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『プリキュアシリーズ』ファンの集い!2
1
:
運営
:2015/06/27(土) 19:59:43
現行作品を除く、『ふたりはプリキュア』以降の全てのシリーズについて語り合うスレッドです。
本編の回想、妄想、雑談をここで語り合いましょう。現行作品以外の、全てのSSと感想もこちらにてお願いします。
掲示板のローカルルール及び、保管庫【オールスタープリキュア!ガールズSSサイト】(ttp://www51.atwiki.jp/apgirlsss/pages/1.html)のQ&Aを読んで下さい。
※現行作品や映画の話題は、ネタバレとなることもありますので、このスレでは話題にされないようお願いします。
※過去スレ「『プリキュアシリーズ』ファンの集い!」は、過去ログ倉庫に移しました。
204
:
Mitchell & Carroll
:2017/01/07(土) 23:00:11
該当シリーズ:ドキドキ!プリキュア
内容の傾向:な、内容の傾向!?うーん……
2レスお借りします。
『大貝中一年レジーナ!』
〜〜これは大貝第一中学校に通う女の子・レジーナ(一年生)の、とある1日の学校生活を記録したものである〜〜
【1時間目・数学】
レジーナ「こんなの絶対、将来なんの役にも立たないって……ねぇ、あなたもそう思うでしょ?」
隣の席の子「え?う、うん……どうかな……」
数学の先生「レジーナさん、公式を間違えてるね。正しい公式で、全部解き直し!」
レジーナ「はぁ!?間違ってるのはあんたの人生の公式じゃないの?」
数学の先生「きょ、教師に向かって、あんた……!?」
【2時間目・理科】
レジーナ「実験♪実験♪」
理科の先生「今日はね、この有名な“段ボール箱空気砲”を使った実験をするからね」
レジーナ「アハハハ!楽しーーい!!(ボンッボンッ)」
クラスメートA「うわっ、ちょっ!」
クラスメートB「レジーナさん、暴れないで!!」
レジーナ「そんなコト言って、ホントはあんたたちも楽しいんでしょ?それそれ!(ボンッボンッ)」
理科の先生「レジーナ君、落ち着きなさい」
レジーナ「先生にも、それっ!(ボンッ)」
理科の先生の頭「(ズルッ)」
クラスメートたち「「あ……」」
理科の先生の頭にあった物「(ポトッ……)」
レジーナ「あ……」
理科の先生「………」
理科室「「「(しーーーん)」」」
【3時間目・体育】
体育の先生「今日の授業はバレーボールよ」
レジーナ「そーれそれそれ!アタックー!!」
体育の先生「おお、いいぞレジーナ!是非うちのバレー部に!」
レジーナ「手ぇ痛ぁ〜い……もうや〜めた!」
体育の先生「そ、そんな……」
レジーナ「バスケでもしよーっと!」
クラスメート「マイペースね……」
レジーナ「やっぱりや〜めた!バスケのボールって重いんだもん」
【4時間目・美術】
美術の先生「まあ、レジーナさん!ピンク色が多めで可愛らしい絵ですこと!」
レジーナ「あたしねー、ピンクが好きなの!黄色とか紫色とか要らなーい。青も邪魔ー。赤とかムカムカするし!」
【給食】
レジーナ「なんでっ……このあたしがっ……こんな重いものをっ……」
クラスメートA「レジーナさん、早く食缶持ってきてー」
クラスメートB「今日の給食は、エビピラフ、コーンポタージュ、牛乳、プリン……か」
レジーナ「やったー!プリン!!みんなの分のプリンもあたしの所に持って来て!プリンは全部あたしの物よ!!」
クラスメートC「そんな!不公平よ!」
クラスメートD「でも!男子は従ってるわ!」
205
:
Mitchell & Carroll
:2017/01/07(土) 23:01:40
【5時間目・社会】
社会の先生「――というわけで、色んな国に色んな歴史があるわけだが……」
レジーナ「そういえばねー、あたしのパパ、昔、悪い奴に利用されて、国を滅ぼしちゃったの」
社会の先生「な!?」
クラス中「「「ざわざわざわざわ……」」」
【掃除】
レジーナ「かったる〜い……」
クラスメート「レジーナさん、掃除はテキパキと!ゴミを無くして、綺麗にするのよ!」
レジーナ「だったら学校ごと無くしちゃえばいいじゃん。あたしが綺麗にしてあげる!」
マナ「ストーップ、ストーップ!!」
レジーナ「あ、マナ!」
マナ「嫌な予感がすると思って来てみたら……」
[通信簿]
「明るく、クラスのリーダーで、自分の意見をハッキリと言える子です。ただ少しわがままで
マイペースなところがあるので、ご家庭でもその点に注意して見守っていただけたらと思います。担任より」
レジーナパパ「うっ、うぅ…レジーナ……こんなに立派になって……!」
レジーナ「ちょっと、パパ!通信簿ビチョビチョにしないでよ!それより、パパの分のパンケーキ、食べていい?」
おわり
206
:
名無しさん
:2017/01/08(日) 00:59:23
>>205
レジーナ、あっという間にクラスを牛耳ってそうw
先生は大変そうだけど(特に理科の)楽しそうで和みました。
207
:
名無しさん
:2017/01/09(月) 07:31:23
>>205
美術の時間のレジーナがいいね、笑いましたw
言ってることもやってることもメチャクチャだけど、なぜか憎めないレジーナw
208
:
makiray
:2017/01/09(月) 13:55:36
遅ればせながら、おめでとうございます。
今年の一発目は、「Yes! プリキュア5」から。
2スレ、お借りします。
ふくふくふふふ (前)
-------------------
年が明けてしまった。
いや、もう一週間も経ってるけど。
あたしは、のぞみからの年賀状を見ながらため息をついた。
別に、字が間違ってるとか、表と裏で上下が違う、とかそんなことじゃなく。
30 日にけんかをした。
大したことじゃない。いつものように、はしゃぎすぎの のぞみに一言。気が付いた時には往来で大声で言い合っていた。
虫の居所でも悪かったのかな…違う、これはこの一週間ずっと、百回くらい思っては打ち消してきたこと。あたしが言い過ぎたんだと思う。たぶん。
年賀状の のぞみは、お餅食べ過ぎておなかこわしちゃだめだよ、とか言っている。
(誰の話よ…)
のぞみ、お餅好きだもんな。それを手土産にして謝りに行こうかな。逆に、嫌味になっちゃうかな。
(お餅、ないんだっけ)
なにせ食べ盛りが二人もいる。こんなもんかな、と用意した分は、二日でなくなってしまった。大食いについては あたしも大概だけど、今年は食欲不振。
行こう。
お餅は三が日でなくなってもいいけど、のぞみとの仲は松が取れる前になんとかしなきゃ。
とりあえずマフラーだけして外に出た。今年のお正月は暖かい。
(手ぶらだな…)
今更、手土産を気にする関係じゃない。そんなことしたら、のぞみのお母さんたちはかえって恐縮すると思う。でも、今回は特別。あたしは、遊びに行くんじゃなくて、謝りに行くんだから。
(お餅ねぇ…)
正月と言えばお餅、だけど、パック入りの切り餅を持っていくのは変。かと言って、お雑煮や安倍川はお店では売ってない。っていうか、温かくないと食べられないものだから、手土産にはしづらい。別のものを考えるか…。
あ。
お餅あるとこ、知ってる。
「ごめんください」
「あら、りんさん」
暖簾をくぐると、こまちさんがいつもの笑顔で迎えてくれた。
「あけましておめでとうございます」
「あ、あけましておめでとうございます」
お互いに頭を下げる。これは、新年のお約束。親しき仲にも礼儀あり。
「ひょっとして、お年賀?」
「お年賀って言うか…。
のぞみんちに行こうと思って」
「のぞみさん?」
こまちさんは、かすかに首をかしげた。
「お使いかしら」
鋭い。もう十年の付き合いである のぞみの家に行くのに手土産を買いに来ている、ということは、のぞみに会いに行くのではないだろう、という推理。小説家志望の眼力は怖い。それは同時に、あたしは、それくらい異例なことをしている、ということでもある。
「え、っと。
実は…」
あたしは、ほかにお客さんがいたら大変に迷惑になるほどためらった挙句、のぞみとけんかした、という一言をやっとの思いで喉の奥から押し出した。
「そう…」
こまちさんは、一言だけ口にして、あたしの後ろの暖簾に視線をやった。そして。
「ちょっと待っててね」
209
:
makiray
:2017/01/09(月) 13:57:56
ふくふくふふふ (後)
-------------------
時計を見てたわけじゃないけど、結構、待たされた。
ここでお客さんが来たらどうすればいいかな、と思っていると、こまちさんはパタパタと音を立てて戻ってきた。そして、カウンターの横から出てくる。
「こんなのはどうかしら」
小さな箱。
こまちさんがそれを開けると、さらに小さいタッパーがあって…梅干し?
「あと、これは、昆布」
昆布。細く切ったのをご祝儀袋のあれみたいに結んであって、確かにお正月っぽい。でも、なんで、梅干しと昆布?
「京都の風習でね、お正月は、お茶に梅干しと結び昆布を入れていただくんですって」
「はぁ」
「『おおぶくちゃ』って言うの」
「おおぶく」
「『大福』って書くのよ」
あたしはきっと、何十秒もこまちさんの顔を見てたと思う。
それくらいびっくりした。
なんてぴったりなものを。この一週間、あたしがあれこれ考えて、ぐるぐるループしてたことをまるで知ってたみたいに。お餅をお土産にしようとか思ってた、なんてこれっぽっちも言ってないのに。
「どうしてわかったんですか?」
「え?」
「あ、じゃなくて。
こまちさんは なんでこの大福茶のことを思い出したのかな、と思って」
「そうねぇ」
また小首をかしげる。
「初詣のおみくじかしらね」
「おみくじ?」
「大吉だったの」
なるほど。大吉から大福。
「よかったじゃないですか。
あたしが今引いたら、きっと大凶だな」
「その方がいいじゃない」
「だって」
「おみくじが大吉っていうことは、元旦が幸せのピークで、後は落ちていく一方なのよ。
今年は一体、どんな悪いことが起こるのか、今から心配でしょうがないの」
ふふ。
あたしは吹きだしそうになった。
これが、あたしのことを心配しておどけて言ってくれているのか、それとも本当にそう思っているのかはわからない。でも、こまちさんの本当に困ったような顔であたしの肩からちょっと力が抜けた。さすが、プリキュア一の癒し系。
「でも、風流すぎてのぞみにはちょっともったいないかな。
のぞみなんか、雪見だいふくだけでも喜びそう――」
「りんさん」
こまちさんは相変わらず笑顔だったけど、ちょっと癒し成分が減っていた。あたしは今、怒られている。あのこまちさんに。
確かに、喧嘩をしてしまっている今、そして、自分に原因がある、と思っている時に言っていいことではなかった。
「はい」
あたしは箱を受け取るとふたを閉めた。
「あの、代金は」
「いいわよ。
それはお店の商品じゃないから」
「でも、この箱はお店のですよね」
「そうね…。
じゃぁ、後で何か買いにきてくれるとうれしい。
のぞみさんと一緒に」
「…。
わかりました」
あたしはその白い箱を両手に抱いて、頭を下げた。
ありがとう、こまちさん。
待っててね、のぞみ。
あたし、スタートを切るから。
のぞみに許してもらって、それで今年を始めるから。
店を出たあたしは、いつの間にか走り出していた。
210
:
名無しさん
:2017/01/09(月) 14:37:26
>>209
これ続き読みたいな。
あれこれ考えて困ってるりんちゃん、ぐるぐる堂々巡りしてるりんちゃん、
なんか、りんちゃんらしくて愛らしいw
211
:
名無しさん
:2017/01/10(火) 23:42:12
makirayさんが書くプリキュア5のSS、好きです。
212
:
makiray
:2017/01/11(水) 20:55:39
「ふくふくふふふ」の続編。あのケンカを、のぞみの側から見たものです。
2スレおかりします。
おはなのおみやげ (前)
---------------------
多分、三分くらいはそうしてたと思う。
りんちゃんの家の前。あたしは、呼び鈴を押そうとしては手をおろす、ということを繰り返していた。お店の方から行かなかったのは怖かったから。
(のぞみ、はしゃぎすぎ)
(だってお正月だよ。クリスマスの次はすぐにお正月。楽しみだねぇ)
(だからって、ほら、人にぶつかるから)
(あ、ごめんなさい。へへへ)
(ったく、いつまでたっても子供なんだから)
自分でも、なんでそこで言い返しちゃったのかわからない。りんちゃんに叱られるのはいつものことだし、子供だ、なんて多分、聞き飽きるほど言われてる。だけど、気がついたら、人通りのあるところで大声で喧嘩していた。
どう考えたってあたしが悪い。眠れなくなっちゃって、生まれて初めて除夜の鐘を聞いた。おせちもお餅もあんまり食べてない。
だから来た。謝りに。深呼吸。押す。
やだな、この間。誰もいないといいな、って思っちゃうから。あ、パタパタって音がする。来る、来る。そして、ガチャ。
「りんちゃん、ごめんなさい!」
「あら、のぞみちゃん」
「え…?」
りんちゃんのお母さん。
やっちゃった。こういうところを直さないとまたりんちゃんに叱られるのに。
「りんなら、のぞみちゃんのところに行くって出かけたわよ。すれ違っちゃったのかな?」
りんちゃんのお母さんが言ってることがわかるまで、また時間がかかってしまった。
走った。
「お母さん、りんちゃんは?!」
家に飛び込むと、お母さんはりんちゃんのお母さんと同じくらいびっくりした顔であたしを見た。
「来てないけど…約束してたの?」
あたしはすぐに靴を履き直した。
もう一度、りんちゃんの家の前。ここでやっと、りんちゃんはとっくに家を出てるんだから、ここにいるはずがない、ということに気付いた。あたしって本当にダメだな。
またすれ違ったのかな。戻ってみようか。
(回り道してるのかも)
久しぶりにケンカした。りんちゃんも、顔を合わせづらい、と思ってるかもしれない。
(じゃぁ)
「そうですか…」
かれんさんは朝から出かけていた。坂本さんは、りんちゃんは来てない、と言う。困った時に相談しようと思ったら かれんさんだと思ったんだけど…りんちゃんは強いから相談しようとか思わないのかな。
ケータイが震えた。
「りんちゃん?!」
《え、あの、うららです…》
「あ、ごめん」
今度の休みがオフになったから、ということだった。りんちゃんはうららに連絡はしてないみたいだった。じゃぁ、来週ね、と言って電話を切る。その来週までに、あたしはりんちゃんと仲直りできてるかな。
(りんちゃん、どこにいるの)
心当たりは探した。もちろん、ナッツハウスにも。ココが、なんか心配そうな顔をしてたけど、あたしはすぐに飛び出した。
ちょっと離れてるけど、フットサルの練習をしてるグラウンドまで来てみた。でも、りんちゃんはいない。
こまちさんの家は反対方向だから違うと思ったけど、行ってみた方がいいだろうか。
(このまま会えなくなっちゃうのかな…)
もう足が動かない。体も冷えてきた。もうすぐ震えはじめるかも。
(嫌だ。
りんちゃんに、ごめんって言わなきゃ!)
「あ、痛!」
走り出したあたしは誰かにぶつかった。
「ごめんなさい!」
まただ。またやってしまった。
「まっすぐこっちに来るから見えてるかと思ったのに。相変わらずだねぇ、君は」
「…。
ブンビーさん!」
213
:
makiray
:2017/01/11(水) 20:58:32
おはなのおみやげ (後)
---------------------
「そりゃぁ、相手がどこにいるかわからないのに闇雲に走り回ったら見つからないでしょう」
グラウンドのベンチに座る。おしりが冷たかったけど、それどころじゃなかった。
「そんなこともわからない人に苦戦したんだねぇ、私」
ブンビーさんがため息をつく。あたしの代わりみたいに。
「あ」
「どうしたの」
「まさか、ナイトメアとかエターナルとかが復活してりんちゃんをさらったんじゃ」
「そんなわけないでしょう!」
なぜか慌てて立ち上がるブンビーさん。あたりをキョロキョロと見回している。
「そんなことになったら、君のお友達より私の身が危険じゃないの…。
大丈夫かな。大丈夫みたいだな。うん、大丈夫…きっと」
「じゃ、どうしてブンビーさんがこんなところに」
「私は年始のお得意先回り」
「この辺に会社があるの?」
「…の後の一休み」
「サボってるってこと?」
「休息は重要なんですよ。覚えておきなさいね」
そうだ。一休みしたら、りんちゃんを探しに行こう。
「それにしても、口げんかくらいでなんでそんな大騒ぎを」
「だって、りんちゃんは」
「そうか」
ブンビーさんは、あたしの言葉を遮って、ポンと自分の手を打った。
「君の弱点は、あの子だったんだ!」
「…え?」
「じゃ、キュアルージュを集中攻撃して倒してしまえば、その動揺に付け込んで、君のことを倒せたんだね。
なんでもっと早く気が付かなかったんだろう。バカバカ、昔の私。あー、もう、タイムマシンがあったらあの時の自分に教えてあげたい。そうすれば、今頃は私の時代だったのに」
「…。
ブンビーさん、ルージュに勝てるの?」
ブンビーさんの顔が一気に赤く染まる。あたしはどうやらまた言っちゃいけないことを言っちゃったらしい。ブンビーさんは何度も深呼吸をした。
「ごめんなさい」
「帰んなさい、家に」
「でも、りんちゃんが」
「だから、あの子は君のところに行くって言って出かけたんでしょ? 家で待ってれば会えるじゃない」
「でも、あたしはりんちゃんに謝らないといけないんだから。それを待ってるなんて」
「もう家にいるんじゃないの?」
「あ…」
そうだ。家を飛び出してから随分、時間が経ってる。もし回り道をしてたとしても、もう着いてるかも。
「行かなきゃ」
「あぁ、これ、あげる」
「なに?」
ブンビーさんが、大事に抱えていた箱を私の手に押し付けた。
「お年賀でもらったんだけど、あげる。謝罪には手土産が必要でしょ。もういい年なんだから、それくらいの気を利かせなさい」
「でも」
「『花びら餅』って言うそうだから。花屋の娘にはピッタリでしょ」
「『花びら餅』…?」
「なんでも、京都のお正月はそれを食べるんだって。なんかのお茶がつきものらしいんだけど、それは忘れちゃったな。そもそも、私、そのお餅もいただいてないし」
「ブンビーさん…」
「いいねぇ、その目。もっと尊敬して。それで、私をリーダーにする気になったら連絡――」
「ありがとう、ブンビーさん!」
「今度、戦うときはその分、手を抜いてもらうからね」
あたしは笑顔になっていた。たぶん、十日ぶりくらい。
「うん!」
ありがとう。あたしは何度も言い、その箱を胸に抱いて頭を下げた。
待っててね、りんちゃん。
あたし、スタートを切るから。
りんちゃんに許してもらって、それで今年を始めるから。
もう動かない、と思っていた足はちゃんと動いた。あたしはりんちゃんのもとに走った。
214
:
名無しさん
:2017/01/11(水) 21:42:51
>>213
まさかの〇〇〇○さん登場!(ひょっとしてこの掲示板初登場じゃないですか?)
相変わらずいい味出してて、好きです。
のぞみとりんのそれぞれの行動と想いが詰まってて、メチャ面白かったです。
216
:
運営
:2017/01/11(水) 22:00:48
運営です。
遅くなって申し訳ありません!
新シリーズ『キラキラ☆プリキュアアラモード』のスレッド作りましたので、新シリーズに関する書き込みは転載させて頂きました。
ご了承ください。
217
:
名無しさん
:2017/01/11(水) 22:02:32
>>213
あっちこっち走り回るのぞみがのぞみらしいw
双方からお茶とお菓子を持ち寄って、ってところが良きかな。
218
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/01/15(日) 12:11:21
今年もよろしくお願い致します!
またまた遅くなりましたが、長編の続きを投下させて頂きます。
7レス使わせて頂きます。
219
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/01/15(日) 12:12:59
灰色の硬い床の上に、どさりと投げ出される。身体を拘束していた蔦がほどけると同時に、頭の上から、冷たい床の感触よりさらに冷ややかな声が降って来た。
「全く情けない。あなたには失望したわ」
「申し訳……ありません」
まだ痛みの残る腹部を庇いながら、少女がのろのろと立ち上がる。そして彼女を見下ろすノーザの映像を、すがるような目で見つめた。
「ですが、メビウス様復活の通告は、思った通り連中に大きなダメージを与えています。今なら簡単にゲージを満タンに出来る。お願いです! もう一度だけ、ダイヤを……」
「だからあなたには失望したと言っているのよ」
ノーザはぴしゃりと少女の言葉を遮ると、まだ七分程度しか溜まっていないゲージの方に目をやった。
少女の方を見ないまま、ノーザは淡々と語る。
他の三人の幹部と違って、自分はダイヤを支給されてはいなかった。あのダイヤは、かつての試作品に自分で手を加えて作ったただひとつのもの。万が一、メビウス様の野望を阻むさらに強大な敵が現れたときのため、この予備のゲージと一緒に自分の部屋に隠し持っていたのだと――。
「あのダイヤを失った今、どんなに人間たちが不幸になろうが、その不幸をゲージに集めることはもう出来ない」
「そんな。じゃあ、メビウス様は……」
少女が絶望したように呟く。が、ノーザの言葉を聞いて、その顔に僅かながら明るさが戻った。
「安心なさい。今溜まっている不幸を使って私の身体を取り戻せば、まだメビウス様復活の手立てはあるわ」
ノーザの言葉が終わると同時に、鉢植えから蔦がするすると伸びた。ゲージの下方にあるコックを器用にひねって、不幸のエネルギーを水差しに入れる。そして自らの根元に、その中身を溢れんばかりに注いだ。
注がれた不幸のエネルギーを、小さな木がゴクゴクと音を立てて吸収する。そして時を移さず、その枝先に人型のようなものが出現し、それが丸まって実のような形になった。
「これは“ソレワターセの実”。この実から生み出されるモンスターは、私が欲しいものを確実に奪う、強力で忠実なしもべよ。今度はこの子に働いてもらうわ」
「ソレワターセの実……」
灰緑色の実を呆然と見つめていた少女が、ハッとしたようにノーザに目を移す。
「では、私は……」
「あら、挽回の機会が欲しいのね? ならば、ソレワターセの邪魔をする者を足止めしなさい。そのために、あなたにも素敵な贈り物をあげましょう」
さっきまでとは打って変わって楽しそうに少女を見下ろしてから、ノーザはパチリと指を鳴らした。
蔦が再び鉢植えの根元に不幸のエネルギーを注ぐ。小さな木はまたも勢いよくその液体を吸収したが、今度は枝先に実は現れなかった。代わりに一本の枝の先が、球状に膨れ上がる。そして別の枝から、空中にらせんを描くように新たな蔦が放たれ、膨れた枝の先からそれを目がけて、真っ黒な霧が吹きかけられた。
固唾を飲んで見守る少女の目の前で、小さな霧が晴れる。すると、らせん状の蔦は黒々とした、薄っぺらい三角形に変化していた。
霧を吹き出し終えて元の形に戻った枝が、その三角形の部分を切り離し、ゆっくりと少女に差し出す。
「メビウス様は、それを“カード”と呼んでおられた。ナケワメーケより強大なパワーを持ったモンスターを生み出せる、特別なアイテム。私が持っていたデータを使って、復元してあげたわ」
ノーザの言葉を聞いて、少女が枝先にあるものに恐る恐る手を伸ばす。
「ただし」
そこで再び、ノーザの声が飛んだ。
「その強大なパワーには代償が必要なの。当然でしょ?」
少女が伸ばしかけた手を止める。
「どんな代償ですか?」
「それを使うと、激痛を受けるのよ。モンスターを使役している間、ずーっとね。耐えられなくて、命を縮めることもあるらしいわ」
「……」
少女の手が、ゆっくりとカードから離れる。それを見て、ノーザは大きなため息をつくと、さも残念そうな口調で言った。
「そうねぇ。あのイースですら、それを四枚も与えられたというのに、結局使いこなせなくてボロボロになったんですもの。あなたには無理な話かもしれないわね」
「あの人が!?」
「ええ、そうよ。それは元々、プリキュアを倒すためにイースに与えられたものなの。失敗して寿命を止められたけど、そうでなくても、もう使い物にはならなくなっていたみたいね」
少女の手が今度はギュッと握られ、ブルブルと震え出した。
220
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/01/15(日) 12:13:40
「出来ないのなら、もう手を引きなさい。後は私一人で何とかするわ」
「誰が……やらないなどと?」
少女が左手で右手を掴んで、無理矢理手の震えを止める。そして今度は勢いよく、その手をカードに向けた。
「私は、メビウス様のためなら何だって耐えられる。あの人が……先代のイースが出来なかったことだって、やり遂げてみせます!」
ノーザの口の端が、わずかに上がる。まるで少女の意志に反応したように、三角形のカードは枝先を離れ、はらりと彼女の手の中に納まった。
幸せは、赤き瞳の中に ( 第9話:起動! )
おびただしい瓦礫の山。人っ子一人いない、廃墟と化した街。
足場の悪さなど物ともしないスピードで、サウラーは道なき道をひた走っていた。厳重にくるんで胸元に抱えたモノを、少しでも早く、少しでも安全な場所に運ばなければ――使命ではない自らの想いが、彼を突き動かす。
この三日間、サウラーは執務室に籠り、ずっとラブの手がかりを探し続けていた。だからラブが無事に戻ってきたと連絡があった時には心底ホッとしたのだが、それに続く報告を聞いて、自分の顔から一切の表情が消えたのが分かった。
ウエスターが捕えた少女が奪い去られたこと。
E棟の地下にある“不幸のゲージ”。
そして何より、少女の後ろにいるノーザの存在。
少女がラビリンスの国民にとんでもない通告を行ったと聞いた時から――いや、彼女があんなにも鮮やかにラブを連れ去った時から、何か強大な者の力が働いているのではないかと疑ってはいた。
まさかそれが、あの計り知れない力を持った、かつての最高幹部だったとは。だが、ノーザはプリキュアの技を受けて、球根の姿に戻ったはず……。
――彼女は何故、今再び現れたのか。
――彼女は少女を使って、何をしようとしているのか。
心はまだ呆然としているのに、頭の中に幾つもの仮説が浮かび、その検証が進んでいく。
記憶しているノーザに関するデータとの照合。選択肢の抽出。可能性の算出。やがて相手の次の一手と、自分が取るべき次の行動が、次第に明確な形を取って浮かび上がってくる。
(おそらくノーザは、最終決戦の前に自らのデータのバックアップを残したのだろう。E棟の地下にあったという植木がその媒体か……。不幸のゲージの使い道はまだ分からないが、ヤツは十中八九、自分の実体を狙ってくる!)
ものの数秒でそう思い至るが早いか、サウラーは執務室を飛び出し、ノーザの本体である球根が保護されている施設に向かった。
中心地から少々離れているその施設まで、夜の闇の中を駆け抜け、無事を確認したその球根を持って、元来た道を再び走る。
ノーザ本人のバックアップだ、自分の身体の在り処は、こちらが隠してもすぐに分かってしまうだろう。それならば、標的は手元に置いて、守りを固めた方がいい。
執務室のある新政府庁舎が見えてきた時には、もうすっかり夜が明けていた。今にもノーザが襲ってくるかもしれないという焦燥感から飛ぶように駆け戻って来たものの、まだ辺りはしんと静まり返り、不穏な気配は何も感じない。
(どうやら少し慌て過ぎたか。やはりこんな即断即決は、ウエスターならともかく僕には似合わないね)
フン、と自嘲気味に微笑んで、庁舎の中に入る。そして執務室までの道すがら、開け放たれた会議室の中をちらりと覗いた。
この庁舎もまた、襲撃を受けた人々のために開放されている。大会議室には多くの人が避難していたが、薄暗いその部屋はしんと静まり返って、生気というものがまるでなかった。
声もしない。動く者もいない。
そう早い時間でもないというのに、人々は寝具にくるまったりうずくまったりした姿勢のまま、ただ時が過ぎるのを待っている。
(これが、あの通告がもたらした結果というわけか。やはりあの世界の連中と比べると、僕らはこんなにも弱く、脆いのだな)
無表情の下で、苦々しい思いをかみ殺す。その時、何かが動く気配を感じて、サウラーは部屋の中に目を凝らした。
221
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/01/15(日) 12:14:11
薄闇の中、ゆっくりと起き上がる人の姿が見える。その人は自分が使った寝具をきちんと畳み、サウラーのいる入り口に向かって歩いて来る。その顔を見て、サウラーの頬がわずかにほころんだ。
「あなたは、あの畑の……。ここに避難していたんですか」
彼は、サウラーたちが試験的に作った野菜畑の管理人。時々、野菜作りのための情報を得るために、ここへやって来る老人だった。
老人がサウラーに会釈を返し、そのまま廊下に出て行こうとする。
「どこへ行くんです?」
「朝だから、顔を洗うだけです」
当たり前のようにそう答えながら、老人は洗面所の方へ歩き出す。
しわがれてはいるが、落ち着き払った声。動きは遅いが、しっかりとした足取り。その姿は、何をするでもなくただ死んだような目をしている人々と比べて、とても力強くサウラーの目に映り――気が付くと、その後ろ姿に向かってもう一度呼びかけていた。
「あなたも、あの通達を聞いたんですよね?」
「通達……ああ、メビウス様が復活するという、あれですか」
老人はサウラーを振り返って、思いのほかあっさりとした調子で答えた。
「でも、あなたは普段と同じように生活できているんですね」
老人がいぶかし気な視線をサウラーに向ける。それを見て、サウラーは薄暗い部屋の中を指し示した。
「ほら、他のみんなはあの有り様だ。それなのに、何故あなただけが?」
今度は老人の答えが返ってくるまでに、少しばかり時間がかかった。
「私はもう長く生きてきた。だからそう思うだけかもしれんが……」
ようやく口を開いた老人が、目をしょぼつかせながら言葉を続ける。
「もう一度管理されようが、制裁を受けようが、ほんの少し前に戻るだけでしょう。むしろ……」
「むしろ?」
真剣な表情で聞いていたサウラーが、老人の言葉が途切れたのに気付いて、怪訝そうに先を促す。そこで初めて老人の顔に、しまった、というような戸惑いの表情が浮かんだが、彼は促されるままに、絞り出すような声で言った。
「むしろ……制裁してくれた方が、楽なくらいで」
「それは一体、どういう……」
そう言いかけた時、サウラーは通信機の着信に気付いて、失礼、と言いながらそれを耳に当てた。
途端にウエスターの怒鳴り声が飛び込んで来て、思わず顔をしかめる。しかし、すぐにサウラーの表情が引き締まった。
あの少女が再び現れた。それもナキサケーベを引き連れて――ウエスターはそう告げたのだ。
「わかった。僕もすぐに現場に向かう」
早口でそう答えて着信を切り、何か思考を巡らせながら歩き出すサウラー。が、そこでふと何か思い付いた様子で、老人の方を振り返った。
「そうか、あなたなら……。申し訳ないが、僕と一緒に来て手伝ってくれませんか。お願いします」
その真剣な表情に押されたように、老人がためらいながらも小さく頷く。
「ありがとう。早速相談があります。こちらへ」
しんと静まり返った庁舎の廊下に、二人の足音だけが響いた。
☆
顔の中央に貼り付いている、涙を流す一つ目のマーク。言葉を発せず、ただ苦し気な呻き声を上げるだけの哀しきモンスター。
巨大なタイヤで出来た両手両足と、四角いメタリックな身体を持つそれは、どうやら乗り捨てられた車が素体のようだった。
怪物の後ろに見えるビルの上に、あの時の自分と同じ、腕に暗紫色の茨を巻き付けた少女が立っている。その姿を苦し気な表情で見つめるせつなの肩を、ポン、と叩く者がいた。
「……ウエスター」
「危ないから下がっていろ。こいつを倒して、ヤツの目を覚まさせてやる!」
せつなとラブの前に進み出たウエスターが、薄水色のダイヤを構える。
「ホホエミーナ! 我に力を!」
叫びと共に、昨日少女にナケワメーケにされた街頭スピーカーが、今度はホホエミーナになって立ち上がる。
「ウオォォォ〜!」
新たな呻き声を上げて襲い掛かる怪物――ナキサケーベを、ホホエミーナはその太くて長い腕でしっかりと受け止めた。だが。
222
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/01/15(日) 12:14:44
「ソ〜レワタ〜セ〜!」
今度は呻き声ではないはっきりとした雄叫びが、まるでウエスターを嘲るように別の方角から響く。
暗緑色の蔦が人型になったような、ナキサケーベより遥かに大きな身体。そして蔦の裂け目から覗く、邪悪に光る赤いひとつ目。
「え……まさかあの子、ソレワターセも一緒に呼び出しちゃったの!?」
「違う。きっとノーザの仕業だわ」
驚くラブにかぶりを振って、せつなが低い声で呟いた、その時。
「さすが、お見通しねぇ」
不意に聞き慣れた声がしたかと思うと、ソレワターセの後ろの空間が、一瞬だけぐにゃりと歪んだ。
「久しぶりね、イース。それにウエスター君」
巨大なソレワターセの後ろに、さらに大きなノーザのホログラムが出現する。
その声は、まるで天から降って来るよう。視界一杯に広がる半透明な姿は、かつての主の姿すら思い起こさせる。
ウエスターはグッと奥歯を噛みしめてから、自分を励ますように、巨大な映像に向かって声を張り上げた。
「出たな、ノーザ!」
「あら。もう“ノーザさん”とは呼んでくれないのかしら」
からかうような口調でそう言うと同時に、ノーザの右手がさっと上がる。
「さぁ、ソレワターセ。プリキュアが加勢などしないうちに、私が欲しいものを奪いなさい」
「そうはさせん! ホホエミーナ!」
「くっ……そいつを止めろ!」
ウエスターと少女の叫びがほぼ同時に響いた。くるりと向きを変えてソレワターセに飛びかかろうとするホホエミーナと、それを後ろから羽交い絞めにするナキサケーベ。
身動きが取れなくなった相棒を見るが早いか、ウエスターが単身、ソレワターセに挑みかかる。が、今度はナケワメーケのようなわけにはいかなかった。
スピードが違う。パワーが違う。おまけにサイズが違い過ぎる。ウエスターはたちまち防戦一方に追い込まれ、荒い息をつき始める。
二つの戦況を楽しそうに見つめていたノーザが、ラブとせつなの方に目をやって、ニヤリとほくそ笑む。
「ただ見ているだけで変身しないなんて、あなたたちも薄情ねぇ。それとも、本当はもう変身出来ないのかしら。だったら勝負は決まったも同然ね」
悔しそうに睨み返すだけで、何も言えない二人。すると二人のすぐ後ろから、新たな声が聞こえた。
「さあ、それはどうですかね」
「ホホエミーナ! 我に力を!」
新たな薄水色のダイヤが、瓦礫の山に突き刺さる。
「ホ〜ホエミ〜ナ〜! ニッコニコ〜!」
ゴツゴツしたゴーレムのような姿の怪物が立ち上がり、その場にそぐわぬ明るい雄叫びを上げた。それと共に周りの瓦礫が次々に吸収されて、その体が見る見るうちに大きくなる。
やがてソレワターセと同じくらいの大きさに成長したところで、ホホエミーナは太い両手を広げ、目の前の怪物に掴みかかった。
「サウラー!」
「どうやら間に合ったようだね」
サウラーがせつなの隣に並んで、口元だけで小さく微笑む。その姿を、ノーザが忌々し気に見下ろした。
「あら、あなたも私に逆らうのね? サウラー君。でも、そんな間の抜けた物を作って、ソレワターセに敵うと思ってるの?」
ノーザの言葉を証明するように、ソレワターセがホホエミーナを捕えて地面に叩き付けた。灰緑色の腕を槍のように真っ直ぐ伸ばし、とどめを刺そうと身構える。
だが、サウラーは慌てる様子もなく、いつもの皮肉めいた口調でノーザに叫び返した。
「お生憎様。僕は一人ではないんでね」
「え? サウラー、それってどういう……うわっ!」
怪訝そうに問いかけたラブが、驚いたように手で顔を覆う。突然、温かな空気が頬を撫で、視界が真っ白になったのだ。辺りにはもうもうと湯気が立ち込め、その向こうでソレワターセがよろよろと後ずさるのが、ぼんやりと見えた。さっきまでとは打って変わって、その体は萎れ、腕はへなへなと力なく垂れ下がっている。
「何だ。何があった! ……あっ」
珍しく慌てたような声を出したノーザが、湯気の向こうに目をやって、驚いたように息を呑む。
そこには一人の老人の姿があった。少々へっぴり腰ながら、その両手はしっかりと消防用のホースを握り締めている。彼の隣にはぐらぐらと沸く大鍋があり、ホースはそこに繋がっていた。
223
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/01/15(日) 12:15:15
「なるほど、植物は高温に弱く、熱湯をかければ枯れるほどのダメージを受ける。植物から生まれたソレワターセも例外ではない、か。あなたの知識に助けられました」
「ええい、ただの人間の癖に、小癪な真似を!」
サウラーの言葉を聞いて、ノーザが恐ろしい形相で老人を睨む。その視線はそのまま少女へと向けられた。
「何をしている。邪魔者を排除するのはあなたの仕事よ。早くそいつらを片付けなさい!」
「おっと。お前の相手は、俺たちだ」
ソレワターセの方へ向かおうとするナキサケーベを、今度はウエスターのホホエミーナが体当たりで止める。
「ウォォォ〜!!」
苦し気な雄叫びを上げたナキサケーベが、今度は短い腕をブンブンと振り回す。するそこから、タイヤ型の砲弾が次々と飛び出した。
「みんなが危ない!」
ラブが思わず声を上げる。ナキサケーベとホホエミーナが戦っているすぐ後ろには、さっきまでラブたちが居た警察組織の建物があるのだ。ラブの声が聞こえたかのように、ホホエミーナが体を投げ出すようにして砲撃を受け止めようとするが、とても全部は止めきれない。
やがて、弾のひとつが建物の近くに着弾して盛大な土煙を上げた。それを見て、せつなが素早く身を翻し、建物に向かって走り出す。そして、既に昨日までの襲撃によって壊されていた頑丈そうな門の残骸を見つけると、その一端を引き上げてその下に潜り込んだ。
「せつな!」
「何をする気だっ?」
ラブに続いてサウラーが、ここへ来て初めて焦りの声を上げる。
「この建物の中には、避難してきた人たちがたくさん居るの。傷付けるわけにはいかない」
「よせ! 今のお前に砲弾を止められると思うのか!」
「やってみなきゃ……分からないでしょう? 私も……やらなきゃならないことを、全力で……やるだけよ!」
せつなが渾身の力で門を押し上げ、大きな盾の代わりにする。その真ん中に、一発の砲弾が命中した。着弾の勢いに押されながらも、せつなは歯を食いしばって門を支え、後ろの建物を守ろうとする。
「……せつなっ!」
あっけに取られて一部始終を見ていたラブが、ハッと我に返ってせつなの元へ駆け出そうとする。その肩を、誰かの手ががっしりと押さえた。
「ここは僕に……僕たちに任せて下さい」
耳をつんざくような爆発音が、絶え間なく響く。強烈な硝煙の臭いと、全身の筋肉がしびれるような衝撃――。
せつなは、盾にした門の残骸を必死で支え続けていた。
彼女が立っているのは、避難者が居る会議室の前方に当たる場所。この重い盾を持って、動き回って砲弾を止めることは出来ないが、ここならば少なくとも彼らの居る部屋への被弾を防ぐ助けにはなるだろう。
(だけど……)
門を支えている掌が、さっきからヒリヒリと痛んでいる。度重なる着弾で、門が次第に熱を持ってきているのだ。これ以上温度が上がれば、せつなには支えきれない。そもそも門が、盾としての役に立たなくなってしまうかもしれない。
(そうなる前に、何か……何か手は無いの!?)
唇を噛みしめて、何か妙案はないかと思考を巡らせる。
その時、ひときわ大きく苦しそうな雄叫びと共に、今までとは比べ物にならない数の砲弾が打ち出される音が響いた。
(駄目……そんな数は防ぎきれない!)
せつなは全身を盾に預けるようにして支えながら、思わずギュッと目をつぶった。
着弾音が、少し遠くから聞こえた気がした。最悪の予測が外れ、弾がこちらまで届かなかったのか――そう思いながら恐る恐る目を開けて、せつなの目がそのまま驚きに見開かれる。
目の前に、いつの間にか銀色の長い壁が出来ていた。いや、それは壁では無かった。
二十人、いや三十人は居るだろうか。揃いの警察組織の戦闘服に身を固めた若者たちが、やはり警察組織の大きな盾を手に、ずらりと一列に並んでナキサケーベの砲撃を防いでいたのだ。
ぽかんと口を開けるせつなを、一人の若者が振り返る。それは、今朝ラブが作ったおじやの鍋を運び、配膳を手伝ってくれたあの少年だった。
224
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/01/15(日) 12:15:46
「せつなさん、ありがとう。僕たちもやらなきゃならないことを、全力でやってみます」
少年が、相変わらずぼそぼそとした口調でそう言って、ニッと照れ臭そうに笑う。そして次の瞬間、その顔がきりりと引き締まった。ナキサケーベの新たな呻き声が響いたのだ。
「みんな、少しでも隙間を空けると危険だわ!」
せつなが門の残骸を放り出して、少年たちに向かって声を張り上げる。訓練は積んでいるが、こんな実戦経験など無い若者たち――そう思った瞬間、自然に体が動いたのだ。
「盾を少し斜めにして、隣の人の盾と半分ずつ重ね合わせるの。そうすれば、隙間は完全になくなるし、盾の強度も倍になる」
少し低めのよく通る声が、若者たちに的確な指示を出す。やがて建物の前面全体を守る、頑丈な防御壁が出来上がった。
せつなと若者たちの様子を眺めていたラブが、ゆっくりと笑顔になる。そして勢いよく走り出すと、ホースを構える老人の元へ駆けつけ、その手を取った。
「おじいさん、手伝うよ!」
「い、いや、これは……」
「ううん、手伝わせて。お願い!」
「あ、ああ……それなら、頼む」
老人がラブの勢いに押されたように、こくんと頷く。その戸惑ったような顔にもう一度ニコリと笑いかけてから、ラブは老人と一緒にホースを支え、ぴたりとその先をソレワターセに向けた。
少女が操るナキサケーベと、ウエスターのホホエミーナ、そしてナキサケーベの砲弾を防ぐ盾を担うせつなと警察組織の若者たち。
ノーザが檄を飛ばすソレワターセと、サウラーのホホエミーナ、そしてラブと老人による援護射撃。
一進一退の攻防を、幾つかの建物に潜むラビリンスの避難者たちは、固唾を飲んで見守っていた。
「思い出すな……。プリキュアの戦いを見た、あの日のことを」
「あの時も、私たちを助けてくれたのよね」
「でも、メビウス様が復活すれば、それもすべて終わりだ」
「それはそうかもしれないが……」
「でも、あの人たちは今、私たちを守るために戦ってくれている」
「私たちは、守られているだけ? それだけで何も出来ないの?」
いくつもの力のない呟きが重なって、やがて一人の若い女性がそう言って人々の顔を見回す。すると、最初はバツが悪そうに顔を見合わせていた人たちの間から、少しずつ声が上がり始めた。
「砲撃を防ぐ工夫なら……僕たちにも出来るかもしれないな」
「確かにその方が、みんなも戦いやすいはずね」
「よし、ここにバリケードを築こう」
「じゃあ俺は、会議室の隅に片付けた机と椅子を持ってくる」
「私はあのおじいさんを手伝って、お湯を調達してきます」
にわかに活気づいた雰囲気に押されるように、うずくまっていた人たちが、一人また一人と立ち上がる。
戦いの様子を目の当たりにして、久しぶりに声を出し、言葉を交わす。そして何かをしようと駆け出していく。
それは、せつなもラブも、ウエスターもサウラーも、勿論ノーザも少女もまだ気付いていない、ラビリンスに起こった静かな、しかし確実な変化だった。
「うっ……な、何をしている。そんなヤツ……うっ……さっさと倒せ!」
暗紫色の茨が、一巻き、また一巻きと、少女の二の腕に絡み付き、締め付けていく。苦痛に耐えながらモンスターに檄を飛ばし続ける少女がふらりとよろめいて、ついにガクリと膝をついた。
「ああ……」
老人が喉の奥から小さな悲鳴を吐き出して、少女から目を背ける。心配そうにその顔に目をやったラブは、その向こうに見えるせつなの様子に気付いて、さらに心配そうに眉根を寄せた。
せつなの右手が、小刻みに震えている。拳を固く握り締め、片時も目を離さずに、苦しむ少女の姿を見つめている。
しばらくその様子を眺めてから、ラブもグッと唇を引き結んだ。
225
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/01/15(日) 12:16:25
ホースを老人に任せ、せつなの元に駆け寄る。そして握られた拳に右手でそっと触れると、ラブはせつなの目を覗き込むようにして言った。
「せつな。あの子のところに行こう!」
「……え?」
「あの子を止めようよ」
「ラブ……何を言っているの?」
驚いた――そして少し怒っているような表情で、せつながラブの顔を見つめる。ラブもせつなの顔を見つめ返して、さらに言葉を続けた。
「あの子を助けよう。ね? せつなは、そうしたいんでしょう?」
「無茶言うな。ここは俺に任せておけ!」
決め手を欠いて苦戦しているホホエミーナに目をやったまま、ウエスターがいつになく鋭い声を出す。それを聞いて、せつなは小さく、そして少し哀しそうに微笑んだ。
「ウエスターの言う通りよ、ラブ。今の私たちに、戦う力はない。ナキサケーベやソレワターセを浄化することも出来ない。だったら、私たちは私たちがやらなきゃならないことを……」
「違う。違うよ、せつな」
今度はラブの顔が、哀しそうに歪んだ。
「ねえ、せつな。やらなきゃならないことは、本当にやりたいことに繋がってなくちゃいけないんだよ」
「本当に……やりたいこと?」
掠れた声で聞き返すせつなに、ラブは、うん、と頷いて見せる。
「避難しているラビリンスの人たちを守りたい――それもせつなの、本当にやりたいことだったんだよね。だから警察の人たちが、その想いに応えてくれたんだと思うんだ」
そう言って、ラブは固く握られたせつなの拳を、両手で優しく包み込む。
「本当は、あの子が苦しむところを見ていられないんでしょう? あの子を助けたいんでしょう? だったら助けようよ! あたしはせつなを、応援するよ」
ラブを映すせつなの赤い瞳が、ゆらゆらと揺れる。その揺れが収まってから、せつなはラブに向かって、ニコリと笑ってみせた。
「ありがとう、ラブ。ウエスター、私一人で行かせて」
「えっ? しかし、お前が行ったら……」
「大丈夫。私も……私の力を、信じてみたい」
驚いたような、困ったような顔でせつなとラブの顔を交互に見ていたウエスターが、せつなの言葉を聞いて、そうか、と小さく呟く。
その時、盾を持った警官たちの列から一人の若者が飛び出して、建物の中に走り込んだ。ほどなくして出て来ると、今度は一目散にせつなの元へと駆け寄る。その顔を見て、せつなが、あっ、と声を上げた。
「あなたは、ひょっとして昨日の……。ごめんなさい、いきなりあんな酷いことをして」
それは、昨日少女があの通達を行った時、怒りに駆られたせつなに戦闘服を奪われた、あの若者だった。
「いいえ。元はと言えば、俺が油断していたのがいけないんです」
若者が少し照れ臭そうな顔でかぶりを振りながら、抱えていた物をせつなに差し出す。
「これ、うちの隊の予備の戦闘服です。せつなさんには物足りないと思いますが、良かったら使って下さい」
せつなは、昨日とは別の理由で手を震わせながら、戦闘服を受け取って、それを大事そうに胸に抱いた。
戦闘服が、再び旗のように勇ましく空中に翻る。イースであった頃に着慣れていたものとは、性能面でかなり劣る代物。しかし、そこに込められたあたたかな想いが、せつなに大きな勇気をくれる。
するりと袖を通してから、せつなは目を閉じ、静かに気を集中させる。そしてパッと目を見開くと、強い光を帯びた目でラブを見つめた。
「行って来るわね」
言うが早いか、飛ぶように駆けるせつな。その髪が一瞬銀色に輝いたように、ラブの目に映った。
〜終〜
226
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/01/15(日) 12:17:06
以上です。ありがとうございました!
競作前にもう1話更新できるように、頑張ります。
227
:
名無しさん
:2017/01/15(日) 23:34:44
すごく面白かった。全員で戦ってる感があって良かったです!
228
:
Mitchell & Carroll
:2017/02/08(水) 22:53:21
格付けⅠの約束、今ここに――
『四葉邸へようこそ♡』
司会者「デケェ〜門だな、しかし……格子の隙間ありすぎて、余裕で侵入できんじゃん、ほら」
ドーベルマンs「「「バウバウバウ!!」」」
司会者「うわっ!!」
インターホン「今、お開けいたしますわね」
門「(ゴゴゴ……)」
司会者「はー、ビックリした」
ありす「泥棒さんにしては、派手な格好をしてらっしゃると思ったもので……」
司会者「玄関まで遠いなー。庭も超広いし」
ありす「キャッチボールでもなさいますか?」
司会者「いえ、結構です」
セバスチャン「ようこそ御越しいただきました、司会者様」
ありす「四葉邸へようこそ♡」
司会者「なんか、入った途端、見覚えのある名画があちこちに……」
ありす「○○○○も△△△△も、我が四葉家が所有いたしております」
司会者「……!!」
ありす「お食事まで少し時間がありますので、運動などいかがでしょう?地下にトレーニングジムがございます」
司会者「じゃあ、軽く汗流そうかな」
〜移動中〜
司会者「わー、スゲェ!最新のジムじゃん!」
ありす「このランニングマシンは、使用者のスピードに合わせて自動で速度が変わるのですよ」
司会者「どれどれ(ドタドタ)」
ありす「あの……これはランニングマシンでして、“もも上げマシン”ではないのですが……」
司会者「――え?何か言った?」
ありす「いえ……」
セバスチャン「司会者様、お風呂の用意が出来てございます」
司会者「風呂も広いなー。浴槽にバラが浮いてるし。そうだ。シャンプーのボトルの底、チェックさせて下さい――うん、ヌルヌルしてないや。当たり前か」
セバスチャン「お背中など、ご自分では洗いにくい所もおありでしょうから、専門の方をお呼びいたしました」
司会者「専門の方?」
(ナレーション「何やらバスタオルを巻いた女性たちが入ってきたようだが……?」)
司会者「え!?」
セバスチャン「では、ごゆるりと」
司会者「え?行っちゃうの!?セバスチャンさん!!ちょっと!!!!」
司会者「ふぅ〜」
ありす「お湯加減の方はいかがでしたか?」
司会者「ええ、最高でした」
セバスチャン「………」
司会者「何も無かったですよ。あったらバカでしょ、人ん家で」
229
:
Mitchell & Carroll
:2017/02/08(水) 22:54:28
ありす「――それでは、司会者様の洋々たる前途、番組の益々のご発展を願って……」
司会者「カンパ〜イ♡……うまっ!!」
セバスチャン「1973年産どんぺりにょん、喜んでいただけましたでしょうか」
司会者「マジで!?」
セバスチャン「そしてこちら、イベリコ豚のホニャララでございます」
司会者「うん、うまい!さすが」
セバスチャン「さらに、キャビアの○○○○、フォアグラの△△△△、トリュフの□□□□でございます」
司会者「やべぇ、王様になった気分……俺、今日死ぬのかな?」
ありす「もしお亡くなりになられましたら、四葉家で盛大に弔いますから、安心して――」
司会者「いや、冗談で言ってるんですよ。目が笑ってませんよ、あなた」
(ナレーション「何だかんだ言ってご馳走を堪能し、上機嫌の司会者)」)
司会者「食べたら眠くなってきた……」
ありす「ではそろそろ、おやすみの準備に入りましょうか」
〜移動中〜
司会者「うわっ!天蓋付きのベッドだ!」
(ナレーション「年甲斐も無くハシャぐ司会者」)
ありす「おやすみになる前に、トランプでもなされます?」
司会者「やるやる!」
(ナレーション「接待トランプで、負けてあげるありす御嬢様」)
司会者「やったー、俺の勝ち!」
ありす「まあ、お強いですのね♡」
ランス「アリスはやさしいでランス〜」
司会者「――そろそろ寝よっかな」
(ナレーション「すると何やら楽器を持った人達が部屋に入ってきたようだが……?」)
ありす「バッハのゴルドベルグ変奏曲です。これはバッハが、ゴルドベルグ伯爵がよく眠れるようにと作った曲なのですよ」
司会者「マジで?ここまでしてくれんのか(ジ〜ン)」
ありす「では、おやすみなさいませ」
司会者「うん、おやすみ……(あのぬいぐるみ、喋ってたような気がするけど……いいや、寝よ)」
〜翌朝〜
司会者「――ああ、良い目覚めだ。昨日あれだけ食べたり飲んだりしたのに、全然響いてないや」
セバスチャン「おはようございます。朝食の用意が出来ておりますので、食堂の方へどうぞ」
セバスチャン「司会者様は朝食はあまり摂らないとお聞きしましたので、軽めの物をご用意しました」
司会者「良〜い彩りのサラダだ」
(ナレーション「食べながら泣き出す司会者」)
司会者「いや……もうすぐお別れしなくちゃなんないのかと思うとね……」
ありす「またいつでもいらして下さいね。今度は門を潜ったりせずに」
司会者「はーい」
END
230
:
Mitchell & Carroll
:2017/02/08(水) 22:59:15
以上です。
それとランキングスレの335
『あざとさに始まり、あざとさに終わる』→ 『あざといに始まり、あざといに終わる』
訂正よろしくお願いいたします。
231
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/02/18(土) 08:59:53
おはようございます。
冬のSS祭り、ついに始まりましたね! 皆さんのお話楽しみにしております!!
さて、競作前に更新しますと言いながら、また少しずれこんでしまいました(汗)
長編の続きを投下させて頂きます。4レス使わせて頂きます。
232
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/02/18(土) 09:00:38
焼け付くような痛みが右腕に絡みつき、じわじわとその範囲を広げていく。
痛みをこらえようと力を入れ過ぎた身体は強張って、まるで自分の身体では無いかのようだ。
それでもモンスターのコントロールを緩めるわけにはいかない。
痛みに耐え、痛みを代償として得た力で、必ず……必ずメビウス様のために――!
歯を食いしばって立ち上がった少女は、自分の方へ向かって飛ぶように駆けて来る人物に気付き、大きく目を見開いた。
その顔に、何とも複雑な表情が浮かぶ。
赤い瞳は挑むような光を宿しているのに、口元は苛立たし気に“への字”に引き結ばれている。その癖、口の端から漏れる息づかいは、まるで何かに怯えるように震えていて――。
が、それも束の間のこと。少女は何かを振り払うように乱暴に頭を振ると、眼下に立つ巨大なしもべに向かって、茨の巻き付いた右手をさっと突き付けた。
「何をしている。邪魔者を近付けるな! すぐに息の根を止めてしまえ!」
いつになく激しい少女の檄に、苦し気な呻き声で答えるナキサケーベ。対峙していたホホエミーナを地面に叩きつけ、自分の脇を走り抜けようとする小さな影に向かって、腕を振り回してタイヤ弾の集中砲火を浴びせる。
小さな影の――せつなのスピードが、ぐんと上がった。砲弾の雨を物ともせず、体に掠らせもせずに、少女の立つビル目がけて一直線に駆けて行く。
今度は行く手を遮るように、彼女の目の前に砲弾が飛び込んで来る。その瞬間、戦闘服の裾がひらりとはためいた。
「ハッ!」
短い気合いと共に、砲弾が蹴り返される。続いてもうひとつ。さらにもうひとつ。それらはまさに車輪のように高速で回転しながら、ナキサケーベの横腹を襲う。
行く手を阻んだ五つの砲弾を全て蹴り返したところで、ついに巨体がバランスを崩した。
「ニッコニコ〜!」
跳ね起きたホホエミーナが、相変わらず笑顔のままでその胴体を組み敷く。それを横目で見ながら華麗に着地したせつなは、何事も無かったかのように、さらに足を速めた。
「凄ぇ……」
「俺たちの戦闘服でも、あんな戦い方出来るんだな」
警察組織の建物の前、盾を構えて立つ若者たちが、口々に感嘆の声を上げる。その時、今朝ラブを手伝ったあの少年が、仲間たちを見回して声を張り上げた。
「気を抜かないで! せつなさんに負けないように、俺たちは全力でみんなを守ろう!」
「おうっ!!」
途端にきりりと引き締まった顔になって、若者たちが声を揃える。
腕組みをして一部始終を眺めていたウエスターは、ちらりと彼らの方を振り返ってニヤリと笑った。そしてすぐに真剣な表情に戻ると、とぉっ! と一息でホホエミーナの肩の上に飛び乗る。
「せつな……頑張って!」
若い警官たちから少し離れた場所。消防用のホースを構える老人の隣で、ラブは見る見る小さくなっていく後ろ姿を見つめながら、胸の前でそっと両手を組み合わせた。
幸せは、赤き瞳の中に ( 第10話:炎の記憶(前編) )
灰色のコンクリートが剥き出しの、殺風景なビル。近付いてみると、そこは既にナケワメーケの攻撃で廃ビルとなった建物だった。
割れた窓ガラスが散乱する地面に立って、せつなが少女の居る屋上を見上げる。そして戦闘服の性能を試すように、その場で二度三度と軽く飛び跳ねてから、数歩後ろへ下がり、大きく息を吸った。
助走を付けた大ジャンプで一気に屋上まで跳び上がり、少女の前に降り立つ。右手はおろか、既に胸の辺りまで茨が巻き付いた状態の少女は、せつなを見るとフッと身体の力を抜き、わずかに腰を落として身構えた。
「今度は曲がりなりにも戦闘服を着て来たというわけね。しかし、元幹部ともあろう人が、警察組織のおさがりなんて……」
フン、と鼻で笑おうとしたところで、少女の口から小さな呻き声が漏れる。また少し茨が伸びて、少女の身体に絡み付いたのだ。
「あ……あなたの魂胆は分かっている。召喚者である私を倒して、ナキサケーベの動きを……止めようと言うんでしょう? そうは行かない!」
「確かにあの怪物を野放しには出来ない。でも、それはみんなが頑張ってくれているわ」
せつなが低い声で言葉を繋ぐ。
「私はあなたを止めるために来たの。あなたを……助けたい」
「冗談はよせ!」
少女がひときわ高い声で叫ぶ。それが合図だったかのように、二人は同時に空中高く跳び上がった。
233
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/02/18(土) 09:01:13
「はぁっ!」
少女の胸元を目がけて伸びる、せつなの右ストレート。続いて左フック。着地と同時に、今度は身を翻して左からの蹴り。
それらを少女は、全て身をよじっただけの動きでかわす。
「そんな攻撃、私にはお見通し。目を瞑ったって避けられ……」
「たぁっ!」
少女の言葉が終わらぬうちに、今度はせつなが少女の足元を狙う。バックステップでそれを避けてから、少女は今度こそ、フン、と鼻で笑った。
「一年半前と、呆れるほど変わらないのね、あなたの動き。いや、あの頃より今の方が、少し鈍っているかしら」
「一年半前って……」
「あなたが“ネクスト”だった時の最終戦よ。あの時の動きは全て、この目に焼き付いている。私はあれを超えることを目指して訓練を積んで来たの。だから……今日は実戦で試させてもらう!」
「……」
じっと少女を見つめていたせつなが、彼女の言葉を聞いて、苦し気に目を伏せる。が、すぐに顔を上げると、さっきより静かな眼差しを少女に向けた。
「あいにくだけど、私はあなたと勝負するつもりは無いわ」
「何っ?」
「言ったでしょう? 私はあなたを止めたいって!」
言うが早いか地を蹴ったせつなが、今度は低い角度で飛び出し、少女に肉薄した。その予想以上のスピードに、咄嗟に跳び退って攻撃をかわした瞬間、少女は愕然とする。
いつの間にか、逃げ場のない屋上の隅に追い詰められていた。こんなことになるまで気付かないなんて、普通ならあり得ない。
考える隙を与えない、ほんの数手の攻撃。まるでこちらの反応を読んでいたかのような、最短距離での誘導。その意図を全く読み取らせない、あまりにも自然な動き――。
少女が悔し気に顔をしかめ、次の瞬間、さっと身を翻す。眉間を狙って放たれる、鋭い突き。さっきの少女とそっくりな動きでそれを避けてから、せつなは茨が巻き付いた彼女の右手――涙を流すひとつ目のマークが浮かんだ右手の甲を、グイッと掴んだ。
「クッ!」
途端に小さな暗紫色の稲妻が走り、衝撃がせつなを襲う。それに耐えてさらにギュッと彼女の手を握りながら、せつなは目の前の赤い瞳を覗き込んだ。
「何をする……離せっ!」
「このままカードを使い続けたら、あなたのダメージは計り知れない。そのことは知っているの?」
「無論、覚悟の上だ」
「代償は容赦なく要求される。メビウス復活なんて言ってるけど、その前に下手をしたらあなたは……」
「うるさいっ。お前の知ったことか! ……うぅっ!」
少女が再び、今度ははっきりとした呻き声を上げた。
茨が一巻き、また一巻きと、彼女の胴に絡みつく。それと同時にナキサケーベが、自分を押さえつけているホホエミーナを跳ね飛ばそうと暴れ出す。
が、そこで急にナキサケーベの動きが弱まった。痛みに耐えかねたのか、少女の身体がずるずると床に崩れ落ちたのだ。
せつなは、自分の方が苦痛に耐えているような表情で、もう一度少女の手をギュッと握りしめた。
「腹立たしいのはよく分かる。だから、ごめんなさい。でも、あなたを助けるには、これしかないの」
呟くようにそう言ってから、その目をビルの階下に移す。
「ウエスター!」
せつなの鋭い一声に、大男は神妙な面持ちで、しっかりと頷いた。
ホホエミーナが懸命に押さえつけていた、怪物の手ごたえが弱まった。巨大な相棒の肩の上からそっと覗き込んだウエスターは、思わずほおっと息を吐く。
ナキサケーベの真ん中に貼り付いている、涙を流すひとつ目のマーク。それがいつの間にか、黒々とした靄のようなもので覆われているのだ。
「ウエスター!」
時を移さず、頭上から響くせつなの声。
(あいつが痛みに耐えられないと、燃料切れを起こすというわけか。よし、ならばここで、一気にケリを付ける!)
「今だ! ホホエミーナ、ヤツのひとつ目を撃ち抜け!」
「ホ……ホエミーナ!」
いつになく厳しいウエスターの指令に、ホホエミーナが少し戸惑ったような雄叫びを上げる。が、すぐさまその丸っこい腕を硬い棒状に変化させると、勢いよくナキサケーベのひとつ目に叩き付けた。
ゴン、と鈍い音が響く。だが、ひとつ目には何の変化もない。
今度は腕を錐状に変化させるホホエミーナ。だが、鋭い錐も硬い表面に弾かれて、やはりひとつ目には傷ひとつ付かない。
いつもと違う眉をキリリと上げた決死の表情で、何度も何度も攻撃を繰り返すホホエミーナ。それでも一向に埒が明かない様子に、ついにウエスターがしびれを切らした。
234
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/02/18(土) 09:01:45
「よし! 今度は俺がやる」
言葉と同時に、ホホエミーナの肩から急降下ダイブを試みる。固く握りしめた拳からナキサケーベに激突し、あのダイヤを打ち砕いた時のように、全ての力を拳に込める。
今度はナキサケーベの身体に変化が生まれる――だが、それは表面のわずかなくぼみだけだった。ひとつ目はのっぺりと怪物の身体の中央に貼り付いていて、ひびのひとつも入っていない。
(もしかしたら、この目はコイツのコアではないんじゃないのか?)
ウエスターの脳裏に、そんな疑問が浮かんだ。
彼はこのモンスターのことをよくは知らない。四つ葉町でたった数回、イースが戦っているところを、それもモニター越しに見ていただけだ。
だが知識はなくとも、拳は確かにそんな違和感を訴えている。
(ならば……ならばどうすればいい? どうすればコイツを倒せる?)
少女の呪縛を解くためには、このモンスターのコアを打ち砕くしかない。それなのに……。
脳味噌が沸騰するような焦燥感に、真っ白になるほど拳を握り締めた、その時。
「ウオォォォォォ!」
再び苦しそうな呻き声を上げたナキサケーベが、まるで子供でもあしらうように片手でホホエミーナを払いのけ、跳ね起きた。
さっきまでの弱々しさが嘘のような俊敏な動き。だが、その後の動きは明らかにおかしかった。苦しげにじたばたとその場でのたうち回りながら、無茶苦茶に砲弾を発射し始めたのだ。
咄嗟に空中高く飛び上がるウエスター。暴れ回る怪物に、強烈なかかと落としをお見舞いする。その一撃で、ナキサケーベの身体はコンクリートを割り、ずぶりと地面にめり込んで止まった。
だが一瞬の後、さすがのウエスターも唖然とする出来事が起こった。
さらに大きな呻き声が聞こえたかと思うと、巨大なひとつ目が鮮やかな赤に染まったのだ。瓦礫を盛大に跳ね飛ばして穴から抜け出た怪物が、再び狂ったように砲撃を始める。
「何だ……何が起きた!」
自分を庇うように跳んできたホホエミーナに捕まって、瓦礫の雨を逃れたウエスターが、いつになく慌てた声で叫ぶ。が、その直後、ナキサケーベのひとつ目の奥にあるものを見つけて、その瞳が戦士の鋭い光を発した。
せつなに右手を掴まれ、肩を押さえられた少女は、立ち上がろうと懸命にもがいていた。せつなもまた、何とか少女を押さえ込もうとしながら懸命に言葉を紡ぐ。
「あなたはノーザに、いいように利用されているだけよ」
「私とノーザさんには、同じ目的がある。だから、私が任務を果たすのは当然だ」
「そんなことをしても、あなたが欲しいものは手に入らないわ。かつての私がそうだったように」
「一緒にするな! 私が欲しいのは、メビウス様の復活だけだ!」
憎々しげに睨み付けてくる、自分によく似た赤い瞳。それを見ていると、何とも苦く虚しい感情が、せつなの胸に湧き上がった。
(こんなことをいくら言っても、この子は納得なんてしない。それは私が一番よく知っているじゃない。だったら、やっぱり力づくでしか……。)
せつなの視線が、ちらりと眼下の戦場の方へと流れる。その一瞬の隙をついて、少女はせつなの手を振り払い、立ち上がった。
「うっ……」
途端に茨が活動を再開し、彼女の左手の上腕部に絡みつく。ふらりとよろめきかけた少女は、膝頭を握りしめてそれを堪えると、階下に向かって震える声を絞り出した。
「そ……そんなヤツ、は……早く蹴散らせ! ノーザさんの……邪魔をする者を……うわぁぁぁっ!」
ついに少女が大きな悲鳴を上げる。何とか体勢を立て直したものの、両手を膝の上に置き、ハァハァと肩で息をし始めた。
時折、喉の奥でくぐもった叫び声を上げるものの、それ以上はなかなか言葉が出て来ない。目を見開き、歯を食いしばって、痛みに耐えるのが精一杯なのだろう。
「ウオォォォォォ!」
再びナキサケーベの呻き声が響いた。だがさっきまでとは違って、その声は途切れ途切れだ。
その代わりのように、砲弾が撃ち出される音がひっきりなしに響く。そして着弾の音も、一方向ではなく四方八方から聞こえてくる。
(ひょっとして、制御できなくなっているんじゃ……)
階下の様子に目をやって、せつなの表情が険しくなる。
ナキサケーベはホホエミーナを跳ね除けて、のたうつように暴れながら、砲弾を発射し続けていた。さっきせつなを襲った時のように狙いを定めているとはとても思えない、滅茶苦茶な撃ち方で。それを見るや否や、せつなはもう一度少女に駆け寄った。
235
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/02/18(土) 09:02:16
「もうやめて! これ以上は危険よ」
「邪魔を……するな」
「聞いて!」
せつなが少女の細い肩を掴んで、目を合わせる。
「こうなってはもう、コントロールは効かない。私もそうだったから知っているわ。だからお願い、これ以上は……」
「……じゃない」
必死で説得しようとするせつなに、少女がくぐもった声で何事かを呟いた。
「え……」
「同じ……じゃない。あな……たと……私はっ!」
切れ切れにそう叫んだ少女が、懸命に身体をよじってせつなの手を外す。そして苦しそうに息をしながら、鋭い目でせつなを睨み付けた。
「私は……幹部だったあなたとは……違う。まだ……メビウス様からのご命令を……一度も頂いていない。まだメビウス様に……一度も……お会いしていない」
少女の額から汗が滴り落ちて、ぽたぽたと地面を濡らす。
「これから……だった。全ては……これから。だから……たとえほんの一瞬でも、それを取り戻すと……決めたのだ!」
言葉と同時に、少女が右手の拳をギュッと固く握り込む。五本の指の根元に食い込んだ細い茨が、さらに掌にも食い込んで、ポタリ、と鮮血がしたたり落ちた。
「今の私が……捧げられるのは、この……痛みだけ。ならば……捧げられる限り、捧げ尽す!」
驚くせつなに薄っすらと笑って見せてから、少女が両腕を前に突き出す。そしてあろうことか茨に巻き取られた右腕に、左腕のまだ無傷の部分を、ギュッと押しつけた。
「うっ……」
少女の口から、もう何度目かの呻き声が漏れる。左手を覆う黒い長手袋が、茨の棘であっという間にズタズタになる。
「何をするのっ!」
慌てて止めようとしたせつなが、さっきまでとは比べ物にならない力で突き飛ばされる。少女はガクガクと身体を震わせながら、なおも両腕を硬く結び合わせ、まるでナキサケーベのような咆哮を上げた。
「うわぁぁぁぁぁ〜!」
すぐさま起き上がったせつなが、少女を見て驚きに目を見開く。
叫び声を上げる少女の身体から、何かが立ち昇っている。赤黒い靄のようにも、気のようにも見えるもの。それが濃くなるにつれて、彼女を拘束している茨もまた、血のような赤に染まっていく。
新たな傷を追いかけるように、赤い茨が彼女の左腕を覆う。そして茨は少女の身体に巻き付いたまま、次第に炎のような、赤い光を放ち始めた。
「やめて! もうやめて! そんなことをしたら、本当にあなたは……」
「メビウス様のためなら……どうなろうが……構わない……」
まるで炎に包まれたように見える少女に向かって、せつなが震える声で叫ぶ。
切れ切れに言葉を返した少女の目から、汗とも涙ともつかないものがポタリと落ちて――声にならない言葉が、その唇から紡がれた。
――たとえ……この命が尽きても……!
せつなの瞳が大きく見開かれ、少女を包み込んだ赤黒い炎を映す。
あの時の――最後にナキサケーベを召喚した時の、ドームを吹き荒ぶ風の音が聞こえた気がした。
自分を心配してくれたラブの優しさから頑なに目を背けて、任務のことだけを考えようとしていた、あの時の自分。
ボロボロになったドームも、逃げ惑う人々も目に入らず、ただがむしゃらに痛みに耐え、「プリキュアを倒せ」と叫び続けていた、あの時の自分。
あの時自分を突き動かしていたものもまた、胸の奥に暗く燃え盛る、赤黒い炎ではなかったか?
今、自分の心の奥を見つめるのが怖いのは、まだ胸の奥に、あの時の炎がくすぶっているかもしれないと、恐れているのではないのか?
(同じじゃない……ですって? いいえ、あなたには……あなたの中には、私と同じ炎がある)
せつなの瞳が、哀しみに揺れる。その目の前で、まるでスローモーションのように、少女がゆっくりと崩れ落ちる。
せつなは彼女を受け止めると、黙ってその身体を抱き締めた。
赤黒い靄が、少女と一緒にせつなの身体を包む。
赤い茨の鋭い棘が、少女と一緒にせつなの身体を傷付ける。
それでも決してその身体を離すまいとするように、せつなは少女を、固く固く抱き締める。
やがて、赤黒い炎が大きく燃え盛って、二人の身体を包み込んだ時――。
「国民番号ES-4039781。前へ出なさい」
不意に、かつて聞き慣れた無機質な声が聞こえて来て、せつなは驚いて顔を上げた。
〜終〜
236
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/02/18(土) 09:03:41
以上です。どうもありがとうございました!
次話の更新は競作後に。
これからは私も競作、頑張ります。
237
:
名無しさん
:2017/02/18(土) 16:20:34
>>235
またまた凄い展開にくぎ付け…とても面白かったです!
続きが気になります!
239
:
運営
:2017/03/06(月) 22:26:27
こんばんは、運営です。
Mitchell & Carroll様、いつも楽しい作品をありがとうございます!
現行作品含むコラボでしたので、現行スレに移させて頂きました。ご了承ください。
240
:
Mitchell & Carroll
:2017/03/09(木) 22:15:25
まほプリ。2レスお借りします。
『利きハチミツ』
みらい「第一回 魔法つかいプリキュア チクチク この一口に魔法じゃなく命をかけろ!利きハチミツ〜♡」
リコ「挑戦者のチクルン選手、意気込みをどうぞ」
チクルン「おいらはハチミツに関わる仕事をしてるんだぜ?ナメてもらっちゃ困るな!」
ことは「もし失敗したら、罰ゲームだからね!」
みらい「じゃあモフルン、今回用意したハチミツを発表して!」
モフルン「モフ〜!」
・スウィート○ドウ マヌカハニー
・○治屋 ローヤルゼリー添加はちみつ
・生活の○ マヌカハニー UMF15+
・サ○ラ印 純粋ハチミツ
・サ○ラ印 カナダ産 純粋ハチミツ
・サ○ラ印 ハンガリー産 純粋アカシアはちみつ
・サ○ラ印 レンゲのハチミツ
・サ○ラ印 ニュージーランド産 純粋クローバーはちみつ
・サ○ラ印 アルゼンチン産 純粋はちみつ
・サ○ラ印 黒みつ
モフルン「以上モフ〜!」
チクルン「おい、ふざけんな!何だよ最後の!!」
みらい「では早速、チクルンには目隠しをしてもらいます」
リコ「じゃあ……コレにしましょう(サ○ラ印 ニュージーランド産 純粋クローバーはちみつ)」
ことは「チクルン、あ〜んして」
チクルン「あ〜ん(ペロペロ……)」
モフルン「目隠し、外すモフ〜」
みらい「じゃあ、今舐めたものをこの10種類の中から当ててみて!」
チクルン「まずはこれからいってみっか。個人的に興味あるんだよな。“スウィート○ドウ マヌカハニー”。(ペロペロ……)美味ぇ〜!!濃厚でなめらかで、クリーミーだぜぇ〜い!やさしくなれる味ってやつだな」
リコ「さすが、コメントも一流ね」
チクルン「でも、さっき舐めたのとは違うな。おいらが舐めたのは“スウィート○ドウ マヌカハニー”ではございません!(空容器を捨てています)」
ことは「ピンポーン☆」
チクルン「上々の滑り出しだぜ」
241
:
Mitchell & Carroll
:2017/03/09(木) 22:23:10
ことは「(そわそわ……チラチラ……)」
チクルン「……チッ、わかったよ。おいらも人が好すぎるぜ。“黒みつ”いってみっか」
みらい「え〜、それはないんじゃない?」
リコ「ハチミツじゃないし、ねぇ?」
チクルン「お前らが用意したんだろが!!」
モフルン「もしこれで外したら、罰ゲーム100倍モフ」
チクルン「ケッ、冗談じゃねぇぜ!(ペロペロ)美味いけど違うな。だってこれハチミツじゃねぇもの。色もちげーしよ。おいらが舐めたのは“黒みつ”ではございません!」
ことは「……ピンポンピンポ〜ン☆」
チクルン「溜める意味がわかんねぇぜ。よし、次はコレだ。“サ○ラ印 ニュージーランド産 純粋クローバーはちみつ”。(ペロペロ)……違うな。もっとサラッとしてたんだ。おいらが舐めたのは“サ○ラ印 ニュージーランド産 純粋クローバーはちみつ”ではございません!!」
ことは「ブーーー!!(ダダ〜ン♪)」
チクルン「うそだろぉ!!?」
みらい「あっはははは!!」
リコ「(声にならない笑い)」
モフルン「残念だったモフ〜!」
巨大な殺虫剤の容器を持ったベニーギョ「涎掛けでもかけてな(炭酸ガス噴射)!!」
チクルン「うわぷっ!!!?」
みらい「正解してたら、豪華な商品が貰えたのにね〜」
チクルン「……何だよ、豪華な賞品って?」
リコ「“映画の主役になれる”ってヤツよ!」
チクルン「ホントかよ!?」
モフルン「ちなみにモフルンは以前挑戦して、見事正解したモフ」
チクルン「そういうことだったのかー!!」
ベニーギョ「あ、あのさ、コレあたしにやらせ――」
みらりこことモフ「「「「それじゃあみんな、また来週〜☆」」」」
おしまい
242
:
名無しさん
:2017/03/09(木) 23:51:23
>>241
ベニーギョさん、主役やりたかったんかい!
243
:
名無しさん
:2017/03/10(金) 22:18:35
プリキュアまちがいさがし
つぎのなかでまちがいはどれ?
①ポルン②ペコリン③リボン④モフルン⑤コロン⑥ウルフルン⑦ルルン
244
:
名無しさん
:2017/03/10(金) 23:18:15
>>243
普通に考えたら・・・だけどw
まちがいって、ひとつ?
245
:
Mitchell & Carroll
:2017/03/19(日) 21:37:15
Goプリより。バッドエンドです。
『ストップ、はじめてのおつかい』
〜絶望の森・イバラの城〜
クローズ「――というわけで、フリーズはちょっと急用だ。だから今回はお前だけで行くんだ、ストップ」
ストップ「やってみる」
クローズ「いいか?夢を持っている奴の所に行って、その夢を檻に閉じ込めてくるんだ。できるな?」
ストップ「やってみる!」
クローズ「よし、いい子だ。じゃあ行ってらっしゃい」
〜ノーブル学園〜
はるか「う〜ん、今日はいい天気だね〜♡」
みなみ「いつ連中が襲って来るか分からないわ。気を抜いたら駄目よ」
きらら「こんないい日に敵とか、マジ勘弁!」
トワ「あら?あすこに見えますのは……」
ストップ「………」
みなみ「あれは……敵だわ!」
きらら「どうする?やっつけちゃう?」
ゆい「でも、まだ何も悪いことしてないし……」
パフ「それに、いつも二人一緒なのに、今日は一人パフ〜」
アロマ「とりあえず、話しかけてみるロマ」
トワ「もし、何か御用ですか?」
ストップ「えーと……」
246
:
Mitchell & Carroll
:2017/03/19(日) 21:38:00
5人+2匹「「(じーーっ)」」
ストップ「………(脱走!)」
トワ「あら、帰ってしまいましたわ」
きらら「変なの」
〜再び絶望の森・イバラの城〜〜
クローズ「“夢”を、な?“夢”!持ってる奴を見つけろ。そしてそれを檻に閉じ込める!」
ストップ「夢!持ってる奴!檻に閉じ込める!!」
クローズ「そうだ!」
〜再びノーブル学園〜
はるか「あ、また来たよぉ!」
きらら「あたし、前から思ってたんだけどさぁ、この耳、可愛くない?」
ストップ「(両耳ぷるんっ)」
5人「「「「「キャーーッ♡♡♡♡♡」」」」」
はるか「(手で押し倒して反動でぷるんっ)気持ちい〜い!楽しーい!!」
きらら「(ぷるんっ)マジヤバイ!休み時間中とかずーっとしてたい!」
トワ「お二人ともズルいですわ!わたくしにもさせて下さい!」
ゆい「わ、私も、いいかな……」
ストップ「(両耳ぷるんぷるんぷるんぷるん)う、うぅ……(脱走!)」
はるか「あっ、帰っちゃった……」
きらら「はるはる、ぷるんぷるんし過ぎ!」
はるか「えーっ!?きららちゃんだっていっぱいぷるんぷるんしてたじゃない!」
トワ「わたくしだって、もっとぷるんぷるんしたかったですわ!それなのに、はるかときたら……」
みなみ「あなた達、先輩を差し置いてぷるんぷ――」
〜イバラの城〜
クローズ「いいか!?どんなチッコイ夢でもいいんだ!それを見つけて、檻に閉じ込めてくる!!」
ストップ「どんなチッコイ夢でも!!」
〜ノーブル学園〜
みなみ「――あら、またいらしたわ。さっきはごめんなさいね」
247
:
Mitchell & Carroll
:2017/03/19(日) 21:38:50
はるか「ねえねえ、ドーナツ、好き?」
ストップ「好き」
きらら「ドーナツ屋さんからサービスでいっぱい貰っちゃってさ〜。よかったら、一緒に食べない?」
ストップ「食べる」
トワ「そうと決まればパフ、お茶の支度を」
パフ「まかせてパフ〜!」
一同「「(キャッキャッ、ウフフ……)」」
〜イバラの城〜
ストップ「これ、おみやげ」
クローズ「夢を閉じ込めてこいっつってんだよ!!ドーナツもらってこいとは一言も言ってねぇーんだよ!!」
ストップ「じゃあ、返してくる」
クローズ「待て。せっかくよこした物なんだから、有難く頂戴するのが礼儀ってモンだ。押し返しちまったら、相手側だって悲しむだろう?これは俺が預っててやるから、もう一度行って来い」
〜ノーブル学園〜
ストップ「ドーナツは有難く頂戴した、と言っていた」
みなみ「喜んでもらえたみたいね」
トワ「また皆でお茶会しましょうね」
きらら「今度ははるはる、ぷるんぷるんし過ぎちゃダメだかんね〜?」
はるか「え〜?えへへ、えへへへ……」
ゆい「うふふふ……」
〜イバラの城〜
ストップ「………」
クローズ「……ハァ〜ッ」
ストップ「お前の夢、見せてみろ!」
〈〈〈クローズの夢〉〉〉
クローズ「よくやった、ストップ!さあ、一緒にドーナツを食おうじゃねぇか!」
ストップ「絶望の檻に閉じ込める!ストップ・ユア・ドリーム!!行け、ゼツボーグ!!!」
クローズゼツボーグ「ゼツボォォーーグ!!!!」
T H E ・ E N D
248
:
名無しさん
:2017/03/20(月) 18:38:21
>>247
クローズ、本望だなw
249
:
名無しさん
:2017/03/22(水) 00:08:15
このサイトについて男女間の恋愛を描いた作品はNGとありますが
名もない男たちがプリキュアをレイプする描写のあるSSもやっぱ
りだめですか?
250
:
運営
:2017/03/22(水) 20:47:48
>>249
こんばんは、運営です。その場合は当掲示板の保管庫テンプレートのQ&Aの3に該当するのでNGとなります。
当サイトはプリキュアシリーズのファン活動の一貫であり、「応援」の精神から著しく外れた作品は受けないことになっています。
掲示板での質問は議論になりやすいので、他にもご質問がありましたら、メールにてお答えいたします。
書き込みありがとうございました。
251
:
名無しさん
:2017/03/24(金) 22:38:42
「5GoGo」のイソーギンとヤドカーンのモデル、ジョン・レノンとポール・マッカートニーだったんスね……
252
:
名無しさん
:2017/03/25(土) 22:12:31
ストップって女の子ですよね?
253
:
名無しさん
:2017/03/26(日) 08:12:03
>>252
え、そうなの?
っていうか、性別あったんだ……。
254
:
Mitchell & Carroll
:2017/03/26(日) 21:01:38
『プリ相撲〜ノーブル場所〜』
きらら「――さて、残った一個のドーナツ、どうする?」
みなみ「7等分するというのはどうかしら?」
トワ「キレイに7等分出来ますでしょうか……?」
パフ「パフはもうお腹いっぱいだから遠慮するパフ〜」
アロマ「アロマも、もう十分堪能したロマ」
ゆい「5等分も難しいよね……」
はるか「よし、相撲取ろう!!」
others「「えっっ!!?」」
ゆい「土俵が無いよ、はるかちゃん」
はるか「それなら大丈夫!ほら、こうやって電源コードを輪っかにして……と」
トワ「わたくし、お相撲など取った事もありませんし、ルールもよく分かりませんから……」
みなみ「私も、どちらかというと観る方が好きだわ」
ゆい「私は、眼鏡が割れたら大変だから……」
きらら「ということは……」
パフ「に〜し〜、きらら山パフ〜。ひが〜し〜、はるか風パフ〜」
きらら「負けないかんね、はるはる!」
はるか「手加減ナシだよ、きららちゃん!」
アロマ(行司)「はっけよい、のこったロマ!!」
はるか「だぁっ!!」
きらら「やぁっ!!」
トワ「頑張って下さい、二人共!」
パフ「両者とも、必死な押し合いパフ〜!」
みなみ「きららは足が長いのがたたって“腰高”だわ。重芯が低い分、はるかの方に分が有るわね」
255
:
Mitchell & Carroll
:2017/03/26(日) 21:02:59
はるか「むむむむ!!」
パフ「はるかが土俵際まで追い詰めたパフ〜!」
きらら「ふんっぬっ!!」
パフ「持ち堪えたパフ〜!」
みなみ「さすがだわ。モデルとして日々、足腰の鍛錬を怠っていない証拠ね」
トワ「(ハラハラ……ドキドキ……)」
きらら「だぁっ!!」
パフ「今度はきららが攻めるパフ〜!」
はるか「(負けたくない!負けたくないよ!!)でやぁぁぁ!!」
パフ「う、“うっちゃり”パフ〜!!」
ゆい「キャッ!?」
パフ「ゆいにぶつかってしまったパフ!」
トワ「こ、この場合はどうなりますの……!?」
アロマ「唯今の一番、取り直しロマ〜!」
ゆい「眼鏡、眼鏡……あった」
パフ「それは眼鏡じゃなくて、はるかの足パフ〜」
はるか「キャッ!?」
みなみ「こ、“小股すくい”!?」
ゆい「眼鏡……あ、これかな?」
アロマ「それはきららのスカートパフ〜」
ゆい「えっ?ごめんなさ……うわっとっとっと!」
きらら「あたっ!」
みなみ「“三所攻め”だわ!!」
トワ「………」
アロマ「……ゆいの花の勝ちロマ〜!」
ゆい「(ようやく眼鏡装着)……え?私が勝ったの……?」
みなみ「さあ、ドーナツを受け取って、ゆいの花」
ゆい「う、うん……」
みなみ「まあ、なんて綺麗な手刀の切り方なの。豊○将を彷彿とさせるわ」
トワ「おめでとうございます、ゆいの花!」
〜終〜
256
:
名無しさん
:2017/03/26(日) 22:58:36
>>255
みなみん、相撲にも詳しいのねwww
まさかの勝負の結末が楽しかったです♪
257
:
運営
:2017/04/14(金) 19:42:36
こんばんは、運営です。
ご連絡が遅くなりましたが、競作スレは過去スレに移しました。
たくさんの投下と書き込み、本当にありがとうございました!!
258
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/04/16(日) 10:54:54
おはようございます。
競作に投稿しようと思ってて全然間に合わなかった(涙)まほプリ最終回記念SSを投下させて頂きます。
三部構成の第一章です。二章、三章もなるべく早いうちに。季節外れはご容赦下さい。
5レスほどお借りいたします。
259
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/04/16(日) 10:55:48
あれは中学三年生の、二学期になって少し経った頃のことだったっけ。
ほら、あの年の初めに、世界中が巻き込まれたっていう大変な一日があったでしょう?
辺りが急に真っ暗になって、何だか得体のしれない、とても怖い感じがして、そして……その後のことはよく覚えていないし、どれくらい時間が経ったのかもよく分からないんだけど、何かがパァッと弾けたような気がしたと思ったら、いつもの明るさが戻っていて。
風もないのに辺り一面に花びらが舞っていて、その向こうには大きな虹がかかってて……。まるで夢の中にいるみたいな綺麗な景色だったけど、何だか悲しくて、切なくて、気が付いたら涙が流れてたの。
全てが元通りになったわけじゃない。何か大切なものがなくなって、何かがまるっきり前とは違ってしまったって、そう感じてたんだよね。現にあの日以来、リコちゃんとことはちゃんとは、離れ離れになっちゃったんだもの。
でも最初はね、リコちゃんたちのこと以外、具体的なことには何も気付いていなかったの。夏休みが終わった頃からかな、ほかにも居なくなった人たちがいるのかもって思い始めたのは。
かなが――時々はわたしも一緒に目撃してた、箒に乗った魔法つかいとか。学校に居るって噂になった、幸せを呼ぶ妖精とか。それに、クリスマスにいつもプレゼントを届けてくれたサンタさんも、居なくなった人たちの中に入ってるんじゃないかって、何となくそんな気がした。
わたしたちの生活に、直接は関係ないかもしれない。居なくなったものは仕方ないって、諦めるしかないのかもしれない。
でもね。かなじゃないけど、わたしは確かにその人たちを見たし、出会ったんだよね。
サンタさんには会っていないけど、子供の頃にサンタさんを待ってドキドキしたり、プレゼントを貰ってとっても嬉しかったりした気持ちは、わたしの中にちゃんとある。そう思ったら、子供たちがプレゼントを貰えなくなって、サンタさんもだんだん忘れられてしまうのが――クリスマスが、わたしたちの知ってるクリスマスじゃなくなってしまうのが、何だか凄く悲しくて。
何がきっかけだったか忘れたけど、みらいと一度、そんな話をしたことがあったんだ。
その頃のみらいは、普段は前と同じように明るくて、いつも笑顔で……。だからついそんな話をしちゃったんだけど、話し始めてから正直わたし、しまった、って思ったの。
最初は笑顔で頷きながら話をしていたみらいが、だんだん口数が少なくなって、口元は笑っているんだけど、何かを我慢しているみたいにうつむいて……。それに気付いてから、急いで話題を変えて、もうこの話をするのはやめようって思った。
だけどね。それから数日経ったある朝、みらいが……。
サンタとサンタのクリスマス( 陽の章 )
「まゆみ! 見て見て、これ!」
教室に入るや否や、みらいは鞄も置かずに長瀬まゆみの席に突進した。そのあまりの勢いに、当のまゆみが驚いたように顔を上げる。
三年生の教室は、三階の東向きにある。窓から差し込んでいるのは、まだ夏の名残りを感じさせるような朝日にしては強い日差し。だから窓際に立ったみらいの顔は陰になっているはずなのに、何だか最近には珍しいくらい明るく輝いているように、まゆみの目には映った。
「何? どうしたの? みらい」
「ほら、これ。ここ、ここ!」
みらいが大事そうに胸に抱えて来た物を、まゆみの机の上に広げる。
それは、昨日発売されたばかりの旅行雑誌。まゆみは知らないことだが、みらいは最近、世界の様々な国について書かれている本や雑誌をよく読むようになっていた。
「何これ……“フィンランド特集”? きれいな景色ね。で、これがどうかしたの?」
みらいが指さす写真を眺めたまゆみが、ますます不思議そうに首を傾げる。だが、写真の下の解説を読んだ途端、彼女の表情が変わった。
「え? ……サンタクロース村?」
「サンタクロース!?」
突然、第三の声が響いて、今度はみらいとまゆみが驚いて顔を上げる。
いつの間にかみらいの向かい側に立って、至近距離から雑誌を覗き込んでいたのは、勝木かな。まゆみの親友で、去年の今頃は躍起になって魔法使いを探し回っていた少女だ。
「朝日奈さん! サンタクロースが居るって、この雑誌に書いてあったの? どこに居るの? もしかして、写真が載ってるとか!?」
「ちょ、ちょっと、かな!」
今にも食いつかんばかりの勢いで雑誌をめくろうとするかなを、まゆみが慌てて止める。
260
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/04/16(日) 10:57:28
まゆみとかなは、二年生に引き続きみらいと同じクラスだが、こんな場面は久しぶりだ。ようやく我に返ったかなと、安心したように息をつくまゆみ。それを見ながら、みらいの顔に一瞬だけ、寂しそうな影が浮かぶ。が、すぐに元の笑顔に戻ると、彼女は改めて“フィンランド特集”と書かれたページの小さな写真の下を指差した。
「サンタさんは写っていないけど、ほら、ここ見て。フィンランドには今も“サンタクロース村”っていう村があるんだよ! と、言うことは……」
――ナシマホウ界にも、有名なサンタがフィンランドにいる。
昨年のクリスマスに、あの世界で聞いた声が蘇る。が、その言葉を口には出さず、みらいは二人の顔を交互に見ながら言葉を続けた。
「もしかしたらサンタさんだって、一人くらいはまだこっちに居るのかもしれない。だからわたし、手紙を書いてみようと思って」
「え? “こっちに居る”ってどういうこと? それに、一人くらいは、って……」
「え……サンタさんに手紙を書いて、それでどうするつもりなの? みらい」
かなのいぶかし気な声と、まゆみの不思議そうな声がうまい具合に重なった。それに内心ホッとしながら、みらいがもう一度二人の顔を見回す。
「もしかしたらサンタさん、一人じゃ世界中の子供たちにプレゼントが配り切れなくて、困っているのかもしれないでしょう? だから、わたしたちがサンタさんのお手伝いをして、プレゼントを配りたいです、って」
「え〜! わたしたちが、サンタさん!?」
「素敵!」
戸惑った声を上げるまゆみの隣で、かなが両手の拳を握って力強く叫ぶ。それを見て嬉しそうに微笑んだみらいは、しかしすぐ、ちょっと困ったような顔で下を向いた。そしてそれを誤魔化すように、今度はエヘヘ……と頭をかいてみせる。
「あ、でも……もしもサンタさんが居なかったら、その時は……」
が、その言葉を言い終わらないうちに、みらいは目を丸くした。かながみらいの手を、パシン、と音がするほどの勢いで握ったのだ。
「そんなこと、手紙を書く前から考えちゃダメよ! まずはサンタさんが居るって信じることが大事なんだから」
「勝木さん……」
かなは少し不安そうな顔で、中空を見つめながら言葉を繋ぐ。
「今はみんな、サンタさんが居るって信じてる。でも、もし今年のクリスマスにサンタさんが来られなかったら? このままずっと、サンタさんが来ないクリスマスが続いたら? そうしたら、いつか全ての子供たちが、サンタさんなんか信じなくなるかもしれない」
そう言って、かなはみらいの顔を見つめ、子供の様に激しくかぶりを振った。
「わたしはそんなの嫌! これからも、子供たちがサンタさんにプレゼントを貰って、みんなが笑顔になれるクリスマスを過ごしたいもの。朝日奈さんだってそう思ったから、手紙を書こうとしているんでしょう?」
ポカンとしてかなを見つめていたみらいの目が、もう一度強い光を帯びる。うん、としっかりと頷いてから、みらいはかなの手をギュッと握り返した。
二人の様子を黙って見ていたまゆみがニコリと笑って、握られた二人の手に自分の手を重ねる。
「そうだね。わたしだって、ずっと今まで見たいなクリスマスが続いて欲しい。だから今年はみんなで一緒に、サンタさんやろう!」
三人が、うん、と頷き合ったところで、まゆみがまた少し不思議そうな顔をして、極めて現実的な疑問を口にした。
「ところで、フィンランドって何語なんだっけ。相手がサンタさんだから、日本語でも大丈夫なの?」
「サンタクロース村の人が、全員サンタさんかどうか分からないし……。英語を話せる人が多い国だ、ってこの雑誌に書いてあったから、頑張って英語で書いてみるよ」
「え……英語!?」
今度は台詞と、少々腰が引けた口調までもがぴたりと重なった二人の声に、みらいが明るく、うん、と頷く。そしてもう一度雑誌に目を落とすと、自分に言い聞かせるようにこう付け足した。
「上手く書けるか自信無いけど、何か出来ることがあるなら、わたしも頑張りたいもん」
かなとまゆみは一瞬顔を見合わせてから、柔らかな笑顔をみらいへと向けた。
☆
261
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/04/16(日) 10:58:12
私服に着替え、勉強机のスタンドを点けると、母と祖母の話し声が小さく聞こえた。二人とも、きっと店に居るのだろう。
みらいは口元だけで小さく微笑むと、鞄の中からあの雑誌と筆箱を取り出した。
「聞いてたよね? 勝木さんとまゆみが、一緒にサンタさんやってくれるって」
そう言いながら雑誌をめくって、くっきりと折り目のついたそのページをもう一度眺める。
「この記事を見つけた時も嬉しかったけど、やっぱり応援してくれる人が居るって、心強いね」
雑誌を閉じて机の端に寄せ、今度は英語の辞書を手に取る。その時ふっと、頬が緩んだ。
「英語で書くなんて言ったら、なんでわざわざ? って言われるかな。でもね」
ノートを取り出して机に広げ、その真っ白なページを、じっと見つめる。
「手紙を書こうって思いついた時、嬉しかったんだ。何より、わたしも一緒に頑張れるんだ、って思ったから。だってきっと、今頃……」
そこで初めて、みらいは机の隅に座っているぬいぐるみのモフルンに目を向けた。
「強い想いを込めて願えば、奇跡は起こる。そう信じてるけど……わたしだって、何かしたい。こんなことをしても何の足しにもならないかもしれないけど、でも……頑張りたいんだ」
みらいの表情が、ぐにゃりと歪んだ。もう動くことも喋ることもないモフルンは、そんなみらいを愛くるしい表情で見つめている。
乱暴に涙を拭いたみらいは、そのつぶらな瞳に小さく笑いかけてから、よし、と気合いを入れて鉛筆を握り締めた。
「見ててね、モフルン」
そしてみらいは、時折うんうんと唸りながら、辞書を引き引き、ノートに英文を書き始めた。
それから一週間が過ぎた頃、みらいはようやく手紙を書き上げた。そして、かなとまゆみが調べて来てくれたサンタクロース村の住所に当てて、三人で祈りを込めて、その手紙を投函したのだった。
☆
秋風と呼ぶには冷たい風が、クルクルと落ち葉を舞い上げる。通路の並木はすっかり色づいて美しい。が、その下を歩くまゆみとかなの表情は冴えなかった。
やがて耐えられなくなったように、かなが口を開く。
「とうとう十一月になっちゃったね」
「うん……」
「朝日奈さん、もう一度手紙を送るつもりなのかなぁ」
「さぁ……」
力の無い相槌に、かなが上目遣いにまゆみの顔を見てから、すぐに目をそらして長いため息をつく。
二人の心を占めているのは、未だに返事の来ない、サンタクロースの手紙のこと。あの最初の手紙を出してから一カ月以上が過ぎて、気付けばクリスマスまでもう二カ月弱だ。
最初の、というのは、あの手紙に続いてみらいは、二通目、三通目の手紙をサンタクロース村に送っていたからだった。
もしかしたら郵便事故か何かで届いていないのかもしれない、と心配したみらいは、一度は母の今日子に、フィンランドに行きたいと頼み込んだ。だが、中学生のみらいにとってフィンランドは遠く、学校を休んで海外に行くというのは、さすがに母の許しは得られなかった。
そこでみらいは仕方なく、しばらくしてから二通目の手紙を送った。さらにしばらくして三通目の手紙を送った頃には、街はハロウィンムード一色になっていた。
ハロウィンが終わると同時に、世間は一斉にクリスマスの準備へと向かい始めた。
ツリーもイルミネーションも、ケーキもご馳走のチキンも、いつもと同じ。だけど子供たちにとって一番肝心なことには、解決がついていない。このままでは、今年のクリスマスはどうなってしまうのか。
「あーあ、ここに……」
「こんなときに……」
かなとまゆみが同時に何かを言いかけて、揃って口をつぐむ。
頭に浮かんだのは同じ人物――人差し指をピンと立てて、得意げに微笑む少女の顔だ。だがその名前はどちらも口に出さずにまた黙って歩き始めた時、後ろから、おーい、と呼ぶ声が聞こえて、二人は、今度は一緒に勢いよく後ろを振り返った。
「来た! 来たよぉぉぉ!」
上ずった声でそう叫びながら、みらいが走って来る。そして二人に駆け寄ると泣き笑いのような顔で、手に持っている封筒を差し出した。
「本当に、来たんだ……」
「なんて書いてあるの!?」
かなの言葉で、みらいが封筒の中から大切そうに薄い便箋と、切り取られたノートのページを取り出す。
便箋には力強い筆致の英文が書かれていて、行間には薄い鉛筆で、みらいの字で単語の意味が小さく書き込まれていた。食い入るようにそれを見つめる二人の隣で、みらいがノートの方を開いて読み始める。
262
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/04/16(日) 10:58:56
「何度も手紙を送ってくれてありがとう。あなたからの全ての手紙を、とても嬉しく読みました。そして、返事が遅くなって本当にごめんなさい。実は、クリスマスにわたしを手伝いたいと言ってくれる人たちが……たくさんの人たちが、居ます。私は彼らからの手紙をたくさん受け取っていて、そのため返事が遅くなりました……」
「うわぁ、他にもみらいみたいに手紙を出した人が、たくさん居たんだ!」
「それで、続きは?」
弾んだ声を上げるまゆみに頷いてから、かながそわそわと先を促す。
「あなたの強い想いは、私に大きな力を与えてくれました。サンタクロースが居るクリスマスを守りたいと言ってくれて嬉しかった。だから私も勇気と共に、行動しようと思います。近いうちに、私の想いを世界中の人たちに伝える予定です。ですから是非あなたに、私の手助けをしてほしい」
そこまで読みあげてから、みらいは笑顔で二人の顔を見回すと、少し声を震わせながら、最後の言葉を口にした。
「感謝を込めて。サンタクロース」
「やった……やった、やったぁ! みらい、凄すぎ!」
「やっぱり信じて良かったね……朝日奈さん!」
みらいに抱き着いて飛び跳ねるまゆみと、その隣で目を潤ませるかな。そんな二人の手をギュッと握りしめ、みらいは感極まった声で言った。
「本当に、二人のお蔭だよ。ありがとう! まゆみ……かな!」
かなの目が大きく見開かれ、その頬がうっすらと赤く染まる。
「朝日奈さん……ううん、みらい! わたしの方こそ、ありがとう!」
「良かったね、みらい、かな」
通学する他の生徒たちが不思議そうに通り過ぎる中、三人はしばらく手を取り合って、幸せの余韻を噛みしめていた。
嬉しいニュースはさらに大きくはっきりとした形で、数日の後にやって来た。
突然、全世界のテレビでニュース特番が組まれ、本物のサンタクロースが生番組でメッセージを発信したのだ。
「以前は私の他にもたくさんのサンタが居たが、今は遠くに離れてしまった。でも世界中の多くの人たちから、サンタクロースを失いたくないという、あたたかな声を頂いた。だから私も皆さんと一緒に、自分が出来ることを全力でやって、子供たちに笑顔を届けたい。あなたも仲間になってくれないだろうか。あなたの町のサンタクロースとして、子供たちに笑顔を届けてくれないだろうか」
サンタクロースのメッセージは、あらゆる国で大きなニュースになった。そして、あれよあれよと言う間に世界各地にサンタクロースの事務局ができて、フィンランドのサンタクロース村には、膨大な量の手紙やメールが送られた。
それらをどうやって捌いているのかは誰にも分からなかったが、見る見るうちにサンタクロースのネットワークが世界を繋ぎ、子供たちからサンタクロースに送られた手紙の中身が、各国の事務局へと送られていった。
こうしてクリスマスには、トナカイの橇ならぬ自動車や自転車、場所によってはスノーモービルや水上バイクに乗ったサンタたちが、これだけは以前と変わらず鈴の音を響かせて、子供たちの元へと向かったのだ。
そして津奈木町にも、サンタになりたいと願う人たちの事務局が、津奈木第一中学校に設立された。代表になったのは、みらいたちに頼まれて二つ返事で引き受けてくれた、数学の高木先生だ。
老若男女たくさんのサンタたちに混じって、みらい、かな、まゆみ、それに大野壮太や並木ゆうとたちがサンタの衣装に身を包み、子供たちの居る家々を回った。
「サンタクロースって、大変だけどこんなに楽しいんだね」
ゆうとが曇った眼鏡を拭きながら楽しそうに笑う隣で、壮太はサッカーで鍛えた足腰を生かして、大きな白い袋を軽々と運ぶ。
まゆみはサンタの口真似をするたびに耳まで真っ赤になり、反対にかなはノリノリで、ホッホッホォ〜、と腰に手を当てて笑った。
そしてプレゼントを配った翌朝、みらいはサンタになったみんなを誘って、公園へと足を向けた。
「みて〜。サンタさんにもらったの」
「あたしも〜」
幼い二人の女の子が、嬉しそうにプレゼントに貰った人形を見せ合っている。男の子たちも、サンタに貰ったらしい飛行機やロボットのおもちゃで、元気に遊び回っている。
子供たちのそんな様子を見ながら、顔を見合わせて笑顔になる仲間たちの姿を、みらいも笑顔で眺めてから、そっと遠い空を見つめた。
中学校を卒業してからも、このメンバーはクリスマスのたびに集まって、誰一人欠けることは無かった。そして、クリスマスにはみんなで集まってサンタになる――それはいつしかみらいたちの、大切な年中行事のひとつになっていった。
☆
☆
☆
263
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/04/16(日) 10:59:40
「まゆみ〜! ここにあるプレゼントは、全部この袋に入れちゃっていいの?」
「うん! あ、だけど、持ち上げられないほどは入れちゃダメだよ、かな」
「そんなことしないよ〜」
大学生になった今も、あの頃と同じように仲良く笑い合う二人を見ながら、みらいが小さく微笑む。
今日はクリスマス・イブ。例年通り、サンタたちはみんな、朝から子供たちにプレゼントを配る準備で大忙しだ。
この津奈木第一中学校の体育館を開放してもらってプレゼントを仕分けし、袋に詰めていくのだが、毎年のことなので、みらいたちはもう手慣れたものだ。だが、今年はいつもの年とは違って嬉しい助っ人がやって来るとあって、みらいは勿論、仲間たちもみんなとても張り切っていた。
この春、数年ぶりにナシマホウ界にやって来たリコとことは、それにジュンたちは、みらいとモフルンとの感動の再会の後、中学時代の仲間たちとも久しぶりの再会を果たした。ことはが余りにも変わっていないとみんな驚いていたが、すぐに懐かしい話に花が咲き、全員があっという間に中学時代に戻ったかのような、楽しい時間を過ごしたのだ。
明日はそれ以来の再会となる。もっともみらいは、今年の夏休みはリコの休みに合わせて魔法界で過ごしたのだが、誰よりも再会を心待ちにしているのは、勿論みらいだった。
夏休み、魔法学校のリコの部屋で、クリスマスの話題になった時のことを思い出す。四人で朝日奈家で一緒に過ごしていた頃の話をしている最中に、リコがこう切り出したのだ。
「そう言えば、ナシマホウ界のクリスマスって、今どうなっているの? みんなとっても心配していたんだけど」
その言葉がきっかけになって、魔法界とナシマホウ界のクリスマスの話になった。離れている間にそれぞれに変化した、二つの世界のクリスマスの。
「よぉし。じゃあ今年は、両方のクリスマスに行ってみよう!」
ことはが相変わらず元気いっぱいにそう叫んだが、今は二つの世界を行き来するのに、カタツムリニアで数日かかってしまう。
そこで、今年はみんなでナシマホウ界のクリスマスに参加して、来年のクリスマスは魔法界で過ごそう、と約束したのだが。
(わたしの勘が正しければ、きっと……。リコにちゃんと見せられたらいいなぁ)
手の中のプレゼントの包みに目をやって、みらいが楽しそうに微笑む。
「またリコちゃんやことはちゃんに会えるなんて、最高過ぎ!」
プレゼントをせっせと袋に詰めながら、まゆみもみらいの顔を見て、ニコリと笑う。するとその隣から、かながふと思い出したように言った。
「あ、そう言えば、花海さんなら今朝見かけたけど?」
「え?」
思いがけない言葉に、みらいが目をパチクリさせる。
普段はナシマホウ界と魔法界の向こう側の、そのまた向こう側に居るということはは、春に再会した時も、そして夏に魔法界に行った時も、みらいとリコ、二人が揃うとどこからともなく現れた。
リコたちは、夕方こちらに着くことになっている。だからみらいは、ことはもその頃に現れるものだとばかり思っていたのだが。
「はーちゃんを、どこで見かけたの? かな」
「通学路の並木のところで。凄く楽しそうに、スキップしながら歩いてたわ。声をかけようと思ったんだけど、見失っちゃって」
「え? あの道、一本道なのに?」
今度はまゆみが不思議そうに問いかける。
「そうなの。それで、こっちに手伝いに来てくれたのかなぁって思ってたんだけど、そう言えば見かけてないわよね?」
「うん……」
みらいがプレゼントを袋に入れるふりをして、斜め掛けにした鞄の中をこっそりと覗き込む。今は鞄の中に隠れているモフルンが、不思議そうな表情でみらいを見上げ、ふるふると首を横に振った。
(この世界に来ているのに、はーちゃんがわたしたちの前に姿を現さないなんて……)
「何かあったのかな」
みらいが心配そうにポツリと呟いた、その時。
「みんな、久しぶり〜! カタツムリニアが、やけに早く着いてさぁ。だから、手伝いに来たぜ」
「ちょっと、ジュン! カタ……か、片付けまで居られればいいんだけど、早く帰らないといけないかもしれないし」
体育館の入り口から聞き慣れた声がして、四人の女性がこちらに近付いて来る。その姿を見て、みらいはぱぁっと顔を輝かせた。
〜続く〜
264
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/04/16(日) 11:01:39
以上です。ありがとうございました!
続きもなるべく早く投下させて頂きます。
265
:
ゾンリー
:2017/04/19(水) 21:16:45
こんばんは、ゾンリーです。
映画に出て来たスズちゃんとアコのお話です。
1レス使わせて頂きます。
266
:
ゾンリー
:2017/04/19(水) 21:17:30
あ、タイトルは「いつか望んだ横顔は」です。
267
:
ゾンリー
:2017/04/19(水) 21:18:02
「あ、見てアコてんとう虫だ!」
「わあホントだ。かわいいね。」
小学校の帰り道。珍しく奏太君が風邪で休んだので私_スズとアコ、2人での帰り道。
私達はアスファルトの塀に向かって座り込んだ。
名前のわからない雑草に2匹の真っ赤なてんとう虫が止まっている。
私は隣でてんとう虫をつつくアコの横顔を見つめていた。
「昔はさ、こうして横顔を見ることって無かったよね」
「急にどうしたのスズ?…でも考えてみればそうだったわね」
「アコは王女さまで、私は王宮音楽隊の娘。一緒に遊んだ事は一杯あったけどこうして隣に並ぶなんて考えもしなかった。」
「でもどこかに、そうなりたいって想いはあったんじゃない?」
アコの優しい言葉に、素直に頷く。
「…地位の差も無くして、王族だからって遠慮もしなくて、ただただ親友として遊びたかった。それが今__」
私の言葉を遮ったのは男性3人組。
「「「何をしている〜♪」」」
高中低音がハモる。
「三銃士の皆さん。」
「やぁースズちゃん、久しぶりだねぇ」
声の低い、ガタイのいい人はバスドラさん。
「元気にしてましたか?」
少し高めの、優柔不断そうな人はファルセットさん。
「見ない内に大きくなって…」
女性的な顔立ちの普通の声の人はバリトンさん。
「アンタ達、どうしたの?」
アコが尋ねると三銃士はまた声を揃えて言った。
「「「ご無沙汰してますアコ王女〜♪」」」
「王女はやめてって言ってるでしょ。ほら…その、スズに対しての接し方と同じでいいから。」
反論するアコは頬が少し赤い。
「「「了解〜♪それでは仕事があるんで失礼します〜♪」」」
普通の(?)3人乗り自転車で楽器店の方向へ向かう三銃士。
「はぁ。なんなのアイツ達。」
「ふふっ、アコありがとね。」
「??」の吹き出しが似合いそうな首を傾げるポーズを取るアコ。
「さっき『王女はやめて』って言ってくれたでしょ?それが嬉しくて」
顔だけ向かい合い、最大級の笑顔。
「だって私も、スズと一緒の景色を見たい。王女だからとか、平民だからとかそんなの関係無しに隣にならんでさ。スズや奏太、皆といるとそれが叶う。アコ女王とスズじゃなくて調辺アコとスズになって、互いの弱さを出せる。素直な笑顔でいられる!隣にいて欲しいっていう気持ちはお互い様。」
上を見上げるアコ。私はてんとう虫を指先に乗せ、眩い空へと羽ばたかせた。アコも同じ動作をする。
「知ってる?てんとう虫って「幸せを運ぶ虫」なんだって。アコは私にとってのてんとう虫だ!」
「スズだって、私にとってのてんとう虫だよ。」
たくさん笑いあって、歩き出す。繋がれた手は永遠に続く私達の絆を抱きしめるようにしっかりと繋がれていた。
私は奏太君の風邪にちょっぴり感謝しながら、もう一度アコの横顔を見つめるのでした。
268
:
ゾンリー
:2017/04/19(水) 21:18:36
以上です。ありがとうございました!
269
:
名無しさん
:2017/04/19(水) 21:35:56
>>268
今はスズちゃんも加音小学校に通ってるんだね。
お互いに隣に居たいと願う二人が可愛かった。GJ!
270
:
名無しさん
:2017/04/19(水) 23:41:23
>>268
短いながらも密度の濃い、そして色んな味がする作品だと感じました。
271
:
Mitchell & Carroll
:2017/04/22(土) 00:00:03
『黒猫エレンの宅急便』
帰って来るやいなや、ベッドに体ごと投げ出し、そのまま寝てしまう。メイクも落とさずに、風呂にも入らずに、食事も摂らずに、そのまま寝てしまう。そんな日がもう何日続いている事か。心配したハミィが、非力ながらも、エレンの足をベッドの中に納めて、布団を掛けてやる。そんな日がもう何日続いている事か。朝起きて、自分の体に栄養を流し込み、ろくに身支度も整えないまま、また忙しなく働き出す。そんな日がもう何日続いている事か。日に日にやつれ、亡霊にでも取り憑かれているように髪もボサボサに荒れ、口元は何やら住所のようなものをブツブツと唱えている。心配した奏が、「女の子は身だしなみが大事よ」と言って髪を梳かしてやろうとするが、そんな暇は無いと言って何処かへ消えてしまう、響もまた、「疲れた体には甘いものがイチバン!」と言って、スイーツを差し入れたりするのだが、必ずと言っていいほどエレンは、ダンボールが擦れる“シュガー”という音を思い出し、やはり何処かへと姿を消してしまう。そんな日がもう何日続いている事か。
事の発端は数日前。
「私、宅急便を始めるわ!」
何でも新しいギターを買うため、そしていつまでも音吉に世話になるのも申し訳無いから一人暮らしをするための資金作りとのことらしい。それともう一つ、困っている人を助けたい、自分も何か社会貢献がしたいとのことだった。何でも宅配業者が本格的な人手不足で困っているというニュースを聞いて、居ても立ってもいられなくなったのだ。しかし始めてみるとこれがまた大変で、そもそも運転免許を持っていないエレンは、トラックの代わりにリアカーを牽いて荷物を運んでいる。ここ、加音町は音楽を嗜んでいる者が多いせいか、重い楽器の荷物も少なくない。しかも、せっかく配達先に辿り着いたと思ったら在宅者不在で、重い荷物を載せたまま次の配達左記へと向かうなんてことも――そんな日がもう何日続いている事か。疲労困憊で指先は痺れ、ろくにギターのコードを押さえる事も出来ないどころか、ギターに触れる時間すら無い。心の栄養も失ったエレンは、今日もまた何処かへと荷物を配達している。悪魔の尻尾のようなマークの付いたダンボール箱を、山ほど載せたリアカーを牽いて……。
しかし物語はここで終わりではない。ある日、何やら配達物の中からフレッシュな香りが漂ってくるのを感じた。空腹に我慢できなくなったエレンは、ついダンボール箱の封を開けてしまった。中には、生鮮食品が詰められていた。極限状態だったエレンは、無我夢中でそれらを貪った。一通り平らげて、正気に戻ったエレンは、自分は何て事をしてしまったんだろうと、往来でオイオイと声を上げて泣き始めた。何事だろうと一人、また一人と寄ってきて、あっという間に人だかりができた。そこを割って入って来たのが、響たちだった。事情を聞いてやった後、奏が代わりに人だかりを解散させ、結局皆で配達先に謝りに行った。幸い、話の通じる依頼主だったので、許してもらえたばかりでなく、皆に飴玉まで与えてくれた。そして営業所に戻ったエレンは、その日限りで解雇となった。
久しぶりの風呂。熱いシャワーが、皮膚にまとわり付いた汚れやその他諸々を一気に洗い流してくれる。その間、響たちは栄養の付くものを、とキッチンでせっせと調理をしている。湯船にチャプンと浸かったエレンは、何やら聞こえてくる話し声と、おそらく炒め物をしているのであろう、ジュージューという音に耳を済ませている。奏の怒鳴り声が聞こえる。響が段取りを間違えたのかしら?それともハミィがつまみ食いをしたとか?久しぶりに心からちょっとだけ笑顔になって、軽くなった体を拭いていると、アコが入ってきた。「あなたもお風呂?」と訊くと、そうではなく奏が最近覚えたという歌に耐えられないとのことで、避難してきたらしい。
リビングには豪勢な料理が並んでいた。景気付けにと、久方ぶりにギターを手に取ったエレンは、さっきの奏の歌に即興で伴奏を付けてやった。ギターの音色で中和させただけでは足りなかったのか、アコは両耳を塞いだままだった。口直しにと、エレンは自作の優しい歌を弾き語った。それにハミィも加わる。憶えやすいメロディーだったので、次第に響と奏、それにアコも加わって、食卓に音の彩りが添えられる。極めつけは、ハミィの言葉のトッピング。
「セイレーンは、心に歌を届ける天才ニャ!」
そう、それは一瞬にして。
〜終〜
272
:
名無しさん
:2017/04/22(土) 10:08:05
>>271
確かにトコトンやりそうでコワいわ、この子はw
そしてきっと、夜間配達もNGだね。お化けに怯えてすぐに荷物放り出しそう。
273
:
名無しさん
:2017/04/23(日) 22:45:53
>>271
独特の文章で長文なのに読みやすいし面白い。
1スレで終わるのに色々ハッとさせられる。締め方がうまいし後味もいい!
エレンの不器用さが愛おしいです。
274
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/04/28(金) 00:49:21
こんばんは。
遅くなりましたが、まほプリ三部作の二章が書けましたので、投下させて頂きます。
7、8レス使わせて頂きます。
275
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/04/28(金) 00:49:53
クリスマスに行われるあの行事――校長先生が“新しい伝統”って呼んでる祭典が始まったのは、あたいたちが魔法学校の三年生の時だった。
あの年に起こった“大いなる混沌の日”のことは、ハッキリと覚えてるヤツが居ないんだ。あたいも、あの日はどういうわけだか、みらいたち、それにかなやまゆみとも一緒に居たような気がするんだけど……気が付いたらエミリーとケイと三人で、魔法学校の池のそばに立っててさ。
空から色とりどりの花びらが降って来て、びっくりしてそれを眺めていたら、リコがやって来たんだ。魔法学校の制服じゃなくて、ナシマホウ界の服を着て。あたいたちを見て小さく微笑んで見せたけど、さっきまで泣いてたみたいな真っ赤な目をして。
どうしたんだよ、って駆け寄ったら、今度は池の水面に校長先生の顔が大写しになってぎょっとしたっけ。でもそんな驚きは、ほんの序の口だった。
みんなの無事を確認してから、校長先生はいつになく重々しい声で、こう言ったんだ。魔法界とナシマホウ界、二つの世界は混沌の反動で果てしなく遠く分かたれ、今の我々の術では行き来が出来なくなった、ってな。
その瞬間、あたいは全身の力が抜けたような気がした。何て言うか、今までずっと見つめ続けてきたキラキラ輝く大きな星が、急に消えちまったような……そんな感じがしたんだ。
どうやって立っているのかもわからないくらい、何だか呆然として、校長先生の声も遠くなって……。なのにあの時、よくリコの声が耳に入ったもんだって、今でも思うぜ。もしあの時のリコの声が無かったら、あたいは全てにやる気をなくして、ヤケになっていたかもしれないのに。
「それでも必ず……絶対、会いに行くんだから!」
リコはそう呟いてたんだ。あたいの隣で、小さな小さな声でな。
最初は、またリコが強がり言ってるって、ぼんやり思った。でも、ギュッと握った拳をブルブル震わせて呟いているリコを見ているうちに、何だかカーッと胸の中が熱くなってきて……。気が付いたら、あたいはリコの拳を掴んでこう叫んでた。
「ああ。あたいも行く。絶対に……絶対に行く!」
言葉にした瞬間、自分でもびっくりするくらい、ボロボロと涙が溢れた。エミリーは最初っから泣いてたし、ケイも、あたいの手の上に手を重ねながらしゃくり上げてたっけ。
でもリコは――リコだけは、相変わらず拳を握りしめたまんま、最後まで涙は見せなかったんだ。
サンタとサンタのクリスマス( 月の章 )
「すげぇなあ、リコ。また満点かよ!」
ざわめく教室の中でもひときわ響く大声に、リコは赤い顔をして振り返った。声の主は、すぐ後ろの席に座っているジュン。リコの手の中の、今返されたばかりの答案用紙を、感心した顔つきで覗き込んでいる。
一瞬静まり返った教室は、すぐにさっきとは比較にならない、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。その様子を困った顔で見回してから、リコが今度は非難がましい目をジュンに向ける。
「ちょっと! 勝手に人の答案、見ないでよ」
「隠さなくたって、どうせ先生に言われるだろ? 何たって、三年生になってからオール満点! えーっと……何連続になるんだっけ?」
「わたしのメモによると、二十回連続ね」
ジュンの隣で、ケイが手帳をめくりながら即座に答えた。
「凄っ! っていうか、テストってもうそんなにたくさん受けたのかぁ!」
ジュンが驚いたように呟く。三年生の夏休みも終わり、二学期もそろそろ半ばに差し掛かっていた。
「リコは凄いね。わたしも頑張らないと」
リコの隣からエミリーが、騒音に掻き消されそうな声で語りかける。と、その言葉が終わらないうちに、教壇の方からパンパン、と手を打ち鳴らす音がした。
「皆さん、静かにして下さい」
そんなに張り上げているようには聞こえないのに、教室中によく通る声が響く。リズが、いつもように穏やかな表情で生徒たちを見渡していた。
「今回のテストでは、リコさんが満点を取りました」
わーっという歓声と拍手の音に、リコが再び赤い顔で、照れ臭そうに俯く。
「全体的に、前回よりもみんなよく出来ているわ。この調子で頑張って下さいね。では、今日の授業を終わります」
軽く会釈をして教壇を下りると、リズは真っ直ぐリコに近付いて来た。
「リコ、今回もよく頑張ったわね。でも……」
言いよどむ姉の様子に、リコが不思議そうに首を傾げる。
「昨日も帰りが遅かったようね。寮の門限ギリギリだった、って聞いたわ。夕食はちゃんと食べたの?」
「……ええ」
「そう。でも、顔色があまり良くないわ。頑張ることも大切だけど、ちゃんと食べて寝て、身体を労わらないとダメよ?」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう、お姉ちゃん」
微笑む妹を心配そうに見つめ返して、リズが教室を出て行く。それを見送ってから、今度はケイがリコの方へ身を乗り出した。
276
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/04/28(金) 00:50:25
「リコ、昨日の集まりの後、またどこかに出かけたの?」
ケイの言う“集まり”とは、再びナシマホウ界に行く手立てを探すための活動をしているグループの集会だった。ナシマホウ界に住んでいたことがある人たちが中心になって作られたものだが、仕立て屋のフランソワに教わって、リコたち四人も結成直後から参加している。
メンバーの中には魔法界の重要な職務である星読み博士や、カタツムリニアの生態を研究している学者もいた。その上議題が議題ということもあって、この集まりはとにかく話が難しいのが難点で、リコたちも出席はしたものの、話にまるで付いて行けないという日も少なからずあった。
しかも、そんな難しいことを長い時間話し合っても、ナシマホウ界に行く方法の糸口は、今のところ全く見つかっていなかった。そろそろアイデアも出尽くして、最近では集会にかかる時間も、以前に比べれば短くなってきている。
昨日の集まりも思いのほか早く終わって、四人が寮に戻った時には、門限までまだ二時間以上あったのだが。
「天気が良かったから、ちょっと散歩してたの」
リコが、さっきリズに向けたものと同じ微笑みを、仲間たちに向ける。それにニッと笑い返して、ジュンがリコの肩に、ポンと手を置いた。
「ならいいけどさぁ。さっきは満点で大騒ぎしちまったけど、リズ先生も心配してんだ。あんまり無理すんなよ」
「わかってる。じゃあ、今日は早めに帰って休むわね」
そう言ってリコが立ち上がる。
教室の階段を上がっていく後ろ姿を見送って、ジュンは微かに眉をひそめた。リコの足取りが、何だかいつもと違って少し重そうに見えたからだ。
が、昨日も帰りが遅かったということだし、きっと疲れているのだろうと、ジュンはそれを特に気には留めなかった。
☆
それから半月ほど経った、ある日のこと。
授業が終わって教室を出ようとしたジュンとケイは、二人同時に首を傾げて顔を見合わせた。遅れてやって来たリコが、二人の視線の先を見て、やはり首を傾げる。
誰も居なくなった教室に、ぽつんと残る人影。エミリーが机に頬杖をついて、じっと黒板を見つめている。
「エミリー、どうしたの?」
「え?」
「え、じゃないわよ。授業はとっくに終わったわよ?」
「あ……ああ、そうね」
曖昧に笑って席を立とうとしたエミリーが、間近に迫ったリコの顔を見て真顔に戻る。その隣にはジュンとケイ。揃って心配そうな仲間たちの姿があった。
「何かあったのか?」
「うん……何か、っていうわけでもないんだけど」
エミリーが席に座り直すのを見て、ジュンがその前の椅子に斜めに腰かける。リコとケイも、それぞれ周りの席に腰を下ろした。
「昨日、魔法商店街に出かけたんだけど、何だか様子がおかしくて」
「様子って、魔法商店街の?」
「ええ。凄くヘン、ってわけじゃないんだけど、何だかいつもと違ったの。なんて言うか……活気が感じられない、っていうか」
「それって、閉まってる店が多かったとか、そういうことじゃないんだよな?」
ジュンの問いに、エミリーが大きくかぶりを振る。
「違うの。店は開いているんだけど、みんな元気がない気がして。そのせいなのか、商店街がやけに静かだったし」
エミリーの言葉に、リコたち三人が再び顔を見合わせる。
「この前のカボチャ鳥祭りの時は、いつもの年と同じように盛り上がっていたでしょ? それなのに……って思ったら、気になってたまらなくなっちゃって。それでつい、考え込んじゃって」
「そう……」
リコがポツリと相槌を打つ。すると今まで黙っていたケイが、ああ、と少し暗い顔で頷いた。
「カボチャ鳥祭り、って聞いて思い当たったわ。この前、わたしも魔法商店街に行ったんだけど、その時フックさんが言ってたの。原因は、クリスマスじゃないかな」
ケイが、珍しく手帳を見ることもなく、机の上に視線を落として話を続ける。
魔法界では、毎年クリスマスには多くの大人たちがサンタになって、魔法界とナシマホウ界、両方の世界の子供たちにプレゼントを配ってきた。だが、ナシマホウ界と行き来が出来なくなった今年からは、サンタの仕事も大幅に減ってしまうということになる、と。
「カボチャ鳥祭りが終われば、次はクリスマス、って誰もが思うでしょう? そこでこの現実を突き付けられて、やっぱり寂しいなぁってみんなが思ってるみたい。ナシマホウ界にはもう行けないんだってことを、改めて思い出して」
「そうか。言われてみれば、毎年この時期には魔法商店街のあちこちからクリスマスの飾りつけの話が聞こえてくるのに、誰もそのことを口にしていなかったわ」
ケイの話に頷いたエミリーが、ハァっと大きなため息をつく。続いてケイが。そしてジュンが。だが、リコはグッと口を引き結ぶと、ガタンと音を立てて立ち上がった。
277
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/04/28(金) 00:50:56
「どうしたんだ? リコ」
今度はジュンが不思議そうな顔で問いかける。そちらには目を向けず、リコはとんがり帽子の制帽を、目深に被った。
「帰るのよ。こうやってみんなでため息をついてたって、しょうがないもの」
「そ、そんな言い方しなくたって……」
「おい、そんな言い方はないだろ?」
小声で反論するエミリーを庇うように、ジュンが少々ムッとした口調になる。それを聞いて、困った顔でチラリとエミリーに目をやってから、リコはすぐに横を向いた。帽子の陰から、少しくぐもった声が聞こえてくる。
「ごめん。でも、ただ心配しているだけじゃ、何にもならないもの。やっぱり一日でも早くあの世界に行けるように、もっと頑張らなきゃいけないのよ!」
「だから、みんな頑張ってるだろ? だけどなかなか上手く行かないのは事実じゃないか。だったらみんなで心配したり、慰め合ったりしたって……」
「だから……そんなことをしても、何にもならないのよっ!」
リコがそう叫んで、机に掌を叩きつけようとした、次の瞬間。
「リコ!!」
「おい、大丈夫かっ!?」
エミリー、ケイ、そしてジュンが、驚いた顔で立ちあがる。
リコが、ずるずるとその場に崩れ落ちると、バタリと床に倒れ、そのまま意識を失ってしまったのだ。
☆
目を開けると、薄暗い天井がそこにあった。そろそろと起き上がり、枕元の時計を確認する。
時刻はもう夕方に近い。どうやら丸一日眠っていたらしく、そのお蔭か、身体はずいぶん楽になっていた。
昨日、この寮の自室で目を覚ました時には、心配そうなリリアとリズの姿があって、リコはそこで初めて自分が教室で倒れたのだということを知った。
医師の話では、原因は過労だという。そう言われてみれば、身に覚えが無いこともない。
魔法界とナシマホウ界。今は大きく広がってしまった二つの世界の狭間を超えるヒントが、何か少しでも無いものか――そればかりを考えて、仲間たちと集会に出た帰りにもう一度図書館に行って調べ物をしたり、カタツムリニアの線路の上を、箒で飛べるところまで飛んで手掛かりを探してみたり。そうやって毎日思いつく限りのことをして、門限ギリギリに寮に駆け戻る毎日。寮に帰ったら帰ったで、今度は消灯時間を過ぎてもなお、勉強に明け暮れる。
魔法もずいぶん使っていた。もっと色々な魔法が使えるようになるために。そして、何とかしてナシマホウ界へ行くための手掛かりを見つけるために。
ただ呪文を唱えて杖を振るだけの、傍から見れば楽そうに見える魔法だが、使い過ぎればかなりの体力を消耗する。そこに睡眠不足やら何やらが重なって、ダメージが蓄積されたのだろう。
(だけど……わたしには、やれることがあるんだもの)
――何もしないでいるなんて……我慢できない!
もう何度となく思い返した、みらいの言葉がまた蘇る。
いなくなったはーちゃんを探して、思いつく場所を全部探し尽しても見つからなかったあの時、湖の見える真夜中の展望台で、彼女が声を震わせて言った言葉だ。
(みらい……今頃、どうしているのかしら)
リコはもう一度ベッドに横になって、ぼんやりと天井を見つめた。
ナシマホウ界――魔法界の存在すら知られていない世界にいるみらいに、出来ることは何もない。それがみらいにとってどれほど辛く苦しいことか、それはリコが一番よく知っている。
(だから……だから一日でも早く、会いに行かなくちゃ! でも……)
リコの口から久しぶりに、ハァっと重いため息が漏れた。
(でも……わたしもみらいと同じかもしれない)
いくら本を調べても、魔法界の果てまで飛んでみても、まだ収穫は何もない。リコだけでなく、集会に出ている多くの魔法つかいが持てる力や知識を出し合っても、思うような成果はまだ何も現れていないのだ。
(これじゃあ、やれることがあるって言っても……)
不意に天井が歪んで見えて、リコは慌てて目をしばたきながら起き上がった。
少し気分を変えようと、部屋の中を見回す。すると勉強机の上に、去年の誕生日に母から貰った絵本が置いてあるのが目に入った。こんなところに置いておいた覚えはないから、おそらく昨日来てくれた母のリリアが本棚から引っ張り出したのだろう。
机の上に手を伸ばし、ベッドに腰かけたまま、絵本のページを開く。
幼い頃から何十回も読み聞かせてもらった物語。自分で文字を追っていても、それは全てリリアの声で聞こえてくる。
やがて、ページをめくるリコの手が止まった。
「……女の子たちの強い想いは、雲を払いのけ……」
絵本の最後のページ――二つの星が笑顔で並ぶページを見つめて、リコが呟く。
「強い想い、か……」
278
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/04/28(金) 00:51:30
突然、真紅の光がリコの脳裏に煌めいた。情熱のリンクルストーン・ルビー。想いをたぎらせたキュアミラクルの胸に何度も輝いた、強くて真っ直ぐで、熱い光だ。
その煌めきに、キュアマジカルとキュアフェリーチェは何度助けられたことだろう。
ある時は、ただ一人彷徨う世界の狭間で。またある時は、強大なムホーの力に打ちのめされた、闇に沈む結界の中で。
(そうだわ。想いは……想いの力は……!)
リコはパタンと絵本を閉じて机の上に置くと、部屋のカーテンを開けた。暗くなりかけた空の下、魔法学校と、それを支える母なる木の大きな幹が見える。
辺りがすっかり闇に沈むまで、リコはその見慣れた光景を、ただじっと見つめていた。
☆
「まあ、リコさん! あなた、身体はもう大丈夫なの? もう学校に出て来てもいいんですか?」
校長室に入った途端に厳しい口調で追及されて、リコは思わず二歩、三歩と後ずさった。先に来ていたらしい教頭先生が、両手を腰に当て、いかめしい顔でリコに迫る。
「え……ええ。ご心配かけて、すみません」
「あ、あのぉ、校長先生はお留守ですか?」
ジュンがリコの隣から声をかける。ジュンの隣にはケイ、その隣にはエミリー。いつもの四人が揃って校長室にやって来ていた。
「ええ。困ったことです、また黙って校長室を留守にして……。ところであなた方は、校長先生に何のご用で?」
「実はお願いしたいことがありまして。クリスマスの……」
「え、えーっと、急ぎのお願いじゃないんで、また今度、校長先生がいらっしゃる時に……」
ジュンが突然リコの言葉を遮って、アハハ……と愛想笑いをしながらその場から立ち去ろうとする。が、そのわざとらしい小細工が裏目に出た。
「あらそう。それは別に構いませんが……私の耳には入れたくないお願い事かしら?」
「い、いいえ、そんなことは……」
リコは慌てて顔の前で両手を振ってから、もうっ! と肘でジュンの脇腹をつついた。
学校を三日休んで今日から登校したリコは、休んでいる間に考えていたことを、今朝真っ先にジュンたち三人に相談した。そして放課後になるのを待って、校長先生にお願いにやって来たのだが……。
部屋の中を見回したが、どうやら魔法の水晶も不在らしい。仕方なく、リコは覚悟を決めて教頭先生に向かい合った。
「クリスマスに、やりたいことがあるんです。魔法学校が中心になって」
「それは、生徒によるイベント、ということですか?」
「いいえ。会場は魔法学校ですが、魔法界全体が参加できるものを、と考えています」
「まあ、そんな大掛かりなことを……」
教頭先生が一瞬だけ眉をひそめてから、それで? と先を促す。
「魔法学校を支え見守るあの大きな木――母なる木に、魔法で光を灯したいんです。魔法界のみんな一人一人の、想いを込めた光を」
「まあ、あの木に……」
そう言ったまま、教頭先生はしばらくの間黙り込んだ。
「あの……このままじゃ、今年のクリスマスはきっと、とっても寂しいものになると思うんです」
意外にも、沈黙を破ったのはエミリーだった。いつもと同じ自信なさげな口調ながら、それでも教頭先生の目を見て懸命に言葉を紡ぐ。
少し驚いた顔でエミリーを見つめた教頭先生は、ふっと表情を和らげると、彼女に小さく頷いて見せた。
「確かに。今年はナシマホウ界の子供たちには、プレゼントを配れないでしょうからね」
「はい。だからせめて、ナシマホウ界やナシマホウ界の子供たちへの想いを、光に込められたらなぁって」
「いつか必ずナシマホウ界に行くぞ、っていうあたいたちの気持ちも、一緒に輝かせたいんです」
ケイとジュンも口々にそう言って、教頭先生を見つめた。
校長室がしんと静まり返る。教頭先生は小さく咳払いをすると、相変わらず重々しい調子で口を開いた。
「話は分かりました。魔法界全体の行事ともなると、校長先生とよ〜く相談しなくてはなりませんが……その前に、私からあなた方に質問があります」
そう前置きしてから、教頭先生はじろりと四人の顔を見回した。
「“校則第十八条:魔法学校を支える母なる木に登ったり、傷付けたりしてはならない” 三年生のあなた方ならご存知ですよね? あの木には不思議な、そして大いなる力が宿っています。光に想いを込めるだけなら、どの木でもいいはずでしょう? それなのに、あの木を選んだのは何故ですか?」
「やっぱり、あの木に魔法をかけるなんて無理なんじゃないの?」
「今更言うなよ……」
ケイとジュンがひそひそと言い合う隣で、エミリーは不安そうに、リコは考え込むように下を向く。
腕組みをしたままじっと答えを待つ教頭先生が、しびれを切らしたのか、ピクリと眉を動かした時、リコが低く小さな声で、こう答えた。
279
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/04/28(金) 00:53:06
「それは……大いなる力が宿っている木、だからです。ずっとわたしたちを……魔法界を見守ってくれている木だから、わたしたちの想いも、きっと受け止めてくれるって……」
「受け止めてもらうだけですか? リコさん、あなたはこの行事を通して、何をしたいんです?」
教頭先生が、真っ直ぐにリコの目を見つめる。その視線を受け止めて、リコは考え考え、絞り出すように言葉を続けた。
「想いには……力があると思うんです。今は上手く行かなくても……何も出来なくても、強い想いを込めて心から願えば……願い続けていれば、いつかきっとそれは力になる。魔法界のみんなの想いが母なる木に届けば、きっと大きな力になると思うんです」
そう言ってから、リコは少しうつむき加減で、呟くように言った。
「今回のことで、いろんな人に心配をかけて、学校も休まなくちゃいけなくなって……。それで、思ったんです。わたしは想いの力を……それを信じることを、忘れていたんだな、って。だから焦ってばかりで、自分を……大事にしていなかったんだな、って」
「リコ……」
リコの横顔を見ながら、ジュンが小さく呟く。
じっとリコの顔を見つめていた教頭先生は、リコが話し終えると、ふーっと長く息を吐いた。
「実を言うと、あなたの杖をしばらく預かった方がいいのではないかと、校長先生に相談に伺ったところでした。これ以上、無茶をさせないためにね。でも、私の取り越し苦労だったようですね」
「えっ……?」
驚くリコに、教頭先生が珍しく、おどけたように片目をつぶって見せる。
「校長先生にお話しなさい。きっと私の応援など無くても、許可を頂けるでしょう」
「あ……ありがとうございます!」
「やった! やったな、リコ!」
「良かったね、リコ!」
「教頭先生を説得するなんて、凄いわ!」
仲間たちに囲まれて、リコがようやく笑顔になった時。
「おや、君たち。それに教頭。お待たせした。何か用かな?」
音も無く現れた校長先生が、いつもの穏やかな眼差しで、そこに居る全員を見回した。
☆
クリスマスを数日後に控えたある日。日暮れ時に合わせて、魔法学校の生徒たち全員が校庭に集まった。全職員も見守る中、校長先生が生徒たちの前に立つ。
「皆、もう話は聞いておるな? 今からクリスマスの新しい行事の、記念すべき最初の光を皆に灯してもらいたい。真っ直ぐな想いを、素直な気持ちを、母なる木に届けるのじゃ。良いな?」
校長先生の言葉が終わると、まずは三年生が進み出て、揃って魔法の杖を構える。
目を閉じて大きく息を吸い込んでから、リコは杖を振り上げ、仲間たちと声を揃えて高らかに唱えた。
「キュアップ・ラパパ! 光よ、灯れ!」
下級生たちの間から、言葉にならない歓声が沸き起こる。
闇に黒々と沈みかけていた巨大なシルエットに宿った、色とりどりの煌めき。まだ数も少なく光も小さいが、それらは全てが確かな輝きを放ち、しっかりと存在を主張している。
三年生の後には二年生、そして一年生が続いた。最後は先生たちが、次々と母なる木に想いの光を灯していく。
「想像してたのと全然違うな。ここまでイメージ通りの光を灯せるなんて」
ジュンが杖を撫でながら、誰にともなく囁く。
「うん! なんか気持ち良かった」
ケイは晴れ晴れとした表情で、明るい声を上げる。
「本当に、母なる木ね。何だか魔法を優しく受け入れてくれているみたい」
エミリーも微かに頬を染めて、嬉しそうに仲間たちの顔を見つめる。
リコは、驚いたように目を見開いて、少しずつ増えていく光を見つめていた。そして小さく微笑んでから、その目を暮れかけた空の彼方へと向けた。
280
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/04/28(金) 00:54:29
次の日から、魔法学校にはたくさんの人たちがやって来て、母なる木に光を灯していった。その中には、リコたちに馴染みの深い魔法商店街の人たちや、集会に通っている人たちの姿もあった。
魔法界を支える大いなる木に魔法をかけるなんて、皆初めての経験だ。だからだろうか、少々緊張した面持ちで魔法学校の門をくぐる人が多かったのだが、帰る時には皆何だか嬉しそうな、穏やかな顔になっていた。
魔法界のどこからでも見えるこの巨大な木は、少しずつ輝きを増していった。そしてその光に触発されたように、魔法商店街にもクリスマスの飾りが見られるようになった。リコたちが通う集会もまた、母なる木の輝きに励まされたように少しずつ活気を取り戻し、また様々な試行錯誤が繰り返されるようになっていった。
クリスマス・イブを迎えた時には、木は無数の光を宿し、全体が光り輝いて見えるまでになっていた。
魔法商店街は昨年までと同じような賑わいを見せ、サンタたちは天高く輝く巨大なツリーを眺めながら、例年より数少ないプレゼントを分け合って、笑顔で子供たちの元へと向かった。
こうして始まったクリスマスの祭典は、年を追うごとにその煌めきを少しずつ増やしながら続けられた。そしていつしか魔法界の人々にとって、クリスマスの大きな楽しみのひとつになっていった。
☆
☆
☆
「リコ先生、さようなら」
「はい、さようなら」
一年生の生徒たちに挨拶を返してから、リコは振り返って、元気に駆け去っていく彼らの後ろ姿を眺めた。
制服姿ももうすっかり板につき、きれいな円錐形だった制帽も、先っぽがお辞儀をするようにちょこんと折れ曲がっている。
「あの子たちも、もうすぐ二年生ね」
少し感慨深げに呟いた時、生徒たちの後ろから、おーい、とリコを呼ぶ声がした。
「ごめんごめん。待たせたか?」
「ううん。時間的には、ちょうどいいし」
トランクを持ったジュン、ケイ、エミリーが、小走りでこちらへやって来る。三人を笑顔で迎えたリコは、彼女たちと肩を並べて庭の方へと足を向けた。
今日の最終のカタツムリニアで、リコたちはナシマホウ界へ向かうことになっている。クリスマス・イブに間に合うように到着して、みらいたちと一緒にサンタになってプレゼントを配る計画なのだ。その前に、今年も四人揃ってクリスマスの光を灯そうと、ここで待ち合わせたのだった。
実を言うと、今日ナシマホウ界に向かうのは、リコたちだけではない。そしてそのことを、リコはジュンたちに口止めまでして、みらいには内緒にしていた。
(みらい、きっと喜んでくれるわよね)
浮き立つ気持ちでそんなことを思いながら、母なる木の前に立つ。魔法学校の三年生だった時と同じように、四人並んで魔法の杖を構えた。想いを込めて杖を一振りすると、既に幾つかの光を宿していた巨木に、四つの小さな輝きが加わった。
「やっぱりこの時が一番、魔法が上手く使える気がするんだよなぁ」
ジュンの言葉に、ケイとエミリーが、うんうん、と頷く。リコはそんな三人に黙って微笑みかけてから、天高くそびえ立つ巨木を見上げた。
281
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/04/28(金) 00:55:02
初めてこの木に光を灯した時、リコは仲間たちとは違った驚きと、懐かしさを感じていたのだ。
余計な力など何も要らない。想いがただ真っ直ぐに伝わって、イメージした通りの形になる――その感覚は、プリキュア・キュアマジカルに変身して魔法を使った時と、そっくりの感覚だった。
(来年は、みらいも一緒に……)
この感覚を共有できる、ただ一人の友の顔を思い浮かべて、リコが思わず頬を緩ませる。その顔を見てニヤリと笑ったジュンが、何か思い出したように、あ、と声を上げた。
「そう言えば、リコ。はーちゃんは一緒じゃないのか?」
「え? どういうこと?」
リコが不思議そうに聞き返すと、ジュンも同じく不思議そうな顔になる。
「何だ、知らないのか。昨日、校長室に行ったときに見かけたぜ? 何だか急いでいたみたいで、あたいの顔を見るなり姿を消しちまったけど」
このところアーティストとして活動しているジュンは、時々魔法学校で、生徒たちに美術を教えているのだ。
「どうしたのかしら……」
リコが少し不安そうに呟く。
ことはが普段どこで何をしているのか、彼女の説明を聞いてもリコにはさっぱり分からないのだが、少なくとも、魔法界からもナシマホウ界からも離れたところに居るのは確からしい。そんな彼女が魔法界に来たというのに、何故自分の前に姿を現さないのか。
(はーちゃんのことだから、みらいと会えば、当たり前みたいにやって来る気もするけど……)
リコが難しい顔で考え込んだ時。
「大変! 急がないと、最終が出ちゃうわ!」
今度はエミリーが、慌ててそう叫んだ。
再び四人で一列に並んで母なる木に一礼し、魔法学校を後にする。
カタツムリニアが待つ駅へと急ぐリコたちの足取りは、いつしか魔法学校の生徒だった頃と同じような、元気な駆け足へと変わっていた。
〜続く〜
282
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/04/28(金) 00:55:39
以上です。ありがとうございました!
続きもなるべく早く投下できるように頑張ります。
283
:
そらまめ
:2017/05/13(土) 16:07:28
投下させていただきます。
バイトはじめました。シリーズ6話になります。
前話が四年前なので最早誰も覚えてないとは思いますが…
宜しくお願いします。
タイトルは バイトはじめました。ろく です。
284
:
そらまめ
:2017/05/13(土) 16:09:24
「えっと、もう一回言ってもらっていいかな?」
「だから! ナケワメーケがしゃべったのよ!!」
「せつな、あなた疲れてるのよ…」
「疲れてる時はゆっくり安静にした方がいいっていうよね。せつなちゃん、横になる?」
「みんな信じてよ!」
「だって、ねえ…?」
みんなから憐れむような視線が送られてくる。でも、私は確かに聞いた。ハープで攻撃したとき痛いと絶叫したその声を。あのナケワメーケはテレビか何かを媒体にしていたから、人の言葉を話すとしたら番組を受信でもしたのだろうか。
しかしあの台詞をあのタイミングで…?
ナケワメーケに話をする機能はなかったはず。そんなのは必要ないから。
でも、もし私が抜けた後で改良がされたとしたら、一体何の目的で…
と、そこまで考えてふと視線を感じた。顔をあげてみたら三人ともハの字に眉が下がっている。思いのほか心配されているらしい。
「あ、えっと、一旦この話は…」
なんだか申し訳なくなって、この話は一先ずやめようかと思っていると、
「わかったよ!! みんなで確かめてみよう!」
「へ…?」
ラブが勢いよくそう言った。握りこぶしを震わせて、その眼には確かな信念が宿っていた。
「そうね。せつながそうそう嘘をつくとも思えないし」
「うん! わたし、せつなちゃんのこと信じてる!!」
「み、みんな…!」
ラブだけじゃなく美希とブッキーまでそう言って私に笑いかける。こんないい仲間が出来て、私とても幸せだわ。
「みんな! 作戦会議だよ!! せつな、その時の事もう一回詳しく教えてもらっていいかな?」
「ええ!」
そんな感じでせつなが友情を噛み締めている頃、これから襲い掛かる恐怖に全く気付いていない当事者は、別の意味で身構えていた。
285
:
そらまめ
:2017/05/13(土) 16:10:55
…お久しぶりですこんにちは。今自分は何をしているのかというと…と、よそ見してる場合じゃなかった。油断すれば一瞬でやられる…!!
緊張からツーと頬に汗が伝い、知らずにゴクリと喉が鳴る。
もうすぐだ。
これからの事は、ある意味今後の自分を左右することになるだろう。周りの人全てが敵に見える。こんな状況が続いてしまったら、自分の精神がおかしくなってしまいそうだ。
カチカチとやけにうるさく感じる時計の秒針が、もうすぐ、天辺に到達する。
あと10秒…8…5…3…1……
「…それでは16時になりましたのでタイムサービスを始めさせていただきますっ!!」
その放送と共に、戦いの火ぶたが切って落とされた。
「うおおおおおぉっ!!!」
その言葉を聞いた瞬間走り出す。兎に角走る。目的のものを追いかけて、掻き分けて、手を伸ばしたのだった…―――
改めて、こんにちは。先ほどはすみません。ちょっと立て込んでいたものですから。あのタイムセールを逃すと、本気で食費がマッハだったんです。講義の教材ってなんであんなに高いんだろうね。うっすい本が云千円とか思わず一ページあたりの金額計算しちゃったよね。で、そんな財布が乏しい人の味方である今回行ったスーパーのタイムセールは、価格破壊という言葉が文字通りでほんとに安い。貧乏人の強い味方!
パッションにハープで殴られたところが未だに疼いてしまうので、せめて食事くらいはまともなものを食べたかったんです。
しかし、今回は傷の治りが遅い気がする。危険手当がいつもより多かったのはこれを見越してだったのだろうか…説明も無しとかなんか金多くしとけばいいんだろどうせ。みたいなやっつけな感じがします。嫌だねなんでも金で解決できると思ってる人たちは。
…まあ解決されるんですけどね大抵。
例に埋もれず自分も解決されてしまったわけです。あの多さを見れば、ね…? ただ、危険手当というからにはいつもより危険が大きいということで、治りが遅いだけじゃなかったら嫌だなーと思いながら自宅に到着。
「…すみません。今からバイトをお願いします」
「あ、はい。あ、あのー…」
「…なんでしょうか?」
「…あ、やっぱり何でもないです。すみません」
「そうですか。では、バイトの方お願いします」
帰宅して早々にバイトを頼まれ、次の瞬間には目の前にプリキュアが。
ちなみに、さっき謎の声に言いかけたのは、ハープで攻撃(物理)された時の危険手当について聞こうと思ってました。でもなんか怖くなったのでやめました。世の中知らない方がいいこともありますもんね。
今回はプリキュアとの目線が近く、どうやら大物ではないらしい。っていうかむしろプリキュアより目線低くね…?
よくよく見ると、リンゴになっていました。
ちょっと自分でも何言ってるのかわかりません。人間の大きさのリンゴとか中途半端だろ。どうせならドデカくビルくらいの大きさにすればよかったのに。まあリンゴ三個分の重さのネコっぽいのもいるんだからこれもアリか。
…やっぱりちょっと混乱してるみたいです。アリじゃないよねどう考えても。チョイスをもっと慎重にしてほしかった。誰だよこんなの選んだの…と思い周囲を見渡せば、高笑いしながらプリキュアを馬鹿にする大男がいた。
「ふははっ! どうだプリキュア! お前らがリンゴ好きな事はリサーチ済みだ!! 好きなものを相手にいつものように攻撃できるかっ?」
勝ち誇ったように自信満々な男の意味の分からない主張。そんな男を呆れたように見つめるプリキュアたち。
その光景を見て、あ、うん。しょうがないか…と、何故だかすべてを諦められた。
286
:
そらまめ
:2017/05/13(土) 16:11:50
「行け! ナケワメーケ!! プリキュアを倒せ!!!」
いや、行けって言われてもこの丸型でどうしろと…
とりあえず転がってアタックしてみる。開幕から捨て身の攻撃である。
「アップぅウウウルっ!!」
鳴き声が絶望的にダサい…
捨て身タックルも案の定躱されて、背後から蹴られ宙に浮いた後、近くにあった電柱にぶつかった。
このフォルム死角多すぎてヤバいんですけど…! 勝てる気がしない上に高速回転だから目がまわって気持ち悪い。一回の攻撃で大分ダメージが。主に自分の所為だけど。
「しっかりしろナケワメーケ! お前の力はそんなもんじゃないはずだろ!」
必死に応援する大男に、どこの修造だよと言ってやりたい。だがアップルしか言えない。悔しいです。
「うーん…今回は言葉を話すような媒体ではないわね」
「パッションの言った通りにしてみようか」
「これではっきりするかもしれないし…」
「みんなありがとう!」
いくら今回のフォルムが雑魚っぽいからって敵の目の前で円陣組んで話し合いってどういうことなの…
「ァアアっプウウウッルーー!!」
円陣に向かって突撃してみる。だがさっきのように直線ではまた躱されそうなのでジグザグと動きながら急ブレーキとかかけてフェイントも入れる。リンゴのくせに意外と俊敏に動けて驚きを隠せない。
円陣から一斉に散らばったプリキュアの後を追いながら廻る。ピーチのパンチをカーブすることで避け背後から突進。動きの速さに追いつけなかったのか態勢を崩したピーチに渾身のジャンピングアタックをお見舞いした。
「くっ…!」
「ピーチ大丈夫っ?!」
「大丈夫だよパッション!」
「あんなフォルムなのに意外とやるわね…」
「そうだねベリー、丸いから動きが自在だし。でも…」
「まあ、あれだけ回転してたらね。そりゃあ眼もまわるわよね」
頑張ってピーチに一撃いれて優勢になったかと思いきや、高速回転のし過ぎで世界がまわっている。ふらふらしながら木とか壁とかにぶつかってしまう。眼の前にいるプリキュアにたどり着けない…そして最高に気持ち悪い。
「まあ、ウエスターの出したナケワメーケなんてこんなものよね」
「おいイース! なんだその見下した言い方は! 大体自分の好きなもの相手に何故普通に攻撃しているんだ!!」
「だって私リンゴよりももの方が好きだし。大体リンゴを媒体にしようとするあたり作戦も何も考えてなさそうよね」
「俺だって考える時はある! 例えばこんなふうにな! ナケワメーケ!!!」
「アップウウ?」
気持ち悪さを必死に抑え男を見ると、こちらに向かって何やらジェスチャーしている。
えーと、何々、自分の体を絞って匂いをだせ…? え、なに言ってんのこの人。自分の体を絞るなんてそんなことできるわけ…あ、できた。
上半身を思いっきり捻ると何やら果汁的なものがでてきた。きもい。
で、こんな汁だしてどうすればいいんだろうかと無い首を捻ると、一番近くにいたピーチがこちらにふらふらと歩いてきた。しかも全くの無防備で。どうしたのかと思いながらせっかく近づいてきたので体当たりしてみた。すると避けることもなく攻撃が当たる。なんだこれ?
「…ッ! え…なんで私ナケワメーケに近づいて…」
「ちょっとピーチどうしたのよ!」
「わ、わかんないよっ! なんか気付いたら体が勝手に動いてて…」
「ふははっ、どうだプリキュア! リンゴは見た目だけじゃなく中身も優秀なのだ!」
もしかして、果汁から出る匂いが相手に何かしら影響しているのだろうか。そうでなきゃピーチが寄ってくるわけないし。まじか。意外とすごくないかリンゴ!そしてちょっと見直したよ大男!そうと分かれば高速回転でプリキュアに近づいて果汁を出しまくる。
案の定近くにいたベリーとパインがこっちによってきたのでそこを攻撃。
なんだこれすごいぞ。やられっぱなしだったプリキュアを苦戦させている!しかもこんな弱そうな怪物なのに!
「みんな!! どうすればあの匂いを防げるのかしら……っそうだ…!」
匂いをだしてプリキュア達にアタックしまくる。わーい臨時収入だ金だーなんて現金に眼が眩んだのが間違いだったのだろうか。気付いたらパッションがこちらにハープを向けていた。思わず体が震えた。どうやら体の方がトラウマを感じているらしい。
「吹き荒れよ幸せの嵐! プリキュア! ハピネスハリケーン!!」
辺りに風が巻き起こる。と、それまで無抵抗で寄ってきていたプリキュアがピタリと動きを止めた。
「…あれ、匂いがしない」
「ハピネスハリケーンのおかげで匂いが消されてるんだわ!」
「ありがとうパッション!」
「みんな! 今のうちに!!」
287
:
そらまめ
:2017/05/13(土) 16:12:27
くそ、風で匂いが拡散されてるのか。これじゃ捨て身アタックくらいしかできることがないじゃないか!ああ、今回はここまでか…調子よかったんだけどな。
それぞれがスティック、ハープを持っている。浄化される準備でもするかと気だるげにぼーとしていると、なぜかこちらに走り出すプリキュア。ハピネスハリケーンで時折視界が遮られるが、それでもこちらに迫っているのは見間違えようがない。予想外すぎて固まってしまう。
ついに目の前に、っていうか囲まれた。振り上げられる腕。なにこれこわい。
「…せーのぉ!!」
ピーチの気の抜けた掛け声を皮切りにスティックで殴られた。四方向から。え、え…?
「…ちょ、え、い、いたっ痛い!」
「ホントにナケワメーケしゃべった!!」
「パッションの言ってた通りね!」
「えいっ…!」
「やっぱり! どうしてナケワメーケが喋ってるのよ! 何が目的?!」
「おまえらが何の目的だよっ!! イタっ…やめ、ちょ、殴るの止めて!?! これただのいじめ!!!」
正義の味方に鈍器(スティック)で殴られる。この絵面ただの弱い者いじめじゃね?!ってかまじ痛い!!
「ナケワメーケに話す機能なんてつけて何のつもり!」
「ちょっとアンタ意思があるの?」
「ごめんね…!」
「質問しながら殴るなっ! 痛っ! ごめんとか言っといて一番力入ってるぞ黄色い奴っ!いたいっ、ごめんなさい、止めてっ!」
「質問に答えなさいっ!!」
殴られ過ぎて意識が遠のいてきた。なんなのなんで殴るの止めてくれないの。質問?意思があるのかって?そりゃあるよ。だって…
「だってバイトだからぁっー…!」
そんな言葉を叫んだのを最後にぷつりと意識が途切れた。
…ふと目が覚めるとそこは自分の部屋だった。身体も自分のものだ。戻ってきたらしい。戻ってこれたのか…先ほどまでのことを思い出す。プリキュアにタコ殴りにされる自分。え、ていうかなんだったのあれ。プリキュアって暴力団だったの?力のないものを力のあるやつが攻撃するって正義的にどうなんですか!一般ピーポーですよこっちは!
「っ痛っ…」
思わず打ち震えた瞬間身体のあちこちに痛みが走る。服をめくると痣が至る所にできていた。
まじかよ…やばいよこれ。まああれだけ殴られて痣だけってのもすごいが。っていうかパインに殴られたとこだけ痣デカいんだけど。しかも脇腹とか防御の薄そうなところばかり。あいつやっぱえげつないわ…
それにしても意識がこっちに戻ったってことは浄化されたってことでいいのだろうか。殴られても浄化ってされるんだね知らなかったよ。でも普通にやってほしかった。
プリキュアと会話した気もするけどまあいいか別に。あの怪物に鳴き声以外のコミュニケーションのとり方があるとは思わなかったが。
あー、次バイトするの嫌だなあ…
数日後に振り込まれていたバイト代は未だかつてない金額でした。
288
:
そらまめ
:2017/05/13(土) 16:13:01
以上です。
ありがとうございました。
289
:
名無しさん
:2017/05/13(土) 16:38:45
>>288
このシリーズ好き! 続きが読めるとは嬉しいです。
バイト君、受難なんだけど、それが何とも楽しいんだよねw
続きも楽しみにしています。
290
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/05/21(日) 13:04:03
こんにちは。
めちゃくちゃ遅くなっちゃいましたが、まほプリ最終回記念SS、ようやく続きが書けました。
これで完結です。7〜8レス使わせて頂きます。
291
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/05/21(日) 13:04:35
「はー! 今日のお月様、真ん丸だね〜」
空に浮かべた箒に腰かけて、ことはが無邪気な歓声を上げる。モフ!と嬉しそうに応じるのは、彼女の隣にちょこんと座ったモフルンだ。
魔法界から見る月は、ナシマホウ界から見るよりも青く輝く。でもそれ以外は、大きさも光の強さも変わらない。月は日々形を変えながら、二つの世界を見守っている。
「この姿になったばかりの頃は、何もかも小さく見えたけど」
ことはがパッと右手を開いて、まるで月を掴もうとでもするように、その掌を天にかざした。
「お月様と……あと、お日様は変わらないね。わたしが小さい頃も、大きくなっても」
そう言いながら、今度は下の方に四角く見える光に目を移す。この光は自然の光ではなくて、窓から漏れる部屋の灯り。部屋の中では、みらいとリコが並んでベッドに腰かけていて、ことはとモフルンに気付き、二人同時に笑顔で手を振った。
「それから、みらいとリコとモフルンも、ずーっと変わらない」
「モ〜フ!」
さっきよりさらに嬉しそうなモフルンの声に、ことはがまるで花が咲いたような笑顔を見せる。
リコの夏休みに合わせて、みらいとモフルン、そしてことはは、今日から魔法界に遊びに来ていた。明日は久しぶりに魔法学校の夏祭りを楽しんで、その後は四人であちこちに出かけ、いろんな人に会って、魔法界を満喫しようという計画だ。
「それで、はーちゃん。モフルンに聞きたいことって、何モフ?」
モフルンが、首をかしげてことはを見上げる。さっきそう耳打ちされて、ことはと一緒にリコの部屋を出て来たのだ。モフルンの言葉にいつになく真面目な表情になったことはは、まるで内緒話でもするように、この小さな親友に顔を近づけた。
「あのね。ナシマホウ界から魔法界まで、どれくらい時間がかかったか、教えて。カタツムリニアに、どれくらい乗ってた? 春にリコがナシマホウ界に行った時と比べて、短くなってるかな」
「モフ……」
モフルンが少し考えてから、ニコリと笑って答える。
「短くなってるモフ!」
「ホント!? どれくらい?」
「えーっとぉ……」
ことはに勢い込んで尋ねられて、モフルンが記憶を辿るようにじっと夜空を見つめる。
以前よりも遥か遠くに隔たってしまった、魔法界とナシマホウ界。リコを含めた魔法界の人々の数えきれない試行錯誤の末、やっとこの春、カタツムリニアが再び二つの世界を繋いだ。ただ、やはり以前と違って、行き来するには何日もカタツムリニアに乗らなくてはならない。
みらいが夏休みを魔法界で過ごしたいと言い出した時、リコはそう言って、魔法界に着くまでにかかる時間を細かく計算していた。
「リコは、今日の夕方に魔法界に着くはずだ、って言ってたモフ。でも実際に着いたのは、ちょうどお昼ご飯の時間だったモフ」
両手をいっぱいに広げて、嬉しそうに説明するモフルン。だが、それを聞いたことはは、明らかにがっかりした様子で肩を落とした。
「そっか……。まだちょっとしか近くなってないんだね、魔法界とナシマホウ界」
俯くことはを見て、モフルンの身振り手振りがさらに大きくなる。
「そんなことないモフ! 夕方がお昼になったんだから、凄いモフ!」
「でも、その前に何日も――前の何倍も時間がかかってるんでしょ? 頑張っているんだけど、なかなか一気には近くならなくて……」
「大丈夫モフ。はーちゃんが頑張ってるってことは、みらいもリコも、モフルンも分かってるモフ」
「ありがとう、モフルン」
ことはがようやくうっすらと微笑んで、もう一度足下の窓に目をやる。みらいとリコは相変わらずベッドに腰かけたまま、どうやら話に夢中のようだ。今度は二人がこちらを見る前に目をそらして、ことはは小さくため息をついた。
「わたし、もっともっと、みらいとリコの力になりたい。何かほかに、わたしに出来ることって……」
ことはがそう言いかけた時。
「おや。ことは君、来ておったのか」
「お久しぶりですわ」
不意に声をかけられて、ことはが驚いて顔を上げる。中空からことはとモフルンを見つめていたのは、魔法の絨毯に乗った校長先生と、その掌の上に浮かぶ魔法の水晶だった。
「校長先生! こんな時間にどうしたんですか?」
「明日の天気が気になって、空の様子を見に来たのじゃ。明日は夏祭りじゃからな」
「そっか。お祭りだぁ!」
夏祭りと聞いて明るい表情になったことはに、校長も静かに微笑む。
「君も花火を上げたんじゃったな、みらい君やリコ君と一緒に」
「はい。みんなでパチパチ花を探して、みんなで打ち上げました」
あの時の花火を思い浮かべているのか、ことはが懐かしそうに夜空を見上げる。と、不意にその目がキラリときらめいた。
292
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/05/21(日) 13:05:06
「はー! そうだっ!」
「モフ?」
首を傾げるモフルンに、何だか得意そうにエヘヘ……と笑って見せてから、ことはが目の前に浮かぶ魔法の絨毯の方に向き直る。
「校長先生! お願いがあります!」
箒から今にも落ちそうな勢いで迫ることはに、怪訝そうに頷いた校長先生は、彼女の話を聞いて、今度はあっけにとられた顔つきになった。
サンタとサンタのクリスマス( 花の章 )
「よぉし。こっちの袋は全部詰め終わったぜ。まゆみ、そっちはどうだ?」
「うん、こっちも完了!」
ジュンとまゆみがハイタッチをして、楽しげに笑い合う。その隣では、かな、ケイ、エミリーの三人がプレゼントの包みをリレーのように手渡しながら、せっせと袋に詰めている。
(何だか、あの年のハロウィンを思い出すなぁ)
老若男女、たくさんの人が賑やかに作業している、津奈木第一中学校の体育館の一角。届け先のリストをチェックしながら、みらいはそんな仲間たちの様子を眺め、リコと目と目を見交わして、嬉しそうに微笑んだ。
が、次の瞬間、二人揃ってギクリと首を縮める。ジュンとまゆみの、こんな会話が聞こえて来たからだ。
「さて、そろそろ橇に積み込むか。どこにあるんだ?」
「そり……? ウフフ、そこまでやれたら素敵だけど、それはちょっと本格的過ぎ」
可笑しそうに笑うまゆみに、ジュンの方は不思議そうに目をパチパチさせる。
「じゃあ、これどうやって運ぶんだ?」
「車を使う人が多いかな。わたしたちは自転車だけど……」
「自転車かぁっ!?」
今度はまゆみが目をパチクリさせる番だった。
たまりかねたリコがジュンに駆け寄る。だが一足早く、ジュンはガシッとまゆみの両腕を掴んだ。
「じゃ、じゃあ、今夜はあたいたちも、自転車に触れるのかっ!?」
「う、うん」
「そうかぁ。同じサンタでも、こっちは空じゃなくて地上を走るんだもんなぁ!」
「え? 同じサンタ、って……」
「空じゃなくて、ってどういうこと!?」
まゆみの言葉を遮って勢いよくジュンに迫ったのは、勿論、かなだ。慌ててそちらに方向転換しようとしたリコだったが、その時にはみらいがリコの脇をすり抜けて、かなの肩を両手で押さえていた。
「かな、落ち着いて」
「だって、みらい。空を走るサンタってことは、本物のサンタクロースでしょう?」
ジュンに負けず劣らず目を輝かせて、かなが再びジュンに迫る。
「ねえ、見たことあるの!?」
「い、いやぁ、それは……」
ようやく口を滑らせたことに気付いたジュンが、困った顔で言葉を濁す。その後を、みらいが急いで引き取った。
「いやいや、“空じゃなくて”、って言うのは、そのぉ……“そこまで本格的じゃなくて”、って意味だよ! ね? ジュン」
「へ? ……あ、ああ。そうそう」
引きつった笑顔を作って、カクカクと頷くジュン。その顔とみらいの顔に交互に目をやってから、かなは残念そうな声で言った。
「え、違うの? てっきり、空を走るサンタクロースの橇を見たことがあるのかと思ったのに」
ジュンがそっと胸をなでおろし、みらいはかなにニコリと笑いかけてから、リコに向かってパチリと片目をつぶって見せた。
(何だか懐かしいわ)
リコが思わず、クスリと笑う。プレゼントの準備が再開されると、まゆみがニコニコしながらリコの隣にやって来た。
「懐かしいでしょ? かなのあの反応」
「え、ええ。それに、なんか勝木さんとみらいって、中学の頃より仲良くなったみたいね。前は名前で呼び合ったりしてなかったと思うけど……」
「ああ、それはね。それこそ、サンタクロースにも関係があるんだけど」
「え、サンタクロース?」
怪訝そうな顔をするリコに、まゆみが少し得意げに頷いて、ゆっくりと話し始める。リコたちから少し離れたところでは、みらいとジュンがプレゼントの包みを前にして話し込んでいる。かなは、もうすっかり笑顔になって、ケイとエミリーと一緒にあのハロウィンの日の思い出話に花を咲かせているようだ。
久しぶりに会った友達同士の、賑やかな語らいのひととき。だが、やがてみらいとリコはもう一度顔を見合わせると、体育館の入り口の方を窺った。
293
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/05/21(日) 13:05:36
みらいが再びリコの隣にやって来る。
「ねえ、リコ。はーちゃん、まだ来ないのかな」
「そうね。わたしたちがここにいることは、分かっている気がするんだけど……」
リコが少々自信なさそうな口調になる。
ことはには、夏休みに魔法界で会った時、クリスマス・イブの夕方にここで会おうと伝えてある。リコが予定より半日も早く着いたとは言うものの、もう日も傾いて、そろそろリコたちが到着する予定だった時刻だ。
そもそも時刻には関係なく、みらいもリコも二人が一緒に居れば、ことはもすぐに現れるものだと思い込んでいた。それに加えて、かなが今朝ことはをこの近くで目撃したという話も聞いている。
それなのに、なぜ彼女が一向に現れないのか……。みらいにもリコにも、まるで見当がつかない。
「う〜ん……せめてこっちから、はーちゃんに連絡出来ればいいんだけどな……」
昔と同じく眉を八の字にして考え込むみらいに、そうね、とリコが低い声で相槌を打つ。その顔を見て、みらいは表情も声も努めて明るくして言った。
「でも、はーちゃんのことだから、きっともうすぐ来るよね?」
「きっと来るモフ!」
みらいの鞄の中からそっと顔を出して、モフルンも小さく声を上げる。
「ええ……そうね」
リコはまだ心配そうな顔つきながら、そう言ってこくんと頷いた。
しかし、それから一時間以上経って、プレゼントの準備が全て終わっても、ことははやって来なかった。短い冬の一日は既にとっぷりと暮れて、白々とした蛍光灯の光が体育館を照らしている。
「サンタさんたちは、そろそろ着替えて下さーい」
事務局のメンバーの一人が、時計を見て声を張り上げる。はーい、と張り切って答えるかなの声を聞きながら、みらいとリコがもう一度入口に目をやった時、そこに見慣れた人影が現れた。
「悪ぃ、遅くなった。準備、出来たか?」
体育館に駈け込んで来たのは、リコたちが来る前に買い出しに出かけていた、壮太とゆうとだった。
「よぉ、リコ。それにみんな。よく来たな!」
「久しぶりだね! 元気だった?」
集まって来た仲間たちの中にリコたちの姿を見つけて、二人が声を弾ませる。
「いろいろ買って来たぜ。これで雰囲気もばっちりだろ」
壮太がそう言いながら、持っていた袋の中の物を取り出して見せた。
星形の蛍光シートや、カラフルなモール。クリスマスの様々なアイテムが描かれた、大ぶりのシール……。
「それ、どうするの?」
「自転車に飾り付けるんだ。サンタの乗り物なんだから、クリスマスらしい方がいいだろ?」
「なるほどね」
リコの感心した様子を見て、壮太は得意そうに胸を反らしてから、もうひとつの袋を差し出した。
「そしてこれは、差し入れのイチゴメロンパン。出発前の腹ごしらえに、みんなで食べようぜ」
全員から、わーっという歓声が上がった。
「ところで壮太。その辺で、はーちゃんを見かけなかった?」
「ああ、はーちゃんも買い出しか? ショッピングモールから出ていくところをちらっと見かけたから、先に着いてると思ったんだけど」
「えっ!?」
「今、ショッピングモール、って言いました!?」
事もなげに答えた壮太が、二人の驚いた様子に怪訝そうな顔になる。
「……違うのか?」
「わたしたち、まだはーちゃんに会ってないんだよ」
「えっ?」
みらいの言葉に、今度は壮太より先に、その隣に居たゆうとが驚きの声を上げた。
「それじゃあ、あれはやっぱり見間違えだったのかな……。昨日、花海さんらしき人影が、津奈木神社の石段を上っていくのを見たんだ。てっきり、イブの前日から朝日奈さんの家に来てるんだと思ってたんだけど」
「じゃあ、はーちゃんは昨日からこの町に……?」
ますます心配そうに囁くリコの隣で、みらいは口の中でブツブツと呟く。
「神社の石段に、ショッピングモール。かなが見かけたのは、通学路の並木道……」
「それって……全部わたしたちが、はーちゃんと一緒に行った場所じゃない?」
「じゃあ、ひょっとして!」
リコの言葉に、みらいが顔を上げる。
「リコ! あの場所に行ってみよう!」
「え……ええ。でも、はーちゃんはどうして……」
「それは直接、はーちゃんに聞いてみようよ」
みらいが勢い込んで、リコの顔を覗き込む。
「こっちから連絡が取れないんだから、探しに行くしかないよ! だって、はーちゃんは今ならきっと、近くに居るはずだもの」
あの頃と少しも変わらない、みらいの力強い眼差し。それを見つめるリコの顔に、ゆっくりと笑みが浮かぶ。
「そうね。行きましょう!」
294
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/05/21(日) 13:06:06
頷き合った二人が、仲間たちの方に向き直る。
「わたしたち、ちょっと行って来るね。まゆみ、出発の時間になっても戻らなかったら、先に行って。すぐに追いかけるから」
「ジュン。もうすぐ出発みたいだから、後は任せたわ」
「ええっ!? あたいかよ!」
「ちょ、ちょっとみらい!?」
慌てるジュンとまゆみ、そして心配そうな仲間たちに向かって、二人一緒に拝むような仕草をしてみせてから、みらいとリコは、体育館の外に飛び出した。
校庭は、人でごった返していた。プレゼントの袋を車に積み込んでいる人々。既にサンタの衣装を身に着けて、付け髭姿を笑顔で見せ合っている人々……。ポケットの中の箒を取り出そうとしたリコが、それを見て慌てて元に戻す。
「リコ、こっち!」
みらいはリコの手を引っ張って、体育館の裏手に回った。そしてさっきのリコと同じように、ゴソゴソとポケットの中を探る。
「無理よ、みらい。すぐ近くにこんなに人が居るんじゃ、空は……」
「違う違う。これだよ」
みらいがポケットから取り出したのは、箒ではなく小さな鍵だった。並んでいる自転車の、一台の鍵穴にそれを差し込む。
「リコは後ろに乗って。しっかり掴まっててよ!」
モフルンを前かごに乗せ、自転車に飛び乗ったみらいを見て、リコも慌ててその後ろに座った。
自転車は裏口から学校の外に出て、狭い坂道を駆け下りる。両腕をみらいの腰に回してギュッとしがみついているリコは、どこに行くのか、みらいに尋ねたりはしなかった。尋ねなくても、リコには行き先の見当がついているのだろう。
(二人乗りって言えば、あの頃は大抵、わたしが後ろだったけど……)
リコの体温とその腕の感触が何だか嬉しくて、みらいは張り切ってペダルを漕ぐ。だが並木を抜けて公園に差し掛かったところで、慌てた様子で声を上げた。
「あれ……お店は? ワゴンが見えないよぉ!」
すっかり暗くなった公園の中、目指す思い出の場所――イチゴメロンパンを売っているワゴン車が、いつもの場所に見当たらない。
「そんな……」
呆然と呟くみらいに、すぐ後ろから柔らかくて冷静な声がかけられる。
「落ち着いて、みらい。壮太君が差し入れを買って来てくれたんだから、きっと店じまいしてすぐのはずよ。はーちゃんは、まだ公園の中に居るかもしれないわ」
「探すモフ!」
モフルンも励ますようにそう言って、みらいを見上げる。
「うん、そうだね」
みらいの声に、いつもの調子が戻った。
誰も居ない公園の中に、自転車を乗り入れる。
「はーちゃーん!」
「はーちゃーん!」
「居たら返事するモフー!」
三人で声を張り上げながら、公園の中をぐるりと回った。
キョロキョロと辺りを見回していたみらいが、あ、と小さく息を飲む。木の陰で、何か桃色のものが動いたような気がしたのだ。
慌ててペダルを踏む足にぐんと力を入れる。だが次の瞬間、前輪が何かを引っ掛けたらしく、自転車はぐらりと大きくよろけた。
「うわぁっ!」
「モフっ!」
みらいとリコ、そしてモフルンが、思わず悲鳴を上げた、その時。
「キュアップ・ラパパ! 自転車よ、空を飛べるようになぁれ!」
あどけない声と共に、自転車がふわりと宙に浮く。公園が見る見る足下に遠ざかっていくのを、目をパチパチさせて見ているみらいの隣に、すぅっとエメラルドグリーンの箒が並んだ。
「はーちゃん!!!」
みらい、リコ、モフルン。三人のぴたりと揃った声に、箒に乗ったことはが、二ヒヒ……と楽しそうに笑う。彼女は既にサンタクロースの衣装を着て、背中には白い袋を背負っていた。
「もうっ! どこ行ってたの?」
「ごめん、遅くなっちゃった」
言葉のわりには嬉しそうなリコの声に、ことはは自分の頭をポカリと軽くげんこつで叩いて見せた。
箒と自転車は滑るように空を走り、程なくして湖が一望できる、誰も居ない展望台に降り立った。ここは、みらいとリコ、そしてモフルンにとっては思い出の場所。いくら探してもはーちゃんが見つからなくて途方に暮れていた、あの夏の夜に語り合った場所だ。
「あのね。みらいとリコにプレゼントがあって、その準備をしてたんだ」
ことはがそう言いながら、背中に背負っていた袋の中から大きな靴下を三つ取り出す。そしてそのうちの二つを、みらいとリコに手渡した。
「開けてみて!」
295
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/05/21(日) 13:06:38
「え……これって!」
「魔法の水晶!?」
みらいとリコが、驚きの声を上げる。
靴下の中から現れたのは、みらいがピンク色、リコが紫色の台座の付いた、校長先生のものより少し小ぶりの水晶玉だった。
「うん。そしてこれは、わたしの分」
ことはがもうひとつの靴下の中から、緑色の台座が付いた水晶を取り出す。
「ごめんね。魔法界とナシマホウ界が前みたいに近くなるには、まだもう少し時間がかかりそうなの……」
ことはは、すまなそうに顔を俯かせた。
「だからわたし、考えたんだ。みんながひとつずつ水晶を持っていれば、話がしたいときに、声が聞きたいときに、いつでも連絡が取れるでしょ?」
そう言って、ことはが今度は少し得意そうに微笑む。
「でも、水晶さんには校長先生のお仕事があるから、わたしたちの連絡まではお願いできない。だからね。水晶さんと校長先生にお願いして、わたし、しばらく水晶さんに弟子入りしてたの!」
「ええ〜っ!?」
「弟子入り、って……」
みらいとリコがあっけにとられる中、ことはが持っている水晶に手をかざす。すると水晶はぼうっと光を帯びて、その中に女性の横顔の像が浮かび上がった。
「なかなか筋が良かったですわ。占いは、あまり得意ではないようでしたけど」
「エヘヘ……。水晶さんみたいにこの中に居るわけじゃないから、難しくて……。だから、わたしは連絡係専門ね」
「はーちゃん……凄いよ!」
みらいが震える声でそう呟いて、ことはを優しく抱き締める。
「ありがとう、はーちゃん」
リコも涙ぐんだまま、ことはの肩をそっと抱いた。
「はー!」
ことはが二人の背中に手を回して、幸せそうに微笑む。
まだ自転車の前かごに乗ったまま、その様子をニコニコと眺めていたモフルンが、ふと空の一角に目を留めて、モフ!と声を上げた。
「みらい。みらい!」
「ん? なぁに? モフルン」
ことはから離れたみらいの肩に、モフルンが飛び乗って、空を指差して見せる。
「モフ〜! 今年も見えてるモフ!」
「え? 今年も、って……。あ、そっか!」
空を眺めたみらいが、パッと顔を輝かせる。そしておもむろに、ことはが持っている水晶玉に向かって叫んだ。
「水晶さん! 今、校長先生とお話できませんか?」
「今? これから大事な祭典に向かわれるところなんですが……」
「出来ればその前に、ほんの少しだけ!」
「分かりましたわ」
「みらい、一体どうしたの?」
「あはは……。ちょっとね」
突然の行動に目を丸くするリコとことはに、みらいはモフルンと顔を見合わせ、悪戯っぽく微笑んでみせる。リコがますます怪訝そうな表情になった時、水晶の中に校長先生の姿が映し出された。
「やあ、みらい君。どうした?」
「すみません、校長先生。大事な祭典って、クリスマスの、ですよね?」
「ああ。リコ君から聞いておるか? これから光の祭典の、最後の光を灯しに行くんじゃよ」
「それ、水晶さんを通してわたしたちにも見せて頂けませんか?」
水晶の中の校長先生が、一瞬キョトンとした顔つきになった。
「それは別に構わんが……」
「ありがとうございます!」
水晶の光が、いったん消える。それを見届けてから、みらいはさっきモフルンが指差した空の一角を、改めて指差した。
「あそこに星が見えるでしょ? ほら、ひとつだけ青っぽく光ってる……」
「ああ、あの星だね!」
「ええ、わたしも分かったわ」
ことはとリコも、空を見ながら頷く。今日は雲が多くて、あまり星が出ていない。その星もぼんやりと頼りなげに光っていたが、みらいの言う通り少し変わった色をしているので、見つけやすかった。
「あの星を、よ〜く見ててね」
みらいがさも重大そうに二人に告げる。その時再び水晶が輝いて、小さな無数の光を灯した、魔法学校の母なる木が映し出された。
296
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/05/21(日) 13:07:08
「キュアップ・ラパパ! マザー・ラパーパよ、我らの想いを輝かせたまえ!」
校長先生の力強い声と共に、小さな光がその強さを増して、まるで母なる木そのものが光っているかのような燦然たる輝きを放つ。
「あっ!」
その瞬間、リコが驚きの声を上げた。空にぼんやりと見えていた星が、見る見るうちに光を増して、青から緑に、そして他のどの星よりも明るいエメラルド色の星になったのだ。
「はー! あれって……」
「もしかして……魔法界の、母なる木の光!?」
「うん! やっぱりそうだったね〜!」
大きく目を見開いて星を見つめるリコの隣に、みらいが笑顔で歩み寄る。
「あの星ね。クリスマスにサンタさんになってプレゼントを配る時にだけ、いつも輝いてたの。何だか気になって眺めていたら、ある年、今みたいに急に光が強くなる瞬間を目撃してね」
「モフ」
みらいの肩の上で、モフルンがニコリと笑う。その時は動くことも喋ることも出来なくても、モフルンもみらいと一緒にその光景を見ていたのだ。
「星に詳しい並木君に聞いても、何の星だか分からなくて。それでずっと不思議だったんだけど、リコにクリスマスの話を聞いた時、もしかしたら、って思ったんだ」
「そう……。ちゃんと届いてたのね、この世界に」
まるで自分の言葉を噛みしめるように、リコがゆっくりと呟く。そして、手摺に置かれたみらいの手に自分の手を重ねると、空から目を離して隣に立つ親友を見つめた。
「ありがとう、みらい」
「さぁ、今度は君たちの番じゃな。応援しておるぞ」
校長先生の穏やかな励ましの声を最後に、水晶の光が消えた。すると、それとほぼ同時に、どこからともなくシャンシャンという鈴の音が聞こえて来た。
「え……あれって……!」
今度はみらいが驚いた顔で、展望台の後方――さっきやって来た方角の空を見つめた。
その鈴の音が聞こえてきた時、津奈木第一中学校では、もう全員がサンタの衣装に着替え、校庭に集合したところだった。
「あ、魔法つかい! じゃなくて……本物のサンタさん!?」
かながいち早く空を指差して、歓喜の声を上げる。その指の先には、トナカイが引く橇の姿が十台ばかり連なって、鈴の音と共に、次第にこちらに近付いて来ていた。
今回ばかりは見間違いだと言う者は誰もおらず、皆ポカンと口を開けて天を仰いでいる。ジュン、ケイ、エミリーの三人だけが、抱えたプレゼントの袋の下で、互いにこっそりと親指を立て合った。
「サンタクロースだ!」
「本物のサンタクロースが帰って来た!」
「あ! 降りて来るぞ!」
校庭のあちこちからそんな声が上がる中、事務局代表の高木先生が、皆に引っ張り出されるような格好で前に進み出る。
やがて、校庭のすぐ上までやって来た橇の列の中から、一台の橇が音も無く着陸し、そこから赤い服の男が降りて来た。
「あ、グスタフさん」
「この町のサンタさんたちがここに集まってるって、教えたの?」
「ああ。さっきリコに頼まれて、デンポッポで地図を送ったんだ」
ケイ、エミリー、ジュンがひそひそと囁き合う中、魔法商店街で箒屋を営むグスタフが、高木先生に歩み寄る。
「いやぁ、まさか本物のサンタクロースに会えるなんて、思ってもみませんでした」
「いや、今はどっちも本物のサンタじゃないですか。それに、ここではあんたたちが主役で俺たちは手伝いだ。もし積みきれないプレゼントがあったら、運びますよ」
「おお! それは有り難いな」
高木先生とグスタフが、がっちりと握手を交わす。それを見て、空と地上の両方から、盛大な拍手が沸き起こった。
297
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/05/21(日) 13:07:38
「凄い……。凄いね、リコ! 魔法界のサンタさんも、ナシマホウ界のサンタさんも、みんな笑顔で、手を取り合ってて、とってもとっても……楽しそうで……!」
「もう、みらいったら」
頬を真っ赤に染めて興奮気味に言い募るみらいを、リコが嬉しそうに見つめる。
みらいたちは魔法で姿を隠し、箒に乗って校庭での一部始終を見守っていた。
「津奈木町だけじゃないわ。今日は昔みたいに、魔法界のサンタたちが手分けしてナシマホウ界のあちこちに行ってるの。ただし、プレゼントを配るためじゃなくて、ナシマホウ界のサンタさんたちの手伝いをするためにね」
人差し指をピンと立てたいつものポーズで得意げにそう語ってから、リコは隣で身を乗り出している親友に、柔らかく微笑みかけた。
「みんな、とっても嬉しいのよ。ナシマホウ界の人たちが、サンタさんを続けてくれていたっていうことが。だから、これはほんのお礼の気持ちよ」
車にギュウギュウ詰めになっていた袋を少し下ろして、それを橇に積んでもらっているナシマホウ界のサンタが居る。空飛ぶトナカイにこわごわ触れようとしているナシマホウ界のサンタの隣で、興味津々で車の運転席を覗き込んでいる魔法界のサンタが居る。
持っていたお菓子を早速振る舞う者。お互いのファッションチェックを始める者……。ただでさえごった返していた校庭が、さらに賑やかで、笑顔溢れる場所になっている。
その光景をキラキラした目で見つめてから、みらいは満面の笑顔でリコを振り返った。
「リコ、ありがとう!」
「さぁ、わたしたちも、サンタさん頑張ろう!」
ことはが明るい声を上げて、もう一度魔法の杖を構える。
「キュアップ・ラパパ! みんなのサンタさんの衣装よ、出ろー!」
くるりと杖を持ち替えて空中に線を描くと、みらいとリコ、それにモフルンが、一瞬でサンタクロースの姿になった。
そっと地上に降り立って姿を現し、停めておいた自転車を引いて、三人で歩き出す。
「はー! 今年はナシマホウ界のクリスマスで、来年は魔法界のクリスマスだね〜。これから毎年、楽しみだなぁ!」
「そしてこれからは、リコともはーちゃんとも、好きな時にお喋り出来るんでしょ? それってワクワクもんだぁ!」
「ワクワクもんだしぃ!」
久しぶりにみらいとことはの口癖を聞いて頬を緩めたリコが、ふと気が付いたように、ことはに問いかけた。
「そう言えば、はーちゃん。どうしてナシマホウ界の色々なところに出かけてたの? 勝木さんや、壮太君やゆうと君が見かけたって…・・・」
「ああ、それはね。魔法界とナシマホウ界の、いろ〜んな場所に詰まっているわたしたちの思い出を、水晶に込めに行ったの。三つの水晶を繋ぐ力にしたくて」
「じゃあ、校長先生のところだけじゃなくて、魔法界の他の場所にも……?」
驚くリコに向かって、ことはが再び、エヘヘ……と頭を掻く。そんな二人に笑顔を向けながら、みらいがゆっくりと、噛みしめるように言った。
「これからは、わたしたちの水晶に、もっともっと思い出を込めていけるよね。魔法界の友達、ナシマホウ界の友達、そしてこれから出会う、もっともっとた〜っくさんの人たちとの思い出も一緒に。ねっ!」
「うん!!」
「モフ!」
リコとことは、そしてモフルンが、みらいに負けず劣らずの笑顔で力強く頷いた。
「あ、やっと帰って来た!」
「おーい、みらい、リコー!」
「はーちゃん、久しぶりー!」
まゆみたちが、みらいたちを見つけて一斉に手を振る。その後ろでは、宙に浮かぶ橇に乗ったグスタフが、ニヤリと笑ってさっと片手を挙げてみせた。
三人は、もう一度嬉しそうに顔を見合わせてから、頬を染め、目を輝かせて仲間たちの元へと駆け寄った。
〜完〜
298
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2017/05/21(日) 13:08:41
以上です。ありがとうございました! 時間かかってすみません。
次は、またまたしばらく中断しているフレッシュ長編、頑張ります!
299
:
名無しさん
:2017/05/26(金) 00:17:57
>>298
季節の描写が美しかったです
300
:
名無しさん
:2017/06/05(月) 00:10:25
夏は競作やらないんですか?
301
:
運営
:2017/06/05(月) 12:53:59
>>300
こんにちは。
そういうご質問頂けるのはとっても嬉しいんですが、年に何度もは運営側に余力がなくて(涙)
年に一度、サイト開設月の二月を目処に行っています。
ご了解下さい。
302
:
Mitchell & Carroll
:2017/06/13(火) 23:18:27
アイカツとのコラボで『血を吸いに来てやったわよ! 〜ノーブル学園編〜』
みなみ「やだ、空が真っ黒だわ」
トワ「困りますわ!せっかくシーツを干したのに……」
きらら「何アレ……蝙蝠の大群?」
はるか「まさか……」
パフ「校舎のてっぺんに誰か立ってるパフー!!」
アロマ「こっちに向かって飛んでくるロマーー!!」
ユリカ「ユリカ様が血を吸いに来てやったわよ!!」
きらら「血を吸いに……まさかヴァンパイア!?」
みなみ「ヴァ……(卒倒)」
はるか「みなみさん!?」
ユリカ「あらあら、わたくしの麗しさに見とれて気を失ってしまったようね」
トワ「誰一人として、血を吸わせませんわ!立ち去るのです!!」
ユリカ「ふふ……高潔な精神、嫌いじゃなくってよ。まずは、あなたのその真紅の血からいただくわ!」
トワ「いやっ!?」
はるか「トワちゃん!!」
きらら「トワっち!!」
トワ「うぅ……血を……血を下さいまし……」
パフ「トワ様ーー!?」
ユリカ「吸血鬼に血を吸われると、その者もまた吸血鬼になってしまうのよ。さあ、お友達の血を吸ってあげなさい。我が一族の繁栄のために!!」
トワ「きらら……血を!!」
はるか「危ないっきららちゃん!!」
???「させるかーーー!!!」
トワ「(ドンッ)うっ!?」
はるか「あ、あなたは……!」
ユリカ「わたくしたちの邪魔をするなんて……あなた、名を名乗りなさい!」
???「ふっふっふ……“根性ドーナツくん”よ!!!」
はるか「ありがとう、棒状ドーナツくん!」
棒状ドーナツくん「勘違いしないで。コイツ(きらら)を倒すのはあたしの役目なの、それまで誰にも邪魔させないってだけ」
きらら「ちょっと癪だけど……ありがと」
303
:
Mitchell & Carroll
:2017/06/13(火) 23:19:11
ユリカ「なんなの、あなたは!そこを退きなさい!さもないと、血を吸うわよ!!」
パフ「吸えるもんなら吸ってみなさいって顔してるパフ」
アロマ「凄いドヤ顔ロマ……」
ユリカ「そこを退いてくれたら、今度行われるアイドルのライブにあなたのステージを設けてあげられなくもないことも、なくもなくってよ」
薄情ドーナツくん「さあさあ!おとなしく血を吸われなさい!!」
きらら「さ、最低……!!」
トワ「ガブッ」
はるか「痛ッ!」
きらら「ああっいつの間に!はるはるー!!」
はるか「きららちゃん……きららちゃんの血とあたしの血を、仲良しさせよ?」
きらら「イヤッ!来ないで!!」
はるか「カプゥッ!!」
きらら「うあぁぁぁ!!年をとらないのはいいけど、昼間の撮影が……って、アレ??」
ユリカ「このプラカードをご覧なさい」
きらら「“ドッキリ”……?」
はるか「そういうわけなの、きららちゃん」
きらら「なぁ〜んだ……!」
トワ「はるか、大丈夫でしたか?わたくしの甘噛み具合など……」
はるか「バッチシだったよ、トワちゃん!」
ユリカ「……迎えのワゴンが来たようね。さあ、道頓ドーナツくん、行くわよ!あのワゴンがあなたを夢のステージへと運んでくれるわ!!」
道頓ドーナツくん「ああ、ファンが待っている……七色のペンライトを振って……オーーホッホッホ(ズボッ)」
はるか「消えた!!?」
きらら「行ってみよ!!」
パフ「――落とし穴に落っこちてるパフ〜」
アロマ「ドーナツが砂だらけロマ……」
ボロボロドーナツくん「……な?コ、コレは……?」
ユリカ「はい、モニターイヤホン。中継が繋がってるわ」
ジョニー別府「Amaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaazing!!!!ドーナツhoney!!!アルバトロスだぜ、yeah!!!!!!」
戦場ドーナツくん「アロマ……殺す?」
アロマ「ひぃぃぃ〜〜ロマ!??」
おわり
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