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フレイ様人生劇場SSスレpart5〜黎明〜

73ザフト・赤毛の虜囚 32:2004/03/14(日) 07:48
6.継承 11/12
[そのために、一人の命を犠牲にしたというのに]

戦場で、次々に破損し、四散していくモビルスーツ。戦闘機。戦車。そして、死んで行く人。
それをモニタで見ながら語り続けるクルーゼ。

私のクルーゼに向けていた震える銃の動きが止まった。クルーゼの心臓に向けて。

「ほう……」 クルーゼは関心したように声を上げて、私を見ている。

私の中には、かつての自分自身の言葉が蘇っていた。

  ── キラ、守ってね。あいつらみんなやっつけて。
  ── キラ、あなたは戦って戦って死ぬのよ。じゃないと許さない。

  キラは、こんなものをずっと見てきたの。私は、キラにこんなことをさせていたの?
  戦って辛くて泣いて、それでも私のために立ち上がって、泣くのを我慢して。
  そして……、いつの間にか泣かなくなったキラ。

  私は、アークエンジェルで同じように戦場を見ているはずだった。でも、ずっと目を
  背けていた。ベッドで毛布にくるまり、キラが守ってくれることだけを考えていた。
  そして、戦場で身も心も傷ついて帰ってきたキラに、私は安堵と、さらなる保身の契約のつもりで、
  自分の欲望をぶつけることしかしていなかった。

  当たり前だ、キラが、私以上に欲望に溺れたのは。私を狂ったように抱いたのは……
  キラが変わっていったのは……

「やめて! こんなこと」 私は、銃を突きつけて、もう一度言った。

「フレイ・アルスター、連合の兵士として、私を撃つかね。私を撃てば、少しは、
 この状況も動くかもしれないな」

クルーゼは、相変わらず動じない。まるで自分の命そのものに興味が無いように。

「だが、戦争は一人でするものでは無い。ほんのちょっと状況が変わっても、戦争そのものは
 終わらない。どちらの優勢に働いても、立場が入れ代わるだけで、そこで失われる人命は同じだ。
 何も変わらない。そのために、一人の命を犠牲にしたというのに」

また、私の銃が揺れ始めた。

  キラ…… その命を散らして、得られたものが何一つ無かったことに私は愕然とした。
  結局、アラスカに行っても何も変わらなかった。そのまま、アラスカも自爆して……
  残ったのは、私一人。それも、何もできない捕虜。

  アークエンジェルで、キラが守ろうとした人の顔が次々に浮かんだ。マリューさん。
  フラガ少佐。ノイマン少尉。マードック曹長。サイ、カズイ。そして、ミリアリア。

  私の中に、ミリアリアの狂気の顔が浮かんだ。ミリアリアはトールを失った。
  いや、ミリアリアはキラとトールの二人とも失ったのだ。なのに、それで得られたものは、
  なんだったというのだ。ただ、悲しみの心だけ。だから、ミリアリアも狂った。
  私を傷つけた。私から全てを奪った。私を失意のどん底に落とした。

  だけど、それを責めることはできない。それは戦いの生んだ狂気、誰にでも内に秘めるもの。
  私は、それを一番良く知っているから。私も同じようにパパを失って、キラを傷つけたのだから。
  そして、サイまでも辛い目に合わせてしまった。

「それに、以前も言ったように、君が、今ここで私を撃っても、その直後に君は死ぬ。
 兵に撃たれてな」
クルーゼは、薄笑いを浮かべている。

「それでも、自軍の大義に忠実であり、命を捨てる覚悟があるのなら構わないが……
 だが、君には似合わんな。軍服を着ていても君は軍人ではあるまい」

  そう、私は、そんな覚悟なんか無い。軍に入ったのだって復讐のためだった。それすら、
  自分では手を汚さずキラを頼っていた。

「もうすぐ、フィナーレが始まるよ。何が起こるか期待していてくれたまえ」

クルーゼは出て行った。私は、銃をダラリと下に垂らした。そのまま、銃は床に落ちた。
そして、二度と拾われることは無かった。


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