したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

善子「Black Sheep」

1名無しさん@転載は禁止:2017/05/10(水) 01:37:40 ID:JFf8Mvsk
ああ、この手の人間か。


最初に思ったのはこんなことだった。

運動ができて勉強ができて、人付き合いも上手で友達もたくさん。

いわゆる典型的なリア充というやつで、それは私とは正反対の人種だった。

どうせ私のようなインドアで社交性のない人間とは馬が合わないのだろう。

そして得てして私のような人間はこのタイプの人間を嫌悪する。

こういう人のありかたが人間のあるべき姿だとわかっているし、この人自身とてもいい人だと思う。

でもだからこそ自分の人間としての不完全さが浮き彫りにされているような気分にもなった。

私みたいな社会に適合できない人間モドキとは住む世界が違うのだ。

だから私は、この人とはある程度仲良くはなれても、深い友好関係を築くことはないだろうと思った。

しかしこの人のそれは度を越していた。

673名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 05:10:59 ID:dN/lJ7LU
善子「(翌日の練習、千歌さんと曜さんはいきなり自分たちのパートを見てほしいと言って)」

善子「(私たちの前でいきなり新しい振り付けを披露して、完璧に踊ってみせた)」

善子「(おそらく昨日の夜、千歌さんが曜さんの家に行って、そのまま完成させたんだろう)」

善子「(二人の様子を見ると、千歌さんはうまくやってくれたようだ)」

善子「(曜さんは昨日までと違って以前のような明るい笑顔を見せていて)」

善子「(本当に、出会った頃のような曜さんに戻っていた)」

674名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 05:12:38 ID:dN/lJ7LU
――

曜「善子ちゃん!」

善子「……曜さん」

曜「あの、昨日はごめん」

善子「……」

曜「善子ちゃんは私の、みんなのことを考えて言ってくれたのに、あんなこと……」

善子「……」

曜「だから、ごめんなさい」

善子「千歌さんとは……」

曜「え……」

善子「千歌さんとは、どんな話をしたの?」

675名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 05:12:51 ID:dN/lJ7LU
曜「え、なんで千歌ちゃんがうちに来たって知ってるの……?」

善子「まあまあいいじゃない。それで何をお話したの?」

曜「……別に、大した話はしてないんだ」

曜「千歌ちゃんがいきなり家にきて教えてくれたの。私が気づかなかった、私自身のこと。そして、千歌ちゃんのこと」

曜「それから、私たちだけのダンスを作ろうって言ってくれて」

曜「それで、不思議とあっという間にできあがっちゃってね、それこそ拍子抜けするくらい」

曜「でもそれだけじゃなくて、千歌ちゃんが言ってくれたことが私を助けてくれた」

曜「苦しいことも悲しいことも全部なくなっちゃうくらい……」

676名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 05:13:03 ID:dN/lJ7LU
―回想

千歌「あ、この写真懐かしいね。運動会のときとか。確か曜ちゃんは一位で」

千歌「凄かったなぁ……」

曜「……」

千歌「……曜ちゃんあのね、私、謝りたくて」

曜「……え?」

千歌「話すこと、話さなきゃいけないこと、たくさんある」

曜「千歌ちゃん……」

千歌「私、曜ちゃんのこと何もわかってなくて、傷つけちゃったよね?」

曜「ダンスのこと? それは千歌ちゃんが気にすることじゃ……」

千歌「それもある……けどそれだけじゃないよ」

曜「千歌ちゃん……?」

677名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 05:13:14 ID:dN/lJ7LU
千歌「……東京のイベントから帰って来た日」

曜「!」

千歌「曜ちゃん、私のことたくさん心配してくれたよね。大丈夫?って。悔しくないの?って」

千歌「私、あの時何も言えなかった。曜ちゃんの前で泣けなかった」

千歌「悔しいって、言えなかった」

千歌「曜ちゃんも泣いてなかったから。だから曜ちゃんの前では私も泣かないって思った」

千歌「でも本当は曜ちゃんもつらかったんだよね……?」

千歌「私が悲しくならないように、笑顔で頑張って、慰めようとしてくれたんだよね?」

曜「……」

千歌「だから曜ちゃんには、弱い部分を見せたくなかった。心配させたくなかった」

千歌「でも結局それが曜ちゃんを傷つけた。曜ちゃんの気持ちを踏みにじった」

曜「そ、そんなことないよ!」

678名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 05:13:31 ID:dN/lJ7LU
曜「私だって千歌ちゃんの気持ちを考えないであれこれ余計な心配して、逆に傷つけちゃって」

曜「梨子ちゃんがいなかったら、それこそ取り返しがつかなかったと思うし……」

千歌「でも、曜ちゃんの気持ちを無下にしたのは本当のことだよ」

千歌「私ね、曜ちゃんは何も言わなくてもわかってくれるって、ちゃんと伝わってるって勘違いしてたんだ」

曜「……」

千歌「覚えてる? 私たちずっと一緒だったよね。何をするにも一緒で、いつも二人で並んで……」

千歌「それが当たり前だった。離れることなんか一度もなかった」

千歌「でも、いつからか曜ちゃんはどんどんすごくなって、私は隣にいられなくなって、いつしか後ろから眺めるだけになった」

千歌「一緒にできないことが増えても、曜ちゃんは「仕方ないね」って、優しく笑ってくれた」

千歌「いつか一緒に何かを頑張るんだって、私を信じてくれた」

千歌「それを私は、ずっと裏切ってきた」

千歌「いつか私も曜ちゃんみたいに輝けるんだって、そんな都合のいいことを考えながら曜ちゃんを縛りつけた」

679名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 05:13:47 ID:dN/lJ7LU
千歌「曜ちゃんを悲しませるってわかってたのに。なにも一緒にできないってわかってたのに」

曜「ち、違うよ! 私が勝手に千歌ちゃんのそばにいたいって思っただけ!」

曜「私だって千歌ちゃんを悲しませるってわかってて、千歌ちゃんのそばに居続けた」

千歌「……それは、どうして?」

千歌「曜ちゃんはどうして、そこまでして私のそばにいてくれたの?」

曜「……私は」

曜「私は千歌ちゃんと、一緒のことに夢中になってみたかったから」

千歌「……曜ちゃん」

曜「自分勝手なわがままだってわかってるよ。迷惑だってわかってるよ。でも私は」

680名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 05:14:02 ID:dN/lJ7LU
千歌「ありがとう」

曜「え……」

千歌「私もそうだよ。ずっとそう思ってたの」

千歌「曜ちゃんと一緒に、何かをやり遂げたいって思ってた」

曜「……嘘だ」

千歌「本当だよ」

曜「嘘だ!」

曜「だって千歌ちゃん悲しんでたよ! 私と一緒にいて苦しそうだった!」

曜「運動会で一番を取った時も! 水泳に誘った時も! 私の高飛び込みを見るときも!」

曜「何かで一番を取るたびに、ずっと悲しそうだった!」

曜「千歌ちゃんは、私と一緒なのは嫌なんだって……!」

681名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 05:14:55 ID:dN/lJ7LU
千歌「曜ちゃん」ギュ

曜「……!」

千歌「ごめんね」

曜「え……」

千歌「私が弱かったから。曜ちゃんのことずっと傷つけてきたんだよね」

曜「違う、千歌ちゃんは弱くなんかない」

曜「私が、邪魔者だったから……! 私がいなければ、千歌ちゃんはもっと幸せだった!」

曜「もう私なんていらないでしょ!? みんなが……梨子ちゃんがいるんだから!」

千歌「曜ちゃん!」

曜「……っ」

682名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 05:16:05 ID:dN/lJ7LU
千歌「そんなふうに考えちゃうくらい、苦しかったんだね」

千歌「ごめんね、全然知らなかった」

千歌「昔はさ、言葉なんかなくてもなんでもわかり合えてたのに」

千歌「今は、曜ちゃんが悲しんでることも苦しんでることも、なにもわからなくなっちゃった」

千歌「言葉にしないとわからないことだってたくさんあるのに、私たちは大丈夫って安心して……」

千歌「だから、曜ちゃんはこんなに苦しいんだよね?」

曜「千歌ちゃん……!」

千歌「曜ちゃん、私の気持ち、聞いてくれる……? ちゃんと伝えたいんだ」

曜「……うん」

683名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 05:16:35 ID:dN/lJ7LU
千歌「曜ちゃん」

千歌「たくさん悲しませちゃってごめんなさい」

千歌「辛い思いさせちゃってごめんなさい」

千歌「もう逃げないから。もう間違わないから」

千歌「私は、スクールアイドルで輝くから、曜ちゃんと同じようにヒーローになるから」

千歌「私の輝きを、特等席で見ていてほしい! あの頃みたいに、私の隣で笑っていてほしい!」

千歌「曜ちゃん、私と一緒に、踊ってくれる?」

684名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 05:22:42 ID:dN/lJ7LU
曜「……あはは」

千歌「曜ちゃん?」

曜「私バカだ……バカ曜だ……」グスッ

曜「……うん。千歌ちゃん。私ももう逃げない」

曜「千歌ちゃんと一緒なら、私はなんだって頑張れる」

曜「ううん。千歌ちゃんと一緒に、頑張りたい!」

曜「千歌ちゃんと一緒に、スクールアイドルに夢中になりたい!」

曜「だから千歌ちゃん、私と一緒に踊ってください!」

千歌「うん!」

曜「……ああ、久しぶりに千歌ちゃんの隣にいる気がする」

千歌「もう離れたりしないでね。私も一緒に走るから」

曜「うん!!!」

685名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 05:23:29 ID:dN/lJ7LU
――

曜「私は、もう大丈夫」

曜「千歌ちゃんが私の気持ちをわかってくれたから。千歌ちゃんの気持ちもちゃんとわかったから」

曜「千歌ちゃんのそばにいていいってわかったから。もう悲しくない」

曜「大好きな気持ちだって隠さない!」

曜「すっごく幸せで、なんでもできちゃいそうなんだ!」

善子「……そっか」

曜「……善子ちゃんには、たくさん心配かけて、迷惑もかけちゃったね」

善子「ううん。曜さんが元気になったなら私は良かった」

曜「心細いときも善子ちゃんがいてくれて、本当に助けられた」

曜「いつも私のこと考えてくれて……それだけで私はたくさん救われた」

曜「ありがとう。善子ちゃんに会えて本当に良かった」

686名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 05:24:12 ID:dN/lJ7LU
曜「大好きだよ! 善子ちゃん!」

善子「……!」

曜「これからはちゃんと先輩らしくするから、よろしくね!」

善子「……はい」

――

善子「曜さん、先に帰ってていいですよ」

曜「えー? 一緒に帰ろーよ」

善子「ちょっと用事があって。それに……」

曜「それに?」

善子「大好きは隠さないんでしょ?」

曜「え……! えぇっとぉ///」

善子「今日は私より、一緒にいるべき人がいるはずですから」

曜「う、うん///」

善子「……がんばってね曜さん。応援してる」

曜「……! うん!!!」

687名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 05:25:02 ID:dN/lJ7LU
曜「じゃあまた明日! 練習がんばろうね!」


ガラッ

善子「……」

善子「……はは」

善子「バカね、私ってば」

688名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 05:25:52 ID:dN/lJ7LU
大変遅れましてすみません。
時間がかかっても絶対に完結はさせますので。
いつも読んでくださる方々ありがとうございます。

689名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 08:45:40 ID:F8Lu11hU
乙です
善子ちゃんが善い子すぎて辛いよ…

690名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 15:32:44 ID:mj1OtEwQ

待つ

691名無しさん@転載は禁止:2018/05/19(土) 16:22:19 ID:MNyKbjVI
そうやって今度はお前が寂しいの我慢するんやな……

692名無しさん@転載は禁止:2018/05/20(日) 00:41:15 ID:qDLlXUnc
更新きてた!嬉しい
イッチありがとな

693名無しさん@転載は禁止:2018/05/22(火) 18:00:02 ID:FueVTOq.
善子ォ!と叫びたくなる展開だな…
気長に待ってるぞい

694名無しさん@転載は禁止:2018/05/23(水) 00:05:24 ID:XjapuQEo
バッドエンドより悲しいんだが……

695名無しさん@転載は禁止:2018/05/24(木) 02:53:20 ID:6Kc1V9OQ


696名無しさん@転載は禁止:2018/06/07(木) 21:35:46 ID:gScrE.yw
ドン・ファンの隠しネタ
http://bit.ly/2JVc7to

697名無しさん@転載は禁止:2018/06/12(火) 19:02:01 ID:Bm/EGKgQ
遅れてしまい申し訳ありません
週末には更新したいと思います

698名無しさん@転載は禁止:2018/06/12(火) 20:38:49 ID:sWW9W3xw
正座待機

699名無しさん@転載は禁止:2018/06/18(月) 12:44:54 ID:dAVEwUSY
wkwk

700名無しさん@転載は禁止:2018/06/18(月) 16:12:04 ID:6VEtf0Ho
すみません、深夜に更新します

701名無しさん@転載は禁止:2018/06/19(火) 02:00:13 ID:9vdDAIZM
それから私たちは予備予選を迎え、最大限のパフォーマンスをした。

結果は大好評で予選はトップ通過、大きな反響を呼んだようで 千歌さんと曜さんの試みはうまくいったようだった。

もちろん私も、Aqoursのみんなも全力でやった。二人の努力を無駄にしないため、梨子さんのため、ラブライブのため。

いろいろな理由があったけれど私はやっぱり曜さんのために頑張った。

曜さんの努力を、想いを無駄にしたくなかったから。

なにより、 曜さんが幸せそうだったから。

702名無しさん@転載は禁止:2018/06/19(火) 02:00:32 ID:9vdDAIZM
梨子さんが帰ってくる日はAqours全員で駅まで迎えに行き、みんなで梨子さんを讃えた。


千歌「お帰り梨子ちゃん!」

曜「梨子ちゃん!お疲れ様!」


梨子さんはコンクールを終え、無事に受賞を果たしたそうだ。

Aqoursの予選も梨子さんのコンクールもうまくいって私たちは一安心するとともに、その先の地区予選へむけてますます士気を高めた。

それから千歌さんの家でささやかなお祝いのパーティーをして、その日はそのままお泊まりをした。

703名無しさん@転載は禁止:2018/06/19(火) 02:01:02 ID:9vdDAIZM

――夜

善子「…」


私は相変わらず眠れないままで、余計なことばかりを考えている。

本当にこれでよかったのか。

いいやこれでよかったはずだ。

そんな意味のない自問自答を繰り返して、自分が正しかったのかどうかを一人で考えていた。

それはなんど繰り返しても同じ結論になり、その結論も本当に正しいのかとまた考え直し、そんな堂々巡りが終わらなかった。

そうしたまましばらく経って、やっぱり眠れそうにないので起き上がった。

当然だけどみんな眠っていて、かすかに波の音が聞こえていた。

ただ、ひとつだけ……


善子「(また、千歌さんと梨子さんがいない……)」


以前のように二人だけで……

でも、あの時とは状況が違う。

千歌さんと曜さんはああやってわかり合えて、想いだってちゃんと伝わってるはず。

だから、私が心配するようなことなんてなにもない。

……考えすぎ、だろうか。


善子「……」

704名無しさん@転載は禁止:2018/06/19(火) 02:01:21 ID:9vdDAIZM
――外

善子「はぁ……」


私は以前のように外に出ていた。

どうせあのまま眠るなんてできないし、風にでも当たろうと思った。

ふと、曜さんの言葉を思い出す。

――ありがとう。善子ちゃんに会えて本当に良かった!

――大好きだよ! 善子ちゃん!


善子「……」


そばにいたい。

知りたい。知ってもらいたい。

役に立ちたい。褒められたい。

それだけですべてが満たされるような気がした。

私はそれだけでいいと、本当に思っていた。

曜さんの幸せを手伝うことができれば、それ以上の幸せはないと。

705名無しさん@転載は禁止:2018/06/19(火) 02:01:40 ID:9vdDAIZM
そして私は曜さんの幸せに協力できた。

曜さんへ恩返しをできた。

それで、いいはずなのに……


「梨子ちゃん、やったんだね」

「うん。千歌ちゃんのおかげだよ」



……!

千歌さんと、梨子さんだ。

前と同じ場所……気づいたらここにきていた。

そうか、二人ともここにいたんだ。

そういえばコンクール前にもここへ来ていたっけ。


「それで千歌ちゃん。この前のことなんだけど……」

「……」

「返事、聞かせてくれるかな」

706名無しさん@転載は禁止:2018/06/19(火) 02:02:10 ID:9vdDAIZM
クッソ短くてすみません
今週中にもう一回更新できればと思います

707名無しさん@転載は禁止:2018/06/19(火) 02:53:52 ID:KdxWYKwI

きっとああなるんだと思うけどまだ怖い

708名無しさん@転載は禁止:2018/06/19(火) 04:04:12 ID:GV1TsbFs
バッドエンドは終わったにしても何をもってノーマルエンドとするのか期待

709名無しさん@転載は禁止:2018/06/19(火) 04:24:18 ID:3B6X1eFU
乙です

710名無しさん@転載は禁止:2018/06/21(木) 12:40:32 ID:hbFNN/sQ
待ってた

711名無しさん@転載は禁止:2018/06/30(土) 11:34:15 ID:GiiZzUWA
続き来てた!
千歌がどう答えるのかめっちゃ気になるな…

712名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 04:26:56 ID:pLefcOAY
善子「……」


二人を見つけられたのは全く偶然。

少しだけ期待はしていたけど、本当に出くわすとは思わなかった。

咄嗟に隠れて二人の会話に耳を傾ける。

いけないことだとわかっていても、止められなかった。


梨子「千歌ちゃんのおかげで、諦めてたピアノをまた始められた」

梨子「ううん、それどころか以前よりももっと前に進めた。自分でも驚いてる」

梨子「私一人じゃ絶対ここまでこれなかった。千歌ちゃんの言葉がなかったら私、もうとっくに終わってた」

梨子「全部、全部ちかちゃんのおかげだよ」

千歌「……」

梨子「……もう一度言うね」

梨子「千歌ちゃん、大好きだよ」

713名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 04:27:14 ID:pLefcOAY
前と同じ言葉。

あの時私は耐えきれずに逃げた。だからあの後にどんな会話があったのか詳しくは知らない。

けどこうしてまた告白をしているということは、まだ返事をしていないのだろう。

正直、今も怖い。今すぐにでもみっともなくこの場から逃げだしたい。

でも、それでも千歌さんの答えを知りたいと思った。

ここまできたら、逃げるなんて選択肢はなかった。

714名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 04:27:35 ID:pLefcOAY
千歌「梨子ちゃん……」

梨子「……」

千歌「ありがとう。梨子ちゃんの気持ち、すごく嬉しい」

善子「……っ」

千歌「普通でなんにもない私でも、梨子ちゃんの力になれるなんて思ってなかった。だから本当に嬉しいよ」

梨子「千歌ちゃん……」

千歌「……でもごめん。梨子ちゃんの気持ちには答えられない」

善子「……!」

梨子「……そっか」

715名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 04:27:50 ID:pLefcOAY
梨子「理由を聞かせてくれる?」

千歌「……私ね、普通なの」

梨子「え……」

千歌「何をやっても普通で、輝くことなんてできない。そんな、何も出来ない人間」

梨子「……」

千歌「いつか、何か大きなことができるんじゃないかって、根拠もないまま期待して、気づいたら高2になってた」

千歌「私はこのまま、何も成し遂げないまま高校を出て、なんとなくで大学に通って、就職して……普通の人生を過ごすんだろうなって思った」

千歌「でもスクールアイドルに出会って、梨子ちゃんに出会って……私の人生は劇的に変わった」

千歌「普通を抜けだして、輝けるって。本気で頑張れることを見つけて、ここまできた」

716名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 04:28:08 ID:pLefcOAY
千歌「……あのね、梨子ちゃんと会えたこと、本当にうれしく思ってる」

千歌「私と同じで何かに悩んでて、前に進む方法がわからなくて」

千歌「梨子ちゃんがピアノと向き合おうって頑張ってるのを見てたら、私も一緒に頑張ろうって思える」

千歌「梨子ちゃんが隣にいると一緒に成長できている気がして、不思議だけど勇気をもらえる」

千歌「そんな梨子ちゃんと出会えたのは運命だって、奇跡だって思う」

717名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 04:28:21 ID:pLefcOAY
千歌「でも、でもね。私考えたんだ。私が本当に大事にしていたものってなんなのかって」

梨子「……それは?」

千歌「私のずっと近くにあったもの。だけど、蔑ろにしてきたもの」

千歌「考えてみると、私の夢はそこから始まったんだって思ったの」

千歌「みんなと一緒に輝きたい。私はスクールアイドルでそれを叶えようと思った」

千歌「でも私のその夢の始まりは、もっと前……ずっと昔だった」

梨子「……」

千歌「何もない普通の私のそばに、ずっといようとしてくれた人」

718名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 04:28:37 ID:pLefcOAY
千歌「私はその子と違って何も出来なかった。だからその子のすごいところをずっと見てるだけだった」

千歌「いろんな人に囲まれて、いつも笑顔で、どんなこともできちゃう、私のそばにいるにはもったいないくらいの子」

千歌「私はその子とずっと一緒で、大好きで、そんな姿を誇らしいと思ってて……」

千歌「それと同時に、ああはなれないんだろうなってあきらめて、一人で勝手に壁を作ってた」

千歌「その子はね、ずっと私をいろんなことに誘ってくれた。遊びだったり趣味だったり部活だったり」

千歌「私はきっとそのどれも上手くできないから、本気になれないからその子をがっかりさせちゃうって思って、ずっと断ってきた」

千歌「……それがその子を傷つけるってわかってて、そばに居続けた」

719名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 04:28:51 ID:pLefcOAY
千歌「その子はいつも『仕方無いね』って優しく笑ってくれて、私はそれに甘え続けて……ずっと傷つけて」

千歌「そんな私と、それでも一緒になにかをやりたいって言ってくれた。一緒にスクールアイドルやるって言ってくれた」

千歌「何一つ返せなかったのに、傷つけ続けたのに、私の夢を一緒に追いかけてくれるって言ってくれた」

千歌「何もないって思ってた私でも、この子にできることがあるとするなら、今を一緒に、全力で駆け抜けること」

千歌「私の夢はきっと、その子と輝きたいって願いから始まったんだ」

千歌「みんなと輝くこと。それが私の夢。だけど……」

千歌「一番最初に、一緒に輝きたいって思ったのは、その子なんだ」

720名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 04:29:05 ID:pLefcOAY

千歌「……だから、ごめんなさい。私はその子の隣にいたいって思うから、梨子ちゃんの隣にはいられない」

梨子「……そっか」


千歌さんが言い終えると、二人はしばらく無言だった。

どういう顔をしていたのかは私の場所からはよく見えなかった。

千歌さんの言葉を聞いて、私は呆然としていた。

驚いた、嬉しい、悲しい。

いろんな気持ちがあったけれど、一番は千歌さんの想いに感動したから。

強く曜さんを想う気持ちが、私には眩しいと思った。今までの千歌さんとはあまりにも違って言葉が出なかった。

721名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 04:29:22 ID:pLefcOAY
梨子「……あぁーあ! フラれちゃった!」

千歌「り、梨子ちゃん?」

梨子「残念だけど、千歌ちゃんがそう言うならしかたないね」

梨子「もう、その子には告白したの?」

千歌「えっと、実はまだなんだ……」

梨子「じゃあ、もしかしたら千歌ちゃんがフラれる可能性もあるわけだ」

千歌「うぅ、そう、なのかな……」

梨子「そうなったら、私にもチャンスがあるってことだよね?」

千歌「え、えぇ!?」

梨子「なんて、冗談。ごめんね、いじわるしたくなっちゃった。でもフったんだからこれくらい許してね?」

千歌「あはは、私は何も言えないよ……」

722名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 04:29:37 ID:pLefcOAY
梨子「まぁ、私は千歌ちゃんには本当に感謝してる。それが伝えられたなら、いいかな」

千歌「……うん」

梨子「今度は千歌ちゃんが、夢を叶えてね」

千歌「……うん!」

梨子「じゃ、私はもう少しここにいるから、千歌ちゃんは先に戻っててくれる?」

千歌「え、でも……」

梨子「傷心なんだから、ちょっと一人になりたいの。それくらいいいでしょ?」

千歌「……わかった。先に戻ってるからね」

梨子「……千歌ちゃん」

千歌「ん?」

梨子「……がんばってね」

千歌「……うん。ありがとう梨子ちゃん」

723名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 04:29:53 ID:pLefcOAY
千歌さんが家に戻るのを見て、私はいまだに動けないでいた。

目の前で起こった出来事をどう受け止めればいいかわからなかった。

呆然とただ立ち尽くしてどれくらい経ったのか、私の意識を引き戻したのは


梨子「善子ちゃん? そんなところで何してるの?」


梨子さんの言葉だった。


梨子「ふふ、奇遇だね? こんなところで、こんな時間に」

善子「……」

724名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 04:30:17 ID:pLefcOAY
お待たせしました、今回はここまで
いつも読んでくれてる方々ありがとうございます

725名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 04:43:03 ID:1aKog8.w
乙です

726名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 07:41:59 ID:y5268qSI

みんないい子なのに辛いな、幸せになってもらいたい

727名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 13:51:59 ID:sU9Dk55g
http://pr4.work/g/kiyo

728名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 21:07:53 ID:P9CU90dw
待ってたよ!

729名無しさん@転載は禁止:2018/07/03(火) 01:42:33 ID:bVWZqnXA

良かったというべきか

730名無しさん@転載は禁止:2018/07/10(火) 07:57:10 ID:WaaDhi/Y
幸せなのに切ない……

731名無しさん@転載は禁止:2018/07/14(土) 03:55:42 ID:rxnP88zg

善子「梨子さん……」

梨子「やっぱり今の、見てた?」

善子「…………」

梨子「ああごめんね。別に責めるつもりはないの。ただ、恥ずかしいところ見られちゃったなって」

善子「そんなこと……」

梨子「あのさ、善子ちゃん……」

梨子「ちょっと傷心で寂しいから、一緒にいてくれる? 一人だと心細くて……」

梨子「……死んじゃいそうだからさ」

善子「……はい」


それから私は梨子さんと並んで防波堤に座って、朝焼けの海を眺めていた。

薄青い空間はいつの間にかオレンジの日に照らされて、そして朝を迎える。

どこか透明な空気の中、波の音だけを聞いていた。

私も梨子さんも、一言も話さなかった。

732名無しさん@転載は禁止:2018/07/14(土) 03:56:00 ID:rxnP88zg
――数日後


曜「善子ちゃん!」

善子「曜さん? どうしたの?」

曜「その、報告したいことがあって」

善子「報告?」

曜「え、えっとね、その、私……」

善子「……落ち着いて曜さん。ちゃんと聞いてますから」

曜「う、うん。ごめん。あのね善子ちゃん、私……」


曜「千歌ちゃんと、お付き合いすることになったんだ」

733名無しさん@転載は禁止:2018/07/14(土) 03:57:14 ID:rxnP88zg
善子「……そう、なんですね」

曜「うん。善子ちゃんにはたくさんお世話になったから、一番に伝えたくて」

曜「善子ちゃんのおかげだよ。いつも支えてくれて、元気づけてくれて……」

善子「いいえ。曜さんはずっとがんばってきたんだから。それが報われただけ」

曜「……あのね、善子ちゃんがいなかったら、私はずっと何も言えないままで」

曜「ずっと千歌ちゃんとわかり合えないままだったかもしれない」

曜「もしそうなったら私、取り返しのつかないことをしたかもしれない」

曜「だから善子ちゃん、ありがとう」

734名無しさん@転載は禁止:2018/07/14(土) 03:57:31 ID:rxnP88zg
――


「善子ちゃん」


善子「……梨子さん」

梨子「さっき千歌ちゃんから聞いたの。曜ちゃんとお付き合いすることになったって」

善子「私も……曜さんから同じことを聞きました」

梨子「そっか。善子ちゃんもか」

善子「私もちょっとだけ焚き付けた側だから」

梨子「うん。千歌ちゃんも言ってたよ」

善子「千歌さんが?」

梨子「善子ちゃんに言われて、ずっと悩んでた大事なことの答えが出せたって」

善子「……」

梨子「それが曜ちゃんとのことだったみたいだけど……」

735名無しさん@転載は禁止:2018/07/14(土) 03:57:44 ID:rxnP88zg

梨子「……こんなこと考えても仕方ないんだけどさ」

梨子「もしかしたら、善子ちゃんが何も言わなければ、千歌ちゃんは私の隣に来てくれたのかな?」

善子「……」

梨子「私が東京に行かないで千歌ちゃんのそばにいて、曜ちゃんの付け入る隙もないくらい千歌ちゃんを求めたら……」

梨子「千歌ちゃんと恋人同士になれたのかな……?」

善子「梨子さん……」

梨子「……なんて、冗談だよ。変なこと言ってごめんね」

736名無しさん@転載は禁止:2018/07/14(土) 03:58:04 ID:rxnP88zg
梨子「私の千歌ちゃんへの想いと、曜ちゃんの千歌ちゃんへの想い。そして、千歌ちゃん自身の想い……」

梨子「単純に私が負けちゃっただけ、なんだよね」


……力なく笑う梨子さんに、かける言葉がなかった。

梨子さんが選ばれなかった理由。

私が千歌さんを焚き付けたこと。それは間違いなく原因の一つだ。

梨子さんの言う通り、私があの日千歌さんに何も言わなければ結果は違っていたかもしれない。

軽はずみな気持ちで言ったわけじゃない。

曜さんに悲しい顔をしてほしくなかった。

幸せになってほしかった。

だから私はああしたんだと思う。

私自身がどうなろうと構わないって、決めたから。

737名無しさん@転載は禁止:2018/07/14(土) 03:58:24 ID:rxnP88zg
梨子「……善子ちゃんは」

善子「?」

梨子「善子ちゃんはこういう経験、ある?」


こういう経験、とは……

失恋という意味だろうか

梨子さんは今まさに失恋をしたばかり。

想い人に気持ちを伝えて、そのうえで断られた。

私は、どうだろう。

……。

738名無しさん@転載は禁止:2018/07/14(土) 03:58:48 ID:rxnP88zg
善子「失恋なんて、とうてい言えない」

善子「もっと弱くて惨めで、土俵に上がってもいない」

善子「何も伝えられなくて……失恋すら、できなかった」

梨子「……そっか。まあ、どっちが偉いとかないけどね。私も善子ちゃんも結果は同じだし」

梨子「善子ちゃんも善子ちゃんで頑張ってたこともあるだろうし、本当にそれぞれだよ」

善子「……」




梨子「ねえ善子ちゃん。改めて聞きたいんだけど……」

梨子「善子ちゃんは曜ちゃんのこと、好き?」

739名無しさん@転載は禁止:2018/07/14(土) 03:59:31 ID:rxnP88zg
お待たせしました。今回分です。
ノーマル√はおそらく次で最後になります。
読んでくださってる方々ありがとうございます。

740名無しさん@転載は禁止:2018/07/14(土) 08:52:47 ID:BE8zISnw
善子ちゃんと梨子ちゃんの心境が心にグサグサくる……
ふたりとも良い子過ぎて辛い……

741名無しさん@転載は禁止:2018/07/14(土) 13:19:53 ID:cDN6x2tk
ノーマルってなんだっけ……?ってレベルで切なすぎてつらい……

742名無しさん@転載は禁止:2018/07/15(日) 02:53:02 ID:itBpi.pw


743名無しさん@転載は禁止:2018/07/15(日) 02:56:07 ID:PA7SHG/A
http://nazr.in/11y6

744名無しさん@転載は禁止:2018/07/27(金) 23:50:34 ID:lLhKWdGQ
ノーマルという名のビターエンドだね…
結末が気になるところだ

745名無しさん@転載は禁止:2018/08/21(火) 01:47:48 ID:uEIohNPw
気長に待つか

746名無しさん@転載は禁止:2018/08/26(日) 10:24:20 ID:.LQc7MCA
まだかな…?

747名無しさん@転載は禁止:2018/08/28(火) 07:55:39 ID:6VIjKqdY
大変お待たせして申し訳ありません
明日、明後日の夜には投稿できるよう調整しております
次の更新でノーマル√完結予定です

748名無しさん@転載は禁止:2018/08/28(火) 08:39:13 ID:7mYbRMo6
待ってた

749名無しさん@転載は禁止:2018/08/28(火) 12:23:35 ID:FBHI.fQ2
正座待機

750名無しさん@転載は禁止:2018/08/29(水) 04:46:22 ID:RQRBOq1I
ゆっくり待ってるよ

751名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 05:25:34 ID:bsHOfXsw


善子「はい、好きです」

善子「笑った顔が好き。かっこいいところが好き。何でもできるところが好き。明るいところが好き。優しいところが好き」

善子「実は弱くて臆病なところが好き。泣き虫なところが好き。なんでも一人で抱え込んじゃうところも好き」

善子「全部私のものにしたいくらい、大好きで……」

善子「心の底から、愛していました」

梨子「……素敵だね」

梨子「私も、そうだったんだ……千歌ちゃんを、本当に愛してたよ」

752名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 05:26:36 ID:bsHOfXsw
――


梨子「善子ちゃんさ、これで良かったって思ってる?」

善子「え……」

梨子「なんとなくわかるんだ。善子ちゃんの考えてること。同族だからかな?」

善子「どうかしら。よくわかりません」

善子「最初は、あの人が笑ってくれれば、幸せになってくれればよかった」

善子「ううん。それは今でも同じ。だけど……」

善子「…………」

梨子「……辛いね、善子ちゃん」

梨子「好きな人の幸せが、自分の幸せだったら良かったけど……」

梨子「そううまくはいかないね」

善子「……本当に良かったはずなの。私はずっと、こうなることを望んでた。そのために頑張ってきた」

善子「私は、私の願いを叶えた。だからこれでいいはずなの」

善子「それでも、悲しいのは……」

善子「……ああ、そっか」

梨子「善子ちゃん?」

善子「ねえ梨子さん」




善子「私の初恋……曜さんへの初恋、終わっちゃった……」

753名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 05:27:02 ID:bsHOfXsw

梨子「……うん、私も。残念だけどね」

善子「梨子さんは、悲しくないの?」

梨子「もちろん悲しいよ? 今も一人になったら泣いちゃいそうなくらい」

善子「……」

梨子「でもね善子ちゃん。私って曜ちゃんのことも大切な友達だって思ってるから」




梨子「ちゃんと、祝福できるよ」


――


梨子「じゃあ私はここで。また明日ね善子ちゃん」

善子「ええ。さよなら」

梨子「……あのさ、たまにこうして二人でお話したりしない?」

梨子「善子ちゃんとは立場が同じだから、いろいろわかってくれると思うし」

梨子「……私もわかってあげられると思う」

善子「……ええ。ぜひ」

梨子「ふふっ。ありがとね」

754名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 05:28:54 ID:bsHOfXsw


――

私と話している間、梨子さんは笑顔を崩さなかった。

でも私はその心の内を推し測ることは出来なかった。

私も梨子さんも同じように失恋をしたけれど、同じ心の傷を負ったとは限らない。

いや、私は曜さんに失恋した反面、曜さんを幸せにするという望みを叶えられた。

けど梨子さんはただ失恋をしただけ。

私などでは理解できない傷を負っているのだろうと思う。

梨子さんと会話して、少しだけ理解することは出来た。

でも少しだけだ。

私や梨子さんのこの気持ちは、これからどこへ行くのだろう。どこへ行けばいいのだろう。

答えなんか出るはずもなく、私の心はどこかぽっかり穴の開いてしまったような、そんな気持ちになった。

755名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 05:29:12 ID:bsHOfXsw
――数日後、屋上

善子「……」


今日はAqoursの練習は休み。

地区予選の準備が思った以上に順調。メンバーのやる気もかなり高まっている。この勢いのまま練習を重ねていこう。

とみんな思っていたけれど…


ダイヤ「オーバーワークはいけません。勢いとやる気にまかせて無茶をしすぎると怪我にもつながってしまいますわ」


とのことで、落ち着いた時間をとろうとのことだった。

確かに私自身もその通りで、やる気ももちろんあるけれどそれ以上に他のことを考えたくなかったからAqoursの活動にうちこんでいた。

だからこういうふうに時間が空いてしまうと余計なことばかり考えてしまう。

一人でいると、なおさら。

それでもこうしてなにもないはずの屋上に来ているのは、どうしてだろう。

……いいや、むしろ何もない方がいいから。誰もいない方がいいからなのかもしれない。

一人だと思い悩むくせに、誰かがいても煩わしいと思う。

この気持ちに出口はなかった。

756名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 05:29:28 ID:bsHOfXsw
ルビィ「善子ちゃん」

善子「……ルビィ」


気が付くと、後ろにルビィがいた。

放課後、すぐに教室からいなくなった私を心配してきてくれたのだろうか。

それとももっと前から、私の気持ちを読み取っていたのだろうか。

……優しい子だ。


ルビィ「あのね、善子ちゃん、その……」

善子「……心配してくれてるの? 大丈夫よ」

ルビィ「善子ちゃん、でも……」

善子「ルビィ、私、今本当にうれしいの」

善子「曜さんが本当に幸せそうで……あんなに心から嬉しそうにしてる曜さんなんて初めて見た」

善子「だから、私も……すごく、幸せなの」

善子「すごく、すごく……」グスッ

善子「本当よ、本当なの」グスッ

善子「本当の、本当に、幸せ、なの」

善子「幸せ……なんだから……!」ポロポロ

757名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 05:29:45 ID:bsHOfXsw

ルビィ「……善子ちゃん」ギュ

ルビィ「ルビィね、善子ちゃんが頑張ってきたこと知ってるよ」

ルビィ「今までたくさん、辛い思いして、我慢して、戦ってきたこと、ちゃんと知ってる」

ルビィ「だからね、だからね、善子ちゃんは本当に立派で」



ルビィ「素敵な、人間だよ」ポロポロ




善子「……なによ、なんでアンタが泣いてるのよ」

善子「アンタが……泣くことなんて、ないでしょ……」ポロポロ

ルビィ「だって、だってぇ……善子ちゃんがつらいの、わかるから」ポロポロ

ルビィ「ルビィは……ルビィだけは、わかるんだから……!」ポロポロ

ルビィ「一緒に、泣かせてよ……」

善子「バカね……本当にバカよアンタは」

善子「でも、ありがとね……」グスッ

ルビィ「善子ちゃん、つらかったね」

ルビィ「頑張ったね……!」

善子「う、うぅ……うぁぁぁぁぁ……!」

758名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 05:30:08 ID:bsHOfXsw
――

ルビィ「えへへ、ごめんね善子ちゃん。ルビィまで泣いちゃって……」

善子「ううん、こっちこそ。ありがとう」

ルビィ「善子ちゃんのしたこと、間違ってないよ」

ルビィ「つらい選択だったと思うけど……ルビィはとっても誇らしいよ」

善子「……」

ルビィ「……これからも、つらいだろうけど」

善子「うん。もう大丈夫」

善子「……とは言えないかもしれないけど、頑張る」

善子「だって、曜さんが笑ってくれたんだもの」

ルビィ「……」

善子「幸せになって、くれたんだもの」

759名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 05:30:23 ID:bsHOfXsw
ルビィ「……うん。きっと、善子ちゃんのおかげだよ」

ルビィ「曜さんも千歌さんも、善子ちゃんに感謝してる」

善子「……ええ。そうだと、いいわね」

ルビィ「ね、そろそろ帰ろうよ。今日は沼津にでも遊びに行かない? 花丸ちゃんも行きたいって言ってるんだ」

善子「……うん。行きましょうか」

ルビィ「えへへ! じゃあ早く教室まで戻ろうよ! 花丸ちゃんも待ってるよ!」タタタ

善子「ええ……」


ルビィは楽しそうに駆けだした。

人の気持ちを理解し過ぎて同調してしまう子だ。

さっきも泣いていたように、今もつらいのだと思う。

それでも、私を気遣ってくれているのだろう。

こんな私を心配してくれている。

……。

760名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 05:30:38 ID:bsHOfXsw
善子「あ……」

ふと屋上から校門を眺めると、千歌さんと曜さんが歩いているのを見つけた。


千歌「〜〜〜〜〜」

曜「〜〜〜〜〜!」



善子「……」


二人とも、とても幸せそうだった。

今まで二人が楽しそうに話しているのは何度も見てきた。

でも、今は違う。もっと、楽しいよりももっと満ち足りている顔で。

ああいうのを、幸せと呼ぶのだろう。

あんなに生き生きと、輝かしい目をした曜さんなんて初めて見た。

私では曜さんを、あんなふうに笑わせてあげることなんかできなかっただろう。

きっと千歌さんでなければいけなかった。曜さんを救えるのは、千歌さんだけ。

……私は、その手助けをしただけ。

それだけだ。

私にできたのは、それだけだ。

だから、これでいいんだ。

私は正しいことをしたんだ。

761名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 05:30:54 ID:bsHOfXsw

善子「うっ……ぐすっ……あぁ……」

悲しいことなんてなにもない。

悲しいなんてあるわけない。

でも……

……。

…………ああ。

ああ、ああ、ああ!!!

曜さん! 曜さん曜さん!!! 曜さん!!!

大好き! 大好きでした! あなたを愛していました!!!

叶うなら、あなたの隣を歩いて……

あなたを支えたかった!

春に、出会いと別れの不安の中を一緒に踏みだしたかった。

夏に、茹だるような暑さの中を連れまわしてほしかった。

秋の冷たい風の中、身を寄せて「寒いね」なんて二人で笑って歩いて。

冬に、冷たくなったあなたの手を包んであげたかった。

762名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 05:31:08 ID:bsHOfXsw
願っていました。

あなたとの幸せな未来を、願っていました。

でも、そうか。

もう、終わるんだ。

あなたに恋をした夢の時間が、もう終わろうとしている。

だけど、どうしてだろう。

とても悲しくて、でもとても暖かい。

……きっと、思い出があったから。

とても優しい思い出があったから。

私は、曜さんに救われた。

どうしようもない、救いようのない人間モドキの私を、人間にしてくれた。

嬉しかった。

私でも、まっとうな人間になれるんだって思えた。

私でも、幸せに生きられるんだって、教えてくれた。

763名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 05:31:25 ID:bsHOfXsw
それは、初恋の夢。

この手に触れようとした瞬間に消えてしまった。

けれど、胸には確かに残っていた。

あの時もらった優しさが。

暖かさが。

私を救ってくれた笑顔が。

まだ私を、照らしてくれていた。


善子「……うん」


歩ける。

だって私は教えてもらったから。

私の生き方を教えてもらったから。

大切なものを見つけるうれしさ。

それを失う悲しさ。

そして、幸せを追いかける大変さ。

曜さんからもらったものぜんぶ。

これは私の宝物だ。

ぜんぶ抱えて生きていくんだ。

764名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 05:31:39 ID:bsHOfXsw

善子「大丈夫」


歩こう。

私にはまだ行くことのできる道がある。

進もう。

嬉しいことも悲しいことも全部抱えて。

きっとそれが、生きるということ。

私はまだ、歩きはじめたばかりだ。

765名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 05:31:53 ID:bsHOfXsw
――

ルビィ「あっ、善子ちゃん来たよ!」

花丸「遅いずら! ルビィちゃんが呼びに行ったっていうのに何してたの?」

善子「ごめんね、ちょっと……」

花丸「ちょっと?」

善子「ううん。なんでもない。行きましょ」

花丸「……そっか」

ルビィ「じゃあ早く行こう! 遊ぶ時間なくなっちゃうよ!」

善子「ちょ、ちょっとルビィ! 引っ張らないでよ!」

花丸「あぁ! 二人ともまってよ〜!」

ルビィ「えへへ……!」

善子「……!」

花丸「置いてかないでほしいずら〜!」

ルビィ「急いで花丸ちゃん! バス来ちゃうよ!」

善子「早く行くわよ!」

花丸「も〜!」

善子「……ふふ」

766名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 05:32:08 ID:bsHOfXsw


曜さん。

おめでとうございます。

あなたが幸せで、私も幸せです。

あなたに恋をして本当に良かった。

幸せな夢を見られて本当に良かった。

全部あなたにもらったもの。

大切な友達。尊敬できる先輩。

スクールアイドル。

私の生きる意味。まっとうな人生。

でも、それだけじゃきっとダメで。

これからは、曜さんがくれたものにしがみついているだけじゃダメなんだ。

私、がんばります。

曜さんがくれたものが間違いじゃないって、証明するために。

767名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 05:32:49 ID:bsHOfXsw
ねぇ、曜さん。

私も。

私もきっとあなたのように幸せになります。

だから、いつかその時が来たら。

あなたのとびきりの笑顔で、祝福してください。


ノーマル√ おわり

768名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 05:37:13 ID:bsHOfXsw
お待たせしてすみません、ノーマル√ラストです
不完全燃焼な感じでアレですが一応これで完結ということで

次はハッピーエンド√に続きます

769名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 08:16:39 ID:T3SbuJaI
おつ
ハッピールートも待ってる

770名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 08:35:53 ID:0e9oY08M
おつ
ハッピーエンド楽しみ

771名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 20:25:10 ID:ZPcvJWNM
乙です
ハッピーエンド√も楽しみに待っております

772名無しさん@転載は禁止:2018/08/30(木) 20:31:19 ID:tR1ZJ5BA
不完全どころかトゥルー感すらあるのだが。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板