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大河×竜児ラブラブ妄想スレ 避難所2

1まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY:2009/10/29(木) 01:36:02 ID:???
ここは とらドラ! の主人公、逢坂大河と高須竜児のカップリングについて様々な妄想をするスレの避難所です。
アクセス規制で本スレに書けない、とかスレに書けないような18禁のエロエロ話を投下したい時とかに
お使いください。
    / _         ヽ、
   /二 - ニ=-     ヽ`
  ′           、   ',
  ',     /`l  / , \_/ |
  ∧    〈 ∨ ∨ ヽ冫l∨
    ',   /`|  u     ヽ
    ', /          /
    /  ̄\   、 -= /                   __
  / ̄\  `ヽ、≧ー                    _  /. : : .`ヽ、
 /__ `ヽ、_  /  、〈 、           /.:冫 ̄`'⌒ヽ `ヽ、 / 〉ヘ
/ ==',∧     ̄ ∧ 、\〉∨|         /.: : :′. : : : : : : : . 「∨ / / ヘ
     ',∧       | >  /│        /: :∧! : : : :∧ : : : : | ヽ ' ∠
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      ',∧      |′   ∨ ///> 、  Ⅵ: '仆〉\| '仆リヽ:|\_|: :|
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本スレ
【とらドラ!】大河×竜児【アマアマ妄想】Vol17
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1255435399/

173逢坂流高須大河の子作り計画 ◆QHsKY7H.TY:2010/04/09(金) 23:42:55 ID:???
◆side大河

初日はそのまま返ってきた。
二日目もそのまま返ってきた。
これはあからさまだったかと思い、少し勇気を出して決心し、今度は脱ぎたてのショーツを混ぜてみた。
夜、ここ最近こっそり竜児の動向をチェックしている大河は、今日も襖の隙間から竜児の部屋の襖を見つめている。
流石に中は覗いていない。
もし覗いてショーツに興奮している夫を見たらきっと立ち直れないからだ。
だが、ここで張ってればいずれは現行犯逮捕できるはずだと大河は張り込みを続ける。
警察でも探偵でも無い彼女だが、気分はシャーロック・●ームズだった。
もし今晩もそのまま返ってくれば彼は真人間。
同時に自分にそういった興味を持っていないことが照明されるが、変態趣味を知るよりは幾分良い。
いつでもベッドに戻って寝たふりが出来るよう、短距離走のスターティングのように腰を落として状況を見守る。
と、今夜も竜児が部屋から出て行き……洗濯機の方へと向かう。

「?」

不思議に思いつつもばれぬよう忍び足で後を付けると、洗濯機の前にで腕を組み悩む竜児の姿があった。
洗濯機の蓋は開けられておらず、蓋の上には大河のショーツ。

(洗う気……?もしかしてもう使用済みとか?それは無いか、静かだったし)

大河とて伊達に長く竜児と一緒にいるわけではない。
それぐらいの機微は読み取れた。
とすると……、

(未洗濯なのに気付いて洗濯しようと思ったけど、一つだけ洗うのは水道代やら電気代やらがMOTTAINAIと)

大河は正確に竜児の脳内をトレースし、やれやれここまでかと出て行こうとして、

ガッ!!

突然竜児がショーツを鷲づかみにするのを見た。

(!?)

大河が驚いてそのまま見ていると、竜児はお風呂場へと向かう。
竜児は風呂場にある洗面器にお湯を張ると、そのショーツを手洗いしだした。
眼はギラリと釣り上がり、口元は横に裂けるようにうっすらと開いて、見る人が見れば変態以外の何者でも無い。
大河は頭を抱えた。まさか手洗いするとは。
しかもそれはそれは楽しそう?に。
オカズにされるよりかはマシだが、トコトン自分は女の魅力が薄いんだと実感する。

「はぁ……」

つい、口に出してしまった溜息。

「!?」

それが竜児をビクッとさせ、大河の存在に気付かせた。



***

174逢坂流高須大河の子作り計画 ◆QHsKY7H.TY:2010/04/09(金) 23:44:33 ID:???
「た、大河?こ、これは……」

竜児は慌てていた。
何せ嫁とはいえショーツを手洗いしていたのだ。
言い逃れをするにも分が悪い。

「良い、何も言わなくてもわかってるから」

大河は諦めたかのようにその場から背を向け、

「お、おいちょっと待て!!」

竜児は何か勘違いされていると思い、必死に大河の腕を掴む。

「アンタは私よりも洗濯に興奮する、大丈夫、ちゃんとわかってる」
「い、いや全然わかってねぇよそれ!!」

大河の言葉になんだそりゃと竜児は言い返すが、

「じゃあアンタは私のショーツに……その……ム、ム、ムラムラ来てたの?」

言葉に詰まる。
ここでそれを認めてしまえば今までの苦労は水の泡。
何のために自制心を抑えてきたのかわかりゃしない。
かといって、自分が大河よりも家事を優先しているように言われるのも納得は出来ない。

「ほぅら、やっぱりそうじゃない。アンタは私より家事に魅力を感じるのよ」
「あ、いや違う、俺は……」

違う、と言いつつも決定的に反論も肯定も出来ない。
安っぽくても、譲れない思いが、それを許さない。

「お、俺はただ、大河を大事にしたくて……そういうのは抑えなきゃって思ってて、だからお前に魅力がないとかそういうのは……」
「……抑えなきゃ?」
「あ、いやそれは……」
「……今抑えなきゃって言った?」
「あ、だからその……」

痛い所を突っ込まれ、本心を見透かされそうになるが、それでも竜児は今一歩言葉にすることは出来ない。
そんな竜児に、

「……シたいの?」
「っ!?」

大河は艶めかしい声で振り向きながら尋ね、笑った。

「エロ犬」

笑われて、久しぶりにそう罵られて、けどさっきまでの嫌な空気は無くて。
一番言われたく無かった筈の言葉なのに、今はそう軽く言われたことが、竜児の心を軽くした。


この三ヶ月後、大河が懐妊している事に気付くのは、偶然……いや、きっと、



──────そういうふうに、なっている──────

175 ◆Eby4Hm2ero:2010/04/14(水) 02:25:18 ID:???
※三題噺で、一つのお題から二つ思いついちゃったんで片方を先行投下。

※なんで今、避難所でなのかというと、スピンオフ3の不幸のバッドエンド大全に触発されたシロモノだから。

※鬱展開注意。

176とらドラ!で三題噺・番外 ◆Eby4Hm2ero:2010/04/14(水) 02:28:12 ID:???
お題 「実乃梨」「そっち」「マイク」
     〜不幸のバッドエンド偏〜



 ニュースはスポーツコーナーに移り、画面の中でマイクを握るのは昔よりはるかに垢抜けた、しかしよく見知った顔。
 彼女が――櫛枝実乃梨が――太陽のような笑顔を取り戻したのはいつ頃なのだろうかと、ふと思う。
 高二の終盤には一度も笑う事は無かった。クラスが変わってからは顔を見る機会そのもの少なくなった。そして、卒業してからは会う事も無くなった。
 テレビの電源を消し、竜児は一枚のメモを手に立ち上がる。
「あ、兄貴、お出かけですかい?」
「おう、ちょっと野暮用だ」
「それじゃ、すぐに車を」
「いや、今日はいい。ちょいと一人で歩きたい気分なんでな」
「ですけど、気をつけないと鳳のところの若い連中がなんか騒いでたって話が……」
「鳳か……連中は確かに馬鹿だけど、流石に今事を起こしたらどうなるかぐらいはわかるだろうさ」
「はあ……」
「遅くなるかもしれねえから、何かあったらそっちで上手く処理しとけよ」


 実乃梨と亜美が教師に連れていかれた後、竜児は雪の中に小さな輝きを見つけた。
 ケンカの最中に外れ、踏みつけられたのだろう。無惨に折れ曲がってガラスビーズもいくつか取れてしまったヘアピンは、もうどうやっても直すことが出来ない事が明らかだった。
 そんな最悪の修学旅行から帰ってきて暫らく後……学校への届けだけを残して大河が姿を消した。
 捜そうにも手掛かりも心当たりも無く、悶々としていた時にやってきた一人の男。
『隣のマンションに住んでた娘の行き先を知らないか?』
 そう尋ねた男に必死で食い下がり、竜児は初めて逢坂陸郎が莫大な負債を抱えて逃亡したこと、大河もまた関係者として追われている事を知った。
 そして、その瞬間竜児は大河を捜すために裏の世界に足を踏み入れることを決意した。
 男――水地という名前だった――の勧めで時折『仕事』を手伝いつつ大学は経済学部へ進み、卒業後すぐに杯を交わし、思い知ったのは父親から受け継いだのが目つきだけではなかった事。
 その世界でメキメキと頭角を表わした竜児は今や27歳の若さでいっぱしの経済ヤクザ、若頭と呼ばれる身分である。
 だが、母親と共にアメリカに渡った後の大河の足跡だけは、どうしても掴むことが出来なかった。
 つい先日までは。

177とらドラ!で三題噺・番外 ◆Eby4Hm2ero:2010/04/14(水) 02:28:46 ID:???
 メモに示されたその店、『吉祥天国』は予想以上に小さなスナックだった。
 準備中の札を無視して扉を開けると、カラカラと鳴るベルの音と同時に飛んできたのは懐かしい罵声。
「ちょっとあんた!表の札見えなかったわけ?そのサングラスの下に開いてるのは節穴?まだ準備中よ準備中!」
 流石に多少雰囲気は変わりつつも、その美貌は衰えず。
 思わず笑みを浮かべながら、竜児は構わずにカウンターに座る。
「おう、すまねえ、どうにも腹が減っちまってな。チャーハンでも作ってもらえねえか?」
「はぁ?あんた目玉だけじゃなく脳味噌まで腐ってるわけ?ウチは定食屋じゃなくて……」
 そこまで一気に言い募った大河の言葉が止まり、その目が驚愕に見開かれる。竜児はくっくっと笑いながらサングラスを外して。
「よう……久しぶり」

 臨時休業になった『吉祥天国』で、二人は並んでグラスを傾ける。
「へえ……やっちゃんまだ働いてるんだ」
「もう必要も無いから止めろって言ってるんだけどな」
「何よ、あんたそんなに稼いでるわけ?」
「おう、まあな。大河が住んでたあの部屋が今や俺の家だって言えば、多少は予想が付くか?」
「へえ……そうだね、もう十年だものね……そりゃ色々変わるか」
「なあ、大河」
「ん?」
「……帰ってこねえか?泰子も喜ぶし、今の俺ならお前を守ってやれる。大河が望むならこの店を続けてもいいし」
「……駄目だよ」
「あのクソ親父ならとっくに捕まって、借金は自分の体で清算済ませてる。もう逃げ隠れする必要はねえんだ」
「そうじゃなくて……私は結局ママとも折り合い悪くてさ、二十歳前に家飛び出して……ここにくるまでに随分汚れちゃったもの」
「汚れたっていうなら俺の方がよっぽど上だ。なにせヤクザだぞ、ヤクザ」
「私は竜児を捨てたんだよ?それを今更……」
「俺はそんなこと気にしねえ。昔の色々を無かったことにして一からやり直すってのは、確かに無理かもしれねえさ。だけど、それも全部ひっくるめて改めて始めることなら出来るんじゃねえか?」
「……少し、考えさせて」
「おう、わかった。それじゃとりあえず帰るけど……そうだ、今日の勘定はツケといてもらえるか?」
「何よ竜児、あんた稼いでるんじゃなかったの?」
「おう、この店のボトル買い占めるぐらいは出来るけどな。金で大河に負い目つくらせてOK貰うってのは嫌だし、何よりまたここに来る理由ができるじゃねえか」
「まったくあんたは……変わったんだか変わってないんだか」

 別れ際の大河の苦笑を思い出しつつ、竜児はほろ酔い気分で夜の街を歩く。
「俺は諦めねえぞ、大河。毎日でも通って、必ずうんと言わせてみせるからな」
 と、その時突然背後からの衝撃。同時に脇腹に生じる灼熱感。
「え?」
 ぐらりと倒れながら目に映ったのは、赤く染まった刃を手にした若い男。
(こいつは確か、鳳の所の……)
 猛烈な痛みに手をやれば、ぬるりとした感触が流れ出していて。
(そうか……刺されたのか……)
 体が冷えていくのがわかる。同時に視界が昏くなっていく。
「大河……すまねえ……」
 それが、高須竜児の最期の言葉となった。
                              〜END〜

     ***

「いってぇ……」
 頬には机の冷たい感触。腰には鈍い痛み。
「おい大河、何するんだよ!」
「あんたが居眠りしたままうなされるなんて器用な真似してるから起こしてあげたんじゃない」
「だからっていきなり蹴るか普通?」
「仕方ないでしょ、両手が塞がってるんだから」
 その言葉の通り、大河は両腕に洗濯物を抱えていて。
「ああくそ、なんかすっげー嫌な夢を見てた気がする……」
「休みだからって昼間からぐーすか寝てたりするからバチがあたったのよ」
「あのなあ……何で俺が居眠りなんぞしてたと思ってやがる」
「あら、言い訳とは見苦しいわね」
「一昨日まで仕事で徹夜続きだった俺を、久しぶりだからって朝まで寝かせなかったのはどこの誰だよ!?」
「そっ、それは……いいじゃない、あんたも楽しんだんだし」
「それは否定しねえがな、最後の方はありゃ命の危険を感じると肉体が勝手に反応するってやつだったぞ、絶対」
「あ、思い出したらなんかまた……ねえ、竜児」
「待て!せめて夜まで待て!」
 騒ぐ竜虎の傍ら、机の上には一通の手紙。
 二枚の招待状が同封されたそれは、富家家・狩野家の結婚式の報せだった。

178 ◆QHsKY7H.TY:2010/04/14(水) 22:47:10 ID:???
皆さんたくさんの感想ありがとうございます。

その後(大人)を書くのは何気に初めて(のはず)だったのですが、気に入って頂けて良かったです。

◆fDszcniTtk氏お待ちしておりました!

三題噺の方のヤクザ竜児、大河の為ならヤクザになるのも有りと思った俺は末期。

179高須家の名無しさん:2010/04/16(金) 01:28:34 ID:VT/0dTwI
>>三題噺さん
こういう湿っぽい場末の雰囲気の竜虎もよいですな。
個人的には夢オチじゃなくてもよかったかなwなんてねwGJでした!

180高須家の名無しさん:2010/04/18(日) 16:36:15 ID:???
三題噺の方のはまとめが方がスゴイ。BIGLOBEは規制解除されてないんでこちらに投下


「エイプリルフールネタ」作者です。代理投稿ありがとうございました。

話題が約1年前の三鷹市ポスターネタとギシアンネタです、駄文ですがよければどうぞ

「ねえ竜児、なぜかわからないけど三鷹市のポスターに私が描かれてるんだけど…」
「おう、本当か?それ?」
「本当よ、ほら竜児。」
「おう、これは…、原作で俺たちを描いてくれたヤス先生の絵だな。なんでも市の方が[三鷹市は猫バス、魔女、
俺たちと同じ電撃文庫から出版されてる『とある魔術の禁書目録』の舞台になっている
多摩地区での狸と人間の争いやら…etcを描いた、アニメ制作会社『スタジオジブリ』の所在地だから
『三鷹市はアニメの街』ということをアピールするために自治体のポスターにアニメキャラを使おう。]と、いうことらしい。」
「しかし遺憾だわ…」
「ん?大河なんでだ?前の写真部の写真みたいに悪口は書かれてないだろう…」
「そりゃそうだけど違うの…、ほらここ!」
「ん?何々…『あなたの家の安心を守る完了検査を受けましょう』ね」
「私理系じゃないのに何で住宅の検査なのよ、遺憾よ遺憾。」
「まあ、大河は可愛いし、ポスターに描かれるのはいいんじゃないのか?」
「ま、ままま、まあそうねそれに私も検査できるものがあるし」
「それってなんだ?大河?」
「竜児の健・康・具・合…」
 ジー
「ちょっと大河?なぜおまえはファスナーを開ける?」
「当然よ、検査するんだから…」
「ちょ、まっ」
「ほらやっぱり硬くなってる…」
「た、大河〜〜〜〜」
ギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアン
「よかったね竜児は今日も健康だよ」
「あのなあ…」

終了〜www

181高須家の名無しさん:2010/04/21(水) 00:23:49 ID:???
勝手な想像でスミマセン 三題噺「垂らし」「見てやって」「座らない」の続編(3次創作)
「KKコンビの逆襲」

櫛枝 「ひょっとして2人が夜中に我慢できずにギシアン→当然大河は汗をかいて熱が下がる、
    でもって高須君は汗をかいて体温が下がる→風邪をひいたってところじゃないの?大河?」

大河 「ち、ち、ちちち、ちがうってみのりん!!」

川嶋 「あ〜ら、そういう割に顔が真っ赤かだけど、チ・ビ・ト・ラ」

大河 「ななな、な!ばかち〜いたの?」

櫛枝 「おっはよ〜、あ〜みん。」

川嶋 「おはよう実乃梨ちゃん、ヒソヒソ(ねえ?あの反応って一体?てか実乃梨ちゃん大河を
    高須君が世話するまで見てたからわかるでしょ?」

櫛枝 「ヒソヒソ(おうよ、あ〜みん。あれはあ〜みんの言うとおり照れ隠しだぜ〜、
    ところであ〜みん、ごにょごにょ)」

川嶋 「(いいね、それ。乗ったわ。)」

大河 「みのりんとばかち〜何ヒソヒソ話してたの?」

川嶋、櫛枝 「別に〜、なんでもないよ〜。」

大河 「??」

182高須家の名無しさん:2010/04/21(水) 00:24:45 ID:???
放課後の高須家にて

大河 「竜児〜大丈夫?」

竜児 「おう、大丈夫だ。だいぶ熱も下がったしな。」

ピンポ〜ン

竜児 「すまないが大河、出てくれるか?」

大河 「うんわかった。この優しいご主人様に感謝しなさい。」

竜児 「確かに去年と逆だな…、とりあえず待たせると悪いから開けてやってくれ。
    (宅配便か?それとも郵便か?)」

大河 「はいは〜い、ってみのりんとばかち〜!!」

櫛枝 「おじゃましま〜す、いや〜朝の質問だけど大河が
    答えてくれなかったから高須君に聞こうと思って。」

川嶋 「そういうこと〜、じゃ上がるね高須君。」

大河 「え?え?ええ〜?」

櫛枝 「じゃ、さっそく尋問タ〜イム。高須君は昨日大河とあ〜んなことやこ〜んなことをしたのかね?」

川嶋 「たとえば〜『タイガ〜のない胸に興奮しちゃったり』とか『不毛地帯を見たとか』あ、ちなみにドラマじゃない方ね。」

竜児 「なな、なななにを…」

櫛枝 「あれれ〜?高須君顔真っ赤だぜ〜超真っ赤だぜ〜!!」

川嶋 「もっと例えて言うなら〜『タイガ〜のあわびを食べた』とかさ〜、ね?高・須・君。」

竜児 「あうあう…」バタッ

大河 「竜〜児〜」

櫛枝、川嶋 「じゃあおいらたち(わたしたち)は帰るから〜、どうぞごゆっくり〜」

大河 「え〜〜、ちょっと!昨晩竜児とは何もしてないからね。」

櫛枝 「大丈夫、高須君の反応で実はしちゃったってことはわかってるから〜」

大河 「な!な!」ボン

その後竜は1日ほど風邪と熱の回復が遅れたとか。一方…

川嶋「さすが実乃梨ちゃん。」

櫛枝「おうよ、あ〜みん。」

川嶋「ま、タイガ〜には悪いけど私のことを見なかった逆襲としては成功ね。」

櫛枝「そうだね〜」
と帰路を共に歩む学生がいたとかいなかったとか。

おしまい

183高須家の名無しさん:2010/04/22(木) 21:09:36 ID:???
ちなみに181、182を書いたのは三題話の方とは別人です。

184ms07b3:2010/04/25(日) 01:03:30 ID:09K.B1dQ
「 幸せのかたち 」

施主への引き渡しを明日に控え、竜児は引き渡し前の最終的なチェックをしていた。
専門業者による引き渡し清掃は終わったが、シンクを舐められるほど拭き上げてこそ、真の完成と考える竜児にとっては、この程度の清掃では我慢出来なかった。夕方から既に3時間、手には高須棒、腰には雑巾を装着して、死体安置所に置かれたの死者の屍肉を漁る悪鬼の様な表情で、厨房の隅々まで、一片の汚れもないよう確認していた。
「竜児君、いい加減になさい。」
厨房に響く凛とした声に振り返ると、竜児の師匠であり、大切な妻の実母である、女性が立っていた。
「あなた、昨日から全然眠ってないでしょう? 明日の引き渡しは13時。すぐに帰って身体を休めなさい。」
苛立ちが含まれた声には、地獄の獄卒さえも従うであろう響きがあった。
「先生、ですが後もう少しだけ・・・・。」
「黙れ。早くしろ。」
「はい。」
竜児はおとなしく従い、厨房の照明を落として店を出た。

1年前から進めてきたレストランの設計・施工は明日の引き渡しを持って完了する。
発注者である有名シェフも、実際に腕を振るう厨房スタッフも、先日下見に来て、料理人の導線や調味料置き場、冷蔵庫の使いやすさ等を褒めていた。
実際に使う立場の人達に賞賛されるのは、建築雑誌のデザイン賞を貰うより嬉しい。竜児には一仕事やり終えた充実感があった。

水平対向エンジンの独特の響き、身体を固定するシート。先生の車に乗る時は、未だに緊張してしまう。大河をつれて逃げた2月の寒空。まさか、あの時、自分から大河を奪おうとした人の設計事務所のスタッフとして、働くことになるとは思いもしなかった。
あれから12年か・・・。ふと時の流れを感じてしまう。

「竜児君。あの話の結論はでたかしら?」
寝不足の頭に問いかける声。
「いえ、まだ迷っています。」
「そう。確かに、この業界で30歳と言ったら、ひよっこだけど、大学の頃から手伝ってくれている事を考えると、キャリアとしては充分だと思うの。人気の料理研究家の台所。カリスマと呼ばれるフランス人シェフの店の厨房。独立するには充分なキャリアだわ。」
「・・・・・。」
「うちの事務所には、どんどん貴方を指名した仕事も来ている。独立しても、仕事上のパートナーで有ることは変わりません。いい加減に覚悟を決めなさい。」
あなたも疲れている。明日の引き渡しが終わったら有給休暇を取りなさい。母虎は、そう言って命令を下した。

竜児が、大河の母親の建築設計事務所に入社したのは、大学を卒業した年だった。
元々、インテリア雑誌を買って、セレブな暮らしを想像して楽しむような男だ。大河が母親と暮らす家に遊びに行く度、リビングに置かれた建築設計の専門雑誌を借りて帰り、読んでいるうちに、建築士の仕事に進む決意を固めたのだ。
大学受験は、大河の母に勧められた美大系の建築学科で学んだ。奨学金と祖父からの援助はあったものの、課題制作や専門書などの購入に金がかかる。
困っていた竜児に手をさしのべたのが、大河の父だった。

185ms07b3:2010/04/25(日) 01:04:59 ID:???
設計事務所の経営と営業は大河の父親が、実際の設計と施工管理は母親が。事務所はそんな風に分業されていた。竜児に与えられた仕事は、依頼された仕事の模型を作る事。
手間は掛かるが、割のよいバイトだった。
 大学を卒業すると、大河の母に弟子入りする形で、建築設計事務所に入社する事になった。
 竜児の計画では、25歳までに2級建築士の資格を取得。30歳までに一級建築士を取得する事だった。
 大河と結婚したのは、25歳の春だった。大河は、大学卒業後、幼稚園の先生になった。
高校3年から弟の面倒を見てきた大河は、大学時代に弟を幼稚園に送り迎えしている間に、その幼稚園の園長先生と仲良くなった。園児達に慕われ、園児達を慈愛に満ちた眼差しで見つめる園長。その姿に理想の姿を見いだしたのだ。


 走り去るポルシェ。竜児はマンションの階段を上がる。部屋の灯りは既に消えている。大河は寝てしまったかも知れない。
 鍵をあけて家に入る。リビングにつづく廊下も、リビングの灯りも点いていない。大河はどこへ行ったんだ?
 「遅いんじゃ〜、この馬鹿犬!」
叫び声とともに振り下ろされる木刀は、竜児の鼻先を掠めて、床にぶち当たる。
 「こっ殺す気か〜!」
見ると、浴室の扉が開け放たれていて、手乗りタイガーと化した嫁が血走った眼で己を見つめていた。
 「大丈夫。殺さないわよ。ただ、2・3日動けないようにするだけじゃ〜。」
 「まて、それは明日の引き渡しが終わってからにしてくれー!」
 「問答無用!」
大河が落ち着くまで、竜児は30分、家の中を逃げ回った。
目が覚めたのは午前8時だった。昨日、大河に殴られたり蹴られたりしたところが痛むが、何とか引き渡しに出かけられる程度のダメージですんだ。
今日は平日。大河は既に出かけたらしい。
リビングのテーブルの上には、茶碗とお椀が伏せられ、目玉焼きとキャベツの油炒めが乗せられた皿が置いてあった。添えられたメモ書きを読む。

竜児へ。
トドメをさせなくて残念だったわ。今日は弟が来るから、すき焼きの予定。
早く帰って来い。駄犬。

 引き渡しの後には打ち上げがあるのだが、参加したら木刀の餌食になりそうだ。

 出かけるまで時間があるので、久しぶりにキッチンの掃除をする。大河の掃除の腕も上がってきているが、達人の域にはまだまだだ。充分に堪能する事が出来た。

 引き渡し物件には電車で向かう。車内はがらがらだ。昨日の夜の、先生との会話を思い出す。独立に踏み切れないのは、資金不足の懸念が拭えないからだ。

 一級建築士は取得済み。仕事の依頼も内容も充分。だが、独立するにもスタッフと事務所は必要だ。
 スタッフについては目処が付いている。同じ大学の後輩が手を挙げてくれている。だが事務所については、条件に合うような物件が無いのだ。
 自宅のアパートの家賃。必要な広さの貸事務所。独立の為の資金は潤沢ではないから、不動産に関連する経費は抑えたいのだ。
 大河の通勤の事を考えると、大橋市内からは、そう遠くに引っ越しも出来ない。悩みところだ。

186ms07b3:2010/04/25(日) 07:47:21 ID:???
「高っちゃん、元気〜。」振り返ると春田がいた。
学生の頃の長髪はバッサリ切り、少し長めのオールバックにバンダナが、今の春田のスタイルになっている。
「よお、お疲れ。」
「いや〜、参ったよ。さっき大河の母ちゃんに捕まっちゃてさ、南側の廊下の壁紙、注文 と違うとか言われちゃったんだよね〜。ちゃんと指定された色使ったんだよ。」
「ああ、あれは、最初の設計と違う照明器具を取り付けたからだろう、電気設備屋さんに LEDの色味を変えてみて貰え。」
「了解。あとでやってもらうよ。」
「おう。」
春田とは、高校以来ずっとつるんでいる。特に、竜児が施工管理する物件の内装は、春田の親父さんが経営する工務店が担当する場合が多い。親父さんも堅実な経営をする人だったが、今、経営を実質的に切り盛りしているのは、春田の奥さん。口元に黒子のある女性だった。まあ、この奥さんがいるからこそ、春田は仕事が出来ていると言えなくもない。「そういえば、高っちゃんの住んでたアパート、来週中に取り壊されるよ。」
思い出したように春田が言った一言に、竜児は軽いショックを受けた。
「取り壊し? なんで? 」
「相続税が払えなくて、あの土地を売るんだってさ。」
「そうか。」
小学校から、大河と結婚するまで、あのアパートには20年近く住んだ。大河との思い出深い場所が取り壊されてしまう・・・・。そう思ったら、身体の一部を無くしてしまったような喪失感があった。
引き渡しが始まってからも、その感覚は拭い去ることが出来ずなかった。

「 It is thanks to you. We wish to express our gratitude 」
施主が握手を求めてきた。
「 We wish to express our gratitude for only here 」
竜児も手を差し出して、固い握手を交わす。一つの仕事が終わった。
肩をポンと叩かれて、振り返ると社長がいた。
「おつかれさん。シェフは君に感謝していたよ。友人に、この厨房を自慢すると息巻いていた。」これから依頼が一段と増えるぞ。社長はそう言って笑った。
「ありがとうございます。さっき先生に、明日から7日間の休暇を命じられました。」
「そりゃそうだろう。この半年は、まともに休んでないだろう。ゆっくりしたまえ。」
「はい。休み中にトラブルが発生した時には、携帯に連絡を・・・・。」
「休むときには、仕事を忘れろ。君のフォローぐらいは、スタッフでも十分出来る。」
「はい。」
「今日は、大河達とすき焼きパーティーなんだろ。もう帰りなさい。」
今朝、大河からビデオメールが届いて、竜児を夕飯迄に返さないと親子の縁を切ると脅かされたんだよ・・・。社長はそう言って笑った。

明るいうちに、自宅に帰るのは何ヶ月ぶりだろう。内装工事が始まってからは、夜中近くまで現場にいる事が多かったから、4ヶ月ぶりか。回らない頭で考えた。
玄関を開けると、黒い運動靴。大河の弟は、すでに来ているようだった。
洗面台で手を洗い、うがいをする。鏡の中の自分は、頬がこけていた。ゆっくり休もう。仕事が終わった実感が湧いた。

「お帰り。竜児。」
洗面所の入り口から、大河が覗き込んでいた。
「おう、ただいま。レストランの仕事終わったぞ。明日からは7日間休みだ。」
「へー良かったじゃない。お疲れさまでした。もうじきご飯よ。」
昨日の夜、俺をモルグに葬り去ろうとした妻は笑っていた。

大河の弟は、既に中学1年生になっていた。身長は165センチ。大河と20センチの差がある。
中学男児の食欲は旺盛だ。しかし大河も負けてはいない。100グラム 630円 確か700グラム用意されていた筈なのだが、既に跡形もなく消え去り、鍋に残った肉片を掠う始末だった。
「ふ〜、食べた、食べた。」
「食べてすぐに横になるんじゃありません。」
久しぶりに、突っ込んだ気がする。

187ms07b3:2010/04/25(日) 12:17:31 ID:???

「みんな幸せ」
 暑い。重い。寝苦しい。不快感に目を覚ますと、三重苦の原因が目の前にあった。
ナツメ球の微かな光源に照らされて、大河の七分袖のパジャマが見える。
竜児の腕を枕にして横向きになり、胴にまわされた腕。小振りだが形の良い胸が、竜児の右脇腹に当たっている。大河、お前ブラしてないだろう。
 枕元の時計を見ると午前5時30分。室温表示は29℃を示している。
只でさえ高い室温と隣で寝息をたてる熱源。そりゃ寝苦しいはずだ。しかも右腕は痺れている。
 大河を起こさないよう、細心の注意を払って、腕を引き抜く。上布団はすべて大河に掛けてやった。

 久しぶりに朝食を作る。大根を10センチ程輪切りにして、皮をむく。それを半分に切って、一方は短冊切りに、もう一方は食感が残るように乱切りにする。
 冷蔵庫から、鰹節と昆布で取った出汁がたっぷり入ったペットボトルを取り出し、小鍋に注ぐ。煮立ったところで大根の乱切りを投入し弱火で煮る。
 残った大根の短冊切りは、ボウルに入れてゴマ油を少しとスリ胡麻とシラス干しを投入して和風ドレッシングであえる。
 大根に火が通ったあたりで油揚げと豆腐を投入して、軽く一煮立ちさせたら火を消して味噌を少量加える。味噌汁で余った豆腐半丁にネギとゴマにポン酢を掛ける。
今日の朝食はこれにて完成。調理時間は25分だ。

 大河が起きてきたのは午前7時。竜児の家で、半居候のように暮らしていた頃は、竜児がお越しに行かない限りは、絶対に目を覚まさなかった大河も、幼稚園の先生になって以来、休みの日でも、普段通りに起きるようになっていた。

「あんた、何を勝手にベッドを抜け出してんのよ。」
「暑くて目が覚めちまったんだよ。仕方ねえだろう。」
「うるさい。久しぶりにゆっくり寝ようと思ったのに・・・・。」
「大河。ブラはして寝た方がいいぞ。年取ると崩れるって、泰子が言ってた。」
「うるさい。余計なお世話だ。」
何ヶ月ぶりかの、大河と2人の朝食。会話は相変わらずだが、穏やかな朝だ。

「大河。あのアパート。今週中に建て壊されるんだってさ。」
「竜児のアパートが?」
「ああ。去年、大家のおばあちゃん亡くなっただろ。相続税の関係で土地を売るから、更地にするらしい。」
「うそ。」
「春田が言ってた。天気も良いし、散歩がてらにお別れしに行かないか?」
「・・・・・・。」
「・・・・・大河?」
「嫌だ。竜児とやっちゃんとの思い出が消えちゃう!」
大河が突然泣き崩れた。大河の涙を見たのは、2人の結婚式以来だった。
「思い出は消えねえよ。だけど、最後を看取ってやろうぜ・・・。」
大河の肩を抱く。こいつにとっては、あのアパートこそが本当の家だったんだろう。

 竜児が大橋駅に降りたのは1年ぶりだった。高校時代より駅前は発展していて、見違えるよう発展していた。
 大河と一緒に買い物に行っていたスーパーも健在。スドバも本家に訴えられることなく営業していた。
 この角を曲がるとアパートがある。7年前に引っ越して以来見ていないアパート。どんな風に変わっているか不安だった。
「・・・・竜児。」
不意に立ち止まってしまった竜児を、大河が不思議そうに見つめた。
「悪い。久しぶりだからよ。」
大河が手を差し伸べてきた。小さな手を竜児もにぎる。2人で歩き出した。

アパートは何も変わっていなかった。既に築40年を超えているが、長年風雨にさらされた壁面は、良い色合いになっていた。
「変わってないね。」
「ああ。変わってない。」
全てが懐かしかった。

188ms07b3:2010/04/25(日) 17:56:01 ID:???
 敷地の入り口には有刺鉄線が張り巡らされ、工事を知らせる看板が立っていた。
この跡地には、新しくワンルームマンションが建つらしい。
「入れなっかたね。」
有刺鉄線が張られた門扉を見て、大河が寂しそうにつぶやく。
「ああ。残念だったな。」
淡い期待は裏切られてしまった。
「竜児は、ここに何年住んだんだっけ?」
「19年だったかな・・・・。」
「私は、7年しかいられなかった・・・。」
「最初の1年は、半分同居だったしな。」
でも、濃密な時間を過ごせたよ・・・・・。」
「竜児がいて、私がいて、やっちゃんがいて、ブサ鳥がいて・・・。」
「インコちゃんを悪く言うな。」
「私は、ここで家族になれた・・・。ここが私の生まれた場所なんだ・・・。」
小さな身体を震わせて、大河は泣いていた。
並び立つ虎が悲しみに鳴くとき、竜は何が出来るのだろう。
ふと足下を見る。アパートの入り口のブロック塀の陰に、1本の小さな木が生えていた。竜児と大河が出会った年の台風の翌日、風で折れてしまったケヤキの枝を、大家が接ぎ木して、根付かせたものだった。
「大河。あれ。」
むせび泣く大河の肩を抱き、小さなケヤキの木を指し示す。
「高須農場の芋ほりの時の台風を覚えているか?」
「・・・う・・うん・・・覚え・・・てる。」
「あの小っちゃい木は、あの台風の時に折れた枝を接ぎ木した木なんだ。このアパートに住んだ証に、うちで育てないか?」
「育てられるの?」
大河は半信半疑だった。
「ああ、育つ。植木鉢を買って、窓際の日当たりの良い場所に置いとけばいい。」
「でも、勝手に引っこ抜くわけにいかない・・・。」
「看板に書いてある連絡先に電話して、解体工事を始める前にもらいに来るさ。」
そういって竜児は、携帯電話に連絡先を登録した。

せっかくここまで来たのだから、大河の実家に寄っていこうという事になり、2人は久しぶりに実家のマンションのインターフォンを押した。
社長である親父さんは不在だったが、母親は家にいた。

「まったく、貴方という人は、1日ぐらい朝寝坊が出来ないのかしらね・・・。」
せっかく7日間の有給をあげたのに・・・・。
ぶつぶつ言っている義母に、昔住んでいたアパートが取り壊される事を伝えた。
「あら、あと10年もしたら近代産業遺産にでも登録出来たのに残念ね。」
お義母さん。あの建物は明治・大正期の建物じゃありません。声に出せない突っ込みを入れた。

「ついでに隣の建物も壊して更地にすれば良いのよ・・・。」
不機嫌そうに手渡されたのは、この地域の不動産業者がまいたチラシだった。
「31畳のリビングなのに寝室は2つしかない。私が設計したなら、もっと使い易い作りにするわよ。建築家なんて崇め奉られた馬鹿の設計なんでしょうけどね。」
チラシの図面を見てみると、2LDKの1世帯がマンションの2階フロアをぶち抜いている作りになっている。たしかに一般人が住むには無駄の多い設計だ。しかし、この部屋の配置どこかで見たことが・・・・。
「逢坂が購入した時は一億円ちかくしたけど、使い勝手が悪くて住む人がいないから、今となっては3500万以下よ。」
そうだ、これは大河の部屋の間取り図だ・・・。3500万以下か・・・。
「竜児君。有給期間中の宿題よ。あなたならこの部屋、どうリフォームする?」
うちの事務所の卒業試験だと思いなさい。
母虎は、ニヤリと笑った。

189高須家の名無しさん:2010/04/25(日) 20:51:40 ID:???
>>421
少ない小遣いの中から節約して、毎月1巻づつ購入しているぞ。

190ms07b3:2010/04/25(日) 23:26:47 ID:???

「で、あんたは何をやってる訳?」
リビングのテーブルにチラシを広げて、三角スケールと電卓を片手に、何かしら書き込んでいる竜児をみて大河が言った。
せっかくの日曜日。しかも久しぶりに2人で迎えた休日なのに、竜児は、実家から帰って以来、チラシを前にして悩んでいるのだ。
本来なら、2人で甘まーい時間を過ごせる筈なのに。馬鹿犬と来たら・・・・。
「おう、お義母さんから、宿題出されたんだ。」
「どんな宿題?」
「いや、企業秘密に関わる事だから内緒だ。大河にも言えねえ。」
「へ〜。愛する妻にさえ言えない事なんだ。へ〜。企業秘密なんだ。」
「おう、守秘義務って奴があってな・・・。」
「そんなに大切な秘密なら、外でやれ!」
手にしていたダスキンのモップを、カンフースターのように振り回す大河。命の危険を感じて、竜児は道具だけ持って家から逃げ出した。

「・・・・また、やっちまった。」
マンション前の道路から、2人が暮らす部屋のベランダを見つめる。
竜児の作業着の横には、大河のエプロンが並んで干されている。本当なら、今日は1日、大河の隣で過ごすつもりだったのに。自然と溜息が出た。

 大河にとって、父親に買い与えられたあのマンションは、ひとりぼっちだった頃の象徴だ。孤独。父親への怒り。自分を捨てた実母への憎しみ。そして悲しみ・・・。
例えチラシでも、大河にあのマンションの事を思い出させたくなかった。
ちゃんと理由を話せば、大河も理解してくれていたのに・・・・。

虎と竜は並び立つもの。対等のはずなのに。俺はどうしても、大河に悲しい思いをさせたくないと思って、独りよがりの行動をして、結果的に大河を傷つけてしまう。
高2の文化祭以来、何度それを繰り返して来たのだろう。
ミス大橋コンテストの時の、孤独だった大河の顔を思い出す。
やっぱり俺は、大河の隣にいないといけねえ。
竜児は、今出てきたばかりのエントランスに戻った。

「なぁ、大河聞いてくれ。さっきの事。お前に謝って、全部話したいんだ。」
大河は、寝室から出てこない。返事もしてくれない。
「さっきのチラシは。大河が暮らしていたマンションの、あの部屋の売り出しチラシなんだ。お義母さんに、アパートが壊されるって話をした時に、これを渡されて、リフォームプランを考えるように言われたんだ。」
大河の反応はないが、扉のむこうにいる気配はある。すべて語って謝る以外に、竜児に出来る事はなかった。
「なぜ、お義母さんがこのチラシを渡したかはわからねぇ。ただ、大河にはあの部屋の事を思い出して欲しくなかったから、隠したんだ。大河にとっては、あの部屋は良い思い出がないと思ったんだ・・・・。」
扉の中から微かな気配がした。
「子供扱いするな。私がいつ、あの部屋には良い思いでがないって言った・・・。」
小さな声だが、大河の声だ。
「あのマンションは、嫌な思い出も沢山ある。でも竜児が朝起こしに来てくれた。掃除しに来てくれた。選択も。熊のサンタで来てくれた事もあった。私にとっては、あのマンションも、竜児の部屋と同じくらい思い出が詰まっているのよ!」
大河・・・・・、ごめん。俺は、何度おなじ過ちを繰り返せばいいんだろう。


寝室から大河が出てきたのは、日もとっぷりと暮れてからだった。
竜児は寝室前の廊下に座り、大河が出てくるのを待っていた。自分に出来る事はこれだけだと。

「竜児。チャーハン食べたい。」
竜児を見つめる大河の瞳は、泣きはらして真っ赤だった。
「具は何にする?」
「あの時のチャーハンがいい。あの時の味が再現できたら、許してあげる。」

191高須家の名無しさん:2010/04/26(月) 03:46:30 ID:???
「幸せのかたち」、なかなかの良作。
大河が幼稚園の先生というのは斬新ですな。

192ms07b3:2010/04/26(月) 11:18:14 ID:???
あのチャーハンの材料は、カブの葉と茎を除けば揃っていた。カブの代わりとなるようなものはホウレンソウくらいか・・・。
ニンニクと玉葱・ホウレンソウ・浅葱をスライス。その間に冷凍ごはんを解凍する。フライパンは、あの襲撃の夜にチャーハンを作ったもの。竜児と共に戦をくぐり抜けた友だ。
 中華鍋を充分に熱して、軽く煙が出始めたら、ゴマ油を入れて全体になじませる。玉葱を投入して透明になるまで炒め、卵を投入。ここから先は時間との戦い。冷や飯と残った具材を入れる。おたまの腹を使い、飯粒をほぐし、鍋をあおる。味付けは塩胡椒と中華味の素・隠し味のオイスターソース。完成した。
 大皿に盛りつけてリビングに行くと、大河が臭いにつられてこちらを見た。
「おまたせ。蕪がなかったからホウレンソウをいれた、それ以外は、あの時と同じだ。」大河の前に大盛りチャーハンとスプーンを置く。
「腹へったんだろ。食えよ。」
「・・・・・・食べさせて。」
「えっ?」
「あの時と同じように、食べさせてって言ったの。」
大河は、パプリカのように頬を染め上げて言った。
「おっ、おう。」
 スプーンにチャーハンを山盛りに乗せる。それを大河の口元に運ぶ。スプーンの先端が大河の唇にあたる柔らかな感触を感じた。
大河が口を開ける。大口でスプーンにかぶりついた〜?
竜の手からスプーンを奪い取り、親の敵とばかりに大盛りチャーハンを攻撃する大河。これはあれが必要だな。竜児はキッチンに戻り、湯飲みを手にして、温めの茶を淹れた。
 茶を淹れた竜児が食卓に戻ると、すでにチャーハンは3分の1以下。フライパンの中にはお代わり分が控えている。
「お代わり!」「おうっ!」中華鍋の中身を全部さらえてやった。
「あれ、これ?」
「おう、お前の湯飲みだ。」
白磁器のなめらかな白にピンクの肉球のイラスト。大河が高須家で食事をとるようになってすぐ、泰子が大河の為に、買ってきた食器のなかの最後の生き残りだった。
茶碗は、結婚してすぐに、大河が割ってしまった。この湯飲みも、縁が欠けているので普段は水屋の奥にしまってある。
「そうか、まだ思い出残っていたね。」大河がしみじみと言った。

「なあ、大河。お前、あの部屋でもう一度暮らしてみる気ないか?」
「あの部屋で? この部屋でも竜児がいないと寂しいのに、あんな広い部屋だと・・。」「俺が独立する話は、この前したよな。どこかに事務所を借りる必要があるんだが、金がそんなにない。有ると言えばあるが、無理して借金するより、自分の身の丈にあった場所からスタートしたいんだ。」
「それと、あのマンションと関係があるの?」
「職住合体なんてどうかなって考えてる。あの広いリビングの半分を事務所に使い、もう半分は、俺達のリビングにする。そうすれば最小限の金で済む・・・。」
「つまり、竜児が一日中家にいるってこと?」
大河の声が弾んだ。
「おう、もちろん現場に出る時間もあるから、ずっとと言う訳にはいかねえが、朝飯と夕飯は一緒に食べられるぞ。」
勿論、居住スペースと、事務所スペースを分けるためのリフォームをしなければならないが、独立して経営が軌道に乗ったら、事務所を別にすればいい。
「それが出来るなら、あの部屋に住みたい。出来ればやっちゃんも一緒に。」
そうすれば、もう一度家族全員が揃う。大河が笑った。

193ms07b3:2010/04/26(月) 11:23:21 ID:???
「で、これがリフォームプランなの? 図面見た限り、変わった点はあまりないけど?」義母である師匠は、竜児が徹夜して書き上げた図面を見ていった。
「ええ、リフォームの中心は、31畳のリビングダイニングを2部屋に分け、既存の納戸部分にトイレを設置するだけです。そして18畳の新しい部屋は事務所として使用し、もう1部屋は、13畳のダイニングキッチンとします。」
「俗に言う、SOHOにするの?」
「いえ、事務所への入り口は、屋内階段を使用します。つまり1軒の家でありながら、同じ敷地内に独立した事務所を持つようにするのです。」
「マンションの管理会社がそれを認めるかしら?」
「居住者と、事務所の使用者が同一の所有者であれば問題ないという事です。」
「でも、家族としては、職住合体は嫌がるんじゃないかしら。」
「大河は、職住合体を喜んでいます。」
「・・・・・。もうすでに購入者も決まっている訳ね。」
「ええ。」
「まあ、独立したての建築士の事務所としては充分ね。」
「はい。」
「銀行の保証人は、うちの社長がなってくれるわ。安心しなさい。卒業試験合格よ。」
竜児は、何も言わずに頭をさげた。

半年後
18時になると、高須一級建築士事務所の終業時間を告げるメロディーが流れる。
「お先に。」社長である竜児は、メロディーが鳴り止むと同時に、居住スペースへと消えた。
パテーションの向こうからは味噌汁の香しい臭い。スタッフの嗅覚を刺激する。
「社長は今日も、残業なしっと。」
「高須さん、先生の事務所にいた頃は、月の残業150時間超えはザラだったのに。」
2人のスタッフは、声を揃えて笑った。

大皿に盛りつけられた豚キムチ、飴色に煮込まれた大根。豆腐のサラダ。
食卓には3人分の食器が並べられた。
竜児は、仕事から帰って来たばかりの2人に声をかける。
「大河、泰子。メシができたぞ〜。」
竜児にとって、この瞬間が一番幸せだった。
「遅いのよ、駄犬。」
言葉とは裏腹に、大河は満面の笑みだ。やっと家族がそろった。


「幸せのかたち」は以上です。入院中で暇なので、初めて作ってみました。
大河の部屋の間取りは、「とらドラの全テ」の設定資料に基づき考えました。

194高須家の名無しさん:2010/04/29(木) 01:40:09 ID:???
>>193
乙!
面白かったよ。とても初めてとは思えない。
是非次は本スレにも。

195高須家の名無しさん:2010/04/29(木) 08:33:25 ID:???
>>194
193です。
本スレに投稿しようとしたら、iPhoneは
規制中。困ったものです。
3週間の入院ですが、とらドラのおかげ
で、随分と気が紛れました。

196高須家の名無しさん:2010/04/29(木) 12:01:40 ID:???
>>193
面白かった!乙!
竜児の進路的にとらドラP!の大河エンド後っぽくて良いよー!

197◇fDszcniTtk:2010/04/29(木) 15:07:17 ID:Jps4jq9.
まとめにんさん、覚えてくれていてありがとう!!
そして更新お疲れ様。

198高須家の名無しさん:2010/04/29(木) 17:46:40 ID:Jps4jq9.
>>195

入院中?! えらいことだ。早く退院できるといいな。

199高須家の名無しさん:2010/04/29(木) 18:18:22 ID:6wGNAGDY
≫193 GJ!!お大事に。
まとめ人様お疲れ様です。m(--)m。
今回ハラハラ妄想から参加した者です。今後もSSを投下する予定ですので
ご迷惑おかけしますがよろしくお願いします。

ちなみにBIGLOBEはまた規制喰らいました。

200ms07b3:2010/04/29(木) 18:46:19 ID:???
>>198
 ご心配をおかけいたします。
 入院している病院はパソコン持ち込み厳禁。
 iPhoneでちまちまと入力していました。退院まで、あと1週間
 なので、まとめサイトで過去作品を読み、とらドラポータブル
 をクリアしたいと思います。

 まとめ人様。あなた様のおかげで、入院生活が楽しかったですよ。

201高須家の名無しさん:2010/04/29(木) 22:41:41 ID:Jps4jq9.
ところでみんな、「スピンオフ3巻」に挟まれていた電撃文庫のチラシ
捨てないで読んだよね。ゆゆこが寄稿してたよ。

202高須家の名無しさん:2010/04/30(金) 02:55:16 ID:BvnzWY9M
マジか
しらんかった

203高須家の名無しさん:2010/04/30(金) 08:47:51 ID:71Z1bWdI
寄稿っつってもエッセイだから、心配無用。

204高須家の名無しさん:2010/05/01(土) 00:12:36 ID:???
電撃文庫の新刊のお知らせチラシも、大河がトラ猫を
てなづけようとしているイラストが使われていたな。

205高須家の名無しさん:2010/05/01(土) 06:54:54 ID:cgbIsfbI
そうそう、そのチラシの裏の「作家ワールドカップ」の第一回がゆゆこだった。

206高須家の名無しさん:2010/05/03(月) 21:57:55 ID:???
>>193
乙!
大河の両親とも打ち解けてる竜児の姿になんか、優しい気持ちになったよ。
そして社会ってヤツをひしひし感じるのさ。
お体に気をつけてくださいね。

207高須家の名無しさん:2010/05/04(火) 11:58:53 ID:???
「・・・・・・。」
さっきから聞こえる鼾は、午前5時に帰宅した竜児のもの。
大河は、ワイドショーの通販コーナーをボーっとしながら見ていた。
ゴールデンウィーク4日目。駄犬は相変わらずの仕事中毒だ。
洗濯は終わった。竜児を起こさないように掃除機はかけなかったが、掃除もした。
竜児が目を覚ましたら、いつでも朝ご飯を食べさせられるように、準備も完了。
しかし、駄犬は相変わらず夢の中・・・・。
『6時間は寝たから起こしても大丈夫』と囁く悪い娘の大河
『疲れてるんだから目が覚めるまで寝かしとかなきゃダメ』と言う良い子の大河。
大河の心の中で、2人の大河がせめぎあっている。

「う〜ん・・・。」
駄犬がベッドの上で寝返りをうつ。天気が良くて室温が上がっているからか、掛け
布団を蹴っ飛ばして、Tシャツとパンツの隙間からお腹が見えている。
普段、竜児の寝相は悪くないから、布団を蹴っ飛ばしている姿は貴重だ。
四つん這いになってベッドに近づく・・。膝立ちになって竜児の寝顔を覗き込む。
目を閉じている時の竜児は、意外にハンサムだ。
「へへへへ、竜児の寝顔。」
思わず頬肉をつんつんしてしまう。反応なし。
身を乗り出して、今度は鼻の頭をツンツンしてみる。一瞬、顔をしかめたが、再び
安らかな寝顔。
「ねえ駄犬。お昼ですよ〜。そろそろ起きようよ〜。」
お腹をツンツン。反応なし。
「駄犬。餌の時間だぞ〜。餌食べたら散歩に連れて行ってやるぞ〜。」
おでこをツンツン。反応なし。
「そう。飼い主を無視するんだ〜。」
部屋を見回して得物を探す。片隅に小さな洗濯ばさみを見つけた。

洗濯ばさみを、竜児の鼻の頭にゆっくりと近づける。あと10センチ、3センチ
そして静かに、竜児の鼻を挟んだ。1秒・2秒・3秒・7秒・8秒
「だ〜!」
突然、竜児が飛び起きる。状況がつかめなくて軽くパニック。鼻につけられた洗濯
ばさみに気がついて、それを外して大河に投げつけた。
「大河! お前は俺を殺す気か!」
投げつけられた洗濯ばさみは、大河の鼻頭にヒット。結構なダメージ。
竜虎は、お互いに鼻を押さえている。
「あんたね〜、何もこんな物投げつけなくても良いじゃない!」
「お前こそ、子供じゃねえんだから、こんな悪戯をすんじゃねえ!」
寝起きを襲われた竜は、普段と違って余裕がない。
「あ〜ら遺憾だわ。駄犬が惰眠を貪っているから、飼い主様が散歩に連れて行って
 あげようと、起こしてあげたのに。まさに飼い犬に手を噛まれるだわ。」
「うっせい、単にお前が暇だっただけだろうが!」
「頭に来た! 今日という今日は我慢出来ない!」
手乗りタイガーと化した虎は、ベッドの上に横たわる竜児に襲いかかった。
「やめろ! 埃が舞うだろう!」
一気に守勢に回った竜。
ケンカが、1週間ぶりのギシアンに変わるまで、30分しか掛かりませんでした。

208高須家の名無しさん:2010/05/07(金) 00:27:11 ID:SWxYLuw6
207



209高須家の名無しさん:2010/05/09(日) 22:38:37 ID:JRcpC7dA
規制中。

本スレ >>293
最後の行で吹いた。三題噺の人、今回はストーリー構築のうまさが
ひときわ冴え渡ってたよ。

210ms07b3:2010/05/15(土) 21:35:55 ID:???
本スレへの転載を希望致します。 どうかお願い致します。

「ゲームなんか、自分の部屋でやれよ。」
「うっさい。黙れ・・・。」
ゲームの画面に夢中になっている大河は、こちらの方を見ないまま竜児を罵倒する。
時間は午後10時50分。普段なら、大河が自分の部屋に引き上げる時間だ。
しかし、今日は新しく発売されたばかりのロールプレイングゲームが手に入ったとかで
泰子が出勤した途端にゲーム機を引っ張り出してきて、そのまま既に4時間ちかくゲー
ムに熱中しているのだ。
竜児の方は、夕飯の片付けを済まし、明日の朝食と弁当用の下ごしらえを終えて、独身
の授業のレポートも書き終え、あまつさえ予習・復習も終わらせた。
あとは、居間を我が物顔で占拠している子虎を追い返すだけなのだが・・・・。
もともとロールプレイングなんてジャンルのゲームは、大河の性格には合わないはずだ。特にゲームスタート時の、HPもMPも低くて、俗に言う雑魚キャラを片付けるのも一仕事
なんて段階では、大河のストレスは溜まる一方で、さっきから舌打ちが聞こえる。
こんな時に、無理矢理に自宅に帰そうとすれば、痛い目に遭わされるのは目に見えてる。仕方なく竜児は、普段なら大河を帰してから入る風呂に入り、風呂から上がると、自室
の布団の中で本を読んでいた。

部屋のステレオのデジタル時計が午後11時30分を示す。
「大河、続きは明日にして帰れよ。」
「セーブポイントに行くまでセーブ出来ないんだからもう少し。」
子虎は暢気だ。
「じゃあ、セーブポイントに行けよ。」
「言われなくても向かっているわよ。合い鍵で鍵かけて帰るから、先に寝れば?」
大河の物言いに、なんだか微妙に腹が立った。
「ああそうかよ。じゃあ俺は寝るから、ちゃんと電気消して、鍵かけて帰れよ。あと遅
くまでゲームやっていたからって、明日の朝、起きる時に暴れるなよ!」
そう言って竜児は襖を閉めて電気を消して布団に入った。
襖の向こうからは、大河の激しい舌打ちの音が聞こえた。

どれくらいたったのかは知らないが、襖が開く音がした。
「よいしょっと」
何かを引きずるような畳が擦れる音。声の主は泰子だ。
意識はあるのだが、身体の方はまったく反応してくれない。
「ごめんね竜ちゃん。少し詰めてね。」
仕事終わりのいつもの少し酔ったような緊張感の無い声。
泰子の手が布団の隙間に入ってきて、竜児の寝る場所を少しずらした。
「よいしょっと」
今度は、やけに暖かくて、柔らかい物体が布団の中に入れられた。
小学生の頃、一人で寝ていると偶に泰子が入ってきたから、今日も酔っぱらって俺の布
団に潜り込んできたのかと竜児は思った。
普段なら、自分の部屋で寝るように言うのだが、竜児も寝ぼけている状態だ。
たまにはいいかとやけに寛大な気分になって、そのまま再び深い眠りについてしまった。
翌朝。
竜児が目を覚ますと、目の前には大河の幸せそうな寝顔があった。
「おうっ!」
声にならない叫びを上げて布団を抜け出す。
「泰子っ!」
泰子の部屋に飛び込んで、熟睡状態の泰子をたたき起こす。
「おまえ、何で大河を俺の布団に入れたんだ。」
事の重大さに、どうしても詰問口調になってしまう。なにしろ相手は虎だ。自分が竜児
の布団で一緒に寝ていたなんて事がばれたら、殺されても文句は言えない。
「え〜、だって大河ちゃん、居間で寝ちゃってたから、あのままじゃ風邪引いちゃうと
思ったから・・・。」
「だったら、お前が一緒に寝ればいいだろ。」
「だって、大河ちゃんは竜ちゃんのお嫁さんになる子だもん。」
「お前は何てこと言うんだ!」
「何を朝から騒いでるのよ、大家に怒られるよ・・・・・」
振り返ると、寝ぼけた子虎がそこにいた。
竜児が、三分の二殺しに逢うまで、あと120秒。

211高須家の名無しさん:2010/05/15(土) 22:10:20 ID:???
>>210
盛るぜぇ、盛るぜぇ、超盛るぜぇーーーー
ということで竜虎本スレに盛ってきました

212高須家の名無しさん:2010/05/15(土) 23:30:36 ID:???
乙! 後で「何もしてないでしょうね…、エロ犬!」「してねえって、泰子が証人だ。」
というシーンがありありと浮かんできます。

あなたも規制ですか…。私はどうもBIGLOBEだと思っていましたが
(最初のパソコンを買った時にBIGLOBE)その後光回線に変えたときKDDIになったことに今日気付きました。
dion.ne.jpは規制がひどいので困ってます。

213高須家の名無しさん:2010/05/15(土) 23:40:28 ID:???
>>212
自宅パソコンは有線ブロードバンド
携帯はiPhone
どちらも長い事規制かかってます。

211様
転載を感謝致します。

214高須家の名無しさん:2010/06/22(火) 00:02:16 ID:???
泣きたい。またdionは規制だ。

215まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY:2010/06/26(土) 01:19:13 ID:???
ウオおオオ仕事が忙しすぎてまとめが進まねええエエエ


スミマセン 生きておりますので、まとめサイトの更新はもうしばらくお待ち下さい…

216高須家の名無しさん:2010/06/26(土) 02:01:09 ID:???
>>215
いつもありがとうございます。規制とばっちりですか?

217高須家の名無しさん:2010/06/26(土) 17:39:38 ID:???
>>215
いつもありがとうございます
お仕事頑張ってください

218 ◆zKbMVavC7g:2010/06/27(日) 15:35:16 ID:aTxewkKw
テスト

219 ◆zKbMVavC7g:2010/06/27(日) 15:35:37 ID:aTxewkKw
テスト

220fDszcniTtk ◆fDszcniTtk:2010/06/27(日) 15:36:20 ID:aTxewkKw
すんません。無駄打ちしちまった

>>215
お疲れ様です。俺も仕事が。

一本書いたのですがアク禁食らっちまってへこんでます。

221 ◆fDszcniTtk:2010/06/27(日) 15:38:19 ID:aTxewkKw
だれか代理投稿よろしくです……こっちのトリップって前から本スレとおなじでしたっけ。
----
>>497
サンキュー。軽く充填された。オリジナルはどこだろう。

>>499
何か受信したのだが、伝送中にエラーが起きたかもしれない。すまん。

新作投下:「袴戦争」 3,4レスくらい。

222袴戦争 ◆fDszcniTtk:2010/06/27(日) 15:38:55 ID:aTxewkKw
「やっちゃん久しぶり!」
「大河ちゃん久しぶり!今日もかわいい!」
「もう。私23歳だよ。かわいいって変だよ」

喫茶店のカウンターの前に立って、くすぐったそうに逢坂大河が笑う。待ち合わせの相手は高須泰子。当年とって39歳のはずだが、子供っぽい顔立ちや表情の作り方は、とてもそんな風に見えない。『永遠の23歳』に偽りなしね、と正真正銘23歳の大河は独りごちる。

大河は6年ほど前、高校2年生の1年間、泰子の家に半居候を決め込んでいた。それまで家族から離れて一人乾いた生活を送っていた大河は、泰子と、その長男の竜児の元で心の潤いを取り戻し、結局3年生に進級する前に竜児と婚約してしまった。
そして長い婚約期間が過ぎ、ようやく今年、二人は晴れて結婚する。つまり大河と泰子の二人は、まもなく義理の親子になる。

「もうすぐ本当にやっちゃんが私のおかあさんになるんだね」
「やっちゃんずーっと大河ちゃんがお嫁に来るの待ってたんだから」
「それ最初に聞いたのいつだったっけ」
「ずっとずっと前だよ」

二人、顔を見合わせて笑う。二人の婚約は5年前から両家にとって周知の事実だったのだが、さすがに働いていない男に娘をやるわけにはいかないと、大河の両親からずっと止められていたのだ。今年大学を出て就職した竜児は、ぺーぺーとはいえ給料袋をもらう身になった。
そうして、ようやく長い長い『待て』に終止符が打たれたのだ。待たせていたのは大河の両親とはいえ、学生時代、ひたすらまじめに『待て』を守る竜児に大河は何度『あんた、どれだけ忠犬気取りなのよ、もう、同棲くらいしようって言ってよ』と、泣いたかわからない。
そのたび蹴っ飛ばされた竜児もいくつ痣を作ったかわからない。

「で、やっちゃん相談ってなぁに?」

15分ほど話し込んだ後、大河に問われて泰子が舌を出しながら破顔する。

「いけなーい、忘れてた。あのね、大河ちゃんおり入って相談なんだけどぉ」

普通『折り入って相談』といわれると、借金の話とか、やっぱり息子はやれないとか、父親は、といった重い話しである。しかし、高須家が貧乏ながら何とか無借金でやりくりしていることは知ってるし、竜児と大河をくっつけたがっていたのは泰子だし、
大河は竜児と出会った頃に父親の写真を見て爆笑している。大河としては、今更びっくりするようなことが飛び出すとは思っていない。何より目の前の泰子がへらへら笑いながら話しているので、聞いている大河もクリームソーダをストローで吸いながら

「なぁに?」

と、気楽なものである。

「あのねぇ、花嫁衣装決めた?」
「うん。ドレスにするの。竜児も似合うって。やっちゃんにも写真見せたよね」

そう答えて大河が顔を赤らめる。ドレスを試着した大河を見て、竜児は挙動不審と言えるほど動揺したのだ。あんまりきれいなんで度肝をぬかれたぜ、とあとで真っ赤になりながら話してくれたものだ。その写真は泰子にも見せている。

223袴戦争 ◆fDszcniTtk:2010/06/27(日) 15:39:36 ID:aTxewkKw
だが、

「そうようねぇ、大河ちゃん本当にドレス似合うよねぇ。でもね、白無垢も着てみたいって思わない?」

と、和服を勧めてくる。大河の方は思わず黙り込む。だって、どう考えても自分には似合わないと思うのだ。

もともと小学生サイズだった大河は、和服を最初っからあきらめている。昔の友達には『私だって背が伸びたでしょ』と薄い胸を張ってみせるが、その実伸びたのは3mmででしかない。3cmではない。3mmなのだ。現在身長は143.9cm。ミリメートルで表さないと成長を見逃すレベルである。

もともと和服は女性の体をふっくらと見せる。丈を詰めても横は細くならないから、自分が着るとちょっと滑稽になると大河は思うのだ。おまけに自分のようなちびが高島田みたいな日本髪を結うと、頭でっかちになりすぎないだろうか。

その点、ドレスは薄いので、ほっそりとした大河の体の線を引き立ててくれる。
竜児も、頬を赤らめる大河にどれほどドレスが似合っていたか、3時間にわたって熱弁をふるってくれた。

「私、着物似合わないし、竜児もドレスの方がいいって言うの」

しかし泰子は

「見たいなぁ。和服姿見たいなぁ」

と、こだわりを見せる。

「ねぇ、やっちゃん白無垢着たかったの?」

と、大河がおそるおそる聞いたのは、泰子の境遇を知っているからだ。

16歳の時、チンピラの子供を身ごもった泰子は、後に竜児と名付けることになるその子供を守るために家を出た。チンピラはとっくの昔に姿を消しており、始めから一人で生きて竜児を守るための家出だった。花嫁衣装など着るチャンスは無かったはずである。

もし、自分が着ることのできなかった白無垢に泰子があこがれをもっているのであれば、大河としても願いを叶えてやりたいと思う。しかし、

「ううん、やっちゃんもねぇ、ドレス着たかったのぉ」

などと言う。

小首をかしげ、大河が泰子を見つめる。竜児に『飲食業なんだから』とやかましく言われて短めにセットした髪は、昔ほどではないが軽く脱色されて明るく波打っていうる。少したれ気味の目尻には、さすがに年相応の年輪が刻まれているが、
それにしてもにこにこと笑う姿は、とても39歳とは思えない。そうして、甘いマスクは年齢だけではなく内心すら覆い隠しているのだ。

泰子はまもなく義理の娘になる女の小首をかしげたポーズに気づいたのか、いっそう目尻を垂らすと

「あのねぇ、やっちゃん竜ちゃんのぉ、紋付き袴姿見たいのぉ」

と、のたまってくれた。ずるり、と大河がいすの上から落ちそうになる。

ええええええぇぇぇぇぇ!と、声には出さないものの、昔『手乗りタイガー』の二つ名で呼ばれた女は、心の内をだだ漏れにしてしまう。嫌だ、嫌すぎる、と。

「大河ちゃんはぁ、竜ちゃん紋付き袴姿似合うと思わない?」
「それはぁ」

似合うと思う。

224袴戦争 ◆fDszcniTtk:2010/06/27(日) 15:40:10 ID:aTxewkKw
だから嫌なのだ。誰よりも自分に優しくて、たとえ世界を敵に回そうと自分を守ってくれるだろう愛しい婚約者には、紋付き袴姿はきっとよく似合うだろう。それはもう、おそらく披露宴会場の半分がぷっと吹き出し、半分が目をそらすほど似合うに違いない。

竜児は、目が怖い。裂けるようにつり上がったまぶたの中には青白く不気味に輝く白目がはめ込まれており、その中央でぎゅっと縮んだ黒目が狂気をたたえてかたかたと震える。絵に描いたような三白眼。

高校生時代、怖いもの知らずで鳴らしていた大河は竜児の顔が怖いなどと思ったことは無いが、自分が思わなくても世間がどう思っているかはちゃんとわかっている。なにしろ並んで歩いているとみんな道を譲ってくれるし、デート中に職務質問をされたこともある。
スーパーで物陰から目つきの鋭い万引きGメンらしき連中に監視されていたことも数知れず。

人を傷つけることのできない、根っからの善人である竜児だが、悲しいかな、遺伝子の半分はチンピラからもらい受けている。それが性格に反映されなかったのは幸いだが、その代わり、ありったけの遺伝が目つきに現れてしまっていた。

そんな、にこにこ笑っても子供が泣くような顔で紋付き袴でも着た日には、披露宴会場に嫌な空気がただようこと請け合いである。なんだか、竜児と大河の前に黒服の男女が二列に並んでびしっと礼をしている風景が頭に浮かんできて、鳥肌が立つ。
そういう悪ふざけを仕掛ける奴がいるとしたら絶対ばかちーに違いない。

「私嫌だなぁ。紋付き袴」
「ええー、絶対かっこいいよ」

そうだ、忘れていたが、泰子はどうやら「そういう」のが好きらしいのだ。やくざ映画が好きとかじゃなくて、なんだか、怖い顔の男が好きらしいのだ。そうでなかったら16歳でチンピラにだまされたりしないだろう。竜児を生んでくれたことには本当に感謝しているが、正直、この嗜好にはついて行けない。

にっこり笑って首をかしげて否定する大河に、

「私は嫌だなぁ。竜児は絶対スーツのほうがいいよ」
「大河ちゃん、男は紋付き袴だよ」

泰子もとろけるような笑顔で即答する。

冗談ではない。結婚式は生涯一度きり、竜児とだけと決めているのだ。それを極道もののレンタルビデオの祝言みたいにされてたまるものか。ここは退くわけにはいかない。
竜児はその堅さもあって『お色直しは「あなたの家風に染まります」って意味だからな。2度も3度もするのはおかしいぜ』などと妙なところにこだわっている。
大河としてはウェディング・ドレスさえ着れればいいのだからそれで文句はないのだが、白無垢とドレスのミックスってどうなのか。というか、竜児はお色直しなんかしないだろう。当たり前だ、自分が竜児色に染まるのだ。竜児にお色直しなんかさせない。

ならば、話は簡単だ。ドレスか着物か。勝つか負けるか。妥協など無い。負けるわけにはいかない。

「竜児もスーツがいいって言うと思うな。わ、私のドレスきれいだって言ってくれたし」

妙な切迫感に包まれて、どもりながらも大河は強気。小首をかしげてつんとあごをあげ、自分が受け取っている婚約者からのあふれるような愛を未来の義母に誇示する。

「じゃあぁ、やっちゃん竜ちゃんに頼んでみようかしら。竜ちゃんやっちゃんにやさしいぃ」

泰子も珍しくこわばった笑顔で押収。じわり、と喫茶店の一角が嫌な空気に沈み始める。

「えへへ、やっちゃん変なの。息子の洋服にこだわるなんて、おままごとじゃないんだから」
「だってぇ、未来のお嫁さんがお願い聞いてくれないんだものぉ。あっそうだ。お願い聞いてくれないなら結婚反対しちゃおうかな。なーんちゃって。冗談よ、大河ちゃん、冗談だかからね」

目をかっぴらいて耳まで避けそうな笑いを浮かべた大河の前で泰子がへらへらと笑う。

◇ ◇ ◇ ◇

225袴戦争 ◆fDszcniTtk:2010/06/27(日) 15:40:45 ID:aTxewkKw
「馬鹿野郎!つまらねぇことで電話してくるな!」
「だって、だって。竜児ぃ」
「あーっ、もううるさい!明日までに泰子に電話して仲直りしとけよ!」

ぶちっと電話を切ってため息を漏らす。午後9時。あらかた人が帰ったオフィスの片隅。残業中に母親に続いて婚約者からつまらない話を聞かされ、高須竜児がどっとため息をもらす。

「高須ぅ、婚約者か?熱いなぁ」

冷やかしの声をかけた同期入社の友達が、ギロリとにらまれて首をすくめる。畜生、なんだってんだ。

「あの二人は喧嘩しねぇと思ったんだけどなぁ」

忘れていた重要事を思い出して、竜児はこれからの生活に頭を抱える。くだらない嫁姑戦争の心配はしないと思っていたのだが…。

今後、たまに巻き込まれるかもしれない「小学生レベルの喧嘩」の様子を思い描いて、社会人一年生の竜児はmなるで人生に疲れたように机につっぷした。

(お・し・ま・い)

226 ◆fDszcniTtk:2010/06/27(日) 15:41:35 ID:aTxewkKw
以上。暑くなったなぁ。もうすぐ水泳勝負が決着する時期か。

227高須家の名無しさん:2010/06/28(月) 22:34:57 ID:otF.1mRY
代理投稿、サンキューです。

みんなに朗報だぁ。仕事で打ちのめされているのでSS書こうって気分になるぜ。

228許さない ◆fDszcniTtk:2010/06/28(月) 22:36:54 ID:otF.1mRY
『俺は竜、お前は虎』

そう言って自分の横に立った男は、最後まで自分の傍らに立ち続けた。それまで誰にも見せなかった涙や傷を見ても、その男は笑うでもなく、目をそらすでもなく、はじめは暖かな笑みで包み、最後にはきつく両の腕で抱きしめ、そして絶対離さないといってくれた。

その腕の中に、ずっと探していた安寧が見つかったのだ。あとはただ、その男がこの世にいてくれたことに感謝し、奇跡のような巡り会いに感謝しながら、そっと微笑みを浮かべてその腕にわが身をゆだねていればいいと思った。
なんの疑問も抱かず、なんの不平も言わず、たんに目を閉じて幸せに身を任せていればいいと思った。

だが。

今、再び虎は自らの脚で立ちあがる。隠していた爪を大地につきたて、血に濡れた牙をむき出しにし、炎のように赤い口を開き、全身の筋肉を震わせ、竜に向かって咆哮する。

男の愛には一片の疑いも抱いていない。この男が自分を見捨てるわけがない。

しかし、
それでも、
だとしても。

懸念が疑念に変わる前に、不安が不信に変わる前に、妬みが怒りに変わる前に、悪しき芽は摘んでおかなければならない。

「竜児、だめよ」
「おう、なんだよ。藪から棒に」
「それはだめ。絶対許さない」
「だからなんだって」
「知ってるんだから。今見てたでしょ。浮気は許さないわよ」
「浮気ってなんだよ!」
「うるさいっ!さっさと歩きなさい」
「何なんだよお前はよう!」



『ラブプラス』 絶賛発売中。


(お・し・ま・い)

229高須家の名無しさん:2010/06/28(月) 22:44:54 ID:???
わろたw
切れ味いいな

230 ◆fDszcniTtk:2010/06/29(火) 17:05:24 ID:VPcebqU.
サンキュー、そして、書き直しだ orz

231許さない ◆fDszcniTtk:2010/06/29(火) 17:07:05 ID:VPcebqU.
『俺は竜、お前は虎』

そう言って自分の横に立った男は、最後まで自分の傍らに立ち続けた。それまで誰にも見せなかった涙や傷を見ても、その男は笑うでもなく、目をそらすでもなく、はじめは暖かな笑みで包み、最後にはきつく両の腕で抱きしめ、そして絶対離さないといってくれた。

その腕の中に、ずっと探していた安寧が見つかったのだ。あとはただ、その男がこの世にいてくれたことに感謝し、奇跡のような巡り会いに感謝しながら、そっと微笑みを浮かべてその腕にわが身をゆだねていればいいと思った。
なんの疑問も抱かず、なんの不平も言わず、単に目を閉じて幸せに身を任せていればいい。

男の愛には一片の疑いも抱いていない。この男は自分を見捨てない。

しかし。
それでも。
だとしても。

懸念が疑念に変わる前に、不安が不信に変わる前に、妬みが怒りに変わる前に、悪しき芽は摘んでおかなければならない。

今、虎は再び自らの脚で立ちあがる。隠していた爪を大地につきたて、血に濡れた牙をむき出しにし、炎のように赤い口を開き、全身の筋肉を震わせ、竜に向かって咆哮する。

「竜児、だめよ」
「おう、なんだよ。藪から棒に」
「それはだめ。絶対許さない」
「だからなんだって」
「知ってるんだから。今見てたでしょ。浮気は許さないわよ」
「浮気ってなんだよ!」
「うるさいっ!さっさと歩きなさい!」
「何なんだよお前はよう!」








『ラブプラス』 絶賛発売中。


(お・し・ま・い)

232高須家の名無しさん:2010/06/30(水) 20:48:25 ID:???
文脈入れ替えたのかw
後者のほうがまとまっててリズムいい印象がするかな?

この調子で「卒業旅行」の完成を期待…いえなんでもないですw
お仕事頑張ってください

233 ◆fDszcniTtk:2010/07/04(日) 23:12:44 ID:D2.OX3PQ
>>232
う、卒げほっ、げほほっ

仕事はさらに忙しくなってきた(w 本スレ建て時だね。久々に埋めネタ投下とおもったら、
まだ規制が続いていた。

234高須家の名無しさん:2010/07/11(日) 16:49:13 ID:xZr/T1zs
竜児が料理を始めたのって、いつからだろう。公式設定あったっけ。

235高須家の名無しさん:2010/07/12(月) 02:05:53 ID:???
>>234
十巻の竜児のセリフで、「俺ができるようになってからは俺が代わったけど」ってえのがあるな。
竜児の手際を考えると小学生のうちからやってたんじゃなかろうか。

236高須家の名無しさん:2010/07/12(月) 07:28:15 ID:???
>>235
サンキュー。やっぱり小学生の頃からだよな。

237 ◆fDszcniTtk:2010/07/12(月) 07:32:22 ID:???
規制続いているのか……。どなたか代理投稿頼む。


とらドラ!の挿入曲は名曲揃い。そのサントラがまだ売れ残っているのは
おかしいだろう常識で考えて。
ttp://www.amazon.co.jp/gp/product/B001IVU8BQ
ってことで、サントラの中から数曲選んでそれをテーマに連作してみた。
天才橋本由香里の作品をネタにするとは、我ながら無謀だは思うが、
まぁ、ご笑覧あれ。そんでもってサントラを買うのだ!

初日は「Startup」

悪いことがあっても、きっといいことがある。だから前を向いてもう一度
立ち上がろう!そういう気持ちにさせる曲。橋本由香里がとらドラ!を読んで
どう感じたかを端的に表している名曲だと思う。

238Startup ◆fDszcniTtk:2010/07/12(月) 07:39:54 ID:???
「あんたもまぁ、よくも毎日毎日飽きずに掃除に来るわね」

リビングの掃除をする竜児に大河が言葉をかける。声の調子にいつもの棘がない。南の窓からは柔らかい冬の光が入り込んでくるものの、暖房のかかってないリビングはひんやりしていて、竜児の息も白く曇る。

あるいは独り言なのかもしれないが、それでも竜児は掃除をしながら律儀に返事をする。

「毎日俺が掃除してるからきれいなんじゃないか。お前、あっという間に汚すだろう」

大河の姿は見えない。声は隣のベッドルームから。ベッドルームの扉はあけっぱなしで、近づくとエアコンの暖気が流れ出ているのがわかる。そんなことをするともったいないし、大河も寒いはずだ。でも、竜児は閉めろとは言わない。

「何よ、その言い方。駄犬のくせに。まるで私がいつも部屋を散らかしてるみたいじゃない」

大河からも竜児は見えていない。扉は二つの部屋を見通すにはあまりにも狭い。だから話をする二人の間には少しだけ距離があって、だけど今はこの距離感がちょうどいい。ガラステーブルの上の開きっぱなしのファッション雑誌を閉じ、黒い新聞立てに挿しておく。

「はいはい。駄犬ですみませんね。大河、雑誌、新聞立てに入れとくぞ」

駄犬呼ばわりされながら、竜児は口元に柔らかい微笑みを浮かべる。

ついさっき、大河はやって来た竜児のためにドアのカギを開けた後、すたすたと歩いてベッドルームに閉じこもってしまった。ただし扉は開けたまま。今頃大の字に寝そべって、ぼんやりと天井を眺めているはずだ。引きこもりにしては開放的。

「勝手にかたづけないでよ。読みかけなのに」

だいぶ元気になったな、と竜児は思う。

10日前の大河を取り巻く環境は最悪だった。ずっと恋していた北村祐作は全校生徒の前で狩野すみれに一世一代の大告白を行い、大河に北村の中の自分の位置をこれ以上ないほどはっきりと思い知らせてくれた。むろん北村に悪気は無いが、それとこれとは別である。
そしてその場で遠回しに北村を振った狩野すみれに対し、大河は木刀片手に殴り込みをかけたのだ。

誰がどう見ても一発退学という状況の中、狩野すみれの父親による温情が大河を救った。担任の恋ヶ窪と二人でかのう屋に出向いて行った謝罪が一応の決着であり、退学になると誰もが思っていた事件は二週間の停学で幕引きとなった。

その二週間も、もうすぐ終わる。

事件直後の大河は、これが竜児の知っている逢坂大河かと思うほどおとなしかった。沈んでいたのだと思う。文化祭で実の父親にこれでもかと言うほど叩きのめされ、生徒会長選では自分の無力と失恋の苦しみを徹底的に味あわされた逢坂大河。

殴り込みの後の大河は、ひょっとすると何もかもあきらめていたのかもしれないと思う。独身によれば、職員室でもかのう屋でもいつもの傲慢ぶりはすっかりなりを潜めていたと言うし、それは驚いたことに竜児に対しても同じだったのだ。
親に心を踏みにじられ、恋にも破れ、大河はタフすぎる人生に対して、あきらめかけていたのかもしれない。

停学になってからこっち、竜児は毎日掃除に来ている。大河が散らかすから、というのはもちろん言い訳で、本音は心配で一秒だって目を離していられないのだ。大河と来たら生活力皆無で、泣き虫で、目を離すとすぐに転んでけがをする、飯を抜いて貧血を起こす。
おまけにあっという間に部屋中をかびだらけにする。絶好調のときですら危なっかしい女なのだ。それが元気をなくしたとあっては、竜児が見捨てておけるはずもなかった。

239Startup ◆fDszcniTtk:2010/07/12(月) 07:40:37 ID:???
その心配も、もうすぐ終わる。

始めの頃こそ、「腹減ったか」「買ってきてほしいものあるか」「プリント持ってきたぞ」「夕飯持ってきたぞ」「今日の朝飯はアジの開きだぞ」「弁当、ここに置いておくからな」と話しかける竜児にも、大河はうん、うん、と返すだけでろくすっぽ会話が成立しなかったのだ。
まともに話したのは「ご飯はうちで食べるから持ってきて。停学中だから」くらい。

そのコミュニケーション不全もゆっくりと快方に向かい、今週になってからは竜児の一言一言に「減ったわよ、悪かったわね」「プリン」「おいといて」「遅かったじゃない。飢え死にしたらどう責任とる気なのかしら」「たまには肉を持ってきなさいよ」「うん」と、
罵詈雑言混じりの返事が返るようになってきた。

大河らしくなってきた。

少しずつ元気になっていく大河に、竜児は喜びを隠せない。始めはベッドルームのドア越しの会話だった。今はそのドアも開いている。そのうちリビングのチェアに座ってあれこれ竜児に悪口を言うようになるのだろう。それでいいのだ。早くそうなれ、と心の中でエールを送る。

完膚無きまでに打ちのめされても、きっと大河は大河は立ち上がる。文化祭の時もそうだった。今回だってそうに決まっている。小さな虎は打ちのめされても、やがては自分の脚で立ち上がり、世界に向かって再び吠えるのだ。それでいい。そうじゃなきゃいけない。

どれだけ世界が大河につらく当たっても、大河はちゃんと立ち上がる。竜児はそれを知っている。きっと来週は何も無かったように竜児に当たり散らしながら、元気に欅並木の通学路を歩いていることだろう。えらそうに、つんとあごをあげてすました顔で。

その姿を想像するだけで、竜児は優しい微笑みを漏らしてしまう。

大河の停学も、もうすぐ終わる。そしてまた、新しい日々が始まる。

(おしまい)

240 ◆fDszcniTtk:2010/07/12(月) 07:44:25 ID:???
>>237
あああ、橋本由香里じゃなくて、橋本由香利だった orz

241 ◆fDszcniTtk:2010/07/13(火) 01:27:43 ID:???
みんなコメントサンキュー!そして代理投稿の人もありがとう。

サントラからの連作二日目は「Happy Monday」
タイトル通り、今週もいいことあるぞ!と思わせる小曲。

242Happy Monday ◆fDszcniTtk:2010/07/13(火) 01:28:20 ID:???
「あーいいお天気!毎日こんなふうにいいお天気だったらいいのに。ね、竜児。お弁当のおかず何?肉?何肉?」

ゴールデンウィーク明けの初日。竜児と大河は久々の通学路を並んで歩く。さわやかない色合いの空に加えて、空気も新緑の香をはらんで、一年で一番さわやかな季節であることを思い出させる。

「朝から何なんだよおまえは。今日は塩じゃけにきんぴらごぼう。それからホウレンソウのおひたしだ」
「『何なんだよ』って、何よ。おかずを聞いちゃいけないって法律でもできたの?あと、塩じゃけってお肉じゃないじゃない」
「さっき俺んちで朝飯食ったばっかりで、いきなり昼飯の話かよ。それに塩じゃけは動物性たんぱく質だ」
「朝ご飯は朝ご飯、昼ご飯は昼ご飯よ。私はご飯のことはちゃんと知っておきたいの。喜びなさい、あんたは駄犬だけど料理の腕前だけは私が認めてあげてるんだから。
それからたんぱく質だろうが魚は魚よ。お肉とは認めない。いいこと?明日からは必ず肉を入れるのよ。具体的には豚か牛」
「はいはい、認めていただいて光栄です。まぁ、料理の腕はともかく、お前が鶏を肉と認めないなら、それでもかまわねぇけどな。お前の弁当、一生鶏抜きな。唐揚げの脂の乗った皮の裏側を食えねぇとは、お前もかわいそうな奴だぜ」
「なんてひどいこと!あ、みのりーん!」

目付きの悪い少年を従えて歩く小柄な美少女。いつも通りの凸凹コンビ。さわやかな風に心浮き立てて、ついつい気を抜いたか、これからたった一時間後、恐怖の転校生が二人の目の前に現れるなど想像もしていない。

いい色に日焼けした少女と合流した二人は、つかの間の平穏を楽しみながらいつもの通学路を元気に歩いていく。

(おしまい)

243 ◆fDszcniTtk:2010/07/13(火) 23:30:02 ID:gS8urfP2
PC壊れた orz

244高須家の名無しさん:2010/07/13(火) 23:32:15 ID:???
なんてことだ/(^o^)\

ってか、連作はGoogleDocとかでクラウドの保護下・・・なわけないか。

HDDが無事なことを虎と竜の神に祈る。

245高須家の名無しさん:2010/07/13(火) 23:35:54 ID:???
>>243
なんと!待ちます。
昨日分はもう一山欲しかったです。
大河との弁当論議の中にこうなんと言うか、罵倒の中の愛情分を隠せない大河の表情とかで。失礼しました。

246 ◆fDszcniTtk:2010/07/14(水) 00:23:27 ID:9CZ2iK8I
>>244
ご名答、テキストは雲の中だから無傷。ただ、投稿作業がネットブックになるから、
めちゃめちゃ苦痛だわ。大河だったらグズグズグズグズグズグズグズグズグズグズ
ドグズアホグズマヌケのコンコンチキ!くらいは言いそうに遅い。

>>245
だよねー。俺も一山ほしかった(w
なんかこう、やってみてわかったけど、ああいうさわやかなシーンを書くのが苦手
みたいだ。

サントラからの連作三日目は「Tiger VS Dragon」

とらドラ!の喧嘩には二つある。ひとつはつらくてたまらない喧嘩で、もうひとつは
滑稽劇の色合いをまとう喧嘩。後者を飾るのがこの曲。とらドラ!を代表する曲って
わけじゃないけど、何しろ大河が竜児を襲撃するシーンで使われたこともあって印象は
強い。

247Tiger VS Dragon ◆fDszcniTtk:2010/07/14(水) 00:26:53 ID:9CZ2iK8I
「あー、もう、みのりーん。また刺されちゃった」

ぺちっと首のあたりを叩いて、コンパクトサイズの少女が愚痴をこぼす。横ではいい色に焼けた少女が

「Oh! 俺っちは全然刺されてないぜ。たいがの血は特別おいしいのか?お前の血は何味だぁ?」

などと、おちゃらける。

ジャージ姿で座り込んでいる二人は夏の間に茂った雑草をひたすらむしりまくる。二人だけではない。二人の周りには同年代の少女が色気のかけらもないジャージに体を包まれて、うだるような暑さの中、あぢー、うざーいと愚痴りながら、だらだらと草むしりを続けている。

今日は夏休み中の最後の登校日。聞きたくもない訓示を聞かされた後、担任に指示されるまま、各組とも指定区画の草むしりにいやいやながら従事している。

「一体どうして私が草むしりをしなけりゃならないのよ。学校で人を雇ってむしればいいじゃない」

と、愚痴るのは、先のコンパクト少女、逢坂大河。麦わら帽子の下には三つ編みのロングヘアー、首にはタオルをかけて田舎少女風味。横で何が楽しいのかにこにこしながら草をむしっているのは櫛枝実乃梨。
常人には理解できない八木節スタイルでタオルをかぶるオシャレ上級者である。

「どうしてって、そりゃ労働も学業のいっかんだからだべ。さあさ、大河、がんばんなって。ほら、高須君もはりきってるじゃん」

そういって実乃梨がちらりと視線を送る先は、男子の一団。何とはなしに女子と男子別グループに分かれているのは思春期特有のテレみたいなものだが、その、男子の一団の中、一人立って檄を飛ばしている男がいる。

30 度を超える気温と厳しい残暑の強い日差しの下、まなじりを釣り上げているのは高須竜児。逆光の中でも怪しく光る白目の奥で、狂気に彩られた瞳を揺らしている姿はまるで魔王そのものである。事実周囲の空間はゆらゆらと揺らめき、土くれは地面を離れて浮かび上がり、
やがて地鳴りとともに牽属である1000の魔獣が地下の世界からあらわれたのであった。と、いうわけではなく、カゲロウ揺れる中、やる気のないクラスメイトを叱咤激励しているのである。

「あっちーよ、たかっちゃん、やめようよう」

などと泣き言をあげるクラスメイトのけつを叩きつつ、なおかつ人の倍の草をむしっていた竜児であったが、フェーズドアレイレーダーのように周囲の草の状況を監視していた高須アイの端に、一瞬目を向けた実乃梨の姿がはいったのだろう。
びくっと、体をふるわせて動きが止まる。

あうあう、と口が動いているのは、たぶん

「く、くし…えだ…」

とでも行っているのか。苦渋に顔をしかめているようだが、あれできっとにっこり笑っているつもりのはずだ。

ふと、大河は黙り込む。みんなと一緒にいった旅行では、竜児とその思い人である櫛枝実乃梨をくっつけるために大河は獅子奮迅の働きをしたのだった。しんかし、なんだか腑に落ちないところがある。どうも二人は大河が見ていないところでその距離を縮めたように思えるのだ。

「おう、たいが。ごらんよ。高須君あんなに汗びっしょりで苦しそうにしているよ」
「みのりん、あれ笑ってるんだよ」
「ええ?そうかい?日射病で倒れそうに見えるぜ」

やっぱり距離は縮まっていないのかもしれない。

安堵とも竜児に対する憐れみともつかない小さなため息が漏れる。しかし、そんなそんな大河の気持ちも知らず、竜児は照りつける日差しをモノともせずにクラスメイトを鼓舞している。その姿がちょっと気に障ったのは、単に意地悪な気持ちだったのか、
それとも横にいる実乃梨にだけ竜児が視線を送ったからなのかは、大河にもわからない。

248Tiger VS Dragon ◆fDszcniTtk:2010/07/14(水) 00:27:52 ID:9CZ2iK8I
「痛っ」

突然の刺すような痛みに竜児がほほを押さえ、次にこちらに視線を送る。大河のほうはしてやったり、と猛獣の笑み。右手は小石を親指ではじいたままの形。手乗りタイガーともなれば、おはじき遊びも流血騒ぎになりうる。

「何やってんだよ大河」
「あら、どうかしたの?」
「石ぶつけたろう」
「ぶつけてないわよ。石が草むしりの邪魔になったからどけたのよ」
「俺にぶつけたじゃねぇか」
「私の前に生意気な石が立ちはだかったから排除しただけよ。それともなに、あんたも立ちはだかろうっての?草をむしるのにも飽きたしあんたの髪の毛むしってやるのもいいかしらね」

がるる、と唸り声をあげて立ち上がる大河はいきなりやる気満々の中腰。竜児のほうはしょっぱなから『うっ』と腰が引けているが、想い人の手前かぐっと踏みとどまり、たいていの高校生が目をそらす三白眼を全開にする。喧嘩なんかする気はないのだが、
とりあえず殺る気まんまんには見える。

「暑いのに(夫婦)喧嘩やめろよ」

と、迷惑そうにクラスメイトがつぶやくが、そうしつつ二人のために場所を空けることも忘れない。手乗りタイガーの破壊力は4月の大暴れで証明済みだ。巻き込まれたら死ぬ。仲裁に割っても死ぬ。あと、超小声で言った『夫婦』を聞かれても死ぬ。

こんな場合、自分で仲裁しようとしてはいけない。駅にある不審物を自分で何とかしようとしてはいけないのと同じだ。エキスパートを呼ぶべきなのだ。2−Cにもこの手の事態を治め得るエキスパートは居る。

しかし。

「おーい、どこだよ北村先生、どこだよ」

北村祐作はどうやら生徒会長の指揮と青空の下、各部署を走り回って不在らしい。

「あれー、あみちゃんはどこ?」

とりあえず手乗りタイガーを煙に巻く能力の高そうな川嶋亜美は、美少女トリオごと姿を消していた。どうやら紫外線から避けるべくどこかの日陰でさぼっているらしい。

そして最後に残った頼みの綱である櫛枝実乃梨は

「OH! 夫婦喧嘩?ファィツ!!」

と、妙なテンションでポーズを決めて火に油を注ぐ構え。仲裁は期待できそうにない。こうなったら、ひたすら遠巻きに見守るしかない。もちろん横目でだ目があったら死ぬ。

睨みあう大河と竜児の周りには、いつの間にか灼熱の円形闘技場ができあがる。そして言うまでもないが、こんな場合すたすたと無造作に間合いを詰めるのは大河である。話し合いなどするはずがない。一気に暴力でカタをつけたほうが早いとでも思っているのだろう。

「ちょ、大河お前なんだよ!」

と、竜児があわてるものの、時すでに遅し。虎は必殺の表情。

249Tiger VS Dragon ◆fDszcniTtk:2010/07/14(水) 00:28:27 ID:9CZ2iK8I
ああ、高須死んだな、とギャラリーが遠目の横目で見守る中、びっと空気を切り裂いて手乗りタイガーの回し蹴りがさく裂した。と、だれもが思った。でも炸裂しなかった。

かっこ悪くも顔の前で手をクロスして顔を伏せる竜児の、そのまさにガードを打ち砕く寸前で、ジャージに包まれた大河の足が空中でぴたりと静止している。

「あれ?」

と声をあげたのは竜児。本人も死んだと思ったのだろう。目の前で制止する小さなあんよを見、そしてそのあんよの持ち主である手乗りタイガーを見降ろす。

「あ、あ、あ、あんた。なななに持ってるのよ」

大河のほうは視線どころの話ではなく、顔色を変え、目を見開いて身震いしている。その見開いた先には…

「何って、ああ、これか。さっき日干しになりそうだったから救い出して花壇に逃がそうと思ってたんだよ」

頭をガードする竜児の手には、ミドルサイズのミミズが一匹垂れ下がってにょろにょろとうごめいていた。ひぃぃぃぃぃっと声をあげたのは大河。そのまま猛然と後ろに吹っ飛ぶと、ごろごろっと後ろ向きに転がって、
草をむしり終わっていない校庭の一角にひっくり返った蛙のごとく無様に倒れこむ。

「なんだよ、ミミズぐらいでそんなに驚くなよ。てか、お前ミミズを何だと思ってるんだ。ミミズが土を食べて穴をあけるから土が耕されて肥沃に…」
「うるさーいっ!よるな!」

ダーウィン先生が聞いたら涙を流して喜びそうな場違いな講釈など耳に入るはずもなく、大河はその辺の草をむしって竜児に投げつける。猛烈なスピードで射出される草だが、残念なことに全部空中で失速して散らばるばかり。
こうなると手乗りタイガーもかわいい女の子に見えるから不思議不思議。

一方の竜児は目の前にミミズを掲げて見る。目を眇める姿は、のたくるミミズを巨大化させて校舎ごと破壊せんとする悪魔のようだが、もちろんそんなことは考えていない。大河がなにをそんなに嫌がっているのか純粋に理解できないのだ。
この場合、否は竜児にあるようだ。下手をすると大河が女子であることを忘れているのかもしれない。

「わわわかったから、そのミミズを捨てなさい。私の視界からすぐに取り除きなさい!」
「はいはいわかりました。ほら、ちゃんと花壇に放した。お前もいつまでひっくり返ってんだよ。ジャージこんなに汚しやがって」

ブチブチ文句を言いながら竜児はいつものように大河を立たせると、パタパタとジャージの泥を落としてやる。言われるままに立って、おとなしく泥を落とされている手乗りタイガー。

「お尻触るなエロ犬」
「お尻汚すなドジ。あーあ、髪にまで泥が入ってるぞ」

乱闘が起きる覚悟で見まもっていた2−Cの面々は、ホッとしつつも、いつものごとく『あの二人はわからねぇ』と心でつぶやく。

残暑の厳しい青空の下、いつも通りの平穏な大騒ぎ。

(おしまい)

250 ◆fDszcniTtk:2010/07/15(木) 01:19:40 ID:YLc7dbRY
連作四日目は「カンチガイアワー」

ちょっとオトナのシーンや怪しげなシーンで使われた色っぽい曲。ただし本気で色っぽいシーンには
使われていないところが「カンチガイアワー」のカンチガイたるところ。

251カンチガイアワー ◆fDszcniTtk:2010/07/15(木) 01:24:14 ID:YLc7dbRY
『……ねぇ、竜児ぃ……』

月に一度、母さんはひどく甘えんぼになる。

『……なんだよ、くっつくんじゃねぇ……』

いつもはパンパン飛び出す父さんへの軽口と、『なめたら承知しないわよ』って感じの私への態度が鳴りをひそめ、言葉少なく微笑みをたたえるようになる。父さんの横に立って、柔らかそうな頬に笑みをたたえながら優しげな視線で見上げるようになる。
そのさまは実の娘の私が見ても、かわいい、と抱きしめたくなってしまう。

『……だって……』

母さんがときたまそんな風に父さんに接することに気がついたのは、小学生のころだった。横に立って見上げながら、そっと袖をつかんでみたり、あるいは父さんに身を寄せて顔をすりすりとこすりつける姿を何度も見た。
父さんと母さんが仲良しだって話を学校の友達にすると、みんな驚いた。よその家ではそんなことはしないらしい。うちの父さんと母さんは仲良しだ。それがちょっと自慢だった。

『……竜河が聞いてるぞ……』

中学生になって、私はときどき母さんがこんな風になることには別の意味があると思い当たった。それはつまり、私たちの年頃が急に関心を持つことだ。私は気づいた。あからさまな話ではあるけれど、つまりこれは夜のおねだりだと。

『……聞こえやしないわよ、それより竜児。今夜…ね?……』

母さんは、父さんにああやってサインを送っているのだ。そう思うと、私はちょっとだけ嫌な気分になった。大好きな父さんの横に立っているのは、やっぱり大好きな母さんなのだ。それなのに、まるで父さんの気を引こうとする知らない女の姿が見えるようで。

それはきっと、初めて自分が意識するようになった男と女の生々しい行為を重ねて見ていたせいだろう。

『……だから朝っぱらから甘えてるなって……』

あの子供っぽい顔の母さんと、実の子の目から見てもこわい顔の父さんが愛し合う姿をふと思い浮かべて、その生々しさに、どこに向けたらいいのかわからない嫌悪感を抱いたこともある。

『……いいじゃない、少しくらい……』

今年、私は高校2年生になった。男と女の愛にはいろいろな形があることや、家庭を持つことの意味について、中学生の時よりも少しは分かるようになった。今、奥の部屋で声をひそめて言葉を交わす二人のことも、以前よりは理解できると思う。

『……しょうがねぇ奴だなぁ……』

月に一度、母さんはひどく甘えんぼになる。

『……ふふふ……』

ガラス細工の人形のように華奢な体をパジャマに包んだ姿で父さんにすり寄り、大人の女の微笑みで視線をからみつかせているのだろう。男と女の匂い立つような空気が奥の部屋からゆっくりと広がってリビングまで入り込み、椅子や、テーブルや、私までも包み込む。

そしてこんなとき、聞く者の心臓をとろかすような声で母さんがそっと囁くことを、17歳になった私は知っている。


『私、竜児のとんかつ大好きよ』

毎月第二土曜日の晩は父さんが料理登板だ。

(お・し・ま・い)

252 ◆fDszcniTtk:2010/07/16(金) 08:08:56 ID:P4vHwVSM
サントラからの連作の最後は「優しさの足音」

第一話の冒頭シーンで流れる、その名の通り優しい曲。とらドラ!のテーマ曲として推したい。
ちなみに気分がへこむ時には繰り返し聞いていたりする。

253優しさの足音 ◆fDszcniTtk:2010/07/16(金) 08:09:34 ID:P4vHwVSM
「母さん、ご飯もうすぐできるよ」

卵焼きを並べた皿をちゃぶ台に置きながら、母親に声をかける。それほど早起きじゃないのだけどれど、冬の朝は日が出るのも遅い。まだ、外は暗い。台所の弱々しい蛍光灯がついているだけの家の中も暗くて寒い。吐く息は白く、水は切れるほど冷たい。
もう少ししたら空も明るくなって、そうしたら南側の窓から朝の柔らかい光がこの小さな借家を満たすだろう。スリッパを脱いで歩く畳も、すこしだけ暖かくなるだろう。

「母さん!早く起きてよ」

味噌汁を並べ、ご飯をよそった茶碗をちゃぶ台においても、まだ母親は起きてこない。台所で急須と湯呑をお盆に載せながら、少年は白いため息をつく。

父親のいないこの家では、母親…高須泰子…が働いて家計を稼いでいる。物心ついたときから、外で働きながら自分の世話をしている母親をみていた少年…高須竜児…は、小学校中学年のころには、すでに台所に立つようになっていた。
泰子はそんなことはしなくてもいいと言ったが、子供から見ても泰子は働きすぎだったし、なにしろ体を壊したこともあった。だから、せめて朝の準備だけでも、と始めたのだった。
始めのころはぎこちなかった家事の腕前だが、2年ほどだった今では、すこしは手際も良くなっている。

「母さん、起きてよ、母さんてば。あーもう。泰子!起きろ!」

ふすまを開けて酒と化粧品の匂いが充満する母親の部屋に入り、寝ている泰子を揺さぶる。

「んーん、竜ちゃぁん、もうちょっと寝かせてぇ」

うつぶせに枕を抱えて丸まっている泰子を見ながら、竜児はため息をつく。帰りの遅い、というか毎日の仕事が朝帰りである泰子は、寝るのも朝4時とか5時だ。だから朝ご飯抜きでゆっくり寝ればいいと思うのだが、本人は『朝ご飯は一緒に食べる』と言い張ってきかない。
本人が起こしてくれと言っているから無理に起こしているのだ。しかし、決して寝起きのよくない泰子の姿を見て、竜児は毎朝のように起こすのをためらっている。

「じゃぁ、冷蔵庫に入れとくから暖めて食べてよ」
「だめぇ。一緒に食べる」
「どうするんだよぉ。早く決めてよ遅刻しちゃうよ」
「竜ちゃん起こしてぇ。一人じゃ起きられない」

蒲団の上でぐずる泰子の手を引っ張って無理やり起こす。女として一番美しい盛りのはずの体を覆うのは、ディスカウント・ショップで買った980円激安ジャージ。並みの男なら触れるのをためらうようなしどけない姿も、実の息子には何の効力もない。
座り込んだまま再び夢の中に落ちてしまいそうな母親の柔らかい体をゆすって立たせ、あくびをしている後ろから牛を追い立てるように洗面所まで押して歩いて顔を洗わせる。
皮膚が切れるように冷たい水に声を上げ、ようやく目が覚めた泰子をせかして今度は食卓に着かせると、やっと朝ご飯を食べられる。

だいたい毎朝こんな感じだ。

「いただきます」
「いただきマンモス!わー、今日もおいしそうにできたねぇ。竜ちゃんはどんどんお料理が上手になるねぇ」
「うん、毎日やってるからね」

そう、今日だけではなく毎朝ご飯は竜児が作っている。いつも通りの朝だ。だからいつもどおりの返事だったはずなのだが、何かがいつもと違ったらしい。目の前の泰子は小首をかしげて竜児の顔を見ている。

「おやぁ、元気ないなあ。どうしたのかな、友達と喧嘩した?」
「元気だし喧嘩なんかしないよ」

していないどころか、したことももない。痛くもない腹を探られたようで、竜児はちょっとぶっきらぼうに答えて見せる。

竜児は小学校に入るころには、自分の気持ちを殺して人に接するすべを覚えていた。そうしないと、友達から仲良くしてもらえないことを、身をもって学んでいた。竜児は、誰よりもよい子でなければ友達になってもらえない。母親しかいなくて、しかもその母親は水商売だから。

254優しさの足音 ◆fDszcniTtk:2010/07/16(金) 08:10:11 ID:P4vHwVSM
「じゃぁ、早起きがいやになっちゃったかな。ごめんねぇ。いつもご飯作ってもらって。明日からやっちゃんがつくってあげるからね」
「ちがうよ、そんなんじゃないって」

本当にそんなんじゃない。むしろ朝起きて、早親に朝ご飯を用意することは、小学5年生の竜児自身にとって必要なことになっていた。だって、ご飯を作っている間は、自分はこの家にいてもいいのだと信じることができる。

物心ついて一度も、竜児は父親の顔を見たことがない。母親からは一枚写真を見せてもらっただけで、その写真には母親と、テレビなら出た瞬間に犯人とわかる顔をした男の人が笑って写っていた。
父親についてその他に知っていることは、ぜんぶ母親の泰子から聞いたことだった。今では、ひょっとすると生まれたときには父親はいなかったんじゃないかと思っている。

ずっと泰子と二人っきりだった竜児は、大きくなるにつれて、託児所の大人たちの会話から、学校の友達の会話から、テレビから、すこしずつ外のことを知るようになった。この世には田舎というところがあって、そこには、おじいちゃん、おばあちゃんとよばれる大人がいること、
彼らは子供にやさしいこと、お年玉をもらえること、おもちゃを買ってくれること。泰子の仕事は水商売と言われていて、テレビではあまりかっこよくない役であること、友達のお母さんはみんな水商売が嫌いであること。
友達のお母さんは、みんな泰子より10歳も年上であること。

知ってしまったこの世界のことは、小学生である竜児にはあまりにも重かった。たぶん、同じような境遇の子供はたくさんいるのだろう。母親が一人で育てている子供なんてたくさんいるに違いない。自分だけがつらい目にあっているわけじゃない。
そう思った。だからといって、そのことを忘れてしまうには、あまりにも竜児は気まじめな子供だった。

泰子はたった16歳で自分を産み、一人で育てきたらしい。それは竜児にとって恐るべきことだった。なにしろ、この気が遠くなるような広い世界でたった一人、頼れるのは泰子だけなのだ。泰子以外に、お父さんも、おじいちゃんも、おばあちゃんも、誰も、
竜児を育ててくれそうな大人なんか知らなかった。そしてもし、泰子が「もう、やめた。こんな子はいらない」と一度でも思っていたら、きっとそこで竜児の人生は終わっていたのだった。

泰子のことは大好きだ。だが、大好きである以上に、必要だった。泰子が今日竜児の前から消えたら、竜児も明日にはこの世界から消えるのかもしれなかった。ずっと前から『お母さんが死んじゃったらどうしよう』という漠然とした恐怖に震えていた竜児にとって、
『もし、泰子に嫌われたら』という想像は、二つ目の生死に関わる恐怖になった。

だから、竜児は家でもよい子であろうとした。小学生なりの真剣さで泰子を助け、『竜ちゃんなんかいらない』と言われないように頑張った。そんなことは考えすぎで、ひょっとすると学校の友達と同じように毎日遊んでいても大丈夫かもしれないとも思ったが、
そう考えても時たま沸き起こる不安は消えなかった。

だから、料理をすることなんて全然苦じゃない。料理をしていれば、竜児はいらない子にならずに済む。『竜ちゃんなんかいらない』と言われずにすむ。

それに本当のところ、ちょっとおもしろいなとも思っていたのだ。初めは見よう見まねだった料理も、やがて献立を自分で考え、食材を買うようになると、こんどは泰子の収入と突き合わせて値段のことまで考えるようになった。工夫すると、
少ないお金でもそこそこのご飯を作ることができた。楽しいと思った。そのうち晩ご飯も作ろうと思っている。

そういうわけで、竜児は一所懸命泰子を助け、いい子であり続けている。しかし、それでも不安はなくならなかった。漠然とした不安が時折思い出したように竜児を悩ませた。やがて大きくなったら、こんな不安にも勝てる強い大人になれるのだろうか、とそんなことを考える。

とはいえ、今日はそんな不安は一度も感じていない。不安といっても、時折心の隅に浮かぶだけなのだ。だから泰子が感じ取った何かは純粋にカンチガイなのだが、それでも正確に竜児の気持ちの真ん中を貫いていた。

泰子の問いかけに「全然なんともないよ」と振り払えなかったのは、それが理由だ。

「じゃぁ、竜ちゃんはどうしちゃったのかな。テストの成績わるかった?」
「昨日見せたじゃない。100点だったでしょ」

竜児はいい子でなければならないから、勉強だってしている。

「そっかぁ、竜ちゃん偉いっ!じゃぁ、いたずらして先生におこられちゃったか?」
「いたずらなんかしないよ」

いたずらなんかしたこともない。先生や泰子の言いつけを守らない子はいけない子だ。

255優しさの足音 ◆fDszcniTtk:2010/07/16(金) 08:10:54 ID:P4vHwVSM
「うーん、なんだろう。ああ、わかったぁ」

そういうと、優しい顔に泰子は満面の笑みを浮かべる。

「竜ちゃん、ガールフレンドほしいんでしょう」
「ええ?」

なんじゃそりゃ、と母親の斜め上具合に箸と茶碗を持ったまま脱力する。そんなものは別にほしくない。学校でも、男子と女子は別々のグループだ。男子と女子が並んで歩くのはかっこ悪いことだとみんな思っている。

「ガールフレンドなんかほしくないよ」
「ええぇ?どうしてぇ?ガールフレンドいいのにぃ」
「いいのにぃって、母さんガールフレンド持ったことないくせに」
「だってやっちゃんは女の子だったんだもん」

何が嬉しいのか偉そうに笑うと、泰子はにこにこしながら味噌汁を啜る。一口すすって、勝手に話を進める

「竜ちゃんは優しいからきっとかわいらしいガールフレンドができるよ」
「優しいのと可愛いのは関係ないよ」
「関係あるの!優しくておとなしい竜ちゃんには、元気でかわいいガールフレンドができるんだよ。でねぇ、竜ちゃんがぁ、その子を守ってあげるんだよ」
「元気なのに守ってあげるの?」

母親のばかばかしい妄想話を話半分に聞きながら食べていた竜児が箸を止める。

「そうだよぉ。男の子はぁ、女の子を守ってあげるの。女の子はみぃんなそんな男の子を待ってるんだよぉ」

父親に守ってもらえなかった母親は、にっこりと笑って竜児に噛んで含むように言う。

唐突に頭に浮かんだのは、真っ白なもやを背景に、大きくなった自分が小さな女の子を抱きしめている姿だった。ぼんやりとしたその想像の姿は、少しだけ竜児の気持ちを軽くした。自分が守ってあげるのを待っている女の子。自分を必要とする女の子。
そんな子があらわれたら、自分はここに居てもいいのか、などと悩まなくてもいいかもしれない。少なくとも一人、『あなたが必要』と言ってくれれば、竜児はこの世にいてもいい人間になれるはずだ。

「そんな女の子、いるのかなぁ」

ぽつり、とつぶやいた言葉を、泰子が拾う。

「いるんだよぉ。もうその子はこの世に生れていて、竜ちゃんと出会う日を待っていてるんだよぉ」

本当にそんなの女の子がいるのかどうか、まだ11歳の竜児にはよくわからない。

それでも、もしそんな子が現れたら、自分は強い大人になれるような気がした。
その子のために優しい気持ちになれるような気がした。
そんな女の子がいると考えるだけで、優しい日々が近づいてくる気がした。

二人が静かに暮らす部屋の南の窓から光が奪われ、そしてひどく騒々しいけれどまばゆい別の光が与えられるのは、ずっと先のこと。

まだ竜児も泰子も知らない先のこと。

(おしまい)

256 ◆fDszcniTtk:2010/07/16(金) 08:11:30 ID:P4vHwVSM
連作はこれでおしまい。コメントをくれた人、代理投稿してくれた人、本当にありがとう!

257高須家の名無しさん:2010/07/16(金) 22:31:35 ID:???
ありがとうございました!!
とても感動しました
お疲れ様です

258まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY:2010/07/31(土) 19:40:38 ID:???
まとめサイトを更新しました。
本スレが繋がらなかったのでこっちでご報告いたします。
抜けがあるようでしたら、ご指摘をよろしくお願いしますー



にゃんにゃん大河……ふぅ

259高須家の名無しさん:2010/07/31(土) 22:24:26 ID:???
いつも乙です

260高須家の名無しさん:2010/08/01(日) 05:21:29 ID:???
>>258
いつも乙&ありがとうございます。


本スレ(というかアニキャラ個別板)鯖移転しました。

【とらドラ!】大河×竜児【キラキラ妄想】Vol21
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1278256303/

261高須家の名無しさん:2010/08/02(月) 01:26:11 ID:???
更新乙です。
にゃんにゃん大河 か わ い す ぎ る ! ! これで夏を乗り切れるなw

自分が書いたやつが載ってるのは、なんとなく嬉しい

262高須家の名無しさん:2010/08/04(水) 01:00:01 ID:???
>>258
いつもありがとうございます。
自分の駄文に素敵なタイトル、感動しました。


ギシアン置いときますね。


「竜児、すごいことを思いついたわ!」
「なんだ?」
「私たちが気温より20℃くらい暑くなれば相対的に涼しくなるんじゃない?」
「……そりゃそうだろうが、20℃も体温を上げると死ぬぞ」
「やってみなけりゃわからないわよ! もしかしたらノーベル賞も……」
「間違いなく失敗だろ! 暑さでやられ放題じゃねぇかお前!」
「うるっさい! あんたも男なら黙ってコレに入りな!」
「……山岳用のエマージェンシーシートじゃねぇか!」
「そうよ。これならお互いの体温が逃げる事も無いし、保温性バッチリ」
「ま、待て! それはホントにシャレにならないならねぇ! っていうか、どこから持ってきた!?」
「問答無用! いくよ! 60℃の世界へ!」
「うわー!」

ギシギシアンアン

「大河……もう、無理……だ……」
「りゅうじー……私も……」
そのままぶっ倒れた二人は30分後、帰宅した泰子により発見された。
生まれたままの姿で……

263高須家の名無しさん:2010/08/10(火) 17:24:40 ID:???
また規制だ、dionは解除されない。鬱だ

264高須家の名無しさん:2010/08/12(木) 02:32:15 ID:oinaCpNI
エロいの読みたいな
ソフトエロじゃなくてしっかりエロ
性欲ぶつけながら愛情吐き出し合ってるような

265高須家の名無しさん:2010/08/12(木) 14:00:47 ID:???
エロパロ版のきすして読んだら?

266高須家の名無しさん:2010/08/12(木) 15:04:22 ID:???
>>264
書けばいいんだ。期待してるぜ!

267高須家の名無しさん:2010/08/23(月) 18:40:58 ID:???
書き込みtest

書き込めたら近日中に投下させて頂きます。。。
エロくはないですがご容赦下さい

268高須家の名無しさん:2010/08/24(火) 01:56:57 ID:???
>>267
お待ちしております。

269高須家の名無しさん:2010/08/24(火) 17:31:37 ID:CZ7LwMdA
>>267
楽しみにしてます
エロくなくても甘くなくても大歓迎

270高須家の名無しさん:2010/08/24(火) 18:41:55 ID:???
先日図々しくも投下予告なんぞしてしまった者です。
予告したからにはと何とか書き上げました。
何レスかお借りします。
本スレのほうへの代理転載神様、大歓迎です。

では、よろしくおねがいします。

271高須家の名無しさん:2010/08/24(火) 18:42:20 ID:???
だめよ大河・・・あなたが竜児を疑ってどうするの?

10月某日。
暮れゆく空に一番星が輝き、街に明かりが灯りだす黄昏。
とある学生アパートの一室で、1人の少女が大いなる苦悩の嵐に晒されていた。

それにこんなこと・・・竜児を騙すことになるのよ?

心の中の善の部分が自分を諭す。
分かっている。そんなこと、言われなくても分かっているのだ。

だが。しかし。

「確かめなきゃ・・・」

―そう、フィアンセとして。

少女の悲壮な決意が伝わったのか。
遠く、犬の遠吠えが聞こえる。


逢坂大河と高須竜児。
2人が母校・大橋高校を卒業してから、1年半が経った秋の夜のことだった。

272高須家の名無しさん:2010/08/24(火) 18:42:52 ID:???
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事の始まりは、およそ5時間前に遡る。

「お、あーみん。しばらく見ないうちに一段と綺麗になったねぇ」
「・・・トイレ行ってきただけのうちに、あんたの中では何年経ったのよ・・・。
つーかやっと来たのかチビ虎。遅刻は罰金だよ」
「久しぶりねばかちー。しばらく見ないうちにちょっと太った?」
「太ってねえよ!ばっちり理想体型だよ!つーか一昨日も逢ったろ!?」

今大河と一緒に居る2人、櫛枝実乃梨と川島亜美は、高校時代からの親友だ。
2日前、偶然街で出会った大河と亜美が、
折角だからと3人で集まる機会を設けたのだった。

「ったくアンタらは・・・ホンット成長しないわね」
「おいばかちー。そのセリフ、わたしの体のどこを見て言った?」
「そうだぜあーみん。私のこのマッシヴ・ボディを見て、
成長してないとは言わせねぇ」

今や麗しの女子大生となった3人。
(約1名、入学直後に女子ソフト部に入部し、
麗しさから遠く離れたガタイを手に入れた者もいる)
親友とはいえ、各自のスケジュールの都合もあって、
3人で集まったのは半年ぶりになる。
話は自然、ここには居ない4人目の親友にして、
ここに居るある1名の恋人の話に及ぶ。

「しかし、なんだね。高須君、今日来れなくて残念だったねぇ」
「うん・・・。どうしても外せない補講が入っちゃってるんだって」
「へー。結構真面目に大学生やってんだ。あのナリで」

高須竜児。大河の恋人、いや婚約者。
かつては金銭的な問題もあって大学への進学を考えていなかった彼も、
母親や祖父母の熱心な説得と資金的援助もあって進学を決意、
元から地道な努力が出来る人格と地頭の良さも相まって、
名門と呼ばれる大学に合格した。
大学2年生になった今も、高校生のときから続く2人の仲は順調だ。

「ま、違う大学に通ってんだから、予定が合わなくても仕方ないべな」

ただ、2人は違う大学に通っている。
母親の意向もあって、大河は女子大に通っているのだ。


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