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SS練習スレ2

143ちくわヘルシー ◆ii/SWzPx1A:2012/04/23(月) 00:25:53 ID:DCj/DqvA

「ほんっと毎日毎日、元気で仲の良い兄妹ね」
「そろそろお茶でも準備いたしましょうか」
「おお、それならこの前出かけたときに買った美味い抹茶があるぜ?」
「ならば一夏、よろしく頼む。茶菓子はこちらで準備しておこう。ただ――」
「ただ、何だ?」
「――甘味は抜きだ」
「? まあ、いいけど。じゃあ、部屋に取りに行ってくる」

 騒がしい向かい側の席を尻目に、箒たちは落ち着いた様子である。常に会場最前列でコントを見せ付けられているので、いい加減に慣れてしまっているのだ。

「そもそも妹ポイントって何だよ、妹ポイントって!?」
「妹の実力を表す指標だ。高ければ高いほど兄に愛が伝わると、『萌える妹入門』に書いてあったが――」
「まだあの変な本を持ってたのかよっ!? もう許さないぞ、今度こそ捨ててやるっ!」
「しかしお兄様、私は既にあの本の内容を全て暗記しているぞ。一字一句、間違うことはない」
「くそっ、もう手遅れかよ……」

 しれっととんでもないことを述べるラウラに、ヒートアップしていたシンの熱気も食堂内に霧散していく。ここまで来ると怒っても無駄だと察したらしい。

「はぁ、それじゃ仕方がないか。けど、あんまり突飛なこととか、みんなに迷惑かかるようなことをしたらダメだからな」
「そう言って私を許してくれる優しいお兄様が大好きだ」
「へへっ、ラウラ、ありがとな」
「私の愛を受け入れてくれるのなら、早く風呂に入って二人で寝るぞ。愛を結晶させるのには十月十日必要だ」
「こら待てラウラ、突飛なことをするなって言ったばかりじゃなかったか? まったく……――っ!?」

 ラウラに抱きつかれながらシンは嬉しそうに笑い、彼女の頭を撫でていたのだが、刹那、背後から感じられたプレッシャーに身を震わせた。
 そして今度は背中につきたてられる、冷たく鋭いものの感覚。ぐりぐりと制服ごしに伝わる痛みが、それを与えている人間の不機嫌さを如実に示している。
 非常に恐る恐る、ゆっくりと、シンは振り返った。

「しゃ、シャル……?」
「二人とも、少しベタベタしすぎじゃないかな……?」

 果たしてシンの視線の先に、シャルはいた。
 銀に光るフォークを握りしめ、詰め物でもしたかのように頬を膨らませ、シンをムッと睨みつけていた。


   ◇


 シャルロット・デュノア――フランス代表候補生であり、ラウラと同時期にやってきた転入生である彼女は当初、その複雑な事情により男子生徒として転入し、周囲にも自分の性別をひた隠しにしていた。
 しばらくシンと同室での生活を送っていたのだが、現在は紆余曲折を経て女子生徒としてラウラと同じ部屋にいる。
 ついでにその紆余曲折が原因で、シンに比類のない好意を抱いている。詳細を書くと五万字を軽く越えるほど、長い。
 とにかく、シャルはシンのことが好きで、シンとシャルは四六時中手をつないでいるほど仲が良いのだが――まさかのまさか、シンはシャルの好意に“気がついていない”。
 シンは今や病気と言えるほど鈍く、付けられた二つ名は“ゲキニブ星王子様(命名シャル)”であることから、病気がどれほど深刻かは一目瞭然だ。

 また、問題となることがもう一つ。シンはシスコンなのである。
 ラウラが妹を名乗るようになってもあっという間にシンは順応し、彼女を溺愛していた。
 もちろんラウラが求める過剰なスキンシップはシンも叱るのだが、それでもシスコン+鈍いシンの基準は、他人からすればイチャつく以外の何者でもない。
 そしてシャルからすれば、自分のことを忘れてベタベタとする二人を見れば何を思うか。
 シンと同じようにラウラに優しいシャルであっても、恋のライバルであることに変わりはない。

 つまり、面白くない。焼きもちもそれはそれは、お腹いっぱいなほどたくさん焼ける。

「シャル、えっと……ど、どうして怒ってるの?」
「病気のせいだね、君と僕の」
「え? うわっ!?」

 シャルはぴしゃりと言い放つと、困惑するシンの手を握りしめ、自分のそばへと引っ張り寄せた。
 離さないと言わんばかりに力が込められ、指は固く絡められる。いわゆる“恋人つなぎ”というものだ。当然シンはそれを知らないボンクラなのだが。

「シャル、病気って何?」
「シンの病気は治りそうもないけど、僕の病気なら治せるよ」
「?」
「『シンが僕とずっと一緒にいてくれたら』、僕の病気は治るから。だから離れたらダメ」
「シャルまで、ラウラみたいな冗談を言わないでくれよ……」
「……じゃあ、特効薬くれる?」
「と、特効薬? ――っ!? シャル、ちょっと、ま、待ってくれよ!」

 テーブルの様子を伺っていた食堂内の生徒たちが、一斉に沸き立った。


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