涼宮ハルヒオタク　性転換ネタを書いてみた

4：無花果：2008/03/26(水) 19:20:57 HOST:softbank219053218074.bbtec.net: ―第一章①―

　うすらぼんやりとしているうちに学区内の県立高校へと無難に進学したあたしが最初に後悔
したのはこの学校がえらい山の上にあることで、春だっていうのに大汗をかきながら延々と続
く坂道を登りつつ手軽なハイキング気分をいやいや満喫しているさなかであった。これから三
年間も毎日こんな山登りを朝っぱらからせにゃならんのかと思うと暗澹たる気分になるのだが、
ひょっとしたらギリギリまで寝ていたおかげで自然と速足を強いられているのかもしれず、な
らばあと十分でも早起きすればゆっくり歩けるわけだしそうキツイことでもないかと考えたり
するものの、起きる間際の十分の睡眠がどれほど貴重かを思えば、そんなことは不可能で、つ
まり結局あたしは朝の運動を継続しなければならないだろうと確信し暗澹たる気分が増加した。
　そんなわけで、無駄に広い体育館で入学式がおこなわれている間、あたしは新しい学び舎で
の希望と不安に満ちた学園生活に思いをはせている新入生特有の顔つきとは関係なく、ただ暗
い顔をしていた。同じ中学から来ている人がかなりの量にのぼっていたし、そのうち何人かは
結構仲の良かった人達なので友人のあてに困ることはなかったけど。
　男はブレザーなのに女はセーラー服ってのは変な組み合わせだな、もしかして今壇上で眠気
を誘う音波を長々と発しているづ羅校長がセーラー服マニアなのか、とか考えているあいだに
テンプレートでダルダルな入学式がつつがなく終了し、あたしは配属された一年五組の教室へ
嫌でも一年間は顔を突き合わせねばならないクラスメイト達とぞろぞろ入った。
　担任の岡部なる若い青年教師は教壇に上がるや鏡の前で小一時間練習したような明朗快活な
笑顔をあたしたちに向け、自分が体育教師であること、ハンドボール部の顧問をしていること、
大学時代にハンドボール部で活躍しリーグ戦ではそこそこいいところまで勝ち上がったこと、
現在この高校のハンドボール部は部員数が少ないので入部即レギュラーは保証されたも同然で
あること、ハンドボール以上に面白い球技はこの世に存在しないであろうことをひとしきり喋
り終えるともう話すことがなくなったらしく、
「みんなに自己紹介をしてもらおう」
と言いだした。
　まあありがちな展開だし、心積もりもしてあったから驚くことでもない。
　出席番号順に男女交互に並んでいる左端から一人一人立ち上がり、氏名、出身中学プラスａ
（趣味とか好きな食べ物とか）をあるいはぼそぼそと、あるいは調子よく、あるいはダダ滑り
するギャグを交えて教室の温度を下げながら、だんだんとあたしの番が近づいてきた。緊張の
一瞬である。解るでしょ？
　頭でひねっていた最低限のセリフを何とか嚙まずに言い終え、やるべきことをやったという
開放感に包まれながらあたしは着席した。替わりに後ろの人が立ち上がり――ああ、あたしは
生涯このことを忘れないだろうな――後々語り草となる言葉をのたまった。
「東中学出身、涼宮ハルキ」
　ここまでは普通だった。真後ろの席を体をよじってみるのもおっくうなのであたしは前を向
いたまま、その凛とした声を聞いた。
「ただの人間には興味ねえ。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら俺のとこ
ろに来い。以上」
　さすがに振り向いたね。
　男にしては長くて真っ直ぐな茶色がかった髪に髪留めピンを一本つけ、クラス全員の視線を
傲然と受け止める顔はこの上なく整った顔立ち、意志の強そうな黒い眼をまつげが縁取り、唇
を固く結んだ男。
　ハルキの体から近くにいたあたしには、グレープフルーツの香りがした。えらいイケメンが
そこにいた。
　ハルキは喧嘩でも売るような目つきでゆっくりと教室中を見渡し、最後に大口開けて見上げ
ているあたしをじろりと睨むと、にこりともせずに着席した。
　これってギャグなの？
　おそらく全員の頭にどういうリアクションをとればいいのか、疑問符が浮かんでいたことだ
ろう。「ここ、笑うとこ？」
　結果から言うと、それはギャグでも笑いどころでもなかった。涼宮ハルキは、いつだろうが
どこだろうが冗談などは言わない。
　常に大マジなのだ。
　のちに身をもってそのことを知ったあたしが言うんだから間違いはない。
　沈黙の妖精が三十秒ほど教室を飛び回り、やがて体育教師岡部がためらいがちに次の生徒を
指名して、白くなっていた空気はようやく正常化した。

　こうしてあたしたちは出会ってしまった。
　しみじみと思う。偶然だと信じたい、と。

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