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SS練習スレ2

636そろそろ ◆o8DJ7UhS52:2014/05/15(木) 22:07:31 ID:3a7y9QSI

 周囲に人工の光の無い大地で、虫と動物の声を聞き、月明かりと星明りに包まれ眠る生活を始めてから、もう何年経ったのだろうか。
 思い出そうにも、日付と言う概念は、文明らしい文明の存在しない地での放浪の旅の中では無用の存在と化し、随分と昔に失われてしまった。
 憶えているのは、自分が生まれた、こことは違う世界の記憶と、シン・アスカと言う自分の名前。
 そして、その生まれた世界に、まるで捨てられたか追放されたかの様にこの世界へとやって来て、運よく今まで生きながらえてきた、これまでの事だ。

 運よく。と言うのは正確ではない。
 運以外の、自分を助けてくれる要素は、他にもしっかりと存在していた。

「……」

 それは今、シンの腕の中でやすらかな寝顔を浮かべている女性だ。
 見知らぬ土地に一人投げ出され、命朽ち果てる寸前であったシンを救った彼女は、そのままシンの旅、彼の生まれた世界への帰還の方法を捜す旅に無理やり同行してきた。
 目的はあれど、ゴールの見えない、あての無い旅。
 つらく、苦しい時であっても自分に付いて来た彼女に、シンはいつしか愛しさを感じ、体と心を重ねた。

「……シン、アイシテル」
「俺もだ」

 夢の中でもシンに抱かれているのだろうか、ずいぶんと熱のこもった彼女の寝言に、シンも自分の想いを込めた言葉で返す。
 出会って当初は意志の疎通すら出来なかった二人が、今はこうやって愛をささやき合う事が出来る様になった事を思うと、シンの心に万感の想いがこみ上げてくる。

 シンの言葉は、夢の中の彼女にも伝わった様で、笑みを浮かべ、今度は彼の体を抱きしめる力を強める。
 お互い一糸まとわぬ姿。
 素肌に伝わってくる彼女の感触とぬくもりは、自分と、人間の物とは全く違う物だ。

 それは彼女が、人間ではないからだ。

 彼女を、彼女の種族を見た時、シンの脳裏に化け物との言葉がよぎった。
 人間と似通った所も存在するが、その形態は人間とは大きく違う、別の生物が知的生命体へと進化した生き物であった。
 もっとも、彼女らからすれば化け物はシンの方で、コーディネーターを化け物と蔑んだ人間と同様、あるいはそれ以上に“恐れ”を抱いた。
 そんな者達の中、唯一彼女だけはシンを庇い、信じてくれた。
 二人の出会いが、シンが彼女の窮地を救った事から始まり、彼女の心にシンへの恩義と信頼が存在したからだ。

 彼女の取り成しで、シンは彼女の種族からの庇護を受ける事が出来た。
 だが止む事のない彼に対する忌諱の視線は居心地が悪く、また自身の世界への帰還を望むシンは、その手段を探す旅に出る事を決め、彼らの庇護の元を去った。
 そんなシンを、彼女は追いかけた。
 どれほど拒んでも彼女は追いすがり、最終的にシンが根負けする形となって二人の旅が始まった。

 それから長い年月と旅路を経て、シンの心にある一つの迷いが生まれた。
 もしも自分の世界に戻れたとして、彼女は当然付いてこようとするだろうし、シンも彼女を連れて行きたいと考えた。
 だがそれは、自分が化け物扱いされた時と同様の扱いを、彼女に受けさせる事を意味していた。

 それは彼女に取って不幸でしかない。
 むしろ、自分よりももっとひどい目にあうだろう事は容易に想像出来た。
 そして彼女を守り通す事が出来ない、不甲斐ない自分の姿も。

「ドウシテ、コワイカオシテルノ」

 いつの間にか彼女は目を覚ましていた様で、不安げな表情を浮かべてシンを覗き込んでくる。
 長い旅を続けれど、一向に手がかりが掴めない事が、シンの中で諦めが生まれ始めていた。
 何より、お互いに欠かせない存在となってしまった今、彼女を置いて一人で帰る事など考えられなかった。

「大丈夫だ」

 そう、微笑み共に返すと、彼女は安心しきった表情で、再びシンへと抱きつき、眠りの世界へと落ちていく。
 人とは違う感触とぬくもりに、シンは慣れきってしまった。
 果たして帰れたとして、自分はもう一度、人間の中で生きていけるのだろうか。

「俺はここにいる」

 迷いはどんどん大きくなっていく。振り切る事は出来ないほどに。
 運命を受け入れる時が来たのかもしれない。
 シンはそんな風に考えながら、彼女を抱きしめ返すのだった。


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