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【けいおん!】律×唯スレ

1軽音部員♪:2010/05/15(土) 22:38:01 ID:8ZHPh4dA0
何で2chのは荒らされるんだ

70軽音部員♪:2010/08/15(日) 21:03:37 ID:zxOnVC5w0

 りっちゃんの看病は憂にも負けないくらいに丁寧で優しかった。
 おかゆを作ってくれたり(これがまたものすごく美味しい)、お水を飲ませてくれたり、汗を拭いてくれたり……
 こんなことを言ったら怒られてしまうかもしれないけれど、
「りっちゃんのキャラじゃないよ……」
「失礼なことをサラっと言うんじゃねえ!」
 やっぱり怒られた。

「ご飯も食べたし、薬も飲んだし……あと何かして欲しいことあるか?」
 ううん、と首を振って私が答えると、りっちゃんは携帯電話で時刻を確認しながら言う。
「憂ちゃんもそろそろ帰ってくるだろうし、もう寝ろよ。寝ないと治んないし」
「ん……」
 いまいち歯切れの悪い私の答えに、りっちゃんが首を捻った。
「うん? やっぱなんかして欲しいことある?」
「う、ううん」
 そうじゃなくて、と答えるとりっちゃんはますます不思議そうに眉を下げる。

「じゃあなんだよ。遠慮しないで言ってみろって」
「……寝たら、りっちゃん帰っちゃう?」
「え?」
 あ、りっちゃんがぽかんとしている。やっぱり言うんじゃなかった、と一瞬後悔したけれど、
 それでもりっちゃんに帰って欲しくないと思ってしまったのは隠しようもない事実だった。
 と、りっちゃんはそんな私の言葉に少しだけ照れくさそうに笑うと、
「憂ちゃんが来るまではここにいるよ。唯のことひとりになんてしないから」
 りっちゃんの手が私の前髪を撫でる。
 その優しい手つきに、もう私の心はとろとろに溶けてしまう。

「前にあたしが風邪引いた時さ、唯たちがお見舞いに来てくれただろ?」
「あ……うん」
「だから、今日はそのお返し」
「私、なにもしてないよ。りっちゃんが寝てる間に顔出しただけだもん」
「でも来てくれただけで嬉しかったから」
「……そっか」
 澪ちゃんの手に握られたりっちゃんの手が、ふいに頭に浮かぶ。
 途端に胸がちくちくと痛み始めて私は頭を振った。

71軽音部員♪:2010/08/15(日) 21:05:25 ID:zxOnVC5w0

 あの日からずっとそうだ。
 澪ちゃんとりっちゃんが楽しそうに何かを話している姿を見るたびに、
 私の目の前で繋がれた手を思い出して、私は鈍い痛みに耐えなくちゃならない。
 りっちゃんの手を離したくないって思ってしまったあの日から。
「ね、りっちゃん」
「なんだ?」
「手、つないで?」
「……甘えん坊だ」
「りっちゃんのいじわる」
「ごめんって。ほら、手出しな」
「うん……」
 枕元に左手を出すと、りっちゃんの手がそこに重なる。
 小さな手はあの日繋いだ時よりも冷たくて、けれどその柔らかさはあの時とまったく同じ。
 指先に力をこめると、りっちゃんも同じように私の手を握り返してくれた。

「なんか、唯の手握ってると安心する。変なオーラでも出てんのかな」
「なにそれぇ」
「じょーだん」
 ふたりで顔を見合わせて小さく笑いあう。
 なんでりっちゃんに触れると、こんなにも心臓がドキドキとうるさいのかな。
 なんでりっちゃんの声を聞くと、頭の奥がじんじんと甘く痺れるのかな。
「……りっちゃん」
「なに?」
「なんでもなーい」
「アホなことやってないで大人しく寝んか!」
 その答えを、私は知らないふりしてる。
 本当はあの日、りっちゃんの手を握ったその時に、気が付いているはずなのに。
 いつか、胸の中で膨らみ続けるこの気持ちを隠しきれなくなった時が来たら、私はどうすればいいんだろう。
「りっちゃん」
「また『なんでもない』とか言ったらデコピンだぞ」
「……りっちゃんの手、離したくないな」
「んな……」
 りっちゃんのほっぺがかあっと赤くなる。
 ああ、りっちゃん可愛い。
 私にも、りっちゃんにこんな顔させられるんだ。
 そう思うと、なんだかすごく嬉しくなった。

 風邪薬のせいでぼんやりとしてきた頭で思う。
 どうか今日だけは、この手を独り占めさせてください、って。
「……離さなくてもいいよ」
 遠のく意識の向こう側で、りっちゃんが小さく小さくそう呟いたような気がした。

72軽音部員♪:2010/08/15(日) 21:10:10 ID:zxOnVC5w0
以上です、長文失礼致しました。

>>57-59
過疎ってるけど再うpしておきます
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1092656.txt.html

73軽音部員♪:2010/08/15(日) 21:43:25 ID:kKXli98M0
>>72
ああああああああああ二人共かわえええええええええええええええええ
アニメでりっちゃんりっちゃん言ってる唯から唯→律を感じまくってる俺には最高だった乙

74軽音部員♪:2010/08/15(日) 22:13:12 ID:z5u2LPR.0
>>72
やはり唯律は至高だな乙乙

規制のせいで向こうに妄想を垂れ流せなくてつらい

75軽音部員♪:2010/08/16(月) 00:47:48 ID:PCnl/pKM0
>>72
ありがとぉぉぉぉ
りっちゃぁぁあぁぁあああん

76軽音部員♪:2010/08/16(月) 00:53:45 ID:y0UMc8dQ0


77軽音部員♪:2010/08/16(月) 04:44:04 ID:oGsXiO6g0
72
gj

78軽音部員♪:2010/08/16(月) 06:53:34 ID:3hlXLc6o0
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1093388.jpg
詳細plz

79軽音部員♪:2010/08/16(月) 09:09:13 ID:qLs4NVrY0
>>78
ごとPの同人っぽい

80軽音部員♪:2010/08/16(月) 14:15:22 ID:3hlXLc6o0
>>79
thx

81軽音部員♪:2010/08/17(火) 10:01:42 ID:4RtFwn3gO
>>72
いや〜素晴らしいSSですな
ムフフ……

82軽音部員♪:2010/08/18(水) 02:45:40 ID:iUAghWio0
今回神回だったな
大阪行ってもう1回見てくる

83軽音部員♪:2010/08/18(水) 22:50:40 ID:.NaGE3VkO
>>72
ありがとうありがとう!愛してる

84軽音部員♪:2010/08/29(日) 10:49:39 ID:ArHZoTDg0
律唯最高!!

85軽音部員♪:2010/08/29(日) 10:53:53 ID:ArHZoTDg0
あげちまった…

ごめん
http://www.uproda.net/down/uproda132672.gif
ttp://img03.shop-pro.jp/PA01002/638/etc/kyog_kn48.jpg
ttp://areya.tv/up/201008/24/18/100825-0135130488.jpg
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ttp://areya.tv/up/201008/24/18/100825-0145120808.jpg

86軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:18:12 ID:HnTMaEAM0
カプスレが規制されてしまって、書き込めない……。
ということで、こちらに投下します!
めちゃめちゃ長くなって読みづらいかもしれませんが、
お楽しみいただいたら幸いです。

87軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:20:02 ID:HnTMaEAM0
ぽつ、ぽつ。
滴が地面を叩く。
そのリズムがだんだんと速くなっていくのに危機感を覚えて、手に持っていた黄色い傘を開いた。

「やっべえな……」

ザーッという音とともに、頭上の傘に幾粒もの雨粒が落ちてきた。
雨は嫌いではないけれど、せっかくの楽しい休日にショッピングしているときに降られたら、憂鬱なことこの上ない。
とりあえず傘は持ってきて正解だった、と律は思う。
本当は、CD屋に寄って目当ての物を買いたかったけれど。

「これじゃあなあ」

CDが濡れたら嫌だし、雨のせいでなんとなく気分が沈んでしまったし。
雨、という言葉で、とあるのんびりギタリストを思い浮かべる。
いろいろな策を講じて、愛用のギター、ギー太を守ろうとしていた奴。
あいつなら。
唯なら、雨の日でも、明るく、朗らかなんだろうな。
律は、自分の顔が、緩んでいることに気がついた。
あぁまた、と律は思う。
最近、いつもこうだった。何かしらを唯に結び付けて、思い浮かべて、満足して、気付けば一人で笑っている。

「不審者かよ」

それでも、やめられなかった。あののんびり娘を思い出すと、とてつもなくあったかく、いとしい気持ちになれるのだから。
この気持ちに気が付いていないふりをしている。
いや、気がついてはいけないのだ、と思っている。
女同士だし。
唯が、この気持ちを知ったら、苦しむかもしれない。傷つくかもしれない。
それを見て律は、唯以上に苦しむだろう。
なら、これまで通りばかやって、ふざけあえる関係で。
ずっと、変わらずに一緒にいる方がいい。
それが、律の結論だった。

88軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:22:03 ID:HnTMaEAM0
早く家に帰ろう。そう思って踵をかえした。

「りっちゃああああん!」

なんの雄叫びだよ。
聞き違えるはずのない、あの声。

「やっぱり! よかったぁ」

振り返ると、ずぶぬれの愛しきギタリストが満面の笑みを浮かべていた。

「お前は学習能力がないのかっ」
「イテッ。しょうがないじゃん、急に降ってきたんだよ」
「憂ちゃんは、傘持たせてくれなかったのか?」
「憂は、あずにゃんと純ちゃんちにお泊りですぅ」

ぷぅ、と口をとがらせる様に、思わず笑ってしまう。すると、唯もつられて笑いだした。
傘を忘れた唯を自分の傘に入れてやって、ぶらぶらと歩いている。
さっきまでは、傘があっても歩くのさえ億劫だったのに、そんな気分はどこかに消えていた。
唯がいるからだ。
悔しいけど、それは認める。むしろ、嬉しいのだけれど。
横の唯が、何かを思いついたように、あ、と声を上げる。
唯の方に顔を向けると、唯はにこっと笑って言った。

「ねぇ、相合傘だね」

いうなよ。我慢できなくなるだろ。

「何だよ、急に」
「うふふ、言いたくなったんだよ」

確実に、頬に熱が集まっている。やばい。
なんとか話題を変えようと、質問してみた。

89軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:24:09 ID:HnTMaEAM0
「ゆ、唯は何で外出たんだ?」
「んー? なんとなく。ひまつぶしかな。りっちゃんは?」
「私は、CD買いに行こうと思ったんだ。でも、雨だし、諦め」
「えっ!? そうなの? じゃあ行こうよっ! 私、傘のお礼に探してあげるっ!」
「えっ、ちょ」

唯が律の手をとり、ぐいぐいと引っ張っていく。
律としては、このまま唯とぶらついているだけでよかったのだが。
それでも、握られた手に嬉しいと感じている自分の心には勝てなかった。

CD屋は、雨のせいか、客もまばらだった。もともと広い店だが、いつもより広く見える。
唯は来るのが初めてらしく、ほえー、とぽっかり口をあけてきょろきょろ見回していた。

「唯、来るの初めてか?」
「うん、知らなかったよ〜、こんなお店。りっちゃんはよく行くの?」
「時々な。CD発売日とかさ。結構そろってんだぜ、ここ」
「穴場ってやつだね、えへへ、やったぁ」

唯は、にこにこと笑いながらこれ以上ないほどに喜んでいた。
そんなにCD屋を見つけて嬉しいのか、と思って聞いてみたが、ちょっと違うかな、という答えが返ってきた。

「だって、りっちゃんの穴場なんだよ。りっちゃんのこと、いろいろしっているつもりでいたけど、でも知らないこともあるなぁ、って。だから」

唯は一呼吸おいて、続けた。

「りっちゃんを、もっと近くに感じることができて、嬉しいよっ!」

息が止まった。そんな風に思っていてくれているなんて。
いや、と思い直す。
唯は多分、澪でも梓でもムギでも――同じように感じるのだ。嬉しい、と言って見せるのだ。
分かっている。それほどばかじゃない。じゃなかったら、とっくに思いを伝えて、玉砕しているはずだから。

90軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:26:16 ID:HnTMaEAM0
「……おおげさなんだよ、このおバカ」

ごまかすように、唯の頭を小突く。

「あぁん! またぶった!」
「お前が悪いんだろっ!」
「悪くないもん! むしろ、りっちゃんが」
「私が、なんだってぇ?」

凄んでみせると、唯はわざとらしく、恐いよぉと両手で顔を覆って、ぷるぷると震えた。
これでいい。
りーどされっぱなし、振り回されっぱなしだった心が、ようやく落ち着いた。
唯とは、こうでなくちゃ。こうでなくちゃ、いけないんだ。

「おーい、いつまで芝居しているつもりだ?」

唯の肩を揺らしたけれど、反応がない。
どうしたものか、と思っていると、唯がぽつりとつぶやいた。

「……だって、もうすぐ卒業じゃん。その前に、いっぱいいっぱいみんなのことを知って、心の中に、ためておきたいんだ」

唯は、まだ顔を覆ったままだ。

「そうすればっ! 寂しくなーいもーんっ!」

唯は、何かを振り払うかのように、顔を上げて、万歳をした。
えっへへ、と笑ってみせる唯が、悲しかった。
やめろよ、そんな顔するな。

「唯、私は」

お前の心の中にしか、いられないのか?
ずっと一緒にいられないのか?
そう、言おうとした。
でも、声が出なかった。

91軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:28:15 ID:HnTMaEAM0
「りっちゃん、りっちゃんの欲しいCD探そうよっ!」

そういうと、唯は私の手を引いて、走り出した。
私は思った。ずっと、こうしていたいって。こうしていられるって。
でも、唯には、その終わりが見えているのかもしれない。
いつも唯に、小学生か、とつっこみをいれているけれど、本当に子供なのは、むしろ。

「唯、洋楽のコーナーで探してくれよ」

私なのかもしれない。

「うん! なんて曲?」
「ふふふ、それはりっちゃん極秘スペシャルだ!」
「えー、教えてよ〜」

だけど、子供で何が悪い? 唯とずっと一緒にいたいと思ってて何が悪い?

「分かった分かった。曲名は――」

だって、離れたくないんだから。

「残念だったね……」

CD屋からの帰り道。
行きの時と同じように、律と唯は、二人で一つの傘に収まっている。
ただ違うのは、唯の表情が沈んでいるということだ。
気にする必要なんてないのに、唯は、ごめんね、と謝り通しだった。
唯とふざけあいながら、洋楽CDを置いている一角にやってきた。
目当てのCDは隅に配置されていたが、POPがあるだけで、CDそれ自体は一枚もなかったのだ。
ああ、売れちゃったんだな、と律は思った。
まあ、次の機会にでも買えばいい。
唯に一声かけて、一緒に出口に向かおうとした時。
隣の唯は、眉を八の字にして、申し訳なさそうに律を見ていた。
驚いて、どうした、と言葉をかけると、ごめんね、という言葉が返ってきた。
何が何だか分からない。むしろ、謝るのはこっちだ。唯を無駄に付き合わせてしまった。

「私があんなにふざけていたから、その間に売り切れちゃったんだね……。りっちゃん、ごめんね」

なーにいってんだ、どこが唯のせいなんだよ。たまたまだろ。
私もふざけていたし、それで楽しかったし、だから変なとこ気にするなよ。
そうはいったけれど、唯の表情は晴れないままだった。
CD屋をでたあとも、ずっと俯いている。
嫌だな。唯の笑った顔が一番好きなのに。

92軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:30:08 ID:HnTMaEAM0
「唯っ」

声を上げると、唯がこちらを見た。
一つの傘の中だから、思ったよりも距離が近い。
どぎまぎしながらも、律は唯に傘をもたせ、両サイドの髪をそれぞれつまんで、鼻の近くに寄せ、ひげっ! と笑って見せた。
唯はきょとんとしている。
まだ、これじゃ足りないか。
しゃれこうべっ! と、今度は言ってみた。
すると、唯は口をむずむずさせたかと思うと、弾けたように笑い出した。

「あはっ、あははははっ! りっちゃん、ギャグがコラボしてるぅ〜。なにそれ、ふふふ〜」

いつもの、見ている人をとろかすような笑顔だった。
それを見た律は、急に愛おしい気持ちがあふれてきた。

好き。好き。唯が好き。

いつか一緒にいられなくなるとしても。
唯の気持ちが、自分に向いていなくても。

「好き、なんだ」

思わず律は口を押さえた。自分は今、何と言ったのだ。
気持ちがあふれて、ついつぶやいてしまった。

「ん? りっちゃん、何か言った?」

幸いにも唯には聞こえていなかったらしい。

「……何でもないよ、おバカちゃん」
「むうぅ。教えてよ〜、こうやって、相合傘をしている仲じゃんか〜」

またこいつは余計なことを言って、心を振り回す。

「あーあ、今日唯に会わなかったら、こんなキツキツで傘をささなくてもよかったのになぁ」
「うぅ、それは」

隣で唯がいじける気配がする。
あぁ、またやっちゃった。
相合傘で、キツキツだなんて、窮屈だなんて、ちっとも思っていない。
むしろ、密着できて嬉しいのに。
照れ隠しで思ってもいないことを言っては、唯を傷つけている。
唯を好きになってから、いつもそうだった。
言いすぎじゃないか、って澪やムギに言われることもある。
でも。
いじけていたはずの唯は、元の明るい表情に戻って、たんたんと歩いていた。
唯は、いつだって気にせずに、優しく受け流してくれる。
律は、それに甘えていることを自覚していた。

93軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:32:13 ID:HnTMaEAM0
不意に、唯の体が自分から離れているのに気がついた。

「何やってんだよ、濡れるだろ」

引き戻そうとすると、唯は困った顔をして振り向いた。

「え、だってキツキツでしょ」
「っ、ちが、いいからこっち寄れって」
「平気だよ、案外濡れないよ」
「――っ、唯っ!」

唯の腕を思い切り引っ張った。
だって、今にも唯が離れてしまいそうだったんだ。
いつか、この関係もこんな風に終わってしまうんじゃないかって。
嫌だ。
離れるなんて、絶対に嫌だ。
離れるなんて、絶対に許さない。
思いを込めて、唯を引き寄せた。
唯は、いとも簡単に、律の胸に飛び込んできた。

「りっちゃん……?」

律と唯は、向かい合っていた。
律がさす傘の中で、じっとお互いを見ていた。
律の手は、唯の手をつかんだままだった。

「りっちゃん、大丈夫?」

唯が、急に顔を近づけてきた。
律は、驚いて目を丸くする。

「どっか痛いの? 苦しいの? 辛そうな顔してるよ?」

唯は、さらに近づけて、おでことおでこを合わせた。

「……熱は、ないみたいだね」

自分の唇の前で、唯の唇が動いて、言葉を紡ぐ。
どこか甘い、いい匂い。
ほっとする温み。
唯のおでこが、離れていく。
律は、弾かれたように動いた。
唇を、唯の唇に押しつける。

94軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:34:24 ID:HnTMaEAM0
「んんっ!?」

唯の驚いた顔が、目前にある。
それを見て、律はさらに強く押しつける。
唯の唇の肉感を、いっぱいに感じる。
すると、唯がもがいて、体を離そうとする。
逃すまいと律は、傘をもつ手を唯の肩に乗せ、動きを止める。
そして、唯の手をとらえていた手を唯の頬に添え、さらに唇を押しつける。

伝わる感触は、今確かにあるのに。あったかいのに。
これも、ただの思い出になってしまうんだろう。
唯は、きっと、こんなことも、「心の中にためて」終わりにするんだろう。
私との関係も。
だったらせめて、今だけはつながっていたい。

「……りっちゃ、んうっ!?」

唯の口が開いたのを見計らって、律は舌をねじ込んだ。
唯の舌先をつつく。
逃げようとする唯の舌に絡みつき、思い切り吸い付く。
甘い。いつも、アイスを食べているからか?
柔らかい唯の舌の感触に、病みつきになりそうだった。
舌をさらに進めて、唯の口内をくまなく味わう。

「……んっ、ん……」

はじめは抵抗していた唯の舌も、律が強引に愛撫するたびに、力が抜けて、今はされるがままになっていた。
律は、それがたまらなく愛おしいと思う。
雨音、歩く人々の足音。
二人の口付けは、黄色い傘の中に隠れて、行きかう人の誰にも気づかれない。
傘の中は、二人だけの世界だった。
ぴちゃ、くちゅっ、ぴちゃ……
雨音に紛れて、別の水音が口から漏れていた。
律は、その音に酔いながら、なおも離そうとしなかった。

95軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:36:05 ID:HnTMaEAM0
「……んっ、もうっ、だめっ!」

突然唯が律を突き飛ばした。油断していた律は、少しよろめいた。

「……ゆ、い……」

見ると、唯は真っ赤な顔で、俯きながら呼吸を整えていた。
大きく愛らしい目に、涙が浮かんでいた。

傷つけた――!
律は猛烈に後悔した。
ばかだ、最悪のばかだ。

「ゆ、い、ごめんっ! ごめんっ! ごめんなさいっ……!」

律はただひたすら頭を下げ続けた。
唯は俯いたまま、全く反応しない。

「……ゆいぃ………」

声を絞り出した。
唯の肩が上下している。まだ息が落ち着かないのだろう。
律は、唯の服の袖が、肩から濡れていることに気がついた。
律が傘をもったまま唯に突き飛ばされたせいで、唯にまともに雨が当たっていた。
袖が濡れて肩に張り付き、唯の白い肌がいつもよりなまめかしく見え、律はどきりとした。
律は頭を振って情欲を振り払った。
今、何を考えたんだ、私は。
律は唯の元に駆け寄り、傘をかざした。
それに気がついたらしい唯が、ゆっくり顔を上げようとする――。

唯は、なんというだろう。
私を、どんな目で見るのだろう。
いや、きっと。
その目に焼き付いているのは、恐怖と軽蔑――。
嫌い。触らないで。
そんなことをいわれたら、
嫌だっ!!

律は強引に唯に傘をもたせ、雨の中を走って行った。
唯の顔は見えなかった。
律は、ずぶぬれになりながら走った。
最悪だ。
バンド仲間を勝手に好きになって、欲情した、なんて――。
分かっていたのに。
このままの関係でいいって。
このままの関係じゃなければいけないんだって。

「私のバカヤロッ……」

悔しくて悲しくて零れ落ちた律の涙は、雨とともに流れていった。

96軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:37:39 ID:HnTMaEAM0
あれほど楽しみにしていた三連休が、暗黒に変わった。
唯と会った土曜から一夜明けた日曜。律は、ぼんやりそんなことを考えていた。
三連休最後の日曜は、いつかのスタジオで五人集まって、練習することになっている。
せっかく借りられたのだから、さぼるなんて許されない。
さぼっても、また学校で顔を合わせることになるのだから。
いや、もう顔を合わせてもくれなくなるかもしれない。
傷つけたのだ、唯を。
苦い気持ちになる反面、唯の唇や舌の感触、白い肌を思い出し、顔と体が熱くなるのを必死で抑え込んだ。
ばかか、私は。
律にとっては忘れられない思い出でも、唯にとっては消し去りたい思い出だろう。
「心の中にためて」おきたくもないことだろう。
それどころか、今までの思い出から律を消し去り、初めから律をなかったことにしてしまいたくなるかもしれない。
律は、あの唯の言葉を聞いた時、心の中でしか生きられないのか、と思ったけれども、もしかしたら、唯の心の中ですら生きられなくなるかもしれない。
最初から、出会っていなかったかのように。
それぐらいのことをしてしまった。それは分かっている。
でも、もう、唯と笑いあえなくなるのかと思うと、胸が潰れそうなほどに痛くなった。

「何やってんだよ、律」

突然の声に驚いて振り返ると、ドアを開けた澪がいた。

「澪こそ、何だよ」

何とか、ちゃんとした声を出せた。

「メールしたのに、返事が来ないから、ちょっと来てみたんだよ」

おまけに、部屋から負のオーラがにじみ出ているし、と澪は付け加えた。

「何かあったのか?」

答えられるかよ。私と唯の問題だ。
そうは思ったが、このままの状態なら、どの道軽音部全体に迷惑がかかる。
律は、意を決した。

「……友達の、話なんだけどさ」
「友達?」

怪訝な顔をする澪に、頷いて見せる。

「友達から、ちょっとした相談を受けてさ、それで悩んで、メール返せなかったってわけだよ」

「友達」から聞いた話にするなんて、つくづく自分は姑息だと律は思った。
それでも、そうしなければ心が耐えられそうになかった。

「友達、か」
「……そう、だ」
「私にも話してみろよ。解決策が思いつくかもしれない」

澪が、意味深な表情で促す。

「……分かった」

律は、大きく息を吸い、吐き出して、それから話し始めた。

97軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:39:16 ID:HnTMaEAM0
その友達には、好きな子がいるんだ。
大好きで、大好きだからこそ、今の関係が壊れるのが恐くて、気持ちを伝えられない。
しかも、同姓ってハンデもある。
だから、気持ちを伝えちゃいけない、このままずっと一緒にいられるだけでいい、そう思っていたんだ。
ある日、友達は、その子と会った。嬉しかった。
ちょっとした会話も、一緒にいる空気も、全部全部特別で、すげー愛おしかったんだ。
柄じゃないけど、そう思った。
私の穴場の店に連れて行ったら、その子は喜んだ。
喜ぶところも、なんか、可愛くて、眩しくて……。
あぁ、脱線しちゃったな、悪い。
何で喜んでいるのか聞いたら、私のことをもっと知ることができて、嬉しい、って。
でも、有頂天になれたのもそこまでだった。
もうすぐ卒業で、離れるかもしれないから、寂しくならないように、今のうちに思い出的なものを心にためておきたいんだと。
聞いた時、ショックだった。だってそうだろ?
私はそいつとずっと一緒にいたいと思っているのに、そいつは別れを覚悟しているんだ。
そいつの未来には、私の姿はないんだ。
ガキ臭いのは、分かっているよ。そいつの方が、私より大人な対応なんだろうし。
それでも、納得なんてできなかった。したくなかった。
……好きなんだから。
離したくなかった。離れたくなかった。
せめて、そいつに私っていう存在を強く残したかったんだ。
気付いたら、キスしていた。
欲情しまくって、止まんなかった。離すのが恐くて、かなり深く口付けた。
そいつに突き飛ばされて、目が覚めたんだ。
泣いていたんだ、そいつ。
ばかなことをしたと思って謝ったけど、反応がなかった。
というよりむしろ、反応を見るのが恐かった。
嫌われたら……軽蔑されたら……そいつに私っていう存在を拒絶されたら……。
逃げ、たんだ。……卑怯だよな。でもそうじゃなきゃ心が死にそうだった。
今、会うのも、いや、そいつのことを想像するだけで、なんか辛いんだ。自分のせいなのにな。
でも、近々そいつと会わなきゃいけないんだ。それで、どうするか、って悩んでる――。

話し終わった律は、大きく息をついた。
澪は、じっと考え込んでいたが、ふと言った。

「律は、その子のこと、今でも好きなのか」

律は、鼻で笑った。

「当たり前だろ。じゃなきゃこんな悩まねえよ……」

98軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:41:00 ID:HnTMaEAM0
大好きなあいつを思い出し、胸を熱くする。
昨日のことを思い出すと、確かに辛い。
でも、澪に話すうちに、心が整理され、少しずつ決心がわいてきた。
この辛さは、痛みは、唯が好きだから、感じるのだ。
なら、それを乗り越えなきゃいけない。
そして、唯に向き合わなければならないのだ。

「なら、それでいいと思う」

澪の言葉に、私は顔を上げる。

「好きだってことも、悩んでいることも、色んな思いを全部ありのままぶつけろよ。それが、一番律らしいと思う」

律は、こくりと頷く。

「律がそれほどまでに好きな子なんだったら、きちんと律のことを受け止めて、その子なりの答えを返してくれるよ」
「……おう」

そうだ。私は何をうじうじしていたんだろう。
唯は、私の騒がしいところも、意地悪なところも、弱いところも、全部全部受け止めてきてくれた。
だから、私もありのままを唯に伝えて――唯のありのままを受け止めるんだ。
たとえ、それがどんな返事であっても。

「そうだなっ、うん、そうだっ!!」

意気込むと、澪が呆れ気味に口を挟む。

「でも、無理やり……その、キス、したことへの謝罪はちゃんとしろよ」
「……分かってるっつうの」
「それともう一つ」

何だよ、と澪を見ると、澪は、含み笑いをしながら言った。

「『友達』から、いつの間にか『私』の話になっていったのは、スルーしとくよ」
「ぐえっ!!」

律が頭を抱えると、澪はからからと笑い始めた。

「ところで、誰なんだよ」
「スルーするんじゃなかったのかよ」
「律が自滅したんだろ」

律は、ため息をつき、唯を思い浮かべた。
さっきまではそれだけでも辛かったのに、今ではとても温かい気持ちで唯を思っていられる。

「……私のつくったハンバーグを、すんごく幸せそうに食べる姿が、可愛くてたまんない奴」

その時の唯の笑顔が浮かんで、律の頬は今にも緩みそうになる。

「はぁ!? もっと具体的に言えよ」
「わかんねえのかよ」
「わかるかよ」

はてなマークを浮かべる澪が、律には全く理解できなかった。

「……好きな食べ物は、アイス」
「なるほど、って……えぇーーーーっ!!!」

99軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:45:27 ID:HnTMaEAM0
翌日、律は緊張しているような面持で、スタジオにいた。
リュックの中には、唯への謝罪を込めたあるものが入っている。
苦しみから吹っ切れたとはいえ、昨日の夜はあまりよく寝られなかった。
唯にすべてぶつけると決意したものの、小さな不安がぽつぽつとこみ上げてきて、目が完全に冴えたまま朝を迎えた。
家にいても余計に不安になると思い、早々に出発して、馬鹿に早い時間についてしまった。
スタジオは一日貸し切りにしているから問題はないものの、それでも一人でいる空間は、何とも居心地が悪い。
どうしたものか、と思って待っていると、何人かの足音が聞こえてきた。
どぎまぎしながら振り返ると、澪、ムギ、梓、の順番にやってきた。
集合時間五分前。さすがは、真面目な三人なだけある。
最後にドアを開けた梓が、閉めながら、「り、律先輩が……」とよく分からない呟きをしていた。
ムギも、「りっちゃんが一番乗りだなんて……天変地異かもしれないわね」と、失礼なことを言ってのけた。
ただ一人、澪だけは意味深な表情をしていた。律は、苦笑いを返した。

「遅いですね、唯先輩」

集合時間から十分過ぎたころ、ムスタングを肩にかけながら、梓が時計を見る。

「そうね、りっちゃんが一番に来ていたから、唯ちゃんもつられて来るかも、と思っていたのに」

ムギが言うと、澪も心配そうに呟いた。

「来ない、なんてことは……ないよな」

律は、どきりとした。
自分が抱えていた不安を、澪の言葉が抉るようだった。
来なかったら、どうしよう。
もう一生、あいつに気持ちをぶつけることも、あいつの気持ちを知ることも、できなくなってしまったら。

「――来るよ」

律の口から、言葉がこぼれた。

「来てくれなかったら、私は」

梓とムギが、首をかしげて私を見る。
来る、来て、唯。

「ごめんね〜、遅れちゃったぁ〜」

全員でドアの方に視線を向けると、唯が頭をかきながらスタジオに入ってきた。
一気に、律の胸の鼓動が、速くなる。

「遅いですよっ、唯先輩!」
「ごめんねぇ、あずにゃん」
「まあ、なにはともあれ、よかったよ」
「りっちゃんのいうとおり来てくれたわね、よかったわ」

ムギの言葉に、黙りこくった律以外のメンバーと言葉を交わしていた唯の目が、こちらを向く。
大丈夫、今度はそらさない。ちゃんと、唯の目を見るんだ。
真正面から見る唯の目は、大きく愛らしく、温かく、まっすぐだった。

「本当に遅れてごめんね、みんな。あと、りっちゃん、ちょっとついてきて」

えっ、と律が言うと、唯はまた律に目を合わせ、踵を返してドアを開け、スタジオの外に歩いて行った。律は慌ててリュックをつかみ、唯の後を追った。
まさか唯の方から声をかけられるなんて、思わなかった。
けど、何であっても、私は、思いを伝えると決めた。
歩く律の目に、もう迷いはなかった。

「……先に合わせていようか」

澪が梓とムギに言うと、二人ともゆっくりと頷いた。

100軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:47:19 ID:HnTMaEAM0
スタジオを出ると、廊下があり、その端に階段の踊り場のような、空いたスペースがある。
そこに二人は立っていた。
律は唯の前に立ちながら、どう切り出そうか考えていた。
すると、唯はもっていたバッグの中を急に探り始め、中から黄色い紙袋を取り出した。
律はその一連の動きをじっと見ていたが、唯の持つ紙袋に見覚えがあった。

「りっちゃん、はい」

唯が、そっと紙袋を律に差し出した。
唯が「りっちゃん」と呼んでくれることに、喜びを感じた。

「開けていいか」
「うん」

唯の了承を得て、律は紙袋の中を探る。
見覚えがあるのも当たり前、それは、律のあの穴場の店でくれる袋だったから。
中に入っていたのは、

「……これ、私が探していた」

律と、そして唯が探すのを手伝ってくれた、あのCDだった。

「あとでお店の人に聞いたらね、そのCDの発売日、今日だったんだって。だから、さっき買ってきたんだぁ」
「……そうか、ありがとう。わざわざ、ごめん」
「ううん、喜んでくれてよかった」

そういって、唯は優しく微笑んだ。
自分はただ暗い気持ちに苛まれていただけなのに、唯は、こうやって、私のことを考えてくれたのだ。
あぁ、無理。やっぱり、お前のこと、思い出になんてしたくない。

「……そっかあ、だからあのとき、なかったんだなー」

「あのとき」という言葉に、唯の肩がびくっと揺れた。
律の目には、しっかりそれが映った。
くじけそうになる。でも、いわなきゃいけない。

「唯、ごめん」

ぽつりと呟かれた律の言葉に、またぴくりと唯は反応した。

「ごめん、何度言っても取り返せないだろうけど……ごめん」

そうっと唯が顔を上げた。少し、潤んだ目で律を見ている。
ぞくり、としたが、すぐに冷静になれた。

「……嫌、だったよな」

律は言い、自分のリュックに手を突っ込んだ。目当てのビニール袋の包みを見つけ、そこからタッパーを取り出し、唯に差し出した。

「許してもらえるなんて思っていないけど、お詫びだから……受け取ってくれるか?」

律の手が震える。唯は、そっと律に近づき、両手でそれを受け取った。
唯は、それをじっと見ると、「ハンバーグ……」と呟いた。

「……うん、唯、前に美味そうに食ってくれたから」

唯はそれを聞いて、大事なものを抱えるように、ぎゅっとタッパーを抱きしめた。
律は、心がほんのり温かくなった。

「唯、ごめん。何度でも、謝る。あと……お詫びと一緒に、私の気持ちも聞いてほしいんだ」
「……りっちゃんの、気持ち」
「うん」

律と唯の目が合った。
唯、すぐに、伝えるから。聞いてほしい。

101軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:52:18 ID:HnTMaEAM0
「……昨日、唯に会えて、嬉しかった。二人でぶらぶらしたり、CDを一緒に探してくれたり……相合傘も、本当は、全然、窮屈なんかじゃなかった」

律は、一つ一つ手繰るように言葉を紡ぐ。

「いつも、唯に意地悪ばっかいってるけど、でも、そうやって、お前と一緒にいる空間が、何よりも嬉しいんだ」

唯がまたタッパーをぎゅっと抱きしめるのを見て、律は言った。

「ハンバーグのときのことも、初めて会った時のことも、文化祭も、合宿も、放課後の時間も、数えきれないくらい、唯との思い出がいっぱいある」

唯は、まっすぐに律を見つめている。

「唯との思い出が、たくさん増えるのは嬉しい。でもな」

律も、唯を見つめ返した。

「思い出よりも、何よりも、私は、唯とこれからもずっと一緒にいることの方が、何百倍も嬉しい」

唯が、息をのむ音がした。

「昨日、唯が、『みんなのことをいろいろ知って、心の中にためていけば卒業しても寂しくない』っていっただろ?」
「……うん」

唯が、言葉を返した。

「それ聞いて、私は、辛かった」
「えっ……どうして?」

驚く唯に、律は何とも言えない表情をする。

「だってそれは、別れの準備みたいなものじゃんか」
「……!」
「確かに、高校時代仲良くても、大学にいったら疎遠になるって話はよく聞く。でも」

律は、しっかりと唯を見つめなおす。

「私は、唯とはそうじゃない、唯とはずっと一緒にいられるって、信じていたから」
「りっ、ちゃん」
「……違うな。唯と、ずーっとずーっと一緒に“いたい”んだ」
「りっちゃ、」
「……だからキスした」

唯の体が、またびくっとした。

「……ごめん、今の言い方だと、唯に責任転嫁しているみたいだな。違うんだ。唯の言葉は、ある意味で正しいんだ。むしろ、私が子供っぽ過ぎるんだ。ずーっと一緒、なんて」
「……そんな、そん……」
「だから、唯が離れるのが恐かった。ずっと一緒にいられないなら、せめて、キスしたかった。せめて、唯の心の中に、ずっと、いたかった。強く存在したかった」
「……りっちゃんっ……!」
「ごめん、これがキスの言い訳。でも、これだけは伝えたかったんだ」

律は、自分の思いを言いきった。あとは、唯の返事を待つだけだ。

「私の勝手で、傷つけてごめんな。それも、女からなんて嫌だっただろ」

半ば自嘲気味に語りかけた。全て、ぶちまけた。
何を言われる? 最低、勝手、嫌い……でも、どれでも、受け止めたかった。

「……いやじゃ、なかったよ……」

頭の中で考えていたうちのどれでもない言葉に、律は目を大きくした。

102軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:53:58 ID:HnTMaEAM0
「えっ、唯、」
「い、いやじゃなかったのっ……!」

唯は、顔を真っ赤にして、震えていた。

「……りっちゃん、聞いて」

唯の様子に驚きながらも、律は頷く。

「……私、今までぼーっと生きてきたの。和ちゃんが心配しちゃうくらいに。でも、軽音部に入って、毎日がきらきらしてきたの」
「……唯」
「楽しいし、楽しかった。りっちゃん、澪ちゃん、ムギちゃん、梓ちゃんに会って、いろんな曲演奏して、ティータイムして、みんなといろいろなこと経験して」

唯が今までのことを思い返しているように、目をつむる。

「でも、三年になって……将来って言葉がリアルになってきたときに、はじめて、これまでのことがあっという間にすぎていったなぁ、って思うようになって」
「……うん」
「はかないなぁ、って。それでそのとき、思ったの。こんな幸せな時間は、これから先もずっとあるとは限らない。こんな風に時が過ぎて、いずれ終わってしまうものだって」

唯の苦い言葉に、律の顔が強張った。

「……だからね、終わってしまったときに悲しむよりも、今から覚悟しておけば、寂しくならないかな、って」

律は、辛そうな顔でぎゅっとこぶしを握りしめた。

「ごめんね、りっちゃん」

突然の唯の言葉に、律ははっとなった。
唯は、見たことないくらいに悲しそうな顔をしていた。

「私、昨日、やせ我慢していたよ。『心の中にためておけば、寂しくない』って。そんなの……そんなわけ、ないじゃん」
「ゆ、いっ」
「寂しいよ、悲しいよ……みんなと別れたくなんかない、終わりなんて、来なければいいっ……」
「唯っ!」

気付いた時には、唯を抱きしめていた。
唯は、思ったよりもずっと華奢で、そのまま消えてしまいそうだった。

「それで、それでね、その中でも、いちばん、いちばん、離れたくないって思ったのが」

お互いの、視線が絡み合う。

「……りっちゃん、だよ」

103軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:55:50 ID:HnTMaEAM0
唯が、再度タッパーを抱きしめる気配がした。
律は、自分でも、今何が起こっているのか、分からなかった。
ただ、抱きしめている唯の体の熱だけが確かだった。

「りっちゃんと……その、したとき、びっくりして、思わず突き飛ばしちゃって、それでりっちゃん傷つけたかも、って今日もずっと後悔してた……」
「唯……」
「まだ、りっちゃんをどう思っているのか、どう思われているのか、わかんなくて」

唯が、律にさらに体を寄せる。
律も、抱きしめる腕に込める力を強くする。

「これが、たとえば、澪ちゃんやムギちゃん、あずにゃんだったらどうだっただろう、って考えて」
「……うん」
「傷つけた、って後悔はするの。誰に対しても……。でも、このことで、離れちゃったらいやだな、って一番思ったのは、りっちゃんなの……」
「……唯」
「本当は、りっちゃんにされたとき、離したくなかったのかもしれない、ううん、それで、そのままでいたいと思ったんだよっ……」
「唯、」

律は、唯の頬に手を添えた。唯は、まっすぐ律を見ている。
その頬は、赤く、愛らしかった。

「……分かるか? 私が、唯をどう思っているか」

唯は、首を振った。

「分からないよ。だから、確かめたいの」

唯は、自分の頬に添えられた律の手に、自分の手を重ねた。

「……りっちゃんは、私のこと好きなんだ、って思っていいの?」

決まっている。
唯からの答えも決まっている。
お互いが、お互いと、一番、離れたくないんだから。

104軽音部員♪:2010/09/03(金) 18:57:29 ID:HnTMaEAM0
ジャーン、と元気な音がスタジオに響いて、その後に歓声が上がった。

「今、すごくよかったですよね!?」
「みんなの息があって、最高だったわ!」
「そうそう。特に、律と唯が」

梓とムギが喜ぶ横で、澪がにやりとして見せた。
まあ、相談料として、これくらいのからかいは許してやろう。
ふと唯を見ると、少し頬を染めて、私に微笑んでいた。
私も、負けないくらいの笑顔を返す。
唯は前に向き直り、スタジオの鏡を見た。
自分の頬にハンバーグのかすが付いているのを発見し、慌てて取っていた。
律はそれを見て、またクスリと笑う。
かなり大き目のを作ってきたにもかかわらず、唯は一人でぺろりと全部平らげたのだ。

「よし、もう一回だな」

澪の合図で、また演奏し始める。
唯とギー太が、楽しそうに音を奏でている。
律はそれを、ドラムを叩きながら、見つめている。

ずっと、こうしていたいんだ。唯と、ずっと。

その思いが届いたかのように、一瞬、唯がこちらを見た。
その時の唯の笑顔は、きらきら光っていた。

律の口の中に、食べていないハンバーグの味がまだ残っていた。
理由? ……私と唯の、秘密だ。

おわり

105軽音部員♪:2010/09/03(金) 19:01:06 ID:HnTMaEAM0
以上です。長々と失礼しました。
某アニメの某SSからアイデアをもらったので、展開が予想できた方が
いらっしゃるかもしれません。
はあ、規制よ早く解けてほしい…
百合版にSSの続きを書きたい!なんて叫んでみました。

106軽音部員♪:2010/09/03(金) 19:13:43 ID:zkIwTONc0
>>105
乙‼唯にベタ惚れなりっちゃんが可愛いww
続きはここに書いても良いんだぜ?

107軽音部員♪:2010/09/03(金) 19:44:39 ID:s4O785hw0
これは素晴らしい!
序盤の切なさが非常に良い

書けないならここに書けばいいじゃない

108軽音部員♪:2010/09/04(土) 14:23:19 ID:AtwKXboc0
>>106
>>107
感想どうもありがとうございます!
そうか、もっと柔軟に考えるべきでした。
できあがったらまたこちらに投下したいなと思います。
本当にありがとう!

109軽音部員♪:2010/09/05(日) 17:01:43 ID:ce/mrxlYO
ほっこりした。乙。
普段馬鹿やってるふたりが相手を意識しちゃう時のギャップは最高だわ。

110軽音部員♪:2010/09/12(日) 11:44:01 ID:LD1Y23vQ0
もう最高としかいえない
GJでした

111下呂光政:2010/09/12(日) 22:57:11 ID:QHG6kaeY0
今日も十字架には哀れな男が磔にされている………一糸まとわぬ姿で………
けいおん厨「ぐへえ!!」ク゛チャッ
大西良太「他のけいおん厨は全員始末しました!」
和月次郎「体毛全て抜き終わりました!この汚らしく垂れ下がっているふたつのボールどうします?」
ドクター下呂「切れ!もはやこいつに●液を出す資格はない!」
けいおん厨代表「ククク!そんなことをしてタダで済むと思っているのかね貴様達!」
ドクター下呂「貴様等のこれまでの悪行に比べれば軽いだろ!」
けいおん厨代表「そうだ!俺様のけいおんグッズを全て貴様等に譲ろう!それで許してくれるな?」
大西良太「こいつ!この期に及んでまだこんな事を!」
和月次郎「こんな奴の言う事、信じたところで犠牲が増えるだけですよ!」
ドクター下呂「そうだな、もう始めるか!もらうぞ 貴様のキ●タマ」
チョキ チョキ(ハサミの音)
けいおん厨代表「ぎいやああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
ドクター下呂「以上で手術を終了する!」
けいおん厨代表「モゴモゴ!!」バタッ グチャリ
ドクター下呂「ふう、くたばったか………これでけいおんというコンテンツは衰退するであろう!ああ疲れた!」

112軽音部員♪:2010/09/12(日) 23:27:09 ID:rs7LDpZM0
元AKB48の中西里菜のAVデビュー作品!!無料で動画公開中!!
http://hotmaster.dtiblog.com/blog-entry-233.html

113軽音部員♪:2010/09/13(月) 00:23:49 ID:YdHFuqL.0
百合萌えスレが規制中なのでこっちにSS投下
5レスほど借ります

114軽音部員♪:2010/09/13(月) 00:25:56 ID:YdHFuqL.0

「あのなあ、いい加減にしないと怒るぞ」
「……りっちゃん、もう怒ってるじゃん」
「怒ってない。唯がさっきから突っかかってくるから、理由訊いてるんだろ」
「私、突っかかってなんかないよ」
 口を尖らせる私を見て、りっちゃんが小さくため息をついた。
 ため息の中に、ほんの少しの苛立ちが見える。心がちくりと痛い。
 いつもならやれやれって言って、それでも優しい顔で頭を撫でてくれるのにね。
 今の私たちの距離は、お互いの手が届かないくらいに遠い。

「…………」
 りっちゃんのばか。口にしようとして止めた。声を出す気にもならなかった。
「唯、いいから機嫌直せって」
「…………」
「……はあ、もういいや」
 子供のように不貞腐れた私の態度に、りっちゃんがそう呟く。
 かちゃりと鳴った小さな音は、りっちゃんが家の鍵を手にした音だ。
 りっちゃんはそのまま床に置いてあったリュックを拾い上げると、玄関へと向かっていく。
 りっちゃん、どこ行くの。背中に向かってそう言えたら、良かったのに。
 ばたん。重たい玄関が閉まる音。
 私とりっちゃんの間にも、重たいドアが出来たような音。



 それは、些細な嫉妬だった。
 大学生になって、家を出て、りっちゃんとここで暮らすようになって数か月。
 私とりっちゃんは同じ大学で、けれど学部は違うし、アルバイト先だって違うし、
 友達付き合いだってそれぞれ違って、私は大学でのりっちゃんをあまり知らない。
 それでも家に帰ればりっちゃんがいて、優しく笑ってくれて、私に触れてくれて、不安も心配もなかった。
 なかった、はずなのに。幸せな暮らしは、いつのまにか私をどんどん欲張りにさせていたらしい。

「だって……なんか、やだったんだもん」
 誰もいなくなった部屋。
 ふたりで暮らすには少しだけ狭い部屋は、家賃の割にはそこそこ奇麗で、居心地が良かった。
 それなのに今は、優しいクリーム色の壁が酷く冷たく見える。
「こんなの初めてで……どうしたらいいのか、分かんないだもん」
 たまたまりっちゃんの通う学部のある建物に行って、そして見かけた大好きな人の姿。
 同じ学部の子だと思う。可愛らしい子と並んで歩いていて、優しげな笑みを浮かべていた。
 私だけにしか見せてくれないと思っていたその笑顔は、他の子にも平等に向けられていたことを知って、
 私の知らない時間を過ごすりっちゃんを、そのとき初めてちゃんと目にした気がした。
 やだなって。私はそう思ったんだよ。

 もちろんそんなことをりっちゃんに言えるはずがなかった。
 けれど心に残る違和感を上手く片付けることが出来なくて、
 バイトから帰ってきたりっちゃんに、なんだか、すごくすごく嫌な態度を取ってしまって。
 ……いま振り返ってみたら自己嫌悪でどうかなりそうなくらいに。
 最初は「どうしたんだ?」となだめてくれたりっちゃんだったけれど、
 いつまで経ってもへそを曲げている私にしびれを切らして……そして、この有様だ。
「…………」
 ちらりと玄関を見やる。
 りっちゃん、何も言わずに行っちゃったね。
 いつもなら、コンビニに行くだけでも「コンビニ行くけど唯も行く?」って訊いてくれるのに。 

「……メール」
 ごめんなさい、だから帰ってきてください。そう送ろうとして、なんだか怖くなって手を止めた。
 つけっぱなしだったテレビが午後六時を告げる。お笑い芸人の笑い声が耳にうるさくて、私はテレビの電源を落とした。
 この部屋は、私ひとりには広すぎる。
「りっちゃん……」
 薄暗い部屋の中で私は目を閉じた。思い出すのは、あの日のこと。

115軽音部員♪:2010/09/13(月) 00:27:38 ID:YdHFuqL.0

「……いや、なんか、なんていうか」
「ふふふ、りっちゃん緊張してる〜ぷにぷに」
「こら、ほっぺつつくなって!」
 玄関で立ちつくすふたり。見渡すのは、ふたりで揃えた家具がようやく並んだ部屋。
 引っ越し前に何度も足を運んだはずなのに、今更ながらに実感が湧いてくる。
「ここ、私たちの家なんだね」
「だな」
 ぽいぽいとスニーカーを脱ぎ捨てたりっちゃんは、部屋をくるりと一周して、ベッドに腰を下ろす。
 部屋には、大きなベッドがひとつ。
 りっちゃんがベッドは絶対大きい方が良いっていうから、ふたりでお金を半分こして買ったんだ。
 でも私たちがふたりで寝るときは、いつも私がりっちゃんにぺっとりとくっついているから、
 あまり広くても無駄になっちゃうような気もするけど……って家具屋さんで言ったら、
 りっちゃんは顔を真っ赤にして私の口を慌てて押さえてたっけ。

「なんか、わくわくするね」
 りっちゃんの隣に腰を下ろした。
 ベッドがわずかに軋んで、りっちゃんと私の肩が触れた。それだけでドキドキする。
「……唯、顔近いって」
「りっちゃん、ほっぺ赤いよ?」
「うるせー」
「ふふ」
 ちゅっとほっぺに軽く触れると、りっちゃんのほっぺがさらに真っ赤に染まる。
 ああ、可愛いなあって思う。これからはこの家で、りっちゃんともっとずっと一緒にいられるんだ。
 そう思うと、なんか、こう、お腹の奥からうわーって何かがこみ上げてくる。
 わくわく、どきどき、そんな感じの何かが。

「ね、りっちゃん」
「……だめ」
「まだ何も言ってないよ」
「こんな真昼間から何考えてんだ」
「えー」
「お腹減ったし、まずはご飯食べよう」
「りっちゃん作ってくれるの!?」
「おー。何でも作ってやるぞ。なに食べたい?」
「あのね、ハンバーグ! ハンバーグがいい! あとりっちゃん!」
「どさくさに紛れて何言ってんだ!」
 ぺいっとデコピンをしたりっちゃんは、ご飯食べてからな、と照れたように言った。

116軽音部員♪:2010/09/13(月) 00:29:16 ID:YdHFuqL.0

 気が付けば、部屋は真っ暗になっていた。 
 目を開けて体を動かそうとしたら、背中に痺れのような痛みが走る。
「う……あいったた……」
 ベッドに上半身を突っ伏して、そのまま眠ってしまったらしい。
 無理な姿勢が祟って体のあちこちが痛い。
「いたたぁ……いま……何時……」
 手探りで携帯を探して、ぱかりと開く。そして私は絶句した。
「十二時……」
 唯はよく寝るなあ、なんてりっちゃんに笑われたことはあったけど、さすがにこれは寝すぎだよ私……。
 と、そこまで考えて私は気が付いた。

「うわ、かさかさだ」
 自分のほっぺは、涙が乾いてかさかさになっている。
 顔を動かすたびに違和感があって、気持ちが悪い。
「……私、泣いてたんだ」
 涙の理由は考えるまでもない。
 だって、部屋が、広くて。部屋が、静かで。
 それに、この部屋での幸せが始まった日を思い出して。
 ぽろりと、乾いた涙の跡の上に、もう一度涙がこぼれた。
 りっちゃん、帰ってきてないんだ。メールも電話も来てない。
 胸の奥が冷えた。

 りっちゃんと喧嘩をしたのなんて、これが初めてで、りっちゃんがあんな風に怒った姿を見るのも初めてで、
 りっちゃんが何も言わずに家を出て行ってしまったのも初めてで。
「もう……帰ってこないのかな」
 ここからお互いの実家はそこまで遠くもなくて、帰ろうと思えばすぐに帰ることが出来る。
 もしかしたらりっちゃんはあのまま家に戻ってしまって、もうこっちには帰って来ないかもしれない。

「そんなの……やだあ」
 ご飯、食べたい。りっちゃんのご飯が食べたいよ。
 一緒にこのテーブルを囲んで、テレビ見て、笑って、ときどきちゅーってして、それからまた笑って。
 優しく頭を撫でて欲しい。手を繋ぎたい。抱きつきたい。
「う……うぅ……りっちゃん…………っく」
 真っ暗な部屋の中で、私の泣きべそだけが響く。
 りっちゃん、りっちゃん、帰ってきて。
 心の中で強く強く願ったそのとき。
 がちゃりと、音がした。

117軽音部員♪:2010/09/13(月) 00:31:23 ID:YdHFuqL.0

「……うお、暗っ!? おーい、唯、いないの?」
 ごそごそと靴を脱ぐ音がして、やがてぱちりと電気が点いた。
「どわっ!?」
 ぼさぼさの髪の毛、涙でくちゃくちゃの顔。
 そんな私と目が合ったりっちゃんはびくりと体を震わせて、持っていたコンビニ袋を落っことす。
 ころころとコンビニのプリンがふたつ転がって、りっちゃんはそれを慌てて拾い上げた。
 右手にプリンを持ったりっちゃんは、そのままじっと私の顔を見ると、
「酷い顔だ」
「だって」
「……ずっと泣いてたのか?」
「りっちゃんが、もう帰ってこないかもって思って」
 ずびびと鼻を鳴らしながら言うと、りっちゃんが苦笑する。

「おーい、カレンダー見た?」
「え?」
 ちょいちょいと指を差された先を見る。そこにあったのは壁掛けのカレンダー。
 一瞬りっちゃんが何を言いたいのか理解できなくて、けれどすぐに今日の日付の欄が視界に入って、私は目を丸くした。

『ゼミの親睦会。遅くなるぞ! 律』

「そういえば……そんなこと、言ってたような」
「忘れてたのかよ」
「うん……」
 りっちゃんが遅くなった理由を思い出して、ほっとする。
 そうか、私に呆れて家を出ていっちゃったわけじゃ、なかったんだ。
「で、でも、いつもなら出かける前にちゃんと言ってくれるのに」
 私がそう言うと、りっちゃんは少しだけバツが悪そうに目を逸らして、
「それは……まあ、あたしもちょっと怒ってたから。だって唯が変な態度ばっか取るから」
 そのままりっちゃんは私の隣に腰を下ろすと、右手でそっと私の涙をぬぐった。
「けど、ちゃんと帰ってくるに決まってるだろ。ここはあたしの家なんだから」
「りっちゃん……」
「……家を出てから、ずっと唯のこと考えてたんだ。唯が理由もなくあんな態度取るわけないし、あたしに何か原因があったんだろうなって」
「違うよ、あれは私が勝手に拗ねてただけで」
 りっちゃんは悪くないよ。そう言おうとしたところを遮られた。

「でも、理由があるんだろ? ……言って欲しいな。じゃなきゃ謝れないし」
「…………」
「言ってくれなきゃ、りっちゃん泣いちゃいますわよ」
「……ふふっ」
 私が笑うと、りっちゃんも笑ってくれて、ようやく私は顔を上げることが出来た。
 ……全部話そう。それで呆れられても、面倒くさいって思われても、しょうがない。
 今はちゃんとりっちゃんに自分の気持ちを話すことが一番大事だって思うから。
「……あのね、りっちゃん」
 うん、とりっちゃんが頷いて、そして私は話し出した。

118軽音部員♪:2010/09/13(月) 00:33:21 ID:YdHFuqL.0

 全てを話し終えた後、りっちゃんは何やら考えこんでいたようだったけれど、
「あのさ」
「う、うん」
「唯って、あたしのことすっごい好きなんだな!」
 そんなこと言ってのけた。
 ……りっちゃん、それはさすがにデリカシーってものがね、ないんじゃないかってね、思うわけで。
 しかも大正解なんだから余計に性質が悪い。
 でもどうせもうバレバレなんだから、ここはもう開き直ってしまおう。
「そうだよ、私、りっちゃんのこと、すっごい大好きなんだよ」
「う、そ、そうか」
 顔が赤いよ、りっちゃん。相変わらずストレートに言われるのに弱いんだね。
 そういうところ、可愛くて好きだよ。……って言ったら、また照れちゃうんだろうけど。

「……でも、なんていうか、唯がそういう風に妬いてくれるなんて意外だ」
「そう、かな」
「唯はそういうのには無縁だと思ってた」
「そんなこと」
 でも、正直言うと、自分でも驚いたんだよ。
 こんな風に誰かを独り占めしたいなんて、今まで思ったことなかったし、
 どれだけ一緒にいても足らないなんて思うことだって、生まれて初めてで。
 でもね、それは全部ぜんぶ、りっちゃんがりっちゃんだからなんだよ、きっと。

「嫌いになった?」
「……さあね」
 悪戯っぽい笑みがふいに近づいてきたかと思うと、そのまま唇を奪われた。
 そっと触れて、下唇を軽く吸われて、りっちゃんの舌先が私の口を優しく開かせる。
 もうそれだけで私の頭はとろとろに溶けて、りっちゃんしか見えなくなる。
 りっちゃんのいる部屋。うん、やっぱりこれがしっくりくる。
 だってここはふたりの部屋、だから。

 と、そのとき、口元からこぼれる水音に混じって、私のお腹がぐうううと盛大な音をたてた。
 りっちゃんの目がぱちりと開いて、私を見る。
「……お腹、減ってんの?」
「うう……晩ご飯、食べてないから」
「冷蔵庫にハンバーグ作ってあるけど……先にご飯食べる?」
「ご飯は……後でいいや」
 私が答えると、りっちゃんは「そっか」と頷き、
「先にご飯食べるって言ったら、デコピンしてやるとこだった」
 そう言って照れたように笑った。その顔に胸がきゅっと鳴る。
 ああ、愛しいって、こういう時に使う言葉なんだ。
「あのね、りっちゃん」
「ん?」
 ――私にしか見せてくれないりっちゃんの顔、たくさん見たいな。
 りっちゃんの耳元でそう囁くと、りっちゃんは顔を真っ赤にして、
「……ばーか!」
「あうっ」
 容赦ないデコピンをお見舞いしてくれた。
 どっちに転んでもデコピンされるなんて酷い話だと思う。

119軽音部員♪:2010/09/13(月) 00:36:03 ID:YdHFuqL.0
以上です。長文失礼しました。
百合萌えスレの>>752を元ネタにしたんだけど規制に泣いた

120軽音部員♪:2010/09/13(月) 07:10:52 ID:yMf/du5E0
>>119
ここでいつもSS書いてる人かな
あなたの書く話とても好きです。乙でした

121軽音部員♪:2010/09/14(火) 15:04:41 ID:wRrbtBng0
幸せだわ
GJ

122軽音部員♪:2010/09/15(水) 08:39:26 ID:fYfWwM/20
>>119
妬いてる唯は可愛いなあ
いいモノ読ませてもらいました

123墓荒らし:2010/09/23(木) 15:33:40 ID:tshm3hjk0
今日も十字架には哀れな男が磔にされている………一糸まとわぬ姿で………
あああい・あああう「ぐへえ!!」ク゛チャッ
家荒らし「この家の人間は全員始末しましたァァァ!」
店荒らし「体毛1本も残らずに抜き終わりましたァァァ!この汚らしく垂れ下がっているふたつのボールどうしますゥゥゥ?」
墓荒らし「切れェェェ!もはやこいつに●液を出す資格はないィィィ!」
ああああ「ククク!そんなことをしてタダで済むと思っているのかね!貴様達!」
墓荒らし「あの掲示板が使えなくなった今ァァァ、この2chで止めを刺してやろうゥゥゥ!」
ああああ「そうだ!この2chに俺は二度と来ない!それで許してくれるな?」
家荒らし「こいつゥゥゥ!この期に及んでまだこんな事をォォォ!」
店荒らし「こんな奴の言う事ォォォ、信じたところで犠牲が増えるだけですよォォォ!」
墓荒らし「そうだなァァァ、もう始めるかァァァ!もらうぞ 貴様のキ●タマ………なんてなァァァ♪」
チョキ チョキ(ハサミの音)
ああああ「ぎいやああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
墓荒らし「以上で手術を終了するゥゥゥ!」
ああああ「モゴモゴ!!」バタッ グチャリ
墓荒らし「ふうゥゥゥ、くたばったかァァァ………長きにわたる戦いもついに終止符かァァァ!ああ疲れたァァァ!」

124軽音部員♪:2010/10/18(月) 05:44:25 ID:dlfmEu/Q0
宮崎あおい似で売り出された篠めぐみ初裏解禁無料動画!!
http://yorutomo1.blog77.fc2.com/blog-entry-37.htm

125<削除>:<削除>
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126軽音部員♪:2010/11/27(土) 20:51:06 ID:rJbr9l0gO
ここもすっかり過疎ってるなぁ…
唯ちゃん、お誕生日おめでとう

127軽音部員♪:2010/11/30(火) 00:11:29 ID:N4/SJ/u.0
やっぱ律唯は唯梓、澪律の兼ね合いもあるから難しいんだろうなぁ・・・

唯ちゃんごめんね、こっちでも今さらだけどお誕生日おめでとうでした!

128軽音部員♪:2010/12/07(火) 23:49:36 ID:08cI5c6U0
>>127
そうは言うけど律梓は賑わっとるからなぁ・・・
唯律は案外一番百合妄想がしづらい組み合わせなのかも知れん

129軽音部員♪:2010/12/08(水) 03:51:42 ID:z6wzyn1.0
恋愛まで想像しづらいんだと思うなぁ
前から言われてたけど

130軽音部員♪:2010/12/10(金) 17:43:38 ID:2Rc/WO520
ふたりはキャイキャイしてるのがしっくりくるとゆーか…
んーやっぱ恋愛・またその先はあんまり想像できないな
俺の想像力が足りないのかふたりして縁側で茶啜ってるようなのしか…
これじゃ熟年老夫婦だなー

131軽音部員♪:2010/12/10(金) 20:02:17 ID:mqyXWVzs0
百合萌え板のSSを読んで想像できるようになったぜ

132軽音部員♪:2010/12/11(土) 00:22:18 ID:hbuQwLAE0
むぅもう一回百合スレを1から読むか…

133軽音部員♪:2010/12/12(日) 22:42:39 ID:SQYReVok0
律梓は一番遠いからこそ逆にやりやすい気がする

134軽音部員♪:2010/12/12(日) 23:28:07 ID:xanAN1Jo0
??律梓なん?誤爆か?

135軽音部員♪:2010/12/13(月) 00:40:20 ID:f.ex/XQY0
少し上のレスに対してだろ

136軽音部員♪:2010/12/13(月) 00:46:50 ID:9jiHgogU0
あぁそかそか見えてなかったありがと

137軽音部員♪:2010/12/18(土) 16:29:37 ID:8d8E6kNQO
律唯ウィキってない?

138軽音部員♪:2010/12/19(日) 19:27:17 ID:mdT/5hMg0
規制で百合板に書き込めない…

139軽音部員♪:2010/12/30(木) 16:32:37 ID:2QTSchH.O
しばらくここ見てなかったが、過疎っぷり半端ないな
燃料とかないもんかねえ……

140軽音部員♪:2010/12/30(木) 16:36:34 ID:2QTSchH.O
やべ、あげちゃった

141軽音部員♪:2010/12/30(木) 16:42:49 ID:eiV9j8Dk0
みんな百合板に行ってるんだよ

142軽音部員♪:2010/12/30(木) 23:04:51 ID:2QTSchH.O
なるほど、ここはあくまで「非難所」だしな
しかしまあこっちのほうが落ち着いていて好きなんだがな

143@wiki:2011/01/09(日) 16:44:02 ID:XUVf2nP.0
・業務連絡+宣伝

ttp://www43.atwiki.jp/yuiritsu/

唯律のまとめwikiが立ち上がりました。
基本的に百合板のスレがメインですが
こちらもまとめの対象とさせて頂きます。
是非お立ち寄り下さい。

144軽音部員♪:2011/01/11(火) 00:02:10 ID:CizADOPQ0
今日立ってたVIPのやつは個人的には胸糞悪かったから乗せないで欲しいなあ

145軽音部員♪:2011/01/15(土) 22:46:02 ID:ysrR0f8M0
>>144
同意。じゃあ書くなよ!って思った。

146軽音部員♪:2011/01/16(日) 17:07:07 ID:C/oo7rJI0
まとめに載せるssは百合板のスレに投下されたものオンリーだったはず

147軽音部員♪:2011/01/17(月) 21:28:34 ID:zFVgmI4U0
>>143
マジ乙です

148軽音部員♪:2011/02/24(木) 21:51:54 ID:Uf1tq/HUO
平沢 唯 × 田井中 律 3
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/lesbian/1298440275/

新スレ立ったようです

149軽音部員♪:2011/02/25(金) 00:13:11 ID:c97z1F1EO
Oh…あっち書き込めなくなっちまったぜ…

150軽音部員♪:2011/05/22(日) 22:57:44 ID:AfrrljX6O
寂しいよ

151軽音部員♪:2011/05/23(月) 00:51:36 ID:qf9RGL2YO
まあ百合板のスレが平常運行な分、こっちの勢いがなくなるのは仕方ないね
せめてもの起爆剤としてSSでも考えてみようかな

152軽音部員♪:2011/05/30(月) 10:51:24 ID:WbBf/RxEO
期待してます!

153軽音部員♪:2011/06/04(土) 14:40:04 ID:yD5cWZIEO
お願いします

154軽音部員♪:2011/07/24(日) 15:55:14 ID:SaEfF3VQ0
ベタ子さん

155<削除>:<削除>
<削除>

156軽音部員♪:2011/08/30(火) 22:00:17 ID:A6C.tfOk0
http://niceboat.org/10/s/10ko211131.jpg

157軽音部員♪:2011/09/01(木) 11:03:37 ID:SyDmdXf20
いつも息ピッタリだね

158軽音部員♪:2011/09/05(月) 23:52:47 ID:DTH0Ca7o0
唯のくせにぃ!

159軽音部員♪:2011/12/10(土) 03:11:15 ID:aK6xDhEE0
誰かssお願いします

160軽音部員♪:2011/12/18(日) 23:27:38 ID:vmLPxdA.0
誰か〜

161軽音部員♪:2011/12/19(月) 02:07:04 ID:FLyIRq.Q0
>>158
そのセリフ映画でいってたね、デスデビルごっこの時

162軽音部員♪:2011/12/24(土) 17:16:27 ID:Yw1qVJo.0
探したら結構SSあるよ!

163軽音部員♪:2012/02/12(日) 21:18:13 ID:kngzusbw0
エロパロのスレ落ちた?

164軽音部員♪:2012/02/19(日) 20:59:19 ID:WGfphuzc0
落ちてないよー

165軽音部員♪:2012/03/03(土) 08:18:41 ID:isvY9ywQO
ゆいー!ゆいー!

166軽音部員♪:2012/03/03(土) 09:17:18 ID:TzU6DkeI0
りっちゃんのくせに・・・

167軽音部員♪:2012/03/20(火) 03:50:22 ID:svq7C88E0
ssを投下してみたい。もしもしからだとキツイかしら?

168軽音部員♪:2012/03/20(火) 04:01:37 ID:svq7C88E0
pcうごかんのでもしもしから。千切れたらスマン。取り合えす、投下しまーす

169軽音部員♪:2012/03/20(火) 04:19:27 ID:svq7C88E0
 手を繋いで歩くってことに、憧れているんだと思う。モチロン、憂とか和ちゃんと手を繋いだり、澪ちゃんやあずにゃんに抱きついたりはするよ?
 でも、そうじゃなくて、好きなヒトと手を繋いで歩くってことに、なにかうまくは言えないけど、アコガレみたいなものが、あるんだよね。
 マンガとかドラマの影響っだけじゃないだろうけど、恋って言うのは、甘酸っぱくて、ふわふわしてて、きっとすっごい楽しいことなんだと思ってた。

 好きなヒトと手を繋いで歩きたい。寒い寒い冬だから、きっとすごい暖かくて、楽しくて……そんな気がしてた。
 でもね、そんなにうまくはいかないんだね。これがマンガだったらどうかな? 私がぴゅあな主人公だったら? きっと、うんとうれしいんじゃないかなぁ……

 うん? いや、私、うれしかったよ? そっと目を閉じて、思い出す。柔らかい手のひら。カサつく指先のマメ。あったかかった、りっちゃんの手。大好きな人の手。
 でも。私は、欲張りだから。
 ただのスキンシップだと思われたくない。物足りない。寂しい。苦しい。辛い。
 もうこんなの、いやだよ。


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