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SS練習スレ2

371シンの嫁774人目:2012/12/16(日) 11:30:20 ID:LqsgpI4E
Oh, stand by me
Oh, stand ,stand by me
Stand by me.......




電化製品店の店頭のオーディオ機器から流れてきた音楽を聞き流し、俺、シン・アスカは一人太陽の照りつける街を歩いていた。赤い目を隠すためにつけた黒いカラーコンタクトを入れた目を、駅前の液晶画面に向ける。
そこでは、威勢のいいこの国の元首サマが今日も元気に演説をかましていた。

『今この世界に起こっている異常気象を見てください。砂漠地帯で洪水が起こり、アジアでは初夏だというのに雪が降っている。今こそ人類は手を取り合って……』

相も変わらずきれいごとばかり並び立て、いや、成長がないという意味では自分も同じだろうかと自問する。


 月でのあの戦いのあと、俺はクライン政権の元でやはり兵士として戦った。あの女の元についたのは世間でいうような「英雄による説得」だとか「悪魔の改心」があったわけではなかった。ただ、あの場で戦場から去るということに俺自身が耐えられなかっただけだ。
あの日から一月ほどたったある日、ちょっとした感傷で友人の名前が見たくなり戦没者名簿を見た俺は、その名簿の中に想像していた以上に見知った名前があったことに衝撃を受けた。そこにはアカデミーで共に競い合った仲間や、テスト飛行の時にインパルスの整備をしてくれていた技師、そのほか大勢の仲間がいた。彼らが守りたかったもの、散って行った理由。それを思えば俺一人安穏とした世界を生きることは我慢できなかった。
 ルナマリアとは俺が兵士として再び戦う決意を決めた日に別れた。彼女の心は「戦う」ということにもう限界だった。彼女は元々プラントに住む家族を守りたくて軍に入ったのだという。この戦争の中で、守りたかった家族と敵対し、殺しあっていたという事実は彼女の心を深く傷つけ、苦しめていたのだ。
俺が戦う決心を伝えた時、彼女は今にも張り裂けそうな引き攣った笑顔で「ごめん」といって、自分はもう戦えない、とだけ俺に言った。
責めも、止めもしなかった。幸いなことに、彼女の家族はまだ生きているのだ。俺は彼女に家族との時間を大切にしてほしかった。
今では普通に親しい友人としての付き合いが続いている。結局、時々飲みに行く程度の気安い関係がお互いの性分に合ってもいた。

 それから二年、俺はひたすら戦い続けた。デブリ地帯で虎視眈々と輸送船を狙う宙賊と。プラント転覆を狙うブルーコスモス過激派の残党と。死と隣り合わせの世界で、今生きている友を守り、いつか訪れる死を待つことだけが俺のリアルだった。

これまでの人生で、俺は何か変われたのだろうか。きっと、何も変わっていない。家族を失ったあの日から、俺の心は何も変わっちゃいなかった。

 身体検査の結果判明した、俺の予想以上の疲労具合を見越して与えられたこの二か月の休暇も、特に暇を持て余しているだけになるだろう。なぜって俺の人生には戦うこと以外、やりたいことも、出来ることもないのだから。
たった一つのやるべきこと、家族の墓参りも終えて、日差しの照りつける初夏のオーブで胡乱な目付きで周りを見渡していた俺は、そんなことばかり考えていた。そう、「彼女」と出会うその瞬間までは。

 それは確か俺が公園のベンチでジュースを飲んでいた時だった。名前は覚えていないが斬新かつ珍妙な味だったことは記憶に残っている。
ひときわ暑い日だった。時間を持て余していた俺はオーブでやる最後のことのつもりで、かつて住んでいたあたりを回ってみていたのだ。結果は面影など全くなく、ここ最近にできたばかりだという風な建物が建っているばかり。俺は意気消沈して公園のベンチに腰かけて、暑さにあらがうための清涼飲料水をすすっていたのだ。
 そんな時「彼女」は俺の目の前にと唐突に舞い降りた。小柄な体に纏ったひらひらとした純白のドレスのような装束、小さな手に握り占めた身の丈ほどの大きな杖、絵にかいたような「魔法少女」。
俺は中空から「彼女」が現れストンと落ちる様をあんぐりと口を開けてみていた。
想像してみてほしい。十歳ぐらいの少女が何もない空間から急に現れる様子を。きっと驚愕のあまり腰を抜かすに違いない。誰だってそーする。俺もそーする。

つまりまあ、俺と「彼女」、高町なのはとの出会いは、のっけからこんなとんでもないものだったって訳だ。


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