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SS練習スレ2

216ちくわヘルシー ◆ii/SWzPx1A:2012/05/26(土) 11:48:03 ID:FjtMkIs2
「ステラ……シンに会えて良かった……」

――ステラだった。
 ステラは笑っていた。出会った時と同じ金色の髪は、太陽みたいにきらめいて温かだった。でも、最後に会った時とは違って、嬉しそうに……本当に嬉しそうに笑っていた。
 俺が守りたかった、守りきれなかったはずのステラの笑顔だ。光は優しく俺を包んでいるけど、なんだか眩しくて、はっきりと目を開けていられなかった。ステラの笑顔を見ていたいはずなのに、眩しいんだ。

「だからシンも前を見て。明日を……」

 その声を最後に残すとステラの姿は光の中に溶けていった。暗闇が吹き飛び、光る暖かな世界が広がっていく。さっきまでの刺すような寒さはなくなっていて、辺りは光が満ちて、星のようなものがきらめき輝いている。

「そうだな、ステラ……俺はまだ、生きている……」

 枯れていたはずの涙で目がにじむのが分かった。それを腕でぬぐって、なんとかこらえてみせる。いつもみたいに、ただ考えることなく泣きわめくことはしたくなかった。

 まだだ。まだ終わりじゃない。
 俺が負けたからって、俺の明日がなくなるわけじゃないんだ。
 ここで諦めたら……俺も世界も、変わらないままだ。
 諦めちゃいけない。どんなに困難な道でも、歩き出さなきゃいけない。
 俺は……ここで終りたくはないから。

「ステラ……約束するよ。俺、今度こそ……守ってみせる」

 姿は見えないけれど、きっと聞こえている。
 ステラは俺のそばにいてくれているはずだから。
 今の俺に言える精一杯の言葉を口にすると、俺の意識まで光の中に消えていった。
 
 満ちていく光の中で、ぼんやりとしか覚えていないけど、何かを見た気がする。
 差し伸べられた誰かの手。小さな右手は、俺にはとても懐かしく思える。
 それは、こっちにおいでというように俺に向かっていて……。
 どうしてだかは分からないけど、俺は無意識のうちにその手をつかんだ。
 覚えているのはそこまでだった。


   ◇


 目が覚めたときには、うす暗い部屋に放り出されていた。まず非常電源を起動させようとか、無線が生きているか確認しようと手を伸ばしたけれど、その手に触れるものがなくて、自分が窮屈なコクピットの中にいるんじゃないってことに気付かされる。

「ここは……どこだ?」

 なら、どこかの医務室か? という疑問も、自分が固い床に転がされていることで、違うと分かる。
 医務室がいっぱいになっていても、流石に床に放り出したりはしないだろう。幸いにも、俺はどこも怪我なんてしていなかった。それに、戦闘中らしい慌ただしさも振動もなくて、不思議なほど静かだった。
 まだ少しふらつく頭を抱えて起き上がる。床を踏みしめられるのだから、重力があるみたいだ。……ちょっと待て、重力? 回収された後に地球にでも連れて行かれたのか?
 ヘルメットはどうか、視線を巡らしてみても見つからない。どこかに置いていかれたらしい。パイロットスーツは着たままだ。ますます、よく分からない。拘束もされてないから、敵艦の中ってわけでもなさそうだし……

 辺りを見渡すと、うずたかく積まれたダンボールの山だとか、見慣れない機材が積み重ねられている。照明も点いていなくて、頼りになるのは天窓から入る日の光だけみたいだ。時々隙間風みたいなものが吹いて俺の頬を冷たく叩いていく。
 何かの倉庫? だったら俺は、怪我が無いからって倉庫に投げ出されたんだろうか。そんなことを思うと、腹立たしい気持ちが少し湧いてきてしまう。

「いいや、とにかく――」

 何でも良いから、ここを出なきゃ始まらない。そう思ってみたものの、結構な広さもあるらしいし、隙間なく物が詰め込まれた棚とかのせいで視界が狭い。すぐに出口は見つからないだろうけど、とりあえず立ち上がって、部屋をふらふら歩き始める。

「誰かいないのかー!?」

 声をあげてみても、返事は聞こえなかった。自分の出した声が、倉庫の高い天井から跳ね返ってくるけれど、すぐにまた静寂が戻る。状況もさっぱり理解できないせいで、苛立ちは募るばかり。


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