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海未「もうすっかり癖になりました。音を殺して歩くのが」

1名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:14:43 ID:UKYbIIWQ
――理事長室


穂乃果「勝負、ですか?」

理事長「ええ。皆μ'sには戦って欲しいと思っているの」

理事長「今やスクールアイドルのトップに立ったμ's。その実力の程を知りたい、とね」

ことり「お母さん、唐突すぎるよぉ…」

理事長「もちろん勝者には景品を出すわ。私が、望むことなんでも叶えてあげる」


ザワッ……!

19名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:21:47 ID:UKYbIIWQ
穂乃果が笑いかけ、絵里がそれに応える。

和やかに談笑しているようにも見えるが、その実、互いに仕掛けるタイミングをうかがっているのだった。

相手のオーラの僅かな揺らぎ、まばたきすれば見逃してしまう程の小さな隙。

さき程から会話をしつつもそれを探す二人だったが、一向にその機会は訪れない。



穂乃果(さすがは絵里ちゃん……つけ入る隙を与えてくれないね)

絵里(埒が明かない……けど、相手は穂乃果。焦れば勝負は一瞬でついてしまう)




こう着状態の中、闘いの火ぶたは意外な形で落とされた。

20名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:22:08 ID:UKYbIIWQ
ピャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……!!!



能力を発動し、暴走状態となった花陽の雄叫び。

それに合わせて生徒会室の緊張が解かれ、穂乃果と絵里の姿が消える。

吹き飛ぶ机、宙に舞うプリント、遅れて聞こえてくる轟音。

窓ガラスは割れ、壁に巨大な亀裂が走り、天井の照明が落ちる。

生徒会室は本来の役割を忘れ、修羅の踊り狂う戦場へと変わった。

21名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:22:32 ID:UKYbIIWQ
ザッ……!



穂乃果「……ふぅ〜、さっすが。一筋縄じゃいかないね」

絵里「能力も使わずに私に勝てるなんて思ってるわけじゃないでしょ?」クスッ

穂乃果「それは絵里ちゃんもでしょ」

絵里「だってまだ使う必要があるとは思えないもの」

穂乃果「言ってくれる、ね!」ダンッ



穂乃果が再び絵里の元へ駈け出した時――



ビシッ……



生徒会室の床が、不穏な音を立てた。

22名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:22:48 ID:UKYbIIWQ
――理事長室


理事長「……」


ゴォッ…… ガシャァァァァン…… ピャァァァァァァァァァ……


床から小刻みに伝わってくる振動。響き渡る異音。



天井から落ちてくるホコリを眺めながら、理事長は考える。



理事長(彼女たちがここまでとは…24時間もいらなかったかもしれないわね……)

理事長(下手をすれば数時間――下校時刻までに勝負は決まる……!)



理事長(……)ウズッ…

23名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:23:10 ID:UKYbIIWQ
――保健室


ピャァァァァァァァァァァァァァァァ……!


ことり「なんだか外が随分騒がしいなぁ」

凛「……ん」

ことり「あ、凛ちゃん。起きた?」

凛「あれ……凛、どうして保健室にいるんだっけ?」ボーッ

ことり「えーっと、貧血で倒れたんだよー。そうだよね?」

凛「あ、そうだった。すっかり忘れてたにゃー♡」

ことり「凛ちゃん、お手」

凛「にゃー♡」ポン

ことり(ふふふ、いい感じに回ってるみたい)

ことり(私の『脳内麻薬(チュンチュントリッパー)』♡)

24名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:23:27 ID:UKYbIIWQ
南ことりは変化系能力者である。

『脳内麻薬(チュンチュントリッパー)』はまず自身のオーラを、相手を魅了するフェロモンに変化させる。

そして声に乗せてそのオーラ(フェロモン)を放出し、耳から相手の脳内へ侵入。

長時間ことりの声を聴いた者を操作し支配下に置く、恐ろしい能力なのだ。

ただし、完全に支配下におくには長い時間を必要とし、定期的に声を聴かせなければ洗脳が解けてしまう。

そのうえ、ことり自身はほぼ戦闘能力を持たないと言っていい。

凛が問答無用で襲いかかっていれば、ことりはなすすべなく倒されていただろう。

凛が最初に希を狙ったのは、ことりにとっては僥倖という他ない。

25名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:23:42 ID:UKYbIIWQ
ことり「さーて、そろそろ行こうか凛ちゃん」

凛「うん♡」

ことり「あ、その前に〜……凛ちゃんの能力ってなぁに?」

凛「強化系は技を持たなくても、修行を続ければそれが必殺技になるって聞いたから、特別な技はないにゃ♡」

凛「ただ、凛はこのスタイルを『天衣無縫の型(凛ちゃんスタイル)』と名付けているよ♡」

ことり「そっか〜。いい子いい子」ナデナデ

凛「えへへへ♡」




ガラッ

26名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:24:04 ID:UKYbIIWQ
にこ「! 希。ことりが出てきたわよ」コソコソ

希「うん。…って、凛ちゃんも一緒かい!?」コソコソ

にこ「どうも様子がおかしいわね……ことりの能力かしら?」

希「あんまり強くなさそうなことりちゃんから、って思ったのに…凛ちゃんが一緒じゃ厳しいで」

にこ「そうね。多分戦闘能力だけならμ'sでトップでしょ?」

希「んー、どうするにこっち?」

にこ「……しょうがないわねー。私がこっそりついて行って隙を探るわ」



にこ「にっこにっこにー! あなたのハートににこにこにー! 笑顔届ける矢澤にこにこー! にこにーって覚えてラブにこっ!」


ボワン!


モブ女生徒「よっし、行ってくるわ」コソコソ

希「気をつけてな〜」

27名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:25:47 ID:UKYbIIWQ
モブ女生徒「……」スタスタスタ

ことり「凛ちゃん、よしよし」ワシャワシャ

凛「ふにゃぁ〜ん♡」

ことり「ふふ、最初に会うのは誰かな〜?」


モブ女生徒(凛がことりのしもべみたいになってるわね。条件は分からないけど、操作系の能力かしら?)


ことり「ん?」クルッ

モブ女生徒「!!」

ことり「……」ジッ

モブ女生徒「……」ペコリ

モブ女生徒(だ、大丈夫…落ち着きなさい! にこの『怪人二十五面相(プリティ♡にこにー)』を見破れる者などいないわ!)

モブ女生徒(ここで引きつった顔をすれば目ざといことりには絶対にばれる! その辺を歩いてるモブキャラを演じるのよ!)

28名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:26:03 ID:UKYbIIWQ
ことり「……」ニコッ

ことり「……」フリフリ

モブ女生徒(!)フリフリ

ことり「……うーん、誰とも会わないねぇ凛ちゃん」

凛「にゃー♡」

モブ女生徒(……ふぅ、良かった。ばれてないっぽいわね)

29名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:26:23 ID:UKYbIIWQ
矢澤にこは特質系の能力者である。

その能力、『怪人二十五面相(プリティ♡にこにー)』は他者への変身を可能とする。

変身の制限時間は三十分、一度成功すれば肉親にもそれを見破ることは出来ない。

非常に便利な能力に思えるが、能力発動のためには以下の五つの条件を全てクリアする必要がある。



1.変身する対象に『にっこにっこにー』を25回以上やらせる

2.変身する対象に自分のことをほめさせる

3.変身する対象の私物を一つ奪う

4.変身する対象をどつく

5.変身前に『にっこにっこにー! あなたのハートににこにこにー! 笑顔届ける矢澤にこにこー! にこにーって覚えてラブにこっ!』と言う



ちなみにμ'sのメンバー全員に対して既に4番目までの条件を達成している。

30名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:26:40 ID:UKYbIIWQ
モブ女生徒(あとはタイミングを見計らってことりに近づき、隙だらけのところを襲う!)



戦闘能力で他のメンバーに劣る希とにこがうちだした戦略は至極単純であった。


『逃げ続けること』


勝利条件は24時間後の割符の枚数。無理に戦闘をする必要はない。

にこの能力で不意を突き割符を奪い、希の能力で危険を察知し避ける。

お互いが三枚の割符を手にすれば、少なくとも負けることはない。



モブ女生徒(勝負に勝つってのは、勝負に負けないこと。どんな手を使っても勝ち残って、妹達に美味しいもの食べさせてあげるんだから!)グッ


にこが決意を心に刻んだその時、それは再びやってきた。

31名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:27:05 ID:UKYbIIWQ
ガシャァァァァァァン!


突然廊下の窓ガラスが割れ、破片が辺りに飛び散る。

ことり「……わぁ〜、ビックリした。ありがとう、凛ちゃん」

凛「えへへ、どういたしまして♡」

モブ女生徒(なっ……あれを止めたっての!?)


にこの目に映るのはことりに向かって飛んできたらしい念の矢を、すんでのところで止めた凛だった。


凛(恐ろしく速い一撃。凛じゃなきゃ見逃しちゃうね)

ことり(これは――海未ちゃんかな。凛ちゃんは私の傍にいて欲しいところだけど……しょうがないか。遠くから狙われたらどうしようもないし)

32名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:27:25 ID:UKYbIIWQ
ことり「ねぇ凛ちゃん」

凛「なぁに?♡」

ことり「ことりを狙った悪い子を、懲らしめてきてくれる? 出来るだけ早くね」

凛「了解にゃー♡」

言うが早いか、凛は四足獣のように体を丸め、両手両足を地面に踏ん張った。

大腿筋がビキビキと音を立てて膨れ上がり、眼光は獣のように鋭さを増す。



凛「せーの」


トッ、と音がしたかと思うと、凛の姿は消えていた。

33名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:27:43 ID:UKYbIIWQ
――どこかの建物の屋上


ヒュンッ……!


海未「!!!!」


ザシュッ!


海未「ぐっ!」

凛「ありゃ、とったと思ったんだけどにゃ〜」

海未「……」ポタポタ…

海未(数瞬気づくのが遅ければ、右腕を持っていかれてましたね…)

凛「ことりちゃんに言われたとおり、海未ちゃんを懲らしめてやるにゃ。覚悟してね?」

海未「……ふふ、ようやく元気な獲物が釣れました」

34名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:28:02 ID:UKYbIIWQ
ことり「さ〜て、と」

モブ女生徒(!! 凛がことりから離れた…! 今が千載一遇の好機!)

モブ女生徒「だ、大丈夫ですか!?」タタタッ

ことり「あ、さっきの…うん。大丈夫」

モブ女生徒「怪我とかしてないですか?」

ことり「大丈夫だよ〜。……痛っ」

モブ女生徒「やっぱりどこか怪我したんじゃないですか? ちょっと見せてください」

ことり「うん。じゃあお願いしようかな〜」

モブ女生徒(ことりを、とる!!)

35名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:28:20 ID:UKYbIIWQ
能力を駆使し、ことりを狙うにこ。



希(にこっち……!)


物陰から気配を消して二人を見守る、希。



そして――



真姫「……」ジッ…

36名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:28:40 ID:UKYbIIWQ
――生徒会室


花陽「ピャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


生徒会室の床を破壊して現れたのは、自身の能力の操り人形となった花陽だった。

普段のようにやさしげな微笑をうかべる彼女の面影はそこにはなく、ギラギラした光を目から放っている。

その一撃の威力は凄まじく、一階と二階の境目が消え、穂乃果と絵里は宙に放り出されてしまった。

絵里(や……)

穂乃果(やばい……!!)

37名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:29:03 ID:UKYbIIWQ
花陽「パナァァァァァァァアアアァァ!!」

花陽の最初の狙いは穂乃果だった。

握り固めた右こぶしを打ち込まんと、両者の間合いが一瞬で詰まる。

しかし、二人の間に生徒会室にあった長机が落ちてきた。

花陽「ぴゃあぁあぁぁあぁぁぁああ!!」

穂乃果「……!!!」

それにもかまわず打ち込まれた花陽の拳は、長机を突き破り、穂乃果に命中する。

穂乃果(!!!!……お……!!!)


ドギャァァァァァァァ!!


穂乃果は吹き飛ばされ、隣の部屋の壁を突き抜けて見えなくなった。




その数秒後、どこかに何かが激突する音が響いた。

38名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:29:19 ID:UKYbIIWQ
トッ……

絵里「……」

花陽「ぱなぁぁぁぁぁぁぁ……!」

構造が吹き抜けに変えられた教室に二人は降り立った。



絵里(これが花陽の念能力……ね)



絵里(正直、勝負とはいえ花陽を傷つけるのは抵抗がある……なんて思っていたけれど)



花陽「ぴぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


絵里「躊躇していたら、こっちが食われるわね……!」ズッ……!

39名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:29:52 ID:UKYbIIWQ
――どこかの建物の屋上

凛「獲物……?」

海未「いかにも。待っていましたよ、あなたのような者が近づいてくるのを」

凛「遠くから矢で狙い撃ちしてた割には、大口をたたくね海未ちゃん」


海未は十中八九放出系の能力者だと凛は当たりをつけていた。

それもそのはず、ここから音ノ木坂学院までの距離は約300メートル。体から離したオーラを維持することに長けた放出系でなければ、先ほどの狙撃は不可能。

そして、そこから導きだされる一つの仮説――


凛(恐らく海未ちゃんは――接近戦が苦手!)

40名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:30:20 ID:UKYbIIWQ
勝負が始まるとすぐに学院から離れ、この建物の屋上まで来た海未。

そこからの正確無比な遠距離狙撃。

あれだけの精度の射撃を行うためには、必ずある程度の『溜め』の時間が存在するはず。

距離を詰められることを何より恐れているだ、と。

凛は頭の中でこの理論を組み立てたわけではない。持ち前の直感で『何となく』そう思ったに過ぎなかった。

海未「……なるほど。あなたはこう考えているのですか? これだけ離れた場所から攻撃をするような私が、近接戦闘で強いはずがない、と」

海未は口元に微笑を浮かべた。

まるで『全て分かっていますよ』とでも言いたげに。

海未「もしあなたにそう思われているのだとしたら、少々心外です」

海未「『愛と欲望と憎しみの矢(ラブアローシュート)』による狙撃など、前菜に過ぎませんよ」

41名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:30:50 ID:UKYbIIWQ
凛の見立て通り、園田海未は放出系能力者である。

能力名は『愛と欲望と憎しみの矢(ラブアローシュート)』。オーラを矢の形に変化させ打ち出す狙撃能力。

発射する際は弓道の一連の型をとる必要があり、射出までに時間がかかるのが難点だが、『溜め』にかける時間によっては1キロ先の目標をも射抜く。

矢には海未が普段から心の内に秘めた愛と欲望と憎しみが込められ、命中してしまった者はそのいずれかの感情が爆発する。

能力の性質上、相手が自分の姿を確認している場合は命中させることが難しく、不意打ちに特化した能力と言える。

42名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:31:24 ID:UKYbIIWQ
凛「前菜……?」

海未「ええ。これをかわせない程度の腕なら、本気で戦うに値しない。それを見分けるための遠距離狙撃です」

海未「もし矢をかわし私までたどり着くことができれば、そこでようやく『死合い(メインディッシュ)』に変わるわけです」

海未の言葉の真意を凛は測りかねていた。

単なる強がりなのか、はたまた――

凛「……ま、いいや」

凛「どっちにしろことりちゃんに急いで片づけてくるように言われてるし、さっさと始めるにゃー」

海未「ええ、身を以て体感してください」

海未「私の言葉が、ハッタリかどうかを」ニコッ

凛「……」トンッ!



『天衣無縫の型(凛ちゃんスタイル)!!』



ズギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!

43名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:31:51 ID:UKYbIIWQ
電光石火。

そう呼ぶにふさわしい疾さ、迫力。

常人の目には海未の周囲のみ台風が巻き起こっているようにしか見えないだろう。

持ち前の運動能力(バネ)と強化系能力者としての天性の素質(センス)。

それらが噛み合わさり驚異的なスピードを生み出される。

四方八方から繰り出される目にも止まらぬ連続攻撃。

そのうえ、一撃一撃が必殺の威力を持つ。

並みの能力者ならば、何をされたか分からないまま沈んでいたことだろう。

だが――園田海未は並の能力者とは程遠かった。


海未「……」


ババババババババババババ!

44名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:32:10 ID:UKYbIIWQ
凛「……!?」


凛の猛攻を紙一重でかわし、絶妙なタイミングでいなす。

暴風にさらされても折れることなくしなる林のごとく、凛の攻撃を捌き続ける。

凛(攻撃が――まるで当たらない…!!)

わずかな動揺が凛の攻撃の手を緩ませる――


海未「ふっ!!」


海未の掌底が凛をとらえ、凛は地面にたたきつけられる。


凛「ぐっ……はっ…!」

海未「すいませんね、凛。私はたしかに放出系能力者……しかし」


海未は極めて穏やかに凛を見下ろし、にっこりとほほ笑んだ。



海未「もっとも得意とするのは、己の拳を使った近接戦闘です」

45名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:32:53 ID:UKYbIIWQ
――


海未「……」フゥゥゥゥ…

裂帛の気合を纏い、僅かな隙も見せず型をとる少女。



「ぐっ……」「うぅ……」「い…いてぇ……」



その足元に転がるのは、少女の身の丈のゆうに十倍はあるであろう、熊のような体躯の男たち。

信じられないことに彼らを倒したのはこの少女らしかった。

海未母「そこまで。…腕を上げましたね、海未さん」

海未「……」ペコリ

海未母(素晴らしい才能…いや、恐ろしいといった方が正しいのでしょうね)

海未母(長い園田の歴史の中でも間違いなく頂点、その天賦の才…!)


――園田海未、当時六歳である。

46名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:33:11 ID:UKYbIIWQ
物心ついた頃から厳しい鍛錬を積んできた。

家柄の影響ももちろんあるが、彼女がここまでの使い手になったのはもう一つの要因がある。

彼女は自分を甘やかすということを一切しなかった。

怠惰、甘え、怠けるということを最も嫌う彼女は、その才能にかまけることなく、己を磨き続けた。


そして、鍛錬に次ぐ鍛錬を重ねた結果、彼女の平手は――


シュンッ……


バチーンッ!


音を――置き去りにした



絵里(気のせい、よね?)

希(一瞬、消えて…)

にこ(音が、後から…)



穂乃果(来るって、わかってたのに…ほっぺたがじんじんするまで、全然気づけなかった…!)ジンジン



海未「最低です……」


海未「あなたは最低ですっ!!」



二、三ヶ月前の出来事である――

47名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:33:29 ID:UKYbIIWQ
凛「うわぁぁぁぁああぁぁ!!」ダッ

海未「戦闘とは、力任せに相手に突っ込めば勝てるほど甘いものではありませんよ」

海未「力の使い方を教えてあげましょう」


『肢曲』


スゥゥゥゥゥゥゥゥ…


凛(!? う、海未ちゃんが何人にも見える…!?)

凛「くっ……はっ!」ビッ

凛が苦し紛れに放った拳は宙を切り、海未は――


海未「少々髪が傷んでいますね、トリートメントはしていますか?」ニコッ


凛の背後に回り込んでいた。

凛「くっ!? このっ!」ブンッ

海未「おっと」ヒョイ

48名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:33:51 ID:UKYbIIWQ
凛「はぁ…はぁ…」

凛(強い……! ただ強いんじゃなくて…まるで、凛の動きが全部読まれてるみたいに…)


凛本人は知る由もないが、自分の動きを海未に教えているのは、ほかならぬ凛本人であった。

海未(分かりやすい、実に分かりやすいですよ凛。目線の動き、オーラの流れ、あなたのすべてが私にあなたの次の動きを教えてくれます…)

凛「にゃぁぁぁぁぁ!」

海未(この右拳は布石、本命はオーラを集中させた――)



海未(左足の回し蹴り…!)




ビュオッ!…ドゴッ!


凛「!? うぐっ……!」

凛(また…読まれた! なんで……オーラの総量なら凛のが間違いなく上なのに…)

49名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:34:35 ID:UKYbIIWQ
渾身の一撃を軽くいなされ、海未のカウンターで地面に倒れふす凛。

両者のあいだに横たわる決定的な差――それは実戦経験である。


かたや幼少の頃より鍛錬を積んだきた武芸者、かたや才能はあれど戦闘経験など皆無に等しい者。

オーラの総量や素質だけをとれば凛に軍配があげるだろう。

だが、念能力者における戦闘とはオーラだけで計れるものではない。

海未「私は千を超える闘いの中で自身の眼力を鍛え上げました。いくら動きが早かろうと、いくらオーラが力強かろうと、あなたでは私に勝てませんよ」

凛「っ……」

海未「願い事など私は興味ありませんが」



海未「勝負ごとである以上、私に『負け』の二文字はありえません」ゴォォォ…




凛(……なんか、頭がすっきりしてきたにゃ)フゥゥゥゥ…

凛「凛だって負けられないよ……絶対に勝って――」




凛「美味しいラーメンを……たらふく食べるにゃー!」




音ノ木坂学院から東に三百メートル、二つのオーラが火花を散らし合う。

50名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:35:03 ID:UKYbIIWQ
――

モブ女生徒(もらった……!)

無関係の一般生徒を装い、にこは完全にことりの背後をとった。

懐から取り出したのは小さな針のような物。

基本的な戦闘能力の低さを補うため、あらかじめ用意しておいた暗器であった。

針の先には即効性の毒が仕込んであり、わずかでも刺されば三日は碌に動くこともできなくなる。

ことりの首筋に針が撃ち込まれる――はずだった。

ことり「……」バッ

モブ女生徒(なっ……!)

ことりはふりむきざまに毒針をかわすと、右手をにこに向けて構える。

指先のあたりがキラリと光を放った。

希「にこっち!」

51名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:35:35 ID:UKYbIIWQ
ことり「……ちぇ。惜しかったな」

ことりは小さくため息をつき、希を見つめる。

希「ふぅ〜…間一髪、やね」

希は能力を使って危険を察知し、なんとかにこを守り抜いたのだった。

モブ女生徒(そんな……なんで、なんで分かったの…?)

自分の変身能力に絶対の自信を持つにこにとって、さきほどの不意打ちをかわされたのはショックが大きかった。

ことり「ふふ、なんでって顔してるね」

ことり「最初は気づかなかったよ。無関係の子かと思ってた。でも――」



ことり「さっき手を振った時、袖口から見えちゃってたよ、にこちゃん」



モブ女生徒「!?」

にこは慌てて自分の手元に視線を移動させる。

袖口からのぞいていたのは薄いピンク色のカーディガン。

52名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:35:59 ID:UKYbIIWQ
モブ女生徒(げっ、しまった……!)

ことり「にこちゃんも意外と抜けてるね。制服の前だけ閉めておけば大丈夫なんて思ってたの?」

モブ女生徒「……」

ボワンッ!

にこは能力を解き、ことりと向かい合った。

ことり「せっかくの変身能力も、使い手がお馬鹿さんじゃ宝の持ち腐れだね〜」クスクス

にこ「こ、こいつ、言わせておけば…! 上等だわ!」

希「ストップや、にこっち」

にこ「! 止めるんじゃないわよ希!」

希「落ち着くんよ。挑発に乗ればことりちゃんの思う壺や」

希「二対一のこの状況、追い込まれてるんは完全にあっちの方やん。二人でかかれば確実に勝てるんよ」

ことり「……」

希「にこっちと同じく暗器を隠し持っていたことに加えて、にこっちへの挑発……戦闘能力はないって言ってるようなものやん。つまり」


希「怒らせて一体一の状況を作り出すのがことりちゃんの狙い!」



ことり「……」

53名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:36:22 ID:UKYbIIWQ
希の読みはまさに的中していた。

支配下に置いた凛は自分の元を離れ、声を聞かせなければじきに洗脳も溶ける。

自身の戦闘能力は皆無に等しく、二対一ならば勝ち目はない。

『脳内麻薬(チュンチュントリッパー)』を使おうにも、これだけ警戒されていては支配下に置くまで時間を稼ぐのは不可能。

挑発して向かってきたどちらかを一か八かで仕留めることが最良と判断しての行動だった。

希「もうことりちゃんの言葉に耳を貸しちゃダメやでにこっち」

にこ「なるほどね。わかったわ」

にこ「行くわよ、希…ことり、悪く思わないでね」ジリ…

希「うん…ことりちゃん、この勝負はバトルロイヤル形式、恨まないでな」ジリ…

ことり(……仕方ない、か)



ことり(本当は、使いたくないんだけど…)ズズ…



希とにこに追い詰められたことりが、新たなオーラを練った時――

54名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:36:46 ID:UKYbIIWQ
ズァァァァァァァァァァァ……


不穏なオーラが辺り一体を覆いつくした。


真姫「そうね。この勝負はバトルロイヤル」




真姫「漁夫の利を得るのも、当然ありよね」




にこ・希・ことり「……!!!」




『秘密の診察室(ドクター・マッキー)』――発動……!!

55名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:37:36 ID:UKYbIIWQ
――


ダンッ!


絵里「!!」

絵里が能力発動のためオーラを練ると同時、花陽は跳んだ。

花陽「……」スゥゥゥゥゥ…



花陽の『米米米米米米米米(コメコメパラダイス)』は、米十キロを食べきることで莫大なオーラを手にする能力であることは前述した通りである。

発動中は全身に絶え間なくオーラが供給され続け、あらかじめ設定した目的を達成するまで止まることはない。

そのため、消費しきれずに持て余してしまうオーラもが存在する。

では、どうやってそのオーラを処理するのか……?

その解答は…


絵里(……! 何か、やばいのがくる……!)


溜めこまれたオーラを、目も眩む恒星のごとき光弾に変え撃ち放つ


花陽「ぴぴゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


無慈悲の――咆哮である。

56名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:38:00 ID:UKYbIIWQ
……ガラッ…

穂乃果「……いっ…たぁ〜〜〜」

穂乃果「くぅ〜、効いたなぁ……『硬』でガードしたのに、この威力…海未ちゃんのビンタ並だね」

穂乃果(花陽ちゃんに殴られる前、長机が落ちてきたからガードが間にあったけど…まともにもらってたらリタイアだったかも)

穂乃果(……能力、発動したってことなのかなぁ)



ピピャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……!

ズズッ…ズズン!



穂乃果(まだ暴れてる…花陽ちゃんとはなるべく戦いたくないな)



絵里『能力も使わずに私に勝てるなんて思ってるわけじゃないでしょ?』

穂乃果『それは絵里ちゃんもでしょ』



穂乃果(絵里ちゃんにはあんな風に言ったけど…)

穂乃果「ちゃんと発動してるのかな…私の能力。まったく、発動してるかどうか分からない能力ってなんなのさ」プンプン

ダダダダダダダッ!

穂乃果(! だれか来る…!?)



ダダダダダダダダッ……



穂乃果(…あ、通り過ぎた…)

……カヨチィィィィィィィィィィィィィィィン!!

穂乃果「……ん?」

57名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:38:24 ID:UKYbIIWQ
トッ……

花陽「フゥゥゥゥゥゥゥ……」


もはや教室と呼ぶのは不可能な場所の中心に、巨大なクレーターが出来上がっていた。

そこから巻き上がる粉塵が視界を遮り、絵里の姿は見えない。

花陽「……」ピクッ

しかし、姿は見えずとも、花陽は本能で感じ取る。

『標的はまだ――生きている…』


「驚いたわ」


粉塵の幕の中、黒い影が写し出された。それが音もなく薄らぎ、視界が徐々に鮮明になる。そして――


「まさかここまでの破壊力があるなんて、思いもしなかったわ。油断していたわけじゃないけれど…」


影が、その正体を表す。


絵里「全力全開で相手になるわ……花陽」


『ありふれた悲しみの果て(ダンサーインザダーク)』発動――!


煌びやかなバレエの衣装に身を包んだ絵里が、花陽に鋭い眼光を投げかけた。

58名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:38:48 ID:UKYbIIWQ
絵里(――私は……過去を振り返るのは嫌い)

絵里(思い出したくないこと、忘れたいことが沢山埋もれているから…)

絵里(だから『過去を振り返らなければ発動できない』、そんな能力にしたわ。そしてバレエの衣装は私にとって『挫折』の象徴…)

絵里(μ'sのメンバーは、私にとって最高の仲間で、最高のライバル)

絵里(こんな機会を待ってたわ…皆と正面からぶつかり合って――勝つ。そうすれば、私は過去の弱かった自分と決別できる)


花陽「ぴゃ…ぴゃ……」

絵里(花陽…一見気弱そうに見えてもその能力に現れているように、内に秘めた思いはだれよりも強い。相手にとって不足はなし)

絵里「さぁ…戦い(踊り)ましょう、花陽」

絵里「私とあなたの心、どちらが強いか……!」

59名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:39:23 ID:UKYbIIWQ
絢瀬絵里は具現化系能力者である。

『ありふれた悲しみの果て(ダンサーインザダーク)』はバレエの衣装を具現化させ、己のオーラを飛躍的に上昇させる。

そのオーラの上昇率は驚異的で、事実、さきほどの花陽の咆哮に耐え切ったのはこの能力を発動させたためだ。

だが、『ありふれた悲しみの果て(ダンサーインザダーク)』の本質は、単純な戦闘とは別のところにあった。



花陽「ぴあっ!!!」ヒュッ…

ズドンッ!

絵里「……っ!」グラッ…

花陽の拳を紙一重で躱すも、絵里は思わず体勢を崩した。

絵里(くっ、さっきの咆哮のダメージが残ってるわね……さすがに無傷ってわけにはいかなかったか…)

絵里「でも、ここからは――」

絵里「心の勝負よ、花陽……!」



トンッ……!

60名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:39:41 ID:UKYbIIWQ
花陽「……?」

本能に従って行動する花陽が、一瞬動きを止めたのも無理はない。

それほどまでに絵里の行動は不可解なものだった。


トーンッ、トンッ、クルン、タンッ…!


突然踏みだした、バレエのステップ。

花陽の困惑をよそに、絵里は踊りだしたのだ。

絵里(アラベスク、プリエ、ピルエット……舞台の上には私一人、そして観客はあなたよ、花陽)

まるで白鳥が舞うように、絵里は軽やかに舞い続ける。

61名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:39:59 ID:UKYbIIWQ
花陽『ふぅ〜、お腹減ったなぁ』

花陽『えへへ、部室に炊飯器置いてあると便利だな〜♪』

花陽『さーて、美味しいごはんが炊けたかな〜?』パカッ

花陽『……(゜o゜)』

花陽『す、スイッチ押し忘れたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』ダレカタスケテー!!





花陽「……!?」

意図が掴めず絵里に手を出せずにいた花陽の脳裏に、突然苦い過去の映像が映し出された。

絵里(! 反応あり…ね)

62名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:40:27 ID:UKYbIIWQ
『ありふれた悲しみの果て(ダンサーインザダーク)』の本質……それは『過去』にあった。

具現化されたバレエの衣装を見た者に、過去にあった苦い出来事を思い起こさせる…!

絵里は突然踊りだすことで花陽の視線を自分から外させないよう誘導したのだ。


花陽「ぐ…うぅぅ……ぴゃぁ!」ボッ

絵里「ふふ、そんな雑な攻撃では、私を捕えられないわよ」ヒョイ

花陽「…ふぅー……ふぅー…!」

絵里(動きが散漫になっている…花陽は能力を使って理性を捨て去ったわけじゃなく、一時的に眠らせているだけというわけね)

絵里(『ありふれた悲しみの果て(ダンサーインザダーク)』で心を刺激し続ければ……)

絵里(いずれ花陽の能力は解ける……!)

63名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:40:43 ID:UKYbIIWQ
『念』は心の状態に大きく左右される。

歓喜、狂気、悲哀、恐怖、憎悪、油断、忠義、激昂、疑心、愉悦、羞恥、覚悟――

ありとあらゆる心の動きが念を加減する。

心に揺さぶりをかけられた上で、絵里の動きを捕えることは困難を極める。

本来ならばここで絵里は攻撃に転じるべきであろうが……絵里はこの能力に自らデメリットを設定していた。

64名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:41:06 ID:UKYbIIWQ
ロリチカ『うぅ……グスッ…ヒック…』

グランマ『また駄目だったの?』

ロリチカ『ごめんなさい……ごめんなさい…』

グランマ『いいのよ、オーディションなんて気にしなくて』



凛『学校の許可ぁ? 認められないわぁ』



絵里『私には、スクールアイドル全てが素人にしか見えないの』

絵里『一番実力があるというA-RISEも……』

絵里『素人にしか見えない』キリッ

65名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:41:21 ID:UKYbIIWQ
絵里「……ぐっ……!!」

能力の発動中、自分にもその効果が降りかかる!

過去の挫折を乗り越えるために作りだした能力が、『ありふれた悲しみの果て(ダンサーインザダーク)』であった。


花陽「ハァー…ハァー…ハァー……!」

絵里「ふっ…ふっ…ふっ……!」


お互いの攻撃が空を切り、体でなく、心が少しずつ摩耗していく。


絵里「…ふふふ、心の勝負…すなわち心の削り合い……まだまだ踊れるでしょう?」

花陽「…あああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁ!!」


絵里(私とあなた、どちらの『心が折れる(能力が解除される)』のが先か……)


絵里「存分に踊りましょう――花陽!」



ダンサーは一人、観客も一人……たった二人のステージは続く――

66名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:42:52 ID:UKYbIIWQ
――

ズズズズズズズ……


にこ「……ここは?」キョロキョロ

希「どうやら…学校やない、どこか別の場所に飛ばされたみたいやね」

真姫のオーラが三人を包み込み、気づけば目の前には真っ白な空間が広がっていた。

白色が目に眩しいほどで、さながら病院の中に迷い込んだかのようである。

大きさとしては野球のグラウンドくらいだろうか、壁も床も全てが白く塗りつぶされ、目につくものは白色だけだ。

ことり「はぁ…真姫ちゃんにまんまとしてやられたってわけだね」

真姫「ふふん。ま、そういうことよ」

真姫はしたり顔で腕を組んでいる。

その隣に、この空間においては異質なものが存在した。

にこ・希・ことり(……メトロノーム?)

真姫の身の丈と同じくらいはあろうかという、巨大なメトロノームがそこにあった。

怪訝そうな表情を浮かべている三人をよそに真姫は語りだす。

67名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:43:56 ID:UKYbIIWQ
真姫「私の能力『秘密の診察室(ドクター・マッキー)』の発動条件は、一定時間私のオーラに触れること。そして条件を満たした相手をこの診察室(念空間)へ強制移動させる。」

真姫「ふふ、あなた達は目の前の敵にしか集中していなかったから、私の円(オーラ)に気づかなかったでしょう?」

真姫「もちろん、ただここへ飛ばすだけの能力じゃないわ。この空間内に419分留まると診察終了となり、『入院』することになってしまうから」

真姫「もし診察されたくない場合は、私に触ったまま『真姫ちゃんかわいいかきくけこ』と言えばここから出られるわよ」

にこ(くそ……不覚だわ)

希(ことりちゃんに気をとられ過ぎてた…真姫ちゃんがウチらを狙ってたとはね)

ことり(相手が獲物を狙っている時を見計らって襲う…か。やるね、真姫ちゃん)

三者三様の思いの中、三人に同様の疑問が浮かんできた。



『何故、自分から能力の説明を――?』

68名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:44:18 ID:UKYbIIWQ
真姫は、その疑問に答えるべく言葉を紡ぐ。

真姫「なんで能力の説明を…なんて思っているんでしょう?」

真姫「これが診察開始の合図なのよ」

カチッ……

突然、真姫の隣のメトロノームが音を立てて動き出した。

にこ・希・ことり「!!」

真姫「一秒につき一回。メトロノームが25140回目の時を刻んだ瞬間――」

真姫「あなた達の『入院』が決定するわ」

にこ(……入院、ね。間違いなく愉快なことにはならないわね)

希(419分…七時間か。ずいぶんと長丁場な時間設定やん)

ことり(脱出条件は大したことじゃない、けど……)

69名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:44:47 ID:UKYbIIWQ
にこ「……ことり」

ことり「! なに?」

にこ「一時休戦よ。とにかく今は力を合わせてここから出ることに集中する。どう?」

ことり「…うん、いいよ」

希(にこっち…)ジッ

にこ(そんな顔しないでも分かってるわよ希。一時的な同盟関係とはいえ、ことりは信用ならない。警戒は怠らないわ)

ことり(ふふ、ついてるなぁ。にこちゃん達の注意が真姫ちゃんに向いた…当然だよね、この状況ならまずはここからの脱出が最優先)

ことり(隙を見て『脳内麻薬(チュンチュントリッパー)』を仕込めれば…一気に三人落とせちゃうかも♪)

希(ことりちゃんを警戒しつつ、真姫ちゃんの能力から逃れる……容易なことじゃなさそうやね)

70名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:45:11 ID:UKYbIIWQ
真姫「どうしたの? 私に触れて『真姫ちゃんかわいいかきくけこ』って言わないとここから出られないわよ?」

考えを巡らせる三人をおちょくるように、真姫は微笑を浮かべる。

にこ「ふん、なんでそんなに自信満々なのか知らないけど」

にこ「三人相手に七時間も逃げ切れると思ってるの?」

希「…」ザッ

ことり「…」

真姫「ええ。もちろん――思ってないわ」

にこ「…なんですって?」

真姫「三対一なら、ね」

ズズズズズズズズズズズズズ……

にこ「!?」

希「これは……!」

71名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:45:32 ID:UKYbIIWQ
「まきちゃん」「まきちゃん」「まきちゃん」「まきちゃん」「まきちゃん」「まきちゃん」
「まきちゃん」「まきちゃん」「まきちゃん」「まきちゃん」「まきちゃん」「まきちゃん」


突然、真姫の周囲を取り囲むように大量に何かが現れた。

その目は虚空を見つめ、だらしなく半開きになっている口からは涎が垂れ、皆一様に同じ言葉を繰り返している。

真姫「既に診察が終わって、入院中の患者さん達よ」

にこ「まさか、これが…」

希「『入院』……?」

ことり「…時間までに出られなければ、私達もこうなるってわけだね」

真姫「そ。入院期間の長さは、その人の私に対する好感度の高さに比例するわ」

ことり「なるほどね。じゃあ…この人たちは真姫ちゃんのファンの人かな?」

真姫「…その通り」

にこ「なっ……真姫! あんたファンを食い物にしたっての!?」

真姫「……」

にこ「このっ!」ダッ

希「!! ストップや、にこっち!」

患者「まきちゃん」ザッ

にこ「!!」


ドゴッッッッ! 👀

72名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:45:51 ID:UKYbIIWQ
にこ「あ、あっぶな……!!」

希(なんて一撃…! 凛ちゃん並の迫力やん!)

真姫「患者は私に近づこうとする者を排除するわ。あなた達程度のオーラじゃ患者の群れは突破できない。時間まで大人しくしていた方が身のためよ」

ことり「ふ〜ん、私達を狙ったのはμ'sの中でも戦闘能力的に劣るからだね」

真姫「ま、そんなとこよ」

ことり「自分と同じ戦闘に自身のないタイプを狙ったわけか…真姫ちゃんも結構容赦ないね」

ことり「それに――」

真姫「ふふ、よく喋るわね。ことり」

ことり「…」ピクッ

真姫「陰からあなたと凛の様子も見させてもらったわ。ことりはひっきりなしに凛に話しかけ続けていたわね」

真姫「今確信したわ、ことりの能力は『声』が重要なファクターであること」

73名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:46:09 ID:UKYbIIWQ
ことり「……」

真姫「それなら、対策は簡単ね」つ耳栓

スッ

真姫「音は聞こえなくなるけど、これなら勉強が捗りそうだわ」ニッ

真姫「三人も、時間がくるまでのんびりしてるといいわ」スタスタ

にこ「な、なめるんじゃないわよ!」ザッ

患者「まきちゃん」ザッ

にこ「うっ……」

にこ(脱出したくても、これじゃ真姫に近づけない…!)

74名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:46:29 ID:UKYbIIWQ
「まきちゃん」「まきちゃん」「まきちゃん」「まきちゃん」「まきちゃん」「まきちゃん」


三人の戦闘能力では、患者の群れを突破し真姫へ接近するのが不可能なことは明白だった。


カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッマキッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ


そして、メトロノームは無情にも時を刻み続ける。


ことり「……」


能力の本質を看破され、あっさりと対策をとられてしまったことりは…


ことり(…使うしかない、かな…『禁断症状(スピカテリブル)』を……)


三人にとって限りなく『詰み』に近い状況の中――


希(どうする……どうすれば……)



ドクン……!



希「……!?」

75名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:47:09 ID:UKYbIIWQ
ドガッ、バキッ、ガッ、ザザザッ!


海未「ふぅ…ふぅ…はぁ……」

凛「はぁ…はっ…はぁ……」

海未と凛の間では、変わらず激しい戦闘が続いていた。しかし、そこにある変化が起きつつあった。

凛「にゃぁぁああぁあ!!」

チッ…

海未(! かすった…!? バカな…!)

海未(おかしい…凛の動きは完全に見切ったはずです。なのに……)

凛「やぁぁぁぁぁぁぁ!」

ドゴッ!

海未「くっ…!」

海未(徐々にですが確実に……私が、押され始めている…!?)

76名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:47:31 ID:UKYbIIWQ
両者の間に横たわる圧倒的な戦闘経験の差。

本来ならば凛が海未に勝てる道理は存在しない――はずだった。

しかし、もし凛が本調子でなかったとすれば……?

凛(さっきまで頭の中にあったモヤモヤがきれいさっぱりなくなった! 体が嘘みたいに動くにゃ!)



ことり『ことりを狙った悪い子を、懲らしめてきてくれる? 出来るだけ早くね』



ことりは能力(チュンチュントリッパー)で凛を操っていた。

海未を、出来るだけ早く、倒す。

ことりが凛に課した命令は凛の動きを直線的なものにし、海未に動きを読まれやすくしてしまっていたのだ。

その足かせが外された今、凛を縛る物は消え、『天衣無縫の型(凛ちゃんスタイル)』は本来の切れ味を取り戻す。

77名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:47:51 ID:UKYbIIWQ
凛「いっくにゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ダダダダダダダダダダダンッ!

海未「くっ……!」

海未(一見無茶苦茶に動いているようにしか見えません…! しかし、さっきまでと違って…)

海未(私の目でもってしても…凛の動きが予測できない……!!)

凛「……あ!! そうだ!」ピタッ

海未「!?」

凛「さっき見たアレ、やってみよっと!」トッ…

海未「!!?? ま、まさか…!」

78名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:48:11 ID:UKYbIIWQ
凛の『天衣無縫の型(凛ちゃんスタイル)』は完全に我流。

我流ゆえに無型であり、雲の流れを読むことが不可能なように、誰にもその動きをつかむことは出来ない。

そして、雲は自在にその姿形を変える――

凛「……」スゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…

海未(『肢曲』……! 一度見ただけで真似たというのですか!?)

『肢曲』は足運びに緩急をつけることで無数の残像を生じさせる高等暗殺術である。

武芸に秀でた園田家の中でも一族最高の資質を持つとされる海未でさえ、習得するまでに長い時間を要した技。


だが凛は――体術や打撃系の念能力ならば、一度目にすれば完全に再現できる!


凛の天真爛漫さと純粋さ、生まれ持った素質が合わさることで、それは可能となった。

79名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:48:29 ID:UKYbIIWQ
ヒュッ…!

海未(よけきれな――)

ドスッ!!

海未「……っ!! ぐっ…はっ……!!」

凛の拳が海未の腹部を直撃し、海未はくずおれた。

ドサッ……

凛「…ふぅ〜〜〜」

凛「えへへ、凛の勝ちだね。海未ちゃん」

ザッ……!

凛「!」

海未「き…気が…早すぎますよ、凛」フラフラ

凛「…咄嗟にオーラを集中させて何とか耐え切ったって感じだね。海未ちゃんもタフだにゃぁ」

海未「……ふっ」

凛「?」

ドクンッ……!

凛「!?」

海未「…」ニヤリ

80名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:49:34 ID:UKYbIIWQ
希(な、なんなん…? この心の底からあふれてくるのは…)


――


凛「な、何をしたの…海未ちゃん!」

海未「ぐっ…『愛と欲望と憎しみの矢(ラブアローシュート)』は……ただオーラを飛ばすだけの力ではありません。私が心に秘めた愛と欲望と憎しみをオーラに込めて射出する能力…」

海未「は、発動までにタイムラグはありますが…正確に命中せずとも、オーラに触れれば、いずれ発動します…」

海未「あなたの心にある愛、欲望、憎しみ…そのどれかが…爆発するのですよ…」ニヤッ

凛「くっ……うぐ……っ…!!」

感情を爆発させ、動きに精彩を欠いた相手を得意の接近戦で打ち倒す。

遠距離で仕留めきれずとも近接戦闘で確実に仕留める、この二段構えは海未の保険であった。

接近戦に絶対の自信を持つ自分をも凌駕する存在が現れた場合、それでも勝利するために…負けを許されない彼女が考え出した戦法である。

海未は凛の実力を正確に見抜き、保険を掛けていた、ここまでは海未の想定内。

唯一の誤算は――

81名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:50:03 ID:UKYbIIWQ
海未「さぁ、さっきまでの威勢はどうしました? 立ち上がれなければこのまま……」

凛「……ちん」

海未「ん?」

凛「か……よ……ち……」

凛「かよちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!!」ダッ

ダダダダダダダダダダダダダダ!!


爆発した感情が『愛』だったことである。



海未「……」ポツン

海未「…………お、追わねば!」ダッ

82名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:51:01 ID:UKYbIIWQ
全壊寸前の校舎の一画で、花陽と絵里の攻防は更にその激しさを増していた。


花陽「はぁ……っはぁ……ぐっ、うぅ……」




先生『はい、じゃあこの問題分かる人は…』

グーーー……

…ザワザワザワ…ザワザワ

凛『…』チラッ

真姫『…』チラッ



花陽『…///』

83名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:51:18 ID:UKYbIIWQ
絵里「くっ……ぜぇ…ぜぇ……っっ」


絵里『あら、このチョコレートおいしそうね』

絵里『いただきまー…』

希『それおもちゃやで絵里ち』

絵里『』



凛『学校の許可ぁ? 認められないわぁ』



絵里『ハラショー! ここが回転寿司……お寿司が回ってるわ!』ワクワク

希『ふふ。絵里ち、ちゃんと手洗ってから取るんよ?』

絵里『もちろん。この黒いのを押せばいいんでしょ?』グイッ

希『え? いやそれは--』

絵里『あっつ!』

84名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:51:36 ID:UKYbIIWQ
頭の中で何度も繰り返される忘れたい過去。

常人ならばとっくに布団に潜り込み足をばたつかせていることだろう。

だが、二人の精神力は常人をそれを遙かに凌駕していた。

永遠に続くのではという錯覚さえ覚えるその攻防。

何百何千と積み重ねてきた黒歴史が、両者の心に風穴を開け始めた頃……その瞬間は訪れた。

ガクンッ……

花陽「……!」

淀みなく、一定のリズムで踊り続けていた花陽の足が、初めて止まった。

絵里「ふっ!」

絵里がその隙を見逃すはずもなく、容赦のない一撃が花陽をとらえ――

花陽「がっ……!」

轟音とともに花陽は壁に叩きつけられた。

85名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:52:06 ID:UKYbIIWQ
花陽(しまった、コメコメパラダイスが…解けた……!!)

度重なる精神攻撃により、能力発動中は眠っているはずの花陽の理性が、強制的に目覚めさせられてしまったのだ。

ザッ…

花陽「!!」

絵里「随分耐えたわね、花陽。見込み通り、あなたの心の強さは相当のものだったわ」

絵里「でもね花陽……この結果は必然。いかにあなたの心が頑強であろうと、私に勝てる道理はなかったのよ」

花陽「な、なにを……」グググ…

絵里「分からないかしら? なら教えてあげるわ」

絵里「あなたの黒歴史力を10とすれば――」

絵里「私は100よ」ドンッ!!

花陽「!!」

花陽「……???」

絵里「ふふ……」ドヤァ

86名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:52:35 ID:UKYbIIWQ
花陽の十倍の黒歴史(トラウマ)。

ダンサーインザダークの性質上、痛々しい過去の数の多さはデメリットでしかないが、予めそれを承知の上であれば……?

膨大な黒歴史を正面から受け止める覚悟を決めたものの意志の強さ。

花陽には伝わらなかったが、『覚悟を決めていたかどうか』が両者の勝敗を分けた……と絵里は言いたかったらしい。

絵里「あなたとの勝負、楽しかったわ花陽。でも、これでお終いね」

花陽(くっ……言ってることは理解できないけど…まずい! なんとか逃げてもう一度コメコメパラダイスを…!)

ビキッ……!

花陽(っっっ!!……ぐっ…! もう、反動が……!!)

己の肉体に潜在能力の限界を超えた力を与えるコメコメパラダイス。

発動終了後には、力の代償とも言うべき絶大な反動が襲いかかる。

能力が解除されたあと、三日は筋肉痛でまともに動けなくなってしまうのだ。

絵里「……」スッ

花陽(……ここまでか)

花陽(ひとめぼれ、ササニシキ、コシヒカリ……みんな、ごめんね……)

花陽が心の中で米(恋人達)に別れを告げた時――

87名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:52:52 ID:UKYbIIWQ
ズギャッ!!

絵里「ぐっ……!」

花陽「!? え……」

流星と見紛う迫力の跳び蹴りが、絵里を襲った。


「かよちんに手出すつもりなら容赦しないよ、絵里ちゃん」


絵里「へぇ…」

絵里「楽しませてくれそうじゃない、凛」

花陽「り、凛ちゃん…!」

凛「…」ニコッ

88名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:53:13 ID:UKYbIIWQ
凛「かよちんかよちんかよちーん!!」スリスリスリスリ

花陽「ぴゃああああああ!? り、凛ちゃーん!?」

凛「にゃぁぁあああ…やっぱりかよちんのほっぺたはさいこうにゃ…」ウットリ

花陽「り、凛ちゃん…なんで私を助けてくれたの…?」

凛「何当たり前のこと言ってるの! かよちんは凛の--」

ズバンッ!

凛が言い終わる前、絵里の蹴りが凛に放たれた。

絵里「私がいるのを忘れてもらっちゃ困るわね」

凛「…絵里ちゃんもせっかちだにゃ」

しっかりと蹴りをガードしていた凛は、にやりと笑い--

凛「にゃっっっ!!」

右足の上段蹴りを見舞う。

絵里「ととっ…!」

かろうじて凛の蹴りをかわし、絵里は一旦距離をとった。

89名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:53:38 ID:UKYbIIWQ
花陽「凛ちゃん!」

凛「かよちん、ここは凛に任せて」

花陽「でも……」

凛「かよちんは凛の最高の親友だもん。助けることに理由はいらないにゃ」

花陽「凛ちゃん…」

絵里「やれやれ。ここで花陽を助けても、勝負がつくまではいずれ花陽とも戦わないといけないって分かってるの?」

凛「その時はその時にゃー」ケロッ

凛「今は、大好きなかよちんを守る。それだけだよ」

絵里「……そう」

絵里「どちらにせよ、私のやることは変わらないわね。邪魔をするなら――倒すだけよ」


『ありふれた悲しみの果て(ダンサーインザダーク)』――発動!!




凛「!」

90名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:53:58 ID:UKYbIIWQ
糞餓鬼1『あーーーwwwスカートだぁーーーwww』

糞餓鬼2『いっつもズボンなのにーーーwww』

糞餓鬼3『スカート持ってたんだーーーwww』

ロリ凛『……っ』



凛(! この記憶は……)

絵里(あなたは耐えられるかしら? 自分のトラウマに!)

凛「……」

タンッ…ヒュッ!

絵里「!?」バッ

凛「ちぇっ、外したにゃ」

91名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:54:20 ID:UKYbIIWQ
絵里(バカな…何の躊躇も動揺もなく攻撃してきた…!? ダンサーインザダークの影響を全く受けていない…!)

凛「絵里ちゃん。その能力、凛には効かないよ」

凛「凛は自分の過去(トラウマ)を、とっくに克服してる」

絵里「!!」

二期五話において、凛は自分のコンプレックスを完全に解消した。

それは凛の心を一回りも二回りも大きく成長させた。絵里の能力によって掘り起こされる過去など何のダメージにもなりえないほどに、大きく、強く。

絵里「なるほどね」

凛の心に動揺が生まれない以上、ダンサーインザダークの過去を呼び起こす力は、絵里にとってマイナスにしかならない。

しかし、花陽との心の削り合いを経て、絵里の心もまた成長していた。

92名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:54:41 ID:UKYbIIWQ
絵里『必殺のピンクポンポン! 絢瀬絵里よ!』


凛『学校のきょ(中略)』


絵里(KISS風)『理事長! ふざけていたわけではないんです!!』



絵里「……」

先ほどまでの絵里なら心を乱していたであろう過去の愚行も、今では僅かな動揺も絵里にもたらさない。

絵里(となれば--)

タッ……!

絵里「真っ向勝負よ、凛!」

凛「望むところにゃ!」

ズガガガガガガガガガガガガガガッ!!

93名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:55:08 ID:UKYbIIWQ
花陽(す、すごい……!)

二人の戦いは花陽を驚愕させた。

互いの攻撃を紙一重で交わしながら、反撃の機会も決して見落とさない。

念能力者として、自分とあの二人にはここまでの差があるのかと打ちのめされたのだった。

だが絵里の驚愕は花陽以上だった。

絵里(なに……これ…まるで……)

絵里の戦闘スタイルは、バレエのステップをベースに独自のアレンジを加えた動きで攪乱し、主に足技で相手を殲滅する。

その変則的な動きを捉えることは困難を極める――はずだった。

凛「……」ニッ

絵里(まるで--私自身と戦っているかのような……!)

海未の『肢曲』を再現して見せたように、『天衣無縫の型(凛ちゃんスタイル)』は絵里の動きをもいとも容易くトレースしたのだった。

凛「はっ!」バキッ!

絵里「……!」ギシギシ…!

絵里(完璧にガードしてもダメージが…! くっ…恐らく凛は強化系、当然といえば当然か…)

戦闘スタイルが全く同じならば、地力の強い方が勝者となる。

絵里は具現化系、そして凛は強化系である。

全系統の中で、攻守のバランスが最も良い強化系に軍配が上がるのは、至極当然のことであった。

94名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:55:25 ID:UKYbIIWQ
ガッ! ドギャッ! ゴッ! バキンッ!


絵里「……っっっ!!」

徐々に、徐々に絵里の足が前進を止め、後方へと押し戻される。

勝負がつくのはもうあと僅かだと、花陽も、凛も確信していた。


絵里「……」ニィッ…


絵里の、不敵な笑みを目にするまでは。

凛「?」ピタッ

凛は思わず攻撃の手を止めた。


絵里「予想以上よ、凛。ここまでやるとは思わなかった。…出し惜しみは出来なさそうね」

凛(出し惜しみ…?)

絵里「それから…花陽に感謝しなくちゃいけないわね」

花陽「え…?」

絵里「あなたとの心の勝負に打ち勝ったおかげで、私は次の舞台(ステージ)に進めたのよ」

95名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:55:46 ID:UKYbIIWQ
戦いを通して促された心の成長、それはすなわち――


絵里「こんなに早く使うことになるとは思わなかったけど……」ズァァァァァァッ…!

凛(! このオーラ…さっきまでとはまるで違うにゃ……!)



『冷戦時代(エリーチカタイム)』、発動……!



――念能力の成長をも意味する。



絵里「さて……」



絵里「ここからが本番よ……凛」



凛「……っ!」ゾクゾク…!

96名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:56:53 ID:UKYbIIWQ
ズガッズバンッドギャッ…!



海未「……」

絵里と凛が死闘を繰り広げている中、海未は気配を消し戦いの様子を観察していた。

海未(あの二人がここまでの使い手とは…私でさえ真っ向勝負で勝てるかどうか……)

海未(花陽はどういうわけか動けないようですが…)

海未(さて、どうしたものでしょうか)

海未(先ほどの様子をみるに、凛は花陽への愛情があふれ出したようですし…下手に花陽を狙おうものなら、凛の牙は私に向くでしょう。そうなれば--)

ズキンッ!

海未(ッ……! 手負いのまま再び凛の相手をすることになりますね…)

凛と絵里の戦いに集中している海未、さらに凛との戦いで負ったダメージもある。

コソッ…

穂乃果「……」

海未が背後から忍び寄る者に気がつかないのも、至極当然のことであった。

97名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:57:13 ID:UKYbIIWQ
穂乃果(悪く思わないでね、海未ちゃん)

穂乃果(どんな手を使っても…勝負は勝負だよっ!)グッ

『絶』を用いて海未の背後をとった穂乃果は、固めた拳を振り下ろした。


スカッ


穂乃果「ありゃ?」

穂乃果の拳は空を切り、同時に海未の姿が消えた。

バキッ!

穂乃果「うっ!!…とっとと…!」

ザッ……!

海未「相変わらず下手な『絶』ですね、穂乃果」

穂乃果(あ、あっちゃぁ〜……)

海未「基本の四大行すらマスターしていない状態で私に挑むなど無謀がすぎますよ」

穂乃果(『絶』はどうも苦手なんだよねぇ…)ハァ…

穂乃果(――でも)

穂乃果「海未ちゃんこそ、私に気づくのが随分遅れたね」

海未「…」ピクッ

98名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:57:36 ID:UKYbIIWQ
穂乃果「それに今の攻撃、海未ちゃんにしてはやさしすぎるんじゃない?」フフッ

海未「…言ってくれますね。防御をし損じた者の言葉とは思えません」

穂乃果「むむ…」

穂乃果(…効いたからなぁ、花陽ちゃんのパンチ)ズキンッ

海未「凛の次は穂乃果、ですか」

海未「いいでしょう。手負い同士やり合うのも…悪くありません」スッ…

海未「――『練』」

キィィィィィィ……!


穂乃果(!! やっぱり凄い……! 針で突き刺されているような研磨されたオーラ…!)

穂乃果(それでも勝たせてもらうよ、海未ちゃん)


穂乃果(パンのために…!)ヨダレダラリ


穂乃果「…いくよっ!」ダッ


穂乃果(頼むよ、私の――『天運(ドリームセンセーション)』…!)

99名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:57:57 ID:UKYbIIWQ
――


希「くっ……うぅ……!」

にこ「希! いきなりどうしたのよ!?」

凛が花陽への愛を抑えきれなかったように、海未の『愛と欲望と憎しみの矢(ラブアローシュート)』の影響による感情の爆発が、希の身にも降りかかっていた。

ただ、凛とは異なり希が爆発させつつある感情は--欲望だった。

希「……!!!」

希(この気持ちは……これは…)

希(懐かしいような……さびしいような…?)


ズズズズッ……!

希のオーラが渦巻き、少しずつ何かを形作っていく。

希(そうや…この気持ちは……)

カッ……!


ノ○タン「……?」チョコン

ことり(白い……猫?)

希(…また、会えたんやね)

希(また一緒に…遊んでくれるんやね)ニコッ

ノ○タン「……」ニッ

100名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:58:15 ID:UKYbIIWQ
――


希母「それじゃあ希、お留守番よろしくね」

ロリ希「……」プイッ

希母「……あ、そうだわ! 希、もうすぐ誕生日じゃない! 何か欲しいもの--」

ロリ希「……何もいらない」

希母「希……」

ロリ希「私…お母さんとお父さんと、一緒にいたい」

希母「……ごめんね、希。ごめんね」ギュッ

ロリ希「……」グスッ

101名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:58:36 ID:UKYbIIWQ
ロリ希(なんで私は、独りぼっちなんだろう)

ロリ希(友達ができても、すぐにお引っ越し)

ロリ希(仲の良かった友達からの手紙も、いつの間にか届かなくなってる)

ロリ希(お母さんもお父さんも、全然家にいなくて)

ロリ希(私とずっと一緒にいてくれるのは、絵本の中の友達だけ)

ロリ希(この子が話せたり、動けたらいいのになぁ)

ロリ希(そうなればもう、寂しくなんかないのにな)

ロリ希「……あ」ピコンッ


そうだ


ロリ希「作っちゃえばいいんだ」


そういう 能力(チカラ)にすればいい


ズズズズズズズズズ……

102名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:58:54 ID:UKYbIIWQ
東條希は特質系の能力者である。

『水晶の言葉(フォーチュンテラー)』はタロットを用いて近い未来を見通す能力である……が、希は元々は特質系の能力者ではなかった。

幼少の頃から何度も経験した両親の転勤、引っ越し、環境の変化。

それらの経験は希の心に大きな影響を及ぼし、後天的に希は特質系の能力者へと変わった。

寂しさの中で、幼少の希が無意識の内に作り出し、成長するにつれ無意識の内に封じ込めた能力がある。



その名も――『天上天下唯我独尊(カシコミ)』。



希が幼少期に親しんだ絵本の中のキャラクター(ノ○タン)を具現化させる能力。

奇しくも海未はその能力を呼び覚ます補助の役割を果たしたのだった。

103名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:59:17 ID:UKYbIIWQ
にこ「希…あんたね、他に能力持ってたならちゃんと言いなさいよ」

希「あはは、ウチも忘れてたんよ。もう何年も前のことやから。μ'sに入ってからは寂しさなんて感じる暇もなかったし」

にこ「?? どういうこと?」

希「まぁまぁ、今はいいやん」

希「それより真姫ちゃんの能力をどうやって攻略するか考えないと」

ことり「……」ジーッ

ノ○タン「?」キョトン

ことり(か、可愛い……連れて帰りたいよぉ)ズズズズズ…

にこ(!? ことりから禍々しいオーラが…!)





真姫(……具現化系の能力ね。隠してた…ってわけでもなさそうだけど、何故今になって--)

真姫(ま、いいか。何にせよ私のやることは変わらないわ)

患者「まきちゃん」

患者「まきちゃん」

患者「まきちゃん」

ワラワラワラワラワラワラワラ……

真姫「…」チラッ

メトロノーム「マキチャン」カチッカチッカチッカチッ

真姫(時間まで耐えて、あの三人を『入院』させる…ただそれだけね)

104名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 19:59:44 ID:UKYbIIWQ
にこ「…気味悪いわねあれ」

希「見たとこ、真姫ちゃんに近づかなければ攻撃してくることもないみたいやね」

にこ「でも真姫に触れないかぎりこの空間からは出られない…厄介だわ」

にこ「患者一体一体のパワーは私たちを遙かに凌駕してる、どうしたもんかしらね」

希「さっきまでなら八方塞がりやったけど、今はこの子がいるで、にこっち」

ノ○タン「…」サムズアップ

ことり(か、かわいいッ、いいッ、この子すごくいいよッ)ゾクゾクゾクッ

にこ(ことりがやばい)

にこ「ふ…ふ〜ん、ただの猫じゃないってわけね?」

希「ふっふっふ、ノ○タンを侮るなかれ」

希「真姫ちゃんはことりちゃん対策で耳栓してるし、じっくり話し合いが出来るやんな。二人とも、耳貸して」



ゴニョゴニョゴニョゴニョ…

105名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 20:00:02 ID:UKYbIIWQ
数分の後、三人は真姫を見据えた。

希・にこ・ことり「……」ザッ

その目には確かな光が宿り、先ほどまでの焦りや不安は消え失せている。

真姫(へえ、まだここから出るのを諦めてなさそうね)

真姫「作戦会議は終わったのかしら?」

希「うん、待たせたね真姫ちゃん」

にこ「ここから出させてもらうわよ、真姫」

真姫(何言ってるか聞こえないけど、自信満々ね)

真姫(とりあえず、警戒すべきは――)チラッ

希「さあ、頼むでノ○タン!」

ノ○タン「……」タンッ

希の声に従い、白猫は身軽な動きで走り出した。

さながらダンスを踊るかのようなステップで真姫との距離を詰める。

患者「! まきちゃん」ザッ

当然それを阻むため、患者が立ちふさがる。

106名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 20:00:24 ID:UKYbIIWQ
患者「まきちゃん」

ボッ…!

その容赦ない攻撃が白猫を襲う。

ノ○タン「……」

ドゴッ!!

白猫はなす術なく吹き飛ばされ、地面にたたきつけられた。

真姫「?」

真姫(何か仕掛けがあるのかと思ったら……何もない?)

具現化系の能力には具現化された物体に特殊な能力が付加されていることが多く、この白猫もそうであろうと真姫は考えていた。

そして、その考えは――正しかった。

患者「ま き ちゃ ん」

真姫(!? これは……)

患者「ま  き  ちゃ  ん」フラフラ

真姫(白猫を殴った患者の動きが……遅くなった!?)

107名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 20:01:02 ID:UKYbIIWQ
希「真姫ちゃんは丁寧に能力の解説してくれたから、ウチも教えてあげる」

真姫「……」

ノ○タン「……」ムクッ

希「この子には直接的な攻撃力は一切なし、その代わりどんな攻撃も受け付けない。無害ゆえに無敵ってわけや」

希「ただ…一緒に遊んでくれる人の時間の感覚を狂わせる、それだけの能力」

真姫「……」

希「そうや。時間を忘れて遊べるように、日がくれたことに気づかないくらいに、いつまでも、いつまでも遊べるように…ね」

患者「ま ま ま」ガクガク

にこ(あの白猫にとっては『触れること』も『遊んでくれた』に含まれるわけね…)

希「患者っていっても、元は真姫ちゃんのファンの人達やん? 人としての感覚が生きてる以上、この能力からは逃れられないで」

希「はい、以上で能力の解説終わり〜」ニヤニヤ

真姫(耳栓してるから何も聞こえないけど、バカにされたらしいことは伝わってくるわね…)ムカッ

ノ○タン「……」タッ

患者「まきちゃん」ドガッ

ノ○タン「……」ニッ

患者「ま……ま?」フラフラ

真姫(どうやらあの白猫を攻撃すると患者の動きが遅くなるみたいね)

真姫(このままだと、まともに動ける患者がいなくなる…!)

108名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 20:01:20 ID:UKYbIIWQ
希(読み通り、患者の操作は遠隔操作(リモート)でなく自動操作(オート)で行われているみたいやね)

希(つまり、真姫ちゃんの意志で患者の動きを止めることはできない!)

にこ「いい感じね…よし、打ち合わせ通りいくわよ、ことり!」

ことり「は〜い」

真姫(くっ……能力の解除をさせるわけにはいかない! 私がこの戦いで生き残るには、ここでこの三人を倒すのが絶対条件…!)

ことり(『禁断症状(スピカテリブル)』を使わずにここから出られるなら、それに越したことはないよね)

ことり(ここは素直に協力してあげようかなっ♪)



『脳内麻薬(チュンチュントリッパー)』――発動!




真姫(……? なに、これ…?)

ことり「操作能力はおまけみたいなものでね、チュンチュントリッパーはこっちが本命なんだ」

真姫(目が……ことりから離せない…!?)

109名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 20:01:48 ID:UKYbIIWQ
ことりの能力(チュンチュントリッパー)はオーラを相手を魅了するフェロモンに変える能力。

声に乗せて飛ばすこともできるが、そのままでも十分に効果を発揮する。

否、むしろ飛ばさずに使うのが本来の使い方であった。

ことり「ふふふ」チュンチュン

真姫(な、なんなのこの胸のときめきは……///)チョロローン

変化系能力者であることりにとって操作能力は相性が悪く、本人が言ったとおり『おまけ』にすぎない。

本来この能力は、(主に海未に対する)お願いや、(主に海未に対する)交渉、さらには相手の(主に海未に対する)戦意喪失を狙うものなのだ。

その効果は相手がチョロければチョロいほど大きく、μ's随一のチョロさを誇る真姫がこの力に対抗できる道理など当然なかった。

真姫(くううううっ……///)チョロロローン

ことり(さて、ちゃんと役目は果たしたよ、二人とも。あとはよろしくね)

真姫「!!」

真姫(しまった…ことりに気を取られている間に――!)

110名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 20:02:06 ID:UKYbIIWQ
患者「まきちゃん」

患者「まきちゃん」

患者「まきちゃん」



ワラワラワラワラ……



真姫(希とにこちゃんを、見失った!)

真姫(気配を絶って、患者の中に紛れたわね……!)ギリッ



『秘密の診察室』内、ことのぞにこまきの攻防――戦況は、逆転しつつあった。

111名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 20:02:58 ID:UKYbIIWQ
――



絵里「フー……」

ズズズズズ……

花陽(バレエの衣装が消えて…その代わりに、オーラが何かを形作ってる…!)

凛(成長した絵里ちゃんの能力も具現化系か……次は何が来る…!?)

絵里「凛。私はね、自分の過去を乗り越えるということはつまり、自分の過去を客観視できるようになるということだと思うの」

絵里「この能力はまさにその結果。私の過去(冷戦時代)を客観視できるようになったことで生まれた力よ」

ズォォォォ…!

渦巻き続けていたオーラがやがてその動きを止め、絵里が作り出したモノの正体が明らかになった。

見る者の目を奪う鮮やかな金髪に、澄み渡った青空を思わせる碧眼、メリハリのあるハラショーなスタイル――

凛「これは……!」



エリチカ「チカ」



凛(絵里ちゃん!?)

112名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 20:03:16 ID:UKYbIIWQ
トッ……!

凛「!!」

凛が驚きを飲み込む間もなく、絵里『達』の姿が消えた。

ガガガガガガッ……!


花陽(!! 速い……!)


戦いを見守る花陽が驚くのも無理はない。

絵里が作り出した己の分身は、絵里本人と全く変わらないスピードで凛を追いつめていたのだから。


凛(……っっ!! 絵里ちゃんの分身(ダブル)…! 本物の絵里ちゃんと何の遜色もないにゃ…!)

凛(しかも具現化して作り出された以上、どんな仕掛けがあるか分かったものじゃない……迂闊に触れる訳にはいかない…!)


凛の読みは正しく、その対応もまた正しい。

しかし、今の状況は絵里が二人に増えたことと同義であり――

113名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 20:03:44 ID:UKYbIIWQ
絵里「はぁぁぁぁっ!!」

凛「くっ……!」バッ

エリチカ「がら空きチカ!」タンッ

凛(!! しまっ……!)

絵里の分身に触れずに追撃をいなし続けることは、不可能だった。


バキッ……!


凛「ぐっ……!?」

花陽「凛ちゃん!」


凛(一撃の重さも、本物並か……!)

絵里「あら」


絵里「触れちゃったわね、凛」ニヤッ


エリチカ「残念チカ」


ドクンッ…


凛(!?)


絵里達が笑みを浮かべたのと同時、凛の頭の中に恐ろしい映像が浮かび上がった。

114名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 20:04:09 ID:UKYbIIWQ
凛『はぁ〜、美味しかったにゃー』

花陽『ふふ、凛ちゃん。ほっぺにニラがついてるよ?』

凛『え!?』

花陽『ほら、ここ』フキフキ

凛『うぅ、恥ずかしいにゃ…でもありがとかよちん!』

花陽『えへへ、どういたしまして。凛ちゃん、今度は皆も誘って行こうね』

凛『かよちん、ナイスアイディアにゃ! うー、テンション上がるにゃ!』ダッ

花陽『凛ちゃん、急に走るとあぶな――』

キキィィィィィィィィィィ……!

凛『……え?』

花陽『凛ちゃんっ!!』



ドンッ……!!


ドサッ…



凛『え……?』

凛『……かよちん?』

凛『……かよちんっ!!!』

115名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 20:04:34 ID:UKYbIIWQ
凛「う……あ……ぁ……」ガタガタ

花陽「り、凛ちゃん!?」


絵里「黒歴史(トラウマ)を客観視して生み出されたのが私の分身。要するに――」

絵里「こっちの私(エリチカ)は、私から切り離された黒歴史そのものよ」


エリチカ「迂闊に触れると、ヤケドするチカ」ドヤッ


絵里「触れればどうなるか、想像はつくでしょう?…って、聞こえてないかしらね」

凛「っ……はぁ…は、あ……っ…ぁ……」ブルブル

花陽(凛ちゃん……!)

116名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 20:04:54 ID:UKYbIIWQ
『ありふれた悲しみの果て(ダンサーインザダーク)』が成長して生まれた絵里の能力、『冷戦時代(エリーチカタイム)』。


自身の分身(ダブル)を具現化する能力だが、オーラで出来ていることと、口が半開きなこと以外は本物と遜色はない。


更に、触れた者に本人にとっての最大級のトラウマを『植え付ける』。


成長する以前の能力がトラウマを『掘り起こす』能力だったことから、まさに延長線上に位置する能力と言えよう。


賢(かしこさ)と愚(ポンコツ)の同居。


それが、絵里がありふれた悲しみの果てにたどり着いた解答(能力)だった。

117名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 20:05:16 ID:UKYbIIWQ
絵里「講釈はこの辺にして、続きといきましょうか」ザッ

凛「はぁ……はぁ……くっ…!」ズッ…!


シュゥゥゥ…


凛「……!?」

凛(オーラが…練れない!?)


念は心の状態に応じて精度が大きく変わる。

今の凛の精神状態では、まともに念が使えないのも至極当然だった。

そして、その好機をみすみす逃す絵里ではない。


絵里「…」ザッ

エリチカ「いくチカ……必殺技!」ザッ


凛を挟み込むように分身と向かい合う絵里。

両の掌には今までとは比にならないほどのオーラが込められている。

しかし絶対的優勢にありながら、絵里の心の中にはある危惧があった。

絵里(……私の動きを完全にトレースしてみせた凛の潜在能力、これ以上戦いが長引けば、凛の牙はーー)



―――

――



118名無しさん@転載は禁止:2017/09/27(水) 20:05:42 ID:UKYbIIWQ
絵里『何故です! 生徒会も廃校を阻止するために活動させてください!』

理事長『それは駄目よ』

絵里『……分かりました』

絵里『だったら…力ずくで…!』ズォッ…!

理事長『絢瀬さん、二度言わせないで』



理事長『そ れ は 駄 目 よ』ズ……



絵里『!?』

絵里『…わ…分かりました』

理事長『そう。いい子ね』ニコッ

絵里(……今のオーラ……)ゾクッ…



―――

――




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