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SS練習スレ2

255 ◆V6ys2Gwfcc:2012/06/11(月) 01:58:25 ID:RArs36cU
しん、と静まった和室の中で青木れいかは正座しながら目下の和紙をじっとただ見る。
やがて意を決したように筆ではなくその指でただある名前をつ、となぞる。
指でなぞっただけだから跡が残るわけでもない、だがそのなぞった名前はある男性の名前の物で。

「………シン・アスカ、さん」

ぽつりと零れたその名前に意味もなく気恥かしくなってしまう。
別に悪いことをしているわけでもないのに何故だろうと首を傾げるが答えは出ない。
二度、三度と指でシンの名前をなぞるが、ただそれだけで答えが分かるのなら苦労なんて無い。

「わからない、ですね」

分からないのは別にいい、理解できるまで努力するだけだから。
何が分からないのかが分からない。それが何よりも問題だ。
自分の道に迷った時にはかけがえのない四人の友人達のおかげでおぼろげながらも答えは出せた。
だけど、今自分が感じている想いは。
みんなが頼りにならないなんてこと、思っているわけがない。この答えは自分で見つけたい。
そうしなくてはならない、のではなく、そうしたいのだ。

「………ふぅ」

だけど、分からないものは分からない。いっそのことみんなに相談してしまおうかとも思うけれど、
それでも自分で見つけたいという気持ちは無視できなくて。
結局思考が堂々巡りになってしまう。これではいけないと少し息をつくためにごろんと畳の上で横になる。
はしたないとは思ったけれど自分の家だしいいかと、少し前の自分なら出なかっただろう考えに至る。
こんな考えが出来るようになったのも四人のおかげだと言うことを思うと嬉しくなってくる。
横になったまま、ふとよぎるのはシンの赤い瞳。いつだって自分の知る彼の瞳はまっすぐ前を見ていた。
彼、シン・アスカの第一印象は苛烈で自己の意思を揺るがせない、自分の道を迷わず進んでいる人。そんな印象だった。

だけど、いつからだろう。彼が不意に見せる寂しそうな表情、嬉しいことがあった時に見せる快活な笑顔。
あかねの「なんでやねん!」という言葉の後に見せる少し悔しそうな顔、時にちょっぴり優柔不断。
そんな表情を見るたびに初めてみた時の苛烈さはどんどんと薄れていって。
それでも、自分の道をしっかりと持っているのだろうとは思っていた。
しかしそれもただの自分の思い込みなのだと他ならぬ彼自身の口から直接ではないがはっきりと否定されて。
その時のことをれいかは今でも鮮明に思い出せる、シンの口から出た言葉を。

「私が、羨ましい………ですか」

自分の進む道を決めているれいかが羨ましい。そんなことを言われてしまった。
貴方だって自分の道を決めているのではないかと少し強い口調で言い返したが、シンは軽く笑って首を振るだけで。
自分はただ誰かの後を付いていっただけなのだと、たまたま自分の願いと合致したから誰かの道に相乗りしただけなのだと。
ただ静かに笑いながらそう口にした。彼の笑顔は諦念ではないと思う、悔恨でも無いと。
しかしその笑顔が何なのかはれいかには分からなかった。それも分かりたいし知りたいことだ。
自分が前を向いているのは、後ろばかり見ていたら転んでしまうだけなのだと思い知ったから。
だから―――羨ましい、と。真っ直ぐ前を見て、自分の道を歩いているれいかやみんなが羨ましい。
そんな言葉で、れいかのシンに対する第一印象は完全に崩れ去ってしまった。
後に残ったのは………残ったのは?

「………なんなのでしょう」

それが分からない、分からなくてまた堂々巡り。
シンのことを知りたい、分かりたい、今自分が感じている想いを理解したい。
どうすればどうすればと悩んでも答えは出ない、だったら。

「アスカさんに、会えば分かるのかもしれませんね」

直接聞く勇気なんて無い、第一会ったからと言って必ず分かるなんて考えられるほど楽天的にはなれない。
だけどそれでも会いたいという気持ちは確かなもので。
寝転がっていた状態から立ち上がり、凛と姿勢を正す。

会いに行こう。

そうだ、会おう。分からなくったっていい、会わなければ何も始まらない。
みんなが教えてくれたことだ、人との関わりは必ず何かを残してくれる。
会えばまた何かが違ってくるはずだ、だからみんなでシンに会いに行こう。


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