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SS練習スレ2

360ちくわヘルシー ◆ii/SWzPx1A:2012/12/07(金) 00:15:32 ID:ti0jsaAw

「……けほっ……やぁ〜ん、真っ白けぇ〜」

 小麦粉が舞う中でマユの口から白い咳が飛び出す。

「……こらぁっ、マユ! だから俺が取るって言ったんだっ!」
「きゃあ、お兄ちゃんが怒った! あは、あははははっ!」
「このっ、暴れるなっ! ごほっ、粉が、ごふっ、飛ぶじゃないかっ!」

 バタバタとマユがはしゃぐものだから、余計に粉塵が舞い上がって、ますます辺りを白く汚していった。あーもう、はたいて落とそうたって、これだけ被っちゃったら意味ないじゃないか。

「まだ薄力粉で良かったな……ほら、お風呂に行くぞ! 早く洗ってここも片づけないと、葛城さんに叱られ――」
「よーう、シーン! 俺の分のメシは用意してあるかー!?」
「あっ、お父さんの声!」
「うえぇっ!? こんな時にぃ!?」

 現状は俺もマユも台所まで真っ白。タイミングとしては最悪だ。
 どうしよう。キッチンの掃除は間に合わないし、そもそもこの格好をなんとかしなきゃいけない。くそっ、どっちにしろバレるんじゃないか……!

「……お兄ちゃん、逃げよっか」
「えっ!? あ、待てってマユ!」

 小麦粉を撒き散らしながら廊下に逃げていくマユ。そんなことしたら、廊下で葛城さんと鉢合わせになって――

「な、何だその格好は!? いったい何をしてやがったんだマユ!」
「お父さんごめんなさーい! お兄ちゃん早く早くーっ!」
「おいこらシィィンっ! どういうことか説明しねーかぁっ!」

 笑い声と怒声が俺を呼んでいる。バレてしまったら仕方ないと覚悟を決めて、俺も廊下へと飛び出していった。こうなったらマユと二人で風呂場に逃げ込んじゃおう。

「おまっ!? お前さんまで真っ白かよ!?」
「すみません葛城さん、掃除は後で必ずやりますから! ほら行くぞマユっ!」
「お兄ちゃんとお風呂に入ってきま〜す!」
「こら待て二人とも、逃げんじゃねえ……って、待てよシン! お前さん今、笑って――」
「待てないですっ! 本当にすみませんでしたっ!」

 マユの手を引っ張って一目散に風呂場へ駆け込んでいく。
 脇を通り抜けた時に葛城さんが何か言っていたけれど、俺はその言葉を待っていられなかった。


   ◇


 あの後マユに言われて、俺は笑えるようになってたことに気付いた。『誰だって自分の大事な人には幸せでいてほしい』って言葉は、本当に素直に受け止めることができた。
 そうやって笑えるようになったあの日から、また色々なことを考えて……なんとか出せた答えがある。
 今の俺はここにいて、ここで明日を生きている。だから今は前を見ることを考えようって。
 戦争のない平和な世界を作るために、俺にもまだできることがあるはずだ。元の世界に帰れるのはいつになるかも分からないけど、答えだけは自分で出す。もう誰かにすがりはしない。
 だから帰る時が来るまで、俺は目の前の明日を精一杯生きる。それが自分で決めた明日の形だ。

 もたれかかっていた塀から離れて、俺はもう一度校門の前へと歩み出て行く。
 ちょっとだけ振り返った。立ち止まった。その後は歩き出すときだ。
 門をくぐる前に少しの間目を閉じて、貝殻の欠片を通した首飾りを握りしめる。ステラに貰ったあの貝殻を模した、俺のIS『イグナイテッド』の待機状態。今の俺の『力』だ。

 父さん、母さん、マユ、レイ、ステラ……みんな、見ててくれ。
 失った過去も、今ある現実も、その先の明日も……今度こそ大切なもの全てを守れるように――

「――やってみせるさ、俺はぁっ!」


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