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SS練習スレ2

601シンの嫁774人目:2014/03/17(月) 22:28:36 ID:cE1z7Mk.
Episode2 シン

「――なぁ。お前、アラガミが出てくる前の世の中って、どんなだったと思う?」

 アナグラに帰投するや、シンさんが唐突にそんなことを聞いてきた。

 ……というか、前回アレだけ険悪な雰囲気になっていながら、よくもまた懲りずにミッションに行けるものだと思う。いや、誘ったのはこちらだが。

「昔、まだ俺が第一部隊にいた頃、ここでこうやってコウタの奴と話したことがあるんだ」

 エントランスの二階、落下防止用の柵に寄りかかり、シンさんはそう言って懐かしそうに、しかしどこか寂しそうに笑う。

 アラガミがいない世界、か……。
 シンさんの隣で、同じように柵に体重を預け、今はもう失われたIFの未来を夢想してみる。

 きっと争いなんてない、優しくて暖かい世界だったのだろう。
 誰もが当たり前のように平和と繁栄を享受し、当たり前のように変わらない明日を信じて眠りにつく。
 そんな、『夢』のような世界だったのではないだろうか。

「だよなぁ、そう思うよなぁ」

 思いのままに語ってみると、シンさんはそう言っておかしそうに笑った。
 何となくカチンときたのは内緒だ。

「いや、悪い。昔のコウタと同じこと言ってたから、つい、な……」

 笑ったまま顔の前で合掌し――不意にシンさんの表情に陰が差した。

「……でも、そうじゃないんだ」
「えっ?」

 それはどういう意味だろう、と尋ねる前に、シンさんが再度口を開いた。

「信じられないかもしれないけどな、アラガミなんかが出てくるずっと前から、人間は人間同士で争い続けてきたんだ」

 曰く、人類は有史以来、人種、国籍、思想、他にも様々な理由で、二千年以上にも渡って、際限のない争いを繰り返してきた。
 アラガミの台頭によって、今ではそういった人間同士の争いは抑制されているが、それでもゼロではない。火種自体は今も変わらず、世界中で燻っている。らしい。

 しかしそうは言われても、いまひとつ実感というものが湧かない。
 生まれてから見てきた世界は壁に囲まれ、捕喰者の脅威に怯えながら、寄り添い合い、配給された食糧で命を繋ぐ日々。
 壁の外に出てみると、そこは喰うか喰われるかの野生の世界。隣の仲間を全力で信じ、背中と命を預け合う。それができなければ死ぬだけだ。

 人は独りでは生きられない。それがこの世界の法則だ。壁の中も外も変わらない、絶対の真理だ。隣人といがみ合う余裕など、ない。
 少なくとも、自分はそう思ってきた。だがシンさんに言わせると、それは違うらしい。

「信じられるか? 生まれた場所、話す言葉、肌の色、信じる神。そういうのがちょっと違うってだけで、子供が爆弾抱えて隣の集落に突撃するんだぜ?」

 対アラガミ装甲壁の内側でなお生き続ける、旧世代の負の遺産。シンさんは『クレイドル』での活動の中で、そんな現実を嫌というほど見てきたそうだ。
 花を踏み荒すのはアラガミだけじゃない。どんなに綺麗な花を咲かせても、人は自らの手で吹き飛ばすのだとシンさんは言う。

「俺がアリサやリンドウさん達と反りが合わないのも、お前に分かんないだろうって言ったのも、『そこ』なんだよ」

 シンさんのその言葉で、これが前回の話の続きなのだとやっと理解した。


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