したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

えばんふみ先生について語るスレ

7二雪:2010/07/11(日) 03:58:25 ID:eETmOAnY0

バタン……。
車のドアが開いて、中から1人の女の子が降りてくる。
さあ……と気持ちのよい風が吹いている中、
「葉くん! やほーっ!」
そう叫びながら、ててて…と小走りに近付いてきたのは、まぎれもない樹里。
その予想外に元気そうな姿を目の当たりにした葉は、驚いて自転車から降りながら、樹里に問いかける。
「おま……何で。」
「え?」
「だって、体調崩したって―――。」
「ああ、ごめん。あれ、本当は朝ねぼうして、終業式、出おくれちゃってさー。」
「へ?」
「バカだよねー、あたし―――。」
「……。」
恥ずかしそうに照れ笑いをしながら話す樹里の表情を見て、葉はしばらく沈黙した後、思い切ってたずねた。
「……あーもう! 少し焦ったじゃねぇか。じゃあ……元気なんだな!?」
「うん! 元気だよー。この通り!」
樹里はニコニコ笑いながら葉にVサインをしてみせたが、そのあと少しの間、何も言わずに口をつぐんだ。
「………。」
やがて、樹里は思い切ったように、意外なことを口にした。
「葉くん。あたしね。明日から家族と1週間、旅行に行くんだ!」
樹里の発言を聞いた葉は少し驚いて、一瞬だけ言葉を失う。
「……なんか、急だな。」
「ごめん。このこと、ずっと伝えそびれちゃってさ。だから、しばらくお別れだけど……。さみしい?」
「! アホか!」
樹里のからかうような質問に、葉は思わず顔を赤くしながらムキになって反論する。
そんな葉の表情に、樹里は「あはは。」と笑いながら、
「おみやげ、たくさん買って帰ってくるからね。帰ってきたら、たくさん話そうね! じゃあ、またね!」
と、無邪気に叫んで歩き出した。
その後ろから、葉が心配そうに声をかける。
「三神。旅先で走ったりすんなよー。」
「うん! ばいばい、葉くん!」
精いっぱいの元気な声で返事をしながら歩き去る樹里の後ろ姿を、葉は黙って見送り続ける。そんな葉の視線を背後に感じながら、樹里の目からは静かに涙がこぼれ始めていた。
樹里には最初から分かっていた。私が葉くんと言葉を交わせるのは、これが最後。今から1週間後、私はもうこの世にはいない。
だから、せめて最後はそのことを葉くんに気付かれないよう、わざと明るく振る舞いながら、笑ってお別れをするんだ……。

……ばいばい。


ばいばい。


キキ……。
樹里を乗せた車が、軽いブレーキ音を出しながら止まった。
隣の席に座っていた母が、樹里を優しく起こす。
「……樹里。着いたよ。」
車中での軽い眠りから覚めた樹里の目に入ったのは、『中央病院』の看板。
樹里はこれから1週間、この病院の一室に寝泊まりすることになる。
学校の先生にもクラスのみんなにも本当の事を知らせることなく、両親と、そして医師と看護師だけに見守られながら、たった14歳で人生最後の儀式を迎えるために……。
そんな、まだ中学生の女の子にとってはあまりにも悲愴な覚悟を1人で決めていた樹里は、母と一緒に病院の建物へ入っていく直前、もう1度だけ、葉へのお別れを心の中で告げた。


ごめんね。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板