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えばんふみ先生について語るスレ

10二雪:2010/07/11(日) 06:14:40 ID:eETmOAnY0

葉は、樹里のいる中央病院へ向かって、必死で自転車を走らせていた。
さっき森の中で読んだ手紙に書かれていた樹里のメッセージが、葉の頭の中で何度も何度も繰り返される。

葉くんがこの手紙を読んでいる頃。
私はきっと、もうこの世にはいません。

ごめんね。

弱くて。病気に勝てなくて。

会って。
ちゃんと本当の事を話せなくてごめん。
自分の最期だけは。
葉くんには見られたくなかった。
こんな自分勝手でワガママな私を。
いつも。
幸せに生きる道へ引っぱってくれたね。

葉くんと出会って。
今までにないくらい人を好きになって。
毎日が楽しくて。
生きる事って、こんなに幸せなんだって思えたの。

私と。
恋をしてくれてありがとう。

葉くん。
大好き。

どうか。
私の分まで。
幸せに。
幸せに生きて下さい。


(バカ野郎! このまま黙ってサヨナラなんて、俺は絶対に認めないからな! 俺……俺……まだ、お前に何も伝えてないじゃないか……!!)
葉は腹が立って仕方がなかった。樹里が最後の最後で本当の事を教えてくれなかったことに。そして、それ以上に、そのことに気付かずにいた自分自身に。
だが、樹里の母はそんな2人の心中を察して、最後のチャンスを与えてくれた。
今、ここで樹里に会えなかったら、葉は一生後悔することになる。そして、きっと樹里の方も……。
頼む! 生きていてくれ!!
死に物狂いで自転車を走らせながら祈り続ける葉の目に、中央病院の白い建物が見えてきた……。


樹里の病室は、重苦しい雰囲気に包まれていた。
樹里と母は何も言わずに押し黙ったまま、ベッドに設置されている心電図のモニターの無機質な音だけが、ピッ……ピッ……と規則正しく鳴り続けている。もし、この規則正しい音が止まり、「ピ―――」という長く続く音に変わった時。それは、樹里の心臓が永遠に止まる時だ……。
その時、廊下の方から、バタバタ……という駆け足の音が聞こえてきた。
それに続いて、「ちょっと! 走るのはやめなさい! ここは病院だぞ!」という、誰かの注意の声が聞こえてくるが、足音は止まることなく、樹里の病室の方にまっすぐ近付いてくる。
その足音はちょうど樹里の病室の前で止まったかと思うと、次の瞬間、ドアが勢いよく開かれて、チェック柄のワイシャツを着た少年が姿を現した。
少年の全身は汗だらけで、ハァハァ、ゼェゼェ……と、激しく息をはずませている。その少年が誰なのか、もう目がかすんで親の顔も判別が困難になっている樹里にもはっきりと分かった。
「……葉……くん……? どうして……ここが……?」
突然、病室に飛び込んで来た葉の姿に驚いた樹里が、かすれ声でたずねる。
その傍から、それまで黙っていた母が静かに口を開いた。
「……私が……知らせたの……。」
「お母……さん……?」
樹里は母の言葉を聞いて、怪訝(けげん)な表情をした。お母さんは葉くんの電話番号なんて知らないはずなのに……。
そんな樹里の疑問を察したように、母がゆっくりと説明を始めた。
「……樹里。この前、あなたが自分の部屋で書いていたハガキ、葉くんの住所と名前が書いてあったでしょ?」
(あ……。)
樹里は、あのハガキを書いた後、しばらく自分の部屋の机の上に置きっぱなしにしていたことを思い出した。
「それを見て……。葉くんの住所と名前を知ったの……。それで……さっき電話局に電話をして……。葉くんの家の電話番号を教えてもらって……。出てきた家族の人に、葉くんの携帯の番号を教えてもらって……。」
母の説明を聞き終えた樹里は、しばらく黙って天井を見つめていたが、やがて寂しげに笑みを浮かべながら、弱弱しくつぶやいた。
「そ……っか……。そうだったのか……。私……肝心な所でドジっちゃったなぁ……。こんなカッコ悪い姿、葉くんには見られなくなかったのに……。」
はは……と力なく笑いながら、樹里の目からは涙がポロポロとこぼれ始める。だが、今の樹里にはもう、その涙を自分でふく力も残っていない。
そんな樹里の泣き笑い顔を見ながら、葉がいきなり怒鳴った。
「バカっ!」


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