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SS練習スレ2

253そろそろ ◆o8DJ7UhS52:2012/06/10(日) 23:14:00 ID:1eosHnTI

真っ白なスケッチブックの紙の上を、白く小さな指が、使い慣れた鉛筆を走らせていく。
鉛筆の動きに沿って生み出されていく黒鉛の線、何度も何度も走らせて、黒鉛の線で形付け、紡ぎ上げた末に生まれる物。

「まただ…何でだろう」

それは鉛筆を走らせる少女の、黄瀬やよいの呟き。
スケッチブックの上に描き上がった、一人の少年の絵姿に向けた物。

「何でアスカさんばっかり描いちゃうんだろ」

家で、教室で、今自分がいる学校の屋上で。
どこで絵を描こうとも、描き上がるのはいつも同じ、シン・アスカの絵姿。
彼と出会い、交流を持つ以前は、様々なジャンル、幅広い対象をスケッチブックの上に描いていた。
それが変わり始めたのは、彼と出会い、交流を持ってからしばらくの事。
気が付けば、シンの姿ばかりを描くようになっていた。
正面顔、横顔、後姿。
笑顔、困り顔。怒り顔。
描き上がるのは様々な構図、様々な表情のシンの絵姿。
シン以外の題材を決めて描き始めても、描きあがるのは決まってシンの絵姿。
そんな事を何度も何度も繰り返し、一冊、また一冊と、スケッチブックが“シン・アスカ”で埋まっていく。

「はぁ…」

シンと初めて出会った時の、やよいのは“怖そうな人”と言う印象を抱いた。
実際シンは短気な面が存在しているので、臆病なやよいにとっては、その印象はあながち間違いではなかったかもしれない。
やよいの人見知りする性格と相まって、しばらくの間は、シンを避けてしまう事となった。

それが変わったのは、シンの前で泣きだしてしまった時の事だ。
些細な理由で泣き出したやよいに、シンは自分が悪い訳ではないと言うのに、泣き止むまでの間、ずっと優しく慰め続けた。
シンに単純に怖いだけの人物でなく、優しい面があると知って以来、やよいは理由無く避けると言う事はしなくなった。

シンに対する見方が完全に変わったのは、ヒーローやゲームが好きだと言う、子供っぽいと感じる自分の趣味の話をした時だ。
思わず一人熱く語ってしまったやよいに、シンは呆れる事もせず、逆に理解を示してくれた。
やよいはそれがたまらなく嬉しかった。
以来、シンとやよいの間に、良好な関係が築かれる事となった。

この時、シンは自分には妹がいて、やよいと同じ様にゲームが好きだと教えてくれた。
いつか妹に会いたいとのやよいの言葉に、シンは頷きながら、とても悲しい眼差しを浮かべた。
その時の表情は、今もやよいの記憶に深く刻み込まれている。

シンの悲しみを湛えた眼差しを思い出した時、やよいの胸の奥がじんわりと熱くなり、どこか落ち着かない気分となってしまう。

「どうしちゃったのかな…私」

名前も分からない正体不明の感情。
少しばかり苦しいこの感情、だが不思議といやな物ではない。

視線をスケッチブックへ、描かれたシンへと向ける。
スケッチブックの上の彼は笑っていた。
やよいの好きな表情、自分に向けてもらいたい笑顔。

シンの笑顔を想像すると、今度は穏やかな気分となっていく。
スケッチブックを折りたたむと、やよいはおもむろに立ち上がる。

会いに行こう。

そう決意して、やよいはスケッチブックを胸に駆け出して行った。
シンに会うために、シンの笑顔を見るために。


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