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【場】『自由の場』 その2
1
:
『星見町案内板』
:2021/05/15(土) 13:10:51
特定の舞台を用意していない場スレです。
使いたい場スレが埋まっている時や、
現状スレのない地域での場活動にご利用下さい。
町にありえそうな場所なら、どこでもお好きにどうぞ。
82
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』&『ビー・ハート』
:2021/05/31(月) 19:01:32
コッ コッ コッ……
その日は、星見町内の『植物園』を訪れていた。
着慣れた『喪服』姿で通路を歩く。
ただ、一つだけ『それまでと違う事』があった。
……スッ
足を止め、休憩所のベンチに腰を下ろす。
バッグの口を開くと、辺りに『ラベンダー』の香りが漂う。
いつも持ち歩いている手製の『香り袋』。
それと同じように、『もう一つ持ち歩いていた物』があった。
今日は、『それ』を持ってきていない。
――この街に来てから『初めての事』だった。
83
:
七篠 譲葉『リルトランク』
:2021/05/31(月) 21:13:50
焦げ茶の髪を背中に流した高校生――七篠が『植物園』を歩いていた。
手には植物に関する本。それを読みながら植物園を回っていたが、疲れてきたのか休憩所で一休みするらしい。
>>82
「……ラベンダーの香り…?」
いつも眠る前に『リルトランク』で生やしている『ラベンダー』。嗅ぎ慣れたそれの香りに七篠は思わず周囲を見渡す。
七篠の視線の先には喪服を着た女性がいる。
――喪服…。……ラベンダーの香りのするお線香って確か、あるよね…?
――でも…それにしては煙たい香りじゃないし…。香水とかかな…?
「すみません、ご迷惑でなければ…
お隣、よろしいですか?」
七篠はベンチに座る女性に声をかけた。
近くに寄るとよりよく香る。七篠が寮で使う生のラベンダーとはすこし違った香りだ。
「あの、いい香りですね。
私もラベンダー好きでよく使うんですが、こんなによく香らなくて…。
香水ですか? 素敵な香りなので伺いたくてつい声をかけちゃいました」
84
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』&『ビー・ハート』
:2021/05/31(月) 23:13:15
>>83
「――ええ、どうぞ……」
少女を軽く見上げ、会釈を送る。
その時、彼女が手にしている植物の本が視界に入った。
植物園という場所もあり、
きっと草花が好きなのだろうと思えた。
「……『ラベンダー』がお好きなのですね」
「私も自宅の庭で幾つか……」
――スッ
言葉を返しながら、バッグから小物を取り出す。
布製の小さな袋。
『ラベンダーの香り』は、そこから漂っていた。
「同じような方と出会えて……嬉しく思います」
ニコ……
自分と同じく、『ラベンダーを愛好する相手』を前にして、
口元に穏やかな微笑が浮かぶ。
85
:
七篠 譲葉『リルトランク』
:2021/05/31(月) 23:37:04
>>84
「ありがとうございます」
七篠はそう言って腰を下ろした。
植物園の中の休憩所なだけあって、ベンチから様々な植物が見える。
彼女もなにかを見ていたのだろうか。
「はい、『ラベンダー』って落ち着くといいますか…。
よく眠れるので寝る前に枕元に。
お姉さんは育ててらっしゃるんですね。羨ましいです。
寮暮らしなものでなかなか…」
実家にいた頃は緑が多い場所だった。ここに足を運んだのは郷愁もあったのかもしれない。
そして、七篠は小石川の取り出した『布製の小袋』を見て綻ぶように笑った。
「ああ! ここから香ってたんですね。
このポプリは手作りですか? 素敵です」
「なかなか趣味の近い方と会うのって難しいですよね…。
あ、私はここに低木を見に来たんですが、お姉さんは?」
86
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』&『ビー・ハート』
:2021/06/01(火) 00:13:02
>>85
香り袋を持つ両手には『指輪』がはまっていた。
左手の薬指と、右手の薬指。
どちらも同じシンプルなデザインの銀色の指輪だった。
「――……おっしゃる通りだと思います」
「とても……リラックスできる香りですね」
少女の言葉に共感を覚えながら、
手元の小袋を見下ろした。
気持ちが乱れた時には、
このラベンダーの香りが精神を鎮めてくれる。
それでも落ち着かない時には『鎮静剤』に頼っていた。
「不安な気持ちを落ち着かせてくれますから……」
けれど――今、『それ』は手元にはない。
自分の中の『一つの区切り』として、
『キッチンの引き出し』に置いてきた。
おそらく、もう取り出す事はないだろう。
「『自然公園』には、よく行くのですが――」
「こちらに来るのは今日が初めてで……」
視線を向けた先には、白い『カスミソウ』の花が咲いていた。
87
:
七篠 譲葉『リルトランク』
:2021/06/01(火) 00:35:25
>>86
――両手の薬指に指輪? 珍しい…。
――恋人とは右手の薬指に、家族とは左手にってするけど…。
――喪服を着てるような…大切な誰かを想ってる人が二股とかはないだろうし…。
――……ファッション…かな?
七篠は気になりながらも口には出さない。
この人の心に土足で踏みいるようなことだろう、そう思ったからだ。
「不安になったときとか、元気を出したいときに香りに頼るのは私もやっちゃいます。
金木犀とかクチナシとかの甘い香りとかも好きで…」
「私もここは初めてで、自然公園には何回か。お揃いですね。
自然公園、いい場所ですよね。香りのいいよもぎが生えていました」
そう話しながら、小石川の視線の先を見て、七篠は今日の日付を思い出す。
『ジューンブライド』。
6月の花嫁は幸せになるという伝説のようなそれは…女性のあこがれだ。
白いカスミソウは花言葉も幸福や清らかな心など、ブーケに使われることが多い。
指輪のことも考えると、なにか思い出があるのかもしれない。
「あ、白いカスミソウ! 綺麗ですね。
花束に添えたりすると華やかですし、それだけでも可愛らしい花ですよね。
お姉さん、お好きなんですか?」
88
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』&『ビー・ハート』
:2021/06/01(火) 01:07:09
>>87
「……ええ、とても居心地のいい場所です」
「私は『森林浴』が好きなもので……」
湖畔の自然公園。
この町の中で、よく行く場所の一つに挙げられる。
静かな森の中を歩き、
澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込むと、心が安らぐ。
「『蓬』……山菜ですね」
「小さな頃は――少しだけ苦手でした」
クス……
幼い頃の記憶が蘇り、小さく笑う。
蓬のおひたしや和え物――そのほろ苦い味わいが、
昔は苦手だった。
だけど、それも今は美味しく感じられるようになっている。
「……はい」
コク……
「カスミソウを見ていると……
思い出させてくれるような気がするのです」
「――『幸せ』の大切さを……」
ゆっくりと頷き、視線の先に咲く白い花々を見つめる。
脳裏をよぎるのは『過去の幸せ』だった。
同時に、『今の自分の心にあるもの』を、
無意識の内に意識する。
『彼』と交わした約束。
この命を最期まで全うした先で、
胸を張って『再会』するという事を。
89
:
七篠 譲葉『リルトランク』
:2021/06/01(火) 01:35:47
>>88
「『森林浴』! 素敵です。
私も前まで住んでたところが山の方で、なんだか落ち着くんです。
なんだか、お揃いがたくさんありますね。面白いです」
「よもぎ、ちょっと独特ですよね。
祖母がよく作らなかったら私も食べつけなかったかもしれません」
祖母は七篠を『家の次代』として育てた。
それは生まれた土地でそのまま生きるということを意味する。だからだろう、七篠が山や森の野草に親しむことになったのは。
カスミソウを見つめる小石川の話に耳を傾ける。
「……。
お姉さんの、大切な思い出の花なんですね。
カスミソウ…」
――きっと、お姉さんの…大事な日を飾った花だったんだろうな…。
「『幸せ』の大切さ…。私にはまだちょっとよくわからないです。
でも、きっといつか、後から幸せだった、大切だって気付くのかなって。
最近、すこしだけ思ったりします」
先日の『オジロ』のための戦い。
七篠は無傷で年下の一抹だけが傷を負った。
戦う前の、一緒に先生に怒られながら写生をしていた『平和』な日常と、戦った後の『後悔』とを七篠は思い出していた。
90
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』&『ビー・ハート』
:2021/06/01(火) 02:41:36
>>89
隣に座る少女の言葉が静かに耳を打つ。
ほんの少しの時間、『過去の光景』に思いを馳せていた。
この身を覆う『黒い喪服』とは対照的な、
『白いドレス』に包まれた自分の姿を――。
「――……そうですね」
確かに、『あの時』は幸せだった。
心の中に残る大切な思い出。
それがあったからこそ、今こうして生きている事が出来る。
「ただ……思うのです」
けれど、『今が幸せでない』とは思わない。
この街で様々な人達に出会い、
その一つ一つに支えられてきた。
それは、間違いなく幸せな事だ。
「『今の幸せ』も同じくらい大切だと……」
私は――きっと『幸せ』なのだろうと思う。
「『ラベンダー』が好きな……。
『森林浴』が好きな方と出会えて、私は『幸せ』です」
ニコ……
少女の表情や声色から、
彼女の心には『何か』があるように察せられた。
しかし、『何が大切なのか』は人それぞれ違う。
ただ、彼女と自分の間には『共通点』がある。
だから、ここで『その幸せ』を共有する事は出来る。
いつか後から振り返った時、
それが彼女の『幸せの一部』になれる事を想って。
91
:
七篠 譲葉『リルトランク』
:2021/06/01(火) 07:41:05
>>90
静かに、こぼすように言葉を漏らす女性の話に七篠は聞き入っていた。
七篠よりも大人な小石川にはきっと様々な過去があったのだろう。
その上で今このときを『幸せ』と言ってくれるそのことそのものが、七篠には喜ばしく思えた。
「『今の幸せ』…。
そうですね…。こうして、同じ嗜好のお姉さんと出会えて、同じ時間を共有できて、
私も…とっても『幸せ』だと思います」
そして、三拍ほどの空白の後、七篠は何を思ったか自己紹介を始めた。
「『ラベンダー』好きのお姉さん、その、私は『七篠譲葉(ナナシノユズリハ)』といいます。
清月学園の高校二年生で、趣味は山歩きと畳の目を数えることで、
三人家族で、長女で、家を出て寮で一人暮らしをしてて…。あ、好きな食べ物はカレーです。
……その、今更…なんですが、お姉さんのことを教えてもらえませんか…?
私、『ナナシノ』って名字で……だけど、お姉さんとの出会いを『名無し』にしたくなくて…。
お姉さんとこうして『幸せ』に過ごせた時間を、しっかり覚えていたいんです。
だから、教えてもらえたら、嬉しいなって思って…」
迷惑かもしれない。そう考えているのだろう、言葉が少しずつ小さくなっていく。
92
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』&『ビー・ハート』
:2021/06/01(火) 19:09:36
>>91
ニコ……
『幸せ』という言葉に、柔らかな微笑みを返す。
「小石川――『小石川文子』です……」
『七篠』と名乗る少女の自己紹介を聞いた後、
同じように自身の事を伝え始めた。
「趣味はラベンダーの栽培と森林浴……。
好きな食べ物はパウンドケーキとイナゴの佃煮です」
そこまで言ってから、一度言葉を切る。
「――……私も『一人暮らし』です」
「七篠さんとお揃いですね」
隣の少女を見つめて、静かに笑った。
家に帰っても、挨拶する相手はいない。
その寂しさを埋めてくれたのは、人との出会いだった。
街を歩き、そこにいる誰かと話す事が、
自然と心を穏やかにしてくれる。
今、こうして語らっているように。
「『もう一つ』……お揃いがありました」
そう言い置いて、
休憩所から見える多種多様な植物に視線を向ける。
「この『植物園』に来ている事ですよ」
最初のきっかけは、同じ場所を訪れていた事だ。
そして『ラベンダー』の香りが、お互いを結び付けた。
単なる『共通点』が『縁』となり、『出会い』に繋がる。
それは、きっと素晴らしい事なのだろうと思う。
こうして出会い、共に時間を過ごせている事に、
心の中で深い感謝の気持ちを覚えていた。
93
:
七篠 譲葉『リルトランク』
:2021/06/01(火) 20:05:08
>>92
「『小石川』さん…!
ありがとうございます!」
七篠は思わずといった様子で破顔する。
『名前のわからない女性』に『小石川』とラベルがつき、嬉しかったようだ。
「わぁ、パウンドケーキ! 作るのが簡単で私も好きです。
1パウンドずつって覚えやすいレシピでいいですよね。イナゴは…残念ながら食べたことがないです…」
「小石川さんもお一人なんですね。
一人だと少し寂しいんですが、お揃いだと思うとなんだか元気が出てきますね」
七篠は続く小石川の言葉に首を何度か縦に振り、同意を示す。
「そうですね!
互いに初めて来た『植物園』で、趣味が似てる人と会えるなんて。
素敵なご縁です!」
七篠はそう言うとポケットからスマホを取り出して、続けた。
「素敵なご縁ついでに…その、連絡先交換しませんか?
また小石川さんとお話ししたいです」
94
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』&『ビー・ハート』
:2021/06/01(火) 21:31:33
>>93
「イナゴの食感は『小エビ』に似ています。
こちらに来てからは口にする機会が少ないのですが……」
海から離れた山間部では、魚を手に入れる事は難しい。
そのため、イナゴや蜂の子などの昆虫が、
古くからタンパク源として食されてきた。
自分にとって、それは『故郷の味』であると同時に、
『食べる事の大切さ』を教えてくれた料理でもある。
この街に来てから食べる機会は滅多にない。
ただ、故郷を離れた後でも、その味を忘れてはいなかった。
「――ええ、喜んで……」
スッ
香り袋をバッグに戻し、代わりにスマートフォンを取り出す。
『一期一会』の出会いもある。
けれど、もしまた話が出来たとしたら、
それはもっと嬉しい事だった。
「七篠さん……よろしければ一緒に見て回りませんか?」
ニコ……
連絡先の交換を終えてから微笑んだ顔には、
一際穏やかな表情が浮かんでいた――。
95
:
七篠 譲葉『リルトランク』
:2021/06/01(火) 22:10:02
>>94
「小エビですか、それなら食べられそうです。
ちょっと興味が出てきました」
イナゴは北陸で食べられることが多い。秋の田んぼに出るものを調理するからだ。
残念ながら、七篠の出身地はそちらの地方ではなかったようだ。
七篠は一つ増えた連絡先をじっと見て、小石川の言葉に乗った。
「はい! ぜひ!
せっかくですからまずはさっきのカスミソウ、もっと近くで見ませんか?」
そう言いながら七篠はベンチから立ち上がる。
その後、二人は充実した『幸せ』な時間を共有したようだった。
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