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善子「Black Sheep」

1名無しさん@転載は禁止:2017/05/10(水) 01:37:40 ID:JFf8Mvsk
ああ、この手の人間か。


最初に思ったのはこんなことだった。

運動ができて勉強ができて、人付き合いも上手で友達もたくさん。

いわゆる典型的なリア充というやつで、それは私とは正反対の人種だった。

どうせ私のようなインドアで社交性のない人間とは馬が合わないのだろう。

そして得てして私のような人間はこのタイプの人間を嫌悪する。

こういう人のありかたが人間のあるべき姿だとわかっているし、この人自身とてもいい人だと思う。

でもだからこそ自分の人間としての不完全さが浮き彫りにされているような気分にもなった。

私みたいな社会に適合できない人間モドキとは住む世界が違うのだ。

だから私は、この人とはある程度仲良くはなれても、深い友好関係を築くことはないだろうと思った。

しかしこの人のそれは度を越していた。

516名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 12:35:03 ID:w9HD2us.
乙です
このルートはよっちゃんが可哀想すぎる…

517名無しさん@転載は禁止:2018/03/01(木) 01:19:32 ID:5uhHFNps

善い子だなー

518名無しさん@転載は禁止:2018/03/01(木) 23:00:03 ID:npVoDsYg
愛 だよなあ…

519名無しさん@転載は禁止:2018/03/02(金) 23:53:06 ID:7IhkXmEk
曜ちゃんは確かに自分はこれでいいんだって感じで嫌なことでも黙って受け入れそう

520名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:23:13 ID:4.ZUo67I


曜「邪魔しないでよ鞠莉ちゃん! 私たちはいま……」

鞠莉「曜」ギロ

曜「っ……」

鞠莉「……そんなことよりも、あなたにはやることがあるでしょう?」

曜「!! 千歌ちゃん! 梨子ちゃん!!」

千歌「うっ……うぅ……ひぐっ、うう……」

梨子「……」グスッ

鞠莉「曜。二人を連れて理事長室まで来てちょうだい。話があるわ」

曜「……うん」

521名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:23:30 ID:4.ZUo67I

鞠莉「善子」

善子「……はい」

鞠莉「あなたのことは、あの子に頼んであるから」

善子「(……あの子?)」

ルビィ「善子ちゃん……」スッ

善子「ルビィ……あんたも来てたのね」

ルビィ「……うん」

鞠莉「あとは任せるわ。曜。ちかっちと梨子を連れてついてきて」

曜「……うん。二人とも立てる?」

梨子「……私は大丈夫、だけど」

千歌「う、ぐすっ、ひっ……うぅ……」

曜「……肩貸すよ。行こう千歌ちゃん」

千歌「うぅ……ようちゃん、ごめんね……ごめんなさい……」グスグス

曜「……」

鞠莉「……行くわよ」

522名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:23:46 ID:4.ZUo67I

バタン

善子「……」

ルビィ「あの、善子ちゃんごめんね。鞠莉ちゃんに気づかれて、足止めはしたんだけど……」

善子「いいえ。むしろいいタイミングだったわ。やることはやったから」

ルビィ「……そっか。やったんだね」

善子「……うん」

ルビィ「大丈夫?」

善子「後悔は、してない。私はきっと、ずっとこうしたかったんだとすら思ってる」

善子「……許せなかった。あの人たちを。それが、間違っていることでも……」

ルビィ「善子ちゃん」ギュ

善子「……」

ルビィ「間違ったことでも、それが善子ちゃんの選んだことなら、ルビィは褒めてあげる」

ルビィ「つらかったね。がんばったね」

善子「……うん……うん……っ!」グスッ

523名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:24:24 ID:4.ZUo67I
ルビィ「これからどうなるかはわからない。もしかしたら、もうAqoursはダメかもしれないけど……」

善子「……ごめん」

ルビィ「ううん。私は善子ちゃんを責めないよ」

ルビィ「でも、善子ちゃんはこれからどうしたい?」

善子「……先のことは何も考えてなかったわ。私はきっと施設送りだろうけど、もうどうなっても構わない」

善子「ただ、これからも曜さんが傷つかないでいられるようにしてあげたい、かな」

ルビィ「うん。善子ちゃんのしたいようにするといいよ。私も手伝うからさ」

善子「……ルビィ、ありがとう」


そこから先のことはよく覚えてない。

やることをやって緊張の糸が切れてしまったのか、私はぷっつりと意識を失ったそうだ。

私はその後お母さんに迎えに来てもらって、気づいたら家のベッドで横になっていた。

524名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:24:40 ID:4.ZUo67I
あとからルビィがうちに来ていろいろ教えてくれた。

私はマリーから3日の自宅謹慎言い渡された。そして来月から3ヵ月、東京の特別施設で検査をしなければならない。

2年生の3人は学校に来ていないらしい。

千歌さんは部屋で一人でずっと泣いていて、食事にもあまり手をつけていないそうだ。

梨子さんも部屋に閉じこもって、名前を呼んでも生返事しかしないらしい。

曜さんは最初は学校に来ていて、そんな様子の2人を励まそうとしたけどやがて諦めて、とうとう学校にも来なくなってしまったようだ。

要の3人を失ったAqoursがまともに活動などできるはずもなく。

私たちは地区予選を辞退した。

必然的に浦の星を存続させる方法はなくなり、統廃合はほぼ決定してしまったらしい。

525名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:24:53 ID:4.ZUo67I
善子「……失礼します」


謹慎が明けて、私は理事長室に呼びだされた。

今までのこと、屋上でのこと、そしてこれからのことを話し合うとのことだ。

私一人では心細いだろう、ということでルビィもついてきてくれた。


鞠莉「あなたを責めるつもりはない。これは監視を怠った私のミス」

鞠莉「だけどこんなことが起こってしまった以上、あなたの検査は避けられない。少しの間東京に行ってもらうわ」

善子「……はい」

ルビィ「善子ちゃんは、どうなるんですか?」

鞠莉「検査結果次第ね。指数が高く疾患が重度と判断されればそのまま向こうで施設通い」

鞠莉「良い結果なら帰ってこられるかもね」

ルビィ「そう、ですか……」

526名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:25:05 ID:4.ZUo67I
鞠莉「あと2年生については私が今動いてる。それぞれのお宅に訪問してるけど……相変わらずね」

鞠莉「ちかっちも梨子も、まともに会話すらしてくれない。『私が悪いです』の一点張りでね」

鞠莉「ちかっちのほうは幼馴染みの果南が行っても、何も話してくれなかったみたい」

善子「……」

鞠莉「……確かに、あの子たちは曜のことを考えているようで考えられていなかった」

鞠莉「善子の話を聞いてもちかっちと梨子に非がある部分は少なくないと思う」

鞠莉「でも、あなたもあの二人が全部悪いだなんて思ってないでしょう?」

善子「……」

527名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:25:19 ID:4.ZUo67I
鞠莉「ちかっちと梨子が曜を理解できていなくて、知らず知らずのうちに追いつめる形になってしまっていたのは事実」

鞠莉「二人が恋仲になってしまったことも、曜がショックを受けた原因」

鞠莉「それが決定打になったみたいだけど、曜自身二人を祝福したい気持ちは確かにあった」

鞠莉「何より、誰かが恋人同士になることが悪いことなわけがない。人が人を好きになっただけなんだから」

鞠莉「あなたもそこは、分かってたはずよ」

善子「……はい。それでも私は、私は……」

鞠莉「……まあ、私たちは理屈じゃないものね」

鞠莉「気持ちはわかるわ。だからといって許されるわけではないけれど……」

528名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:25:33 ID:4.ZUo67I
鞠莉「それとね、曜のことなんだけど」

善子「……!」

鞠莉「あの子もだいぶ精神的に参ってるわ。というか、本格的に壊れちゃってるかも」

善子「え……」

ルビィ「それって……」

鞠莉「普通に会話はできるんだけど、ちかっちの名前が出ると大泣きし始めてね」

鞠莉「全く話が通じなくなっちゃう。あの屋上でのことがあった日はちゃんとしていたんだけど」

鞠莉「ちかっちと梨子に謝りながら、ひとりぼっちはやだ、って泣きながらずっとつぶやいてる」

善子「……」

鞠莉「……近いうち、検査に回されるかもね」

善子「そう、ですか」

529名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:26:03 ID:4.ZUo67I
鞠莉「それと、Aqoursの活動は休止。私たち3年はもうスクールアイドルを続けないわ」

ルビィ「えっ……」

善子「……」

鞠莉「後輩が苦しんでるのに、先輩の私たちがアイドルやってるわけにはいかないから」

鞠莉「あなたたちが悩んでること。悲しんでること。気づけたはずなのに……」

鞠莉「私は、私たちはなにもできなかった。後輩を助けられなかった」

鞠莉「だから、私たちはここでおしまいにすることにしたの」

530名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:26:18 ID:4.ZUo67I
ルビィ「あの!!!」

鞠莉「うん?」

ルビィ「わ、私は、花丸ちゃんとスクールアイドル、続けたいです……」

ルビィ「もしかしたら、みんな元気になって、元通りになって、そうしたら……」

ルビィ「……その時、戻ってこられる場所があればいいなって、思うんです」

鞠莉「それはもちろんオッケーよ。あなたたちは何も悪いことしてないもの。3年生もできるだけ手伝ってあげる」

善子「ごめんね、ルビィ。私のせいで……」

ルビィ「違うよ! 善子ちゃんを責めたいわけじゃないの。ただ……」

ルビィ「ただルビィは、みんなも、善子ちゃんも戻ってきてくれるって、信じたいから……」

善子「……」

531名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:26:36 ID:4.ZUo67I
鞠莉「色々な手続きは私とダイヤの方でしておくわ。何か困ったらいつでも言って」

鞠莉「私たちはいつまでも、あなたたちの先輩なんだからね」

ルビィ「はい」

善子「……はい」

鞠莉「はぁ……それにしても、あの子たちは本当にダメね」

鞠莉「自分の気持ちはちゃんと伝えなきゃダメだって、バカな先輩たちがダメな見本を見せたあげたのに」ポロポロ

鞠莉「善子、ルビィ。あなたたちはこうなっちゃダメよ?」


――

理事長室をから出ると、中からマリーの泣き声が聞こえてきた。

私が巻き起こしたこと。二年生が壊れてしまったこと。

Aqoursがバラバラになってしまったこと。

それら全てを嘆いて、悲しんでいるのだと思う。私は引き起こした張本人だから慰めの言葉なんて言えない。

いっそ思いっきり責めてくれたのなら楽になれるのだけど、みんなは優しかった。

私はあの時のことを後悔はしていない。でも千歌さん達を傷つけたことが許されるとも思っていない。

あの人たちには確かに怒りがあったけれど、同時に大事な先輩でもあった。そんな矛盾に似た思いが私にはあったから。

私は奇妙な達成感と罪悪感でいっぱいになりながら、検査に送られる日を待った。

その間ルビィと花丸は、何もなかったかのように私に接してくれた。

532名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:26:56 ID:4.ZUo67I
――

東京に向かう日は、あっという間に来た。


ルビィ「善子ちゃん、体調には気を付けてね」

善子「うん。ありがと」

花丸「寂しくなるずらね」

善子「……ごめんね」

花丸「ううん。でも、必ず帰ってきてね」

ルビィ「花丸ちゃんと、待ってるからね」

善子「……うん」


ルビィと花丸に見送られて、私は3か月の施設通いに向かった。

施設、とはいってもほぼ学校のようなもので、校舎もあり学年も分かれている。

普通の高校と違うのは専用の設備があることくらいで授業なども普通に行われるし、寮暮らしになること以外生活に大きな変化はない。

私はここで普通に授業を受けつつ、検査と経過観察によって今後のことを決められる。

ここに残って治療を受けるか、浦の星に戻るか。

533名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:27:12 ID:4.ZUo67I

「善子、あなた結局ここに戻ってきたのね」

「やー! よっちゃん久しぶり〜! 元気してましたか〜?」


中学の頃、こっちの施設に通っていたときに仲良くしていた友達がいて、幸い一人で寂しいということはなかった。

むしろ気心の知れた仲間がいて気が紛れた。まあ、この二人以外は変な人の方が多いのだけど。

私と同じように疾患を持っている二人は、私がここに戻ってきた経緯については同情してくれた。

私たちには、よくあることだから。

理解してくれる、というのは思った以上に私を安心させてくれた。

ルビィと花丸といるときとはまた違う安心感。

辛かったね。

大丈夫だよ。

そんな優しい言葉をかけてくれる二人が、いつも私を心配してくれたルビィと花丸と重なって見えて、なぜか涙が出そうになった。

534名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:27:26 ID:4.ZUo67I
こっちに来てからも2年生、特に曜さんのことは気になった。

けれど私にはどうすることもできないのも事実で、そこはマリーやルビィ達に任せるしかなかった。

でも、これでよかったのかもしれない。

あの人たちと同じ土地にいる、ということが心の負担になっていて、正直耐えられそうになかった。

ここにいる間は、千歌さんと梨子さんへの憎悪と後ろめたさ、曜さんへの罪悪感を忘れられる。

それは罪から目を背ける卑怯なことだけど、私にはもうどうしようもなかった。

あんな別れ方をしたからもう会ってくれないかもしれないけど、今でも曜さんを慕う気持ちは変わらない。

でも結果として私は曜さんを守るどころかもっと傷つけてしまって、そのことだけがただ悲しかった。

結局私には、みんなを不幸にすることしかできないんだ、と。

友達二人に励まされながらもどこか上の空で、諦めに似た無気力が私を覆っていた。

そんなふうに大人しくしていたからか、私の精神状態は特に異常なし、経過良好と見られ、3か月も待たずに浦の星に戻ることになった。

535名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:28:08 ID:4.ZUo67I
友達二人がささやかなお別れ会を開いてくれて、帰り際には見送りにまで来てくれた。

「よっちゃん、また来てね! いつでも待ってるよ!」

「戻ってきちゃダメな所なんだけど……でもまた会おうね」

短い間でも私を元気づけて一緒にいてくれた二人との別れを惜しみながら、私はあの場所へ帰る。

幸せな思い出と、それと同じくらい大きな悲しみが残る浦の星へ。



その帰り道に、私のスマホに一件のメッセージが入った。

差出人は……


「曜さん……?」


――善子ちゃん、明日会えない? うちに来てくれると嬉しいな

536名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:28:55 ID:4.ZUo67I
すみません、思ったより長くなりそうなので分割します
次こそバッドエンド√ラストです
いつも読んでくれてる方々ありがとうございます

537名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 04:10:07 ID:Qz/RGLfY
おつ
待ってる

538名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 10:30:20 ID:gLRwfHSA
待つ

539名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 12:20:19 ID:ni1LdnH.
乙です
相手のことを想って行った行動がこうも辛い結果になるなんて人同士が分かり合うのって難しい…

540名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 15:21:49 ID:OgtDL81w
友達二人ってまさかお花ちゃんたちか
どうなるかドキドキする

541名無しさん@転載は禁止:2018/03/07(水) 00:57:12 ID:bAT4JM3E
おつ

542名無しさん@転載は禁止:2018/03/07(水) 01:14:19 ID:84HlhgXQ
ようちゃんも、こわれてしまったのか…

543名無しさん@転載は禁止:2018/03/11(日) 18:00:50 ID:LQqOODKE
一気に読んでしまった…
こういう誰も悪くないはずなのに関係が壊れてしまう話めっちゃ好き
バッド√ラスト楽しみ

545名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 06:43:35 ID:ZoJ3UmI.
すみません、少し見直しするので夜に投稿します

546名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 08:09:16 ID:b3KFj2Vw
待ってるぞ

547名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 12:49:23 ID:bRavJmV6
待ってます

548名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:20:19 ID:ZoJ3UmI.

コンコン

善子「曜さん。善子です。入りますよ?」

ガチャ

曜「ああ、善子ちゃん……久しぶりだね」

久しぶりに会った曜さんはずいぶんとほっそりとしていて、以前の元気で明るい彼女とはまるで別人だった。

曜「ごめんね、急に呼びだしちゃって。昨日東京から帰って来たばかりなんでしょ?」

善子「ううん、大丈夫。私も会いたかったから」

曜「そっか……」

549名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:20:38 ID:ZoJ3UmI.



曜「善子ちゃん」

善子「……はい」

曜「ごめんね」

善子「……え?」

曜「私あの時、混乱して善子ちゃんに強く当たっちゃって。謝りたかったんだ」

善子「な、なに言ってるの! そもそも私があの二人にひどいことを言ったから……」

曜「それでも。はたいちゃったのはやりすぎだったと思うから。だからごめんね」

善子「……どうして」

曜「え?」

550名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:20:51 ID:ZoJ3UmI.

善子「どうしてそんなに、優しいんですか」

善子「どうしてそうやって、何もかも許してしまうんですか」

善子「辛いこと、許せないこと、そういうもの全部抱え込んで」

善子「自分が我慢すればいいって、それでみんなが喜んでくれるって」

善子「曜さんはこんなに苦しんでいるのに!」

曜「……」

善子「私はそれが許せなかった! 曜さんが、じゃない。曜さんの優しさに甘えて、傷つける人たちが許せなかった!」

善子「だから……」

曜「善子ちゃん」

善子「……っ」

551名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:21:04 ID:ZoJ3UmI.

曜「善子ちゃんの言う通り、私は周りのみんなが、千歌ちゃんが笑ってくれるなら、私自身はどうなってもいいって思ってた」

曜「果南ちゃんにはさ、一人で抱え込むなって、もっと頼りなよって言われたこともある」

曜「私もね、何度か助けてもらおうって思ったことはあるんだけど、やっぱり自分ひとりでも何とかなるかな、とも思えて」

曜「それなら、そんなことで他の人に迷惑かけちゃだめだなって思っちゃうんだ」

曜「私は、一人で大丈夫だって」

善子「……」

552名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:21:19 ID:ZoJ3UmI.
曜「……善子ちゃんは、いつも私の心配をしてくれたよね」

曜「私が苦しいとき、つらいとき、いつだってそばにいて元気づけようとしてくれた」

曜「善子ちゃんに迷惑かけないように、私も善子ちゃんを頼りすぎないようにしてたけど」

曜「……ごめんね。それが善子ちゃんを傷つけていたんだよね」

善子「そんな! そんなこと……」

曜「初めて会ったときさ、善子ちゃんが疾患を抱えてるって知って、私が力になって助けてあげようって思ってたのに」

曜「逆に私が、善子ちゃんを追いつめて、悪化させる原因を作っちゃったんだ」

曜「だからあれは、私のせいなんだ」

553名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:21:36 ID:ZoJ3UmI.


曜「ごめんね善子ちゃん。こんな情けない先輩で……」グスッ

曜「ずっと、謝りたかったの……いつも心配してくれた善子ちゃんを、傷つけちゃったこと」グスグス

善子「(……ああ、そうか)」

善子「(私もまた、私が嫌う人たちのように)」

善子「(曜さんに、許されていたんだ)」

善子「(その優しさに甘えて、曜さんを食い物にしていたんだ)」

善子「……」

554名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:21:49 ID:ZoJ3UmI.
善子「……曜さん」ギュ

曜「善子ちゃん……?」

善子「あなたは強い人だから」

善子「どんなに辛いことがあっても、それを受け止めて、笑顔でいられる人だから」

善子「そんなあなただから、私は幸せになってほしいと思ったんです」

善子「これからは、私があなたを守りますから」

善子「もう、一人で泣かないで」ギュ

555名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:22:12 ID:ZoJ3UmI.
曜「善子ちゃん……」

善子「はい」

曜「私やっぱり、千歌ちゃんと梨子ちゃんは大切な友達だと思ってる」

曜「だから、どんなことがあっても、あの二人を傷つけたことを肯定することはできない」

善子「……」

曜「だからね、私は善子ちゃんにこう言うよ」



曜「私を守ろうとしてくれて、ありがとう」

善子「……っ!」ポロポロ



その言葉が、私にはなによりも愛おしく思えて、涙が止まらなかった。

こんなことになってまだ、こんな私に、そんな言葉をくれるなんて。

きっと誰よりも辛いはずなのに。友達を傷つけた私が憎くて仕方無いはずなのに。

私を許してくれる曜さんは、そんな気持ちさえも包んで、溶かして。

また一人で泣いて、傷つくのだろう。

笑顔でい続けるのだろう。


そんなあなたが、私は大好きなんです。

556名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:22:27 ID:ZoJ3UmI.
――


曜「じゃあね、善子ちゃん。気をつけて帰ってね」

善子「はい。曜さんも……ゆっくりやすんで」

善子「また一緒に、学校行きましょう」

曜「うん! 頑張るよ」

善子「じゃあ」

曜「またね!」

曜さんは笑顔で私を見送ってくれた。

以前のような明るく優しい、私の大好きな笑顔で。




それが、私が見た最後の曜さんの笑顔だった。

557名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:22:43 ID:ZoJ3UmI.
その翌日、曜さんは自室で亡くなった。

リストカットによる自殺だそうだ。

部屋には遺書が残されており、ご両親やAqoursのみんなへの感謝、そして謝罪が書かれていた。

私が見たのは、手首を見なければどこにも傷なんてない。いつもの優しくて綺麗な顔立ちをした曜さんだった。

だから、少し呼びかければすぐにでも起き上がって、あの笑顔を見せてくれるように思えた。

でも、そうはならない。

彼女はもう目を覚ますことはないし、大好きな飛び込みをすることもない。

歌うことも、踊ることも。

私の大好きな、あの優しい笑顔を見せてくれることも、もうあり得ない。

信じられなかった。

だってこんなに、綺麗な顔をしているのに。

558名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:23:19 ID:ZoJ3UmI.
ルビィと花丸は泣いていた。

マリーとダイヤさんは悲痛な表情で俯いて、果南さんは怒っていた。

梨子さんは魂が抜けたような顔をして、千歌さんは葬儀に来なかった。

私は、ただ立ち尽くしていた。泣くこともなく、怒ることもなく。

いろんな気持ちがありすぎて、どの気持ちが一番かわからなかったから。

また一緒に、学校へ行こうって言ってくれたのに。

ありがとうって、言ってくれたのに。

559名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:23:38 ID:ZoJ3UmI.
曜さんの煙が上がった。

その日は雲一つない晴天で、煙の白がよく映えた。

まるであなたの瞳のように、綺麗に澄んだ青空でした。

ああ、もうあなたに会うことはないんですね。

もう私の名前を、呼んではくれないんですね。


その時になって、ようやく私は曜さんとのお別れを実感して、少しだけ泣いた。

その後のことはよく覚えていない。

心ここにあらず、という感じで、残り少ない浦の星での学校生活を過ごした。



そして、2年が過ぎた。

560名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:23:52 ID:ZoJ3UmI.
浦の星は予定通り春に廃校し、私たちは沼津の高校へ通学することになった。

私はもともと沼津に住んでいるから不便なことはない。

もう浦の星に行くこともないと思うと少し寂しいけれど、同時に安堵もしている。

あそこには、幸福と不幸の両方の思い出があるから。

ルビィと花丸とは相変わらずで、3年になっても同じクラスで3人一緒にいた。

私の疾患はもう完全になくなってしまったようで、心が空になったみたいにむなしさが溢れていた。

私の中の強い衝動は完全に消えてなくなってしまって、怖いくらい静かになった心には、何も残らなかった。

きっと曜さんが最後にくれた言葉が、そしてお別れが私の中の化け物を消してくれたのだろう。

静かすぎて逆に不安にもなったけど、曜さんからの贈り物と考えると、この空虚さも悪くないと思えた。

561名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:24:26 ID:ZoJ3UmI.
千歌さんと梨子さんについては知らない。本当に何も知らない。

私の耳に二人のことは届いてこなかったし、ルビィと花丸も何も言わなかったから。

ただまあ、なんとなく予想はつく。

きっと元に戻らないくらい壊れてしまっているのだろう。

あの後に2人で会ったのか、会話をしたのかは知らない。

でも曜さんの死を知った2人が、まともでいられるはずはないから。

まあ、私の思惑通り、相応の傷を負ってはくれたのだろう。

今はその事実にすら、悲観もしないし感慨も湧かない。

562名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:25:12 ID:ZoJ3UmI.
――梨子の部屋


――曜ちゃんに謝りに行ってきます。それで仲直りして、今度は曜ちゃんが寂しくないように、ずっと一緒にいてあげようと思います。

――梨子ちゃんごめんなさい。勝手にいなくなってしまうこと、許してください。


梨子「……いってらっしゃい、千歌ちゃん」ガサッ

梨子「私ももう少ししたらそっちに行くよ」

梨子「曜ちゃんにもちゃんと謝る。それでもし許してくれるなら」

梨子「私も、一緒にいても、いいかな……」グスッ

梨子「う、うぅ……ひぐっ、うぇ、ぐすっ……」

梨子「千歌ちゃん、曜ちゃん。ごめんね。私がここにこなければ、二人はずっと仲良しのままだったのに……」

梨子「ごめんなさい……ごめん、なさいっ……」

563名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:25:25 ID:ZoJ3UmI.
そして、瞬く間に私たちは卒業を迎えた。


鞠莉「卒業おめでとう、3人とも」

ルビィ「あっ! 鞠莉さん!」

花丸「久しぶりずら〜」


私たちが卒業式を終えて3人で帰ろうとしていたところに、マリーが来てくれた。

今日に合わせて海外の大学から帰ってきてくれたらしい。


善子「そんなわざわざ来てくれなくてもいいのに」

鞠莉「ふふっ、まあそう言わずに! ちょっとしたプレゼントをあげようと思ってね」

ルビィ「プレゼント?」

鞠莉「3人とも、浦の星の校舎に行かない?」

564名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:26:28 ID:ZoJ3UmI.
廃校になった浦の星は校舎自体はまだ残っていて小原家が所有している。

だから小原家のマリーの許可さえあればまだ入ることはできる。

最後の思い出に浦の星を見て回るといい、というマリーの計らいだった。

鞠莉「まあその後にパーッとお祝いでもしましょ!」

花丸「お祝い! 楽しみずら!」

ルビィ「えへへ、そだね!」

鞠莉「さ、鍵は空けたから好きに見て回るといいわ。私はここで待ってるから」

善子「ありがとうマリー」

鞠莉「ううん。いってらっしゃい。それと善子」

善子「?」

鞠莉「これを――」

565名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:26:51 ID:ZoJ3UmI.
――

花丸「図書室、懐かしいな〜」

ルビィ「最後はずっといたもんね、私たち」

善子「……そうね」

花丸「……これであらかた回ったずらね」

ルビィ「戻ろうか?」

2人はあえて、部室と屋上だけは避けて校舎を回った。

Aqoursの思い出が強く残る場所は避けてくれたのだろう。最後まで優しいな。

善子「ねぇ、2人とも」

ルビィ「ん?」

花丸「ずら?」

善子「先に戻っててくれない? 少し1人で回りたいの」

566名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:27:43 ID:ZoJ3UmI.
善子「……」

静まった校舎を一人で歩く。

少しだけ感傷的になって、窓から外を見る。

夕日が浦の星を、内浦を照らしている。

この時間は、ちょうどAqoursの練習をしている時間だったかな。

もう来ることもないと思っていた場所。だけど、来たら来たでやっぱり思い出がよみがえってきて。

少しだけ、悲しくなる。

もし、全部うまくいっていたら。私が真っ当な人間であったなら。

そんな意味のないことを考えてしまう。

気がつくと目の前には、屋上に続く階段があった。

Aqoursの思い出がたくさん詰まっている場所だ。

そして、私がすべてを壊した場所。

567名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:28:14 ID:ZoJ3UmI.
善子「……」

屋上へ続く階段を登ろうとした、その時。

「善子ちゃん!!!」

善子「……ルビィ?」

ルビィ「ま、待って……善子ちゃん……」ハァハァ

善子「どうしたのよ、そんな息切らして」

ルビィ「善子ちゃん、善子ちゃん……」

善子「……なんて顔してんのよ、何かあったの?」

ルビィ「善子ちゃん……」

善子「?」

ルビィ「行かないで」ギュ

善子「……!」

ルビィ「どうか、いなくならないで……」

568名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:28:55 ID:ZoJ3UmI.
ルビィ「2年前のあの日、Aqoursが終わってしまった日」

ルビィ「お姉ちゃんたちはバラバラになって、曜さんも、千歌さんも梨子さんもいなくなって」

ルビィ「ルビィには、もう花丸ちゃんと善子ちゃんしかいない」

ルビィ「もう、誰にもいなくなってほしくないの……」

善子「……」

ルビィ「ルビィね、怖かったの。善子ちゃんが東京に行ったとき」

ルビィ「もしかしたら、善子ちゃんは戻ってこないんじゃないかって」

ルビィ「浦の星でできたたくさんの友達が、みんないなくなっちゃうって」

569名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:32:29 ID:ZoJ3UmI.
ルビィ「卒業したら、確かに私たちはバラバラになっちゃうけど、会えないわけじゃない」

ルビィ「たまに休みの日とかに予定合わせてここに帰ってきて、花丸ちゃんと3人でごはん食べに行ったり」

ルビィ「20歳超えたら、お酒とかも飲んで……大人になっても、そうやってずっと一緒でいたいって思うの」

ルビィ「ねぇ、そんなことを考えてたのは、ルビィだけなの……?」

善子「……そんなこと、ないわ」

善子「私だって、あんたたちとそうやって生きていきたいって思う」

ルビィ「じゃあ、どうして」

ルビィ「どうしてそんな、悲しそうな顔してるの……?」

570名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:32:48 ID:ZoJ3UmI.


善子「……そっか。バレてたか」

ルビィ「わからないと思った? ルビィが、善子ちゃんのことを。なにもわからないって」

ルビィ「バカにしないでよ! 善子ちゃんが考えてることなんか全部わかる! 2年前からずっと!」

ルビィ「ぜんぶ、わかるんだから……」グスッ

善子「……そうね。あんたはずっと、私を理解してくれていたわね」

善子「あんただけは、私の心をわかってくれた。それにどれだけ救われたか」

ルビィ「……」

善子「感謝してるわ。あんたに会えて本当によかった」

571名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:33:05 ID:ZoJ3UmI.
善子「なにも、突然こうしようって決めたわけじゃないのよ。いつかやろうって思ってた」

善子「それが今日、いろんなことが重なって、今やらなきゃって思ったの」

ルビィ「それって、さっき鞠莉さんからもらってた手紙と関係あるの?」

善子「ああ、これ? そうね。これがきっかけなのかも」

ルビィ「何が書いてあるの……?」

善子「これね、私宛ての曜さんの遺書なんですって」

ルビィ「え……?」

善子「今日までマリーがあずかっててくれたみたい。律儀よね」

572名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:33:45 ID:ZoJ3UmI.
善子「……私ね、思いだしたの。いろんなこと」

善子「浦の星に来たけど塞ぎ込んでたこと。みんなに会えて、アイドル始めたこと」

善子「そのおかげで毎日が楽しくなったこと。幸せな気持ちになれたこと」

善子「……好きな人ができたこと」

善子「ねぇ、私、本当に幸せだったの。Aqoursのみんなが、曜さんがいればなにもいらなかった」

善子「幸せ過ぎて嬉しくて、だからそれが壊れたとき、私は耐えられなかった」

善子「だから、私はAqoursを……」

ルビィ「……」

573名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:34:03 ID:ZoJ3UmI.
善子「でも、あんなことをしたのに誰一人として私を責めなかった」

善子「そんな優しい人に囲まれながら、あんたみたいな友達がそばにいながら、私はとうとうまともな人間になれなかった」

善子「どこまで行っても私は、人間モドキでしかなかった」

善子「そんな私が、このままのうのうとあなたたちと一緒に、生きていていいわけがない」

善子「いつか絶対に、あなたたちをまた不幸にする」

ルビィ「そんな……」

善子「だから、こうしなくちゃいけないの。そう決めたの」

ルビィ「そんなのどうだっていい!」

善子「!」

ルビィ「やめてよ! そんなの、そんなの勝手だよ!!!」

善子「ルビィ……」

ルビィ「ルビィ言ったよ!? 善子ちゃんの味方だって! 善子ちゃんを応援して、支えてあげるって! そう決めたって!」

善子「……」

ルビィ「善子ちゃんみたいな人が、一生懸命幸せになろうって頑張ってて、ルビィはそれが本当に素敵だって思った」

ルビィ「だから善子ちゃんが選んだ道を、最後まで見届けたいって……」

善子「……じゃあ、ルビィ」

574名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:34:33 ID:ZoJ3UmI.
善子「私が決めたこと、最後まで応援してくれる?」

ルビィ「ぁ……」

善子「あなたは私を一番理解してくれた。それは同じ疾患者で、そういう疾患をもってるから、というのもあるけど」

善子「それ以上に、あなたは私を心の底から親友だと思ってくれていたから」

善子「だから、私が今どれだけの決意で言ってるのか、わかるわよね?」

ルビィ「ずるい、ずるいよ、そんなの……」

善子「……ごめんね、あなたには最初から最後まで、つらい思いさせてばかり」

善子「結局あなたにも、なにも返せなかったわね」

善子「こんなこと言うの、ずるいと思うんだけど……」



善子「あなたは私の、最高の親友よ」

ルビィ「う、うぅぅぅ……ぐすっ、よしこ、ちゃん……っ」グスグス

575名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:35:22 ID:ZoJ3UmI.

善子「最後に、あなたと話せてよかった」

善子「どうか、花丸と一緒に幸せに生きてね?」

ルビィ「うぅ……うん……」

善子「花丸にも謝っておいて」

ルビィ「わかった」

ルビィ「ごめんね善子ちゃん。こんなみっともないことしちゃって」

善子「ううん。嬉しいわ」

ルビィ「本当はまだ、納得できてないけど……」

ルビィ「でも、善子ちゃんが、決めたことなんだもんね」

善子「……ええ」

ルビィ「じゃあ私は、頑張ルビィって、言わなきゃね」ニコッ

善子「……ありがとう」

ルビィ「いってらっしゃい、善子ちゃん」

576名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:35:53 ID:ZoJ3UmI.
善子「……」

――

鞠莉「これを――」

善子「これは?」

鞠莉「曜の遺書よ」

善子「……え、でも遺書はもう」

鞠莉「実は曜はもう一つ遺書を書いていたの。あなた宛てにね」

善子「……!」

鞠莉「あなたが卒業したら渡すようにって、曜のお母様からあずかっていたの」

鞠莉「もちろん中身は読んでないわ」

善子「……ありがとう、ございます」

鞠莉「確かに渡したわ。曜の最後のメッセージ。しっかり受け止めてね」

――

577名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:36:31 ID:ZoJ3UmI.
善子ちゃんへ

これを読んでいるということは、もう私はいなくなってしまっているでしょう。

まずは、あんな形でお別れになってしまったことを謝らせてほしい。ごめんなさい。

あの日善子ちゃん言われたこと。確かにその通りだと思う。

私は昔からいろんなことが一人でできて、辛いこととかも一人でなんとかしてしまえる。

だから誰かに頼らないで、私が頑張れば誰にも迷惑はかからない。みんなに心配かけなくていいって一人で背負いこんじゃう癖がある。

苦しいと思うことはもちろんあった。

でも、それを嫌だと思ったことは一度もないんだ。

私は、みんなが笑っている顔がすき。千歌ちゃんの元気な笑顔も、梨子ちゃんの優しい笑顔も。

善子ちゃんの幸せそうな笑顔も。

それを守るためなら、私がどれだけ苦労したっていいって思ってた。

でもそうすることで、善子ちゃんを傷つけてしまうとは思ってなかった。

バカだよね?

一番私を心配してくれた善子ちゃんを傷つけないようにしてたのに、それが一番善子ちゃんを追いつめてたなんて。

私ね、今まで善子ちゃんみたいに本気で心配してくれる人なんていなかったんだ。

もちろん果南ちゃんや千歌ちゃんは心配してくれた。でも、あんなに本気で怒ってくれたのは善子ちゃんだけ。

ううん。そうじゃないね。善子ちゃんを本気で怒らせるくらい、私はバカなことをしてたんだ。

だから善子ちゃんがああいうことをしたのも、千歌ちゃんと梨子ちゃんが壊れちゃったことも私のせい。

私は私の生き方が正しいってずっと思ってたけど、大切な人たちを傷つけてしまうなんて思ってもみなかった。

もうこれ以上、誰も不幸にしたくない。だからこうするしかないと思ったんだ。

大丈夫! 辛いのは慣れてるから!

578名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:37:14 ID:ZoJ3UmI.


……なんて、冗談。

これはね、辛いことじゃないの。私がそうしたいからそうするの。

自分のしたいようにしてみようかなって思って、こうするんだ。

辛くなんかないよ。むしろこれは自分勝手なわがまま。

善子ちゃんはわかってくれるよね? 私はもうたくさん我慢してきたんだから。

初めてのわがままくらい、許してくれるよね?



……ごめんね。悲しませちゃうこと、わかってるよ。

一緒に学校行こうって約束、破っちゃってごめん。

私を守るって言ってくれて、嬉しかった。

いつでも私のことを心配してくれて、嬉しかった。

善子ちゃんと出会えて、本当によかった。


私にこんなことを言う資格なんてないけど、善子ちゃん、どうか幸せに生きてください。

私の分も、きっと笑顔で生きてください。

本当にありがとう。大好きだよ。


渡辺曜


――

善子「……」パラッ

――


そうだ

最後になっちゃったけど、ひとつだけ

579名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:39:36 ID:ZoJ3UmI.
 
 
「卒業、おめでとう」

580名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:39:54 ID:ZoJ3UmI.
――屋上

ギィ……

善子「……」


屋上にはたくさんの思い出がある。

Aqoursの練習場所としてたくさんの時間を過ごしたんだから、まあ当然か。

インドアの私には練習は辛かったけど、それと同じくらい楽しかった。

笑顔があったから。

たくさんの幸せな笑顔があったから。私は頑張れた。

楽しかった。

人間モドキの私が、真っ当な学生生活を送れるなんて……

これ以上の幸せなんかなかった。

そうだ。ここにはたくさんの幸福があるんだ。

581名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:40:19 ID:ZoJ3UmI.
善子「……」スッ

私はゆっくりと柵の外側へと移動した。

ここからは内浦の町が一望できる。

……ここにも、たくさんの思い出があった。

といってもやっぱりAqoursの思い出ばかりだけれど。

淡島神社で走りこみしたっけ。今はもう走れないだろうな。

合宿もやったなあ。海の家手伝って、曜さんの料理もおいしかった。

町の人と協力してスカイランタン作って、PVも作って。

あそこで寄り道したり、あそこに遊びに行ったり……

……

……ああ、なんだ。私……



善子「幸せ、だったのね」ポロポロ

582名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:40:42 ID:ZoJ3UmI.
後ろをふり向けば、Aqoursで過ごした楽しい思い出。

前を向けば、たくさんの幸福な景色。

ああ、ここにはすべてがある。

満たされている。

胸の真ん中あたりがポカポカして、とても幸福な気持ちだった。

だから。

だから私は、その場所から一歩踏み出すことが、何も怖くなかった。

583名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:41:09 ID:ZoJ3UmI.
その瞬間、私は地面へと吸い込まれていく。

完全な自由落下。

最後の瞬間。

全ての意識が鮮明になって、逆さまになりながら内浦の町へと目を向けた。


善子「……美しい」


思い出だけが輝いていて、美しかった。

……。

これで、終わる。

ようやく終わるんだ。

あはは、最初から、こうするべきだったんだ。

そうしたら誰も、千歌さんも梨子さん、曜さんも、不幸にならないですんだ。

……どうしてこうなったのかな?

最初からこうなるって決まってたのかな?

私は何がしたかったのかな……

もういい。

もういいわ。

もうやるべきことなんてない。

ここに忘れものなんてない。

いや、これはもう忘れものなんかじゃなくて、いらないものだ。

なにも、いらない。

欲しがってはいけないんだから。

584名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:41:34 ID:ZoJ3UmI.
私には、何も……。

何も、いらないんだ……。

……。

…………ああ。

ああ、ああ、ああ!!!

曜さん! 曜さん曜さん!!! 曜さん!!!

大好き! 大好きでした! あなたを愛していました!!!

ずっと、死ぬことなんて怖くなかったのに!!!

あなたがいたから! あなたを愛してしまったから!!!

欲しがってしまった!!! 私なんかが! あなたを!

愛されたいと思ってしまった!!!

あなたがいなくなってからも、ずっとあなたを愛し続けました!

あなたがもうここにいなくても!

触れられなくても! 声が届かなくても!

あなたを愛し続けていました!!!

585名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:42:25 ID:ZoJ3UmI.
――卒業おめでとう

ひどい! 最後にそんなことを言うなんて!!!

私は、その言葉を、あなたの声で聴きたかったのに!!!

最後の最後に、こんなにもあなたを愛しく思うなんて!!!

叶うなら……

叶うなら最後に――

あなたの声が、あなたの温もりが……!

586名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:42:52 ID:ZoJ3UmI.
――善子ちゃん




善子「……え?」

587名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:43:17 ID:ZoJ3UmI.
――善子ちゃん


善子「あ……」

善子「あぁ……!」ポロポロ

善子「曜さん……っ!」

――うん。久しぶり。善子ちゃん

善子「なんで、そんな、どうして」

――迎えにきたんだ。いてもたってもいられなくて

善子「曜さん、曜さん!」ギュ

588名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:44:01 ID:ZoJ3UmI.
――善子ちゃん、結局こっちにきちゃったんだね。

善子「曜さん! 私、ごめんなさい、私……!」

――ううん。責めてないよ。むしろ、嬉しい。また善子ちゃんのそばにいられるんだね。

善子「私、ずっとあなたに謝りたくて……!」

――うん。私も謝りたい。はなしたいこと、いっぱいあるんだ。

善子「私も……私もです!」

――たくさん話そうよ。時間はいっぱいあるから。それで……

――千歌ちゃんと梨子ちゃんにも謝りにいこう? 私も一緒に謝るから。

――それで、仲直りしてさ、4人でたくさん楽しいことしよ? また一緒に、スクールアイドル始めよう?

善子「……はいっ! はいっ!」

589名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:44:44 ID:ZoJ3UmI.
もう一度だけ会いたくて。

たとえ幻でも、こうしてあなたに触れられたことが嬉しくて。

まぶしくて、美しい世界の中で、私たちはふたりきり。

その一瞬の中で、私は曜さんを抱きしめた。

強く。強く抱きしめた。

もう離しませんからね。

ずっとこうしたかったんです。

言葉よりも速く伝えた。

言葉よりも正しく伝えた。

曜さんもまた優しく笑って、私を強く抱きしめた。

彼女の胸に抱かれて、私は静かに目をつぶった。

590名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:51:11 ID:ZoJ3UmI.

善子?「おめでとう私」

よしこ「ありがとう私」

「これで、幸せだね」


善子「……うんっ!」

人生で幸せなこと。

大好きな人のそばにいられること。

ああ、私……

こんなに幸せでいいのかしら……

大好きな人の暖かさにつつまれて、私は心の底から幸福だった。

本当に本当に、幸福だった。



BAD√ おわり

591名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:54:13 ID:ZoJ3UmI.
長らくお待たせしましたBAD√完結です。
この後はノーマル、ハッピーと続きます。
いつも読んでくださっている方々ありがとうございます。

592名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 21:12:59 ID:YSf.e7GQ
乙、最高のBAD ENDだった
このよしルビの関係性がめっちゃ好きだわ
ノーマル、ハッピーも待ってるぞ

593名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 21:16:47 ID:YSf.e7GQ
あと全く別作品の曲だが「甘き死よ、来たれ」がラストシーンに凄い合ってて聴きながら読むと色々ヤバかった

594名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 21:25:29 ID:SdxkDm/k
すっごいなあ……

595名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 21:36:17 ID:nMo27rVM
最後の最後で幸せを感じることができたのが切なすぎる…
あと事情を知ってるルビィちゃんはともかく残されたマルちゃんと鞠莉ちゃんの事を思うと胸が苦しい…

ノーマル、ハッピーどちらも楽しみにしてます

596名無しさん@転載は禁止:2018/03/16(金) 00:17:08 ID:PDTYhv8o
言葉で表現するには色々と難しいけど良かったです

597名無しさん@転載は禁止:2018/03/16(金) 03:31:58 ID:yMBQIjqQ
ハッピーエンドの間違いでは?
よったん最後は幸せになれたじゃないか

598名無しさん@転載は禁止:2018/03/16(金) 17:28:20 ID:JLTlJm4I
愛する人も主人公も仲間も死ぬハッピーエンドとは

599名無しさん@転載は禁止:2018/03/16(金) 17:39:42 ID:LzR7CE06
善子ちゃんの気持ちとしてはハッピーエンドかな、とも思いましたが読む側からするとあんまりハッピーじゃないので一応バッドとしました
大筋としての話はバッドで書いたのでノーマル、ハッピーは今までと比べると少しボリュームが少ないかもしれません

600名無しさん@転載は禁止:2018/03/17(土) 00:21:53 ID:zYuml7FI
長らく乙
面白かったけど善子視点だとBADっぽい終わりではなかったかな
理由はどうあれ全てを壊したわけだから何か報いを受けながら退場してもよかったと思う
善子よりも曜が一番不幸な印象だった

続きも楽しみにしてる

601名無しさん@転載は禁止:2018/03/17(土) 17:25:12 ID:etaX4446

この後も楽しみにしてる

602名無しさん@転載は禁止:2018/03/17(土) 23:58:20 ID:1tOY4Fk2
その後の現世とかやってくれたらすごく鬱々とできそう
でもまあとりあえずは次ノーマル期待

603名無しさん@転載は禁止:2018/03/18(日) 00:54:57 ID:Um.6aag6
すごく好きなんだけど、やっぱりみんなの笑顔が見たいなぁ……

604<削除>:<削除>
<削除>

605名無しさん@転載は禁止:2018/03/26(月) 06:52:28 ID:yRivWmeM
お待たせしましたノーマル√です
>>342の次から分岐です

606名無しさん@転載は禁止:2018/03/26(月) 06:53:02 ID:yRivWmeM


善子「(それから数日、私も練習に復帰して全体のダンスもある程度完成してきた)」

善子「(……この二人以外は)」

千歌「わわっ!?」ドン

曜「あっ、ご、ごめん!」

千歌「ううん。私がタイミングずれちゃったの。こっちこそごめん」

善子「(曜さんは梨子さんのポジションに入り、千歌さんとダンスを合わせることになったけど……)」

善子「(何度練習しても噛み合わないまま時間だけが過ぎていった)」

善子「(どうしても二人のパートだけが合わなくて、曲全体のダンスが完成しても肝心の見せ場である二人のダンスが完成しないままだった)」

ダイヤ「おかしいですわね……そこまで難しいダンスではないようですが」

果南「そうだね。千歌と曜はいつも息ピッタリだから、これくらいはできると思うんだけど……」

607名無しさん@転載は禁止:2018/03/26(月) 06:53:20 ID:yRivWmeM

千歌「ごめんね。どうしても梨子ちゃんの動きに合わせちゃって……」

曜「……そっか。私も合わせられるように頑張るよ」

善子「……」

果南「二人ともちょっと休憩。いったん落ち着こう」

千歌「はーい」

曜「うん」

果南「……」

善子「(梨子ちゃんの動きに合わせちゃって、か)」

善子「……」

608名無しさん@転載は禁止:2018/03/26(月) 06:54:05 ID:yRivWmeM


善子「(……なによそれ)」

善子「(今あなたと踊っているのは曜さんなのに)」

善子「(梨子さんのことしか頭にないってワケ?)」

善子「(曜さんはあなたに合わせようと頑張っているのに……)」

善子「(……ゆるせない)」

609名無しさん@転載は禁止:2018/03/26(月) 06:54:46 ID:yRivWmeM

果南「んー、どうしたもんかな……」

ダイヤ「ここまで合わないのは想定外ですわ……」

鞠莉「ちょっと考える必要があるわね」

花丸「どうしちゃったんだろ、心配ずらね」

ルビィ「うん……」

善子「……」

善子「果南さん」

果南「ん? どうしたの」

善子「ちょっと提案なんですけど」

果南「おっ、何か思いついたの? 聞かせてよ」

善子「あのね」


善子「この曲のセンター、私にやらせてほしいの」

610名無しさん@転載は禁止:2018/03/26(月) 06:56:36 ID:yRivWmeM
果南「なっ……」

曜「えっ……」

千歌「ちょ、ちょっと待ってよ! それは……」

果南「そうだよ善子ちゃん。いくらなんでも急すぎる」

善子「でも、本番まで悠長に待ってられるの? いつまでたっても噛み合わないじゃない」

善子「いっそ組み合わせを変えた方がいいと思うんだけど」

ダイヤ「一理、ありますが……」

果南「そうは言っても……」

千歌「待って! 私、この曲は絶対にセンターをやりたい!」

千歌「踊れなくなった梨子ちゃんの分まで、せめて私が踊りたいの!」

善子「(梨子ちゃん梨子ちゃん。そればっかりね……)」

果南「それにそもそも善子ちゃんはこのパート踊れるの? たとえ変えるにしたって、できなきゃ意味がないよ」

善子「……じゃあ曜さん。試しにこのパート、私と合わせてみましょ」

曜「う、うん」

611名無しさん@転載は禁止:2018/03/26(月) 06:56:57 ID:yRivWmeM
――

曜「……!」

ルビィ「すごい……」

花丸「本当に合ったずら……」

鞠莉「天界的合致、デース」

果南「タイミングバッチリだ……練習してたの?」

善子「ええ、まあ」

善子「(毎日見てるから、というのもあるけど、こっそりちょっと練習しただけなのにこうもぴったり合うとは)」

善子「(……いや、千歌さんが、合わなすぎるだけか)」

千歌「……っ」

善子「どう? 私なら曜さんに合わせられるでしょ? 今からでもポジションを変えれば……」

千歌「ま、待ってよ! 私、ここまでがんばってきたんだから、最後までやり遂げたいよ! こんなところで投げ出したくない!」

612名無しさん@転載は禁止:2018/03/26(月) 06:57:11 ID:yRivWmeM
善子「……千歌さん、あなた梨子さんのことが気になるんでしょ?」

千歌「!」

善子「だからダンスにも集中できてないし、なにより曜さんと合わせられない」

善子「元々梨子さんとのダンスだから多少は仕方ないにしても、これだけ練習してるのに合わないなんておかしいわ」

千歌「……」

善子「東京に行った梨子さんが心配なのはもっともだけど、ダンスに影響が出てる以上センターは任せられない」

千歌「で、でも……!」

613名無しさん@転載は禁止:2018/03/26(月) 06:57:30 ID:yRivWmeM
千歌「私、この曲踊りたい! 確かに曜ちゃんと合わせられなくて、今はできないかもしれないけど」

千歌「それでも! 私にとって大事な曲なの! 絶対間に合わせるから! だからもうちょっとだけ……」

善子「……ちょっと聞きたいんだけど千歌さん。あなたはどうしてそんなにこの曲のセンターにこだわるの?」

千歌「それは、さっきも言った通りだよ。梨子ちゃんの分まで私が頑張りたいって……」

曜「千歌ちゃん……」

善子「(イライラする)」

善子「(ダメだ、止められない……)」

善子「(気持ちが……怒りが……)」

善子「……さっきから梨子さんのことばっかりだけどね」

善子「今あなたの隣で踊ってるのは曜さんなんだけど?」

千歌「……っ!」

善子「曜さんはあなたに合わせようと必死で頑張ってる。なのにあなたは梨子さん梨子さんって……」

善子「曜さんの気持ちを少しでも考えたことがあるの!?」

614名無しさん@転載は禁止:2018/03/26(月) 06:57:59 ID:yRivWmeM

善子「もっとはっきり言ってあげましょうか?」

善子「あなたは梨子さんとじゃないとこのダンスを合わせる気がないんでしょ?」

千歌「ち、ちが……」

果南「善子ちゃん!!! 言い過ぎだよ!」

善子「(どうしよう……止まらない)」

善子「当然よね。梨子さんのコンクール曲を元にした、大事な曲だものね。そりゃあ他の人とは合わせたくないわ」

千歌「……っ」

善子「(今まで押しとどめていた気持ちが、どんどん溢れてくる)」

善子「梨子さんと合わせられないんだから、もうセンターにこだわる理由はないでしょ?」

善子「(このまま全部、この気持ちが流れ出したら……)」

善子「私なら曜さんと合わせられる。いいじゃない。私がセンターで。なんなら曜さんをセンターにしてもいい。パフォーマンスのレベルは高いし適任よ」

善子「ともかく千歌さんにセンターは任せられない、それだったら……」



曜「善子ちゃん!!!」パシン!

善子「……っ!」

615名無しさん@転載は禁止:2018/03/26(月) 06:58:39 ID:yRivWmeM
曜「いい加減にして」

善子「……」

曜「千歌ちゃんはこのパートをずっと練習してる。私と合わせられるように」

曜「突然のことだから私も驚いたけど、それは千歌ちゃんだって同じ」

曜「千歌ちゃんだって本当は梨子ちゃんと合わせたいのに、こうして私に合わせてくれてるの!」

曜「それなのに、なんてそんなひどいことを言うの!」

善子「(ああ、もう……)」

善子「(自分がないがしろにされていることはどうでもいいって、どうしてあなたは……)」

善子「(あなたは……!)」


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