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善子「Black Sheep」
1
:
名無しさん@転載は禁止
:2017/05/10(水) 01:37:40 ID:JFf8Mvsk
ああ、この手の人間か。
最初に思ったのはこんなことだった。
運動ができて勉強ができて、人付き合いも上手で友達もたくさん。
いわゆる典型的なリア充というやつで、それは私とは正反対の人種だった。
どうせ私のようなインドアで社交性のない人間とは馬が合わないのだろう。
そして得てして私のような人間はこのタイプの人間を嫌悪する。
こういう人のありかたが人間のあるべき姿だとわかっているし、この人自身とてもいい人だと思う。
でもだからこそ自分の人間としての不完全さが浮き彫りにされているような気分にもなった。
私みたいな社会に適合できない人間モドキとは住む世界が違うのだ。
だから私は、この人とはある程度仲良くはなれても、深い友好関係を築くことはないだろうと思った。
しかしこの人のそれは度を越していた。
708
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/06/19(火) 04:04:12 ID:GV1TsbFs
バッドエンドは終わったにしても何をもってノーマルエンドとするのか期待
709
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/06/19(火) 04:24:18 ID:3B6X1eFU
乙です
710
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/06/21(木) 12:40:32 ID:hbFNN/sQ
待ってた
711
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/06/30(土) 11:34:15 ID:GiiZzUWA
続き来てた!
千歌がどう答えるのかめっちゃ気になるな…
712
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/02(月) 04:26:56 ID:pLefcOAY
善子「……」
二人を見つけられたのは全く偶然。
少しだけ期待はしていたけど、本当に出くわすとは思わなかった。
咄嗟に隠れて二人の会話に耳を傾ける。
いけないことだとわかっていても、止められなかった。
梨子「千歌ちゃんのおかげで、諦めてたピアノをまた始められた」
梨子「ううん、それどころか以前よりももっと前に進めた。自分でも驚いてる」
梨子「私一人じゃ絶対ここまでこれなかった。千歌ちゃんの言葉がなかったら私、もうとっくに終わってた」
梨子「全部、全部ちかちゃんのおかげだよ」
千歌「……」
梨子「……もう一度言うね」
梨子「千歌ちゃん、大好きだよ」
713
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/02(月) 04:27:14 ID:pLefcOAY
前と同じ言葉。
あの時私は耐えきれずに逃げた。だからあの後にどんな会話があったのか詳しくは知らない。
けどこうしてまた告白をしているということは、まだ返事をしていないのだろう。
正直、今も怖い。今すぐにでもみっともなくこの場から逃げだしたい。
でも、それでも千歌さんの答えを知りたいと思った。
ここまできたら、逃げるなんて選択肢はなかった。
714
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/02(月) 04:27:35 ID:pLefcOAY
千歌「梨子ちゃん……」
梨子「……」
千歌「ありがとう。梨子ちゃんの気持ち、すごく嬉しい」
善子「……っ」
千歌「普通でなんにもない私でも、梨子ちゃんの力になれるなんて思ってなかった。だから本当に嬉しいよ」
梨子「千歌ちゃん……」
千歌「……でもごめん。梨子ちゃんの気持ちには答えられない」
善子「……!」
梨子「……そっか」
715
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/02(月) 04:27:50 ID:pLefcOAY
梨子「理由を聞かせてくれる?」
千歌「……私ね、普通なの」
梨子「え……」
千歌「何をやっても普通で、輝くことなんてできない。そんな、何も出来ない人間」
梨子「……」
千歌「いつか、何か大きなことができるんじゃないかって、根拠もないまま期待して、気づいたら高2になってた」
千歌「私はこのまま、何も成し遂げないまま高校を出て、なんとなくで大学に通って、就職して……普通の人生を過ごすんだろうなって思った」
千歌「でもスクールアイドルに出会って、梨子ちゃんに出会って……私の人生は劇的に変わった」
千歌「普通を抜けだして、輝けるって。本気で頑張れることを見つけて、ここまできた」
716
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/02(月) 04:28:08 ID:pLefcOAY
千歌「……あのね、梨子ちゃんと会えたこと、本当にうれしく思ってる」
千歌「私と同じで何かに悩んでて、前に進む方法がわからなくて」
千歌「梨子ちゃんがピアノと向き合おうって頑張ってるのを見てたら、私も一緒に頑張ろうって思える」
千歌「梨子ちゃんが隣にいると一緒に成長できている気がして、不思議だけど勇気をもらえる」
千歌「そんな梨子ちゃんと出会えたのは運命だって、奇跡だって思う」
717
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/02(月) 04:28:21 ID:pLefcOAY
千歌「でも、でもね。私考えたんだ。私が本当に大事にしていたものってなんなのかって」
梨子「……それは?」
千歌「私のずっと近くにあったもの。だけど、蔑ろにしてきたもの」
千歌「考えてみると、私の夢はそこから始まったんだって思ったの」
千歌「みんなと一緒に輝きたい。私はスクールアイドルでそれを叶えようと思った」
千歌「でも私のその夢の始まりは、もっと前……ずっと昔だった」
梨子「……」
千歌「何もない普通の私のそばに、ずっといようとしてくれた人」
718
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/02(月) 04:28:37 ID:pLefcOAY
千歌「私はその子と違って何も出来なかった。だからその子のすごいところをずっと見てるだけだった」
千歌「いろんな人に囲まれて、いつも笑顔で、どんなこともできちゃう、私のそばにいるにはもったいないくらいの子」
千歌「私はその子とずっと一緒で、大好きで、そんな姿を誇らしいと思ってて……」
千歌「それと同時に、ああはなれないんだろうなってあきらめて、一人で勝手に壁を作ってた」
千歌「その子はね、ずっと私をいろんなことに誘ってくれた。遊びだったり趣味だったり部活だったり」
千歌「私はきっとそのどれも上手くできないから、本気になれないからその子をがっかりさせちゃうって思って、ずっと断ってきた」
千歌「……それがその子を傷つけるってわかってて、そばに居続けた」
719
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/02(月) 04:28:51 ID:pLefcOAY
千歌「その子はいつも『仕方無いね』って優しく笑ってくれて、私はそれに甘え続けて……ずっと傷つけて」
千歌「そんな私と、それでも一緒になにかをやりたいって言ってくれた。一緒にスクールアイドルやるって言ってくれた」
千歌「何一つ返せなかったのに、傷つけ続けたのに、私の夢を一緒に追いかけてくれるって言ってくれた」
千歌「何もないって思ってた私でも、この子にできることがあるとするなら、今を一緒に、全力で駆け抜けること」
千歌「私の夢はきっと、その子と輝きたいって願いから始まったんだ」
千歌「みんなと輝くこと。それが私の夢。だけど……」
千歌「一番最初に、一緒に輝きたいって思ったのは、その子なんだ」
720
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/02(月) 04:29:05 ID:pLefcOAY
千歌「……だから、ごめんなさい。私はその子の隣にいたいって思うから、梨子ちゃんの隣にはいられない」
梨子「……そっか」
千歌さんが言い終えると、二人はしばらく無言だった。
どういう顔をしていたのかは私の場所からはよく見えなかった。
千歌さんの言葉を聞いて、私は呆然としていた。
驚いた、嬉しい、悲しい。
いろんな気持ちがあったけれど、一番は千歌さんの想いに感動したから。
強く曜さんを想う気持ちが、私には眩しいと思った。今までの千歌さんとはあまりにも違って言葉が出なかった。
721
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/02(月) 04:29:22 ID:pLefcOAY
梨子「……あぁーあ! フラれちゃった!」
千歌「り、梨子ちゃん?」
梨子「残念だけど、千歌ちゃんがそう言うならしかたないね」
梨子「もう、その子には告白したの?」
千歌「えっと、実はまだなんだ……」
梨子「じゃあ、もしかしたら千歌ちゃんがフラれる可能性もあるわけだ」
千歌「うぅ、そう、なのかな……」
梨子「そうなったら、私にもチャンスがあるってことだよね?」
千歌「え、えぇ!?」
梨子「なんて、冗談。ごめんね、いじわるしたくなっちゃった。でもフったんだからこれくらい許してね?」
千歌「あはは、私は何も言えないよ……」
722
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/02(月) 04:29:37 ID:pLefcOAY
梨子「まぁ、私は千歌ちゃんには本当に感謝してる。それが伝えられたなら、いいかな」
千歌「……うん」
梨子「今度は千歌ちゃんが、夢を叶えてね」
千歌「……うん!」
梨子「じゃ、私はもう少しここにいるから、千歌ちゃんは先に戻っててくれる?」
千歌「え、でも……」
梨子「傷心なんだから、ちょっと一人になりたいの。それくらいいいでしょ?」
千歌「……わかった。先に戻ってるからね」
梨子「……千歌ちゃん」
千歌「ん?」
梨子「……がんばってね」
千歌「……うん。ありがとう梨子ちゃん」
723
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/02(月) 04:29:53 ID:pLefcOAY
千歌さんが家に戻るのを見て、私はいまだに動けないでいた。
目の前で起こった出来事をどう受け止めればいいかわからなかった。
呆然とただ立ち尽くしてどれくらい経ったのか、私の意識を引き戻したのは
梨子「善子ちゃん? そんなところで何してるの?」
梨子さんの言葉だった。
梨子「ふふ、奇遇だね? こんなところで、こんな時間に」
善子「……」
724
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/02(月) 04:30:17 ID:pLefcOAY
お待たせしました、今回はここまで
いつも読んでくれてる方々ありがとうございます
725
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/02(月) 04:43:03 ID:1aKog8.w
乙です
726
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/02(月) 07:41:59 ID:y5268qSI
乙
みんないい子なのに辛いな、幸せになってもらいたい
727
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/02(月) 13:51:59 ID:sU9Dk55g
http://pr4.work/g/kiyo
728
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/02(月) 21:07:53 ID:P9CU90dw
待ってたよ!
729
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/03(火) 01:42:33 ID:bVWZqnXA
乙
良かったというべきか
730
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/10(火) 07:57:10 ID:WaaDhi/Y
幸せなのに切ない……
731
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/14(土) 03:55:42 ID:rxnP88zg
善子「梨子さん……」
梨子「やっぱり今の、見てた?」
善子「…………」
梨子「ああごめんね。別に責めるつもりはないの。ただ、恥ずかしいところ見られちゃったなって」
善子「そんなこと……」
梨子「あのさ、善子ちゃん……」
梨子「ちょっと傷心で寂しいから、一緒にいてくれる? 一人だと心細くて……」
梨子「……死んじゃいそうだからさ」
善子「……はい」
それから私は梨子さんと並んで防波堤に座って、朝焼けの海を眺めていた。
薄青い空間はいつの間にかオレンジの日に照らされて、そして朝を迎える。
どこか透明な空気の中、波の音だけを聞いていた。
私も梨子さんも、一言も話さなかった。
732
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/14(土) 03:56:00 ID:rxnP88zg
――数日後
曜「善子ちゃん!」
善子「曜さん? どうしたの?」
曜「その、報告したいことがあって」
善子「報告?」
曜「え、えっとね、その、私……」
善子「……落ち着いて曜さん。ちゃんと聞いてますから」
曜「う、うん。ごめん。あのね善子ちゃん、私……」
曜「千歌ちゃんと、お付き合いすることになったんだ」
733
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/14(土) 03:57:14 ID:rxnP88zg
善子「……そう、なんですね」
曜「うん。善子ちゃんにはたくさんお世話になったから、一番に伝えたくて」
曜「善子ちゃんのおかげだよ。いつも支えてくれて、元気づけてくれて……」
善子「いいえ。曜さんはずっとがんばってきたんだから。それが報われただけ」
曜「……あのね、善子ちゃんがいなかったら、私はずっと何も言えないままで」
曜「ずっと千歌ちゃんとわかり合えないままだったかもしれない」
曜「もしそうなったら私、取り返しのつかないことをしたかもしれない」
曜「だから善子ちゃん、ありがとう」
734
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/14(土) 03:57:31 ID:rxnP88zg
――
「善子ちゃん」
善子「……梨子さん」
梨子「さっき千歌ちゃんから聞いたの。曜ちゃんとお付き合いすることになったって」
善子「私も……曜さんから同じことを聞きました」
梨子「そっか。善子ちゃんもか」
善子「私もちょっとだけ焚き付けた側だから」
梨子「うん。千歌ちゃんも言ってたよ」
善子「千歌さんが?」
梨子「善子ちゃんに言われて、ずっと悩んでた大事なことの答えが出せたって」
善子「……」
梨子「それが曜ちゃんとのことだったみたいだけど……」
735
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/14(土) 03:57:44 ID:rxnP88zg
梨子「……こんなこと考えても仕方ないんだけどさ」
梨子「もしかしたら、善子ちゃんが何も言わなければ、千歌ちゃんは私の隣に来てくれたのかな?」
善子「……」
梨子「私が東京に行かないで千歌ちゃんのそばにいて、曜ちゃんの付け入る隙もないくらい千歌ちゃんを求めたら……」
梨子「千歌ちゃんと恋人同士になれたのかな……?」
善子「梨子さん……」
梨子「……なんて、冗談だよ。変なこと言ってごめんね」
736
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/14(土) 03:58:04 ID:rxnP88zg
梨子「私の千歌ちゃんへの想いと、曜ちゃんの千歌ちゃんへの想い。そして、千歌ちゃん自身の想い……」
梨子「単純に私が負けちゃっただけ、なんだよね」
……力なく笑う梨子さんに、かける言葉がなかった。
梨子さんが選ばれなかった理由。
私が千歌さんを焚き付けたこと。それは間違いなく原因の一つだ。
梨子さんの言う通り、私があの日千歌さんに何も言わなければ結果は違っていたかもしれない。
軽はずみな気持ちで言ったわけじゃない。
曜さんに悲しい顔をしてほしくなかった。
幸せになってほしかった。
だから私はああしたんだと思う。
私自身がどうなろうと構わないって、決めたから。
737
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/14(土) 03:58:24 ID:rxnP88zg
梨子「……善子ちゃんは」
善子「?」
梨子「善子ちゃんはこういう経験、ある?」
こういう経験、とは……
失恋という意味だろうか
梨子さんは今まさに失恋をしたばかり。
想い人に気持ちを伝えて、そのうえで断られた。
私は、どうだろう。
……。
738
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/14(土) 03:58:48 ID:rxnP88zg
善子「失恋なんて、とうてい言えない」
善子「もっと弱くて惨めで、土俵に上がってもいない」
善子「何も伝えられなくて……失恋すら、できなかった」
梨子「……そっか。まあ、どっちが偉いとかないけどね。私も善子ちゃんも結果は同じだし」
梨子「善子ちゃんも善子ちゃんで頑張ってたこともあるだろうし、本当にそれぞれだよ」
善子「……」
梨子「ねえ善子ちゃん。改めて聞きたいんだけど……」
梨子「善子ちゃんは曜ちゃんのこと、好き?」
739
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/14(土) 03:59:31 ID:rxnP88zg
お待たせしました。今回分です。
ノーマル√はおそらく次で最後になります。
読んでくださってる方々ありがとうございます。
740
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/14(土) 08:52:47 ID:BE8zISnw
善子ちゃんと梨子ちゃんの心境が心にグサグサくる……
ふたりとも良い子過ぎて辛い……
741
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/14(土) 13:19:53 ID:cDN6x2tk
ノーマルってなんだっけ……?ってレベルで切なすぎてつらい……
742
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/15(日) 02:53:02 ID:itBpi.pw
乙
743
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/15(日) 02:56:07 ID:PA7SHG/A
http://nazr.in/11y6
744
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/07/27(金) 23:50:34 ID:lLhKWdGQ
ノーマルという名のビターエンドだね…
結末が気になるところだ
745
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/21(火) 01:47:48 ID:uEIohNPw
気長に待つか
746
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/26(日) 10:24:20 ID:.LQc7MCA
まだかな…?
747
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/28(火) 07:55:39 ID:6VIjKqdY
大変お待たせして申し訳ありません
明日、明後日の夜には投稿できるよう調整しております
次の更新でノーマル√完結予定です
748
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/28(火) 08:39:13 ID:7mYbRMo6
待ってた
749
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/28(火) 12:23:35 ID:FBHI.fQ2
正座待機
750
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/29(水) 04:46:22 ID:RQRBOq1I
ゆっくり待ってるよ
751
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 05:25:34 ID:bsHOfXsw
善子「はい、好きです」
善子「笑った顔が好き。かっこいいところが好き。何でもできるところが好き。明るいところが好き。優しいところが好き」
善子「実は弱くて臆病なところが好き。泣き虫なところが好き。なんでも一人で抱え込んじゃうところも好き」
善子「全部私のものにしたいくらい、大好きで……」
善子「心の底から、愛していました」
梨子「……素敵だね」
梨子「私も、そうだったんだ……千歌ちゃんを、本当に愛してたよ」
752
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 05:26:36 ID:bsHOfXsw
――
梨子「善子ちゃんさ、これで良かったって思ってる?」
善子「え……」
梨子「なんとなくわかるんだ。善子ちゃんの考えてること。同族だからかな?」
善子「どうかしら。よくわかりません」
善子「最初は、あの人が笑ってくれれば、幸せになってくれればよかった」
善子「ううん。それは今でも同じ。だけど……」
善子「…………」
梨子「……辛いね、善子ちゃん」
梨子「好きな人の幸せが、自分の幸せだったら良かったけど……」
梨子「そううまくはいかないね」
善子「……本当に良かったはずなの。私はずっと、こうなることを望んでた。そのために頑張ってきた」
善子「私は、私の願いを叶えた。だからこれでいいはずなの」
善子「それでも、悲しいのは……」
善子「……ああ、そっか」
梨子「善子ちゃん?」
善子「ねえ梨子さん」
善子「私の初恋……曜さんへの初恋、終わっちゃった……」
753
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 05:27:02 ID:bsHOfXsw
梨子「……うん、私も。残念だけどね」
善子「梨子さんは、悲しくないの?」
梨子「もちろん悲しいよ? 今も一人になったら泣いちゃいそうなくらい」
善子「……」
梨子「でもね善子ちゃん。私って曜ちゃんのことも大切な友達だって思ってるから」
梨子「ちゃんと、祝福できるよ」
――
梨子「じゃあ私はここで。また明日ね善子ちゃん」
善子「ええ。さよなら」
梨子「……あのさ、たまにこうして二人でお話したりしない?」
梨子「善子ちゃんとは立場が同じだから、いろいろわかってくれると思うし」
梨子「……私もわかってあげられると思う」
善子「……ええ。ぜひ」
梨子「ふふっ。ありがとね」
754
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 05:28:54 ID:bsHOfXsw
――
私と話している間、梨子さんは笑顔を崩さなかった。
でも私はその心の内を推し測ることは出来なかった。
私も梨子さんも同じように失恋をしたけれど、同じ心の傷を負ったとは限らない。
いや、私は曜さんに失恋した反面、曜さんを幸せにするという望みを叶えられた。
けど梨子さんはただ失恋をしただけ。
私などでは理解できない傷を負っているのだろうと思う。
梨子さんと会話して、少しだけ理解することは出来た。
でも少しだけだ。
私や梨子さんのこの気持ちは、これからどこへ行くのだろう。どこへ行けばいいのだろう。
答えなんか出るはずもなく、私の心はどこかぽっかり穴の開いてしまったような、そんな気持ちになった。
755
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 05:29:12 ID:bsHOfXsw
――数日後、屋上
善子「……」
今日はAqoursの練習は休み。
地区予選の準備が思った以上に順調。メンバーのやる気もかなり高まっている。この勢いのまま練習を重ねていこう。
とみんな思っていたけれど…
ダイヤ「オーバーワークはいけません。勢いとやる気にまかせて無茶をしすぎると怪我にもつながってしまいますわ」
とのことで、落ち着いた時間をとろうとのことだった。
確かに私自身もその通りで、やる気ももちろんあるけれどそれ以上に他のことを考えたくなかったからAqoursの活動にうちこんでいた。
だからこういうふうに時間が空いてしまうと余計なことばかり考えてしまう。
一人でいると、なおさら。
それでもこうしてなにもないはずの屋上に来ているのは、どうしてだろう。
……いいや、むしろ何もない方がいいから。誰もいない方がいいからなのかもしれない。
一人だと思い悩むくせに、誰かがいても煩わしいと思う。
この気持ちに出口はなかった。
756
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 05:29:28 ID:bsHOfXsw
ルビィ「善子ちゃん」
善子「……ルビィ」
気が付くと、後ろにルビィがいた。
放課後、すぐに教室からいなくなった私を心配してきてくれたのだろうか。
それとももっと前から、私の気持ちを読み取っていたのだろうか。
……優しい子だ。
ルビィ「あのね、善子ちゃん、その……」
善子「……心配してくれてるの? 大丈夫よ」
ルビィ「善子ちゃん、でも……」
善子「ルビィ、私、今本当にうれしいの」
善子「曜さんが本当に幸せそうで……あんなに心から嬉しそうにしてる曜さんなんて初めて見た」
善子「だから、私も……すごく、幸せなの」
善子「すごく、すごく……」グスッ
善子「本当よ、本当なの」グスッ
善子「本当の、本当に、幸せ、なの」
善子「幸せ……なんだから……!」ポロポロ
757
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 05:29:45 ID:bsHOfXsw
ルビィ「……善子ちゃん」ギュ
ルビィ「ルビィね、善子ちゃんが頑張ってきたこと知ってるよ」
ルビィ「今までたくさん、辛い思いして、我慢して、戦ってきたこと、ちゃんと知ってる」
ルビィ「だからね、だからね、善子ちゃんは本当に立派で」
ルビィ「素敵な、人間だよ」ポロポロ
善子「……なによ、なんでアンタが泣いてるのよ」
善子「アンタが……泣くことなんて、ないでしょ……」ポロポロ
ルビィ「だって、だってぇ……善子ちゃんがつらいの、わかるから」ポロポロ
ルビィ「ルビィは……ルビィだけは、わかるんだから……!」ポロポロ
ルビィ「一緒に、泣かせてよ……」
善子「バカね……本当にバカよアンタは」
善子「でも、ありがとね……」グスッ
ルビィ「善子ちゃん、つらかったね」
ルビィ「頑張ったね……!」
善子「う、うぅ……うぁぁぁぁぁ……!」
758
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 05:30:08 ID:bsHOfXsw
――
ルビィ「えへへ、ごめんね善子ちゃん。ルビィまで泣いちゃって……」
善子「ううん、こっちこそ。ありがとう」
ルビィ「善子ちゃんのしたこと、間違ってないよ」
ルビィ「つらい選択だったと思うけど……ルビィはとっても誇らしいよ」
善子「……」
ルビィ「……これからも、つらいだろうけど」
善子「うん。もう大丈夫」
善子「……とは言えないかもしれないけど、頑張る」
善子「だって、曜さんが笑ってくれたんだもの」
ルビィ「……」
善子「幸せになって、くれたんだもの」
759
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 05:30:23 ID:bsHOfXsw
ルビィ「……うん。きっと、善子ちゃんのおかげだよ」
ルビィ「曜さんも千歌さんも、善子ちゃんに感謝してる」
善子「……ええ。そうだと、いいわね」
ルビィ「ね、そろそろ帰ろうよ。今日は沼津にでも遊びに行かない? 花丸ちゃんも行きたいって言ってるんだ」
善子「……うん。行きましょうか」
ルビィ「えへへ! じゃあ早く教室まで戻ろうよ! 花丸ちゃんも待ってるよ!」タタタ
善子「ええ……」
ルビィは楽しそうに駆けだした。
人の気持ちを理解し過ぎて同調してしまう子だ。
さっきも泣いていたように、今もつらいのだと思う。
それでも、私を気遣ってくれているのだろう。
こんな私を心配してくれている。
……。
760
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 05:30:38 ID:bsHOfXsw
善子「あ……」
ふと屋上から校門を眺めると、千歌さんと曜さんが歩いているのを見つけた。
千歌「〜〜〜〜〜」
曜「〜〜〜〜〜!」
善子「……」
二人とも、とても幸せそうだった。
今まで二人が楽しそうに話しているのは何度も見てきた。
でも、今は違う。もっと、楽しいよりももっと満ち足りている顔で。
ああいうのを、幸せと呼ぶのだろう。
あんなに生き生きと、輝かしい目をした曜さんなんて初めて見た。
私では曜さんを、あんなふうに笑わせてあげることなんかできなかっただろう。
きっと千歌さんでなければいけなかった。曜さんを救えるのは、千歌さんだけ。
……私は、その手助けをしただけ。
それだけだ。
私にできたのは、それだけだ。
だから、これでいいんだ。
私は正しいことをしたんだ。
761
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 05:30:54 ID:bsHOfXsw
善子「うっ……ぐすっ……あぁ……」
悲しいことなんてなにもない。
悲しいなんてあるわけない。
でも……
……。
…………ああ。
ああ、ああ、ああ!!!
曜さん! 曜さん曜さん!!! 曜さん!!!
大好き! 大好きでした! あなたを愛していました!!!
叶うなら、あなたの隣を歩いて……
あなたを支えたかった!
春に、出会いと別れの不安の中を一緒に踏みだしたかった。
夏に、茹だるような暑さの中を連れまわしてほしかった。
秋の冷たい風の中、身を寄せて「寒いね」なんて二人で笑って歩いて。
冬に、冷たくなったあなたの手を包んであげたかった。
762
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 05:31:08 ID:bsHOfXsw
願っていました。
あなたとの幸せな未来を、願っていました。
でも、そうか。
もう、終わるんだ。
あなたに恋をした夢の時間が、もう終わろうとしている。
だけど、どうしてだろう。
とても悲しくて、でもとても暖かい。
……きっと、思い出があったから。
とても優しい思い出があったから。
私は、曜さんに救われた。
どうしようもない、救いようのない人間モドキの私を、人間にしてくれた。
嬉しかった。
私でも、まっとうな人間になれるんだって思えた。
私でも、幸せに生きられるんだって、教えてくれた。
763
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 05:31:25 ID:bsHOfXsw
それは、初恋の夢。
この手に触れようとした瞬間に消えてしまった。
けれど、胸には確かに残っていた。
あの時もらった優しさが。
暖かさが。
私を救ってくれた笑顔が。
まだ私を、照らしてくれていた。
善子「……うん」
歩ける。
だって私は教えてもらったから。
私の生き方を教えてもらったから。
大切なものを見つけるうれしさ。
それを失う悲しさ。
そして、幸せを追いかける大変さ。
曜さんからもらったものぜんぶ。
これは私の宝物だ。
ぜんぶ抱えて生きていくんだ。
764
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 05:31:39 ID:bsHOfXsw
善子「大丈夫」
歩こう。
私にはまだ行くことのできる道がある。
進もう。
嬉しいことも悲しいことも全部抱えて。
きっとそれが、生きるということ。
私はまだ、歩きはじめたばかりだ。
765
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 05:31:53 ID:bsHOfXsw
――
ルビィ「あっ、善子ちゃん来たよ!」
花丸「遅いずら! ルビィちゃんが呼びに行ったっていうのに何してたの?」
善子「ごめんね、ちょっと……」
花丸「ちょっと?」
善子「ううん。なんでもない。行きましょ」
花丸「……そっか」
ルビィ「じゃあ早く行こう! 遊ぶ時間なくなっちゃうよ!」
善子「ちょ、ちょっとルビィ! 引っ張らないでよ!」
花丸「あぁ! 二人ともまってよ〜!」
ルビィ「えへへ……!」
善子「……!」
花丸「置いてかないでほしいずら〜!」
ルビィ「急いで花丸ちゃん! バス来ちゃうよ!」
善子「早く行くわよ!」
花丸「も〜!」
善子「……ふふ」
766
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 05:32:08 ID:bsHOfXsw
曜さん。
おめでとうございます。
あなたが幸せで、私も幸せです。
あなたに恋をして本当に良かった。
幸せな夢を見られて本当に良かった。
全部あなたにもらったもの。
大切な友達。尊敬できる先輩。
スクールアイドル。
私の生きる意味。まっとうな人生。
でも、それだけじゃきっとダメで。
これからは、曜さんがくれたものにしがみついているだけじゃダメなんだ。
私、がんばります。
曜さんがくれたものが間違いじゃないって、証明するために。
767
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 05:32:49 ID:bsHOfXsw
ねぇ、曜さん。
私も。
私もきっとあなたのように幸せになります。
だから、いつかその時が来たら。
あなたのとびきりの笑顔で、祝福してください。
ノーマル√ おわり
768
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 05:37:13 ID:bsHOfXsw
お待たせしてすみません、ノーマル√ラストです
不完全燃焼な感じでアレですが一応これで完結ということで
次はハッピーエンド√に続きます
769
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 08:16:39 ID:T3SbuJaI
おつ
ハッピールートも待ってる
770
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 08:35:53 ID:0e9oY08M
おつ
ハッピーエンド楽しみ
771
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 20:25:10 ID:ZPcvJWNM
乙です
ハッピーエンド√も楽しみに待っております
772
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/30(木) 20:31:19 ID:tR1ZJ5BA
不完全どころかトゥルー感すらあるのだが。
773
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/08/31(金) 06:38:22 ID:RGp1IVx2
おつ
善子はもちろん、祝福できるって言い切った梨子も良い子だな
ハッピーエンドも楽しみにしてる
774
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/09/01(土) 19:37:55 ID:ZQeaQaZs
乙、ノーマル√はビター風味なエンドだったね
バッドエンド√でも思ったけどこの善子とルビィの関係性好きだわ
ハッピーエンド√も待ってます
775
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/09/05(水) 01:54:19 ID:Y37VIjyo
乙
曜が分裂でもしないとハッピーエンドにならなそうだけどどうなるのかな
776
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/09/22(土) 20:05:55 ID:gWrDMf7o
ここまで来ると全員に幸せになってもらいたいものだ
777
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/10/18(木) 20:35:29 ID:2/JGha12
そろそろ続きを……
778
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/10/21(日) 02:01:11 ID:Q2IbOsdw
待ってるぜ
779
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/09(金) 05:19:44 ID:5Qwzc.2Y
大変お待たせして申し訳ありません
今週中に再開します
780
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/09(金) 07:41:54 ID:unXh9qBA
待ってた
781
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/09(金) 08:30:48 ID:s/V94egc
正座待機
782
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/11(日) 15:35:26 ID:V98tAuiQ
待ってました
期待
783
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 04:32:06 ID:U9sxIV4A
大変お待たせしました
ハッピーエンド√になります
>>417
からの分岐ですが、更新が空き過ぎてしまいましたので
最初の数レスは既存の文章を修正して再掲しております
784
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 04:32:27 ID:U9sxIV4A
――善子の家
善子「ただいま……」
善子母「あらおかえり。今日は早いのね」
善子「晩ごはん、今日はいらない」
善子母「……そう。食べたくなったら言ってね?」
善子「……うん。ありがとう」
――善子の部屋
善子「……」ドサッ
善子「う……うぅ……」グスッ
善子「どうして……どうして……」
785
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 04:32:48 ID:U9sxIV4A
どうして、こうなってしまったんだろう。
私はただ、曜さんに幸せになってほしかっただけだった。
本当にそれだけだった。
だって曜さんは、私を人間にしてくれた。
人間になれない、どうしようもなく救いようのない人間モドキの私でも、真っ当に生きられるんだって教えてくれた。
あの人のためならどんなことだってしようって思えた。
「でも、あなたは何もしなかったわ」
真っ暗な私だけの空間。声のする方に振り向くと、私がいた。
私とおんなじ顔をした、不気味な笑みを浮かべる私がいた。
善子?「曜さんを助けたいと思いながら。曜さんを幸せにしたいと思いながら。曜さんを守りたいと思いながら」
善子?「結局あなたは何もしなかった」
786
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 04:33:09 ID:U9sxIV4A
善子「ち、違う! 私は……」
善子?「違わないわ。日に日に傷ついて弱っていく曜さんを見て、あなたはただどうにかなるように願っていただけ」
善子?「曜さんからもらうだけもらって、何も返さないままじゃない」
善子「違う私は、本当に……」
善子?「誰かを幸せにできると思った?」
善子「あ……あぁ……」
善子?「たくさんたくさん傷つけてきた。壊してきた。ダメだって思いながら、抗えなかった」
善子?「そして、それで構わないって思った」
善子「違う!!!」
善子?「大好きなものが、大好きな人が壊れていくのがたまらなく好きだった。どうなっていくのか見たくてしょうがなかった」
善子「黙れ!!!」
善子?「私一人だけが、楽しかった!」
善子「黙れ!!!!!!」
善子?「本当は、曜さんが傷ついて壊れていくのを見るのが楽しかったんじゃないの?」
善子「黙れ!!! 殺すぞ!!!」
目の前の私の髪を掴んで、思い切り地面に叩きつけた。
何度も何度も叩きつけた。加減なんて一切しなかった。本気で壊そうとしたから。
久しくこんなことはしていなかった。する必要なんてなかったし、そうしようなんて思いもしなかったから。
だから、久しぶりの何かを壊す感触に、私は、ワタシハ……
787
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 04:33:34 ID:U9sxIV4A
……いつからだろうか。
幼い頃。それこそまだ花丸と一緒に幼稚園に通っていた頃。
私は自分が、本当の天使だと思った。
お母さんが私を天使みたいだって言ったから。
みんなが笑顔をくれて、私の周りにいる人はみんな幸せだったから。
みんな私をたくさん愛してくれたから。
だから私もみんなを愛した。
「、私本当は天使なの!」
みんなを愛してみんなに愛される。そんな私は本物の天使なんだと疑わなかった。
788
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 04:34:09 ID:U9sxIV4A
「そうじゃないって気づいたのは、いつだったかな」
また背後から声がした。振り向くと幼い姿の、幼稚園の頃の私がいた。
よしこ「私、みんなをたくさん愛したよ」
よしこ「みんなのことが大好きで、喜んでもらえることはなんでもやった」
よしこ「みんな笑ってて、幸せそうで……」
よしこ「でも突然、それら全てを壊してみたくなった」
よしこ「いま愛してくれるみんなを、例えば思いっきり嫌いになってみたらどうなるんだろう」
よしこ「傷つけて傷つけて、思いきり壊してみたらどうなるんだろう」
よしこ「思い始めたら止まらなくて」
よしこ「一度壊してみたら、とてもとても気持ちよくて」
よしこ「私、本当は、壊すために愛していたのかなって……」
789
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 04:34:34 ID:U9sxIV4A
よしこ「ねえ、今もそうなの?」
善子「違う! 違う! 私はもうあの頃の私じゃない!」
善子「今度こそ、今度こそ誰も壊さずに、誰も不幸にしないで、みんなを愛して、みんなに愛されるって決めた……」
善子「そう決めた! だから、だから……」
善子?「だから私を押しのけて、あなたが生まれた」
善子「っ……!」
頭を掴んで地面に叩きつけたままだった私が、おもむろに顔を上げて不気味に睨み、そして立ち上がる。
その眼差しにすくんだ私は、よろよろと後ずさった。
よしこ「ねえわたし。覚えてる?」
よしこ「わたしたち、大好きな人たちをたくさん傷つけてきたね」
よしこ「わたし、みんながだいすきだったよね」
よしこ「……ようさんが、だいすきなんだよね」
790
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 04:34:46 ID:U9sxIV4A
善子?「……愛されたかった?」
善子「……愛され、たかった」
善子?「おこがましいのね。醜い人間モドキのくせに」
善子「……そう、ね」
よしこ「わたしたち、どこで間違えちゃったのかな……」
よしこ「……それとも、最初から間違いだったのかな」
善子「……わからない」
善子?「わからないまま、みんなを壊して……それで」
善子「なにを、してたのかしらね……はは」
791
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 04:35:09 ID:U9sxIV4A
よしこ「……ねえ」
よしこ「これから、どうしたい?」
善子「……?」
よしこ「もう、今度こそわたしは幸せにはなれないよ」
善子?「曜さんが壊れてしまったからね」
善子「……」
よしこ「なにが、できるかな?」
善子?「何を望むのかしら」
善子「私は……」
私はこの学校で曜さんに出会った。
最初は相容れないと思った。私とは正反対の、不幸なことなんか何もなくて、毎日が幸せな人なんだと思った。
でも違った。曜さんは私が考えているような順風満帆な人なんかじゃなくて、必死であがいて、努力していて。
だから、素晴らしくて。
文字通り完璧な人だった。誰よりも人間らしくて美しい。誰もが羨み憧れ心を寄せる、太陽のように眩しい人。
私のような人間モドキがあの人と一緒にいられるなんて奇跡みたいだった。
本当に幸せだった。何もかも輝いて見えた。
こんな私でも、真っ当に生きられるんじゃないかって、この人のそばでならそれができるって思えた。
792
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 04:35:39 ID:U9sxIV4A
でも救えなかった。
私は何も出来なかった。
失ってしまった。
もうあの人が私に笑いかけてくれることはないだろう。
だから、今までのことを思いだしていた。
――善子ちゃん
名前を呼んでくれるだけで心が弾んだ。
――善子ちゃん!
一緒にいるだけで胸が高鳴った
――善子ちゃん!!
お話するだけでドキドキが止まらなかった。
――善子ちゃん!!!
その笑顔だけで、私は救われた。
793
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 04:35:52 ID:U9sxIV4A
善子「曜さん……」
私のすきなひと。わたしの、たいせつなひと。
善子「……」
また笑ってほしかった。愛されたかった。
今の私に、できること……
794
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 04:36:16 ID:U9sxIV4A
善子?「壊してしまいましょう」
善子「……え?」
善子?「壊しちゃうの。Aqoursを、みんなを、ぜーんぶ壊しちゃうのよ!」
善子?「だって、Aqoursなんてものがあるから曜さんは壊れてしまった」
善子?「Aqoursが……千歌さんと梨子さんがいるかぎり曜さんは苦しみ続ける」
善子?「そんなの許せないでしょ? あの二人だけが幸せで、曜さんは不幸なままなんて」
善子?「ね、そう思わない?」
よしこ「……それで、いいかな?」
善子「……」
Aqoursを壊す。千歌さんと梨子さんを、壊す。
簡単だ。ちょっと心を攻撃すれば、優しいあの人たちはすぐに壊れる。
Aqoursの中心であるあの二人が壊れれば、当然Aqoursもなくなる。
曜さんを苦しめた原因。Aqoursの活動。千歌さんと梨子さん。
それがなくなれば、どれだけ気持ちのいいことだろうか。
そうすればもう、曜さんは苦しまなくていい。
いいじゃないか。最高だ。
曜さんを壊した報いを受けさせてやろう。
私ならできる。たやすいことだ。
795
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 04:36:55 ID:U9sxIV4A
でも……
じゃあ、そうすれば、曜さんは笑ってくれるだろうか。
また、私の名前を呼んでくれるだろうか。
優しくて素敵な笑顔で、明るくて元気な声で「善子ちゃん」って。
――善子ちゃん
善子「……」
……違う、そうじゃない。
誰も傷つけないって決めた。
真っ当な人間になるって決めた。
もし私がそんなふうに全部壊してしまったら、きっと曜さんは悲しむ。
自分のせいだって、自分がみんなを傷つけたんだって思い込んで自分を傷つける。
そうしたら今度は私が曜さんを壊してしまう。
善子「……そうじゃない」
善子?「……?」
善子「私は、私たちはもうそんなことしない。今度こそ誰も傷つけないで、誰かのために頑張るって決めた」
よしこ 「……」
善子? 「へえ? どうやって」
善子 「……わからない」
善子?「はあ?」
796
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 04:37:22 ID:U9sxIV4A
善子「わからない、けど、がんばるの」
善子?「何言ってるの。今までさんざんそうやって耐えようとして、それでも誰かを傷つけずにいられなかったくせに!」
善子?「今だって、憎くて壊したくてたまらないくせに!」
善子「……そうね、きっと私、根っこの部分は何も変わってない。いくら取り繕っても拭おうとしても、絶対になくならない」
善子?「そうよ! 私たちはそうやって生きるしかない! そういうふうにできている!」
善子?「どうしようもないの、決まっているの! だから……!」
善子「でも……」
797
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 04:37:37 ID:U9sxIV4A
善子「もう、それを言い訳にしたりしない。たとえどこかで失敗しても、そこから目を背けない。自分がしたことを忘れない」
善子?「だから! そんなことやったって最後には全部壊れちゃうの! どうしようもないのよ!」
善子「大丈夫。どうしようもないって思っても、きっとみんなが助けてくれる」
善子?「何を根拠に! Aqoursだって曜さんだって、きっと最後には私を排斥する! なんでそう言い切れるの!」
善子「だって、そう、信じてる」
善子?「な……」
よしこ「……!」
善子「きっとみんなが、曜さんが、また私を助けてくれる。私をAqoursに誘ってくれた時みたいに。そんな気がするわ」
善子?「……根拠もなにもない、ただの妄想じゃない! 世界はそんなに優しくない!」
善子?「そんな、そんな世界……」
よしこ 「そんな世界は、いや?」
善子?「そんな、そんな世界だったら……」
善子?「どれだけ、よかったか……」
798
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 04:37:50 ID:U9sxIV4A
善子「以前の私とはもう違う。本当に大切に思える、思ってくれる仲間がいる」
善子「今度こそうまくいく。私はみんなを信じたい」
よしこ「……いいんじゃないかな」
善子?「ちょっと……!」
よしこ「わたしがそう決めたなら、そうしようよ。がんばってみよう」
善子?「……後悔するわ。絶対に」
よしこ「そうかもね……でも、大好きな人だから。初めての気持ちだから。そのためにがんばりたい」
よしこ「『わたし』も本当は、そう思うでしょ?」
善子?「……」
よしこ「わたしたちは、曜さんが大好き。このままなんて嫌だよね」
善子「本当は怖い。けど、Aqoursのために、曜さんのために、がんばってみたい」
善子?「なんで、そこまで……そんなに前を向こうと思えるの」
799
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 04:39:16 ID:U9sxIV4A
善子「どうにかできるとしたら、きっと私しかいない」
善子「……それに」
善子?「……」
善子「曜さんのことが、好きだから」
善子「好きな人に愛する人に幸せになってほしい」
善子「私のしたことで曜さんが笑ってくれるなら……」
善子「それは、素敵なことじゃない?」ニコッ
善子?「……!」
よしこ「……」
善子「行ってくるわ」
800
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 04:41:18 ID:U9sxIV4A
大変遅れまして申し訳ありません
上手く時間が取れませんでしたがここからは間が空かないよう心がけます
待っていてくださった方々は本当に申し訳ありません、そしてありがとうございます
たまにレスでケツを蹴り上げてくれればと思います
801
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 07:17:37 ID:heh9j1Gw
待ってたぞ
802
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 21:29:25 ID:7JszDlhc
待ってました
善子ちゃん……頑張れ……!
803
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/12(月) 23:03:27 ID:7mvBct7o
続ききた!
ハッピーエンド√はそこからの分岐なのか…
ここからどうなるのか楽しみだ
804
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/14(水) 00:57:36 ID:dmWLFa76
めっちゃ楽しみにしてる
805
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/11/20(火) 02:39:16 ID:T/L/GnoM
乙
806
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/12/09(日) 16:59:45 ID:2GfYAYZ6
これの更新が楽しみでしたらば覗いてる
807
:
名無しさん@転載は禁止
:2019/01/12(土) 22:07:04 ID:.pK.Vos2
もう1ヶ月か……
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