したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

えばんふみ先生について語るスレ

11二雪:2010/07/11(日) 07:03:56 ID:eETmOAnY0

その荒々しい声に、樹里がビクッとする。
「お前、俺のことがそんなに信用できなかったのか!? 自分の最期だけは俺に見られたくないから、黙ってサヨナラするだと!?」
葉の怒鳴り声は、さっき母からの連絡を受けてちょうど病室の前まで来ていた樹里の父にも聞こえていた。
「バカにするな! 俺にとっちゃ、そっちの方がよっぽど残酷なんだよ!!」
病室の中から聞きなれない男の声が響いてくるのを耳にして、不審に思った父がドアを開けると、樹里と同じくらいの年に見えるひとりの少年が、ベッドの上の樹里に向かって怒鳴っている。それを黙って聞いている樹里の両目からは、大粒の涙が激しく流れ落ちていた。
「! 君は……!」
この様子を見とがめて、父は思わず少年に詰め寄ろうとした。が、その腕を母が後ろからサッとつかんだ。
父は驚いて母の方を振り向く。母は思いつめた表情で父の顔を見ながら、何も言わずに黙って首を横に振った。それを見た父は、母の言いたい事を察して、あきらめたように押し黙った。
そんな樹里の両親のことなど気付かない葉は、涙でびしょ濡れになった樹里の顔をじっと見つめながら、ため息をついた。そして、そのまま病室の床に膝をつき、樹里のやせおとろえた手をそっと握った。
「……三神。覚えてるか? お前がどんな姿をしていたって、お前はお前だって、俺が言ったこと……。」
葉の言葉を聞いて、樹里はゆっくりと葉の方へ目を向けながら、静かにコクンとうなずいた。
「俺……本気だぞ。これから先、お前がどんな姿になったって、俺は絶対にお前を見捨てないからな!」
「葉くん……!」
葉が言い終わった次の瞬間、樹里は今まで押し殺していたマイナスの感情を全部外へ洗い流そうとするかのように、声を上げて泣いた。
「葉くん……! 私……ほんとは……すごく怖かった……。このまま……ひとりぼっちで死ぬのが……怖くて怖くてたまらなかった……。」
「三神……。」
「だけど……今……葉くんがここにいてくれて……すごくホッとしてる……。会いたかった……。会いたかったよ……。」
「三神……!」
何度も嗚咽(おえつ)を繰り返しながら本当の想いを告白する樹里の姿を見て、葉は胸が締め付けられそうになった。
病室の入り口には、ここの騒ぎを聞いて医師や看護師たちも何人か集まっているが、みんな2人の状況を察して、なかなかベッドに近付けずにいる。
無論、今の葉は、そんな周りの様子に気が付くはずもない。
この1週間、樹里はいったいどんな気持ちで、死の恐怖と向かい合っていたのだろうか。そんな彼女の心の内に少しも気付かないまま、二度と戻らない大切な1週間を無駄にしてしまった自分……。そんな後悔の念で自分も泣きたくなるのをこらえながら、それでも葉は樹里を少しでも元気付けようとして、懸命に励ましの言葉をかけた。
「三神……。2学期になったら……また学校に出てこいよ……。俺……毎日勉強を見てやるから……。だから……一緒に卒業しような……。それで……。」
「――無理……。」
葉がさらに言葉を続けようとするのを、樹里は寂しい声でさえぎった。
「私の目……ほとんど見えなくなってるんだ……。もう……葉くんの顔も……はっきりとは分からない……。」
「……!!」
樹里のこの発言を聞いて、葉は激しい衝撃に言葉を失った。
樹里の目はもうほとんど見えない。それは、樹里の最期の時がすぐそこまで近付いているということ。それだけは、葉にもはっきりと理解できた。樹里は本当にあと少しで、葉の手の届かない所へ逝ってしまう。もう、自分が彼女にしてあげられることは何もないのか……。
そんな絶望的な思いで葉が途方に暮れているのを感じながら、樹里は静かに言葉を続けた。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板