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SS練習スレ2
356
:
ちくわヘルシー
◆ii/SWzPx1A
:2012/12/07(金) 00:12:47 ID:ti0jsaAw
この世界で、本当なら女性だけが使えるはずのISを俺が動かした。同じ日にISを動かした男がいるらしいけど、今までにただ一つの例もなかった事態。
しかも例がなかったどころか、俺のIS『イグナイテッド』は、女性ですら動かせなかった『欠陥中の欠陥機』。パソコンでデータを取れるだけ取れるようにした後は倉庫に放置していた、いわゆる出来損ないだ。
でもISの中心部分のコアは動いたままで、後で確認したら追加装備の設計に特殊装甲の形成まで勝手にやっていたことが判明した。設計された装備は研究所が急ピッチで製造してくれて、俺がテストパイロットということで実験を繰り返している。
国籍、戸籍、その他の身分証明になるようなものはこの国、日本政府の人たちがすぐに発行してくれた。
自国所属のIS操縦者が一人増えるだけで大きな力になる。イグナイテッドは日本に登録されたコアを使用しているから、後はパイロットが確保できれば良い。
国のお偉いさんからすれば、ご機嫌取りでも何でもして俺を囲い込んでおきたいってことだと、葛城さんから聞かされた。
ただしISのパイロットは原則として養成学校である『IS学園』に入学する決まりがある。こればかりは国際法の規定だから無視するわけにもいかないらしい。
幸いなことに学園は日本にあるので、政府の人たちが俺の入学は全てお膳立てしてくれている。試験も今日の朝に終った。
『うおおおおぉぉぉぉーーーーっ! ベッキィィィィーーーーっ!』
『ベッキーが宇宙一カワイイよぉぉぉぉーーーーっ!』
『アハッ! どうもアリガトーーーーッ!』
考えても仕方のないことばかりなのは知っている。
元の世界にはしばらく帰れそうもない。状況はとにもかくにも、分かっていることの方が少ないぐらいだ。
元の世界に帰る方法が見つからない以上はここに残るしかない。ミネルバのみんなを、世界を残して、ここで妙な兵器の実験だ。
『ベッキー! ベッキー! ベッキー!』
『ヒャッハーッ! とても三十路手前とは思えな――』
『ヘイ、そこのアナタ!――少 し 頭 冷 や そ う か ッ !』
――ドッゴオオオオォォォォーーーーンッ!――
『ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!』
先の見えない不安も、何もできない苛立ちもあるはずだ。それなのに俺は満ち足りている。まるでオーブにいた頃に戻ったような錯覚さえ覚えるほどに。
誰もが優しい時。本当にオーブと今はよく似ている。
けれどここで誰かの優しさに触れるたびに、強く思い知らされる。目の前のモノが全てなんだって。
もうあの頃のオーブはない。オーブに花が咲いても、ここに花が咲いていても、父さんも母さんもマユも還らない。
そんなことは軍に入ったときに覚悟していたつもりだったのに、今になってその事実に立ち眩む。
『反省できたカナー? アハハハハッ!』
『あんの馬鹿野郎! ベッキーは永遠の十七歳なんだよ!』
『そんなことも知らないなんて、アイツは帝国民じゃねーな!?』
『二度とレベッカ帝国の領土を踏めると思うなよっ!』
『さあ、気を取り直してネクストナンバー! イってみヨーッ!』
『『『『『『うおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!』』』』』』
失った過去の悲しみは、怒りと憎しみの力にしかならなかった。戦っていて生まれた迷いは、最後まで完全に消えることはなかった。
平和な世界にいて、怒りと憎しみがなくなっても、俺の迷いはまだ消えてくれない。何がいけないのかすら、自分でもはっきりしていない。
だったらどこに行けば迷いのない心が手に入る?
全てを『力』に変えられるような揺るがない心。誰かにすがらないで答えを見つけられるように――
「ただいまぁっ! お兄ちゃんいるーっ!?」
玄関口から大きな声が、そして廊下をバタバタと駆けていく音が届いた。
マユが帰ってきたのか……って、しまった。もうそんな時間になったのか?
掛けてあった時計に目をやると時間はちょうど一時きっかり。まだ昼食の準備をしていない。
慌ててソファから腰を浮かすと、俺が返事をする前にマユが部屋へ飛び込んできた。
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