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SS練習スレ2

206ちくわヘルシー ◆ii/SWzPx1A:2012/05/24(木) 18:16:09 ID:YL1SvqiI

 IS小ネタなり


 屋上をジリジリと照らす太陽に手をかざすと、掌にまで熱がしみ込んでいく。
 暑い。気温三十度を越える真夏日は伊達じゃなかった。
 それでも、本格的な夏を前にした外気の熱がどこか懐かしい。オーブの夏も、こんな風に湿度も高くて暑かった。
 普段は生徒に解放されている屋上だけど、流石に今は俺以外の生徒の姿は見えない。お肌の調子ってのを気にする女子たちは、こんな日に日光浴になんてする気になれないんだろう。
 かくいう俺もすぐに日陰に退避していた。手に持っているアイスが溶けないように。

 百円で買える、ソーダ味のアイスキャンディー。棒は二つ差し込まれていて、真ん中でパキッと割れるようになっているアレだ。マユとは、よく二人で半分こしてた。
 どうしてこんなものを買ったのか。ご大層な理由はなかった。ただ購買でアイスを見つけて、昔のことを思い出したからだ。
 折角のアイスだし、どうせなら外で食べよう。そう思って屋上に上がってきたんだけど、どうやらそれが正解だったみたいだ。
 空調のきいた食堂より、夏の雰囲気にひたれる気がする。それと同時に、オーブにいたあの頃にも。

 マユと外に遊びに行って、アイスを買って。二人で食べて、また笑って。ずっと笑っていた。
 忘れることのできない大切な時間。絶対に忘れない、背負って生きていくって決めた、大切な過去。
 
……ちょっと物思いにふけりすぎたみたいだ。
 早くアイス、食べないと。今は分ける相手もいないけど――

「――見つけた。シン、こんなところで何してるの?」

 アイスに手をかけたその時に、ふと声をかけられた。
 大事な人の声に気付いて顔を上げるとシャルが笑っていた。

「購買でアイスを買ったんだ。屋上で食べようと思ってさ、ここに来た」
「わざわざ暑い場所に来て? 変だよ、それって」
「暑い場所で食べるのが良いんだって――そうだ」

 シャルの綺麗な金髪から、背負った太陽の光が眩しくのぞいている。
 青いアイスを綺麗に割って、目の前のシャルに手渡した。
 大事な人だ。大切な人だ。今の俺が、アイスを分けられる人だ。

「ほら、シャルの分。早くしないと溶けちゃうぞ?」
「え、良いの?」
「これはこういうアイスだから。二人で、半分こだ」
「うん! ありがとう!」

 笑顔のままアイスを受け取ると、シャルは日陰にいた俺の隣に座った。
 空いた片手で俺の手を素早く取って、ニコニコと笑うシャル。
 またいつものコレかって苦笑しながら、俺もアイスを口にほおばった。

「日本の夏って暑いんだね」
「そうだな。これからもっと暑くなるぞ、きっと」
「あははっ、それは大変だなぁ」
「そう言うわりには、ちっとも嫌そうじゃないぞ?」
「うん、僕は嬉しいもん」
「どうしてだ?」
「シンがアイスを半分こしてくれるから」
「何だよ、それ」
「えへへっ。今度はオレンジ味が良いな、僕」
「あ、コラ。ちゃっかり次の要求するなよ」
「良いじゃない。ほら、約束約束!」
「まったく……分かったよ、約束する」
「うん! 約束だよ!」

 なんだかもう決まりきったような流れだった。
 二人で手を繋いで、またシャルとの約束が増えて。
 そうやって二人でいっぱい笑い合う。
 大切な人と一緒に。
 アイスはオーブにいた時と同じように、甘くて冷たくて、美味しかった。

   ◇

……なんだか良く分からないけど、食堂に戻ったらみんなが砂糖を吐いて倒れていた。
『甘い空気が屋上からまで』とか、『アイスの半分こは反則だ』とか、ぶつぶつ呟いてたし……どうしたんだろうな?
 ただ、みんなの視線が今日も濃かった気がする。


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