れそうだ・・・

139たまき:2004/08/21(土) 23:11
ごちそうさまです。
幸せな気持ちになりました。
こういう幸せ物、私にはまだまだかけそうにありません。

でもこんな素敵なSSの後に投下します(がぼーん)
初投下は勇気が必要なのだ(どーん)
というわけで以下よろしくお願い致します。
ルフィ話?です。

140たまき:2004/08/21(土) 23:12
あるところにとてもかわいらしいお嬢様が住んでいました。
真っ黒な髪、キラキラした大きな目。そして、カモシカのような脚。
まっすぐ伸びた手。
でも、そのお嬢様はこれ以上なく我侭でした。その上、人の気持ちと
いうものがあまりわかりませんでした。何でも、お金で済ませればい
いと思っていました。
お嬢様は愛情を知りませんでした。ご両親はいつも仕事といって彼女のこ
とは全てSPに任せっぱなしでした。投資に夢中だったからです。

お嬢様のお屋敷には常に20人以上のSPがいました。
そのSPはとても強い人たちでした。
でも、それよりもお嬢様を誘拐しようと輩がたくさんいました。
海賊や山賊も襲ってきたこともあります。
そして、彼女を守って亡くなった人も沢山いました。
彼女はそれもあまり気にもとめずに遺族に惜しみなく金品を与えていました。
怖くて辞めた人も当然沢山おりました。

屈強な彼らの中にお嬢様に特別な感情を持った者が6人いました。
その6人は勇敢に戦うことによってお嬢様への愛情を表現していました。
我侭で人使いの荒いお嬢様でしたが、見かけではない不思議な魅力がお嬢様
には生まれながらにして備わっていたのです。

141たまき:2004/08/21(土) 23:13
彼らは誰もお嬢様や他のSPに思いを打ち明けることは決してしませんでした。
そんな、恐れ多いことは出来ないと考えていたからです。
そんな思いが手伝ったのか彼らは特に屈強でした。
闘い方は違えども事が起こるたびに先陣を切ってお嬢様を守っていました。
お嬢様は彼らに莫大な報奨金を与えようとしましたが彼らは決して受け取ろうと
しませんでした。お金で全てが解決できると思っていたお嬢様には、ねぎらい
の言葉一つかけてあげることはできませんでした。

彼らはお嬢様の笑顔が見られるだけで幸せだったのです。
そんな彼らの気持ちはお嬢様には理解できませんでした。
お金をもらわないで何でそんなに、命を張って守ってもらえるのか全く
解りません。いつのまにかそれが当たり前の行為となっていくのに時間は
かかりませんでした。

そして、そんな幸せな日々はあっという間に過ぎ去って行きました。
お嬢様の両親の投資がどんどん功を成していき、「鉱山王」といわれるように
なりました。そして、その財産を狙う輩が凶悪化していきました。
凶弾に倒れるSPが増えていきました。かの6人も例外ではありません。
一人、また一人と減っていきました。
さすがにお嬢様はこれには少しだけ堪えたみたいで寂しいと思うときが
増えていきました。そして、6人の中の最後のSPが散っていきました。

142たまき:2004/08/21(土) 23:14
その後、ご両親の投資が失敗し、お嬢様は屋敷や金品を手放し
ました。悪いことは続いておきるもので、お嬢様は不治の病に冒され
てしまいました。命の灯火が消えようとするときにお嬢様は考えました。

一体何人が私の為に亡くなって行ったのでしょう。特になんで、あの6人は
私のためだけに命を落としていったのでしょう。それなのに、私は彼ら
の為に何もしてあげることが出来なかった。優しい言葉をかけることも
出来なかった。これから私もみんなの所に逝くのでしょうけれど、恩返しが
したい。ああ、神様。次に私が生まれてくることが出来るのならば人を助け
る人生を送らせてください。

お嬢様の目から涙が溢れていました。初めて涙というものを流しました。
皮肉なことに、こうなってから初めて彼女は、優しさという感情を知りました。
そして、狂ったように何度も何度もそれを繰り返し念じました。今更ながら自
分の生き方を深く反省し後悔しました。生まれて初めて孤独を感じ
ました。そして、お嬢様の命の灯火は消えていきました。
傍らには医者しかいませんでした。不思議と死に顔は安らかでした。


数十年後。真っ黒な髪、キラキラした大きな目をもった男の子が誕生しました。
そんなに裕福ではないけれど、成長していくにつれて不思議な魅力を身につけ
ていきました。そして、彼はとても優しい子でした。

その子は後に「麦わら」とよばれ、6人の「仲間」という宝物を手に入れ、
沢山の人を幸せにしていきました。

おしまい。

143たまき:2004/08/21(土) 23:17
以上です。
完成したのは初めての作品です。
(途中が大量にありますが)
皆様とはレベルが遠いのは自覚しておりますが、
精進の場として、使わせていただきたいと思います。

144見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>:2004/08/23(月) 21:27
ABCさん、たまきさん、感想ありがとうございました。
甘いお話で、初書きカプ…緊張するw
BWその後とか、考えると色々と沸いてきます。この二人には
幸せになって欲しいなと願いつつ……。

>たまきさん
初投下お疲れ様でした。前世話で、ルフィが今と逆の性格というお話、最後まで
読んで、「なるほど」と唸りました。
前世での後悔の分を、現世で……GJです!
またの投下をお待ちしています!

145きゃべ </b><font color=#FF0000>(CSB/3Q32)</font><b>:2004/08/31(火) 17:45
>たまきさん
初投下お疲れ様でしたゞ
おとぎ話のようなスタイルで興味深く拝見させていただきました。
途中の作品も大量にあるんですね!
楽しみにお待ちしております。

そして、Bさまチャットでお会いしましたら、よろしくおながいしますです。

ここにいらっしゃるみなさんも、Bさまチャットで
「あなたの知らない世界」を体験しましょうよ!
ね、Bさん!(・∀・)!

146きょん:2004/09/01(水) 01:12
はじめまして
なんだか書いてみたくなって書いてみました。
皆様の素晴らしいものの後で緊張してます。
サンナミ ナミ視点での話を行ってみますね!

147きょん:2004/09/01(水) 01:13
男なんてただの道具だった。
今までの私にとっては。
使っていらなくなったら捨てておしまい、
そんなただの「物」だった。
だから彼の事も最初は利用するだけ利用して
捨ててしまおうと思っていた。
いや、捨てるはずだった。
今まで生きてきた私にとって必要だったのは
少しの勇気と少しの素直さだった。
だから誰にも私の本当の心をすべて見せた事は無い。
すべてを見せると私は強く生きていけないと思ったから。

148きょん:2004/09/01(水) 01:13
いつからだろう、彼の姿を自然に目が追っている自分に気が付いたのは。
「ナミさん、寝る前にコーヒーいかが?」
私の思考をふさぎるように声がする。
「ありがとう」そっけなく答えたつもりでも声が震えているのが
自分にはわかる。
意識してはいけない、と思うたびに心が意識してしまう。
こんな気持ちは生まれて初めてだ。
みんなでいても、いつも彼を探して見つめてしまう。
こんな気持ち私は知らない。
このところキッチンで毎晩のように航海日誌をつけるようになって
自然と二人きりの時間が増えた。
航海日誌をつけている私の手が震えてうまく字がかけない。

「はい、ナミさんどうぞ。航海日誌も毎日書かなくちゃならないから
大変だね〜、ま、オレに出来る事っつったらこんなことだけどもさ」
コーヒーのいい香りが彼のタバコの匂いとまじって私を包み込む。
「今日一番の自信作です、どうぞ召し上がれ」
目の前にはコーヒーと一緒に美味しそうなオレンジ色のケーキがおいてあった。
「美味しそう」
思わず口から出た言葉に彼はとても嬉しそうな顔をした
「早く食べてみてよ。ゼッテーうまいからさ。」
笑顔で私にケーキを勧めてくれる彼を見てなぜかとんでもない事を言ってしまった。
「いらないわ、こんなもの」
とたんに彼の笑顔が曇ってきた。
「私、一人で日誌書きたいのにサンジ君、邪魔よ。
もう仕事終わったんなら出てってよ!」
心とは裏腹の言葉
だって私にとって男は便利な道具。
道具に対して特別な気持ちをもつなんてそんな事は絶対にない。
絶対にしちゃいけない。

149きょん:2004/09/01(水) 01:16
でも、私は気づいてしまった。
ここ何日かで、私の本当の気持ちに。
それは、夜、二人きりで日誌を書く時間をとても楽しみにしている自分がいると言う事。
彼の事をとても好きな自分がいると言う事。
「・・・そっか、迷惑だったんならゴメンよ。
じゃ、オレ部屋に戻るから」
チョッと悲しそうな顔をして彼が背を向けた。
「でもよ、オレはナミさんが大好きだから」
テーブルの上を片付けながら彼が言う。
私も、私も、
私もあなたが好き 今ならわかる、私のこの思い。
いっそ口に出していえたら・・・
「ど、どうしたの!ナミさん、何で泣いてるの?」
「!?泣いてる?」
頬に冷たい物が流れてる、涙だ。
不安定な私の心の海はついにあふれてしまった。
彼に言われるまで泣いているのもきが付かなかった。
スッと目の前の視界が遮られた
タバコの匂いがいつもより強烈に鼻につく。
彼の手が私の手を握り胸元に引き寄せた。
そして彼の顔が一気に私に近寄り、唇が私の唇に重なる。
「ちょ、ちょっと!何するのよ。離し・・・」
両方の腕で力いっぱいに彼の胸を押して見たものの
また彼に抱きしめられてしまった。
「離してよ」
「イヤだ」
「やめてよ」
「イヤだ」
「サンジ君なんてキライよ」
どうしても私の口は心とは別のことを言ってしまう。
本当は違う事をいいたいのにどうしてもいえない。
言ってしまうと今までの私がいなくなってしまう。
「でも、オレは好きだよナミさんのこと」
やさしい言葉のシャワーが私の頭の上から降ってくる。
「ナミさんもオレの事が好きだから泣くんだよ」
「オレにはわかるんだよ」
「だってナミさんのことが大好きだから」
この人なら私は素直になっていいのだろうか?
今まで生きてきた昔を捨てて、この人と新しい幸せを見つけていいの?
必要なのは少しの勇気と少しの素直さ。
彼のシャツが私の涙でぐっしょりと濡れてしまった。
「ナミさん?」
彼のやさしい声に顔を上げた
「いいんだよ、無理しなくて」
そう、あとは少しだけ勇気をだして私が言えば言いだけだ。
その中に私のこれからの未来が待っているから。


「サンジ君、あのね・・・・・・」

150きょん:2004/09/01(水) 01:17
は〜
読むのと書くのじゃあ大違いですね。
でもこれからも頑張って書いていきますので
どうか読んでくださいね。

151ABC:2004/09/01(水) 11:02
お疲れさまです。
何だろう。素敵です。
あのね・・・のあとの言葉を勝手に妄想しています。素敵。

初投稿とは思えない出来栄えに微ジェラしつつ。
次作も期待しています。お疲れ様でした!

152苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/09/01(水) 21:11
>きょんさん
投下、お疲れ様でした。
素直になれないナミさんと、それも含めて受け止めてあげようとするサンジ。
これからのふたりの幸せを暗示するラスト。
じん、としました。
次作も期待しております。頑張ってください。

153たまき:2004/09/01(水) 22:51
>きょんさん
お疲れ様でした。かっこいいサンジ、そして、変わっていこうとするナミの
可愛らしさ。今日はゆっくり寝られそうです。ご馳走様でした。またの御投下
お待ちしております。

154見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>:2004/09/02(木) 17:12
>きょんさん
初投下、お疲れ様でした!

あのね…の後の二人を想像して、ドキドキしています。
ナミさんが幸せになれるといいなぁと願いつつ。

良かったです! 次もお待ちしています!

155見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>:2004/09/27(月) 18:43
お久しぶりですノシ
というわけで、SS投下させてください。
エース→マキノです。

******************
「17歳のBLUES」


生まれて初めて飲んだ酒は、別れの杯だった。




そしてそのとき、生まれて初めて嘘をついた。





「エースの未来に、乾杯」
「……乾杯」
カウンター越しに、古いグラスがカチンと音を立てた。
棚の奥から出してきた年代モノの酒を、マキノはカウンターの向こうで一気に煽った。
いつもは酒を振舞うだけで、勧められても一口も飲まない癖に。
「…ホラ、エースも飲みなさい」
「……あ、うん」
「あなたのお祝いなんだから、今日は」
「……そう、だよな、うん」
「海賊になるんだもの、お酒くらい飲めないとね」
言われて、グラスに口をつける。
生まれて初めて飲んだ酒は、沸かしてもないのに喉が焼けるほど熱かった。
「……すっげえ味…」
「美味しいでしょ? うちの店の取って置きよ。一杯何千ベリーもするんだから」
「そんなにすんのか?……よくわかんねえ……」
「そのうち分かるわよ」

156見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>:2004/09/27(月) 18:43
ほんのり頬を赤くして、マキノは二杯目を自分で注いでいる。





……俺は明日、この島を出る。





生まれて初めてのウソをついて。





「……なあ、マキノ」
「なぁに?」
「ルフィのこと、頼むな。迷惑掛けるけど」
「迷惑だなんて、思ったことはないわ……私にとっては、ルフィもエースも弟みたいなものだもの
身寄りのない俺とルフィにとって、マキノは母でもあり姉でもあった。
「それよりもエース」
「ん?」
「明日には島を出るのよ、心残りはない?」
「………」
そう、明日の朝には島を出る。
自分で半年かかって作った手漕ぎ船で、海賊になるために俺は海に出る。
今度いつ、この島に帰ってこられるかなんて分からない。
ジジイになるまでこの島の土を踏むことはないかもしれない。
いや、もしかしたら、一生………。
「……心残りは、あってはだめよ」
小さな子供に言い聞かせるように、マキノは言った。
マキノは今までこの店で、たくさんの船乗りや旅人を見送ってきた。

157見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>:2004/09/27(月) 18:44
わけあって故郷を離れた者、旅路で一生を終えることを決意している者……色んな人間が来た。
その誰もが口をそろえて言ったこと。
『心残りはよくないことだ』と。
旅に出る前に、船に乗る前に、故郷を離れる前に。
やり残したこと、言い残したこと。
残したことはいつまでもいつまでも、心に付きまとい、離れず、それは自分を苦しめるのだと。




『好きな子には、好きだと言ってから航海に出るんだよ、坊主』
寄港した商船の年老いた船乗りは、そういって固目を瞑った。
『航海から戻ったときにその子が他の男と幸せになっていても、ダメージは少しで済むからね』
言われた時、俺は12だった。
その時、心に浮かんだのはマキノのこと。
母でも姉でもない、第三のマキノを俺の中に認めたのは、その時だった。




「……ん、無いよ、なんにも」
目を、逸らして言った。
「ルフィのことは心残りって言うより心配の範疇だしな……俺自身のことは、何もないよ。マキノ。
やり残したことも、誰かに言い残したことも無いよ」
「そう、ならいいの……」
笑ったマキノの顔。この島の女の誰よりも綺麗だ。
もう、この笑顔は見られないかもしれない。
「エースには、素敵な航海をして欲しいから」
いつも優しく、でも時々しかられたこの声も、もう……。

158見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>:2004/09/27(月) 18:45
生まれて初めてついたウソ。
それを隠すように、焼けるような酒を一気に煽った。





散々飲み食いして、日付が変わる前に家に戻った。
ルフィは早々と鼾かいて寝てた。
俺の部屋は明日の出発を控え、少しの手荷物以外は何もなく片付いていた。
……初めて飲んだ酒のせいで、頭がちょっとぼーっとしてる。
ベッドに大の字になり、薄汚れた天井を見上げ、マキノの顔を思い浮かべる。
「……心残りなんて、一杯あるよ……」
搾り出すように呟いた。
「だって俺、まだマキノに好きだって言ってねぇし……」
言ってない……言えない。
遠く記憶の奥深く、いつだったかこの島に来たあの赤い髪の男のように。
マキノに愛を告白してその心を掴んだまま旅立って、それきり何の音沙汰も無く……
店の裏でマキノを一人泣かせたくはないから。






俺が苦しんで済むのなら、この気持ちは言わない方がいい。
……マキノを悲しませるんなら、嘘ついたほうがずっといい。
マキノにはいつだって、カウンターの向こうで笑っていて欲しいから……だから。




……生まれて初めて、嘘をついた。生まれて初めて、酒を飲みながら。
あの酒の味は、きっと嘘の味なんだろう。

(END)
*****************************

159見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>:2004/09/27(月) 18:47
以上ですノシ
また書けたら持ち込みます〜。
もう直ぐ10月ですね……10月。


パラレルで運動会ネタとか……?

160774万ベリーの賞金首:2004/09/29(水) 00:01
見習Bさん乙です!
エースの思いやりと決意が切ないっす。
ほろ苦く胸に染みる、SSに酔った気分です。
美味しいSSゴチでした!

161苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/10/03(日) 16:42
>Bさん
お疲れ様でした! いいものを、ありがとうございます!
エース→マキノ…切ないですねぇ…
嘘をつかなければと思わずにいられなかったエースの決心にほろりときました。
Bさんの書くエースは最高にかっこいいです!

162よむこ:2004/10/03(日) 17:12
>Bさま
お疲れさまでした。
旅立つ少年の決意、男らしくてよかったです。
初めてのお酒も嘘も、とても苦くて…
これらがうまくなっていくことが、
大人になるってことなんですかねぇ…と切なく感じました。
素敵なお話をありがとうございました。

163海軍婦人会:2004/10/23(土) 14:27
はじめまして。
エロ無しは、こちらなんですよね。
本スレは、私の認識違いのために、ちょっと荒らしてしまいましたね。
どうも失礼しました。
あのあと、PCがちょっとした事情で、要修理となってしまい、
すっかり遅レスになってしまってすみません。

ところで、わたしの世界で2番目に愛している帆船、
海王丸が、あぼ〜んしてしまいました。
あまりの悲しみに、一本書いてしまいましたんで、
お目汚しですが、お付き合いください。

164海軍婦人会@たしぎ:2004/10/23(土) 14:30
「キング・オブ・イーストブルー」

 シリウスの光が、船上を照らしていた。
 船は、星の示す航路をひたすら追いかけていく。
 たとえば、故郷に残してきた恋人が待ちわびる場所へ、
 ひたすら急ぐように。
 南風を受けやすいように、ヤードを少し回転させる。
 満天の星空の海に、フォア、メイン、ミズン、スパンカー
 全てのマストに帆が広げられ、
 月の光を受けて青白く輝いて見える。
 そして、月の光にきらめく海上を滑るように、さらに加速していく。

 「・・・それで、今、速度はどれくらいなんだ。」
 低く、そしてどことなく甘さを含んだ声だった。
 「は、はい。現在、当艦は、平均速度10.2ノットで航行しています」
 いきなりの質問に、たまたま近くで作業していた女子訓練生は、ちょっとどぎまぎしながら答えた。
 「これから、角岬を目標として航海し、そのあとバル=バラッソに向かう予定です」
 「夜間航海で10.2ノットか。
 さすが、キング・オブ・イーストブルーの名を持つ船だ。速いな。」
 「当艦は夜が明け次第、天候さえ良ければ、帆をフルに展帆します。
 最高船速13ノットが出ればいいのですが。」
 少佐の記章をつけた男からは、染みついた煙草の匂いがした。
 「たしぎ君だったね。第三班の班長さんか。
 訓練航海はどんなもんだね。」
 「はい。今のところは順調です。」
 当たり障りのない答えだった。
 「何が、順調なのかな。航海か?それとも、キミの単位取得がか?」
 すべて無難にこなせれば、それでいい。
 そんな優等生的な考えを見透かした、意地悪な質問。
 「スモーカー。なに新兵いじめしてんの。
 士官学校の航海実習生なんて、そんなもんだわ。
 たしぎ候補生、こういう意地悪な上官もいるから、当たり障りのない答えではなくて、
ある程度明快な意志を表明する練習をしておくことね。
 将来、士官となって、部下を指揮する立場にあるものは、部下が迷ってしまうような、
中途半端な言動はよくないわ。」
 「はっ。ヒナ艦長。ご忠告、有り難うございます。」
 「ミズンマストの天辺に立つ資格を持つ優等生が、そんな事では困るわよ。
 スモーカー、ヒナ、寒いからコーヒーが飲みたくってよ。つきあいなさい。」
 いくら天候が良い航海とはいえ、10ノットを超えるレース中の船上で、
艦長の10㎝ピンヒールは僅かにもよろける気配がない。
 たしぎは、その事に多少尊敬の念を抱いて、二人の背中を見送った。

165海軍婦人会@たしぎ:2004/10/23(土) 14:31

 コツコツコツ。
 艦長のヒールの音が、居住区に降りる階段に響く。
 「なんで、あなたが航海実習なんかについてきたの?
 青田刈りのつもり?」
 「いや、ただの物見遊山なんだがね。海軍本部から正式な配属辞令が降りるまで、
 何もしないのもアレだろう。
 たまたま今回、おまえさんがこの船の艦長代理を拝命したって聞いたんで、
オレも一応、昔航海実習したし、その、あれだ。ま、ノスタルジーというやつだ。」
 「さっき、たしぎちゃんにしてあげた忠告、あれ、あなたにもそのまましてあげる」
 スモーカー少佐は、ウォーマーに置かれたポットから二つのカップにコーヒーを注ぎ、
先に席についていた艦長の前に置いた。
 「ところで、ミズンマストの天辺に立つ、って、怖くないか?」
 「馴れたら、そうでもなくってよ。でも、最初のうちは、足がすくむわね。
でも、天辺のヤードの先ほどではないわ。」
 「オレは、メインマストの下から2番目だったからな。
 女はとにかく、テストの点数だけは良いから、どうしても上の方にいくな。
 それにしても、たしぎって奴、けっこうな度胸じゃないか。
 スタートの時の登檣礼の時も、あんなところに立って、堂々としていた。」
 スモーカーは葉巻の口を切った。
 「あれ、ズルしてるわ。」
 「え?」
 「あの子、かなり目が悪いはずよ。だから、マストの天辺にいても、高さが判らないのよ。
 多分、規定の視力に達していないわね。」
 「視力検査があっただろう。」
 「海軍が採用している視力検査表のパターンは3つ。
 優等生なら、簡単に暗記してしまうわね。
 でも、従来、本部の高級将校の推薦があれば、多少の瑕疵には目をつぶってきたのだから、
推薦学生でなくても、一度入ってしまったら、
本人の資質と志が優れていれば大した問題ではないわ。
 教官たちの間では、とっくに周知の事なんだけれども、根が真面目なお嬢さんだから、
眼鏡が必要な事がバレルと退学させられるとでも思っているんでしょうね。
とにかく、勉強熱心だし、黒板に書いたことも、あらかじめの予習で頭に入っているものだから、
当てられてもすらすらと答えてしまって、視力が悪いという事を感じさせないの。
 それで、本当のところを告白させようと思って、職員しかやらないワッチ当直を、
優等生だからっていう理由で、彼女にも割り振ってみたんだけど、しっぽ見せない。
 でも、いつまでも眼鏡無しでは、このまま仕事を続けていく事はできないし、
海技免許の取得は怪しいわね。あれは検査表によらない検査だから。」
 艦長は、マニキュアの剥がれを点検するように、自分の指を触りながら云った。
 「そうだ。免許といえば、スモーカー。昇進試験のときの補講テキスト、返して。」
 「え?返しただろう」
 スモーカーはゆっくりと煙を吐き出しながら云った。
 「ヒナ、受け取っていないわ。」
 「え? あ。。。試験場に忘れてきたか。」

166海軍婦人会@たしぎ:2004/10/23(土) 14:31

 ワッチの時間になり、たしぎはマストの見張り台に立った。
 まだ暗い海だから、眼鏡をかけても大丈夫。
 胸ポケットから、そっと眼鏡を取りだした。
 見下ろせば、左舷に赤い灯火、右舷に緑の灯火。
 船の姿勢を示す重要な光だ。
 洋上を見晴らせば、他に灯火はない。
 この船に追いつく速度の艦船は、他にはやはり無いのだろう。
 キング・オブ・イーストブルー。
 イーストブルー最速のフリゲート艦にして、士官学校の象徴たる練習船。
 あこがれの海軍士官学校に入る事はできた。
 なんとか、首席のあたりの一団にとりついている。
 でも、本当に求める道は、洋上にあるのだろうか?
 何を求めて海軍に入ったのだろう。
 たしぎは記憶を呼び起こした。
 そう、強い奴を捜して来た。
 剣の道を一応究め、近隣に、相手になる強い奴がいなかった。
 もしや海軍には居るのではないかと思った。
 気が付けば、当たり障りのない成績で卒業して、
 そこそこの地位の役職につけばいいと思っている自分がいた。
 明快な意志と、ヒナ少佐は云った。
 明快な意志を忘れていた自分が居た。
 水平線が大きな弧を描き、空がほんのりと紅を帯びる。
 このまま、航海士官の道を歩むべきなのだろうか。
 航海士官。士官学校出身者には、もっともスタンダードなエリートコース。
 航海士官を経て、順調に海上での資格を上げていき、最終的に海軍提督となる事。
 それが士官学校生の夢。

 でも、と、たしぎはつぶやいた。
 風に、唇が震えた。
 十字架の形に、空の星を辿った。
 月は西に傾いていたが、まだ空から船を照らしていた。
 ふと、下を見た。
 マストの高さに、ふと恐怖を覚え、足がすくむ。
 たしぎは視線を外した。

167海軍婦人会@たしぎ:2004/10/23(土) 14:32

 完全に夜が明け切らぬ頃、たしぎはマストから降りてきた。
 士官と、数名の候補生が整列していた。
 ヒナ艦長は、彼らの前に立った。
 「さきほど、この海域にあるバリンガー島の漁村が、
海賊の襲撃にあっているとの緊急連絡が、海軍支部よりありました。
 至近の海軍艦隊が到着するまで、6時間を要しますが、
当艦が全速で帆走すれば、2時間ほどで到着できる位置にあります。
 したがって、一時的にレースより離脱し、ウェアリングにて艦を反転後、
バリンガー島に向かいます。
 総員、戦闘態勢を整えながら待機、候補生第一班はウェアリング要員として配置に就くこと。
 当艦は実習船であり、戦闘艦ではありません。
候補生諸君は、住民の負傷者の救助を最優先に行動すること。
あくまで、後続する艦隊が到着するまで、住民の救助と、海賊からの保護を目的とします。
避けられる戦闘は回避すること。
 また、候補生のなかで、白兵戦に参加できる技量の者がいれば申し出なさい。
 スモーカー少佐の指揮下に入ってもらいます。」
 艦長の指示は、艦内放送を通じて、全艦に伝えられた。
 「第一班、集合」
 候補生の一団が甲板に整列した。
 「ただ今より、当艦は、ウェアリングにて反転行動を行う。
 解散命令後、各員配置につけ」
 操帆教官が声を張り上げる。
 「解散。」
 一同は駆け足で配置にいそぐ。
 「スパンカーマスト、配置良し。」
 「スパンカーセイル、畳帆用意。」
 「スパンカーセイル、畳帆開始。」
 最後尾のマストに掛かる縦帆のロープが外され、するすると下ろされる。
 「ミズンマスト、配置良し。」

168海軍婦人会@たしぎ:2004/10/23(土) 14:33
 
 白兵戦・・・
 慌ただしく往来するデッキの中ほどで、たしぎの頭は白くなった。
 人を・・・斬る。
 軍に所属するという事は、そういう事である。
 鍛えるだけを目的とした武術ではない。
 守り、そして、攻めるための武術。
 相手は、防具をつけたライバルではない。
 自ら申し出るべきか否か・・・
 理性では、ここで少しでも軍功を稼いでいたほうが良いとはわかっている。
 ・・・でも・・・

 「たしぎ候補生、ぼやっとしない。」
 艦長が立っていた。
 「スパンカーセイル、畳帆完了しました。」
 「ミズンヤード、引き込み用意。
 一航士、ミズンヤードの回転にあわせて、面舵12度、用意。」
 艦長は、たしぎの側に立ったまま指示を飛ばした。
 「ミズンヤード、引き込み用意。」
 繰帆教官が復唱する。
 「あなた、剣術師範の資格をもっているわね。選択武術でも、剣術の成績はとても優秀。
 今日はスモーカー少佐の指揮下にはいりなさい」
 「でも、実戦の訓練は受けてません」
 「ミズンヤードを旋回。」
 「ミズンヤード、旋回開始」
 たしぎの頭ごしに、船の反転作業は慌ただしく進行する。
 「あなたの仕事は何?
 海軍士官候補生は、何のために存在するの?
 あなたは、海軍旗に正義のために命を預けたのではなかったの?
 今が、正義のために命をかける時ではないの?」
 艦長は向き直った。
 「一航士、面舵切れ」
 たしぎに背を向けた艦長の背中の、
将校服に刺繍された「正義」の文字がたしぎにせまってきた。

169海軍婦人会@たしぎ:2004/10/23(土) 14:34

 (わたしは、何。
 正しい心の強さを信じて来たはずなのに、何を迷う。)
 たしぎは、旋回行動により、大きく揺れる船上を、自室に向かい駆けだした。

 「ミズンヤード旋回行動完了。
 続いて、メインマスト旋回の配置につけ」
 「メインヤード、フォアヤード旋回用意」

 たとえば、この戦いで自分が死ぬ事になったとしても、
そして、海の泡のように、その存在さえ忘れられる事に成ったとしても、
迷いと、躊躇と、慢心と、そんなつまらない心の垢に埋もれてしまい、
海路を漂う亡霊のように中途半端で、
万事無難に過ぎれば良しなんていう士官になるよりはずっといい。

 「たしぎ、俺についてこい」
 刀を携えて自室から飛び出てきた彼女に、スモーカーはすれ違いざまに命令した。
 「これば演習ではない。眼鏡を忘れるな」
 「はい!!」
 きっぱりとした声だった。

 月明かりの下で見た、足下の高さ。
 恐怖を感じたのは、不安定な心ゆえの事なのか。

 デッキに戻ると、順風に帆がふくらみ、船は求める先へ急ぐ。
 たしぎは、制服の裾で眼鏡を拭いた。
 
 「スパンカーセイル、展帆」

170海軍婦人会@たしぎ:2004/10/23(土) 14:41
以上です。

全然色気ない話で、済みません。
それから、ちょっと構成が変です。
それは、スティングの「バルパライソ」という歌のとおりに、
お話を進めたからです。

今回、ちょっと帆船っぽさが書けていたら幸いです。
でも、人物が書けてませんね。
今回、書いていて、私とたしぎはずんぶん気持ちに距離がありましたが、
帆を旋回させるシーンが書いてみたかったんです。

船の形式、マストの本数、ウェアリングの手順、
すべて海王丸に準じてみました。

それにしても、世界最速を誇る帆船が・・・・orz

でも、私が一番愛するアルゼンチン海軍フリゲート艦
リベルタが世界最速に返り咲いたのでした。

171海軍婦人会:2004/10/23(土) 15:30
すみません、訂正します。
>168の
艦長は向き直った。
 「一航士、面舵切れ」
 たしぎに背を向けた艦長の背中の、
将校服に刺繍された「正義」の文字がたしぎにせまってきた。


>たしぎに背を向けた艦長の背中の


たしぎに向けた艦長の背中の

になおします。背が重複してました。恥。

172KINO </b><font color=#FF0000>(sXDkhz4U)</font><b>:2004/11/09(火) 23:30
|▽゚)
こそこそ

投下するなら今のうち。ゾロロビ、短め、甘め。シャンロビ前提

173KINO </b><font color=#FF0000>(sXDkhz4U)</font><b>:2004/11/09(火) 23:32
◆BABY BABY ME ME ME◆



あの日も月が遠くで泣いていた。
私はフィギュアヘッドに座って、赤い涙を流す月を見ていた。
ああ、この空も海も。
境など無く、全てを受け入れるのに。
母なる海にも、父なる大地にも還れない私の身体。
帰れない、帰れずに、ただ自分を抱きしめて泣いた。



「何やってんだよ、お前」
この時間に甲板を歩くのはこの船の剣士さん。
腕はいいけれども、少しだけ方向感覚が薄いのが玉に傷。
「あら、剣士さんは?」
「俺ぁトレーニング中だ。昼間はチョッパーやらルフィがうるさすぎて鍛えらんねぇからな」
知ってる。

174KINO </b><font color=#FF0000>(sXDkhz4U)</font><b>:2004/11/09(火) 23:33
彼がこの時間に誰にも気付かれないように自分を磨くことに専念していることを。
時計の針はもう少しで三時。
夜と朝の間の不思議な時間。
「お前は?」
「私?私は……少し昔のことを思い出してたの」
私が、彼と同じ年のころにはバロックワークスに居たから。
思い出すのはそれよりも前のこと。
そう、この船の船長さんと同じくらいのときのことばかり。
「剣士さん」
「何だ?」
「隣に来ない?風が気持ちいいわよ。汗も引くわ」
さららと流れる黒髪は、闇に溶けるようだと昔言われたことがある。
「変わった女だな」
その言葉も。
「そう?」
「俺はお前って女が今ひとつわかんねぇからな。まぁ……馬鹿じゃねぇってことは分かるが」
この人、あまり私には近付いてこないから。
お互いに何処か似ているからなのかもしれない。
この人も、心の奥の本当の言葉を閉じ込めてしまう。

175KINO </b><font color=#FF0000>(sXDkhz4U)</font><b>:2004/11/09(火) 23:33
苦しくて、声が出ない。だから、自分を『鍛える』と言う名目で『痛めつける』の。
「!!」
額に浮いた汗を払いたくて、彼の額に指を。
余程意外だったのかしら?手に取るように動揺が分かってしまう。
私、そんなに警戒される?
「やだ。何もしないわよ」
「お前はハナで俺なんか、押さえつけられるからな」
「試してみる?」
「止めておく。無駄なことは好きじゃねそれぇ」
ハンカチで彼の汗を拭いて。少しだけ笑ってくれるのが妙に嬉しくて。
そう、私よりもずっと若い。
少年を終えて、青年の一歩を踏み出したばかり。
この船と一緒に。
世界一の剣豪になる予定の剣士さん。
「ねぇ、世界一の剣豪になるにはどうしたらいいの?」
「あ?」
「だって、貴方は世界一の剣豪になるんでしょう?海賊王の船に乗って」
そう、この船のキャプテンは海賊王になるという。
そして、今この世界で一番海賊王に近い男も、世界一の剣豪も。
私はどっちも見てきているから。
そう簡単にその座を渡すことの無い男二人。

176KINO </b><font color=#FF0000>(sXDkhz4U)</font><b>:2004/11/09(火) 23:34
「簡単だ。ミホークを倒す」
「彼、強いわよ」
「俺があいつよりももっと強くなれば良いだけだ」
思わずこらえきれなくて笑ってしまう。
「笑うな!!」
「あは……だって、簡単に言うんだもの」
笑い過ぎてこぼれた涙。ふいに彼の指がそれを払ってくれた。
「………………?」
「笑いすぎでも、女が泣いてたらほっとくわけにはいかねぇだろうが」
そっぽ向いて、少しだけむくれ顔。
優しくされるのはお互い苦手で、私と彼はこんな風に話すこともあまり無かった。
堂々と語れるような過去が無いのはどっちも同じで。
それを語りたがるような男でもなかったのだから。
「お前って、笑うとそんな顔になるんだな」
「え……?」
「いや、本ばっかり睨んでるからよ。まぁナミみたいに金目のものにばっかり追うよりはマシ
 だけどな」
彼が昔恋した少女は、私と同じ黒髪だった。
だから、どこかで私は彼に悲しいことを思い出させるのかもしれない。
ねぇ。
もう少しだけ近付いて、もう少しだけ寄り添うことが出来れば。
きっと、楽になれるのにね。

177KINO </b><font color=#FF0000>(sXDkhz4U)</font><b>:2004/11/09(火) 23:34
「お前、夜でもその帽子被ってんのか?」
お気に入りのテンガロンハット。
「私、帽子を被っていた人に恋してたの」
そう、この船でその帽子を見るなんて思わなかった。
この船は、いつかあの人のところにたどり着く。
そのときに、私はどんな顔になるのだろう。
彼に会ったときに、笑えるのだろうか。
「変わった趣味だな」
自分でもわかっている。
「そうね。今は……バンダナを巻いた人が好みだわ」
急に咳き込んで、彼は顔を背けてしまう。
お互い、恋をするにはまだ時間が足りないみたい。
少しだけ、意識して距離を詰めて。
そっと、手を重ねた。
傷の舐めあいでも、昔の思い出を追うだけでも。
今の私たちにはこの関係が心地よかった。
「俺は、黒髪の女に弱いだけだ」
彼のほうから指を絡めて。
私のほうから唇を重ねた。
キスは、互いの鼓動を伝えてくれるから。
何度しても、最初のキスのようにどきどきしてしまう。

178KINO </b><font color=#FF0000>(sXDkhz4U)</font><b>:2004/11/09(火) 23:35
「…………泣くな」
ふいに頬を伝う涙。蕩けそうな赤い月はあの人を思い出させてしまう。
過去にとどまることの心地よさは鎖となって、私の足に絡みつくから。
私の手を引いて。
その剣で鎖を断ち切って。
連れ出して欲しい。
「泣いてなんか……無いわ……」
この強がりを、どうか。
どうか……否定しないで。
「頭が良すぎるのも、良し悪しだ。ルフィみたいに食って寝て、全部忘れちまえ」
頬に触れる大きな手。
この手にはたくさんの傷がある。
私を守ってくれたときの傷も。
「そうね……眠って、全部忘れるわ」
きっと、泣きそうな顔で笑ったからぐしゃぐしゃのはずなのに。
「そのほうが……なんだ、よっぽど可愛いっていうのか?」
「あ……は……」
耳の先まで真っ赤に染めて、余程彼のほうが可愛い気がする。
ねぇ、私たちはどこまで強くなれるのかしら。
私たちは過去という名に繋がれた囚人。
今もこの月に囚われて、思い出という幻から抜け出せないままで居る。

179KINO </b><font color=#FF0000>(sXDkhz4U)</font><b>:2004/11/09(火) 23:36
「風邪引くぞ、早く部屋に戻れ」
「そうね……」
不意に触れる唇。
抱かれるよりも、不思議と熱くなれた。
「ガキにゃ寝る前にするだろうが。母親が……」
「ありがとう」
だから、去り際に彼の頬に同じようにキスをした。
「子供は頬に返すのよ。私も母さんにそうしてたわ」
伸びた影が二つ。
私の少しだけ後ろを歩く彼。
隣に並んで歩けるようになるには、この鎖は重すぎて。
まだ、出来ない。
「次の島についたら、買い物に付き合ってくれる?ほしい本があるの」
「荷物持ちか。人使いの荒い女だ」
「頼める人が居ないの。お願い」
あの時感じた夜の音も、貴方と癒した傷の痕も。
この月から見れば笑い事かもしれない。
「手、繋いでくれる?」
伸ばした指に触れる彼のそれ。
「ありがとう」
赤い月はいつの間にか、笑う満月に替わって。
私たちも、少しだけ声を上げて笑った。




また今夜も私は海を眺める。
真夜中の途中、朝の手前のこの時間に。
もうすぐ午前三時。

180KINO </b><font color=#FF0000>(sXDkhz4U)</font><b>:2004/11/09(火) 23:38
エロなしもたまには落としみたいKINOです。
本誌、過酷だー。ロビンちゃん……幸せになって欲しいのです。

キスって大事だなーと、最近やけに考える。
エロって一言だけど、誰かと身体を繋ぐってのは素敵で大事なことだと思ってます。

181774万ベリーの賞金首:2004/11/12(金) 17:34
KⅠ・・・・KINOさん!!!!
キテタ━━━ヽ(ヽ(゚ヽ(゚∀ヽ(゚∀゚ヽ(゚∀゚)ノ゚∀゚)ノ∀゚)ノ゚)ノ)ノ━━━!!!!

良かったです!これ、こーゆーの大好きです。
エロエロでないのにエロティックで素敵。
本スレで投下報告って、やっぱりダメなんですかねぇ?
見逃すとこでした。覗いてよかった。GJSSありがとうです。

182苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/12/24(金) 00:08
したらばでは、お久しぶりです。
チョパ誕投下します。麦わら7人オールキャラ。
チョパ視点です。
苺屋の文が、お嫌いな方はスルーでお願いいたします。

183苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/12/24(金) 00:08
   「冬の僕らと蜃気楼」

 もうすぐ、雪が見られそうな海域に入るかもしれないと、気候を読みながらナミが言った。
「ホワイト・クリスマスか、何年ぶりだろうな」
 その横でサンジが、空を見つめながら腕を伸ばし、楽しげに呟いた。
 クリスマス…どこかの有名人が生まれた日だと、ドクターに聞いたことがある。
 サンタクロースとトナカイがセットでやってきて、子供たちにプレゼントを渡してくれるって。
 でも、俺のところには来たことがない。俺自身がトナカイだから? それとも俺がバケモノだから?
 わからない。でも、ドクターと出会うまでは、いつもひとりで過ごしてた。
 俺はその有名人ってのも知らないから、12月25日は、いつもと同じただの一日。
 サンジがなぜそんなに楽しそうに言うかわからなくて、聞いてみた。
「恋人たちの日だからな。愛する人と過ごせるクリスマスほど良い日はないぜ?」
 煙草の煙をくゆらせながら、にこにこ笑顔。サンジは恋人いないじゃないか、そう言ったら。
「全世界の女性すべての恋人よ、俺は。この船ではナミさんとロビンちゃんが愛する人さ」
 両手を合わせて、ねーナミさん、とへらへらした顔でナミを窺う。
「理由なんてどうでもいいのよ。皆で馬鹿騒ぎをする日、それでいいじゃない」
 いつものごとくサンジの言葉を流して、ナミはにっこりと笑った。
「今日の夕食は豪勢だからな。明日のクリスマスまで宴だぜ。楽しみにしてろよ、チョッパー」
 そろそろ仕込みに入るぜ、とサンジ。私もきちんと航路を見なきゃ、とナミ。
 宴は楽しい。そうか、皆で騒ぐ日なのか。なら楽しいや。俺も笑顔になる。

 そんな会話を甲板でした。12月24日の昼下がり。そしてふと思い出した。
 今日は、俺が生まれた日だ。

184苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/12/24(金) 00:08

 先月あったゾロの誕生日、皆、楽しそうに祝ってて。ゾロも満更でもなさそうに。
 贈るプレゼントを一生懸命考えて、受け取ったゾロが、ありがとな、って言ってくれた。
 嬉しかった。誕生日って、いい日だなって思った。
 俺の誕生日が今日だなんて、そういや誰にも言ってない。
 前の島を出てから、もう10日以上経ってるし、皆、明日のクリスマスしか頭にないし。
 もし、誰かに聞かれたら、そういえばもう過ぎてたよって思い出したように笑えばいいんだ。
 今さら言っても迷惑になるだけだ。うん、だから言わない。
 今日は、誰か知らないけど、明日生まれた奴の誕生日の前祝い。
 サンジは美味い料理を作ってくれて、ルフィとウソップが盛り上げてくれて。
 そのうち、ゾロとサンジがケンカを始めて、ナミがうるさいって一喝して。
 ロビンはそんな光景を見ながら、楽しいわね、って俺に微笑んでくれるんだ。
 それだけで楽しい。だから、いいんだ。
 強がりなのかな、でも自分から誕生日っていうのも、なんかせがんでる子供みたいだ。
 帽子の裾を掴んで、落ち込みそうになるのを我慢する。ふかふかの帽子。ドクターから貰った。
 角があるから、角の部分は突き抜けてるけど、一生、大事な宝物。初めて貰ったプレゼント。
 ルフィに誘ってもらって、この船で、もっと宝物が増えるだなんて思ってたんだ。
 楽しい航海、大好きな仲間たち。それだけでいいんだ。プレゼントが欲しいだなんて。
 そんな我侭なこと思うような俺だから、サンタは俺のところへ来なかったんだ。きっと、これからも。
 トナカイだからいいんだ。きっとヒトのところへしか来ないんだ。
 人間じゃない中途半端な俺なんて。トナカイとヒト、どっちにも煙たがられる俺。
 普通の動物じゃない、バケモノと言われる俺。
 そういえば…動物っていったら、ウソップが変なことを聞いてきた。
 あれは、確か前の島で、ログを溜めているのを待つ間のこと。ふっと、思い出してみた。

185苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/12/24(金) 00:09


「なあ、チョッパー。この船のクルーをよ、動物に例えると何だと思う?」
 食事の後、まだ皆がラウンジに居て、前後の話と繋がりはないけど、そう聞かれた。
「え? え?」
 いきなり言われてもわかんなくって、質問にまごついてしまった。
「あー、そんな深く考えなくていいんだ。こういうのはインスピレーションでな」
「ははっ、おもしろそうだな。俺も聞いてみてえ。まず、ルフィはどうよ?」
 食器を洗いながら、サンジが会話に割り込んできた。
 インスピレーション…適当に思いついたのでいいってことかな。えーっと、ルフィ、ルフィ。
「猿?」
 言った途端に、ルフィ以外の皆が噴出した。ウソップなんて、お腹抱えてげらげら笑ってる。
「そのまんまだなー、ま、それ以外思いつかないけどな」
「やっぱりね。チョッパーでも、そう思うんだ」
 ナミも話に加わってきた。ゾロとロビンも、聞いているのか、顔が笑ってる。
「何だよ、もっと他にもあるんじゃねぇの?」
 ルフィは気に喰わないのか、頬を膨らましてる。
「えー、だって…うーん、猿しか思いつかないなあ」
「いいんだ、いいんだ、チョッパー。お前の目は確かだ。なあ、俺様は?」
 ウソップが、期待に満ちた顔で聞いてくる。ウソップかあ、天狗は動物じゃないよね。
 何だろう…戦闘中とか、よく縮こまってるし。
「アルマジロ?」
「アルマ…?」
 今度はウソップ以外が笑う。ウソップは、がぼーんと口を開けている。
 俺の感覚っておかしいのかなあ。でも、本人以外は納得してるみたいだし。

186苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/12/24(金) 00:09
「最高だぜ、チョッパー。俺はどうだ? 野生のカモシカあたりか?」
 洗物が終わったサンジが、にこにこしながら聞いてくる。カモシカか、確かに脚力はあるけど。
「アヒル」
 煙草を落としそうになりながら、ぽかんとしちゃった。
「な、何でアヒル?」
 あれ、これは他の皆も納得してくれない。ルフィやウソップよりも合ってると思うんだけどなあ。
「煙草を咥えてる時とか、困ってる時、口がアヒルみたいになるから」
「あははっ。言われてみれば確かに」
「ええ、そうなの? ナミさ〜ん」
 しょぼんとしたサンジに、いつもの通り、酒を飲んでいるゾロからのからかいの言葉。
「ぴったりじゃねえか。ガーガーうるせえし」
「何だと? ただの藻の分際で。おい、チョッパー、この呑んだくれは何だ?」
 サンジがびっとゾロを指さして、声を荒げながら聞く。んー、ゾロかあ。
「サメかなあ?」
「お? 結構マトモなんじゃねえの?」
「待てよ! 何で俺がアヒルで、こいつがサメなんだぁ?」
 不服そうにアヒル口で文句を言うサンジ。だから、それがアヒルなんだってば。
「サメってね、血の臭いに敏感で“生きている鼻”とも言われてるから」
「あー、それっぽいな。血に飢えてる感じで」
「何だよ、猿とえれぇ違いだなぁ」
 ウソップは賛同してくれて、ルフィはまだ猿に文句を言ってる。
「いいさ、ひとりエラ呼吸だな。せいぜい海で元気に泳いでろ。死んだらヒレだけ拾って料理してやるよ」
「…子供か、お前は」
 サンジが脹れちゃったよ。ウソップも呆れてツッコミに威力がないじゃないか。
 んー、そんなにサメっていいものかなあ。動物に優劣とかはないと思うんだけど。

187苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/12/24(金) 00:10
「チョッパー、私は?」
 ナミがにこにこしながら、聞いてきた。でも、オーラが怖い。変なこと言うな、って顔してる。
「…猫かな」
 にっと笑った。よかった。お気に召したらしい。ほっと息を吐く。
「そうよね。犬やなんかと違って、大人しいものね。愛玩動物で、愛らしいのが基本だし」
「ナミさんみたいな可愛らしい猫なら、飼いたいな〜」
 猫は我侭で人の言うことを聞かないから、ということは内緒にしておこう。
 たぶん、言ったら、俺、ひょっとして死ぬかも。何でかわかんないけど、サンジも納得してるし。
「最後だな、ロビンは?」
 ルフィが聞いてきた。ロビンかあ、強くて、夜が似合う。
「狐かな」
「あら、狐なの」
 ロビンが首を傾げて、微笑んだ。あれ、気に喰わなかったのかな。
「牝狐か」
「おい、そんな言い方があるかよ」
「言ったのはチョッパーだろ、俺じゃねえ」
「狐としか言ってねぇだろうが。言い方にトゲがあるんだよ」
 ゾロとサンジが言い合いを始めてしまった。どうして? おろおろしてるとロビンが近づいてきた。
「気にしなくていいのよ、船医さん。狐は、ちょっとだけ悪者のイメージがあるの」
「そんなっ! 狐は、賢くて、強くて、仲間をすごく大事にする、優しい動物なんだよ?」
「狐は、娼婦を罵る時にも使う言葉なの。あまり女性に対しては褒め言葉ではないわ。
 けれど、船医さんが、私のことをそんなイメージで見てくれていたのなら、とても嬉しいのよ」
 どうしよう。俺、知らなかった。ひょっとして、ロビンを凄く傷つけた?
「剣士さんとコックさんもやめてあげて。困っているわ」
 そう言われると、睨み合って、ぷいっとふたり同時に顔を背ける。

188苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/12/24(金) 00:10
「…悪かったよ」
 ゾロが小さく謝った。ロビンがにこりと笑った。あ、そうだ、俺も。
「ごめんね、ロビン」
 くすくすと笑って、頭を撫でてくれた。うん、やっぱりロビンは優しいんだ。
「でも、狐は少し意外だったわ。狐といえば、剣士さんかと…」
「俺かよ?」
 ゾロが、今度はロビンを睨む。それを受けて、笑うロビン。
「あなたの名前、ゾロ」
 どうしていいかわからず、ふたりの顔を見比べていたからわかった。
 名前を呼ばれた瞬間、ゾロが驚きに眉を上げた。一瞬だけど。
「とある国の言葉で、ゾロは狐という意味よ。強くて、優しいあなたには相応しいのでは?」
 ゾロの口がぽかんと開いた。
 うん、そうだよ。ゾロも強くて、優しい。ゾロだけじゃない、ここにいる皆。
「ロビンちゃん、こいつ、賢くないですよ?」
「んだと、こら」
 ああ、またゾロとサンジがケンカを始めた。でも、俺の隣でロビンがくすくす笑ってる。
 だからいいや、と思った。もうすぐナミの鉄拳がふたりの頭に落ちるんだ。
 俺もロビンと一緒に笑って、それをぼうっと眺めてた。

189苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/12/24(金) 00:10


 そういう楽しい船。いつでも。ケンカしても、誰ひとり、本気でいがみ合ったりしない。
 だから、余計に言えない。きっと、気づかなかったことを、皆、申し訳なく思うから。
 祝われている自分の姿を簡単に想像できる。そんなふうに主役になれたら、とっても楽しかっただろうな。
 目の前にそんな光景が浮かんだ気がした。
 でも、それはアラバスタの砂漠で見たあの景色のように掴めないものなんだ。
 ごつごつした岩が空中に見えた。あれは、あの場所にはないってビビが言ってた。
 蜃気楼っていうんだって。背伸びをすると大きく見えて、しゃがむと消える、不思議な景色。
 見えるのに、ないだなんて、悲しいなあって思ってたんだ。
 掴めそうなのに、掴むことができないもの。どうして、そんなものがあるんだろう。
 サンタクロースも一緒なのかもしれない。きっと、俺にはこれからも、サンタクロースの姿は掴めない。
 薬の調合でもしよう。男部屋に戻って、ウソップが呼びに来るまで、集中していた。


「チョッパー、夕飯だぞ。早く来ーい!」
 声をかけられる。甲板に上がっていくと、ウソップがにこにことした顔で俺を待っていた。
 後ろから、俺の背を叩いて、ラウンジへと急がせる。
 いつもは、早く来なきゃ置いてくぞって、俺より先に行こうとするのに。
 ラウンジのドアを開けろって言う。早く早くと、笑顔で急かしてくる。どうしたんだろう。
「メリークリスマス、チョッパー!」
 ドアを開けた俺を出迎えてくれたのは、クラッカーの音と、変な恰好をした皆。
「皆、その恰好は何?」
 ルフィは茶色い全身タイツみたいな服に、丸い耳当て。ゾロは灰青色の被り物。
 サンジは白いもこもこした着ぐるみだ。ウソップも黄土色の着ぐるみを着込んでいるところだった。
 ナミとロビンは三角の耳をつけて、温かそうな毛皮。でも、腕や脚やお腹には何もつけていない。

190苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/12/24(金) 00:11
「何って、おめぇが、猿だって言うから、こんなの着てるんだろ?」
 ルフィがぶつぶつ言いながら、背中を見せる。長細い尻尾がついてるお尻が赤かった。
「俺がサメ」
 よく見れば、ゾロの頭は無数の歯がついてる魚に喰われていた。
 首から下が、いつもの腹巻姿だから、恐ろしく不気味だ。リアルすぎて、怖いよ、あの被り物。
「全部、俺様が作ったんだぜ。俺がアルマジロ、サンジがアヒルな!」
 アルマジロも、なんだか皮がリアルだし。わあ、今にも丸まりそうだ。
 サンジのは、安心して見れるな。もこもこしていて、可愛い。動きにくそうだけど。
「私が猫で、ロビンが狐ね」
 髪の色を逆にしたみたいだ。ナミが黒で、ロビンが狐色の耳と毛皮をつけている。
 ナミは細い尻尾。ロビンはふさふさの長い尻尾をつけて。ふたりとも、似合ってるなあ…でも。
「何で、ナミたちだけ、そんな寒そうな恰好なんだ?」
 ルフィみたいに全身を包めば、温かそうなのに。お腹、冷えちゃわないかな。
「あー、それは、製作途中に『大事なところだけ守り、肌は見せるのがコスプレのロマン』という意見がな」
「…もう、やっぱりサンジ君だったのね」
「何で、俺ってわかっちゃったの、ナミさーん」
「お前以外に、そんな下らんことを言う阿呆がどこにいる」
「何だと、コラァ!」
 ゾロとサンジが睨み合う。サメとアヒルが対立してるって、おかしな光景だ。
 でも、何で、仮装してるんだろう。クリスマスって仮装するものだっけ?
「サンジ君たちも、その辺で終わってよ。ね、皆。準備できてる?」
 俺に向かって、6人が目の前にずらっと並んだ。にこにこしながら、手を後ろに組んで。
「せーのっ! おめでとう、チョッパー!」
 ナミのかけ声で、一斉に皆の手が俺にさし出される。その手には、様々な形の箱が乗っていた。
 色とりどりの包装紙とリボン。どこからどう見てもプレゼント。

191苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/12/24(金) 00:11
「…どうしよう」
 困った。そんなの、皆、言わなかったじゃないか。俺、何も用意してないよ。
「俺、皆へのクリスマスプレゼント、何もないよ…ごめん」
 しゅん、と俯くと、くつくつと笑い声が聞こえる。
「やっぱりな。忘れてると思ったんだよ。全然、話題にしないんだもんな」
「クリスマスプレゼントじゃないのよ、チョッパー。皆、もう1回、せーのっ!」
「誕生日おめでとう、チョッパー!」
 皆の声が重なった。誕生日プレゼント? どうして? だって、だって、俺。
「誰にも言わなかったのに…」
「なぁんだよ、おめぇ、覚えてたのに言わなかったのか? 水臭ぇぞ」
 ルフィが口をへの字にして、俺の背中を叩く。手にプレゼントを渡された。
「ドクトリーヌに聞いてたのよ。忘れてるみたいだから、黙ったままで、驚かせようってサンジ君がね」
「そう! そんで、せっかくだから、何かおもしろい恰好でもして、楽しもうっつったのがルフィな」
 ナミとウソップがルフィの箱の上に、プレゼントを乗せていく。
「動物の恰好なんかおもしろそう、という素晴らしき提案はナミさんだぞ」
 続いてサンジ。帽子を、ぽんと叩かれた。
「ウソップが衣装を作るって、はりきってな。これだけ作れるんだから器用なもんだ」
「せっかくだから、船医さんがイメージする動物でって、剣士さんが」
 ゾロとロビンも笑いながら。ずるいよ、皆。俺、何も返せないのに。
「おめぇの欲しいもの、ばれないように聞き出してくれたのがロビンだぞ。開けてみろよ、チョッパー」
 そうやってルフィが促すから、ひとつずつ開けていった。
 欲しかった専門書、図鑑、調合用の道具、薬の材料、全部、俺が欲しかったものばかり。
 そういえばゾロの誕生日が終わった後くらいから、ロビンが買いたい物はあるかって聞いてきた。
 お金がないから買えないけど、揃えたい物はあるんだって、俺、ぺらぺら喋ってた。
「…何だよ、バカヤロー。ちっとも嬉しくねーぞ!」
 どうしていつも、俺、素直に喜べないんだろ。嬉しいのに。泣きたくなるほど嬉しいのに。

192苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/12/24(金) 00:12
「わかってる、わかってる。さっ、腕によりかけて作ったディナー、食べようぜ」
「覚悟しろよー、お前の誕生日にクリスマスと、めでたい日が続いてるんだ。徹夜で騒ぐぜー?」
 クリスマス。ウソップの言葉に、舞い上がっていた心がじわじわと冷めていく気がした。
「俺、クリスマスに騒いでいいのかな…」
「どうした、チョッパー?」
「トナカイだから、俺のところに、サンタクロースは来たことないんだよ?」
 聞いたゾロが、眉をしかめた。やっぱり、そんなの俺だけなのかな。
「あんた、バカねー。サンタなんて、私のところにも来たことないわよ」
「クリスマスは、誰にでも平等にやって来るものよ。もちろん、船医さんのところへも」
 ナミとロビンが笑いながら言う。俺だけじゃないの? クリスマスに騒いでもいいの?
「なぁ、サンタはプレゼントくれるんだろ? じゃあ、俺らにとってはお前がサンタでいいよ」
 後ろから抱え上げられ、気づいたらルフィに肩車されていた。
「え? 俺がサンタ?」
「笑ってろ。それが俺らにとっちゃあ、プレゼントだ」
 ルフィの声は力強い。この声に、含まれている信念に、俺は誘われて海へ出た。
 そんなふうに。簡単に。俺の意地をぶち壊すんだ。
 こんなふうに。簡単に。俺に涙と笑いをくれるんだ。
「チョッパー、泣くな。せめて、俺の料理を味わってから、感動で泣け」
「そうだ! この俺様の、この日のための宴会芸を見てから、感動で泣け」
 猿の上から見下ろす、アヒルとアルマジロの姿は、なんだかおかしかった。
「主役が来なきゃ飲めないだろ、早く来い、チョッパー」
 ゾロが呼んでる。隣に座れって、席を叩いてる。
 こう見ると、あのサメの被り物も意外とユーモラスでいい。
 ルフィの頭の上から飛び降りて、ゾロの隣に座った。テーブルには豪華な料理。
「美味しそうね。船医さんの誕生日を、こんなに素敵に祝えて嬉しいわ」
 ゾロとは反対側の隣にロビンが座った。狐の尻尾が椅子から垂れてる。
 温かそうって言ったら、マフラーみたいに首に巻いてくれた。

193苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/12/24(金) 00:12
「乾杯しましょう! ウソップ、あんた、音頭とんなさい!」
 ナミが腰に手をあてて、びしっと命令してる。猫が一番強い、変な船。
 トナカイの俺を皆で祝ってくれる変な船。俺が、皆にとってのサンタなら。
「皆が、俺にとってのサンタクロースだ」
 そう言ったら、皆が笑った。

 豪華な料理に、俺に合わせてくれた甘いケーキ。
 夢中で食べたら、喉に詰まって、ロビンが水を飲ませてくれた。
 ウソップがアルマジロみたいに体丸めて転がって。ナミの方へ突っ込んでナミとサンジに殴られてた。
 その隙にルフィが冷蔵庫を漁って、こんなご馳走にまだ満足できないのか、ってサンジに蹴られてた。
 ゾロが眺めて、あいつら阿呆だな、って言って、お前の頭のほうがアホだ、ってサンジに言われてた。
 案の定、ゾロとサンジがケンカを始めて、ロビンが、とっても楽しいわね、って微笑んでくれた。
 楽しくて、嬉しくて。誰にだって、サンタはやって来て。誰だって、サンタになれるんだ。
「サンタはね、蜃気楼みたいなもんだと思ってたんだ」
「蜃気楼?」
「うん、掴めそうで掴めないもの。目指しても、辿りつけないもの」
 ロビンは、優しく微笑んで、俺の話を聞いてくれる。
「それでも、掴めたのでしょう?」
「うん、皆がサンタクロースになってくれたから」
「そうね。蜃気楼は掴めなくても、その見た景色は必ずどこかに存在しているから」
 ああ、そっか。探せば見つかるものなんだ。確実に。

194苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/12/24(金) 00:12

「ねえ、見て! 雪よ!」
 ナミが窓を指さした。白い雲の欠片がちらちらと降りている。
 猿とアルマジロの恰好のまま、ルフィとウソップがラウンジから飛び出した。
「ナミたちも来いよー!」
 甲板から、呼ぶルフィの声。俺も、と駆け出した。俺の後から、皆、ついてくる。
「あー、寒いわ。やっぱり、この恰好」
「ナミすゎん、寒いなら、俺の羽毛に入りませんか?」
 白いもこもこを指したサンジが、馬鹿じゃないの、って呆れられてた。
「お前のこれは、温そうだな」
「ふふ、船医さんみたいに首に巻きたい?」
 こっちでは、ロビンの尻尾を掴んだゾロがからかわれてる。ゾロが赤くなった。
「マリモ、コラァ! ロビンちゃんに不埒な真似を!」
「ああ? てめえじゃあるまいし、やましい感情なんかねえよ!」
 ゾロとサンジが、いつものケンカ。ルフィは囃したて、ウソップは巻き込まれないよう丸まっている。
「猫はコタツで丸くなるわ、と言いたいところだけど、コート持ってくるわね」
「そうね。そうしたら、船医さん、一緒に遊びましょう」
 ナミとロビンがそう言って、ゾロとサンジが喜び跳ねた俺を見て、ケンカの手を止めて笑って。
 ルフィとウソップが俺を手招きして、一緒に駆け回ろうと誘うから。
 揺らがない景色が確かにそこにあるのだと嬉しくなって。

 俺は、白い雪と、皆の笑顔から零れる白い息に、浮かれながら駆け出した。


   ―終―

195苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/12/24(金) 00:13
以上です。
チョッパー誕生日おめでとう。
読んでくださった方、ありがとうございました。

196774万ベリーの賞金首:2005/01/12(水) 03:22
うわーーー!!苺屋さん!!!
キテタ━キタ━━━━Σ(゚∀゚ノ)ノ━━━━!!

危うく見逃すトコでしたよ。
愛しいSSですね。チョッパー好きなので男気?のある奴が見られて嬉しいです。
ありがとー!GJ!!

197名無し:2006/04/04(火) 14:25:10
苺屋さん読ませてもらいました
とても、おもしろかったです
私のめっせーじに気付いたらまた書いてください

198774万ベリーの賞金首:2006/11/25(土) 15:29:51
ここは不夜城、エニエス・ロビー。
司法の塔の先に位置する執務室。
インペルタウン行きの護送船が来るまでにまだ時間がある。
「合コンでもしねぇか?」
連行されてきたニコ・ロビン、召集命令に従ったCP9、そしてその上司スパンダム。
勿論、頭の悪い提案をしたのは顔を矯正器具に覆った男、スパンダムだ。
「セクハラです!」
カリファが条件反射の如く眼鏡を上げて抗議し、スパンダムも反射的に謝る。
他のCP9も慣れた物で、聴こえなかった事(無視)に徹するもの、賛同するもの、様々な反応をしていた。
それを一歩引いた視点から眺めながらロビンは、上司に恵まれない彼らへの少しの同情と、
あんな男に未来を奪われたのか、と、なんとなく自分が情けなく思えて、小さく溜め息を吐いた。

「暇だろ、命令だ!合コン!命令!男は…多すぎるな、何人か外そう。
女は……しかたねぇ、ニコ・ロビン、おまえも入れ。あと…給仕のギャサリンも連れて来い!」
スパンダムは楽しそうに命令を下し、ジャブラに向かって神々しいウインクをする。
ギャサリンがジャブラの想い人である事は皆知っている。彼なりのお膳立てらしい。
が、ギャサリンがルッチに想いを寄せていることも周知の事実。
しかしジャブラは顔に似合わず頬を染め上げ、俺、呼んでくるぜ!と意気揚々と去って行った。
ルッチは険しい顔をしながら、命令とあらば、と支度を始める。
カクはいつの間にかロビンの隣に歩み寄り、すまんのう、少しだけ付き合ってやってくれ、と
苦い笑いを浮かべながら上司の非礼を詫びた。

麦藁の海賊船も相当賑やかなものだったが……ここは上司の頭が相当賑やかな様だ。

199774万ベリーの賞金首:2006/11/25(土) 15:31:44
198
とか、あったらいいな
過疎化ですな

200774万ベリーの賞金首:2007/08/04(土) 20:13:50
叫ぶ場所がないのでここで・・・
ルロビ激萌え!

201モリアとペローナ:2008/03/02(日) 12:52:14
TBの過去話としてのモリア×ペローナを投下

ペローナ自身はモリアには遊びで仕えていたと言ってますが、個人的にそうは思えなかったです。
対クマシーも含めて彼女の言動不一致はいつものことみたいな描かれ方ですし。
第一本当に遊びなら、くまに対してモリアの情報を一切言わずに挑みかかるなんて無茶なことをするわけがありません。
彼女が先に逃げようとしたのは、本気を出したモリアの強さに対する絶対的信頼があり、かつ自分がいては邪魔になると感じたからではないでしょうか?

拙い文章ですが目を通していただけると嬉しいです。

202モリアとペローナ(1/11):2008/03/02(日) 12:53:07
 「気持ち悪……それに身体痛ぇ……最高に……最悪……」

薄暗い船倉で覚醒したペローナは、憂鬱な気分で身体を起こした。もっとも、どこの馬の骨とも知れない海賊に攫われ、船に備品として押し込まれてからは全ての目覚めが最悪であったのだが。
しかし、いつもと違うことがいくつかあった。
まず、妙に辺りが静かだし、航海中特有の船の揺れもない。
どこかに停泊しているようだ。
「逃げられるかもしれねえ」

誰に言うでもなく呟くと、ゆっくりと立ち上がり、シーツで身体を拭う。少し前に使われたよくわからない薬が抜け切ってないのか、こすれる感覚が気持ち悪い。
しかも、床やら縄やらでついた細かい傷がちくちくと痛む。
とりあえずそれは無視し、目立つ汚れを拭い去ってから、部屋の隅に投げ捨てられている服を着る。唯一の私物である、お気に入りの熊のぬいぐるみも持っていくことにした。

軽い足音が船内通路に響く。人の気配は全くない。
本当に脱出できる希望が湧いてくると、生理的欲求が鎌首をもたげてきた。
……つまり、食欲だ。
「船の構造なんてわからねえし、それっぽい所を探すしかねえか」
食料庫は程なくして見つかったが、酷い事に酒樽と乾物しか見当たらない。
調理場にも殆ど何もない。
大きく溜め息をつき、唯一見つかったチーズを水で胃に流し込む。
それにしても、ボロっちい船だ。宝物なんてとてもありそうにない。
もし脱出できても無一文ではどうすることもできず、きっとすぐに今と似たような境遇になってしまうだろう。

203モリアとペローナ(2/11):2008/03/02(日) 12:53:48
 「なんか、何でもいいから金目のものぐらいねえのか」
しばらく歩き回ると、船長室らしい少し立派な扉を発見した。
船長の私物らしきものを漁りまわるも、金貨数枚しか見つけられない。
あまりの収穫のなさに涙が出る。
「なにもないのかよ……なにもない、なーんにもない。ねえクマシー、何とか言ってよ、ひっく。……言えっての!!!」
何も答えられないぬいぐるみを力任せに棚に叩き付けたところで、少し冷静さが戻ってきた。
「ああ、ごめんね、つい……」
ぬいぐるみを拾って、大きく深呼吸をする。ふと棚の上を見上げると、何かの影が目に止まった。

「果物?」

背伸びをして取ったそれは不思議な形をしていて。
気味の悪い唐草模様がついていた。
おそらく、船長室の棚の上なんて場所にあるということは大事な物なんだろう。
見た目は変だけれども、きっと美味しいに違いない。
とりあえず持っていくことにした。

ろくな物が見つからない船室漁りにも飽き、こっそりと甲板へ出る。
ずっと船室に押し込められていたため、時間の感覚があまりなかったのだが、どうやら夜だったようだ。湿っていて生温いとはいえ、久々に当たる外の風はなかなかに心地よい。
そして、予想通り船は島に横付けされている。
遠くには大きな建物らしき明かりが見え、無人島でもなさそうだ。
「よし、脱出だ!こんな何もない船沈んじまえバーカ!」
念のためもう一度だけ辺りに誰もいないのを確認し、ペローナはこの忌々しい船を後にした。

204モリアとペローナ(3/11):2008/03/02(日) 12:54:36
 「暗えし、道もねえし、お腹すいた……一休みするか」
その島は予想以上に広く、そして木がやたらと多くて道が狭い。船の上からだとすぐ近くに見えた建物の灯りも、思ったよりかなり遠いようだ。
持ってきた食料は瓶詰めの水とチーズ少々、そして船長室で見つけた果物が一つ。
あの建物で何かが売っているか、もしくは親切なバカがいるかでなければ飢死するかもしれない。
そのネガティブな想像を振り払い、木の根に腰を掛けて唐草模様の果物にかじりついた。

「うぇ、な、何これ、ま、不味いいいいいいい!!!」
とても人の食うものとは思えないその味に顔をしかめる。
だが、これでも数少ない食料のうちの一つなのだ。
大切な食料……食……。

「無理無理」
一口目は勿体無さが先に立って飲み込んだものの、冷静に考えてこんなものは人の食いものではない。諦めて投げ捨て、瓶から水を飲みチーズに手をつけ口直しをする。
ともかく本日2回目の食事を終えたペローナは少し元気を取り戻した。

建物まではまだ当分かかりそうだ。木をかきわけてゆっくりと進む。
このまま野垂れ死んでは本末転倒だ。
それにしても不思議なことがある。さっきの食事を終えてから身体がおかしい。
何となく視界が広いような気もする。何故だろう?
考えてもわからない。

205モリアとペローナ(4/11):2008/03/02(日) 12:55:40
 所変わって、島中央部の建物の中。
継ぎ接ぎだらけの生物数匹が忙しく動き回っている。

その大広間の中央部に二人の男が座っていた。
小太りの男が溜め息をつきつつ口を開く。
「それにしても今回の獲物は外れでしたな」
もう一人の恰幅のいい大男が笑いながらそれに答える。
「いつもいつも“将軍”級がかかるとは限らんだろうよ、ホグバック。
後はお前がやれ、キシシシシ」
「ところで、ちょっと気になることが」
「んぁ?面倒なことなら知らんぞ」
そう言うと、大男は心底面倒くさそうに大欠伸した。

「アブサロムの馬鹿が“幽霊”を見たと騒いでたんだが、心当たりはありませんかい?」
「奴がこの“スリラーバーク”に乗ってからどのぐれえだ?飛べるゾンビの何かを勘違いしたんじゃないのか。放っとけ、面倒くせぇ」
「なんでもその幽霊は半透明で“漂っていた”とか」

「ふむ……まあ、これだけゾンビがいれば幽霊の一匹ぐらい居ても不思議はねえだろう。じゃあ寝るぜ、今度こそな」
ドタドタと身体に見合った足音を立てて、奥へと消えていく主人を横目で見ながら、ホグバックは自分の次の仕事について考えを巡らせはじめた。

206モリアとペローナ(5/11):2008/03/02(日) 12:56:39
 「こんなに広いのに何もねえってのはどういう了見だ」

なんとか海賊たちに出会うことなく建物に辿り着き、その内部へと入り込んだペローナではあったが、なんともいえないその場所に閉口していた。
それに、数刻前から感じている身体の変調はひどくなるばかり。
まるで何人もの自分がいるような不思議な感覚。
地面の感覚もあいまいで、気を抜くと飛んでしまいそうだ。熱でもあるのだろうか?
話が通じる人間に出会わないのも気にかかる。
これまで十人ほどと鉢合わせたが、どいつもこいつも大怪我をしている上、どうも会話がかみ合わない。
しかも、理由は不明だが近付くと土下座して謝るのだ。
そのおかげで捕まったりはしていないのだが、一体どうしろというのだろう。
「ああ、腹が立つ!」
悪態をつきながら上へ上へと階段を上ると、突然視界が開けた。
巨大ではあるが随分とかわいらしいオブジェが並び、中央部には巨大な布団と枕。
その上に、大男が寝転がっている。

「な……なんだこれ!人間……か?」
思わず叫んでしまったペローナの声に気づいたのか、それともずっと前から気づいていたのか。
大男が面倒くさそうにその妙に長い首を起こす。
「あァ?失礼な奴だな、おめェこそ何だ……ゾンビじゃねえな、どうやってここまで入ってきた?
早く言わねえと“影”を取ってそこの窓から投げ捨てるぞ」
ゾンビや影という単語はともかく、それ以上によくわからない事を男が言う。
「どうやって、って……何のことだ?ここまで十人ほどに鉢合わせたが、誰も私を止めなかったぜ」

207モリアとペローナ(6/11):2008/03/02(日) 12:58:35
 「噛みあわねェ、質問を変えるか。まあ座れ、キシシシ!」
言うが早いか、ペローナの真横に椅子が投げ置かれた。大男の身体は一切動いてないにもかかわらず。
「話がわかるじゃねえか。何でも答えるぜ」
「まず、おれはこの“スリラーバーク”の主、“七武海”ゲッコー・モリア。お前はどこから、そして何をしに来た?」
「私はペローナだ。海賊船から逃げてきた」
その返答の何がおかしかったのか、モリアは大声で笑った。
「キシシシ!!そりゃあ残念だったなァ!ここに来る船は全て“夜討ち”して財宝を頂き放り出すことになってるのさ。
お前の乗ってきた船も今頃はボロボロで海の上だろうよ!」
「何、それは本当か?!」
「嘘を言ってどうする」
「あ、ありがてぇ……モリア、いやモリア様、あんた私の恩人だ。
ああ……うあ、うえええええん!」
「ぬ?おめェはゾンビ達を倒しながらここまで来たんじゃあねえのか?それよりおい、泣くんじゃねェ、おれは苦手なんだ、そういう面倒なのはよお……」
ちょっと前まで堂々とした態度と粗暴な言葉遣いをしていたというのに、いきなり泣き始めた少女。
単純に考えれば今晩の海賊の一味ではなく、単に捕まって船に乗せられていたということなのだろう。
だが、あんな弱小のチンピラ共に捕まるような奴が、例え“能力者”だとしても一人でこんなところまで来られるものだろうか。
いくら“夜討ち”で出払っていたとは言え、余りに不自然な……。
しかし、モリアの思考は開始わずか数秒で中断された。
ペローナが何の前触れもなく抱きついてきたからだ。
その体型や面相は置いておくとしても、海賊という職業からして彼は女というものに縁がない。
勿論何らかの下心ありきで言い寄ってくるゲスは居たが、文字通り“目の前”で唐突に泣き始めた少女に対する対応なんぞというものは管轄外なのであった。

「あー、泣き止めよ、頼むからよォ。何が悲しいんだよ、それともおれが怖ェのか?」
「ひっく、怖くも悲しくもねーよ!うう、ちょっとだけこうさせてろ」
「……好きにしやがれ」

208モリアとペローナ(7/11):2008/03/02(日) 13:00:11
 ようやく泣き止み、先ほどよりも随分と表情が和らいでいるペローナをとりあえず引き剥がして椅子に座りなおさせたモリアは、やれやれと溜め息をついた。
「ようやく落ち着いたか。で、おめェは何の“能力者”なんだ?」
理解できない質問にペローナが首を捻る。
「それは私に言ってんのか?」
「他に誰が居るっつうんだ、いいから面倒なく答えろ」
「いや、まったく意味がわからないんだが」
騙しているという感じが微塵も感じられないきょとんとした返事。
とはいえこの部屋まで華奢な少女が素通りしてきた時点で、能力者でないと考える方に無理がある。
「なら、“変な模様がついた不味い果物”を喰った事はあるか?」
「それならある!あまりに不味かったから一口しか食ってねーが」
「いや、一口で十分だぜ、キシシシ!」
「一口で?そんなにやべぇ物なのか?」
「あぁ……そいつは通称“悪魔の実”一口でも喰うと海に呪われる代わりに、すげえ能力が身につくって代物だ」
「げぇ!呪われる?!」
「大した事はねぇ、泳げなくなるだけよ。おめェが何の実を喰ったのかわからねェが、おれの“能力”を少し見せてやる」
言いつつ、モリアは少々困惑していた。
自分から何かを見せようとすることなど、今まであっただろうか?しかも、得体の知れない侵入者に対して。
普段なら即ぶち殺すか影を抜き取っているというのに。
ともかく、彼は自己紹介のため悪魔の力を発動させた。
床が揺らめき、泡立ち、黒一色の巨人が這いずり出し、そして立ち上がる。
「ひっ、化け物……」
「化け物じゃねえ。こいつは“カゲカゲの実”により生み出された“影法師”、おれの分身だ。
おめェも悪魔の実を喰ったんなら、まだ自覚はねえとしても何か出来る筈だ。見せてみろ!」
言うが早いか、“影法師”がペローナに向かい這いずってきた。
モリアにしてみれば、能力を見極めるのを兼ねたちょっとしたデモンストレーションなのだが、大抵の人間なら失神してもおかしくない光景である。

209モリアとペローナ(8/11):2008/03/02(日) 13:02:12
 「うえ、来るな!来るんじゃねえ!いやああああ!」
ペローナがその怪物に対して恐怖の叫びを上げた刹那、彼女の身体から半透明の何かが、不協和音を伴って大量に飛び出してきた。

……ホロホロ……ホロホロホロ……

「ぬ?!これは何の実だ?!“欠片蝙蝠”!!!」
かなりの速度で向かってくるそれらを受け止めるべく、影を散らす。
砲弾や斬撃、果ては炎までも受け止められる影の壁だ。
しかし。

ホロホロホロ…………

「ぐおおおおお!」
まるでそこに何もないかのように貫通してきた飛行物体が、モリアの巨体に吸い込まれていく。
それと同時に影法師は崩れて普通の影へと還り、そして……。

「……驚かせて悪かったああああ……おれは駄目な奴だ……
そうさ……部下の一人も守れねえ……人を信じられねえ……部不相応な野望を持った駄目な男だ…………うおあ……」

我に返ったペローナは、突然へたり込んで呻きだしたモリアに駆け寄った。
「おい、なんだよ、どうしたってんだ、モリア……ねえ!何とか言ってよ!私が何かしたのか?!
うう、ごめんね、なんかわかんないけどごめんなさぃ……」

結局“能力者”としての自己紹介はほぼ失敗に終わった。
なにせ何がなんだかわからないまま、モリアが立ち直るまで互いに泣きながら謝り続けたのだから。

210モリアとペローナ(9/11):2008/03/02(日) 13:03:41
 「本当にすまねえ」
「黙れ、気にしてないと言ってるだろう、面倒だから忘れろ。後、おれにくっつくんじゃねェ。ええと、“超人系”は何頁だったか……」
「むー」

謎の精神攻撃から開放されたモリアは、腹を背もたれにして離れようとしないペローナを可能な限り無視して、“悪魔の実辞典”をめくった。
数十年海賊をやり続け、“新世界”に侵入したこともあるモリアをして何の実か判らないということはかなり特殊な種類に違いない。
どちらにしろここまで自分のことを話し、かつ“カゲカゲ”では防げない能力の持ち主であることがわかった以上、選択肢は仲間にするか殺すかという二つに絞られている。

「……あんまり殺したくはねえなあ」
「なんか言ったか?」
「気のせいだ」

「なー、まだわかんねえの?」
「今調べてるんだから黙ってやがれ、喰っちまうぞ」
「いいぜ」
「あァ?」

「この角みたいなのは何でできてんだ?かわいいな!」
「自前だ馬鹿野郎」
「すげー!」
「うるせェつってんだろ!……お、こいつか。ペローナ、おめェ字は読めるか?」
「読める」
「なら自分で見ろ」
ペローナは分厚い古びた本を覗き込んだ。

−超人系“ホロホロの実”
−虚ろな心と人の魂を司り、自分の魂を分割しゴーストとして使役できる。
・ゴーストには視覚聴覚があるが、あらゆる物や攻撃をすり抜ける。
・ゴーストを他人の魂に重ねることで強力な精神攻撃を行える。
・ゴーストは霊現象を起こせる。

211モリアとペローナ(10/11):2008/03/02(日) 13:05:38
 「おお、これすげー便利じゃん!ホロホロ!座ったまま外も見えるぜ!」
“能力”を認識したペローナが、早速ゴーストを撒き散らし始める。
「嬉しいのはわかるが、おれにそれを向けるんじゃねえ。ところで、おめェ海賊は好きか?」
「大ッ嫌いだ」
「そうか、それは残念だ」
「え……あ……モリアは好きだぞ!今のところは!」
「まあいいさ。なら、海賊をぶっ飛ばしてみたいと思うか?」
「思う」
「結構な事だ。なら、おめぇ夢はあるか?」
「ある!」
「キシシシシ、なら決まりだな!ペローナ、おれの部下になれ。その代わりにおれはおめェの夢を可能な限り叶えてやる。どうだ!」
「おあ……本当にいいのか?」
「何だ、何か不満か?」
「不満は全然ねえが、私は……ホロホロは、モリア……様の役に立てるか?」
その返答を聞いた瞬間、モリアは実に嬉しそうに笑って、その巨大な両手でペローナを抱き上げた。

「立つさ、その能力はおめェが思ってるより遥かに強ええ。
おれには判る、もっと自信を持て、おめェはやれる奴だ!今よりもずっとな、キシシシシ!」
それにつられるかの様に、ペローナの顔にも久方振りの笑みが浮かぶ。
「自信はねえが、努力する。私は今からあんたについていくぜ。……でも、何故だ?」
「あァ?」
「正直、“七武海”の名を聞いた瞬間、私はあんたに殺されると思った」
「キシシシシ!」
「生意気で、適当で、何処の誰かもわからねえような……私なんかを……」
「ンッンー、素直じゃねえところかな」
「は?」
「独り言だ。まあ今日は休め、おめェよく見たらボロボロじゃねえか」
「ああ、そうする。なあ、モリア様」
「まだ何かあるのか?おれはもう寝るぞ、これでも仕事上がりだ」
「……ここで寝てもいいか?」
「早く目が覚めてもおれを起こすんじゃねえぞ」

212モリアとペローナ(11/11):2008/03/02(日) 13:07:06
 ……ペローナ様!ペローナ様!お仕事のお時間です!
「んん、何だ、うるさいぞ……」
目を覚ますと、巨大な熊のぬいぐるみが目の前に立っている。ここ数年おなじみ、いつもどおりの光景だ。
それにしてもキモく低い声だ。もっとかわいらしく喋れないものか。
ぬいぐるみに喋ってほしくて仕方なかった昔の自分を殴ってやりたい。
「んなこたー判ってる!喋るんじゃねえっていつも言ってるだろ、クマシー!」
「おああ、ですが今日はお休み中随分とうなされたり笑ったり、何か変でしたもんで……」
「喋んじゃねえつってるだろうが!!!」
拳がぬいぐるみの口元を直撃する。
「おうっ!おお……」
「……ちょっと、昔の夢を見ただけだ。気にするな」
「それはようございました」
「しつこい、黙れ、かわいくなくなる!!!」
「おお……」
「さて、仕事にかかるか。クマシーはその辺で静かにしてろ」
「はい、ペローナさ……うごぁ!」
「だから喋るんじゃねえ」

まだ口をもごもご動かそうとしている熊のぬいぐるみ……カゲカゲの力で動いているゾンビなのだが……を無視し、精神を集中させる。
今はもう慣れ親しんだ感覚、気持ちのいい浮揚感を伴って大量の幽体が身体から抜けていく。
それらは壁を抜け、空を飛び、あらゆる情報を取り込んでご主人様や、私以外の“怪人”へ届けられる。
私はこの巨大海賊船“スリラーバーク”の目であり耳だ。
私は海賊が嫌いだ。……モリア様以外は。
人に従うのも大嫌いだ。……モリア様以外には。

霧の中に、中型の船が見えてきた。
ひまわりだか太陽だかわからない無駄にかわいい船首がついているし、変な形はしているが、髑髏を掲げている!海賊船だ!
こいつらの影はどれぐらいご主人様の役に立つだろうか?
モリア様は私の夢をほぼ完全な形で叶えてくれた。
今度は私がモリア様の夢を叶える番だ。

213モリアとペローナ:2008/03/02(日) 13:12:00
以上です。
構想段階では最初と最後に少しエロ成分が入っていたのですが、別にそれがメインでもないし
入れるとエロパロの方に貼らざるを得ないので結局削除しました。
モリア一味は敵役にしては固い絆で結ばれていて好感が持てます。
時間があればアブサロムやホグバックの話も書いてみたいです。
お付き合い頂きありがとうございました。

214774万ベリーの賞金首:2008/03/02(日) 19:53:25
何となく覗いたらまさかの新作投下ktkr
エロ分削ったらしいけど、この展開ならエロ無い方が萌える気がする
ペローナかわいいよGJGJ

215774万ベリーの賞金首:2008/03/04(火) 10:56:35
GOOD!

216苺屋★:がぼ〜ん
がぼ〜ん

217774万ベリーの賞金首:2008/03/19(水) 07:40:26
書き手が増えればいいなあ

218774万ベリーの賞金首:2008/04/08(火) 00:29:00
GJ!ペローナ可愛いよペローナ

219774万ベリーの賞金首:2008/10/14(火) 02:07:59

過疎ってんなー

ペローナは人気www俺も好きだけどwww

220ハンコック×ルフィ:2009/11/27(金) 20:18:58
少し前に他スレにうpしたやつですがこちらの方が趣旨に合いそう&
スレ活性もかねて投下してみたいと思います。

内容……名前欄の通りハンコック×ルフィ(むしろハンコック→ルフィかも)
インペルダウンに向かう船の中での話で(今の所は)原作に沿った内容です

拙い文章ではありますが一読してもらえたら嬉しいです

221ハンコック×ルフィ:2009/11/27(金) 20:19:22
「〜〜。〜〜〜〜!」霞みがかった意識の中、眼前で誰かが会話をしている。
 話の内容はよく分からなかった。ここがどこなのか、目の前のそいつが男なのか女なのかも。
 ただ、酷く嫌な予感がする事は確かだった。
 逃げなきゃ――
 そういって、盛んに頭が警鐘を鳴らして来るが、身体は動かない。四肢を鎖に繋がれている上、屈強な男達に両腕をがっちりと押さえつけられていれば、それも当然であった。
 やがて目の前のそいつがこっちを振り向いた。頭に透明の金魚鉢の様なものを被った、何とも珍妙な出で立ちだったが少しも笑う気にはなれない。むしろその下から覗かせる狂気じみた笑みと相俟って、余計に恐怖を煽りだたせる。
「ふん」
 怯えの混じった自分の瞳をにやにやと見つめながら、そいつが立ち上がった。そのまま――まるで珍獣でも眺めるかの様に、自分の周囲をゆっくりと歩き始める。
 抵抗は……しなかった。したところで意味が無い事は、捕まってからの短い日々の間でも、嫌という程覚え込まされている。
「う……うぅっ……」
 恐怖からか、それとも耐え難い程の屈辱感からか。おそらくはその両方だろう。もはや何十回目になるのかも分からない涙が頬を濡らした。
 滲みゆく視界の中、女ケ島での辛くも楽しかった日々が、次々に浮かんでは消えていく。
 親愛なるアマゾンリリーの土を踏む事は、もはや無いのかも知れない。このうえは少しでも長く、故郷の記憶に縋り付いていたかった。

 ――だが。
「ここに……決めた!」
 そんなささやか願いすら、その一言であっさりと切り捨てられる。
 はっと顔を上げた自分の前に、再びそいつが立っていた。ただし最初と違うのは、顔中に満面の笑み――それも嗜虐に溢れた――を浮かべている事、そして……もう一つ……が……。
「〜〜〜〜っ!?」
 『忠告』の事すら頭から消え、鶏の様な悲鳴を上げる。この場から逃げ出そうと必死に抵抗するが、それでも、腕一つ満足に動かす事ができない。
「◆@¢♪〜っ!」
 その間にも、そいつは手にした焼き鏝を視界にちらつかせつつ、ゆっくりと背後へ回っていく。
 あまり島から出た事が無い自分でも、あれが何を意味するのかは一目で分かった。あの棒を押し付けられた瞬間から、自分は人間でいられなくなるのだ。奴らの奴隷として、所有物として、一生を惨めに送り続けなけれねばならない。
 ――嫌!――嫌っ!!――嫌ぁっ!!!
 もはや半狂乱になってもがき続ける自分に、男達も勘忍袋が切れたらしい。背中と腹に容赦無い一撃を浴びせられ、その場へ跪く。
 訪れた痛みと嘔吐感で、全身が強張りかけた――その時。

「――――!!」

 背中から感じる熱が、全ての感覚を忘れ去せた。
「※%●#〜〜っ!!」
 幼児の様な奇声を上げながら、そいつが赤銅色に輝く棒を一気に押し出し――

222ハンコック×ルフィ:2009/11/27(金) 20:20:01
「――――!!」
 声にならない叫びを上げながら、無我夢中で跳ね起きた。拳を無茶苦茶に振り回して――その全てが虚空を切っている事に、気付く。
(ゆ……め……?)
 意識がはっきりしないものの、おそらくそうだろう。熱も痛みも無いのが何よりの証拠だ。自覚した瞬間、止まっていた呼吸が、ようやく活動を再開する。
 本当に、最悪の寝覚めだった。昔の、奴隷だった頃の夢。あまりの悍ましさに、未だ動悸は収まらず、肌も氷の様に冷えきっている。
(ただの……夢じゃ――)
 深呼吸をしながら、事実だけを何度も復唱する。そんな作業を繰り返している内に、ようやく呼吸が整ってきた。
 深く息を吐き出すと、顔を上げ、周囲を見渡す。
(――暗い)
 見たままの感想だった。おそらくは未だ真夜中に違いない。若い海兵達の掛け声も、窓の外からこの部屋を覗き見ようと企む薄馬鹿者たちの気配も、今は何一つ感じられなかった。
 本当に静かな夜だった。――果たしてここは現実なのだろうか?そんな思いすら湧いてきそうになる。
(馬鹿馬鹿しい!)
 吐き捨てる様に頭を振ると、真正面から闇を見据える。時間が経つにつれ、黒一色だった世界は、徐々に正体を顕していく。
 ――カーテンの降りた丸窓、シンプルと堅固さを前面に出した家具・調度品……
 この数日にすっかり見慣れた風景が、そこにあった。
(海軍の船室じゃ。間違い無い――)
 ほっと息をつくと同時、身体の緊張が抜けたのが分かった。余程力んでいたのだろう。肩の辺りが、ずっしりと重い。
『不様』
 肩を揉みほぐしている自分に、そんな言葉が心を過ぎる。
 確かに、たかが夢の一つでこうも取り乱すなど、とんだお笑い草である。この場に自分の部下達がいたら、さぞ驚いただろう。あるいは――
(失望される……かもしれぬな)
 胸の内で呟きながら、口を皮肉げに歪める。
 彼女達の思う蛇姫とは、強く、美しく、何者をも恐れない、勇敢なる九蛇の皇帝の事だろう。そのイメージを作ったのは自分であり、現実、彼女達の前ではその様に振る舞った。それ以外の顔を見せた事は無かったし、見せる気も無い。とはいえ――
「まあ……よい」
 ふう、と息を吐き出すと、そのまま思考を打ち切った。
 何がどうあれ、さっきの自分の姿を見た者は誰もいない。仮定の話を気にした所で意味は無い。
「ふふっ……」
 と――解決にならない答えだけはすらすらと導き出される事に、つい自嘲の笑みが浮かぶ。
 一段と深くなったため息の音が、辺りを支配した。
(気分を入れ換えよう)
 せき立てる様にそう決断し、視線を向ける。汗をかいたせいか、随分と喉が渇いていた。テーブルの上に水瓶が置いてあったのを思い出し、立ち上がりかける。が、
(――!?)
 どういう訳か、膝に力が入らなかった。そのままバランスを崩し、前へつんのめる。未だ下半身を覆っていたシーツが勢いよくめくられた。そして――
(あ……)
 露になった下半身を見て、呆然とする。足が……震えていた。

 ――記憶は始終蘇る――

223ハンコック×ルフィ:2009/11/27(金) 20:20:45
 九蛇城で『彼』に語った言葉が脳裏を過ぎる。四年もの間毎日の様に行われた虐待の日々は、もはや忘れ去る事などできぬのだろう。
 苦痛・恐怖・絶望・死への誘惑……繰り返し刷り込まれた負の感情が、渦の様に頭を掻き乱す。
 ここが海軍の……もとい、忌まわしき世界政府の船という事もあったのだろう。何処へ行こうが逃げられない――そんな声が聞こえた気がして、心が、身体が、悲鳴を上げる。
 そして――
(――――――!!)
 燃える様な背中の疼きが、自分が人間以下の存在であった事を、ありありと蘇らせた。
 恐怖に凍った身体が、背中に浴びた焼鏝の熱が、助けを呼びながら狂った様に泣き叫ぶ自分の姿が――何度も何度も脳裏に瞬く。
 五体を引き裂かれんばかりのトラウマに、震えが、寒気が、吐き気が止まらなかった。だが――
(……っ!)
 それでも尚――唇を噛み締め、絶叫を張り上げそうになる口を必死に押さえ込む。
 逃げ場など元より有りはしない。ただただ、耐える他なかった。

 ……どれくらいの時間が過ぎたのか。
 気が付けば膝を抱えたままベッドにうずくまっていた。背中がまだ疼くものの、何とか『嵐』は過ぎ去ったらしい。
 身体に異常――自傷の跡など――が無い事を確認すると、ふらふらと顔を上げる。
「…………」
 部屋の内も外も、依然変わらない様子だった。結構な時間が経過したと思っていたが、この分ではまだいくらも経っていないのかもしれない。それどころか……。

 ――もし、このまま朝が訪れなかったら?

 そんな、ぞっとする様な想像が頭に浮かび、思わず身を竦ませる。憔悴しきった心では、自身を強く保つにはあまりにも脆弱であった。
 ――結局……今の姿こそが本当の自分ではないのか?

(それは――)
 違う、と言いかけて――そのまま口ごもる。
 何が違うと言うのか……。ここにいる自分は、九蛇の蛇姫でも、王下七武海の海賊女帝でもない。過去のトラウマに未だ怯え続ける、一人の元奴隷だった。
「……」
 ぎゅっと、唇を噛む。分かっていた事だった。いくら国を騙し、人の上に立とうとも、奴隷だった過去が消える事は無い。
 むしろ、背負うものが大きくなるほど、自分達の目が届かなくなる事に不安を募らせた。
 ――いつまた、全てを失いやしないか――
 そんな焦燥感が、いつしか一切の隙も見せない程に心を凍てつかせた。目は濁り、感情を表に出す事すら、滅多に見せなくなっていた。それでも――
「……っ」
 溢れ出した感情が、視界を滲ませた。
 それでも――誇りを失くし、蔑まれるだけの存在となった自分達が、再び平穏を手に入れるには……これしか方法が無かったのだ。
「う……ああっ……!」
 もう、何も思いはしなかった。熱くなった目頭から、涙がぼろぼろと零れ出す。
 誰一人とて信用できない。いつ正体が暴かれるかも知れない。そんな気持ちで孤独に過ごす夜を、あとどれだけ乗り越えていかねばならぬのだろう。
 身体が再び強張る。行き場の無い閉塞感だけが重く心にのしかかったまま、ひたすら怯え、震え、涙を流し続ける。――その時だった。

224ハンコック×ルフィ:2009/11/27(金) 20:21:37
「……?」
 ふと、胸の辺りに違和感があった。濡れた目を拭い自分の体を見る。暗がりなのでよく分からないが、どうも自分の身体に何かが纏わり付いているらしい。
 自分の蛇だろうか?
 そう思い、軽く触れてみたが、その感触はまるで違った。掌から伝わる温もりや、肌触りなどは、まるで人間の腕のようであり――
「え?」
 思わず声を上げた。人間の腕?何故そんなものがこの場に存在するのか?
 この部屋にいるのは自分とあと一人だけの筈で――
(――まさか!?)
 そう思った直後だった。ぎゅっと、『腕』からの締め付けが強くなる。――そのまま、まるで野菜でも引っこ抜くかの様に、身体が宙へと舞い上がった。
(〜〜〜〜〜〜!?)
 訳が分からぬまま、目線だけがベッドから天井へと、目まぐるしく移り変わる。
 つかの間の浮遊感を味わった後、今度はそのまま床を目指して、一気に落下した。
(このままでは――)
 流石にこの高さから落ちれば無傷とはいかない。何とか体勢を整えようと意識した直後――徐々に速度が緩やかになり、そのまま、ぼん、と何かにぶつかった。
 逞しい肉の感触に、少しの間きょとんとし――やがて理解する。自分を持ち上げたものは何か?何に受け止められたのか?
 どくん、と心臓が跳ねた。喉を鳴らすと恐る恐る……彼の名を呼ぶ。
「ル…ルフィ。そなた一体……?」
 彼――この部屋にいるもう一人の人間であり、自分がこの船に乗り込む理由となった『男』――モンキー・D・ルフィの事だ。
 その彼から……一向に返事が来ない。
「ルフィ……?」
 もう一度呼びかける。が、結果は同じだった。首を傾ける。自分の声が聞こえなかったのだろうか?
(いや……)
 そんな筈は無い、と思う。この距離で、その上抱きつかれて、もとい――巻き付かれたままでの状態で、自分の声が届かない訳が無い。
(ならば――)
 何故、と自問をしかけた瞬間、はっ、と気付く。二人だけの船室……暗闇……。
 ルフィが無言なのも、そのつもりなら、至極納得がいく。
「ル……ルルルルフィ!?そなた……もしや!?」
 完全に予想だにしなかった展開に、声が裏返った。その刹那――
 
「――――!」
 本当に僅か。まるで花を摘むかの様に、優しく抱き締められる。言葉よりもまず行動ありきな、何とも彼らしい返答だった。
「武々の時も……そうじゃったな」
 彼の体温を感じながら、そっと笑みを浮かべる。やはり自分の予想は正しかったのだ。そう確信した瞬間、一気に心臓が跳ね上がる。
(ルフィ……)
 頬に手をやるまでもなく、顔が上気している事が分かる。気まぐれか、本能なのか。はたまたこの二、三日の付き合いで、自分の想いが通じたとでもいうのだろうか?
 いくつもの思いが絡み合い、頭を駆け巡る。だが――
(そう……じゃな)
 いくら考えた所で、彼の心の内など分かる筈も無い。分かりきった答にさっさと見切りを付けると、そのまま目を閉じた。自問する。
 抱き締められた事以外に、ルフィからのアプローチは無い。受け入れるか、否か……全ては自分の意思次第なのだろう。
 時間をかけて考える。そして――

225ハンコック×ルフィ:2009/11/27(金) 20:22:01
 ――だからおれ、天竜人嫌いなんだって!!

 屈託ない顔で、そう言い切った彼の姿を思い出して、目を開ける。
「そなたに……なら」
 決意を固め、頷く。もう迷いは無かった。
「ルフィ……」
 消え入りそうな声で彼を呼ぶと、そのまま彼の身体へと寄り掛かった。閉じた瞼の裏側で、じっと、その時が来るのを待ち受ける。
 顔が、身体が熱かった。心臓ももはや破裂しそうな程の勢いである。彼がこれから何をするのか。自分はどうなってしまうのか。
 不安と期待が心を占領し――
「…………」
 そのまま、たっぷり10分は過ぎた――と思う――所で、ようやく我に返った。
「ル、ルフィ……?」
 何一つ起こらない事に困惑しつつも、とりあえず呼びかけてみる。やや間があったものの、先程同様に、身体が優しく包まれた。
「ああ、ルフィ」
 満足感に浸りながら、再び彼の胸へと身を埋めた。
「…………」
 更に5分。今度はきっちり数まで数えていた。なのに……一向に変化が無いのはどういう事なのか。
「ルフィ……」
 沸き上がって来る疑問に耐え切れなくなて、目を開く。とはいえ、いかんせん真っ暗闇な上に、未だ寄りかかったままの状態である。顔の輪郭などは分かるものの、表情までは読み取れない。読み取れなかったのだが……。
(……っ)
 何故だか、どうしても彼から目を離せない。首を左右へと向けてみたが、視線だけはしっかりと彼を捉えていた。
(まるで……サウスバードじゃな)
 常に南を向いているという、奇妙な鳥の事を思い出して、苦笑する。こんな事、以前の自分ならば決してあり得なかった。つまりはそれだけ、彼に心を許しているのだろう。
「…………」
 沈黙のまま時間が過ぎていく。密着と言っても差し支えない距離。彼の息遣いを感じる度、前髪が軽く額を撫でる。
 悪くない気分だった。思えばこうやって他人を見上げていた事など、奴隷の頃を除けば、記憶に無い。ましてや――自らの意思でそうするなど……。
(……)
 進んで他人に身を委ねる。そんな日が来るなど、思ってもみなかった。何だか自分が頼りなく見え――そしてそれ以上に、彼が頼もしく思えた。
(あ――)
 気付けば、彼の吐息が自分の鼻先にかかっていた。いつの間にか、近付き過ぎていたらしい。
(離れないと――)
 そう思い、顔を引こうとしたのだが……止まらない。高ぶった身体が、感情が、自分の身体を突き動かせる。
(――――!!)
 そうこうする内に、彼との距離が徐々に迫っていく。互いの鼻先がちょん、と触れ合い――そのまま擦る様に進んでいく。傾いた視界一杯に、彼の唇が映っていた。
 もう止まらない。止められなかった。ぎゅっ、と目を瞑り、数瞬先にやって来るであろう未知の世界を待ち受ける。予想とは少し違う形になったが、これはこれで良かったのかもしれない。
 そんな思いが頭に浮かんだ――その時だった。

226ハンコック×ルフィ:2009/11/27(金) 20:22:31
「……の飯だぞ……ップ……」
「……え?」
 唇が触れ合う寸前、ルフィの口から飛び出した言葉に、はたと動きを止める。
『飯』
 ……彼らしいと言えなくもないのだが、こんな場面ですら口にするものなのだろうか?さっきからのちぐはぐな行動といい、どうにも普段の彼とは様子が違う気がした。――その瞬間。
「だから、これは俺の飯だっつってんだろ!?ウソップ!」
 外に漏れそうな程の叫び声を上げたルフィが、ぐいっと自分を引き寄せた。まさかという思いで彼の腕を強引にほどくと、正面から顔を覗き込む。
「や……やはり……」
 力無く呟いて、がっくりとその場に落胆する。――案の定、その目は固く閉じられていた。
「……ふ……ふふ……」
 乾ききった笑いが止まらない。寝ぼけた彼に食料と間違われた事がショックなのか。それとも自分の空回りっぷりに呆れ果てているのか。理由は分からない。
 どちらにせよ確実に言える事は……彼の気持ちは単に自分の想像に過ぎなかったという事だった。
「考えてみれば……まだ名前すらまともに呼ばれておらぬのじゃったな……」
 船に乗って以来、どうにも妄想が膨らみがちの毎日ではあるが……現実には未だ『お前』や『ハンモック』扱いである。どうひいき目に見た所で、親しいという印象には思えなかった。

 ――何も進展してなどいない。

 冷静になった自分からの、図星ともいえる指摘に、一層表情を暗くする。確かに、愛しき人との航海とはいえ、少々はしゃぎ過ぎていたかもしれない。その上今の彼は、逸れた仲間や兄の事で、頭が一杯だった。
 日ながずっと、兄や仲間の物であろうビブルカードを見つめている事からも、よく分かる。
「はあ……」
 すっかりしゅんとして、ため息を漏らす。
 少なくともこの戦争が終わるまでは、彼の心の中に自分の居場所は無いのだろう。そうだとしたら、彼の目が覚めなかったのは本当に幸いだった。
 起きている時に、こんな空気の読めない勘違いをしていたなら……。
「〜〜〜っ!!」
 ぞっとする程の結末が頭をかすめ、思わず首を振った。ここで冷静になれたのは、かえって良かったのかもしれない。
(少し……自重せねば……)
 明日にはいよいよインペルダウンに着く。今回の事を抜きにしても、気持ちを切り替える時機ではあった。立ち直るきっかけを掴み、少しだけ平穏を取り戻す。
 あとは素早いものだった。背筋を伸ばし、力の抜けた身体に喝を入れると、たちまち女帝の顔を取り戻した。
(そなたを、無事に送り届けねば……な――)
 すやすやと眠るルフィを見つめながら、きりっ、と口を引き締め――
 はたと気付いた。
「え……?」
 一瞬、何の事か分からずに、きょとんとする。『力の抜けた身体に喝を入れた?』
 おかしい。つい先程まで、自分の身体はがちがちに強張っていた筈だ。それ以前に、自分は酷いトラウマに襲われていた筈で……。
 若干の戸惑いを感じながら、胸に手を当ててみる――が、何の感情も湧いては来ない。強張った身体も、張り裂けんばかりの慟哭も、綺麗さっぱり無くなっていた。というか、むしろルフィの顔と先程の自分の失敗の事ばかりが頭に浮かんで来てしまう。
「……」
 余程呆然としていたのか。閉じていた口がまた開いていた。半ば無理矢理に押し込めると、後はそのまま沈黙が続く――が、
「はは……悪ぃな……ップ……」
 そう言って寝返りをうったルフィが視界に入ると、我慢も限界だった。
「……ふ……ふふふふ……!」
 笑った。声を上げて笑った。皇帝ともあろう自分が、海賊女帝ともあろう自分が、こんな真夜中だというのに可笑しくてたまらない。
 ――本当に、自分は何に怯えていたのだろう。こんな事で。こんな単純な事で。あっさりと霧散する様な記憶に、何を怯え続ける必要があったのだろう。
 考えれば考えるほど馬鹿馬鹿しくなり、更に笑いが込み上げるのだった

227ハンコック×ルフィ:2009/11/27(金) 20:22:50
「……ふう」
 しばらく笑った後、ようやく息をついた。
「また……そなたに助けられたのじゃな」
 目元に溜まった涙を掬いつつ、ルフィにくすりと微笑みかける。
 何はともあれ、彼が二度も助けてくれた事実に変わりは無い。ここ数日の事も、おそらく恋愛的な意味では何も進んでないのだろうが、そもそも初めは「ムカつくなあ」とまで言われたのだ。それを考慮すれば、充分過ぎる程の進展といえる。
「ありがとう。ルフィ」
 気持ちが軽くなったからだろうか。気付くと自分でも驚く程素直に、感謝の言葉を口にしていた。島の者――特にニョン婆辺りが聞いていたなら、今頃は卒倒していたかもしれない。
 泡を吹いて倒れる老婆の姿を脳裏に浮かべつつ、ゆっくりと顔を上げる。気のせいか。目を離した瞬間、彼の口元が微かに笑っていた様な気がした。
(もうすぐ夜明けじゃな)
 ぼんやりと明るくなったカーテンの真下を見つめて、呟く。ちらり、とめくると、水平線の真ん中より、徐々に光がともりつつあった。 ――明けない夜なんて無い。
 そんな声が聞こえてきそうな程、雄々しく姿を現し始めた太陽に、しばし心を奪われる。
 航海中の朝焼けなど、もはや珍しくもなかったが、今日ばかりは不思議と格別に美しく見えたのだ。
 結局、日の出までそのまま見てしまった。
「……っふ……」
 カーテンを戻した後、不意に出かけた欠伸で、ようやく自分が禄に寝ていない事を思い出す。美容的な部分を抜きにすれば、さして問題は無いのだが……あと何時間後にはインペルダウンに着く事を考えれば、体調は万全にしておかなければならない。
 ――少し眠ろう。
 そう思ってベッドに足を踏み出しかけた時、不意にルフィの寝ているソファが目に入った。同時に、にんまりとする。
「少し……少しの間だけじゃ」
 そう自分に言い聞かせて、ルフィの横に腰掛けた。そっと彼の頭を抱えると、慎重に自分の膝上へと降ろす。
「ふふっ」
 彼の頬を撫でながら、そのまま至福の時間が過ぎていった。

228ハンコック×ルフィ:2009/11/27(金) 20:24:34
 霞みがかった意識の中、焼き鏝を手にしたそいつが、にやついた笑みを浮かべて自分の背後へ進み出す。
 とはいえ、以前の様な震え上がる程の怖さは無かった。むしろ相変わらず奇妙な姿だ、と笑いすら込み上げそうになる。
「※%●#!!」
 そんな自分の態度がお気にめさなかったらしい。意味不明な叫び声を発しながら男が自分の背中に鏝を宛てがった。流石に平常心のままとはいかず、背中から感じる熱気に、ぞくりとした恐怖が湧き上がる。
 ――だが、
「わらわは……もう誰にも支配されぬ!」
 彼の姿が脳裏に過ぎったその瞬間、高らかに宣言した。と同時に、強張りかけていた身体に再び力がみなぎって来る。ぼろぼろだった姿も、元の服装に戻っていた。
「邪魔じゃ!」
 両腕に纏わり付いた男達を一瞬で片付けた。が、僅かに遅かった。振り返った自分の眼前に、そいつが――天竜人が、勝ち誇った笑みを浮かべて手を突き出して来る。
 ――間に――合わない!
 脳が下した絶望的な結論に、覚悟し、目を閉じかけた――その時。
「――の!JETバズーカ!!」
 天から降り注いだ、まさしく救世主の様なその一声で、目の前の手から赤銅の棒が弾き飛んだ。そいつが武器を失った事すら気付かない程の速さで、ただ一言、発する。
「芳香脚!」
 渾身の力を込めた蹴りが天竜人の眉間に炸裂した。首から先を石化させたそいつが、一瞬後、血の一滴すら噴き出す事無く、粉々になった。
「やったな!ハンコック!」
 肩で息をついている自分の背後で、彼の嬉しそうな声が聞こえた。彼が自分の名を正しく呼んだ事は無い。おそらくはこれで、この夢を見るのは最後となるのだろう。
 そんな確信めいた予感と共に、後ろを振り返る。泣きだしそうになる顔を笑顔に変えると――彼の元へと駆け寄った


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