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SS練習スレ2

354ちくわヘルシー ◆ii/SWzPx1A:2012/12/07(金) 00:11:33 ID:ti0jsaAw
 
 研究所に来てからずっとこうだ。
 穏やかな世界だってことは分かる。
 そんな場所に俺がいるんだってことも。

「何だ、不安だったのか? 大丈夫だよ、お前さんは女子と同じ部屋で過ごすなんてことはない。つーかさせたらマズい、色々な意味で」
「そんなわけじゃ……」

 不安ではないと思う。違うと思う。
 ただ二人の話が俺には他人事のようにしか思えない。それだけだ。
 何を聞かされたって、自分のことだなんてはっきりと感じられない。
 ここは優しくて、温かくて、平和な世界だ。
 ただそれにどうしようもなく違和感があって、胸のつかえが取れないままでいる。

「……そんなことより葛城さん、この後はもう実験場は使いませんよね?」
「そんなことよりって、あのな……お前さん、何をするつもりだ?」

 何も考えなくて済むのは、ISを動かしている時だけだ。

「四時間ぐらい訓練していこうって思って。部屋に戻る前に、このままここで」
「――っ!?」
「ええっ!?」

 拘束していた腕の力があっけなく緩み、俺は身を離した。

「よ、四時間ですか!? アスカくん、実機での訓練ですよねっ!?」
「そうですけど、何か……?」

 試験官の――山田先生って呼ばれたっけ。その人がまた酷く慌てている。
 今度は何が原因だろうか。

「無茶ですよ! 実機訓練は体に相当な負担がかかるのに、四時間なんて!」
「でも、毎日それぐらいやってます」
「四時間を毎日!? 体を壊しちゃいます、いけませんっ!」
「……本当に危ないって時は、自分で分かりますから」
「何かあってからじゃ遅いんです! 入学の前からこんな――」
「山田先生、俺から話します」

 隣に立っていた葛城さんが俺の両肩に手を置いて、体の方向を変えさせた。
 俺よりいくらか背が高いから少しかがんで、目線が真っ直ぐに合うようにして向き合う。瞳の中にはいつも感じられる温かみがあった。

「シン、お前さんの体が丈夫なのも知ってる。だが今日は休んどけ。忙しいのはこっから先なんだ」
「俺は平気です。無理をしてるわけでも――」
「試験に合格したばっかりじゃねーか。お前さんの立場が特殊でも、今日ぐらいは普通の子どもみたいに喜んで良い」
「だけど……うわっ!?」

 言いよどむ俺の頭をぐしゃぐしゃにかき回し、葛城さんはニッと歯を見せる。

「お前さんも普段は素直に言うこと聞くってのに、こういう時になって駄々こねんなってんだよっ! それにだなぁ、お前さん勉強の方はろくに手を付けてないって、マユから聞いてんだがなぁ?」
「それは……」

 痛いところを突かれた。確かに実記訓練とシミュレーションを回すだけで、貰ったテキストはほとんど開いてない。

「そっちは後でやるつもりでいたんです……」
「訓練の後はマユがベッタリだろーが。分かったらほれ、休みがてらに学問もキッチリこなしてこいっ!」

 言い訳が通用するはずもなく、俺は背中を叩かれてしまった。
 これ以上何を言っても迷惑をかけるだけだろう。仕方ない……戻るしかないか。

「……了解です。山田先生、今日はありがとうございました」
「い、いえ、こちらこそ! お勉強もがんばってくださいね、アスカくん!」
「……はい」

 一言だけ返事をして、実験場の外に向かっていく。
 本当ならシミュレーションルームは開いているはずだから、マシンでの訓練ぐらいはこなしたい。それが駄目ならシミュレーターでプログラムの調整。無理ならせめて整備室に行って機体整備だけでも――
 消化不良な気持ちが残っている。途中で足が止まり、実験場の真ん中にいる二人の方を振り返りかけて、また無理矢理に足を前へと動かした。
 言っちゃいけない。結局、さっきと同じことを繰り返すだけだ。
 迷惑をかけるちゃいけない。心配をかけるような真似だって、しちゃいけない。
 重かったはずの俺の足取りは、今は自然と早足へと変っていた。


   ◇


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