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SS練習スレ2
218
:
ちくわヘルシー
◆ii/SWzPx1A
:2012/05/26(土) 11:50:16 ID:FjtMkIs2
「おい君! その下の庇から降りられるか!?」
窓から身を乗り出していると、こっちに気付いた庭の白衣の人が声をかけてくれた。下の庇? よくよく真下を見ると確かに庇があった。そこから降りればなんとかなるはずだ。
「今はしごも用意したから、急いで!」
「はい、大丈夫です!」
落とさないように、胸元からスーツの中に携帯をねじ込む。飛び降りようと窓枠に手をかけると、下からまた、周りを震わせるような大声が聞こえてきた。青年って言うには年がいっている。けどそれは切羽詰ったような、悲痛さも感じられる声だ。
「放せ! まだ娘が中にいるんだ! 放せってんだよ!」
「主任、無茶ですってば! 消防の人を待たないと、主任まで!」
「だからって娘を放っておく馬鹿親がいるかよ!? ちくしょう、放せっ!」
後ろの人に羽交い絞めにされても、必死に建物の中に飛び込もうとする人がいた。娘が中に。その言葉だけで、あの人が何をしようとしているのかが十分に分かった。ほとんど考えるよりも先に、俺は反射的に声を張り上げていた。
「俺が助けに行きます! その子、どこにいるんですか!?」
俺の声に気付いたその人が、はっと顔を上げる。顔はまだ若々しいけど、無精ひげと、着崩した白衣を懸命に振り回している。でもその表情にあるのは、大事なものを守ろうとする目。必死で俺にすがるような目を向けていた。
「何言ってるの! 君も早く――」
「多分四階だ! 今お前さんがいるところの一つ上だ、頼む!」
後ろにいた人の制止の声も、それはもう一つの嘆願にかき消された。返事をする時間も惜しく思えて、一つうなずいただけで窓に背を向ける。俺は階段を探して、もう一度煙の中に入り込んでいった。
直後に、大きな衝撃。まだ爆発は止まらないらしい。急がないと火事で燃えるより先に、建物が崩れるかもしれない。見つけた階段を数段ほど飛ばしながら駆け上がって、廊下に出た。廊下はもう火に包まれていて、三階よりも熱気は一段と増している。
「誰かいるかっ!? いたら返事してくれっ!」
返事の代わりに聞こえてきたのは、女の子の泣き声。声のする部屋へ炎を避けてひたすら走りこむ。扉を開けると、部屋の奥でその女の子はうずくまって震えていた。机の下に潜りこんで泣きじゃくっているその年のころはまだ十歳ぐらいだろうか。
あどけない幼さが残る女の子は、長く伸ばした栗色の髪を先でまとめている。マユを思い出させる……いや、まるでマユが少しだけ大きくなったような見た目に、大きく一度、心臓が跳ねた。その子が呟いた「助けて」という言葉に、あの光景が重なった。
深くえぐられた地面に、脂の混じった何かが焼ける音と臭い。ぐしゃぐしゃに吹き飛ばされた、家族の――
させるもんか……この子まで死なせてたまるかっ!
かぶりを振って部屋に入り、机にしゃがみ込んで手を伸ばす。
「もう大丈夫だからっ! こっちに!」
恐怖からなのか女の子は何も言わないで、必死に俺の体にしがみついてきた。
むせ返るような熱気の中、煙を吸わせないように注意しながらも、その子を抱えて部屋を後にする。なんとかこの子を見つけたのは良いけど、早く逃げないと間に合わないことは明白だ。
廊下の炎はさらに高くうねりを上げて踊り、爆発は建物を狂ったように揺らし続ける。この階からじゃ、避難はもうできない。危うく炎に飲み込まれかけていた階段を飛び降りながら、再び三階の廊下に入ろうとがむしゃらに駆けずり回る。
「っ!? しまった、ふさがれたっ!?」
通路の角を曲がってみれば、どこを通ってきたのか、火は道をもう完全にふさいでいた。背後からも炎が迫っているのに、前も後ろも遮られた形だ。残っている道は、もうさっきの倉庫ぐらいしかなかった。少しでも時間稼ぎになるように中に飛び込んで扉を閉めたけど、追い 詰められたことに変わりはない。焼け出されるのも時間の問題だ。
「くそっ、何とかならないのかよっ!?」
扉に拳を打ち付けても答えが出るわけも無くて、虚しく音が響くだけだった。扉はすぐに熱気を帯びて、触れていられないほどに温度が上昇していく。
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