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えばんふみ先生について語るスレ

8二雪:2010/07/11(日) 04:44:30 ID:eETmOAnY0

それから1週間後。
世間はまさに夏まっさかりの状態だった。
空の上には、白熱の太陽が毎日のようにギラギラと輝き、葉の家の周りでも、「ミーン。ミーン。」というセミの声がうるさく響いている。
そんな中、暑さでクタクタに疲れた葉が外から帰ってきた。
「あちー。ただいまー。」
「あれぇ―――。お兄ちゃん、ドコ行ってたの?」
リビングルームのソファの上でテレビゲームに熱中しながら、葉の妹が能天気にたずねた。
「塾だよ。」
「うわー。大変そー。」
妹はそんなセリフを他人事みたいに言いながら、相変わらずコントローラーのボタンをピコピコと夢中で押しまくっている。
「お前もゲームばっかしてねーで。少しは宿題しろ!」
「えー。クラスの子達と写し合うから、いーもん。」
「………。」
葉はあきれて絶句した。いるよな、こーゆーの。
「それより、お兄ちゃん宛にハガキ来てるよ。」
葉の目の前に1枚のハガキを出しながら、妹が言った。
「え? おれ? 誰から?」
「女の人だよー。やるじゃーん。」
そんなことを言いながら、妹が葉をからかう。
妹からハガキを受け取った葉は、文面を読み終えるなり、急に玄関へ向かって走り出した。
だっ……。
「あら、葉。どこ行くの?」
ちょうど外から帰ってきた母が、びっくりして葉に声をかける。
「ちょっと近く。」
そう返事をする葉の傍から、妹がニヤニヤしながら母に告げた。
「女だよ。おかーさん。」
「あんらまぁ〜〜〜!」
妹の報告(?)を聞いた母も、目を大きく見開いて、わざと大げさに驚いてみせる。
「お前はだまってろ!」
照れ隠しにそう怒鳴った葉は、自転車に乗って家から飛び出した。

葉がさっき読んだハガキには、1週間前に家族旅行へ行くと言っていた樹里の名前があった。
そのハガキには、少し変わったメッセージが書かれている。
葉はそのメッセージにつられて、この前樹里と二人で行った海辺へ向かおうとしていた。

――葉くんへ。
元気? カゼとかひいてないですか?
私は元気モリモリです☆
もしヒマな時間があれば。
今からちょっとした思い出めぐりの旅をしてみない?

まずは、海にレッツゴー!

浜辺の奥の、一番小さな木に注目してみてね。

(奥……?)
海辺に着いた葉は、ハガキに書かれていた樹里のメッセージに従って、浜辺の奥の木立へ分け入った。
何だ、一体。
ガサ……と音を立てながら辺りを見回すと、1本の木の枝に、おみくじのような紙が結び付けてある。
「何だコレ……。」
葉は不思議に思いながら、紙を手に取って開いてみた。
中には、こんな言葉が書かれている。

よく見つけました! やるじゃん♪
この海で、私が言ったワガママを覚えてる?

この言葉を読んだ葉は、夏休み前のデートの時の出来事をすぐに思い出した。
あの時、樹里は海の中で、葉に向かって小声で言った。

「……じゃあ。キスして下さい。」

あの日。
生きててよかったぁーって、心から思ったの。


「………。」
病室のベッドの中で、樹里は何か言いたそうな顔をしながら黙っていた。
今の樹里には、もう布団から手を出すだけの力も残っていない。
それに、その両目もすでにうつろの状態で、視点もはっきりとは定まっていない。
樹里の体から急速に生気が失われつつあるのは、誰の目にも明らかだった。
それでも、樹里の母だけは娘の寂しい気持ちを察して、優しく声をかける。
「……どうした?」
「……葉くん。……ちゃんと。最後の場所までたどり着けるかなぁ……。」
葉くん。それは、樹里がずっと想い続けているひとりの男の子。
その名前を耳にした母は、しばらく押し黙った後、胸に込み上げてくる悲しみをこらえるように、ゆっくりと言った。
「……きっと……たどりつけるよ……。」
その言葉を聞いた樹里が、かすかに微笑んだのを確かめると、母は突然、何か意を決したように椅子から立ち上がった。
「……樹里。お母さん、ちょっと電話をしてくるね。」
そう言うなり、母はバッグを手に持ち、病室のドアを開けて、静かに出て行った。
「……?」
不思議そうな顔をしながらドアの方を見つめる樹里をひとり置いて、母は小走りに廊下を走って行く。
やがて、病院の玄関にたどり着いた母は、手にしたバッグの中から急いで携帯を取り出し、ボタンを押し始めた……。


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