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【ミ】『ハッピーハッピー・コメットテイル』
886
:
須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』
:2016/10/05(水) 21:33:54
>>884
「はい、失礼します」
『数百万』――――噂される相場の値段からしてみれば、相当足元を見た値段だ。
けれども、それで納得してもらえるのなら悪くはない。
問題は、それが妥当かどうか。
彼らに割を食わせてしまう形になるのは、好ましくない。
こちらはあくまで仲介者、中立でいなければならない。
「……まあ、命を取られるわけでもないか」
冬川に連絡が取れた旨を伝えて、二人の到着を待ちたい。
887
:
『猫の心、メイド知らず』
:2016/10/05(水) 23:22:50
>>886
(須々木)
『冬川』:
「――畏まりました」
冬川に、神前達が来ることを伝えた。
特に問題はないのだろう、首肯される。
冬川――言森家と、神前とマナビ。
その間に立つのが、『須々木』だ。
仲介者として立つ以上、中立が求められる。
ナ〜オ
三毛猫は、冬川が用意したらしき餌を食べている。
栄養があるのかは、猫の感覚でしか分からないけれど。
・・・・
・・・・
・・・・
そして数十分ほど経って――
prrr
prrrr
prrrrr
携帯電話が鳴った(マナーモードなら振動だ)
確認すれば分かるが――予想通り、神前からの通話である。
恐らく、家の前に着いた――ということだ。
888
:
須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』
:2016/10/06(木) 22:13:40
>>887
「すみませんが、冬川さん。
到着したみたいなので、出迎えてもらえますか」
使用人である彼女に伝える。
自分の客でもあるのだが、自分の邸ではない。
こちらが迎えるのもおかしな話だろう。本職にお任せしたい。
「男の方は『神前』さん、女の方は『マナビ』さんです。
僕の名前を出してもらえれば、彼らも分かると思いますので」
889
:
『猫の心、メイド知らず』
:2016/10/06(木) 23:45:33
>>888
(須々木)
『冬川』:
「畏まりました、取次ぎありがとうございます。
『須々木』さんは良ければ応接室でお待ちを」
スッ
冬川はそう言って、玄関へと向かって行った。
特に問題も起こすまい――すぐに、役者は揃う事になる。
応接室で待つにせよ――
あるいは、廊下などで待つにせよ、だ。
prrrr
prrr
・・・
携帯の反応が止まった――冬川と、神前達が接触したらしい。
特にやることが無いとしても、その時はもう今にも、訪れるだろう。
890
:
須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』
:2016/10/07(金) 20:46:43
>>889
冬川を見送った後、適当な椅子に腰かけて、体を預ける。
思い返せば、この小さな冒険はあの自転車を殴った時から始まったのだ。
不思議と、『面倒だ』という当初の気持ちは消え失せていた。
労費には変わりない。省エネとはお世辞にも言えないだろう。
(……『大岡裁き』とはいかないだろうなぁ)
しかし、ほんのちょっぴりだけ。
『ベストを尽くしたい』という気持ちが、ふつふつと湧いている。
頃合いを見て、応接室へ向かう。
891
:
『猫の心、メイド知らず』
:2016/10/07(金) 23:30:57
>>890
(須々木)
『須々木』は椅子に腰かけて――回想する。
メイドに頼まれた、猫を巡る小さな町の冒険。
『省エネ主義』の小さな英雄がその中で、
どのような思いの変遷を経たのかは分からない。
だが、結末は、そう悪い物にはならない気がする。
・・・それが浪費の報酬だ。
カチャ…
応接室に入り、少し待つと――
『冬川』:
「こちらへどうぞ」
冬川が二人を誘導して、部屋に入ってきた。
神前も、マナビも、昨日より整った装いをしている。
『神前』:
「どうもどうも……っと。
ああ、『須々木』クン。おはよう」
『マナビ』:
「…………」
ス
『冬川』:
「お茶を用意させていただきます。
その後にすぐ、『商談』に移りましょう」
冬川はそういうと、 部屋を去って行った。
その場には、『須々木』と――神前、マナビの三人が残る。
・・・・やや緊張感の漂う場だ。
892
:
須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』
:2016/10/08(土) 22:56:39
>>891
「お二方とも」
昨日よりも、やや硬い声、形式ばった呼び。
半分は意図してのもので、もう半分は自然と。
場の空気にでもあてられたのだろうか。
「改めて、応じていただいてありがとうございます」
「最初に……冬川さんが戻るまでに。
売りの『希望金額』と『最低ライン』を、参考までに聞いておきたいんですが」
893
:
『猫の心、メイド知らず』
:2016/10/09(日) 00:16:26
>>892
(須々木)
冬のような雰囲気の冬川が去った今の方が、
むしろその場の空気は張り詰め――冷えていた。
『神前』:
「商売がうまく行くなら応じるともよ」
『マナビ』:
「相当、良い家ね――――
良い買い手とイコールかもしれない」
彼らは短くそう行った感想を返すと、
頷き合った。それから神前と目が合った。
『神前』:
「希望金額は……300万だ。
最低ラインは……200万にしとくか」
恐らくだが――最低ラインは、
しっかりは想定してなかったのだろう。
この辺り、彼らもまた、交渉のプロではないのだ。
「相場は都市伝説によれば3000万……
んまあ、実際の所は――『300万』で取引された例もある」
「傷物とはいえ、希望はそこでいきてえな」
894
:
須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』
:2016/10/12(水) 22:55:21
>>893
「200万から300万ですね。分かりました」
復唱して確認。
あとは、家の主の到着を待つ。
895
:
『猫の心、メイド知らず』
:2016/10/12(水) 23:33:20
>>894
(須々木)
『神前』:
「売れないってのが最悪だが……
他にルートが皆無なわけでもねえからな」
真偽は不明だが――
神前がそういうと、再び場が静まった。
・・・
・・・
コン
コン
ドアがノックされる。
マナビが開いて――冬川が入室する。
『冬川』:
「お待たせいたしました。
それでは――『商談』を始めましょう」
冬川は各人の前に、冷えた緑茶を配膳する。
飲まなくても冷えているのは分かる――
『神前』:
「ああ、早い方がいいからな。こういうのは。
それで……『相場』は知ってるんだって?」
最後に着席した冬川に、神前が投げかけた。
故意に低めたらしき声は、真剣みと威圧の演出か。
『冬川』:
「『300万』――もっとも、あの三毛猫は、
『血統書』もなければ『健康状態』も不良。
『カセットだけの中古ゲーム』のように……
『相場通り』の値段とは、行かないかと思いますが」
冬川は臆す様子もなく――そのように言葉を返した。
一旦、場が静かになる。口を挟む必要があるなら今、挟めるだろう。
・・・成り行きに任せることも、勿論できる。
896
:
須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』
:2016/10/14(金) 22:27:40
>>895
顔をしかめる。
先に明確な値段を明示されたのは、神前・マナビ側には痛い。
どうしてもそこが指標になってしまう。
ともあれ、中立を気取るからには積極的な介入はすまい。
神前たち側の反応を見る。
897
:
『猫の心、メイド知らず』
:2016/10/14(金) 23:13:40
>>896
(須々木)
『神前』:
「……一説には『3000万』とも言うぜ?」
『冬川』:
「都市伝説の域ですね、『300万』です。
あいにく、『猫』には詳しいので……
彼らが考えている事以外は、分かります」
神前は顔をわずかに顰める――
が、ハナから狙いは『300万』前後と言っていた。
あまり無理なゴネはしない方向性で行くのだろう。
『マナビ』:
「…………」
マナビは何か言おうとしたが、
上手い事が思いつかなかったか?
開きかけていた口を再び、閉じた。
『冬川』:
「『200万』でいかがでしょうか。
これでも十分な儲けになるでしょう」
一般市民からすれば高額もいい所。
実際、買い叩くような値ではないだろう。
とはいえ――『最低ライン』だ。
『神前』:
「……その『300万』取引の個体だって、
万全だったとは限らねえはずだぜ。
それで百万も値切られちゃたまらねえ」
「……せめて『280万』だな。相場よりは相当安いぜ」
神前は反論するものの――
『値を保つ』良い文句は浮かばないらしい。
実際この取引は、冬川の側に理が強いようだ。
このまま行けば――順当に冬川が言い勝ちそうな気がする。
『須々木』が口を挟めば結果は変わるかもしれない。向き直る方向は分からないが。
898
:
須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』
:2016/10/16(日) 22:08:52
>>897
「冬川さんは中古品の例を出しましたが」
そろそろ口をはさんでおこう。
「中古でも、新品より値が張る例は幾らかあるでしょう。
冬川さん、『200万』というのは『今この状態の猫に最低でもそれは出せる』と見て問題ありませんか?」
体を量りて衣を裁つ、でもないが。
条件はより簡略化されるべきだ。
「そして、そうだとするなら。
冬川さんに他の好要素を積み上げることが出来るなら、
額はそれよりも上がる。それを『確約』してもらえませんか」
まずは、この状況を『交渉』にする必要がある。
899
:
『猫の心、メイド知らず』
:2016/10/17(月) 00:21:01
>>898
(須々木)
『神前』:
「――――!」
神前が、助け船を出した『須々木』を見る。
その目に、再び強い『欲』が滾るのが分かる。
『神前』:
「そうだ、こっちにも引けねえラインがある。
200万を切るなら、儲けになりゃあしねえからな」
マナビは『須々木』の弁舌にも、
相変わらず余計な口を叩く様子はない。
あるいは、神前が彼女に制止をかけているのか。
『冬川』:
「…………ええ。
『200万』なら。まあええ、いいでしょう。
価値のあるものには、相応の価格がつくべきです」
コク
冬川も、『三毛猫』はぜひ入手したいのだろう。
あるいは『良心』やらがこれ以上の値切りを嫌ったか。
「そして――そうなると、ええ。
より良い条件があるならば、
『買い取り価格』を上げてもいいでしょう」
『神前』:
「そりゃ、『確約』って受け取っていいのか?」
『冬川』:
「ええ、構いません。……あるのですか?
価格に関わるような――『好要素』
鳴き声がかわいいとかではだめですよ。
猫の鳴き声はたいていかわいいものなので」
フ…
冬川は静かに笑みを浮かべた。
神前は――やや考え込む様子を見せている。
当事者の彼には見えづらい物もある、だろう。
あるいは、『無い』と思っているのかもしれない。
『須々木』から何かあれば言ってもいいだろうし、
言わずとも彼らが何かを思いつく、かもしれない。
900
:
須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』
:2016/10/18(火) 23:20:03
>>899
「……最初の依頼で」
実のところ、第一発見者こそ自分ではあるのだが。
それとは別の功労が、彼にはある。
「あの場にいたのが僕だけであれば、この三毛猫は見逃していました。
『びろうど』ちゃんと三毛猫が恋仲にあるのを見抜いていたのは、彼らです。」
付加価値をつけるとするなら、一番容易いのは『恋人』であるということだ。
「つまり、彼らがいなければ……
僕は無理矢理にでも『びろうど』を連れ帰り、その仲を引き裂いていたでしょう。
彼らは、いわゆる『きゅーぴっど』の役割を果たしたといっても過言ではありません。」
「本人たちの口からは、言いにくいことでしょうが」
「僕は、そこにしかるべき報償があってもいいと思います。
それを金額に上乗せする、というのはどうでしょう……?」
……通るとしても、大きな額は望めないだろうが。ないよりはましだ。
901
:
『猫の心、メイド知らず』
:2016/10/19(水) 00:03:10
>>900
(須々木)
『神前』:
「…………」
神前は余計な口を挟まない事にしたらしい。
冬川の印象が良い『須々木』に任せた方が、
説得は捗る物だと考えているのだろう――当然か。
マナビもまた例によって沈黙しているが、
これは特に考えがあっての事ではないだろう。
『冬川』:
「……なるほど。『三毛猫』ではなく、
お二人の働きに対する『追加報酬』」
「――妥当かと思います。
良い『仕事』には、良い報酬を。
では、『210万』でいかがでしょうか」
冬川は指を二本立てて、言った。
「『須々木』さんに差し上げる報酬と同額。
それをお二人に渡させていただきましょう」
『神前』:
「…………」
神前は押し黙っている。
文句も言いづらい空気だ。
『冬川』:
「この町は何かと事件が起きやすい。
そういった時の『お得意先』として――
貴方がたの存在を覚えておきましょう。
手ごろな値段で依頼できるなら――ですが」
冬川はダメ押しをするように、そのように付け加えた。
『須々木』から何か言うことが無いならば、話がつきそうだ。
902
:
須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』
:2016/10/22(土) 00:43:31
>>901
「詭弁を言うようですが」
最低希望額は回避したが、せめてもう一声欲しい。
譲歩して圧しているのようにみえるが、どちらかと言えばご破算になって困るのは冬川川の方のはずだ。
そこを、ほんの少し突っついてみる。
「お二人は何も、絶対にここに売らなければいけないということではないんです。
もちろん、既存の取引先が決まっているわけではないのですが……
僕が説得して、『びろうど』との仲を汲んで、優先的にこちらに話を持ってきてくれたんです」
これは、双方に対する共通の認識のはずだ。
付加価値というには、あまりに外れたところだが。
「先ほどの『追加報酬』も込みで……
『手数料』、というものがあってもいいんじゃないでしょうか。具体的には、一割ほど」
『手数料』と言ってしまうには大きすぎるかもしれないが……
しかし、希望買取価格にはそれでも大きな溝がある。
903
:
『猫の心、メイド知らず』
:2016/10/22(土) 04:57:09
>>902
(須々木)
破談になればこの場にいる全員が困る。
逆に言うならば、全員が破談を望んでいない。
だからこそ、多少の強気でも場は崩れない。
冬川も、大きく表情を変えず、思案の構えだ。
『神前』:
「あー……そうだ。1割くらいは欲しいとこだな。
手ごろな価格ってのは、安すぎてもダメなもんだろ」
「だから。手数料込み……220万! これでどうだ。
オークションやらで三毛の雄を買おうとすりゃ、
この値段は相当、格安ってことになるはずだし……」
提言に乗るように、神前が言う。
破談には、そう簡単にはなりそうにもない――
そういう空気を、察する事が出来たからかもしれない。
「十分、『手ごろな値段』って言えるはずだぜ?」
希望買い取り価格からは大きく離れてこそいる、が……
300万を取れる状況では、どうにもないらしいと悟ったか。
『冬川』:
「……確かに、貴方がたの働きは大きい。
それについては、間違いない……ですね。
善意への『謝礼』という意味での上乗せを考えます」
あるいは冬川も――値引きはしたくとも、
やりすぎれば良い結果は生まないと悟ったか。
これ以上突っつく点がなければ、話はまとまりそうな気は、する。
904
:
須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』
:2016/10/22(土) 13:29:16
>>903
「……ありがとうございます。」
まあ、妥当なところだろう。
本人が要求した値段でもあることだし。
そういうわけで、あとは口を出さずに成り行きを見守る。
905
:
『猫の心、メイド知らず』
:2016/10/23(日) 00:06:19
>>904
(須々木)
その後――――
交渉のテーブルは恙なく進んでいった。
『220万』という額は確定し、
三毛猫の現物は既にここにいる。
ス
『冬川』:
「猫の分は本日中に口座に
振り込ませていただきます。
200万きっちりと、間違いなく」
現金数百万を手で持って帰るのは、
神前達の感覚では躊躇されたらしい。
そのような話が交わされていた。
『冬川』:
「手数料と謝礼――『20万』
それから須々木さんへの報酬金」
「それらは今ご用意いたします。
申し訳ございませんが、少々お待ちを」
話がほぼまとまる頃、冬川はそう言って一度席を立った。
その場には――冬川を呼び止めたりしないなら、三人だけが残る。
『神前』:
「恩に着るぜ、須々木クン」
『マナビ』:
「堂々としたものね、場慣れしているのね」
そういう彼らは、あまりこういう高額の取引には慣れない様子だった。
冬川が席を立った後、張り詰めた空気がやや弛緩したのを感じた。
906
:
須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』
:2016/10/23(日) 23:01:36
>>905
「……まあ、言うだけはタダですから」
これが初めてだ、とは言うべきではないのだろう。
おそらく、二度とは会わない相手だ。印象はよく保ち、恩を恩として売っておいて損ではない。
こちらとて、打算で動いた部分もある。
「お二人は……」
「どうしてお金が必要だったのか。聞いてもいいですか?」
金を稼ぐというのなら、より実直な道は幾らでもあったはずだ。
『スタンド使い』ならば、なおさら。
神前はともかく、マナビに『一攫千金』というような言葉は似合わない。
或いは、猫好きが高じたのだろうか。
907
:
『猫の心、メイド知らず』
:2016/10/23(日) 23:26:51
>>906
(須々木)
神前は感心の表情を保ったまま、
マナビは頷いて『須々木』の言葉に返した。
『神前』:
「どうしてってこともねえけどな。
数百万で売れる『猫』の話がある。
んでもって、この町での目撃情報あり。
俺たちはいわゆる、何でも屋のはしくれ。
そうなっちゃあ、乗るしかねえってわけだ」
『マナビ』:
「お金はあって困る物じゃないわ。
この町は特異点……『特別な才能』の持ち主が多い。
私たちに今後、良い仕事が回って来ないかも、しれない」
『神前』:
「荒事なら需要があるが、そう得意でもねえしな。
猫探して捕まえるだけ、で済むかもしれねえなら願ったり」
彼らの仕事に――『特別な理由』はないのかもしれない。
それほど名の売れた『使い手』でない彼らにとっては、特に。
『神前』:
「逆に聞くが……須々木クンは?
どうしたって、この家の仕事をしてんだ」
「学生だろ? 違ったら悪いが」
神前はごく当然のことを聞くように、そのように返してきた。
マナビも、その問いに小さく頷いて関心の様子を見せている。
彼らは――若くは見えるけれど、恐らく学業は終えているのだろう。
908
:
須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』
:2016/10/24(月) 22:43:42
>>907
「特異点、ですか」
それはまた、大仰なことだ。
きっと今後、多くのトラブルが起こるのだろう。
……どうか、自分にかかわりのないところで。切に願う。
「僕は……」
「普通の、学生です。ただ」
「今日は少しだけ、回り道をしたというだけで」
急がば回れ、という言葉がある。
本当に急いでいるのなら、リスクのある危険な近道よりも、安全な迂回路を行けという訓示だ。
そのように、しただけだ。ひどく曲がりくねった道だったが……けれども、目的にはつながっていた。
909
:
『猫の心、メイド知らず』
:2016/10/24(月) 23:01:00
>>908
(須々木)
『マナビ』:
「大袈裟に聞こえたかもしれないわね。
でも……この町には本当に、不思議が多い」
マナビはそう言って、グラスに口を付けた。
廊下から冬川の足音が聞こえてくる。
『神前』:
「……そうかい。
ま、今回は須々木クンに助けられた。
お礼は保証できねえが、名前は覚えとくぜ」
フ
神前はそういって、扉に目を向ける――
静かに開いたドアから、冬川が入室した。
『冬川』:
「お待たせいたしました」
スッ
まず、『須々木』の前に。
それから二人の前に『封筒』が置かれた。
「こちらに入っております。
……改めていただいても大丈夫です」
「間違いはないはずですが、一応」
薄いが……妙な言い方だが、迫力のある『厚み』を感じた。
910
:
須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』
:2016/10/25(火) 23:02:56
>>909
「……はい」
曖昧な返事を返す。
自分の名など覚えておいて便利なものでもない。
そう言おうとして、止めた。それを言ったところで、どうにかなるものじゃあないだろう。
覚えるか覚えないかは彼らの自由だ。たとえそれが何の益を生むわけではなくとも。
少しずつ、調子が戻ってきたように思う。
「……ありがとうございます。では、失礼して」
封筒を開き、金額を検める。
911
:
『猫の心、メイド知らず』
:2016/10/25(火) 23:45:28
>>910
(須々木)
神前達はそれ以上の追及をしなかった。
彼らもまた、己に差し出された封筒を検めている。
『マナビ』:
「……10万円。間違いないわ」
『神前』:
「よし、確かに入ってる。
ひとます、ありがとうってとこか。
で、残りの振り込みは今日中だ。
……んじゃ、俺らは引き上げちまうぜ」
『マナビ』:
「ええ――お邪魔しました。
良い取引として終わるのを期待してる」
スッ
ガタ
『冬川』:
「こちらこそ――ありがとうございました」
神前とマナビは、そのまま席を立った。
去り際に神前は『須々木』に一礼を。
マナビもやや遅れて、小さく礼を述べた。
『冬川』:
「お二方を門前までお見送りいたします。
『須々木』さん、申し訳ございませんが」
「少々お待ちください」
ス
そのようにして、部屋には『須々木』一人が残る。
封筒の中には間違いなく、『5万円』が入っていた。
結婚式でもないが、どうやら『新札』のようだった。
ニャ〜オ
ナ〜オ
隣の部屋から、二匹の猫が長く鳴く声が聞こえた。
家の外からもかすかに猫の声が聞こえたが――定かではない。
冬川はほどなく戻ってきて――
『須々木』の冒険は、そこで一先ず幕を下ろすだろう。
もし何かやり残したことがあるなら、今の内かもしれない。
912
:
須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』
:2016/11/01(火) 22:10:27
>>911
「……」
札を封筒に戻し入れ、隣の猫の様子を見に行く。
やり残したことは、特にない。
最後に、彼らの顔でも拝んでいこう。
913
:
『猫の心、メイド知らず』
:2016/11/01(火) 23:21:43
>>912
(須々木)
ス…
封筒の重みを感じつつ、
席を立って隣の部屋へ向かう。
ギィ
ドアの向こうには、三匹の猫がいた。
……
一番小さな猫、「しるく」は、
他の二匹を遠巻きに見ている。
『新たな住人』の登場に、気が気でないのか?
そして。
ニャーオ
ナァ〜ゴ
二匹の猫は、『須々木』を見て鳴いた。
この物語で最も『幸せになった』のは、
心配の無くなった冬川か。報酬を得た三人か。
言葉や気持ちは分からないが、
二匹の鳴き声を聞けば、『そうではない』気がした。
今後彼らの世界がどうなるかは分からないけれど。
・・・・今は、これが彼らの全てだろう。
コツ
コツ
『冬川』:
「改めて、ありがとうございました。
お帰りに、なられますか―――――?」
望むならしばらく残ることもできるだろう。
とはいえ、無用な長居を望まないなら、止められはしないはずだ。
914
:
須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』
:2016/11/02(水) 22:50:17
>>913
やり方はスマートであったとは言えないし、恩を着せるつもりだってない。
彼らにしてみれば、与り知らぬところで人間が勝手に決めたことだ。
更に言ってしまえば、最初は自ら望んだものではなかったのだ。
だからまあ、これを自身の成果としてしまうのは、少し傲慢が過ぎる。
「……はい、大丈夫です。」
せめて、それを。
記憶に収めることを、成果としよう。
915
:
『猫の心、メイド知らず』
:2016/11/02(水) 23:40:11
>>914
(須々木)
『冬川』:
「畏まりました――――
それでは、門までお送りいたします」
ペコ
冬川からそれ以上の言葉はなく。
静かに、しかし感謝と共に歩いていく。
ザッ
ザッ
「ありがとうございました」
冬川はもう一度言った。
それから。
「寒い季節になりますので、
お身体には、お気をつけて」
そう付け加えて――
ペコ
門に辿り着いて、頭を下げた。
それ以上、冬川が着いてくることはなかった。
こうして、『須々木』の冒険は幕を閉じることになる。
最後に見た幸せの光景は、記憶に確かに焼き付いた。
――記憶の中の言森家と、これからの言森家は、
緩やかに……少しずつずれてはいくだろうけれど。
それは、幸せの『プラス』の中での誤差に違いない。
『猫の心、メイド知らず』→おしまい
916
:
『猫の心、メイド知らず』
:2016/11/02(水) 23:45:49
須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』 → 『無傷』『報酬5万円』
マナビ『ペインキラー』 → 『無傷』『110万円の収入』
神前『???』 → 『無傷』『110万円の収入』
『言森家』 → 『家族』が一人増えた。
917
:
『猫の心、メイド知らず』
:2016/11/02(水) 23:51:11
【何でも屋】『マナビ』のスタンド。
銃口を二つ持つ、狙撃銃のヴィジョン。
その能力は――『麻酔銃』。詳細不明。
『ペインキラー』Painkiller
破壊力:E スピード:B 射程距離:A
持続力:C 精密動作性:C 成長性:D
918
:
『幸せ兎』
:2016/12/18(日) 18:32:18
――ここからは、次のスレで。
★次スレ
【ミ】『コメットテイル幸福奇譚』
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