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夏祭り、縁日、海水浴

1名無しの黒モミ:2015/07/29(水) 00:35:10 ID:mxUGCJZA
埠頭に賑やかに屋台が出ていた。屋台の明かりは色とりどりに辺りを照らしている。
楽しげな空間であったが、しかしながら、奇妙な点が二つある。
ひとつは、屋台には人がいないということである。
無人の屋台が、それでいて誘蛾灯のように光を放つ屋台が、並んでいるのである。
二点目は、客が二人しかいないということである。
賑やかに屋台が出ているのであれば、家族連れやカップルが大勢いても良さそうなものではあるが、歩いているのは二人だけであった。
一人は、紳士然とした初老の男性、そしてもう一人は、手を後ろ手に縛られ口にはさるぐつわをはめられている青年であった。
「岩村くん(仮名)、せっかくの夏祭りなのだから楽しみましょうよ」
男はにっこりと、もう一人の岩村と呼ばれた男に話しかける。
岩村はただ怯えたように震えながら首を横に振るだけである。
「ほら、あそこに金魚すくいがある。やってみましょう」
そういうと、岩村の髪の毛をつかみ、引っ張りながら金魚すくいのやたいの前までやってくると、そのまま岩村の頭を水槽へと突っ込んだ。
岩村は抵抗するが、かなわない。しばらくして岩村の動きが鈍ると、頭を引っ張り上げる。
「おい、どうした。金魚をつかまえてないじゃないか。君は、業界のルールも力関係も政治もわからないばかりか、金魚すくいのルールすらわからないのかね」
そういうと、必死に呼吸をし酸素を取り戻している岩村の頭を再び水槽へと押しやった。
岩村は水槽の中で口を開け、金魚を捕まえようとする。が、次第に苦しくなりゴボゴボと息を吐き出すと、またあたまを持ち上げられ、数秒の休息が与えられた後、また戻される。
このやり取りを幾度となく繰り返し、やっと岩村がその口に金魚をとらえることができると、男は言った。
「よく、噛んで、くいなさい」
岩村はもはや抵抗する気力もなく、口の中で暴れる金魚を奥歯ですりつぶし、吐き出したくなる衝動を抑えながら飲み込んだ。
「さて次は、あそこにいきましょう」
男は飲み込んだのをみると、特になにか反応をするでもなく、次の目的地へと岩村を引っ張り進んだ。

(続く)

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